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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第四拾陸番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:a15c7ca6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/03 21:50




「う~ん、少し時間がかかったかしら?」

足元に浮かび上がる幾何学模様の魔法陣が消えていくのを見ながら、シャマルは呟く。
朝の家事に思いのほか手間取って、今自分が居る廃屋に来るのに時間が掛かったのだ。


「……さーて、彼は大人しくしているかしら……」


小さく呟いて、木造造りの廊下を歩く。
昨晩初めて彼の容態を見た時は最悪の事態も覚悟したが、思いの外自分の治療魔法が彼の体に馴染んだお陰で何とか持ち直したのだ。

しかし、だからと言ってまだ安心できない。

何とか容態を持ち直す事は出来たが、それだけだ。
怪我自体が完治した訳ではないし、無理をすれば傷口が開いて症状が悪化する事だって有り得る。

故に、こうして定期的に治療の経過を看なくてはいけないからだ。


(……まあシグナムも来ている事だし、そこら辺は心配しなくてもよさそうね……)


心の中で呟いて、目的地手前まで着く。
シャマルは足を止めて、目の前のドアを軽くノックしようとした所で



「……ぁ、ぅ…っ…あ……ン……」



その声が響く。


「……?……」


ノックしようとした手が思わず止まる。
ドア越しに聞こえたその声に意識が取られて、ついその動きを止めてしまう。


(……今の声……シグナム?……)


どこか聞き覚えのあるその声、その声の主と自分達の将の姿が重なる。
そして、再びその声が響く。


「……おい、気色ワリぃ声だしてんじゃねえよ」

「……だ、だが……こんな、の……しら…な…っ…ぁ!」


ドア越しに響くその声を聞いて


(………な、何が……このドアの向こうで、一体何が起きているの!!!?……)


シャマルは思わず固まる、その状況についていけず立ち竦んだ状態陥って


「……や、め……そんなに、強く……吸う、なぁ……」


どこかくぐもった、どこか熱っぽい声が響く
そしてその声がシャマルの耳に響いて


(……吸う!吸うって、なにを!!?どこを!!?……え!え!……)


密室、二人っきりの男と女
嫌が応でも、「そういう」場面を連想してしまうこの状況


(……いや、いやいやいや!有り得ないから!絶対ありえないから!!?しかも、しかもよ!あの堅物のシグナムがよ!……
……昨日今日知り合った男女が一夜で『そういう』関係になるなんて無いないナイ!どこぞの洋画じゃあるまいし!……)


自分の中で膨らむ邪な想像を首を振って一蹴する。
しかし、そんなシャマルの気持ちを嘲笑うかの様に


「つーかよ、テメエも同意の上だろうが。いつまでもゴチャゴチャ言ってんじゃねーよ」
「……そ、それと……ぁ……これ、と、はっ……」

(烈火の将おおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!! アンタなにやってんのおおおおおおおおおぉぉ!!!!)


その声が響いて、思わず口調が崩壊する程の勢いでシャマルは頭を抱える。
そしてそんなシャマルを尻目に、二人の声が更に響く。


「こっちはまだ全然満足してねーのに、ふらついてんじゃねーよ。オラ、腹に力入れろ」

「……ま、て……ぁ、ぐ!……これい、じょ……まず、ィっ!……ぃしき、が、ト…ぶ……!!!」

「知るか、勝手に飛んでろ」

「……ぁ、ヤ……やめっ…!……た、たの…む……少しや、やす……やすま、せて……っ!!!」


ドア越しに響く声は徐々に熱っぽさを増していく。
ドア越しに響く声は徐々に荒く激しくなっていく。

そして


「なにしてるのよ貴方たちいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃ!!!!」


蹴破る様にドアを開けて、突撃する様にシャマルは部屋に突入した。













第四拾陸番「新生活への一歩」












「……いや、何かごめんなさい」
「別にいい、気にするな」


気まずげな表情をしながらシャマルは謝り、シグナムはソレを僅かに息を切らして返す。

次いでシャマルは視線を移す
ベッドの上で腰掛けて、自分の調子を確かめる様に手を握る青髪の男に視線をやる。


「……で、結局の所……さっきまでの『アレ』は何だったわけ?」


シャマルは先程の光景を思い返しながら尋ねる。
この部屋に乱入した直後に、自分の目に映り込んできたその光景

今と同じ様にベッドの上に腰を掛ける青髪の男と
その対面にて、片膝ついて息を切らして体から魔力を放出するシグナム

自分の乱入でソレは一旦止まったが
冷静さを取り戻した現状で思い返せば、あの光景も十分異常だった。


「……あー、その、なんと言うか……」


そしてシャマルの質問を聞いて、シグナムはややバツが悪そうに口ごもる
次いで頬を軽く掻きながら、やや悩むように小さく唸って



「………アレが、この男の『食事』らしい………」

「……へ?」



その言葉を聞いて、シャマルは思わずそんな声を漏らす
シャマルはそのシグナムの言葉を聞いて、「アレ?」と小さく呟いて


「……朝作ったお粥は?」

「朝食がてら私が食べた」


シャマルの問いに対して、シグナムはやや不機嫌そうな表情で返す
そしてそのシグナムの言葉を聞いて、シャマルは小さく「……そう」と呟いてシグナムは「……あぁ」と小さく返して

そこで、グリムジョーからの補足が入る。


「あんなん食っても、俺には何の栄養にもエネルギーにもなんねーからな。
だったら普通に食えるヤツが食った方がマシに決まってんだろ」

「……栄養に、ならない?」


その言葉にシャマルは僅かな疑問を覚えて



「ああ、この男はどうやら……『闇の書』と、非常に良く似た存在らしい」



シグナムが、その決定的な言葉を放った。





……


…………


……………………


…………………………………………






「……ホロウ、そしてアランカル……」

「私も、つい先刻教えられたばかりだが……正直言って、驚いた」


その動揺と驚きを隠し切れない様にシャマルが呟いて、シグナムがそれに同意する。


虚、そして破面
自分達「守護騎士」の様にその体は魔力粒子で構成され、「闇の書」と同じ様に他者の魔力を糧とする存在


「初めて見た時から、普通の人間とは違うとは思ってたけど……成程、私の治療魔法が良く馴染む筈だわ」

「基本的に我等と同じ様な体構造なら、シャマルの治療魔法もこれ以上に無い程馴染み易い……という訳だからな」


納得した様にシャマルが呟いて、シグナムもそれに同意する。
元々シャマルは守護騎士の中でも参謀や治療、補助といったサポート的な存在だ。

そしてその対象は、他ならぬ自分達守護騎士
もしも自分達と同じ様な体構造をしている相手になら、シャマルの治療魔法はこれ以上にない程効果を発揮するだろう。


「……まあ、彼に関しての事情は概ね把握したわ。でも、それでどうして貴方が補給係になってた訳?」

「言っただろう、この者にとっての食料は生物が持つエネルギーだ。
誰かがその補給係を買ってでなければ、民間人を初めとする無関係の人たちが犠牲になる
魔獣の類を狩るという選択肢もあるが、蒐集の事を考えるとそれもあまり多様はできん」


普通の食事が意味をなさないのなら、誰かがこの男にエネルギーを提供しなければならない。
それにこの男の現状、この男が昨晩見せた戦闘力と現状の衰弱具合から察するに、その回復に膨大なエネルギーが必要なのは明らか。

そのエネルギーの穴埋めをするために、魔力素質もない民間人から搾取すれば……その犠牲となる数は計り知れない


「蒐集とは違い、今回の一件は無関係な者達を犠牲にする必要はないからな……後は消去法だ
ヴィータとザフィーラは療養中で無茶は出来ない。お前は我等の中で唯一治療魔法が使える守護騎士、それに昨晩の戦いのダメージもある
いざという時に魔力不足になっているという事態は避けるべき……となれば、後は私がやるしかあるまい」

「いや、そういう貴方も随分キツそうだったけれど?」

「昨日も言っただろう? コレは私用だ、ただでさえお前には治療魔法で助けて貰っているんだ
それにコレは元々私が持ち込んだ案件だ、ならば自分で出来る事は自分でやるのが道理だろう?」

「……う~ん、まあ確かに……そうだと思うけど」


僅かに唸ってシャマルが呟く。
確かにシグナムが言っている事はそれなりに筋は通っている。

それにこの男を自分達の問題に巻き込んだ原因は自分にもある。
昨晩の一件の事も含めて、この男を治療する事自体にシャマルも異論はない。

しかし


(……なーんか、引っ掛るわねー……)


どこか納得がいかない様に、シャマルは心の中で呟く。
確かに治療の上で、誰かがこの男にエネルギー提供しなければならないのは分かる。

そして、その役に一番適しているのはシグナムというのも分かる。


だが、それは自分達の「蒐集」に支障を出さない範囲での話だ。


今のシグナムは、一応は平静を取り繕っているが……その実、体力・魔力を相当に消費して疲労している。
ある程度に休息を取ればそれなりに回復はするだろうが、それでも蒐集やその際の戦闘にはかなりの影響を受けるだろう。

例えるなら、フルマラソンをした後に僅かな休憩を挟んで遠泳をする様なものだ。
その体に蓄積された疲労は、確実に自分達の行動に支障をきたすだろう。

自分達が『闇の書』の守護騎士である以上、蒐集への影響を省みずに男へのエネルギー提供を買って出るシグナムを見て
シャマルは僅かな疑問を覚えたのだ。



「そんじゃ、次はこっちからの質問だ」



不意にその声が響く。
シグナムとシャマルは声の発信源であるグリムジョーに向けて視線を移して


「テメエ等、ウルキオラとどういう間柄だ?」


簡潔に尋ねる。
それはグリムジョーが昨日から感じていた疑問の一つだった。


「ウルキオラ? あの白い男の事か?」

「そうだ。昨日の一件で大体の予想はついているが……一応の確認だ」

「……簡潔に言えば、敵対関係だ」

「……そうかい」


グリムジョーの問いに対して、シグナムもまた簡潔に答える
シグナムの答えを聞いて、グリムジョーは納得した様に呟いて


「って事は、テメエ等と居れば……あの野郎とまた会える可能性は高えって訳だ」

「……認めたくはないがな」


昨晩の一件の終止を思い出して、重く息を吐きながらシグナムが答える。

昨晩の戦闘において、自分達は完全にあの黒い魔導師に待ち伏せされていた
あれは相手が自分達が第97管理外世界、それも日本の遠見市付近を活動拠点にしている事を知り
自分達の目的が魔導師が持つリンカーコアの蒐集だと知っていなければ不可能だった筈


少なくとも、あの二人はこの二点について絶対の確信を持っている考えた方がいいだろう。


自分達の主は自分達が蒐集している事を知らない、それに今の生活環境を考えると活動拠点を移動させるのも難しい。

かと言って、蒐集を止める訳にはいかない
勿論自分達もより一層警戒を強めて事にあたるつもりだが、それでも今後あの二人と遭遇する可能性は高いだろう。


(……ヴィータとザフィーラのダメージに加えて、私とシャマルの昨晩のダメージを考えると……
……少しの間、せめてヴィータ達が完治するまでは…蒐集を控えた方がいいかもしれんな……)


シグナムは考える
もしも自分が相手の立場なら、未だ第97管理外世界の昨日の襲撃地点付近に網を張っているだろう。

となれば、そう遠くない内に再びあの二人と相対する可能性は高い。
あの二人と遭遇とした時に備えて、戦力だけでも整えておくべきだろう。


それに昨晩の戦闘で、一つ分かった事がある。
あの二人は恐らく協力者の類が殆どいない、仮に居たとしてもそれは後方支援の類であり前線に出てくる事は先ずないだろう。

もしもあの二人に他に前線に出せる協力者が他に居たのだとしたら
この男やあの仮面の男が戦線に加わった時点で、出し惜しみする理由がないからだ

となると、最も有効的な手段は



(……逃げの一手、か……)



相対した瞬間、即座に他の選択肢を切り捨てての逃走
常に二人以上で行動し、どちらかが常に空間転移の準備をしていれば問題ないだろう

あのウルキオラ?という男の転移妨害もあるが、今なら幾つかの対策は立てられる。



(……ヴィータあたりは納得しなさそうだがな……)



自分達の中で、一番血の気の多い赤い少女を思い浮かべてシグナムは溜まった息を吐き出す。
特にヴィータはあの黒い魔導師に遅れを取り、白い男には徹底的にやられている。

そして蒐集や主の体調の事を含めて、あのヴィータの性格を考えると簡単には納得してくれないだろう。

無論、自分とてこの考えに心から納得している訳では無い。
しかし守護騎士の将としては、リスクとリターンを常に天秤にかけて、その上で行動を決定しなければならない。

例えそれが、仲間からの不況を買う事になってもだ。



(……せめてもの救いは、我等の住居が細かな位置が特定されていなかった事だな……)



もしもあの二人が自分達の住居、主の自宅の細かな住所まで特定できていたのなら、そもそも待ち伏せなんてする必要なないからだ。

自分達の不意をついて奇襲なり夜襲なり、幾らでも手立てはある。


あの黒い魔導師が自分達を待ち伏せしていた位置は、確かにそれほど遠くはなかったが近いという訳でもなかった。
そして自分達は帰還の際に魔力の痕跡を残すというミスは犯していない。

恐らく昨日の襲撃地点を中心とした、市町村単位での範囲の特定でしかない筈。

自宅にはすでに追跡対策として、魔力遮断の結界を常時展開している。
あの結界は自分とシャマルが数日以上の時間をかけて丹念に組み上げた結界。

相手が時空管理局並みの設備や装置を持っていない限り、簡単に気付かれる事は無いだろう。


(……だが、念には念をだ。外出は極力控えて買い物や通院の移動は空間転移を使えばいいだろう……
……それに、相手は昨日の状況から我等とこの男…そしてあの仮面の男達が結託していると考えている筈、
……仮に今後何かのミスで我等の住居を特定されたとしても……そう簡単には襲撃できないだろう……)


相手から見て、自分達の全戦力は未だ不明の筈
特にあの仮面の男が複数人いるという事実だけで、ある程度の撹乱はできるだろう。

相手が小数である以上、こちらに攻め込む前のこちらの全戦力の把握は必要不可欠な筈
そして、更に考えるのなら


(……恐らくあの二人は、この件に関して時空管理局を頼るつもりはない……)


もしも、相手が管理局を頼るつもりなら昨夜の戦闘で管理局があの場に来ない筈がない。
あの二人が自分達をあの場所で待ち伏せする程の有力な情報を掴んでいたのなら尚更だ。

以上の点から考えて、あの二人が管理局と繋がっている可能性は現時点で0と見ていいだろう。


(……だがこれはあくまで「現時点」での話、これまでの我等の蒐集から管理局もある程度は我等の活動範囲にあたりをつけているかもしれん……)


蒐集にしろ防衛にしろ、やはり今まで以上に警戒と用心を重ねなければならないだろう。

粗方の考えを纏めて、シグナムは小さくクシャりと頭を掻いて


(……何にしても、これから先は中々に難儀な事になりそうだな……)


この日一番の深い溜息を吐きながら、シグナムは今後の行動方針を考えていた。













(……回復具合は、甘く見て二割だな……)

シグナムとの質疑を終えて、グリムジョーは現状を確認する。
先程のシグナムからの霊力の吸収、そしてシャマルの治療魔法の効能

昨日は激痛で碌に体を動かせなかった事を考えると、回復具合は悪くはないだろう。


(……完治まで、早くて一週間って所か……)


大凡の見積もりをする。
しかし、今はそれ以上に考える事がある。



(……デケえな、力の差は……)



思い返すのは昨晩の戦闘
確かに以前よりは力の差は縮まった、だがそれだけだ。

現状では未だウルキオラとの力の差はでかい、仮に全快まで回復した所で現状では勝率は極めて低いだろう。

そして何より


(………昨日、あの野郎は全力じゃなかった………)


その事実を確認する。

昨日のウルキオラは本気だったかもしれない。
昨日のウルキオラは真剣だったかもしれない。

だが、全力を出していなかった
それは昨夜のウルキオラの言葉からでも明らかである。



――油断?違うな……これは『余裕』と言うものだ――



余裕があるという事は、つまりはそういう事だ。


(……あの野郎の性格を考えると、まだ隠し玉の一つや二つ持ってるって考えた方がいいな……)


昨夜の戦いで見せたあの妙な技の事もある
まだウルキオラは幾つか手札を隠し持っていると考えた方が良いだろう。



(………これが、『6』と『4』の差って訳か………)



嘗て自分達のトップが別格扱いしていた四体の十刃、その力を身をもって体験し、実感し


(………ザマぁねえな、黒崎に負けて、ウルキオラに負けて……挙句の果てに、見知らねえ女の世話になってるこの体たらく………)


故に、グリムジョーは思う





(………上等だ………)





故に、その心中に新たな火が燈る


(………ここまで無様に堕ちたんだ、だったら後は這い上がるだけだ………)


今の自分は、これ以上にない程の無様
宿敵に負け、怨敵に破れ、未だ満足に動く事もできない。

(……いいぜ、受け入れてやる……アイツは強え、俺は弱え……だからアイツが勝った、俺が負けた……)


ギチリと奥歯を噛み締める、ミシリと拳を握り締める
それは紛れも無い事実、今の自分はただの負け犬であるという絶対の事実。


(……だから、終わらねえ……絶対に、このままじゃ終わらせねえ……!!!……)


その事実を受け入れて、その頭の中で一気に重く濁った感情が湧く。
怒りや悔しさが入り混じった、凝縮された負の感情が沸き立つ。


(………俺は絶対に這い上がる、俺は絶対に登り詰めてやる……)


その全ての負の感情を飲み込んで、己の中の闇を噛み砕いて


(………お前が居るその位置にまで、絶対に登り詰めてやるよウルキオラアァ!!!!……)


その全てを受け入れて、グリムジョーはその誓いを心に刻んだ。




























とある次元世界の、とある商店の一角にて


「……それで、お前は何をしている?」
「んーとね、ハグ?」


商店内に備え付けられた椅子とテーブル
カップタイプの飲料水が売られている自動販売機の横に設けられた、簡易的な休憩用スペースにて

黒髪の黒スーツの男は椅子に腰掛けて、どこか手持ち無沙汰に腰を落ち着けて
金髪の少女はその男に首に手を回して、背中から抱きついていた。


「さっさと離れろ、邪魔だ」

「あう」


ウルキオラが軽く返して背後に手をやる、そして次の瞬間には背後にいる小さな存在を掌握する。

そしてアリシアは首元を掴まれて、猫の様に持ち上げられて、椅子の上に着席させられる。
いつもの様にウルキオラが投げ飛ばさないのは、先程のホロの言葉があるからだろう。


「そう言えばさー、ウルキオラっていつもあの白い服を着てるよね?他に服は持ってないの?」

「持ってない」

「新しい服を買ったりしないの?」

「しない」

「興味は?」

「ない」

「趣味は?」

「ない」

「大丈夫、もんだい」

「ないと言えば満足か?」

「イエース・アーイ・ドゥー」


そう言ってアリシアは口元を愉快気に緩めてクスクスと笑い


「それよりウルキオラ、折角お店に来たんだから色々な物を見ようよ! ここでただ座ってるよりもきっと面白いよ」

「言っただろう、衣服の類に興味はないし必要も無い」

「ウルキオラに無くても、私は興味深々なのです。だからウルキオラと一緒に見て回りたいのです」

「だったら一人で見ていろ」

「それは嫌なんだよ、だってウルキオラと一緒の方が楽しいもん」


そう言って、今までの口元を緩める程度の微笑から一転して
アリシアは満面の笑みを形作って、ウルキオラの顔を改めて覗き込む。


「同じ事をするんなら、どうせなら楽しくやりたいのです。だから私はウルキオラと一緒に見て回りたいのです」

「……どちらにしても、結果は同じだがな。俺は興味ないから見て回る気はない、だから結局は結果は変わらん
ここにお前が一秒いようが一時間いようがソレは変わらん。無駄に時間を消費する位なら一人で見て回った方が有意義だ」

「その言葉、そっくりそのまま返すんだよ」

「……なに?」


予期せぬアリシアの返し
その返しの言葉を聞いて、ウルキオラは改めてアリシアに向き直り



「ただ座ってるだけなんて、それは家でも出来る事なんだよ
だからウルキオラもここで何かを見て回ったりした方が、ただ座ってるよりもよっぽど有意義な時間を過ごせると思うんだよ」



赤い瞳で義骸越しの翠の瞳を覗き込んで

満面の笑みで能面の様な無表情に向き合って

真っ直ぐな言葉をその無機質な感情にぶつけて



「……いつまでも、頭が軽い糞餓鬼だと思っていたが……」



少し間をおいて、僅かに目を瞑って小さく息を吐き
ウルキオラは少しだけ、アリシアの顔を見つめて



「いつの間にか、下らぬ知恵と口の滑りは身についた様だな」



まさか自分の言葉をそっくりそのまま返されるとは予想がつかなかったのか

ウルキオラは少し感心した様に小さく呟いて、指先で少しだけアリシアの額を「トン」と小突く
しかしアリシアは特に気にした様子もなく、変わらない笑みを浮べたまま


「ふふふん、ウルキオラはそーゆー所が甘々なんだよ。
このアリシアちゃんがいつまでもやられっぱなしだと思ったら大間違いなんだよ」

「……まあ、確かに。ただ座って無為に時間を過ごすだけだったら、どこでも出来る事だな」


腕を組んで自分の意見を考え直すように呟いて
アリシアはその愉快な気持ちと期待を隠し切れない様に、ウルキオラにその小さな手を差し出して


「観念した? それじゃあウルキオラ、一緒に見て回ろう!」
「だが断る」


「……あり?」



しかし、アリシアの申し出はあまりにもアッサリと拒否された。


「なんでさ!」

「簡単な話だ。別に店の中を見て回るだけなら一人で出来る、態々お前と一緒に見て回る必要性は全く無い」

「んなぁ!そんなオーボーがまかり通るとお思いかー!」

「まかり通るとお思いだ」


そう言って、ウルキオラは椅子から立ち上がる
そしてアリシアはそんなウルキオラに恨みがましく視線を送って


「別に俺はお前に従う義理も義務も道理も無い、俺は俺で勝手に見て回るだけだ」


次いでウルキオラは、ゆっくりと歩みを進めて



「だからお前も、『勝手』に見て回るんだな」



その言葉は、小さくアリシアの耳に響いて
その言葉は、ゆっくりとアリシアの頭の中に浸透して


「うん、そだね。それじゃあ私もお店の中を『勝手』に見て回るんだよ」

「……そうか」

「もしかしたら、たまたま偶然行き先が『全部同じ』かもしれないけど……偶然なら、しょうがないよねー
私もウルキオラも勝手に見て回るんだから、そういう事だって有り得るもんねー」

「……さあな……」


アリシアの言葉を短く簡潔に返しながらウルキオラはそのまま歩みを進めて
アリシアは愉快気な笑みを浮べたまま、ウルキオラの後を弾む様な軽い足取りでついていった。











「ホロ、大至急『アルカンシェル』を三台調達してきて頂戴。報酬は言値で払うわ」

「絶対にお断りじゃ」

店の中のカウンターにて、額に青筋を浮べて光彩が消えた瞳でプレシアは呟いて
ホロは頬杖をしながら溜息混じりに返した。


「最愛の娘が今正にあん畜生の毒牙にかかろうとしているのよ?四の五と言わずに手筈を整えなさい、別に本当に使うわけじゃないわ、あくまで交渉の手札の一つとして用意するだけよ、さあ説明したわ、分かったのなら直ぐに用意して、間に合わなくなっても知らないわよ、さあ早くなさい、早く、速くハヤクはやく、はりー、ハリー!hurry!!! HURRY UP!!!!!」

「主も大概アレじゃの」


無駄に良い発音をしながらプレシアはホロに詰め寄り、ホロはそんなプレシアを見て宥める様に呟く。


「見ていて実に微笑ましいやり取りではないか、わっちから言わせれば主は変に勘繰り過ぎじゃ
主は変に気張らず母親らしく、温かく見守っていれば良いでありんす」

「無理!だってアイツむかつくんだもん!!!」

「お主は子供か?」


涙目で訴えるように叫ぶプレシアを見て、ホロは呆れた様に呟く。


「不味いわ、コレは非常に不味い流れだわ!!! 何とかしないと、早くなんとかしないと
ここが運命の分岐点よプレシア・テスタロッサ!!!ここで選択を誤れば貴方に待つのは一つ屋根の下で
娘夫婦とその合作の目に入れても痛くない孫達ときゃっきゃウフフしながら過ごす老後生活よ!!!
その生活の先にまっているのは何!言うまでもないわ!孫の結婚、そしてひ孫よ!!!!!」

「実に理想的な老後じゃと思うのは気のせいかや?」


恐らく大凡全ての人間が思い描く理想の老後生活を口にするプレシアに、ホロは軽く拳骨で小突く。
そして変わらない呆れた口調で更に言葉を続ける。


「少し落ち着かんか、それに主は追加商談の話がしたいのではなかったのかや?
わっちとしてはさっさと商談を進めたいのじゃが?」

「ふぅ、ふー、すぅ……ええ、そうよ。この話はまたの機会に……実は服以外にも調達して欲しい物があるのよ」


本来の目的を思い出しのか、プレシアはゆっくりと深呼吸をして呼吸を整える。
次いで表情からは先程までの負の感情は消えて落ちついたものになり、頭の中は冷静さを取り戻している。

こう言った切り替えの早さと思い切りの良さは流石と、ホロは僅かに心の中で感心する
そして二人は商談に入る。


「これが今回仕入れて貰いたい物のリストよ、ざっと見積もりして頂戴」

「どれどれ、ふーむ……ふむ、ふむ……うん」


プレシアから手渡されたリストに視線を走らせて、その全ての品物をチェックした後に一息吐いて


「今回はまた、前回と随分と毛色が違うの? 新しいデバイスでも作るのかや?」

「ま、そんな所ね。最近は何かと物騒だし、備えあれば何とやらよ」

「確かに、特に最近は魔導師だからと言って油断できないご時勢だからの」

「……ああ、あの『連続魔導師襲撃事件』でしょ?」


ギシリと、座っていた椅子を鳴らしてプレシアは言葉を返す


『連続魔導師襲撃事件』
ここ最近、一番話題性のある事件の一つだろう
その事件の概要は、正に読んで字の如くだ。

様々な次元世界の魔導師が、無差別に襲撃され暴行を受けるという内容のものだ
その手口も有り触れた手段で、一目の少ない場所で、極めて少数でいる魔導師が襲われるというもの。

これだけ見れば、そう珍しくも無い暴行事件
しかしこの事件は他の暴行事件とは明らかに異質な点がある

それは


「この下手人、どうやら相当『イイ趣味』の持ち主みたいじゃぞ?
なんせ被害者は漏れなく、『リンカーコア』を生きたまま抜き取られているらしいからの
その上、相当な腕前の様じゃ。被害にあった魔導師の中には、ニアSランクの魔導師もおるという話じゃぞ」

「……そうね、私も用心しないとね」


肩を軽く竦めてプレシアは軽い調子で返す。
しかしその心中は表情とは少々違う、その心中には先程までとは質が違う重く濁った負の感情があった。


(……そう、用心に用心を重ねなきゃいけない……用心を重ねて万全の準備を整えて……
……次こそは、確実にあのベルカの魔導師達を仕留めないとね……)


心の中で、プレシアはゆっくりと呟く。

昨晩の戦いにて、プレシアがあのベルカの魔導師たちを待ち伏せできたのは、この「連続魔導師襲撃事件」の情報を予め仕入れていたからだ。

あの甲冑の女、シグナムと呼ばれていた女の言葉とヤツ等の手口
そしてあの後知った、魔導師が連続で襲撃されているという一連の事件

この二つを結びつけるのは、そう難しい事ではなかった。


(……極めつけは昨夜の一件、餌を垂らして待っていたら……案の定だもんね……)


そして、確定的だったのは昨晩の一件
これでプレシアの中で襲撃犯=あのベルカの騎士達という図式が完全に出来上がったのである。


「まあ、お主なら心配無用だと思うんじゃが……一応念のためにの、今朝の噂もあるしの」

「今朝の事?なんかあったの?」

「今朝の仕入れの時に、ちょいと物騒な噂を聞いての。何でもこの一連の事件……」





―――あの『闇の書』が絡んでおるという話じゃぞ―――






















続く


















後書き
 すいません、今回も更新が遅れました!今更ドラクエ5の面白さを知ってしまった作者のミスです。
次回こそは、次回こそは早目に更新できるように頑張ります!!!……しかしビアンカとフローラ、どっちにいくべきか悩みどころだぜ。


さて話は本編、のっけから暴走気味の今回でしたがあの手の展開は初めてだったので中々苦戦しました
機会があればもうちょっと練りに練った話を作りたいと思います

そして相変わらずのテスタロッサ家サイド、なんかここ最近は安定した家族団欒から最後に最後だけシリアス路線を投下
一応今回はどこかの場面でこの情報を入れる予定だったので

しかし、最近プレシアさんがどんどん親バカ路線を突っ走っている……最初はこういうキャラじゃなかったのに、一体どうしてだろう?
ちなみにプレシアさんとウルキオラの関係は、アリシア絡みを抜きにすればいたって良好です


それでは次回に続きます



追伸
 そろそろ夜天のターンに入ってもいいよね?





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