<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.17010の一覧
[0] リリカルホロウA’s(リリカルなのは×BLEACH)[福岡](2011/08/03 21:47)
[1] 第壱番[福岡](2010/04/07 19:48)
[2] 第弐番[福岡](2010/03/07 06:28)
[3] 第参番(微グロ注意?)[福岡](2010/03/08 22:13)
[4] 第四番[福岡](2010/03/09 22:07)
[5] 第伍番[福岡](2010/03/12 21:23)
[6] 第陸番[福岡](2010/03/15 01:38)
[7] 第漆番(補足説明追加)[福岡](2010/03/17 03:10)
[8] 第捌番(独自解釈あり)[福岡](2010/10/14 17:12)
[9] 第玖番[福岡](2010/03/28 01:48)
[10] 第壱拾番[福岡](2010/03/28 03:18)
[11] 第壱拾壱番[福岡](2010/03/31 01:06)
[12] 第壱拾弐番[福岡](2010/04/02 16:50)
[13] 第壱拾参番[福岡](2010/04/05 16:16)
[14] 第壱拾四番[福岡](2010/04/07 19:47)
[15] 第壱拾伍番[福岡](2010/04/10 18:38)
[16] 第壱拾陸番[福岡](2010/04/13 19:32)
[17] 第壱拾漆番[福岡](2010/04/18 11:07)
[18] 第壱拾捌番[福岡](2010/04/20 18:45)
[19] 第壱拾玖番[福岡](2010/04/25 22:34)
[20] 第弐拾番[福岡](2010/05/23 22:48)
[21] 第弐拾壱番[福岡](2010/04/29 18:46)
[22] 第弐拾弐番[福岡](2010/05/02 08:49)
[23] 第弐拾参番[福岡](2010/05/09 21:30)
[24] 第弐拾四番(加筆修正)[福岡](2010/05/12 14:44)
[25] 第弐拾伍番[福岡](2010/05/20 22:46)
[26] 終番・壱「一つの結末」[福岡](2010/05/19 05:20)
[27] 第弐拾陸番[福岡](2010/05/26 22:27)
[28] 第弐拾漆番[福岡](2010/06/09 16:13)
[29] 第弐拾捌番<無印完結>[福岡](2010/06/09 23:49)
[30] 幕間[福岡](2010/08/25 18:28)
[31] 序章[福岡](2010/08/25 18:30)
[32] 第弐拾玖番(A’s編突入)[福岡](2010/08/26 13:09)
[33] 第参拾番[福岡](2010/10/05 19:42)
[34] 第参拾壱番[福岡](2010/10/21 00:13)
[35] 第参拾弐番[福岡](2010/11/09 23:28)
[36] 第参拾参番[福岡](2010/12/04 06:17)
[37] 第参拾四番[福岡](2010/12/19 20:30)
[38] 第参拾伍番[福岡](2011/01/09 04:31)
[39] 第参拾陸番[福岡](2011/01/14 05:58)
[40] 第参拾漆番[福岡](2011/01/19 20:12)
[41] 第参拾捌番[福岡](2011/01/29 19:24)
[42] 第参拾玖番[福岡](2011/02/07 02:33)
[43] 第四拾番[福岡](2011/02/16 19:23)
[44] 第四拾壱番[福岡](2011/02/24 22:55)
[45] 第四拾弐番[福岡](2011/03/09 22:14)
[46] 第四拾参番[福岡](2011/04/20 01:03)
[47] 第四拾四番[福岡](2011/06/18 12:57)
[48] 第四拾伍番[福岡](2011/07/06 00:09)
[49] 第四拾陸番[福岡](2011/08/03 21:50)
[50] 外伝[福岡](2010/04/01 17:37)
[51] ???(禁書クロスネタ)[福岡](2011/07/10 23:24)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[17010] 終番・壱「一つの結末」
Name: 福岡◆c7e4a3a9 ID:4ac72a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/19 05:20

「もう、終わりか?」



覇気を失い、自分の目の前で膝をつく五人に向かって、ウルキオラは言い放つ。


未だ、その頭の中には不快感がある。

未だ、その腹の中には不愉快な何かが蠢いている。


黒い唸りは止まらない

黒い感情は止まらない

黒いノイズは止まらない

未だに、黒い何かは止まらない。



「それなら、そろそろ死ぬか?」



ウルキオラが呟いて




その頭上から、魔力弾が降り注がれた。




「……ほう?」



漆黒の両翼で、ウルキオラはその魔力弾の全てを弾く

そして次の瞬間、その体に鎖が纏わりつく。



「逃げろクロスケエエエエエエェェェェェェェェ!!!!」



額から血を流しながら、片手を破壊されながらもロッテが叫ぶ。

そして、もう一つの影がそこに立つ。


「リニスさん!!?」

「私達が足止めをします!!! だから、その間に皆さんは直ぐに撤退して下さい!!!」


その正体を見て、なのはが叫ぶ。

血にまみれたリニスが叫んで、そのまま刀を構えてウルキオラへと駆ける。
それと同時に、ロッテも飛び出す。




「やめろおおおおおおぉぉぉ!!! 二人とも止めるんだああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ダメえぇ!!! 二人共やめてえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」




クロノが、叫ぶ。
フェイトが涙交じりの声で叫ぶ。

だが



「無駄だ」



翠閃が煌く

翠光が輝く


鮮血が飛び散る。


「……あ、が……!!」


ロッテの両腕は消し飛び、翠剣がその体を両断する


「……は、ぅぁ……」


リニスの体は十字に刻まれて、翠の閃光がその体に大きな風穴を空けた。


「リニス!!!」

「ロッテ!!!」


一瞬の惨状
赤い惨劇

その惨状を見て、フェイトとクロノが叫び、なのは達も思わず悲鳴に近い声を上げる。

フェイトは物言わぬリニスに歩み寄って、慟哭の声を上げる。
アリアもまた、己の片割れの惨状を見て失意の声を上げる。


「そう言えば」


ウルキオラは気付いた様に声を上げる。



「先程から一人、妙な霊圧を発している人間がいるな」



その呟きを聞いて、そのウルキオラの視線の先を見て



クロノは鳥肌が立った。



「……まさ、か……」



ウルキオラのその視線の先にいるであろう、その人物
ウルキオラが発見したであろう、その人物

クロノは、その人物に心当たりがあった。



「……や、め…ろ……」



クロノは呟く
何故ならその人物は、自分が良く知っている人物

プレシア・テスタロッサが起こした、次元震からの次元断層を防いでくれた人物

そして、自分の肉親であるその人物



「ヤメロ!やめろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」



クロノは叫ぶ
そして次の瞬間、黒い光が輝く。



「お前等は止めなかった、だから俺も止める理由はない」



クロノの叫びを、ウルキオラは一蹴して


『母さん! 直ぐにソコから離れて下さい!!!』


クロノは直ぐに、リンディに念話を行って




『クロノ執務官ですか? 一体何が』

黒虚閃セロ・オスキュラス




しかし
クロノの目の前で、その砲撃は放たれた。



「……あ、ああ!!!」



衝撃が弾ける

轟音が響く

爆風が吹き荒れる

庭園が、弾け飛ぶ
黒い奔流に呑まれて、そこは一気に崩壊する。

その強大な黒い閃光は、時の庭園を食い破る
まるで津波に飲み込まれる砂の城の様に、僅かな抵抗も許されずその存在が消え去った。



『母さん! 母さん!! 応答を願います!! 母さん!!!』



クロノの眼前の光景、そこには先程までの庭園はない。
ただ見通し良く、次元空間がその姿を覗かせている。

だがクロノは、尚も念話で母を呼び続ける
しかし、その応答はない。

いつまで経っても、いつまで呼び続けても、母からの応答はない。



「……あ、ぁ……あ!!!」



だから、悟ってしまう
その意味を、その事実を、クロノは理解してしまう。



「……ほう、どうやら次元震は殆ど鎮静していた様だな。存外優秀な人材だったと見える」

「……あ、あ、あぁ……うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



あらゆる負の感情を宿した表情で
あらゆる負の感情を篭めた叫びで

クロノは体に残された僅かな魔力を掻き集めて、砲撃に変える。



「貴様ああああああああぁぁぁぁぁぁぁあぁっぁあああああぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!」



撃つ

撃つ

砲撃を撃つ

体中から魔力を捻り出して、僅かな魔力を搾り出して、その全ての有りったけの魔力を砲撃に変えて撃つ。



「うああああああぁぁぁぁがあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



撃つ
ひたすら撃つ

煙幕越しに姿が見えない敵へ、ひたすらクロノは砲撃を撃つ

その砲撃が三十を超えて、クロノの砲撃はその唸りを止めて



「……今ので、終わりか?」

「……!!!!」




黒翼が羽ばたいて、煙幕を切り開いて死神がその姿を表わす。
その体を、傷一つ無い姿を現す。



「最後に、見せてやろう」



翠光が輝き、ウルキオラの体を覆う

黒い何かが蠢いて、ウルキオラに体に絡み付いていく



「これが、真の絶望の姿だ」



白い肌と同化して、その肌を黒い何かが浸食していく。

その両腕は二の腕まで黒く変色して、その両足も腹部まで黒く変色していく
腰の付け根の黒い何かは更に増殖して、鞭の様な黒い尾を形成される。


漆黒の双翼の付け根からは、更に一対の下翼が形成される。


胸元に開いた孔は巨大化して、そこから黒く垂直に爛れた様な紋様が浮き出る。


顔の緑の紋様は黒ずんで更に肥大化する
その眼球は緑に染まって、瞳は黄金の輝きを得る。


その黒い髪は背まで伸びて、頭の兜は消滅して白い双角は尚も巨大化してそこに在る。


そしてその魔力は、在り方を変える。


一言で言えば、異質
量や圧力、濃度の問題ではなく、「性質」そのものが異なるモノ

それは、紛れも無い魔力
しかし、それを魔力と認識できず「別の何か」だと誤認してしまう程に異質な魔力。



「これが、俺の真の全力の姿」



それは、一切の希望を粉々に砕く程の魔力

それは正に、絶望を体現したかの様な黒い力の奔流


そして、それこそがウルキオラの真の姿







刀剣解放・第二階層レスレクシオン・セグンダエターパ







その言葉を聞いて


「……な、ぁ」


その姿を見て


「……ぁ、ぁ……あ」


その魔力を感じて


「……ぅ、ぅぁ……」




クロノは、杖を落とす
その膝をつく

もはや怒りも、憎しみも、恐怖もない
そんなモノは、一瞬にして全て消え去った。


その心は、折れる。

その魂は、絶望する。


なのはも

フェイトも

ユーノも

アリアも


その心に在った僅かな希望が完全に打ち砕かれて、虚ろな何かが心を支配する。



「……絶望したか?……」



ウルキオラは静かに尋ねて、五人は何も答えない。

いや、答えられない

既に、その理解は容量を超えていた
もはや、脳が思考する事を放棄していた。


「……そうか……」


だから、五人は何も言わない。

だから、五人は何も言えない。



「最後の慈悲だ。一瞬で全員をその魂魄ごと消し去ってやろう」



ウルキオラは、空へ翔ける
上へ上へと翔け抜けて、その動きを停止する。


下を見れば、多数の魔法陣の光と共に多数の霊圧の反応を捉えた。

恐らく、応援に来た武装部隊だろう。


だが、ソレは些細な事
ウルキオラにとって、それは気にも留める必要の無い些細な事


そして、その両の掌が翠光を宿す
翠の光は凝縮し、圧縮されて、一つの槍を形成する。


「消え去れ」


ウルキオラはソレを構える。

その槍に、己の中にある黒いノイズを篭めて

その投擲に、己の中にある黒い不快感を篭めて

その一撃に、己の中にある全ての黒い「何か」を篭めて





雷霆の槍ランサ・デル・レランバーゴ





ウルキオラは、その槍を投げ放つ。


なのは達は、ただソレを呆然と見ていた
その翠の光が、自分達に目掛けて振り下ろされるのを、ただ呆然としたまま見ていた。


そして、その翠の槍は降り立つ
その翠の槍の先端が、庭園の床に触れる。



その瞬間、世界は翠に染まった


その空間は、一瞬翠色の輝きに支配された


そして時の庭園は、その姿を消した。































「……ふむ、実に興味深い話だ。それで、その後はどうなったんだい?」

「喋る義務はない」


そこは、とある研究室らしい部屋の中
そしてそこで、二人の男がテーブルを挟んで向き合っていた。


「おや、義務はない。それなら義理と権利はあると捉えて良いのだね? 流石は我が友、話が解かる」

「言っていろ……チェックだ」

「……む、そう来るかね?」


二人の男の片割れ
白衣を着た濃紫の髪の男は、盤上を見つめて考える。


「だが、中々興味深い話だよ。十五年前のあの事件は何分情報が不足していてね
管理局の本局ですら、未だ事の詳細を掴めていない話だよ」


コトンと、男は白い駒を握って黒い駒を落とす。


「だろうな。あの日、時の庭園に居た者の中で生き残ったのは俺を含めて二人しかいないだろうからな」


片割れの男は黒い駒を進めて、白い駒を落とす。


「しかしまさかと言うか、やはりと言うか、君があの事件の当事者だったとは、いやはやこれも一つの廻り合わせと言う奴だね」



どこか芝居がかった口調でそんな事を言い
そして、その男は白い駒を取って



「十五年前のあの事件、時空管理局史上の中でも最悪の事件の一つと名高い『U.S事件』
……いや、こう言った方が良いかな? 『ウルキオラ・シファー事件』と……」



紫髪の男は呟く。
その男の言葉を聞いても、ウルキオラは特に何の反応も見せなかった

そしてウルキオラの向かい側に座るその男、その男もまたウルキオラと似た様な存在

数年前、第一管理世界「ミッドチルダ」に史上最悪の大規模テロ「揺りかご事件」を引き起こした張本人



そして、ウルキオラの「友人」



「次元断層をも起こしかけたあの『U.S事件』で、管理局はAランク以上の高ランク魔導師を再起不能も含めて四十人以上を失い
更には時の庭園の謎の爆発の後、当時事件を担当していたリンディ・ハラオウンが艦長を務めていた
次元航行艦アースラも『とある』魔導師に襲われ撃墜され、当時の搭乗員は全て死亡したとされている

いやいや、まさか武装艦を一つ落とすとは、我が友ながら恐ろしい所業だ」


「なら、少しは表情でソレを表わせ。ニタニタと気味の悪い笑みで言われても説得力がない」


「それこそが、私が君の友である所以だよ。友の善も友の悪も、黙って受け止めてやるのが友人の務めだろう?」

「……流石に、友人と書いてモルモットと呼ぶ人間は一味違うな」

「ソレは褒め言葉として受け取っておくよディア・マイ・フレンド」



そう言って、二人は盤上で互いに駒を進める。

紫髪の男はウルキオラを友と言い、愉悦の表情を浮べる
ウルキオラは紫髪の男に友と言われても、否定はしない

だが、二人の間柄を友と括るには……少々カテゴリが異なる
言ってしまえば、『理解者』だ。


二人が追い求めたモノ、追い求めたモノがたまたま重なっていただけの話。


その紫髪の男は、科学者である同時に犯罪者でもある
その男の全身から滲み出る、狂気の残滓がソレを物語っている。

その男には、今まで友人も、理解者もいなかった
その男が自らの手で作り出した、「娘達」以外に彼に自ら歩み寄る人間は一人もいなかった。


そんな彼の前に現れたのが、ウルキオラだ。

その出会いは、特に変わった所はない
どこにでも有る、有り触れた出会い。


しかし、その出会いはその男に大きな変革を齎した

ウルキオラは、初めはこの男に関しては何も関心を抱いていなかった。


だが、後にソレは変わる。


男が造り出した、娘達の存在を知って……ウルキオラは男の評価を変える

その娘達は、『心』があった

自分が理解できなかったモノを、この男は自らの手で生み出していたのだ。



「アレは心ではない。厳密に言えば『良く似ているモノ』、似ているだけでソレは決して心には成り得ないモノだ」



その男はそう言ったが、ウルキオラにはそれでもその男に対する評価は変わらなかった。

ウルキオラはその男に興味を持ち、交流をする様になった。

男もまたウルキオラの事を知り、ソレを拒絶する事無く、それこそ諸手を掲げてウルキオラを歓迎した。


友人未満、理解者以上


ソレが、この二人の奇妙な関係の始まりだった
そしてソレは、今に至るという訳だ。


「だが、実に興味深い話だった。是非とも続きが聞きたいものだ」

「……存外、食いつきがいいな」

「当然だとも」


男はそう言いながら、自軍のクイーンを手にとって




「我が友とその『奥方』の馴れ初めの話だ。興味を抱かない筈が無い」




男は変わらない笑みと共に、ウルキオラに向かって言い放ち


「どうでも良いが、さっさと駒を置け。ゲームが進まん」

「おや、寂しい反応だ。いつもの冷静沈着な君に似合わない愉快で滑稽でお茶目な反応を期待していたのだが?」

「その手の事は、その手の反応が出来る者に行うのだな」


そして男は、盤上のクイーンを進めて



「うむ、その通りだ。だから君にその反応を期待したのだよ」



男は呟く。


「……何?」

「君は『心』が理解できない、解からないと常日頃から言っているが、ソレは違う。
少なくとも君は『心』という自分の命題を持ち、その答えを見つけようと今も試行錯誤して探索を続けている」


男は盤上から退場した駒の一つを手に持って
クルクルと手の中で弄びながら、更に言葉を続ける。


「ソレもまた、一つの心の在り方だ。
君は既に自身の命題の答えを手に入れているにも関わらず、ソレに気付いていないだけなんだよ
心在るが故に心を見失う……いやいや、何とも哲学的な話だ」

「…………」

「一つ私から言える事があるとするならば、君は間違いなく『心』を持っている。
君の中では心とはどういう存在かは解りかねるが、君が今持っているソレは、間違いなく『心』と呼べるモノだ」


ウルキオラは、答えない
そして無言のままに盤上の駒を進めて、その男もまた駒を進める。



「機械と人間の違いは何か解かるかい? 簡単な事だ、それは疑問を持つか否だよ
機械は学習しても疑問を持たない、そのプログラムが無ければその行動そのものが出来ない

そして人は疑問を持ち学習する……つまりはこういう事だ。それこそが心を持つ者と持たない者の違いだよ」



簡単だろう、と口元を歪めて男は呟く。

男の言葉を聞いて、ウルキオラも思う所があったのか
駒を進めるその手は止まって、何かを考える様に宙を漂っていた。



「まあ、依然の私ならこの様な事は考えなかっただろう。研究の時間を割いて、こうして娯楽を嗜む事はなかっただろう
これも一つの『心在るが故に』というヤツだ。いやいや、改めて考えると真に御し難い存在だ。
だからこそ私も、完全なソレを追い求めて今も研究を進めている訳だがね」



男は今まで、数々の新技術を生み出して、その都度その分野においては革命に近い技術を提供してきた。

それは、犯罪者として法と秩序に追われる様になってからでもソレは変わらない。

寧ろその法と秩序との抗争が、彼にまだ見ぬ閃きと言う名のノイズを与えて、ここまでその技術を進化させたと言っても過言でない。


そして、そんな彼が未だに成し得ないモノ

それが、『心』というモノなのだ。



「まあ、君の答えは君が見つけ判断するべきだ。私のこの言葉は、参考程度に頭に留めておく事を推奨しよう
君は君の答えを、心行くまで、己が納得するまで、ひたすら追い求めればいい」



男はそう言って
その気持ちを隠そうとしない、愉快な気持ちを隠し切れない笑みを浮べる。


彼の娘達は言う

父は変わった、と


「チェックだ、さあコレをどう返す」


彼は、楽しんでいる。

今この時間を、純粋に楽しんでいる
これもまた、その男に起きた一つの変化だった

男は長年の目的の一つであった「揺りかご」の一件以来、どこか空虚な気持ちを抱いていた。


その目標は、あまりにも簡単過ぎた
あまりにも容易く成しえてしまったのだ


炎の海に覆われた世界を見て、落胆にも似た感情を抱いていた。


一言で言うのなら、期待はずれ
違う言い方をするのなら、拍子抜け

耳の奥で常に風の音が響いている……そんな感覚だった。


だから、男は自分自身の変化に驚いていた。

人とは、人間とは
自分の在り方を受け止めてくれる存在が一人いるだけで、ここまで大きな変化を与えるものなのかと

自分に起きた、その些細で大きな変化に彼は驚き、そして狂喜した。



「私もまた君と同じ探求者だ。君と出会った事により、更に一歩『心』の本質というモノに近づけたよ
ククク、これだから世界は退屈しない
一つの事を極めたと思ったら、更なる未知の世界が姿を現す、実に愉快、実に興味深い」



男は笑う、面白くて堪らない
愉快で仕方が無い

そんな風に口元を歪めて楽しげに笑う。


そして、男は語る
ウルキオラは、自分の友人だと語る。


もしも、少しでも両者の出会いが違えば

もしも、少しでも両者を取り巻く環境が違えば


二人は、こうしてチェスを嗜む事は無かったかもしれない

それこそ、互いに憎み合う敵同士になっていたかもしれない

互いの全ての力を用いて、殺し合う関係になっていたかもしれない


男は、その事を理解している。

だからこそ、この出会いに感謝している。

この友と廻り合えた自分の運命に、心の底から感謝している。




「……で、本当に『アレ』は来るのか?」

「安心したまえ、もう間も無くだよ」




ふと、思い出した様にウルキオラは尋ねて

男もまた、その問いに答える。


「チェック、詰みだね」

「……だな」


そのゲームは終焉を迎える。



そして次の瞬間
研究室のドアは爆風を吐き出した。



「……来たか」



ウルキオラはそのドアを見つめて、立ち上がる。



「ふむ、それでは私は退散しよう。それでは君は『奥方』との時間を楽しみたまえ
ああ、余り激しく燃え上がってはいけないよ。もう一人の君の可愛い『奥方』が嫉妬してしまうだろうからね」



そう言って、男は手に持った宝玉を操作してその姿を消す
空間転移による離脱だ


そしてその破壊されたドアから、彼女が姿を現す

ウルキオラは知っている、その人物を知っている。


何故なら、彼女とウルキオラは十五年にも渡る付き合いだから

何故なら、彼女はあの時の庭園にいた…自分以外の唯一の生き残りだから


だから、ウルキオラは彼女を良く知っている。

その長い金髪を

その赤い瞳を

その黒いデバイスを

その黒いバリアジャケットを


ウルキオラは、良く知っている。






「久しいな、フェイト・テスタロッサ」






ウルキオラは改めてフェイトを見る

その瞬間、ウルキオラの頭の中に黒いノイズが流れる



「ウルキオラ……見つけた」



その声が響いて、その姿の全容がウルキオラの瞳に映る

十五年前とは違い、成熟した肢体

凛と整った美しい顔たち

黒い髪留めで纏められた、艶やかな金髪


そして、二人は互いに向き合う。


フェイトはその漆黒の杖・バルディッシュを構える
そしてその瞳には、確かな意志の光を宿している。

彼女がここに来た理由、それはウルキオラと闘い、斃すため

彼女がウルキオラと闘う理由、それは自分の家族の仇だから



十五年前、フェイトはあの時の庭園から生きて生還した唯一の人間だった。



自分達の全力の魔法はウルキオラに通じず、仲間は次々に屠られ、空間転移による離脱も封じられた。

故に、自分達に逃げ場はなかった
あの翠色の光に、自分も屠られる筈だった




――フェイト、このデバイスを持っていきなさい――




……その瞬間までは。



それは、嘗て母に持たされた宝玉型のデバイス



――高速空間転移のデバイスよ。万が一、管理局に見つかって囲まれた場合はこれを使いなさい――

――起動ワードさえ言えば、大抵のジャミングやクラッキングを無視して転移できるわ――



フェイトは電撃的にその事を思い出し、翠の槍が着弾する寸前にそのデバイスを起動させたのだ
母から渡された唯一つの道具が、フェイトの命の救ったのだ。


しかし、ここで一つの誤算があった。


そのデバイスには、フェイトの認識データしか登録されていなかった。

ジャミングもクラッキングにも対応できる反面、その転移対象はフェイトだけしか認識できなかったのだ。



そう


だから、フェイトだけが生き残った

フェイトだけが、あの時の庭園から生還できた


デバイスを起動させた後、フェイトは地球での拠点だったマンションの一室にいた。


そして自分が助かった事に安堵して

次の瞬間、絶望の慟哭の声を上げた。


それからどれほど時間が流れた後だろう?
フェイトはその後、管理局に保護された


どうやら自分の事情をあのリンディ艦長が既に本局に話を通していたらしく、後任の捜査官が自分を保護しに来たらしい。


そして、その後彼女は知った
時の庭園の消滅を知り、あの事件の大凡を知った。


そして、アルフとリニスの死を知った。


その僅かな希望を砕かれて、彼女は再び泣いた。


母が死んで、家族が死んで、帰って来た家族もまた失った

フェイトは、全てを失った


そして彼女は思い出す


自分の家族を奪った存在を、自分の目の前でその命を摘み取った存在を





「今日こそ、貴方を斃す」





フェイトはその後、U.S事件の重要参考人として裁判を受けたが
リンディが残した資料によって、その無罪を勝ち取った。

そしてその後、フェイトはその姿を消し、その後の詳細は管理局にも掴めてない。



そして、後にウルキオラはフェイトの生存を知る。

フェイトの生存を知り、ウルキオラが抱いた感情は……歓喜だった。



あの時以来、ウルキオラの頭に中に黒いノイズは流れる事は無かった

あの時以来、ウルキオラの中に耐え難い不快感が存在する事は無かった



そして、ウルキオラは悟った

あの黒いノイズは、自分が求める答えにとって非常に重要なモノだったのだと



だが、あの黒いノイズを起こさせた人間は全て屠ってしまった。

あの黒いノイズに身を任せて、

あの不快感を消そうとして

時の庭園ごと、そこに居た全ての人間を消し去った。


ウルキオラは、今でも思う
あの時の自分は、自分らしくなかった。


故に、ウルキオラは後悔した
早まった判断をしたと、軽率な行動をしたと、僅かばかりに後悔した。

重要な人材を、自分でも理解出来ない黒い衝動に駆られて全て屠ってしまったと
その余りにも自分らしくない失敗に、ウルキオラは自分の軽率な行動を少しだけ後悔した。



だから、フェイトの生存を知った時

ウルキオラはその事に歓喜した。



自分に、自分の知らない未知のノイズを教えてくれた存在が生き残っていた事に

あの黒いノイズを自分に与え、その黒い衝動をぶつけられる相手がまだ生き残っていた事に


フェイト・テスタロッサが生き残ってくれていた事に、ウルキオラは歓喜した。



「プラズマ・ランサー!!!」



黄金の光弾が射出され、翠弾がソレを迎撃する

翠光の砲撃が放たれて、黄金の砲撃がそれを迎え撃つ


黄金の閃光と翠色の閃光が、互いに幾百にも交差する

黄金の刃と白銀の刃が幾重にも衝突し、火花を散らして、互いに斬り合う。



「ほう……存外、出来る様になったじゃないか」



ウルキオラは感謝している
フェイト・テスタロッサに感謝している。


自分に、自分の知らない「何か」をあの日自分に教えてくれた事を

あの日、時の庭園から生き延びてくれた事を感謝している。



「まだ十分の一の実力も出していない貴方が言っても、唯の嫌味ですよ」



フェイトはウルキオラを憎んでいる

そしてフェイトは感謝している
ウルキオラ・シファーに感謝している。

今日のこの日まで存在してくれた事に、家族の仇として今日のこの日まで存在してくれた事に

あの日、失意と絶望の中に居た自分に、敵討ちという生きる目的を与えてくれた事に感謝している。




「……そうか、ならばその望みに応えよう……」




ウルキオラの「友人」は、こう語っている。


ウルキオラ・シファーとフェイト・テスタロッサは、完成された関係だと

互いが互いの為に存在し、互いが互いの目的の為に求め合っている


ウルキオラはフェイトを必要とし
フェイトもまたウルキオラを必要としている


それは、一つの完成された関係だと


それぞれが自分に足りないピースを互いに補っている

それはある種、理想的な関係だと。


だから、彼はフェイトの事をウルキオラの「奥方」と呼んでいる。

ベクトルこそは違うが、二人の関係は夫婦のソレに非常に良く似ているからだ。



そして、ウルキオラのもう一人の「奥方」はコレを聞くと、大抵不機嫌になる

彼はその反応がまた興味深いと、あえてそれを彼女の前でソレを口に出す事もある


そしてウルキオラも、ソレを『心』の中では何処か納得している。





「……鎖せ、黒翼大魔ムルシエラゴ……」

「バルディッシュ…真・ソニックフォーム」





翠光の柱が立つ

黄金の奔流が流れる



「……行くぞ……」

「いつでも、どうぞ」



二つの閃光は踊る様に交わる

閃光は互いに衝突し、弾き合い、その存在を喰らい合う


黒い閃光を、黄金の閃光が受け止める

黄金の双剣を、翠の光剣で迎え撃つ


互いが互いに、その咽喉元に牙を突きたてようと唸りを上げる


二人は、互いが互いに感謝している

二人は、互いが互いに必要な存在だと認識している


故に、二人は刃を交える

故に、二人は闘い続ける



いつまでも、いつまでも


その答えが見つかるまで


二人がその答えを手に入れるまで



二人は、交わり続ける。

















終番・壱「一つの結末」




終わり
















あとがき
 えー、どうも、作者です。更新が遅れてどうもすみませんでした。

前回の更新においては、百を超える感想を貰い作者自身もとても驚き、凄く嬉しかったです

そして、その感想でも特に多かったのが管理局全滅エンド
その全滅エンドを予想する方々が非常に多く、正直な話ソレは作者の当初のプランには無かった結末だったのですが

作者自身、皆さんの感想を呼んでいる内に


「全滅エンド……分岐ならイケルか?」


とも考えまして、少々時間は掛かりましたがこうして一つの無印編の結末を書かせて貰いました。

一週間程度で作った話なので、少々粗が目立ったり、物語の組み立てがおかしかったり、キャラに違和感が出てしまったり
「こんなんねーよw」とか思う方も居るかもしれませんが、そこの所は目を瞑って頂けると作者的には非常に助かります。


ちなみに、作者が考えたもう一つの分岐ルートが読みたいと思った方がいたら感想欄に


「まさかのフェイトENDかよ!!!!」


と、書き込んでくれたら作者的には非常に嬉しいです!!……スイマセン、久しぶりの更新で調子こいてました。勿論ネタ的発言です(スルーOKです)


あと、最後に一言

これは、あくまで分岐エンドの一つです

故にもう一つの分岐ルートとは一切何の関係もありません! その事を十分にご理解して下さると非常に助かります!!!


それでは、長々と失礼しました。


補足 作者が調べた所、ウルキオラのスペルの綴りは「Ulquiorra schiffer」だそうです。





前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027578830718994