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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第参拾弐番
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:4ac72a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/09 23:28




「……ここは?」

目の前の光景の急激な変化に、シグナムは呆気に取られた様に呟いた。
自分の眼前の光景、そこは先程までの草原とは明らかに違う場所

そこは、どこかの建物の屋上だろう
危険防止用の高いフェンスに、高所からの町並みの光景

この一瞬の間の変化に、シグナムは僅かに混乱した。

先程まで、自分はあの白い魔導師と戦っていた筈
それがどうして突然この様な事態になったのか、シグナムの思考が状況の変化に追いつかなかったからだ。


(……ここは、明らかに先程までの場所ではない……それに、あの白い男の姿もない……という事は、やはり……)


そこまでシグナムが思考を纏めた所で



「……シ…グ、ナム…か?」

「……え?」



その声が響いて、シグナムは声の発生源へと視線を移す
そこに居るのは、片腕を失った見知った存在、自分達の仲間であるザフィーラの姿があった。


「ザフィーラ! そうか、お前の空間転移のおかげで……」

「……いや、そう…ではない」


頭に過ぎった可能性を口に出そうとした所で、その考えは否定される
そして、更に言葉を続ける。


「どういう意味だ? ここは一体……それに、ヴィータの奴は何処に?」

「……詳しい話は、奴に聞いた方がよさそうだ」

「……ヤツ?」


その言葉とザフィーラの視線に釣られて、シグナムも視線を動かす
それとほぼ同時だった、その声が響いたのは



「ふむ、全ての転移は滞りなく終了した様だな」



二人の目の前に現れたのは、その顔を白い仮面で隠す一つの存在だった。










第参拾弐番「闇の胎動」











「一緒に寝て下さい」

「失せろ」

自分に向けられたその提案をウルキオラは瞬時に切り払って、ウルキオラはプレシアの魔導書を読み続ける。

そして次の瞬間、ウルキオラの目の前の少女はくわっとウルキオラに迫って


「もうちょっと話を聞いてくれても良いじゃない! ただ一緒に寝てくれるだけでいいんだよ! 何も難しい事なんかないんだよ!」

「それ以前の問題だ」


自分に迫るアリシアの顔を掌で制して、ウルキオラは尚も魔導書に視線を置いて


「そもそも、お前は毎日アレと一緒に寝ているだろう?」

「今日はお母さんはいないんだよ! 少し帰って来るのが遅くなるから、先に寝ててって言われたんだよ!」

「じゃあ寝ろ」

「一人じゃ寝れないんだよ!」

「安心しろ、一瞬で楽にしてやる」

「まさかの死亡フラグ!!?」


フカーっと、まるで猫の威嚇の様に声を上げてアリシアは告げて
「もういいもん!」と叫んで、ウルキオラの脇を擦り抜けてベッドに飛び込んだ

当のウルキオラはそんなアリシアを一瞥しただけで、再び魔導書に目を落として



(……あれから、二日か……)



ベルカの騎士と名乗った輩との戦闘から、既にそれだけの時間が経過していた
この二日間、あの連中からの追撃等は一切無くウルキオラ達は平穏と安穏とした時間を過ごしていた。


(……プレシアの情報網から、管理局やこの近辺の治安組織に目立った動きは今の所は報告されていない
……あの時の連中の対応等を考えると、やはりプレシアや俺の素性に気付いた連中の差し金……という線は薄いか……)


思い出すのは三日前に起きた出来事
ベルカの騎士と名乗った三人組による奇襲


(……だが、それなら何故奴等はプレシアを狙った?……)


ウルキオラは考える
もしもあの三人組が何らかの経緯でプレシアの正体に気付き、そして襲ったというのならまだ筋は通る

だが、事はそういう事情とは違う様だ。


(……アイツ等三人は明らかな近接戦闘タイプの魔導師、遠距離タイプのプレシアに当てる駒としては明らかに不適格だ……
……少なくとも、アイツ等は対プレシアを想定して構成されたメンバーではないな……)


プレシアはあの甲冑の女に遅れを取ったが、それはあくまで結果論に過ぎない
少なくとも、自分ならプレシアに当てる戦力の中に必ず数名程度には遠距離タイプの魔導師をメンバーに入れる。


(……恐らく、あの仮面の男は撤退用に待機していたサポート要因か何かだろう……
……プレシアだから襲った、ではなく……偶々プレシアが襲われた…と解釈した方が妥当だな……)


しかし、それはそれで疑問はある。


(……何故、奴等は自分達の標的にプレシアを選んだ?……)


それは、最も単純な疑問だ。


(……通常、唯の物盗り・通り魔ならその大凡は自分よりも矮小で脆弱な存在を選ぶ……奴等の力量からすれば……プレシアは獲物としては、あまりにリスクが大きい……)


あの時のメンバーでプレシアと渡り合える実力を持ったのは、精々あの甲冑の女ぐらいだ


(……あの時のプレシアはどんなに注視しても富裕層の人間と見るには、あまりにも格好が凡庸だった筈……
……糞餓鬼を狙った辻斬り、若しくは誘拐か? いや、アイツ等は明らかに標的をプレシアに絞っていた……
……糞餓鬼を標的にしていたのなら……最後のあのチャンスを不意にする筈がない……)


やはり、奴等の目標は初めからプレシア唯一人……そう考えた方が筋は通る。


(……プレシアが狙われた原因……それもプレシアの素性すらも知らない相手から狙われる理由となった要因……)


その決め手となった要因を、ウルキオラは考える
だが、幾ら考えてもソレは分からない。


(……チ、ダメだな。幾ら考えても仮説と推測の域に過ぎん……やはり情報が少なすぎる
……アレも本格的に動き始めた様だし、今は静観した方がよさそうだ……)


思考を中断させて、ウルキオラは『ソレ』に視線を移す。


(……まあ、他に考える事があるとすれば……)

「ベッドベッドー♪モッフモフー♪ ヌックヌクー♪」

(……この糞餓鬼をどう黙らすか、だな……)


自室に取り付けられたベッドの上で、上機嫌に鼻歌を口ずさむアリシアを見ながら
ウルキオラはゴキゴキと指を鳴らしながら考えた。




















第1管理世界ミッドチルダ・時空管理本局
そのとある一室にて、二人の少年が火花を散らして論議していた。


「だから、何度も言っているだろう! 
こっちの演算式を主軸にしてプログラムを組めば、通常よりもマルチタスクに余裕が出来るし、魔力の消費も軽くなるんだよ!」

「だがその分演算処理の時間が増して、臨機応変な対応が難しくなるじゃないか! 
コンマ一秒の時間差が勝敗を分ける実戦でその手のプログラムは命取りだ!」

「それを言ったらクロノの方だって、マルチタスクを余分に使う性で複数の魔法を同時使用する時の魔力消耗が増えるじゃないか!
そんな直ぐ息切れする様なプログラムで、満足な戦闘が出来るとでも思っているのか!」

「少なくとも、君が提案するプログラムよりも考慮の余地があるとは思うがな!」


バチバチと火花を散らす様に、額と額がくっ付くのではないかと思うほどに顔を近づけあって
クロノとユーノの二人は、互いのプログラムに関しての議論をしていた。

二人共、あの「時の庭園」で負った傷もすっかり完治して、生活に支障が出る事無く日常を送る事が出来ていた。

入院中、怪我が粗方癒えた二人が真っ先に行った事、それは自分達の戦力強化
それもデバイスのカスタムやチューニングと言ったものでなく、根本的なプログラムの組み直しという手段だった。

プログラムを組み直すに当たって、二人は当然頭を抱えた。

幾ら自分達魔導師に馴染みのある分野とは言え、それを強化するに当たっては当然それ相応の手間暇
専門家並みの技術と知識が必要となる。


増してや、二人が目標とする領域を目指すのであれば……その難易度は一気に跳ね上がる。


個人で出来る範囲の限界
その壁にぶつかった二人が選んだ選択肢、それは他者と協力するという選択だった。


そしてソレが、今の状況を招いたという訳である。


「……ったく、まーたやってるよあの二人」

「あははは。二人共ごめんねー騒がしくって。あの二人も飽きないからさー」

「大丈夫です。それに、あの二人の演算式は私にとっても参考になりますし」


そんな二人の議論を端から見つめ、アルフとエイミィ、そしてフェイトは呟く

ここは時空管理本局のとある一室
五人は今度の裁判に関しての打ち合わせと、その近況報告を行う為にここに集まったのだ

そしてエイミィは目の前のテーブルに広げてある、数枚の書類と資料を手にとって話を続ける。


「まあ大まかな話はさっきの通りで、細かい事はこの書類に書いてあるから目を通しておいてね
今なにか聞きたい事があるんなら遠慮なく質問してね?」


エイミィはトントンと書類を纏めて、それをアルフとフェイトに手渡す
二人はそれを一枚ずつ、ゆっくりと目を通しながら


「あの、一つ聞いても良いですか?」

「うん、何かな?」


おずおずと手を上げて、フェイトが尋ねる
エイミィは一旦手を止めて、フェイトに視線を移すと



「あの後、ウルキオラに関して何か分かった事はありましたか?」



そのフェイトの言葉を聞いて、部屋が一瞬にして静寂に包まれた
アルフとエイミィは勿論、先程まで熱く議論していたクロノとユーノもピタリとその動きを止めて、フェイトに視線を移していた。


「う~ん、それがコレと言った進展がないんだよねー。ほら、ウルキオラって特徴的な外見の上に魔力が桁違いでしょ?
だから時間をかけて調べれば出身世界くらいは特定できると思ってたんだけど……」

「分からないのかい?」

「うん、全く。正直これ以上時間かけても、あまり期待が出来ないのが現状なんだよねー」


クルクルと手に持ったペンを回しながら、少し困惑した様な笑みを浮べてエイミィが呟いて


「……母さんなら、何か知ってたかな……」


思い出した様に、小さくフェイトが呟いた。


「……プレシア、さん?」

「あの鬼婆がかい?」

「うん。ウルキオラは母さんの協力者だったし、母さんもウルキオラの事は信用してたみたいだし……それに」

「……それに?」



「それに何より、ウルキオラはアリシアの事を知っていました」



その言葉を聞いて、アルフも「あっ」と声を上げる
思い出すのは、二人が初めてウルキオラと出会った時の事

あの時、確かにウルキオラはアリシア・テスタロッサの名前を出し、そこからプレシアとウルキオラが出会う切っ掛けとなったその事を、二人は確かに記憶していた。

そして更に、そこからフェイトは言葉を続ける。


「……これは私の想像でしかないけど、ウルキオラは生前のアリシアの友達か何かだったんじゃないかって思ってるの
それなら母さんとウルキオラが協力し合っていたのも分かるし、何となくだけど筋は通る気がするの」

「……う~ん、確かに悪くはない仮定だけど」

「こう言っちゃあ何だけど、ソレは無いと思うよー。フェイトを時の庭園から連れ出す時にリニスとあたしでアイツと一悶着を起こした時
あいつは「自分とプレシアは互いにメリットがあるから協力しているだけ」ってハッキリ言ってたもん」


そのアルフの言葉を聞いて、二人はう~んと考え込む。


「だが、悪くない仮説だ」


そこに、更にクロノが言葉を繋げる


「……クロノ?」

「横から失礼。だけど今の話、可能性の一つとしては有り得る話だとは思う
少なくとも、あのプレシア・テスタロッサが彼を協力関係に選ぶ理由としては納得が行くものだと思う」


そう言いながら、クロノは時の庭園での戦いを思い出す
あの底知れない狂気と執念をその目に宿し、最愛の娘の蘇生を夢見た黒い魔女を思い出す。

あの黒い魔女は自身の娘すらも道具の一つとして利用し、自身の目的の為に次元断層まで引き起こそうとした。

これほど大掛かりな計画を実行するに当たって、彼女はほぼ一人でその計画を練り、その実行役も極力厳選した。


そんな人物が、果たして昨日今日知り合ったばかりの赤の他人を自分の協力者に選ぶだろうか?


だが、そんな彼女はウルキオラと協力関係にあった
つまり、彼女にはウルキオラを信用に足る存在だと思える根拠があった。


「プレシア・テスタロッサがウルキオラを信用に足る存在だと判断した理由としては、少なくとも
単純な利害関係……メリットデメリットを超えた「何か」が二人の間にあったモノと仮定した方が個人的には納得が行く」

「……いや、でもちょいと待ってよ。フェイトはアイツの事を知らなかったよね?
フェイトはアリシアの記憶を受け継いでいるんだから、少し矛盾しないかい?」


クロノの言葉にアルフが気付いた様に言うが、それに対してユーノが答える。


「そうとは限らないと思う。
アリシア・テスタロッサが死亡したのは二十六年も昔の事、その時より以前の知り合いなら現在のウルキオラと多少は見た目が変化していてもおかしくない。
それに彼は状況に応じて姿を変化させる種族の様だし、フェイトが気付かなかったのも不自然じゃないと思う」

「……う~ん、可能性を考えていたらキリがないねー」


ユーノの言葉を聞いて、エイミィがどこか疲れた様に呟く
一つの可能性から新たな可能性が生まれ、それを繰り返して当てのない解を探す。

そんな現状に対して、エイミィは少し気分をリフレッシュさせようと一つ提案する。


「まあこっちは一区切り付いたし、少し休憩しない? どうにも空気が悪いしさ」


それを聞き、クロノは軽く息をはいて小さく頷く


「……そうだな、少し休憩しよう。フェイトとアルフはこのフロアから極力出ないように頼む
一応君達は裁判を待つ身だからね、どうしてもフロアから出たい時はエイミィか僕に声を掛けてくれ」

「あいよ」

「分かりました」


少しの間を置いて、部屋の空気は僅かに軽くなる

アルフは備え付けのソファーにゴロリと寝転がり、エイミィは全員分の紅茶を煎れ、
ユーノは自分とクロノの演算プログラムを見比べて考え込むような仕草を繰り返している


そして



(……そういえば、初めて会った時……ウルキオラは他に何て言ってたっけ?……)



手元の資料に視線を置きながら、フェイトは過去の記憶を掘り起こす
思い出すのはジュエルシードを求めて野へ山へ海へと飛び回っていた探索の日々、そこで初めて出会った白い存在



(……そうだ、思い出した……あの時のウルキオラが言っていた事は……)



――アリシアは、待っている……そう伝えておけ――



その言葉を思い出して

フェイトは僅かな疑念を抱いた。



(……そう言えば、あの時は大して気にならなかったけど……この言い回しは、少し不自然だよ、ね?……)



フェイトは、その言葉を頭の中で反芻する。

アリシアは、待っている
アリシアは、待って「いる」

待って「いる」……過去形ではなく、現在進行形の言葉


これではまるで

まるで……



(……これじゃあまるで、アリシアは今も何処かで生きている様な言い方だもん……)




















第三管理世界「ヴァイゼン」・ミヘナ街道中央部
そのとある商店にて


「いらっしゃ……おや?」

「久しぶりねホロ、オーナーは居るかしら?」

「もしや、プレシアか! おやおや、随分と久しぶりじゃなー!」


入店してきたその客の顔を見て、カウンターに座っていた白いフードを目深くかぶった栗色のロングヘアーの女性は声を上げる。


「相変わらずその口調は変わらないのね、客商売してるんだから少しは改めたら?」

「そのセリフは、良人から耳にタコが出来る程言われでありんすよ。
まあわっちとしては、長年使ってきた口調を改める気はこれっぽっちもないでありんす」


そう言って、ホロと呼ばれた女は足元の籠から林檎を一つ手に持って一口齧ってカラカラと笑う。
その光景を見て、プレシアは一息吐いて


「……貴方、それ売り物じゃないの?」

「正確に言えば、売り物『だった』ものじゃな。
中身が傷み始めて売り物に出来ないから、わっちがこうして『処分』しているのでありんす」

「そういうのは店側としたら駄目なんじゃないの? それに貴方、お腹壊しても知らないわよ?」

「どちらも無問題じゃ、わっちの腹をそこいらの人間風情と同格に見られるのは困るでありんすよ」


そのままシャクシャクと林檎を齧り、咀嚼し、ゴクンと飲み込む
そのままペットボトルに入ったお茶をゴクゴクと飲み干して


「ぷはー! やっぱり林檎は丸齧りに限るでありんす!」

「貴方、私以外の客の前では自重した方が良いわよ」

「わっちとて、そのくらいの分別は弁えているでありんすよ。
それで、今日は如何様な用件か?」


疲れた様に溜息を吐くプレシアを見て、ホロが言葉を続ける


「さっきも言ったでしょ、オーナーに会いに来たのよ。
ロレンス商会のコネを使って、幾つか取り寄せたい物があるのよ」

「……ふむ、事情を察するに市場には余り出回っていないものかや? それとも『ご禁制』の代物かや?」


僅かに視線を鋭くさせて、ホロが尋ねる。
その視線を受け止めて、プレシアは両手をヒラヒラと動かして


「そんな恐い顔をしなくても大丈夫よ。取り寄せて貰いたいのは前者の方よ
込み入った事情があってね、少し特殊な道具が必要になったのよ」

「……うむ、なら問題ないの。だが良人は昼から商会の定例報告会に行ってて戻るのはまだまだ掛かりんす。
わっちで良ければ伝言を承ろうぞ?」

「欲しい物は、こっちでリストに纏めてきたわ。出来れば早めに取り寄せて貰えると嬉しいわ」


そう言って、プレシアはポケットからメモを取り出してホロに渡す
ホロはそれを受け取って、手に付いたリンゴの果汁を舐めながらメモを読んで



「……お主、何を考えておる?」



その顔色は僅かに変わる
その表情に「?」を浮べて、僅かに疑問を含ませた響きでプレシアに尋ねて


「別に、そんなに難しい事じゃないわ。ただの準備よ、楽しい催しの下準備ってヤツかしら?」

「……ま、深入りはしないでありんす。
何時かの時みたいな自暴自棄になる様な真似さえしなければ、わっちはそれで良いでありんすよ」

「ご忠告、ありがたく受け取っておくわ……心配しないで、もうあんな醜態を晒したりはしないわ」


そのホロの言葉を聞いて、プレシアは愉快気にククっと笑う
そして手続きと諸経費分の料金の手渡しを済ませて店を出て、街道を歩く


「……く、クク……」


街道を歩きながら、思わず声が漏れ出る
そのドス黒い感情を堪えきれず、思わずその一端が滲み出てしまう。



――そう、コレはただの準備……楽しい催しの準備――

――あの娘の平穏と私の日常に唾を吐いた――



――害虫共を炙り出す、楽しい楽しい『狩り』の下準備よ――。




















同日・同時刻
とある管理外世界・とある研究所の一室

淡い電灯の光で照らされる部屋の中、その男の笑い声が小さく響いていた。


「……く、くく……成程成程、よもやここで邂逅とは……事実は小説よりも何とやらというヤツかな?」


目の前に展開されたモニターの映像を眺めながら、男は呟く
口元を快楽で緩めて、愉悦に表情を歪めて、心底状況を楽しむようにモニターを見る


「ふむ、前哨戦は彼の圧勝……いやいや、実に見事なKO、いや寧ろコレはコールドゲームと言った方が良いかな?」


モニターに展開される惨劇の映像を眺めながら、男は呟く。
大の大人でも絶叫し、卒倒する様な映像を、まるでコメディー映画を見る様に笑い声を上げて男は映像を食い入る様に見る。


「しかし、この状況に誰よりも驚愕をしたのは……他ならぬ『彼』自身だろうね」


その脳裏にとある人物の姿を思い描いて、男は「ククク」と口元を綻ばせる

そして男は深く椅子に背もたれする様に座り、クルリと椅子を回転させる
視界が回り、男の目の前にはチェス盤が現れ、その盤の上に幾つかの駒が現れる。


「前哨戦は『騎士』が負け、『死神』が勝った」


その駒を一つ手に取り、一つの駒をコツンと倒す。


「だが、まだこれは始まりに過ぎない。物語はまだ序盤、起承転結の起でしかない
それに『死神』の力は強大だが、『騎士』にはまだ『仮面』と言う駒が居る」


境界線を挟んで、『騎士』と『仮面』は『死神』の駒に向かい合う。

そして


「そして、『死神』には『魔女』という駒がある」


『死神』の横に、その駒は置かれる
黒く塗りつぶされた『魔女』が、『死神』の横に並べられる様に配置される。


「ああ、全く……どうして世界はこんなにも興味深いモノで溢れているのだろうね?
こんなにも興味深いモノが一同に会し、争い、その存亡を賭けて血を流す」


男はクククと笑い声を洩らしながら、互いの駒を手早く動かし、盤上で目まぐるしく動かす
そして改めて盤面を見つめる。


「さーて、勝つのは誰かな? 悠久の時を生きた『騎士』かな? 『騎士』が忠誠を誓う『主君』かな? 復讐にその身を焦がす『仮面』かな? 絶対的力を持つ『死神』かな?」


タンタンタンと駒を盤上に配置しながら、男はその内の一つに手を伸ばす
その手に黒い駒を持ち、『魔女』の駒を持ちその口元を歪めて



「――それとも、死を乗り越えた『魔女』かな?――」



駒の配置を終えて、男は笑う。

愉快で仕方がない
楽しくて仕方がない
続きが気になって仕方がない

そんな気持ちを込めて、声を高らかに上げて男は笑う
その声が枯れるまで、その息が切れるまで、男は心の底から笑い続けた。
















そこは、小さな部屋の中だった。
その小さな部屋の中はあらゆる電子機器で埋め尽くされ、冷却ファンの回転音やコンピューターの駆動音が小さく細く鳴り響き
幾つかの装置のランプが点々と星座の様に暗がりの中で点灯している部屋の中だった

そして、その部屋の中央に『ソレ』は存在していた。



――苦しんでいる――



それは、一つの光球
銀色の光を放ち、ゴムボール程度の大きさの光球。



――あのコ達が……騎士たちが……苦しんでいる――



光球は点滅し、その光を信号の様に明暗させるが、その瞬間光球の周囲で火花が散る。
それは、赤いワイヤー

銀色の光球の周囲を、まるで蜘蛛の巣の様に囲み張り巡らせた赤光のワイヤー

その光球を捕らえ、束縛し、封印するための牢獄。



――いか、なくては――



しかし、光球の光は尚一層激しくなる
光の点滅はより一層激しくなる。



――たすけに、いかなくては――



鳴り散る火花はより苛烈に咲き乱れ、赤いワイヤーを焼き焦がす程に炸裂する。



――助けに、行かなくては――

―― 一刻も早く……主の下に、行かなくては――



その事に、まだ誰も気付かない。

その物語に少しずつ罅が入り、亀裂が入っている事に
その歯車が少しずつ狂っていき、徐々に歪んで行っている事に


誰も、まだ気付いていない


魔女も、死神も

仮面も、騎士も

無限の欲望を持つ、探求者さえも気付いていない


その罅に、亀裂に、狂いに、歪みに



誰一人、まだ気付いていない――。













続く












あとがき
どうも作者です、またしても更新が遅れてどうもすいません!
文量もいつもと比べると若干少なめです!申し訳ないです!
話の大筋は出来ているのですが、それを文章にする上でどうしても行き詰ってしまって更新が遅れがちになってしまいました。
とりあえず今月中には最低でもあと一つは更新できる様に頑張りたいと思います。

さて、話はとりあえず本編について移ります
とりあえずA’s編においてのプロローグ的な話が終わりました。次回からはもう少し話が動いていくかと思います。


追伸 プレシアさんの人脈が段々カオスになってきた件について





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