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No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
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[17010] 第弐拾玖番(A’s編突入)
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:4ac72a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/26 13:09


彼女達が願った事は、どこにでもある……ありふれた願いだった。

大切な人達と一緒にいたい
大好きな人達と、平穏に暮らしたい

そんなどこにでもある、誰もが持つ願いだった。


しかし、それは儚い願いだった

その平穏な時間に、罅が入った

その幸せの日々に、亀裂が入った


彼女達の願いは、夢の様に儚く崩れた


そしてそれは、新たな物語の幕開けを告げる合図だった。













第弐拾玖番「日常の終わり」











「おかーさーん! 早くはやくー!」

「こーら、ちゃんと前を見なきゃ危ないわよ」


自分の前を先行して飛び跳ねる様に走るアリシアを見て、プレシアは小さく微笑みながら言う。

プレシアとアリシアは、嘗て二人で来た事もある花畑に来ていた。


「すっごーい! 本当にお花だらけだ!」


その両目をキラキラと輝かせながら、興奮が抑えられない様にしてはしゃいでいるアリシアを見て、プレシアの顔にも自然と笑みが浮かんでいた。

今日のこの遠出に、ウルキオラは付いて来ていない
家族水入らずの二人だけだ。

一応ウルキオラも誘ったのだが



「なぜ俺が付き合わなければならん」



と、即座に誘いを一蹴
アリシアはそれでも食い下がったが、プレシアはそれで妥協した。

何故なら、ウルキオラは次元犯罪者だ
それも次元断層を引き起こそうとしたプレシアの共犯者、恐らく多くの次元世界での管理局の支部にはウルキオラの詳細なデータが出回っているだろう

故に、こうして外を出歩く時も最新の注意を払わなくてはならない
今日二人が出かけた先も、管理局の目が比較的少ない管理外世界

そしてプレシアの義骸にも、ちょっとした変装を施している。
その容姿は殆ど変わっていないが、顔が嘗てのプレシアよりもかなり若返っている。

今のプレシアは見た目三十代前半、下手をすればまだ二十代でも通じる程の若い顔をしている。
そしてその服装も、白のYシャツ、グレイのサマーセーターに紺のロングスカートという嘗てのプレシアのイメージとは大凡違う、かなり家庭的な服装になっている。


『あの』プレシア・テスタロッサを知る人間が今のプレシアを見ても、恐らく殆どの人間は同一人物だと気付かないだろう。


一応ウルキオラに対しての幾つかの予防策は用意してあるが、リスクは少ないに越したことは無いだろう
それに、偶には家族水入らずの時間をアリシアと共に過ごしたかった。

だからプレシアは、無理にウルキオラを連れ出さなかったのだ。



(……でも、後でウルキオラ用の変装用デバイスを作る必要があるかもしれないわね……)



自分の目の前で、嬉しさと楽しさを隠しきれずピョンピョンと跳ねる愛娘を見てプレシアは思う。

ほんの十数分前、ウルキオラは来ないと知ったアリシアの落胆の表情の記憶は新しい
普段のウルキオラに対するアリシアの懐き具合から考えるに、それはある意味当然の反応だった。

それに、リスクは幾らでも軽くするに越した事はないだろう
やはり、今度遠出する時は三人一緒の方が良いだろう。



(……ま、あの娘がこれで笑ってくれるんなら……安いものね……)



ふう、と軽く息を吐き出してプレシアは考える。

初めてアリシアの義骸の実験に成功してから、早数ヶ月の時間が流れた。



この数ヶ月の間に、プレシアは独自の理論とジュエルシードの魔力の使用方法を研究し、着々と義骸を理想の完成へと近づけていた。

当初、感覚の接続と同調が不十分だった味覚と触覚、及び聴覚の接続と同調の大凡の改善に成功し
実体化における体への負担も、神経と魔力ラインをより効率よく接続して稼動させる事によってこちらも大体の改善は出来た


しかし、全てが順調という訳ではない。



(……やっぱり、そろそろ厳しいわね……)



今のアリシアは、未だに死者というカテゴリから外れる事の出来ない存在だ
如何に物理的な干渉を出来ようとも、その在り方はとても生物とは呼べないモノだ。

食事を必要としない
年を取らない
血も臓腑も意味がない
新たな生命を宿す事もできない


生物として根本的な軸とも言えるコレらの事に対する解決方法を、未だにプレシアは発案出来ずにいた。


結論から言えば
今のプレシアが持つ技術なら、「見せ掛け」だけならコレらの事の大半は解決できる。

見せ掛けだけの、張りぼての様な存在で良いのなら……プレシアはコレらの事を大凡解決する事ができる。

だが、それでは意味が無い。
中身のない張りぼての様な、空虚な見せ掛けだけの贋物を義骸に取り込んだ所で……それらは何れ、絶対に、確実に、綻びと歪みを生む。


嘗て、自分が手がけた次元航行駆動炉「ヒュードラ」の様に

それらが生む綻びと歪みは、確実に何らかの不利益を生む。



(……でも、正直手持ちのカードだけじゃ、限界が見えて来ている……)



だが、未だに解決策が思い付かないのも事実
有機質と魔力粒子をベースにした仮初の肉体、魔力ラインを主軸にした神経と感覚の接続

コレらは既存の技術からプレシアが応用し、複合させ新しく確立させた理論
元となった「一」を使って、プレシアが新たに作り出した「一」に過ぎない。


だが、今の壁はそれよりもワンランク難易度が高い。


何故なら……元となる「一」がない。
更に研究と調べを進めればあるかもしれないが……現段階ではプレシアの手札にその「一」は存在しない。


(……ま、焦っても仕方が無い、か……)


粗方の考察を終えて、プレシアは思う。

既に、次の手掛かりの一端は掴んでいる
それにこういう時は焦って事を急いてもロクな結果にならない事は、過去の経験で嫌と言う程に学んでいる。

自分とアリシアも、今の所は霊体としては安定している
余程のイレギュラーが起きないかぎり、暫くは存在していられるだろう。



「おかーさーん、こっちこっち! こっちにすごくキレイなお花が咲いてるよー!」

「あら本当、どれどれ?」



そこまでの事を考えて、プレシアは一旦思考を中断する。

今は、この時を楽しもう
今はこの家族水入らずの時間を、心から楽しもう

そしてプレシアは、その足を進めた。











「…………成程、中々に興味深い解釈だな」

その書庫の中、ウルキオラは手に持った書物を読みながら唸るように呟いた。
ウルキオラが今手にしている本は、魔力構成とその構築式の基礎構造を記載した本だ。

あの時の庭園の闘いで、学習したのは何も管理局やプレシアだけではない
ウルキオラもまた、魔法に対する大凡の評価を改めていた。

あの闘いでの、自分の失態と過失
それを認め、改善を行う上では……やはり、魔法に対する考察と評価は必要不可欠な事だった。


「……やはり、要となるのはデバイスか……」


プレシアやフェイトが持つ杖・デバイス
一口にデバイスと言ってもインテリジェントデバイスやストレージデバイス等、幾つかの種類がある様だが、これは今は置いておこう。

死神が扱う鬼道と良く似た特性を持つ魔法
しかし死神の鬼道とは違う特性を魔法は持つ

基本、死神は特殊な術を組まない限り道具を術に用いる事は無いが……この魔法は違う。

一つの例を上げるとするならば、インテリジェント・デバイス
ミッドチルダ式魔導師の一部が扱う意志を持ったデバイス。

恐らく、フェイト・テスタロッサとあの白い魔導師が持つデバイスがこのタイプだろう

ストレージデバイスは魔法を詰め込んでおく記憶媒体でしかなかったのに対し、このインテリジェントデバイスは発動の手助けとなる補助装置、その上状況判断を行える人工知能も有している。

それ自体が独立した知能を持つため、その場で状況判断をして魔法を自動起動させたり、主の性質や力の水準によってオートで出力を調整したりも出来る。
そして人工知能を有しているため、インテリジェントデバイスは会話・質疑応答もこなせる。

意思の疎通出来れば、魔法発動における威力、到達距離の調整、同時発動数の増加、詠唱破棄での発動、以上における高い実用性と実践性を期待できる。

高い汎用性と応用力、そして潜在能力を秘めたデバイス
基本単体で術や力を扱う破面や死神との一番の違いがコレ、そう言っても過言ではないだろう。



「……だが、その分弱点が丸裸だ」



ウルキオラは呟く
魔導師はデバイスという強力な武器によってその潜在能力を惜しみなく引き出せるのなら、それを封じてしまえばいい。

奪う
破壊する
肉体から外す

ウルキオラが思い付いただけでも、これだけの解決策がある。

例え相手がプレシアクラスの実力を有していたとしても、デバイスさえ無力化してしまえばその戦力を半減できるという訳だ

粗方の考察を終えて、ウルキオラはその本を閉じる
そして、新しい本に手を伸ばそうとして


(……静かだな……)


パラパラと手に持った本のページを捲りながら、ウルキオラは思った。



(……存外、静か過ぎるのも落ち着かないものだな……)



その静寂な書庫で一人読書に費やす中、ウルキオラは言葉では言い表せない「何か」に不思議な物足りなさを感じていた。





















「おはよー、アリサちゃんすずかちゃん」


朝日が照らす町の中、少女は友人に向かってそう言い放った。
そしてその少女の言葉に反応して、その友人の二人も顔に笑みを浮べて


「おはよう、なのはちゃん」

「おっはよー、なのは」


青みがかかったウエーブのかかった髪の少女と、金髪のロングヘアーの少女がそう返す。
そして朝の挨拶を交えながら、その少女・高町なのははその二人に駆け寄った。


「ねえねえ、あのフェイトって娘からビデオメールは来たの?」

「うん、昨日新しいのが来たよ。それでね、フェイトちゃんも二人に会いたいって言ってから、二人も一緒にビデオメールどうかなって」

「え、本当? やるやる!」

「うんうん、私もやってみたい」


三人はそう言って、朝の談笑を交わしながらスクールバスの来訪を待っていた

あの時の庭園での決戦から早数ヶ月、季節は巡って新しい学期も始まった九月の終わり
高町なのはは、日常に戻ってきていた

あの時の庭園での闘いの後、なのはとユーノはリンディから感謝状の表彰を受け、再び日常に帰って来た。

あの激動とも言える日々も終わって、高町なのはは再び日常の中で平穏を過ごしていた
しかし、完全になのはは日常に帰って来た訳では無かった。


それは、なのはが密かに身に付ける赤い宝玉……インテリジェントデバイス・レイジングハート
とある事件を切っ掛けに相棒となったその宝玉と、少し逸脱した日常を過ごしていた。


例えば早朝、朝の四時半
なのはは寝ぼけ眼を擦りながら起床、その後野外にて朝食までの二時間を魔法の練習で過ごす。

朝の六時半、家に帰って家族と共に朝食
だが、この時もなのはは練習を中断している訳では無い

一見のんびりとした風景に見えるこの朝食中も、なのはの体には身に付けたレイジングハートによる魔力の負荷が掛かっている。
それにより日常の一挙手一投足にも負担がかかる状態になり、一種の養成ギブスの様な状態になっているのである。

並みの魔導師では歩行する事ですら困難なこの状態でも、なのはは日常生活を送っている。


そして授業中、この時もなのはの訓練は続行している。


(……レイジングハート、今日もお願い……)

『Ok,my master』


なのはは授業に聞き入りながらも、魔法の訓練を続けている
二つ以上事柄を同時を思考・進行を行うマルチタスクは戦闘魔導師にとっては必須スキル

高速移動しながら防御・攻撃・回避をしながら次の魔法の発動準備、これらは日頃の訓練量が顕著に現れる。

レイジングハートが送信する仮想戦闘データを元にするイメージファイトを行っている
飛翔、捜索、攻撃、防御を主軸にする空戦魔導師は高度な戦略と高速思考を必要とする

故にレイジングハートから送られる戦闘イメージは、なのはに実戦に限り無く近い経験をなのはに与え、なのははそれを日々の戦闘経験値して吸収していく。


「ふー、やっとお昼の時間だねー」

「そんじゃ二人共、屋上に行くわよ」

「あ、待ってよ二人共―」


友人や家族との一時では流石に自重はするが、それ以外の時間はなのははほぼ訓練に費やしていると言っても過言ではない。


塾や家の手伝いが無い日は、その訓練は夕方まで続く
そして宿題・夕食を済ませた後は、更に夜間の訓練へと時間を費やす

夜間は主に高速機動の訓練、高火力・重装甲のなのはは機動系が重いため、日々効果的な機動戦略を研究している。



「よーし、今日の訓練終了」



そしてぐったりするまで訓練した後、訓練を終えて
風呂に入って汗を流した後、なのはは就寝する。


「それじゃ、おやすみレイジングハート」

『good evening my master』


そして、なのはの一日は終わる





……




…………




……………………




………そこは、どこかで見た光景だった………




破壊された世界

赤と黒が入り混じった空間

鼻腔を刺激する腐臭

眼前に広がる地獄

繰り返される永遠の惨劇



そんな地獄絵図の中に、少女は居た。



……ココは、どこ?……



少女は疑問に思う
そして次の瞬間に声を出す。


……ユーノくん! クロノくん! フェイトちゃん!アルフさん!……


呼ぶ、その名を呼ぶ


……エイミィさん! リンディさん! リニスさん! リーゼさん!……


呼ぶ、友の名前を、知人の名前を


そして、少女の望みは叶う
少女が探していた人物は見つかる。



……え?……



彼女は、見つけた。


……ユ、ノ、くん? クロ…ノ、くん?……


物言わぬ肉塊となった、赤い水の中に沈む二人を


……アル、フ、さん? リ、ニ…スさん?……


八つ裂きにされ、肉片の集合体となったその二人を


……リンディ…さ……リ、ゼさ……エ……ミ……さ……


原型すら留めない、赤い「何か」となった仲間達を



……あ、あ……あ……あぁあああ!!……



恐怖する

絶望する

その光景に

その世界に


少女は、心の底から絶望する。



――何だ、また来たのか――



その声が響き、彼女の恐怖は一気に跳ね上がる。


その眼に映るのは、黒い双翼、緑の瞳、白い肌
この地獄を作り出した張本人である、白い死神。



――学習能力のない奴等だ――



そして、死神は手に持っていたソレを少女へ向けて投げ捨てる。

それは、一人の少女
長い金髪が特徴の、黒いバリアジャケットを纏った……赤い血に染まった、一人の少女。


……フェ、い……と、ちゃ……


少女は、恐怖する
少女は、絶望する


――前に言った筈だ、死ぬが嫌なら初めから戦場に出てくるなとな――


そして、死神は翠剣をその手に形成する。



――今度は、逃がさん――



死神は、少女の眼前に現れる
そして、その剣を少女に向かって振り下ろし



そこで、彼女の眼は覚めた。



「……っ!!!」



意識が覚醒すると共に、その布団の中で彼女は震えた

痙攣する様にガタガタと体を震わせて、極寒に耐える様にガチガチと歯を鳴らし
孤独に耐える様に目には涙を浮かべ、その身を守るように体を抱いていた。


呼吸が荒くなる
汗がダラダラと流れる

彼女は思う
あの日、自分が死ななかったのは……運が良かったからだと

あの日、自分は偶々死ななかっただけなのだと

あの日、自分は死んでいた
あの日、自分は確実に殺されていた

何か一つでも歯車が欠けていたら、自分は確実に死んでいた。


……こわい……


彼女は、高町なのはは、確かに日常に帰って来た
だがそれは、完全な形で帰って来た訳ではない

その心には、確かな傷跡を残していた。



――死ぬのが嫌なら、最初から戦場に出てくるな――


……コワい……


一週間に一度あるかないかの割合だが、なのははこの悪夢を見る


……恐い……


それは一つの可能性、一つでも歯車が違っていたら自分達が辿っていた一つの結末


……ウルキオラさんが、恐い……


その悪夢に苛まれるのは、それを見た一晩だけ
後30分も経てば、彼女は再び眠りに落ちているだろう
翌朝には彼女は「嫌な夢」を見た程度にしか、その悪夢の内容を覚えていないだろう。



……恐い……



しかし、この時の彼女は思った
この悪夢を見たこの瞬間、なのはは思った。


……闘うのが、恐い……






















その薄暗い部屋の中、その男は宙に展開されるそのモニターの映像に視線を注いでいた。
そのモニターに映るのは、白い人影とその人影と立ち向かうようにして対面する八つの人影

そして、向き合った二つの勢力は闘いを始める。

激突する力と力
閃光の様な軌道を描く白銀
電撃の様に奔る白い影

そして、全てを飲み込む翠の砲撃

モニター越しでも圧倒的脅威と破壊的暴力が伝わって来る程の闘いが、そのモニターに映し出されている。


「全く、偶然とは恐いモノだ。手慰み程度の気持ちでバラ撒いておいたサーチャーが、こんな興味深いモノを映してくるなんてね」


クククと、その溢れんばかりの愉快さと楽しさを隠し切れない様に口元を歪めて、男は語る。

その男が、『ソレ』を知ったのは単なる偶然だった
研究の合間に思い付いた新型サーチャー
ステルス機能を持ち、対迎撃魔法用プロテクトとその他新機能を兼ね揃えた新型サーチャー
ソレを試運転するために、男は適当な次元世界に幾つかバラ撒いた。

そしてサーチャーをバラ撒いた後、男は再び研究に没頭してそのサーチャーの事をすっかり記憶の片隅に追いやっていた。

それから一月ほど経った頃だろうか?
男は自分がバラ撒いたサーチャーの事を唐突に思い出し、今までの自分の手元に送られてきた映像を適当に流し見ていた。


そんな最中だった、その映像を見つけたのは。


それは、白い魔導師
圧倒的実力と暴虐的魔力を有した、白い魔導師

デバイスもなしに単身でSランク級の魔導師を多数同時に相手にしながらも、容易く一蹴した白い魔導師


その映像を見て、男はその存在に興味を抱いた。

その翠の閃光に
その白銀の軌道に

そして、その白い存在に

男は、溢れんばかりの興味を抱いた。


そして、行動に移した。
自分の胸の中に燻り猛る飢えと渇きを満たすため、己のその無限の欲望を満たすため、その男は行動に移した。


「クク、こう言うのを『賽は投げられた』……と、言うのかな?」


男はこの数ヶ月の自分の行動を思い返し、そして再びその口元を愉悦に歪める。

機は熟しつつある
使える素材は見つけた
利用できる駒は確保できた

必要なモノは揃えた

既に種は撒き終わっている
撒いた種には水を与え、十分な養分を与え、既にその芽は顔を出している。



「さーて……彼女達は上手くやってくれるかな?」



男は呟く。

果たして自分が投げた賽がどの様な目を出すのか
自分が撒いた種がどの様な花を咲かして、実をつけるのか

薄暗いその研究室の中
男はその期待と愉悦を心から噛み締めていた。





















「……どういう、事?」

草原から突き出る高台の様な丘に、その女は立っていた。

肩にかかる程の金髪のショートカットが特徴の、白と緑の布地を基調にした帽子と服に身を包んだ若い女だ
その女は、目の前光景を見ながら、唖然としながら呟く。

そこは、とある次元世界
彼女はとある目的を果たすため、その目的の糧となる獲物を求めてこの次元世界にやってきた。

彼女の目的を果たす上で、この次元世界は都合が良かったからだ。

しかし、彼女の目の前の映る光景は女の予想と期待を裏切るもの
正に破壊、殲滅、そんな表現が似合う光景だった。

抉られ破壊された大地
薙ぎ倒され蹂躙された樹林
確かな闘争の痕跡を色濃く残すその光景


「……一体、何が起きたの?」


冷や汗を拭い辺りを見回しながら、注意深くその足を進めながらその女は呟く
そして女はサーチ魔法を展開させて、周囲の状況を調べる。

少し離れた所に幾つかの魔力反応を見つけて、女は行動を開始する
予期せぬ襲撃に備えて飛行はせず、十二分に警戒して守りを固めて、行動を開始する

一旦撤退する事も考えたが、女はこの光景と捕らえた魔力反応がどうしても気に掛かり、行動を始めた。


そして、その先々でソレ等を見つける。



「……な!」



思わず驚愕の声を上げ、目を見開く。
そこにあるのは、巨大な体躯

その体を破壊され、その体の至る所から出血し、死に体同然と成り果てているモノ。


「……まさか!」


そして女は確認する
その周囲を自分の足で、目で、調べて回って、そして見つける。



(……角龍ディアブロス、鋼龍クシャルダオラ、黒龍ミラボレアス、轟龍ティガレックス……
……どれも一流魔導師が複数人で対処する危険指定魔獣じゃない!……)



自分がざっと見つけた、まだ辛うじて生きているの「だけ」でもこれだ
自分のサーチ魔法に反応しなかった、既に屍となったモノの事も考えると……数はその数倍と判断すべきだろう。


(……複数の龍種がここまで一箇所に集まるのは、普通では考え難い……)


龍種とはその対処もそうだが、それ以上にその発見が困難な種族だ
限られた次元世界にて、大概は秘境とも呼ばれる人里離れた場所で、基本単体で極少数が他の生物を狩って生息している種族

この様に、多数の龍種が一箇所に集まるなんて事は……先ず、有り得ない

現に自分達もここまで龍種が一箇所に集まる場面に遭遇した事なんか、今まで一度も無い。



(……つまり、此処で何かがあった……そう判断するべきね……)



その現状を見て、彼女は冷静に思考する
つまり、此処で何かが起きた。


多数の強大な魔獣を引き寄せる程の「何か」が、此処で起こった
そして強大な力を持つ龍種をここまで破壊し、蹂躙した「何か」が、此処で起こった。


(……とりあえず、さっき見つけた四体から蒐集して……一旦撤退すべきね……)


予期せぬ形で大きな収穫を得られたのは喜ばしいことだが、あまり手放しでは喜べない状況なようだ。

長居は無用、そう判断して女は手早く「ソレ」を行う
ソレを粗方終えて、撤退しようと準備を進めた所で



「……え?」



その存在に気づいた。


「……人?」


それは、地面に倒れ伏す血に塗れた人影
自分のサーチ魔法に辛うじて反応する程度に弱まり、傷ついた、一つの反応。

その存在を、改めて視界に納める
距離は10m程度にしか離れていない、故にその姿の全容が彼女の目に映る。

赤い血に染まった、白い服、青い髪の人影を確認して
彼女の中に、とある考えが過ぎる。


(……あの傷跡はティガレックスの……じゃあまさか!……)


その考えに、その答えに彼女は辿り着く。


そして次の瞬間
ギロリと、その人影は彼女に振り向いた。





















「うーん、そろそろ良い時間かしら?」

時刻を確認しながら、プレシアは呟く
未だ自分の娘は跳ねる様に花畑で駆け回っているが、もう結構な時間だ

そろそろ、一旦隠れ家に帰還した方が良いかもしれない。


「アリシア、そろそろ帰るわよ」

「えー、もう?」


跳ねる様に動かしていた体を一旦止めて、残念そうな表情で呟く
そんなアリシアを見て、プレシアはクスリと微笑んで


「だってあまり遅くなると、ウルキオラが寂しがっちゃうかもしれないわよ?」

「……あー、そっか。じゃあ帰る!」


その言葉を聞いて、アリシアは素直に頷いてプレシアの元に駆け寄る
そしてダイブする様にアリシアはプレシアの胸の中に飛び込んで、笑みを洩らす。


「あらあら、どうしたのアリシア?」

「えへへー、抱きついちゃった!」


照れくさそうに、それでも何処か楽しげに微笑むアリシアを見て


「全く、アリシアは甘えん坊ね」


そう言って、プレシアも柔らかく微笑んでアリシアの頭を優しく撫でる

プレシアは思う
やはり、偶にはこういう家族水いらずの時間も悪くない。


「ねえアリシア、今度出かける時はドコに行きたい?」


手を繋いで、二人は帰路を歩く。
空間転移を使っても良いが、やはり久しぶりの「親子二人の帰り道」と言うのもやっておきたかったのだ。


「うーんとね、実は、一つだけあるんだけど……」


何処か遠慮するように、躊躇いながらアリシアはプレシアを見て
プレシアはそんなアリシアを見て、少し可笑しそうに微笑んで


「こーら、子供が変な遠慮はしないの。大丈夫、大抵の場所ならお母さんが連れてって上げるわ」


安心させる様にプレシアは言って


「本当! それじゃあね、遊園地!」

「……遊園地、か……」


その言葉を聞いて、プレシアはとある出来事を思い出す
それは、生前のアリシアとの最後の会話

仕事が終わったら、一緒に遊園地に行こうと言う約束

あの日から、ずっと果たされていなかった約束


その事を、プレシアは思い出して


(……実体化だけなら、今のアリシアは問題ない……管理局の影響が強い次元世界は厳しいけど、管理局の目が薄い……
……例えば、第九十七管理外世界の遊園地とかなら何とかなるわね……)


頭の中で、大凡の考えを纏めて、プレシアは結論づける。


「うん大丈夫。少し準備に時間が掛かるけど連れてって上げる」

「本当! やったー!」


そのプレシアの言葉を聞いて、アリシアは嬉しさを抑え切れない様にピョンピョン跳ねて


「じゃあね、じゃあね! その時はウルキオラも一緒が良いな!」

「……ウルキオラと、一緒?」


そのアリシアの言葉を聞いて、プレシアの頭の中でとある映像が過ぎる。


自分達二人と、遊園地の中を歩くウルキオラ
可愛らしいマスコットキャラと自分達と、肩を並べて写真を撮られるウルキオラ
遊園地のアトラクションを嫌々ながらも渋々と言った感じで、アリシアと共に乗るウルキオラ


「ブプッ!!!」


その一連の光景を脳裏に描いて、プレシアは思わず噴出した。
その余りにも似合わない
その余りにも激しいギャップ
シュールの極みとも呼べるその光景を想像して、思わず噴出してしまったのだ。


「? どうしたの、おかあさん?」

「……ブ、う……っ!……な、なんでも……ない、わ……」


口元を押さえて、必死に笑いを堪える。



……面白い……

……コレは実に面白い……

……リスクもあるが……それ以上に、コレは一見の価値がある……



そんな風に口元に笑みを浮べて、プレシアは考える。


(……とりあえず、ウルキオラ用の義骸を作る必要があるわね。
……ウルキオラのデータは研究の時に十分な程に収集したから……顔を少し変えて、魔力フィルターを付ければ何とかなるわね……)


アリシアと共に手を繋ぎながら、プレシアは帰路を歩く。

親子二人は、並んで帰路を歩く。


二人は、日常の幸せを噛み締めていた
一度失ってしまった幸せだからこそ、再び手にする事が出来た幸せだからこそ、二人は噛み締めている。

彼女達は、平穏なる日常にいた

彼女達は、幸せな時を過ごしていた



……こんな時間が、ずっと続けば良い……



彼女達が願った事は、特別な事ではない

どこにでも、ありふれた願いだった



しかし、









「……っ!!!」









頭の中で、危険信号が鳴る。

プレシアはソレを察知する
プレシアはその反応を捕らえる

それは、魔力の反応
この周囲一体を包み込む様に展開された、結界魔法。



「……おかあさん?」

「アリシア、動かないで……おかあさんから離れないで」



プレシアはポケットから紫の宝玉を取り出す

それとほぼ同時だった
その声が響いたのは。






「そこの二人、止まれ」






日常に、罅が入る音がした

平穏に、亀裂が入る音がした



「…………」


プレシアは、声の発信源に視線を移す
そこに居るのは、宙に佇む一つの影

赤い帽子、赤い服、そして赤い髪の一人の少女
その赤い少女、その手に無骨なハンマーの様な物を携えて、二人を見下ろしていた。


黒い魔女と赤い少女は、互いに向き合う

それは、一つの終わりを告げる合図だった


それは日常の終わりを告げる、一つの合図だった。



















続く



















後書き
 次回より、リリカルホロウ新シリーズ「モンスターハンターG」が始まり……ゲフンゲフン、スイマセン、変な電波を受信しました。

今回より、リリカルホロウもA’s編に突入、気が付いている方も多いと思いますが、本編の時系列は九月の終わり、原作A’sとはかなり異なっております。
そこら辺も次回以降で説明しますが、今回は割愛させてもらいます。
ちなみにプレシアさんがウルキオラを無理に外に連れ出さなかったのは、可能な限りリスクは少なくしようと思った思考によるものです。

断じて嫌な予感を感じたとかそういう事ではありませんからね!(必死)


そして、原作主人公のなのは
なのはに関しても、少々原作とは違う仕様になっております。
なのはさんにどうやら、少しトラウマが出来てしまったようです。

ぶっちゃけ何の訓練も受けていない九歳の子供があんな体験したら、トラウマの一つや二つくらい出来ると思ったので……。
ですがなのはさんはあの夢の内容は殆ど覚えていません、あくまで「恐い夢」を見た程度にしか覚えてない感じです。(何故か知らないけど、夢の内容って殆ど思い出せない事が多いですよね)


そして、とある次元世界に関してですが……コレに関しては後書き冒頭で書いたネタがやりたかっただけで、他意は無いです。
ただ自分もあのゲームには凄いハマっていたんで、どうしてもネタで使いたかったんです。


そして最後の展開に関してですが、これ思いっ切り立ってますよねー
思いっ切りフラグが立ってますよねー……

そんなこんなで、次回に続きます。








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