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No.16657の一覧
[0] フェイト執務官の事件簿「舞台裏の小人」(StS後 フェイト&ティアナ&オリ主)[ててらんまとう](2010/04/25 12:21)
[1] 第一話[ててらんまとう](2010/02/21 02:08)
[2] 第二話[ててらんまとう](2010/04/10 23:16)
[3] 第三話[ててらんまとう](2010/03/28 23:34)
[4] 第四話[ててらんまとう](2010/04/03 17:52)
[5] 第五話[ててらんまとう](2010/04/11 00:58)
[6] 第六話[ててらんまとう](2010/04/24 16:30)
[7] 第七話[ててらんまとう](2010/04/25 14:05)
[8] 第八話[ててらんまとう](2010/05/04 01:22)
[9] 第九話[ててらんまとう](2010/05/23 00:27)
[10] 第十話[ててらんまとう](2010/08/14 20:18)
[11] 第十一話[ててらんまとう](2010/06/21 00:36)
[12] 第十二話[ててらんまとう](2010/07/24 18:37)
[13] 第十三話[ててらんまとう](2010/08/14 20:19)
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[16657] 第五話
Name: ててらんまとう◆67b09e67 ID:9dc06554 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/11 00:58
風に転がる紙の屑。


ひび割れたアスファルト。


汚れた壁には色あせた落書き。


そこは場末の劇場の舞台裏のようだった。



繁華街のサマサ通りの入り口の門を離れ、数十分が経った。と言っても、歩きなので距離としては大したことはない。
それでも、辺りの雰囲気はすっかり変わっていた。道にはゴミが散乱し、破損した車道の整備は不十分。ほとんどテナントは店が入ってる様子はなく、壁は落書きだらけ。
これでも灯りが多ければ、まだマシだろうが、実際は街灯が少なく薄暗い。締め切った窓の隙間から漏れる光が、辛うじて足りない街灯の代わりをしていた。
道には人影もちらほらと見える。しかしそのほとんどは、淀んだ目をして、所々でたむろしていた。
繁華街を離れた闇夜の街は、濁った沼の底のように重苦しかった。

フェイト達は真っ直ぐ歩道を進んでいた。サマサ通りから一直線に。
先頭を行くのはフェイト。不穏な空気を匂わせる街であるが、彼女はこの手のものは何度も経験している。場慣れしてるせいか、平然と足を進めていた。
一方のシャーリーは、フェイトの後ろで、少しばかり心細い表情を浮かべてる。初めこそ平然としていたが、灯りが減るにつれて身を縮ませていた。彼女自身、危険な事件をいくつか担当はした事はある。しかし、もっぱら裏方で現場に出る事は少ない。危険を肌で感じる経験が、圧倒的に少なかったのだ。
そんな彼女をティアナは守るように、一番後ろについていた。もっとも彼女もこの手の経験は少ない。JS事件の修羅場を潜り抜けたティアナではあるが、その危険とバサイの街の危なさとは、また別のものだ。実際、多少の不安を感じてはした。しかし、執務官を目指す身という意地が、それを打ち消していた。

しかし今の所、特に何も起きてない。彼女達の気持ちに反して。確かにうろんな人間達は何人も見えたが、ただこちらを一瞥するだけで何かをする訳でもなった。やはり繁華街からは、それほど離れてないからかもしれない。
ティアナは高ぶっていた気持ちを、少し緩めようとする。


"Caution!"

クロスミラージュの強い言葉に、それが妨げられる。バルディッシュも同じ警告を上げていた。
ティアナは押さえた声を発する。信頼する上司へと。

「フェイトさん!」
「うん」

フェイトは落ち着いて、相方に尋ねた。

「バルディッシュ。状況は?」
<後方より、5名の男性が接近中。犯行の意図が伺えます>
「分かった」

フェイトは静かに答えると、わずかに首を背に向ける。にやついた男達がゆっくりと集まり、こちらへ向かってきていた。
するとシャーリーがしがみついてくる。

「フェイトさん!ど、どうしましょ?」
「大丈夫。シャーリーは私から離れないで。ティアナ。クロスミラージュ、いつでも起動準備しておいて」
「はい」

ティアナは右ポケットにあるクロスミラージュを、確かめるように握る。

男達は少しづつ近づいてきていた。リーダーらしい男が、なにやら仲間に合図をしている。それを受けた一人が、建物の影へ走りだす。
そろそろ何かしかけてくる。そんな雰囲気が漂ってきていた。フェイト達は、何が来ても対応できるように気持ちを整える。
その時。

「こら!お前ら、何やってる!」

背中から怒鳴り声が聞こえた。つけて来ていた男達ではない。もっと後ろからだ。
フェイト達は、思わず振り向く。するとデバイスを高々と上げ、振り回してる局員の姿が見えた。バリアジャケットに身を包んだ三人の男性が、しかめっ面をしてこちらに近づいてきている。警邏の局員らしい。

彼女達をつけていた男達はその姿を目に入れると、しぶしぶと散りだす。そして周囲の建物の中や、わき道へと姿を消した。
男達はいなくなった。しかし局員は彼らに目もくれず、真っ直ぐとフェイト達に近づいてきた。そして目の前で足を止める。

「アンタ等、ガイドに言われなかったのか?」
「えっ!?」

ティアナは一瞬、何のことかと、抜けたような声を出した。そんな彼女におかまいなしに、局員は言葉を続ける。不機嫌そうな口調を。

「サマサ通りの門から出るなって、言われてるだろうが。こんなとこ来てたんじゃ、何されても文句いえねぇぞ」
「いえ、その私達は…」
「俺らも暇じゃねぇんだ。仕事増やすなよ。勝手な事して、勝手に犯罪に嵌るバカな観光客を助けるのは、疲れんだからよ」
「な…!」
「分かったら、とっとと帰れ!」

局員は、言いたいことだけ言うと、先に足を進め始めた。
その後ろからティアナが一言でも返そうと、一歩足を進める。それをフェイトが止めた。

「さ、ティアナ。戻ろ」
「だって、フェイトさん!あんな事言われて…」
「いいから。今のもバサイって現場の空気の、一つだよ」
「え…。はい…」

ティアナは何かうまく丸め込まれたような気もしたが、フェイトがそういうので押さえる。
しかし今度は、別の意味で憤慨していた。今まで見たヒジュラムの局員達に。司令のマウ、執務官のアルスール、そして今の警邏の局員。ここの地上部隊は上から下まで、腐ってる。彼女はそう思わずにはいられなかった。

そんな彼女の思いを他所に、フェイト達はきびすを返す。そしてサマサ通りへ戻りだした。すると数歩あるいた所で、またさっきの局員の声が届く。

「そこ!何やってんだ!動くな!じっとしてろ!」

さっきの場所から大して離れてもいないのに、また何かがあったらしい。フェイトはつくづく治安の悪い場所だと感じ入る。そして、今まで経験した現場で、似たようなものを頭の中から探り出そうとする。
一方、局員の警告は続いていた。

「余計な真似すんなよ!お前ら、全員…」

しかし、その怒声が止まった。代わりに聞こえたのは…。


破裂音!

背後で爆発と閃光!

思わず振り向く。音の方へ。

彼女達が目にしたのは、吹き飛んでいたさっきの局員達。十字路の端でうずくまっている。
その十字路の中央には、蜂の巣のようないつくもの穴。そこから煙が立ち上ってる。

「ティアナ!」
「はい!」

二人は自分のパートナーを手にし高々と上げた。

「バルディッシュ・アサルト!」
"Set up."

「クロスミラージュ!」
"Stand by, ready."

強烈な発光!
一瞬の出来事!

それが止むと、現れる二つの気鋭。
バリアジャケットに身を包んだフェイトとティアナ。力強く握られる、バルディッシュとクロスミラージュ。
側にいたシャーリーはふと、彼女達の周りだけ温度が上がったかのような感覚を受ける。そんな彼女に、フェイトが声をかける。

「シャーリー、ヒジュラムの地上部隊に連絡、それとクラウディアにも。後、あのビルの陰に隠れて」
「はい」
「ティアナ!先行して!」
「はい!」

ティアナは、走り出した。局員が攻撃を受けた場所に向かって。
シャーリーは通信しつつ、ビルの陰に隠れる。フェイトはシャーリーをオーバルのバリアで保護。そして自分も現場に向かった。

先に十字路にたどり着いたティアナは、攻撃が来た方を向く。左へと。
するとすぐにそれが、目に入った。灯りのついてない建物から、何かを持ち出そうしている15、6人の影が。トラックに急いで積み込んでいる姿が。

「待ちなさい!そこの連中!」

ティアナは声を放った。
それに驚いたような彼らの声が届く。同時に、慌てふためいてトラックに荷物を放り込む。
犯罪。間違いない。彼女は確信した。
そして駆け出そうとした時!
100メートルほど先のビルの屋上が光った!

攻撃!

その言葉が彼女の脳裏を過ぎると同時に、シールドを張る。

破裂!

間一髪で、シールドは光弾を防いだ。
すぐにシールドを解いて走り出そうとした彼女だが、また攻撃が来る。しかも今度は多数の光弾、いや光弾の雨が!
しかし、それもシールドで防御。

後から、フェイトが近づいてきた。彼女もシールドを張りながら側に寄る。
五階建てほどのビルの屋上から。同時に20を超える光弾が降り注いでいた。それはティアナとフェイトを同時に包むめるほど、広範囲に散らばっている。逸れた魔力弾が、辺りの地面を抉り建物の壁に穴を開ける。
しかし、二人にとってはどうという事もないものだった。確かに数は多かったが、一発、一発はそれほど強くない。耐えられない量でもない。
ティアナは落ち着いて、状況を知らせる。

「フェイトさん。あのトラック、何かを運び出そうとしてました」
「分かった。攻撃は私が引き受けるから、ティアナはトラックを足止めして」
「はい」

ティアナの答えを聞き届けると、フェイトはシールドの幅を広げる。広大なシールドが二人の前に現れる。光弾は全て受け止められた。するとティアナはトラックと逆の方へ、クロスミラージュを向けた。

「シュート!」

強い言葉と共に、二発の魔力弾が飛び出した。飛んだ方向はトラックの反対側。
濃い橙の光は数メートルほど進んだ後、急旋回。180度、逆方向に向かう。そしてフェイトのシールドーを越え、トラックを上から狙う。
そして、真下へと落下する。

しかし、弾け飛んだ!

ティアナの魔力弾が霧散する!

向きを変えた瞬間、彼女の弾が、撃ち落されたのだ。

いや、光の嵐に巻き込まれた!

強烈な光の群れが、フェイト達に襲い掛かっていた。降り注いでいた。
さっきまで20ほどの光の弾が倍以上に増え、さらに範囲が広がっている。正に光弾の豪雨。雹のように、苛烈にシールドを叩く。
二人はシールドの後ろで、身動きできなくなっていた。しかし、攻撃が途切れるのを待ってる時間はない。今にもトラックは発進しようとしてるのだから。
フェイトは、光の礫を左手のシールドで防ぎながら、ティアナに指示を出す。

「私が砲撃で、攻撃ごと相手を落とす。こっちが撃ったのと同時に、トラックを止めて」
「はい」

ティアナは強く答え、クロスミラージュを握り締めた。
バルディッシュの先端に魔力が溜まる。淡い光が浮かぶ。プラズマスマッシャーの予備動作。使い慣れた魔法は、ほんのわずかな時間でいつでも撃てる状態になった。
そして…。


"Alert!"

突如、バルディッシュが警告を飛ばす。
フェイトの右目に、魔力弾の光が映る。
ふわっと放物線を描く光の弾が飛んでいた。放り投げられたような濃い朱の光球が、彼女の右から向かってきていた。意表を付かれた!
フェイトは、バルディッシュに溜めていた魔力を開放。別のシールドを展開する。
だが脇にいる執務官補佐が、すでに右に構えを取っていた。

「シュート!」

ティアナの掛け声と同時に、一発の魔力弾が飛ぶ。
寸前で撃ち落す!

光の弾は破裂!

しかし次の瞬間、轟音と閃光、爆風が放たれた!

耳をを切り裂かんばかりの炸裂音!辺りを白く塗りこめるほどの光!大地をへこますほどの衝撃波!
右からの攻撃は、強烈な置き土産を残した。

なんとか直撃を避けた事と、フェイトのシールドの展開が間に合ったおかげで、ほとんどダメージはない。だがわずかな間、状況が掴めなくなった。
影響が消え去ると、慌てて辺りを見回す。事態を把握しようとする。

あれほど激しかった攻撃は止んでいた。
そして目標のトラックはすでに発進し、先の角を曲がる所だった。
慌てて、ティアナは駆け出す。そしてフェイトに声をかけた。

「フェイトさん、空からお願いします!私は地上から!」
「飛べない!」

フェイトの意外な答えに、ティアナは思わず足を止める。

「なんでです!?」
「こっちの飛行許可手続きが終わってない。マウ・ソウ司令が申請受け取ってそのまま」
「はぁ!?」

ティアナの抜けたような声が返った。

市街地を飛ぶ場合、許可が必要となる。それは管理局世界では当たり前だ。その許可は基本的に、地元の地上部隊のものだ。だが出先でそのやり方だと、即応性に問題がある。そのために本局側の許可でも、飛べるようにする手続きが必要となる。これは、どこに行っても最初にやる手続きだ。そして、ほとんどの地上部隊は、申請直後に了承する。それがまだ出てないとは、あきれる他なかった。

しかし、フェイトはそれに動揺する様子を見せない。落ち着いて、次の対応をする。

「バルディッシュ。エリアサーチ」
"Yes sir."

だが、しばらくして返ってきた答えは、素気ないものだった。

<トラック、襲撃犯、共にロストしました>

フェイトはわずかに唇を強く結ぶ。
彼女は一つため息をつくと、肩をわずかに落とす。そして口を開いた。

「仕方がないよ。後はヒジュラムの地上部隊に任せよう」
「それしかありませんね」

ティアナが気落ちした表情を浮かべた。同時に、ヒジュラム地上部隊への苛立ちも浮かんできていた。





しばらくして、二人は気持ちを切り替えると、シャーリーと合流。そしてフェイトは指示を出す。シャーリーは、さっきやられた地上部隊局員の応急手当に向かった。そしてフェイトとティアナは犯人がいたビルへ。

まず何かを運び出そうとしていたビル。三階建てほどのビルの外見は、痛みが激しかった。用心しながら現場へ入る。
中はほとんど何もない。ドアも窓も古びている。長らく廃ビルだったらしい。あるのは引き出しが空な机といくつかの棚。何か作業をする場所というより、倉庫と言った方が近い。ティアナがフェイトに話しかける。

「何かの保管に使ってようですね」
「そうみたいだね」

フェイトは辺りを見回しながら答える。
ティアナは違法薬物や窃盗物の、保管庫だったのかもしれない。なんて事を考えていた。二人はデバイスに指示して簡単な検査をする。だが何も出てこなかった。現場の証拠隠滅はしっかりやってるらしい。後は地道な調査を待つしかない。ティアナはそう思い、フェイトにビルを出る事を提案する。だが上司は、不思議そうな顔つきを浮かべていた。ティアナは尋ねる。

「何か、気づいた事でもあったんです?」
「気づいたってほどじゃないけど。なんでこんな時間に、あんな事してたんだろうって」
「どうい意味です?」

ティアナはわずかに首をかしる。

「今って夕食の時間帯でしょ。人通りが一番多い。それに合わせて警邏の局員も多くなる。そしてここは繁華街からそれほと離れてない場所。そんな状況で、あんな大勢でコソコソと何か運び出してたら、見つかってもしょうがないと思わない?」
「言われてみれば…」
「早朝まで待てば、人通りも少なくなったのに」
「確かに、気にはなりますけど…」
「内部の証拠隠滅の徹底さに比べると、いい加減すぎる気がする」

フェイトの言葉にティアナは黙り込む。だが今答えが出る訳もなかった。それも今後の調査しだいだろう。
その後、攻撃してきたビルの方にも向かったが、これまた何も得られなかった。それから地上部隊を待った。三人が現場を離れた時には、深夜になっていた。




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