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No.16657の一覧
[0] フェイト執務官の事件簿「舞台裏の小人」(StS後 フェイト&ティアナ&オリ主)[ててらんまとう](2010/04/25 12:21)
[1] 第一話[ててらんまとう](2010/02/21 02:08)
[2] 第二話[ててらんまとう](2010/04/10 23:16)
[3] 第三話[ててらんまとう](2010/03/28 23:34)
[4] 第四話[ててらんまとう](2010/04/03 17:52)
[5] 第五話[ててらんまとう](2010/04/11 00:58)
[6] 第六話[ててらんまとう](2010/04/24 16:30)
[7] 第七話[ててらんまとう](2010/04/25 14:05)
[8] 第八話[ててらんまとう](2010/05/04 01:22)
[9] 第九話[ててらんまとう](2010/05/23 00:27)
[10] 第十話[ててらんまとう](2010/08/14 20:18)
[11] 第十一話[ててらんまとう](2010/06/21 00:36)
[12] 第十二話[ててらんまとう](2010/07/24 18:37)
[13] 第十三話[ててらんまとう](2010/08/14 20:19)
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[16657] 第二話
Name: ててらんまとう◆67b09e67 ID:9dc06554 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/10 23:16





「はぁはぁ…」

息を切らしながら走る。うらぶれた裏路地を。
管理局支給のデバイスは、もう何度目のリカバリーになるか分からない。その度に魔力を使ったため、もう底を突きかけている。陸戦局員用バリアジャケットもあちこちに傷を負い、それほど長くは維持できないかもしれない。

「こちら警邏の……。くそ!通信が通らねぇ!」

切れ々の言葉で悪態をつく。
念話を通そうとしたが、強固な妨害に遮られる。だが通信が通れば、それはそれで後で都合の悪い話になるのだが。もっとも今は、そんな事を考えている余裕はない。もうどう助かるか。それしかない。それができなければ、他の仲間と同じ目に会うだけだ。

ヒジュラムの首都バサイ。ここの空は晴れてることが多いが、今日に限って曇っている。しかし気温だけはやたら高い。そして湿度も高い。それが疲れを上乗せする。足がもう悲鳴を上げていた。でも走る。こんな時に頭に浮かぶのは、余計なもばかりだった。
なんでこんな目に会うのか。ただちょっとばかり小遣いを稼ごうとしただけなのに。連中の縄張りに、手を出した自分が馬鹿だったのか。それとも、用心して、もう少し仲間を増やした方が良かったのか。分け前が減るのを、納得して。
ただ一つだけは言える。相手を舐めていた。チンピラの集まりに過ぎないはずだった。だがまさか、あんなヤツがいるとはと。

薄汚い道を、縫うように走る。地の利は相手。ここは敵の本拠地。逃げ切れる可能性はほとんどない。しかし走るしかない。
そして細い道を右に曲がる。しかし見えたのは、三方の壁。行き止まりだった。

「ここまでだよ」

背後から声がする。慌てて翻る。

布で顔を覆った男が立っていた。例の男だった。ボロ布に包まれたその身は、こちらのいい訳を一切聞かないという雰囲気が漏れていた。

ボロボロの局員は、体中に冷や汗が流れていくのを感じていた。体が強張るのを感じていた。
だが、なんとか右手だけはまだ動こうする。最後の意地か、助かりたい一心か。

「この野郎!」

正面を向く右手。同時に輝く閃光。デバイスの先から、魔力弾!

しかし、それはあっさり局員の期待を裏切った。微動だにしてない相手に、傷すらつけられないのだ。しかもバリアを張らず、真正面から受けたというのに。
ボロの布の下は恐らくバリアジャケット。しかもそれが、かなり硬い。少なくともこの局員の力を余裕で上回るほどには。

もう終わりだ。そんな言葉が局員の脳裏を掠める。じりじりと下がる。そして背に壁が当たった。文字通り行き止まりだ。
それを待っていたかのように、相手が右手をゆっくりとこちらへ向ける。ガトリングガンを模したようなデバイスが、ボロ布の中から現れる。
狙いを定めて。

「て、てめぇ、何やってんのか分かってんのか!?」

うらぶれた路地裏に、捨て台詞が響く。

「仲間はあれだけじゃねぇからな。ただじゃ済ますさねぇ!この貧乏人共が!」

苦し紛れの罵声を飛ばす。だが、壁に張り付いた背中からは、汗だけが噴出していた。

「俺達はな、テメェらの胡散臭い商売守ってやってんだぞ!し、しのぎはその正当な代価だ。文句言われる筋合いはねぇ」

震えた声でいい訳を繋げる。できる事と言えば、それしかないのだから。
だが覆面の男は答えない。

「か、管理局を舐めんじゃねぇぞ」

それが合図となった。

覆面の男の右手が光った。デバイスが閃光を発する、吼えるように光弾を放つ。

「がっ!ぎゃ!」

局員と見られる男は、悲鳴とも呻きとも分からないような声を上げうずくまる。そして身を固める。そして降伏の言葉を何度も並べる。何度も。
だが、覆面の男は容赦なく、光弾を撃ち続けた。雨のような光弾を浴び続ける局員。やがて彼は力なく崩れ、動かなくなった。

しかし、それでも光弾は止まらない。

「カスィフ!」

覆面男の名前が呼ばれた。その名を叫んでいたのは、後ろから駆け出した少女だった。やや乱暴に切ったショートボブぎみの亜麻色の髪に、大きな瞳。見た目は田舎娘のような朴訥さを感じさせた。
彼女は掴みかかるように、覆面男のデバイスを下に向けさせる。

「ちょっ!ストップ!ストップ!死んじゃうヨ!」
「死にはしないよ。このくらいじゃ」

どことなし性別を感じさせない声が帰ってくる。

「何そんなムキになってんの!?いきなり振られた男の子のみたいだヨ」

だが覆面男はそれに答えず、顔を覆う布を解いていく。やがて覗いた顔は、これまた中性を伺わせる顔つきだった。一見したその顔は、少年と言った方がいいだろう。もっともその童顔の顔つきが、単に彼を若く見せてるだけかもしれない。
無言の彼に、少女は困ったような表情を浮かべる。そして後ろにいる彼の仲間に、声をかけた。

「いつもこんな調子?」
「相手が局員の時はな」
「なんで?」
「さあ?言わねぇから」

そして、また少女は男の方に振り向く。

「なんか管理局とあった?」
「別に。それより、なんでラーナ達は僕らに、付き合ってんの?」
「え?迷惑デスカ?」

ラーナと呼ばれた少女は、大げさに驚きながら返す。やや滑稽に。それにカスィフは、少しばかり表情を緩めた。

「そういう訳じゃないけど。でもさ、僕らこんな事してるから。どんな目に会うか分かんないよ」
「居候の立場で何もしなかったら、見限られちゃいマスヨ。ここで捨てられちゃうと、ホント困るし。行く当てないから。あ、でも嫌々付き合ってる訳じゃないヨ」
「それじゃ、なんで?」
「管理局の連中はムカつくから。あいつらいじめるの楽しいし。じゃダメですか?」

あっけらかんとした口調で返してくる。それにカスィフは感心したとも、呆れたとも取れる顔を浮かべた。

やがて彼は仲間に指示を出す。いつものように始末するのだ。この気を失っている局員を。と言っても命を奪う訳ではない。犯行の証拠といっしょにさらし者にするだけだ。
この局員。この周辺が管轄なのだが、そこで恐喝をやっていた。確かにこの辺り、露天商などの無許可営業が多い。獲物は豊富だったのだ。そこで荒稼ぎをしていた訳だ。やがてカスィフたちに目をつけられ、焼きを入れられたという訳だ。



カスィフ。フルネームをカスィフ・ラジッド・カーヒムという。女装したら似合いそうなほどの、中性的な顔つきだった。それは幼ささえ感じさせる。だが見た目ほどは幼くはない。と言っても20程度だが。
この辺りで、自警団まがいな事をやっている。むしろ、どちらかと言えば何でも屋だ。ツテを使って、仕事の紹介なんかもやっている。それはそれで、この不景気にありがたい存在だった。

ヒジュラムの首都バサイの行政は、管理局も含め手が回らない面が多くあり、地元の人間が自分なりでなんとかしないといけない部分があった。各地区にそのための自警団的なものがある。カスィフ達はここの地区のチームという訳だ。そして悪徳局員やマフィア、悪意の財閥からこの地区を守っていた。代わりに食や仕事を、地元の住人から世話してもらってる。持ちつ持たれつである。ただ他のチームとカスィフ達が違うのは、結束力と戦闘力の高さだった。
だが彼自身はこの出身ではない。それどころか、その生い立ちも不明だ。特にここに流れ着くまでの14歳以前は。彼がそれを話そうとしないのだ。分かっているのは両親がもうおらず、死んでいるという事だけ。だが、過去にこだわるような連中はここにはいなかった。同じ街の者は、皆家族だった。

そんな日々を送ってる中、ラーナに出会った。それはつい二週間ほど前。彼女のフルネームはラーナ・サナス・アフージ。亜麻色のショートヘアの少女。童顔の顔つきのくせに、その仕草は少女らしくない。年齢も生まれも不詳。
彼女達はカスィフの縄張りに、手を出そうとしたチームの一つだった。そして抵抗むなしくやられてしまった訳だ。
その後カスィフがラーナ達に、ここを襲った理由を聞いいたが。理由はよくあるものだった。
彼女達は元々、南の方に縄張りを持っていたのだが、管理局に追われここまで逃げてきたという事だった。そして空腹のあまり手を出したと。もちろん、ここに縄張りを作れればとも考えていたが。

そんな彼女達をカスィフは責めずに、とりあえず置いておく事にした。仲間にするか、彼女が出て行くか。それはまだ決めなくていいと。それにラーナは悪人には思えなかった。腕の方も勝ったとは言え、なかなかのものだ。多少助けになってくれればと考えてもいた。



カスィフはいつもの詰め所で休む。詰め所と言っても、誰も使わなくなったボロボロの空きビルを、自分達で手直ししたものだ。そこにある備品も家具も、どこかから拾ってきたかもらったものばかり。でも一応使える。
カスィフはそんな部屋にあるボロボロのソファの端に座り、ミルクの入ったカップを口元に寄せていた。すると下の階から、仲間とラーナ達が戻ってきた音が届く。さっきの局員の始末を付けたらしい。罪状といっしょに晒し者にしただけだが。耳を澄ますと隣の地区から、騒然とした声が漏れてきている。その局員をネタに、騒いでるのだろう。

やがてラーナが部屋に入ってきた。飲み物を飲んでいるカスィフを見かけると、大きめの瞳をさらに大きく見開いた。

「ミルク好きだね。ホント」
「美味しいよ」
「ここは酒でしょ」
「酒はないってば。おっさんの所に行けば?」
「帰ってきてすぐに、アー!ウメー!ってやりだいんデスヨ」
「ここはダメ」

ラーナはしらじらしく肩を落とす。
カスィフは妙な所でストイックだった。ここに酒がないのも、一応仕事場というのもあるが、チームの中にはまだ子供もいるからだった。そんな訳で、冷蔵庫にはビール一本入ってない。まあ、すぐ側にパブがあるので、気にする者はいないが。

やがてラーナはカスィフと同じように、ミルクを飲みだす。そして窓際の壁に寄りかかった。薄汚い壁に。そしてポツリとつぶやく。

「あのさ。何でこんな事やってんの?」
「ミルク好きなんだよ」
「そうじゃなくって、局員とかマフィアとか叩き出してる事。ここの人たちに、世話になってるのは確かだけど」
「他ん所でもやってるよ」
「他はもう少し穏便だヨ。場合によっては手組んだりしてるし。ここほど頭ガチガチぶつけ合ったりしてない」
「だがら逆に、結局はいいようにやられちゃう」
「それはそうですけどネ。でも、このままじゃ潰されちゃうんじゃない?」

そんなラーナは言葉に、カスィフは拗ねたように答えない。彼女はそこで話を切る。そして窓の外に目をやった。
淀んだ空の下、遠くに繁華街サマサ通りの輝きが見える。一方目の前には薄汚れた街。だが、ここは他と違って活気はあった。これもカスィフのおかげだろうか。他と手打ちをそうしない分。ここにはまだ自由が感じられる。

その時、声が届く。隣から。同じものを見ているカスィフだった。

「でも……そうだね。ラーナの言う通りだ。ちょっと押さえないと」
「何を?」
「こんなやり方をだよ」

そう言って、彼はラーナを見つめたまま口を噤む。そんな彼にラーナが柔らかく笑みを返した。童顔の顔つきに似合わない、包むような笑顔を。ふとカスィフは気持ちがざわつくのを感じた。
それをごまかすように、彼は視線を逸らす。

「とにかく、ラーナの言う事も聞くよ。これからは」
「お、ボスに言っていただけると、ありがたいネ」
「ボスか…そうなんだよね。もうボスにならないと」
「?」

カスィフの言葉に、ラーナは不思議そうな顔を浮かべていた。
やがてカスィフは自分に言い聞かせるように、言葉を吐く。そして淀んだ空を見上げて。

「もう、始めてしまったんだから」



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