これは拙作 魔法少女リリカルなのはA's~Green Blood ~ の続編です
この作品には作者の自己解釈やオリジナル要素、ご都合主義が含まれております。
それらが苦手な方はご注意ください。
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無数の平行世界を統べる時空管理局。その本局に、八神はやてとリインフォースはいた。
虚ろな目をした車椅子の少女と表情に影の差している銀髪の美女。
制服に身を包んだ局員の中で、私服姿の二人は明らかに浮いている。それゆえ、局員の視線が二人に集まるのは至極当然のことであった。
―――――なぁ、誰だよあの二人?お前ら知ってる?
―――――お前知らねぇの?闇の書事件の重要参考人だってよ。管理局が保護したらしい
―――――ふ~ん…………闇の書の被害者なのか。気の毒に
―――――バカいうな。あの車椅子は闇の書の主。それに、銀髪は闇の書の管制人格だ
―――――本当か!?何でソイツらが管理局に保護されてるんだよ!死刑だ死刑!
―――――全くだ。俺の先輩も数年前に殺された。納得できんな
―――――あれじゃないか?高い魔法資質があるから刑は免除されます~とか。卑怯もラッキョウもねえな
―――――世界を滅ぼしかけたくせに。こんなんじゃ被害者遺族は納得しないぞ
―――――それは違うなぁ。今回の事件は全てカリスって男の仕業なんだ
―――――なんだって、それは本当かい?
―――――あの女の子は天涯孤独で、守護騎士が初めての家族だったらしい
―――――俺は兄が殺されたって聞いてたけど
―――――足の動かない少女を人質に取り、平穏を望む守護騎士に蒐集を強要させる。カリスめ、許せん!!
―――――ハラオウン一家も、肩の荷が下りただろう。カリスを始末したのは執務官らしいからな
―――――あの子も可哀想にな。怖かっただろうに
―――――障害のあるあんな小さな女の子が
―――――気の毒なことだ
やめろ、やめてくれ。はやては思わず耳を塞ぎたくなった。
その罪は自分のものだ。シグナム達は自分を助けるために蒐集を行った。その罪は、彼女たちの主である自分にある。
歴代の主の罪を全て被ってもいい。悪いのは自分だ。そう叫びたかった。
たとえ今の状況が一人の男の最も望んだものだとしても、はやては耐えられない。
愛する家族であり、はやてにとって最初の守護騎士である仮面ライダーカリス―――相川始。
彼を侮蔑する人間に、はやては言いようのない怒りと嫌悪感を抱いていた。
そしてその感情は、封印を止めることのできなかった無力な自分にさえも向かう。
そこまで思考が至った時、はやてはあることを思い出した。
「(わたしには既に力が……与えられた力がある)」
はやては元々贖罪といったもの抜きに、管理局に入ろうと思っていた。
もしも自分の力で誰かを救うことが出来るなら、それを惜しむつもりはなかった。
自分が経験したような事を二度と起こさせないために。
例え誰であったとしても、その人を救うために真っ先に駆けつける。
それが、自分の憧れていた存在。
今、八神はやてでなくては救えない人がいる。世界を滅ぼしたとしても、その人は救われなければならない。
自分が将来救う人間の中にその人がいて、何の問題がある?
「(わたしのやるべき………やらなければならないことは!)」
はやての目に灯ったのは小さな焔。首に掛けた剣十字のペンダントを力強く握りしめる。
その瞬間から、はやては己の『夢』を叶えるために歩き出した。
「熱いよ……苦しいよ………」
エントランスホールは火の海だった。周りを見渡しても、誰一人見当たらない。
「お父さん………お姉ちゃん……」
燃え盛る炎の熱さや息苦しさよりも、家族に会うことが出来ない不安と寂しさがスバル・ナカジマに涙を流させていた。
ミッドチルダ臨海空港で起こった大火災。始まりは些細なものだった。
ほんの小さな不審火。その発見自体は早く、すぐさまスプリンクラーが発動し、数人の職員が消火活動にあたった。
しかし、予想外のことが起こる。消えないのだ。いくら水をかけても、不審火は全く消えなかった。
さらに、空港内のあちこちで同時に火があがった。
不審火は瞬く間に広がり、巨大な爆発――――後にその原因がレリックと呼ばれるロストロギアと判明する――――と共に炎は一層大規模なものに変化した。
そんな燃え盛る炎の中を蠢き、泣きじゃくる一人の少女を眺める人影があった。
確かにその人影には二本の手があり、二本の足で直立している。
しかし、断じてヒトではない。
体中から炎を発し、ギラギラ輝くその目は獲物である少女を狙っている。腰に巻かれたのはウロボロスのバックル。
『蛍』
そのヒトガタはまさしく蛍であった。もちろん体中から炎の吹き出る二足歩行の蛍などミッドチルダには存在しない。
だが、殆どの人がその生物を見て『蛍』と答える。そんな外見をしていた。
『蛍』はスバルに向かって右腕を突き出す。腕に備え付けられているのは銀色の筒のようなもの。
その穴から、盛大に火の粉が噴き出し、炎が漏れ出す。
そしてその筒から炎弾を放とうとした刹那、白銀の刃に斬り裂かれた。
緑色の血が溢れる右手を押さえながら、『蛍』は目の前の存在に警戒心を露わにした。
赤い稲妻のような模様が刻み込まれた銀のプロテクター。体全体を包む黒の鎧。
顔の半分を覆う赤い複眼。緑の血が付着した両刃の剣である弓。
気がつけば、『蛍』は黒い『蟷螂』によって一方的に蹂躙されていた。
刃で斬り裂かれ、光の矢で貫かれる。何度も何度も、『蛍』が倒れるまでその攻撃は続く。
カシャンという小気味のよい音が腹部のバックルから聞こえた時『蛍』が最後に目にしたものは、はらはらと舞い落ちる一枚のカードだった。
眩い光とともに、『蛍』はカードの中に吸い込まれる。閃光が収まると、カードは回転しながら『蟷螂』の手に戻る。カードに描かれているのは一匹の赤い蛍。
『蟷螂』はその絵柄の中で『蛍』が動いているのを気にする素振りも見せず、カードを慣れた手つきで腰にある小さな箱に収納した。
『蟷螂』はほんの一瞬だけスバルに視線をやった後、炎の中に消えていった。