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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第四拾四番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:a15c7ca6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/18 12:57




―――ん?……これは……―――

「どうしました?」


果ての無い水面から突き出た大樹の上で、一組の男女が向き合っていた。

白い衣を身に纏った白い影は、手に持った細身の刀身を鞘に収めて
薄い茶髪のショートカットの女は、頭の上の白い帽子をかぶり直しながら尋ねた。



―――まさか……解放したのか?……―――



白い男は少し驚いた様に、意外そうな表情をして呟く。
そしてそのまま顎に手を置いて、僅かな間一考して


―――どちらにしろ、外で何かあったのは間違いないか―――

「??? さっきから何を言ってるんですか?」


茶髪の女は、白い男の様子を見ながら尋ねる。
そしてその白い男は、再び茶髪の女に視線を移して


―――予定変更だ―――

「……え?」

―――外で何かが起きた、あの「時の庭園」での戦いに匹敵し得る程の……「何か」がな―――


そしてその白い影は、そのまま片膝をついて白い掌を緑の床に置く。
次いでその床は一瞬淡く輝いて、それは茶髪の女の足元にまで一気に侵食して

次の瞬間、茶髪の女の足元の床は消えた。


「……え?……」


そして彼女の体は、一気にその奈落へと落ち


「な!え!? ちょっ!!!」

―――ここでの訓練はここまでだ、後は実戦あるのみだ―――


その言葉が彼女の耳に響いて、彼女の姿は奈落の底へと消えていった。











第四拾四番「進展あり?」










そこは、闇の中だった

闇の中には、一冊の本があった

本からは鎖が生えていた

鎖は『何か』と繋がっていた

鎖が千切れた

鎖と繋がっていた『何か』は闇の中へと消えた



青い獣がいた



その獣は傷ついていた

その獣は餓えていた

その獣は求めていた

獣は闇の中に居た





闇の中には、千切れた鎖があった
闇の中には、青い獣がいた





そこで、グリムジョーは目を覚ました。


「…………」


気だるげに瞼が開いて、その蒼い両眼が姿を見せる。
クシャリと、青い前髪を掻いて目元を擦る

そして、その体を起こそうと力を入れて


「……想像以上にキてるな……」


自分の現状を察し、毒吐く様に呟いて


「……っ、ぅ!……っく、っ!……」


その一瞬後、その表情が歪む
その全身を襲う、電気ショックにも似たその激痛


「……ぬ!ぐ、ぎっ! が! ぁ、ぁ!……」


覚醒した脳の容量を瞬時に埋め尽くす程の激痛に、その表情が歪んで思わず声を漏らして更に体に力を込める。

そして激痛に晒されながらも、その上半身を徐々に起こして



「……腹、へったな……」



包帯が巻かれた腹部を擦りながら呟く。
激痛に耐えたと思ったら次いで襲う空腹感、思えばここ最近まともに食事らしい食事をしていなかった。

このまま寝ていても良いが、空腹に耐えながら寝ていた所で碌に回復しないだろう
腹が減っては戦は出来ないとも言うし、何か腹に入れた方が落ち着くだろう。


「……チッ、仕方ねえ……どこかで調達するか……」


頭の中で意見を纏めて、ベッドから降りる。
その瞬間、ギシリと全身が軋む様に痛んだが目覚めた時に比べたら大分マシだろう。

体の調子を確かめる様に肩を回して、手を軽く握る。


「……さて、と……」

――探査神経・起動――


目を瞑って、周囲の霊子情報を探る。
その探査網km単位にまで拡大させて、手頃な獲物を探す。

そして



「…………居た…………」



僅かに口角を吊り上げて、小さく呟く。


(……距離は、クソ……結構離れてやがるな……
……数は大体300前後ってところか……この反応からして人間か?数は多いが、霊圧は全部ゴミみてえに低いな……)


チっと、軽く舌を打つ。
並の人間、霊力の低い魂魄は破面にとってあまりエネルギーにならないし、味も悪い。

他に何か手頃な獲物はいないかと、周囲を改めて探ってみるが他にコレといった反応はない。


(……まあ、数は多い様だから腹は膨れんだろ……)


あまり贅沢を出来る状況でもないし、ここはこの位で妥協するべきだろう。


「……さーて、とりあえず腹ごしらえして来るか……」












第97管理外世界・地球・遠見市
そのとある一軒家にて


『……シャマル、主の様子はどうだ?』

『大丈夫よ。今も変わらずヴィータちゃんとぐっすり寝てるわ……と言うよりも、ここまでする必要あるかしら?』


その一軒家にて、シグナムとシャマルは念話を用いて秘密裏に会話していた
シグナムは台所にて、シャマルは二階廊下にて、互いに状況を報告し合っていた。


『仕方あるまい、主に余計な疑いを持たれる訳にはいかんし、ヴィータは口を滑らせるかもしれんし
下手をすれば我等が行っている事に気付かれる可能性もある……石橋は叩いて歩くくらいが丁度いいだろう?』

『……いやね、そうは言ってもね……』


ハア、とシャマルは一息吐いて





『見舞いの食事くらい、堂々と作っても問題ないと思うけど?』

『……念には念をだ』





二人は互いに言葉を交える
シグナムは己の主もまだ目覚めない早朝から台所にて、食事の準備を進めていた。

しかしそれは、己の家族に振舞う朝食ではない
自分達が匿っている、とある男に対しての物だ。


『あちらの隠れ家には十分な調理設備はないし、かと言って調理道具一式持ち込むのも手間だし、これが一番無難で確実な方法だ』

『いや、朝食の準備をする傍らでこっそり作るとか、はやてちゃんに気付かれない方法は色々あると思うけど……』


思い付いた様にシャマルが呟くが、シグナムはソレをあっさりと返す。


『作っておいて食卓に出さなかったら、不審に思われるだろう?』

『多めに作って食卓に出して、食事が済んだ後にあっちに持って行けばいいんじゃないの?』

『恩人に余り物を出すというのは、少々礼儀に欠いた行動だと思わないか?』


念話で互いの意見を交換しながら、シグナムは火にかけた鍋の経過を見る
鍋の中には湯気を立てて煮込まれた粥、それをお玉で一口掬って口に含んで


「……うむ、こんな所か」


味を確かめて頷く。
シグナムとて悠久の時間を戦いと争いで過ごしたが、今ではこの八神家の家族の一員、ある程度の調理の心得は今までの生活から学んでいる。

そしてシグナムは粥の味を確かめた後に手早く粥の入った土鍋や、替えの包帯や薬等を纏めて


『それでは行ってくる、すまないが朝の家事は頼む』

『別に大した事じゃないわ。私もこっちが終わったら治療の経過を見に行くから、その事も彼に伝えておいてね』

『うむ、了解した』


そう言って、念話はそこで終わる。
シグナムは粗方の準備を終えた事を確認して、直ぐに空間転移の演算と構築式を組み上げる。

次いでシグナムの足元に幾何学模様の魔法陣が現れて

数瞬の間を置いて、シグナムの視界が切り替わる。
目の前に広がる光景は民家の台所から、廃屋の廊下に切り替わる。


そして、「コホン」と息を整えて、目の前にあるドアを軽くノックして


「入るぞ、もう起きているか? そろそろ腹が減っている頃だろうと思って食事を……」


気遣う様に声をかけながら入室する
そして何気なくその視線をベッドに移して



「…………アレ?」



シグナムの目に映るのは、空になったベッド
その光景を見ながら呆気に取られたかの様に、シグナムは呟いた。





















「リニス!!!!」

その声が響いて、白い扉は一気に開かれて二つの影は飛び込む様に病室に入る。
金髪の少女は長い髪を揺らしながら病室を見て、橙色の髪の女は肩を上下させながら病室を覗き込む。

二つの視線の先、病室のベッド
ベッドで背もたれていた女は、ゆっくりと開けられた扉へと視線を移して


「……フェイト? それにアルフも……」

「リ、リニス……」

「……リニス、リニスウゥ!!!」


ベッドの上のリニスの姿を確認した瞬間、二人の中で溜め込んでいた感情が一気に爆発して
二人は弾ける様に、リニスへと抱きついた。


「リニス、良かった……ほん、と…に……本当に、よか、った……」

「ず、と、リニ……め、さまっ、さないっから……もう、めを、あけない、んじゃ、ないか……って……
……ず、ずっと……ふあ…ん……で……」


嗚咽交じりのか細い声を搾り出しながら、涙交じりの剥き出しの感情の言葉を呟きながら
二人はリニスに抱きついたまま泣いた

そしてリニスは、そんな二人の姿を見続けて


(……ああ、そうか……)


その二人の姿が、あの時の二人の姿と
自分がこの二人と再会した時との二人の姿が、リニスの頭の中で重なって


「……どうやら、また二人に心配をかけてしまった様ですね……」


だから、リニスも二人の体をそっと引き寄せた
二人の体温をより近くに感じる様に、二人の存在をもっと強く感じ取れる様に

自分が命を懸けて守ろうとした二人を、強く近く感じ取れる様に
リニスはずっと、二人の体を抱きしめていた。








「……てな感じで、報告は以上です」

アースラの艦長室にて、エイミィはさっきまでのリニス達との一件を報告しに来ていた。
エイミィの報告を聞いていたリンディは、僅かに表情を緩めて


「そう、報告ご苦労さま。明るいニュースが聞けるのは良い事ね」

「ですよねー。あの時の庭園での一件以来、どうにも悪い空気が続いていましたからねー」


久しぶりの明るい報告に、二人の表情は自然と綻んでいた。
思い返せば、あの決戦以来どうにも暗い空気は拭え切れていなかったし、調査も今一つ進んでいなかった。

そしてそんな鬱屈とした流れの中に飛び込んできた、一つの明るいニュース
それは心の清涼剤の様に作用して、自然と気分も晴れやかなモノになっていた。


「それで、リニスさんの体調の方は?」

「概ね良好みたいですよ。元々リニスさんは体の傷は殆ど完治していましたし、多分大事ないと思いますよ」

「そう、なら安心ね」


リンディは「ふぅ」と溜め込んだ息を吐いて、椅子に深く背もたれる
そして机の上の書類を手に取って




「そう言えば、リーゼさん達が病院を移したって本当ですか?」




不意に、エイミィは気が付いた様に声を上げた。


「ええ、少し前にね。なんでもグレアム提督がプライベートで知り合いになった人が、腕の良い医師を紹介してくれたとかで
リーゼさんたちも症状はかなり安定していたから、搬送自体は難しくなかったから移動したみたいよ」

「そんな事があったんですか? でも管理局直属のこの病院以上の設備と医師がある病院なんて、そうは無いと思うんですけどねー」

「まあ、それを踏まえてもグレアム提督は診せる価値はあると踏んだ様ね。
リニスさんも目が覚めたようですし、何とか朗報を期待したいわね」

「ですねー。三人共無事に退院できたら、パーっと退院祝いとかしたいですしねー」

「……そうね。それも良いかも知れないわね」


フっと小さく笑みを零して、リンディは手元の書類にペンを走らせていく。
そうして記入し終えた書類を見直して、その書類の束を集めてクリップで留めて



「艦長、失礼します」

「どうぞ」



それと同時に、艦長室のドアがノックされる
リンディの了承の返事を聞くと、ドアを開けてクロノが姿を現した。


「さて、全員揃った所で……話を始めようかしら」


クロノの姿を確認して、リンディは改めて二人と向き合い告げる。


「ほんの数時間前の話です。第97管理外世界の高町なのはさんから、次元通信が届きました」

「なのはから?」

「なのはちゃんからですか? 一体どうして?」


リンディから告げられた話の内容に、二人は不思議そうに表情を形作る。
そして更にリンディは話を続ける。


「なのはさんからの通信の内容は、海鳴市付近にて魔力の反応を感知した……と言う内容でした」

「……なのはが居る第97管理外世界には魔法文明がない、つまり……」

「どこかの魔導師が魔法を使ったか、ジュエルシードの時の様なロストロギアが関わっているか……」

「いずれせよ、無視できる内容ではないな」


クロノが呟いて、リンディとエイミィも小さく頷く。

第97管理外世界、地球には魔法文明がない。
魔法文明がない世界での魔法の使用は基本御法度だ、その世界での文明を根底から覆す様な異文化の接触は時として大きな危険と災厄を招くからだ。

また、そういう背景があってか違法魔導師、次元犯罪者がその逃亡先や活動場所を管理外世界、魔法文明がない世界を選ぶという事も多々存在する。

先のジュエルシードを巡る一件も、正にその例に入るだろう。



「そしてなのはさんはこうも告げていました。自分が感じた魔力は、以前に感じた事がある魔力だったと」

「「!!!?」」



その言葉で、二人の表情が変わる。


「ジュエルシードの一件まで、なのはさんは魔導師としては未覚醒状態でした
第97管理外世界に魔法文明が無い事を含めて考えると……なのはさんが今まで接触した事のある魔導師は、決して多くはありません」


なのはが接触した事のある魔導師
それもなのはの記憶に残っている程に、印象深い魔力


「先程本局の方に確認を取りました。
あのジュエルシードでの一件で協力してくれた捜査員、私やクロノ、フェイトさんやアルフさんも含めて
その全員が、なのはさんが言っていた時間帯には第97管理外世界に居なかった事は既に確認済みです」


そしてリンディは、更に話を進めていく。


「また、ロストロギア・ジュエルシードも先の一件で全て管理局が保管しています。
全く同種の魔力を放つ、管理局が未確認ロストロギア……そんな可能性もありますが
現状ではその可能性は極めて低いと推察されます」


なのはが今まで接触した事のある魔導師、魔力反応
そこから自分達管理局関係者とジュエルシードを除外すると、残る可能性は大きく二つ



「そして先の事件での主犯であるプレシア・テスタロッサは既に死亡している事を考えると
単純に考えて残る可能性はただ一つ……」

「……ウルキオラ・シファー……」



故に、クロノとエイミィも辿り着く。
その可能性に、その答えに


「無論、コレは最も単純かつ簡略的に考えた結果に過ぎないわ。
これ以外の可能性だって勿論捨て置けないし、情報が少ない現状で判断をするのは早計……しかし」

「可能性は高い、そういう事ですね」


クロノの言葉にリンディは頷く。
現地に赴いて魔力痕跡をデータとして採取し、管理局のデータバンクで照合してみない事には分からないが

なのはの証言と、先の一件でウルキオラ・シファーが第97管理外世界で活動していた事を踏まえて考えると
やはり、ウルキオラが関わっている可能性は無視できないだろう。


「……そういえば、最近噂になってる『連続魔導師襲撃事件』
あの事件の襲撃者が拠点にしている次元世界の候補でも、第97管理外世界が挙げられていましたよね?」

「ああ、僕が目を通した事件の資料でもそう書かれていた。
……まあ事件の手口を見る限り、ウルキオラとの関連性は薄いと考えていたが…ウルキオラ自身がその襲撃者に狙われた、という事なら話は違ってくる」

「……何にしても、あまり楽観的に考えられない状況なのは確かね」


ウルキオラにしろ、襲撃犯にしろ、その他の要因にしろ
何らかの危険因子が第97管理外世界に潜んでいる可能性があるのは確かだ

その事を踏まえて、既にリンディは準備を進めていた。


「二人共、コレを」


そしてリンディは先程整理していた書類をクロノとエイミィに手渡す
二人はそのまま手渡された書類を受け取り


「もう本局への申請準備は済んでいるわ。
後は予定が整い次第、現地に捜査に赴くから二人共そのつもりで準備をしておいて頂戴」


そのリンディの言葉を聞き、クロノとエイミィは「了解」と確かな意志を込めて応えた。


















「……あそこか……」


虚空を翔ける足を止めて、グリムジョーは視線を下に移す。
その目に映るのは広大な田園、そしてそこで作業する幾多の人影

僅かにその視線を移せば、集落らしい建物の群れが見えた。
周囲にはこれ以外に霊圧はない、ならば手早くやる事を済ませてしまおうとグリムジョーは眼下の獲物に狙いを定めて



――魂吸――



その瞬間、ソレは起きる。


田園から、集落から、眼下の領域から
ソレは上空のグリムジョーの口へと吸い取られていく。

目に見えぬ半透明の流動体は、淡い光を帯びて周囲の人間全てから抜け出ていく。
そしてソレが抜け出ていくと同時に、ある者は顔を苦痛に歪めて、ある者は胸を押さえて、ある者は膝を着いて、ある者は呻き声を上げて

次の瞬間には、その意識がシャットダウンしていく。

その流動体の正体は、人間が持つ魂魄のエネルギー
それら全ては吸い取られる様に人体から抜け出て、吸い寄せられる様にグリムジョーの口元へと集まっていき



「まっじ!!!!」



一気に吐き出す。
噴出す様にグリムジョーは咳き込んで、折角吸い寄せた全ての魂魄を吐き出してしまう。

吐き出された魂魄はそのまま人体との繋がりの力によって引き戻され、再び還るべき主の下へと帰って行った


「がぁっ!っぺ!っげ!まっじ!!! 何なんだコレはあぁ!!!!」


グリムジョーは魂魄を吐き出して尚も咳き込み、口内の唾すらも吐き出して、その口元を拭う。

例えるなら、腐臭のする魚の内臓を一気に口に放り込んだ様な感触
例えるなら、泥と重油にまみれた汚水を一息に吸い込んだ様な感覚

そんな生理的嫌悪感が、グリムジョーの口の中を一気に支配したからだ。


(……まっじい、何なんだこのクソ不味ぃ魂魄は! 霊圧が低いとか霊質が悪いとか、そういう問題じゃねえぞ!!!……)


今までの記憶を掘り起こしながらグリムジョーは考える。
虚のエネルギー源である「魂魄」、それらを捕食する事は虚の欲求であり本能である。

多少その質に善し悪しがあっても、今の様に不快感を覚えたり、反射的に吐き出してしまう様な事は無い
現に今まで、グリムジョーはその様な事態に陥った事にはない。


(……ダメージの影響で、胃が魂魄を受け付けねえ状態にでもなってんのか?……)


人間や動物でも病や大怪我をした時は食欲が減退するというし、自分も似た様な状態なのかもしれない。

しかし、それでも未だ空腹の状態である。
腹が減ったまま寝転んだ所で、満足に寝る事も休養を取る事もできないだろう。



(……せめてもう少しマシな霊力を持ってる獲物が見つかれば、話は別なんだがな……)



心の中で毒吐く、しかし幾ら愚痴っても腹が減っている現状は変わらない。

眠ったまま大人しく回復を待つのは性には合わない、ここは吐き気を押し殺してでも食事を取るのが良いだろう。

グリムジョーがそう結論づけて、再度魂吸を試みたところで



「何をしている!!!」



不意に、背後から聞き覚えのある声が響いた
グリムジョーは声の発信源に振り向く、そこには予想通りの顔があった。


「ああ、テメェか」

「……コレは、貴公がやったのか?」


ギリっと奥歯を咬みながら、グリムジョーを睨みつける様にシグナムは呟く。

シグナムの瞳に移るのは、地に倒れ伏す人々


「だったらどうだってんだ?」
「何が目的か知らないが、今すぐやめろ」

「……あん?」


シグナムが感じた魔力の異常は一瞬だけ、あの短時間だけでこの被害だ。
もしもこれ以上の事を許せば、間違いなく死人が出る。


「死人が出れば取り返しがつかない、これ以上は私も見過ごせない」

「面白え事を言うなあ? 見過ごせないならどうすんだ?力ずくで俺を止めるか?」


そのグリムジョーの一言で、シグナムはギリっと奥歯を噛み締める。

どういった事情で、目の前の男がこの様な暴挙に出たのかは分からない
だがそれが原因で死人が出るのは、絶対に避けなければならない事である。

例え相手が自分の恩人だとしても、それこそ文字通り「力尽く」になっても阻止しなければならない

シグナムはそう結論づけて、服の中にあるレヴァンティンをいつでも起動させられる様に準備をして



「いいぜ、止めても」



グリムジョーは、あっさりとシグナムの要求を受け入れた。


「…………え?」

「テメエには借りがあるからな、テメエが止めろって言うんなら止めるさ」

「……そ、そうか……」


呆気に取られた様に、そしてどこか意外そうな表情をしてシグナムは呟く。
そしてそんなシグナムにグリムジョーは言葉を返して、シグナムはそのまま呆けた表情を浮べたまま言葉を返し


「おい、なに間の抜けたツラしてんだ?」

「あ、いや、すまない……まさか貴方がこんなに素直に聞き入れてくれるとは、思わなくてな……」


頬を軽く掻きながら、シグナムは呟く
昨晩のこの男とのやり取りから、ある程度この男の性格を把握していた。

故に事と次第によっては荒事にも成り得ると、シグナムは覚悟していたからだ。


「だが良かった、なるべく貴方とは荒事を起こしたくはなかったからな」


溜まった息を吐き出す。
張り詰めた緊張の糸が切れ、どこか安堵したかの様にシグナムは表情を和らげて


「おい、なに全部終わったって顔してやがんだ?」

「……え?」

「テメエの用件は聞いた、次はこっちの用件だ」

「用件?なんだ?」


シグナムはその言葉に怪訝そうな表情を浮べて、グリムジョーは僅かに口角を吊り上げて


「お前、俺の食料になれ」























「……ヤ、テ…ン……?」


僅かに困惑した様に、僅かに動揺した様に


「……夜天、ですって?……」

「はい、その言葉だけは妙にハッキリ覚えています」


その表情を驚愕に染めて、僅かに震える様に声を捻り出して銀髪の女を見る。
プレシアは驚愕に顔を歪めて、銀髪の女を見る。


『……ウルキオラ、この女の処分は一旦保留……少し様子を見るわ……』

『……どういう事だ?』


次いでウルキオラに念話で指示を飛ばす。
僅かに疑問の響きを含ませながらウルキオラが返す。


何故なら、今の指示内容は大凡プレシアらしからぬ内容だったからだ。


『……随分と、お前らしくない物言いだな?』

『……アンタが昨夜持ち帰ったって言う「剣十字」、剣十字は古代ベルカを象徴するアイテムの一つよ……』


そのプレシアらしからぬ発言に対してウルキオラが聞き返す
そしてウルキオラの疑問に対してプレシアが答えて


『……古代ベルカ? ああ、そう言えばあの甲冑の女も「ベルカの騎士」だったな……』


ウルキオラが思い出したかの様に呟く。
更にプレシアはその疑問を根本から解消する様に、一つ一つ道筋を立てて答えていく。


『そう、そして今私が追っているロストロギア、「夜天の書」も古代ベルカのロストロギア
……どう? 何か思う所はない?』

『……そうだな。偶然、と片付けるにしては少々出来すぎだな……』


故にウルキオラもプレシアの意図に辿り着く。
確かに、自分達の身近でこれだけの判断材料が手元にある今では、否定する方が無理な話だろう。

そして、更に言葉を続ける。


『……夜天の書、その情報はここ十年間殆ど0……
その手掛かりの一片かもしれないモノが、態々あちらから出向いてくれたかもしれないのだもの……あまり軽率に判断は出来ないわ』

『……だが疑問だな。
お前の言う事がもし正しければ、この女は十中八九あの甲冑の女達の仲間、若しくは関係者
……いずれにせよ敵だぞ?』

『問題は、そこなのよねー』


念話越しに呟いて、プレシアは軽く息を吐く。
今現在、プレシアの中ではメリットとデメリットでの天秤がフラフラと揺れている様な感じだ。

目の前に居る獲物は、確かに魅力的だ。
それこそリスクを抱え込んでまで、手元に置いておく程に


しかし、それはあくまでこの問題を抱え込むのが自分だけの場合の話だ。


メリットと同等に、否それ以上のデメリット……リスクがあるのは揺ぎ無い事実だ。

ウルキオラ……はともかく
そのリスクからの飛び火が、アリシアにまで移るのだけは避けたい。

かと言って、現状では下手に手元から離すのも愚策
少なくとも、この隠れ家の場所を知られて何も策を講じずにいるのは悪手だろう。


(……さーて、どうしたら良いものかしらねー……)


プレシアは状況を整理しながら考える。


(……さっきの『夜天』という言葉から察するに、この娘の記憶喪失と言う話は……恐らく事実……)


あのベルカの騎士達との戦闘直後のこの状況でそんな言葉を聞けば、いやが応でも『夜天の書』を連想する。

只でさえ疑いの目が向けられるこの状況でそんな言葉を口にすれば、相手から不要な疑いと警戒を買うだけ

最悪、その場で始末される事も、囚われて監禁され拷問される事も十分に考えられる筈


(……事実、私はついさっきまでそのつもりだった……)


もしも、自分が『夜天の書』を探している最中でなかったら……恐らく、自分は「夜天の書」の危険性を考慮して確実にこの娘を始末していた筈
そして自分が『夜天の書』を探している事を知っているのは、情報屋のイザヤと共犯者のウルキオラだけ

そしてそのどちらからも、その情報が漏れる事は考えにくい。



(……でも……それでも手元に置けば危険
かと言って隠れ家の一つに監視付きで飼い殺しにするのも、逃げられる可能性が高い……)


やはりベストな方法としては付かず離れず、程よい距離を保ったまま行動を監視する事だが……


(……ダメね。記憶喪失の件も含めて、この娘の魔導技術が並じゃないのはさっきので実証済み……
……素性も正体も、敵かどうかも、何一つ分かっていないこの娘を一人にするのはどう考えても悪手、最低限の保険は必要……)


記憶喪失が偽装だった場合、この女があのベルカの騎士達と何らかの方法で接触を図る可能性が高い。
記憶喪失が事実だった場合、恐らくあちらから何らかの接触を図って来る筈


ソレ等を防ぐにしても、利用するにしても、最低限の保険の必要



(……さあ、考えなさいプレシア・テスタロッサ……間に合わせで良い、効果的な考えが思い付くまでの繋ぎでも良い……
……さあ、どうする?どんな保険をする?どんな牽制を行う?どんなカードを使う?……)



プレシアは考える。

自分が扱える手札の中から、どれが一番適しているか

どのカードを、どの様にして扱うか、どの様に利用するか

プレシアは可能な限り模索しながら考える

考えて、考えて


そして





(…………あれ? これって案外、名案かも…………)






思いつく、その策を、その保険を
あまりに単純にして明快な、手軽で確実なその方法を


「ウルキオラ」

「何だ?」


隣の共犯者に声をかける、次いでプレシアはその共犯者に、ウルキオラに、こう呟いた。



「貴方今日から、この娘と一緒に暮らしなさい」




















続く













後書き
 ほんっとうにすいません! 今回も更新が遅れました!
前回の更新からどうにもバタバタしてて、最近やっと落ち着いて来たので更新出来ました。

さて、話は本編
今回からリニスも復活、これからのストーリーにも多少なりとも絡んでくる予定です
管理局勢の方も、闇の書事件に関わってくる下準備も済んだ感じです

次はシグナム&グリムジョー組
この二人はウルキオラとテスタロッサ一家とは違う、変わった絆の繋がり方をしたいと思ったのでこんな感じでやっていこうと思っています

そして最後は、テスタロッサ家サイド
再びテスタロッサ家内にて、爆弾投下です
ちなみになんでプレシアさんがあの様な事を提言したかと言うと

情報不足と人材不足の現状で、不足の事態に確実対応できて、もっとも安全で現実的な方法がアレになった感じです

まあこの件を持って、テスタロッサ家に新たな火種が生まれてしまった様ですが……(笑)

さて次回からは新メンバーを加えての、テスタロッサ家の生活を描いていくつもりです
ひょっとしたら、また更新が遅れるかもしれませんが……皆さん、何卒よろしくお願いします!

それでは、次回に続きます。


追伸
 やべえ、今回の話……全くアリシアが……





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