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No.16056の一覧
[0] 余生におけるある世界との付き合い方(百合、転生・TS)[Fath](2011/03/14 20:35)
[1] 第一話[Fath](2010/04/29 11:36)
[2] 第二話[Fath](2010/04/11 13:10)
[3] 第三話[Fath](2010/02/25 23:38)
[4] ~何でもないある日の話~[Fath](2010/04/11 13:12)
[5] 第四話[Fath](2010/05/30 07:14)
[6] 第五話[Fath](2010/04/11 13:13)
[7] 第六話[Fath](2010/02/25 23:39)
[8] 第七話[Fath](2010/03/14 13:10)
[9] ~前世と現世~[Fath](2010/05/05 13:00)
[10] 第八話[Fath](2010/03/14 13:14)
[11] 第九話[Fath](2010/03/14 13:15)
[12] ~真夏の大決戦!…なの?~ 前編[Fath](2010/02/25 23:41)
[13] ~真夏の大決戦!…なの?~ 後編[Fath](2010/03/14 13:17)
[14] 第十話[Fath](2010/05/30 07:18)
[15] 第十一話[Fath](2010/05/05 13:01)
[16] 第十二話[Fath](2010/05/30 07:21)
[17] 第十三話[Fath](2010/03/04 15:16)
[18] 第十四話 ~風邪引き龍野ちゃん、なの?~[Fath](2010/03/14 13:18)
[19] 第十五話 ~父親との邂逅、です~[Fath](2010/03/08 15:33)
[20] 第十六話[Fath](2010/05/30 07:26)
[21] 第16.5話[Fath](2010/04/11 13:24)
[22] 第十七話[Fath](2010/03/14 13:20)
[23] 第十八話[Fath](2010/03/14 13:06)
[24] 番外編 ~ある一つの未来~[Fath](2010/04/11 13:32)
[25] 第十九話[Fath](2010/03/31 01:43)
[26] 第二十話[Fath](2010/04/11 13:08)
[27] 第二十一話[Fath](2010/04/29 11:37)
[28] 第二十二話 ~滑りすぎ注意、なの?~[Fath](2010/05/05 13:10)
[29] 第二十三話[Fath](2010/05/05 16:47)
[30] 第二十四話 ~テストは嵐、なの……~前編[Fath](2010/05/16 11:41)
[31] 第二十五話 ~テストは嵐、なの……~後編[Fath](2010/05/30 07:40)
[32] 第二十六話[Fath](2010/05/30 07:42)
[33] 第二十七話[Fath](2010/05/30 07:11)
[34] 第二十八話[Fath](2010/06/06 23:54)
[35] 第二十九話[Fath](2010/07/28 22:09)
[36] 第三十話[Fath](2010/08/11 21:15)
[37] 第三十一話[Fath](2010/09/17 23:01)
[38] 幕間 ss1[Fath](2011/03/14 20:33)
[39] 幕間 ss2[Fath](2011/03/14 20:33)
[40] StS 第一話[Fath](2011/03/14 20:31)
[41] StS 第二話[Fath](2011/04/03 15:58)
[42] StS 第三話[Fath](2011/03/24 15:13)
[43] StS 第四話[Fath](2011/03/28 17:25)
[44] StS 第五話[Fath](2011/04/03 15:54)
[45] StS 第六話[Fath](2011/04/17 19:18)
[46] StS 第七話[Fath](2016/11/03 03:02)
[47] StS 第八話[Fath](2016/11/18 15:45)
[48] StS 第9話[Fath](2016/12/25 07:03)
[49] STS 第10話[Fath](2017/01/01 22:10)
[50] STS 11話[Fath](2017/01/11 20:14)
[51] 最終話[Fath](2017/03/19 22:17)
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[16056] 最終話
Name: Fath◆995c8f6d ID:ba5169b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/03/19 22:17



ずっと、隠していたことがあった。
ずっと、想っていることがあった。
それは全て、間違っていると思ったからで。
私は今、その瀬戸際に立っている。

後藤 龍野、九死に一生。
すべてを清算させる時です。



余生におけるある人生との付き合い方 最終話



龍野がやっと退院できたのは、目が覚めてからひと月が経った時だった。
元々大きな怪我もなく、リハビリに集中していた。
日常生活に問題ないと診断されたため、家に帰ることができたのだ。

「あー、やっと着いたぁ」

ミッドチルダの家に戻るのも久しぶりだった。
スカリエッティの影響で、様々な場所に傷跡が残っていた。
管理局から近くなかったおかげだろう。家の損傷自体はないに等しい。

「ほんと、久しぶりね」
「ティアナも来るの久しぶりでしょ?」
「まぁ、ね」

今日一緒に退院したティアナもこの家に入るのは久しぶりだった。
なのはとフェイトは急に入った仕事のせいで、この場にはいない。
この仕事の件で、はやてが泣きそうな顔をしていたのは龍野は知らぬことだった。

仕事場と家が繋がったような作り。
ティアナの部屋もしっかりと確保されている。
あとはほとんど使われない客間があるだけの家だ。
フェイトとなのはは、客間ではなく龍野の部屋で寝るため、そんなことになっていた。

「ティアナがいてくれて、助かった。ありがとう」

一か月の入院荷物となれば、ある程度大きくなる。
退院が決まったばかりの龍野には重く、一人だと大変だった。
龍野はお茶の準備をしながら、ティアナに礼を言う。

「う、ん。気にしないで」

むず痒いような顔で、ティアナはそう言った。
隠すようにお茶を飲んでいるが、少し頬が赤い。

「なんかさ、タツノさん、変わった?」
「そう?」
「うん。前より、なんだろ……柔らかい、かな?」

言葉を選んで口に出す。
何かを変えたつもりは、龍野にはない。
しいていえば。

「うーん、大切なものに気づいたからかな」
「え、どういうこと?」

慌てたようにティアナがお茶を置く。
少しだけ波だったお茶がこぼれた。
それを、また優しい顔で龍野が見てくるからティアナとしてはたまらない。

「ないしょ」

ふわりと柔らかく笑う。
それが、まさしく女性の微笑みで。
ティアナは普段とはまた違う気配に息をのむ。

「でもね、今回助けられて、色々考えた」

落とされた視線に温度があるならば。
ティアナはふと考える。
前までの龍野は冬の色を抱えていて、今の龍野は春の色を抱えていた。

一人でいるのが好きな人だと思っていた。
なのはやフェイト、ティアナがいくら近づいても、どこに距離がある。
なのはに入り込ませているスペースと、フェイトに入り込ませているスペース。
ティアナが入らせてもらっているスペースは別なのだ。
そして、龍野の周りには誰も入れない領域がある。

「ティアナにも言いたいことがあるから、二人でちょうどよかった」

ぶつかる視線が温かい。
ティアナはこの人に寄り添って”もらって”いた。
途中から、龍野も自分と似たような感情を抱いているのがわかった。
だから、さらに寄り添うようになった。
家族になりたくて、寂しいのが嫌で、寂しそうなのが嫌で、傍にいた。
龍野に好きな人ができたとしても、離れるつもりはない。

「これからも、家族でいさせてください。ティアナに大切な人ができるまで」

龍野の口から出た願いに泣きそうになる。
涙腺が緩む。
初めて、龍野自身の口から求められた。
そんな気がティアナにはした。

「こっちこそ、よろしくっ」

言葉にならない音。
それでも確かに二人にはその音が聞こえていた。



なのはが龍野を訪ねられたのは、退院してから3日後だった。
これでも早めに仕事を終わらせてきた。
親友であるフェイトはまだ、仕事が終わっていない。
きっと誰よりも龍野の傍に居たかっただろう。
わかっていても、譲れない。
なのはだって、その気持ちはあるのだから。

「龍野ちゃん?」
「ああ、なのは、いらっしゃい」

珍しく龍野が料理をしていた。
エプロンもしっかりとつけて、様になっている。
作っているのはお菓子のようだ。
いつもはしない甘い匂いがなのはの鼻をくすぐった。

「ちょっと待ってて、荷物はいつものように置いてくれていいから」
「うん、わかった。何か手伝う?」

今日は泊まる予定だ。
泊まるとき、いつも龍野と一緒の部屋を使わせてもらっている。
客間を使えばと何度も言われていたが、広い客間を一人で使うより、少し狭くても龍野と一緒が良かった。

「大丈夫、ありがとう」

感謝がこぼされた口元に笑みを見つける。
いつもと変わらないはずの表情に、一瞬動きを止めてしまう。
――なんだろう。
何かが違う。
入院中、何度も足を運んだ。
退院こそ付き添えなかったが、久しぶりというほどの期間でもない。
変わっていないはずなのに、何かが違う。

「龍野ちゃん」
「なに、なのは?」
「……ううん、なんでもないの」

それが、少しだけ、心を騒がせた。

「はい、なのは」

荷物を置いて、戻ってきたなのはの前に皿が差し出される。
綺麗な白い皿。
その上に載っているのは、定番のショートケーキだった。
皿とタツノを何度か見比べる。
苦笑いが返ってきた。

「作ったの。なのはに、食べてもらいたくて」

龍野が、なのはに作った。
このショートケーキを。
衝撃的な出来事に頭がとまる。

「え、あ、うん。すごく嬉しいよ、でも、なんで?」

龍野は家事ができる。
でもわざわざケーキを作ってくれたことはない。
一緒に食べに行ったことさえ、数えられるほどだ。
わからない。
なんで、こうしてくれるのか。
それは、一種の恐怖に近いものをなのはに齎した。

「今までの感謝と、ごめんねって意味」
「謝られるようなこと、したの?」

じっと白いケーキを見つめる。
自分の家が喫茶店をしているため、見慣れている。
そのなのはから見ても、とても美味しそうなケーキだった。

かたんと音がして、龍野がなのはの対面に座る。
困ったように少しだけ首をかしげる仕草にどきっとした。
いつの間にか知らない人、知らない女性になってしまっているような気がしたからだ。

「なのはとは、一番長い付き合いだよね」

血の流れが変だ。
熱くなったり寒くなったり、暇がない。
背中を冷や汗のようなものも伝っている気がして、なのははお腹に力を入れた。

「そう、だね」

龍野と一番付き合いが長いのは、自分だ。
それをある種の誇りに思っている。
龍野を最初に好きになったのも、友達になったのも、自分。
フェイトでもティアナでもない。

「私さ、最初から間違ったんだと思う」
「え?」
「なのはとの関係」

ざっと血の気が引いた。
鏡を見なくてもわかる。
今の自分は蒼白だろう。

音が遠くなって、光が遠くなる。
ぼやける景色の中で、龍野が立ち上がるのが見えた。

「ちがう、違うから、なのは」

隣に座る龍野の手が温かい。
ふらついた体を支えられるように、龍野の胸へなのはは顔を埋めていた。
龍野の匂いと温もりに包まれる。
それに自分を拒絶するものは何もなかった。

「最初、なのはは友達になろうって言ってくれた」
「うん」

自分の頭の上で龍野の声が聞こえる。
心地のいい体験だった。
もう少しだけ温もりが欲しくて背中に手を回す。

「だけど、私は距離を置いた」
「うん」

龍野の声がじかに響く。
心臓の音がした。

「それを謝りたくて」
「いいのに」

律儀な性格だ。知ってはいた。
謝られる必要があるとは思わない。
だって、嫌がっている龍野にぐいぐいと近づいたのも自分なのだ。

「だめ。あと、ありがとうって」

なのはが顔を上げると真面目な顔をした龍野がいた。
思ったより近い距離に顔が熱い。

「あらためて、私と友達になってください」
「うん……うん!」

この後食べたショートケーキは一生忘れられない味だった。



もう遅い時間になりつつあった。
急に入った仕事を、どうにか終わらせて、退院後、初めて龍野の家に足を運んだ。
夕飯時にお邪魔することになったフェイトは、龍野が作ってくれたご飯を食べた。
何も変わらない穏やかな時間だった。

誰の場所よりも通いなれたベッドの上で、フェイトは一人、緊張感に包まれていた。
龍野のいる場所でこんなに緊張するのは初めてかもしれない。

――嘘みたい。

龍野が救出されたとき、大きな外傷は何もなかった。
検査結果も異常値は出ず、なぜ目覚めないのかわからない状態だった。
だから、もう一度龍野が目を開けてくれたときは、本当に奇跡だと思った。
筋力の低下のためにリハビリが必要ではあったが、今の龍野は依然と何も変わらず生活をしている。

「フェイト? 寝てても良かったのに」

お風呂から上がってきた龍野が目を何度か瞬かせた。
その表情はフェイトが見たことがないくらい柔らかい。
「何も変わるはずのなかった生活」が確かに変化を遂げている。
それが何かフェイトにはまだつかめていない。

「あ、ううん! タツノと話したかったから」
「そっか、ありがとう。待っててくれて」

ふんわりと口の端を上げる龍野。
言わなきゃいけないことも、伝えなきゃいけないことも、いっぱいあった。
たくさん、たくさん、準備してきた。
それでも、いざこの場面になると少しも口から出て行ってくれなかった。

「あのね、タツノ」

捕まえておけと、自分に言ったのは誰だったろう。
はやてだったか、アリサだったか、もしかしたら、すずかかもしれない。
龍野を死なせないように、この世界に縛り付けなければならない。
ある時からずっとフェイトの中の一部を占めていた感情は、この間の事件でパンクしてしまった。

――嫌われてもいい。
――もう、この場所に来れなくなってもいい。
――タツノに死んでほしくない。

「わたしは、タツノのことが好きだよ」

たくさん、たくさん用意してきた言葉の、一番最後に言うはずだったそれを、フェイトは最初に口に出してしまっていた。
理由をいっぱい考えた。
言い訳もいっぱい考えた。
逃げ道もいっぱい考えた。
それほど言うのが怖かったはずなのに、フェイトの気持ちが我慢してくれなかった。

「ありがとう。私もフェイトのこと、好きだよ」

どっくん、どっくん鳴っていた心臓に邪魔をされるも、その言葉ははっきりと聞こえた。
嬉しかった。それと同時に少し悲しくもなった。
やっぱり、微塵も伝わっていない。

「違う、そうじゃない。そうじゃなくて」

友達としても好きだ。
だけど、そうじゃない。
家族としても好きだ。
だけど、それじゃ足りない。
フェイトの中で一番大きくなってしまった願望は、きっとあの時のベッドサイドで全てこぼれてしまっていた。

歪む視界の先に龍野の姿だけが輝いて見えた。

「フェイト」

ゆっくりと近寄ってきた龍野に優しく抱きしめられる。
立っている龍野のお腹に顔を埋めるような形になった。
ほんのりと暖かくて、涙が一層強くなる。

「私は、まだわからない。好きだとか、嫌いだとか」

ぽんぽんと頭を撫でられる。
それは遠い記憶がよぎる、暖かい手だった。
頭の上で響く龍野の声がひたすらに優しい。
――自分の事を少しも否定することなく、優しく受け止めてくれている。

「でも、わかってることもある」

「なぁに」とこぼれた言葉は幼くて甘い。
まるで自分が子供だった頃に戻ってしまったかのようだった。
少し恥ずかしくて、でも心地いい。
龍野がいつもくれる温かさだった。

「それは私が生きているのはフェイトたちのおかげってこと」

ぎゅっと抱きしめられる手に力がこもる。
どういうことか聞きたくて、顔を上げようとした。
それでも龍野の腕は振り切れなかった。

「もうちょっと待ってくれる?」

優しく、柔らかく、すごく大切な宝物を扱うように龍野の手がフェイトの頭を撫でた。
龍野は――龍野は酷い人だ。
わかってないなら、まだしも、わかってからも待たせる。
フェイトは少しだけ微笑んだ。きっと誰にも分からない程の微かなものだ。

「タツノは、ひどいね」
「……うん、ごめんね」
「いいよ、そういうところも、好きみたい」

息を吸い込めば龍野の香りが体中に広がった気がした。
優しくてあったかい匂い。
きっと、そう待たされることもないとフェイトは思った。
どちらにしろ、今は答えをもらうこともできない。
親友に抜け駆けをしてしまったことも言わなければ、と色々なことを考えて。
それからフェイトはそっと目を閉じた。



カチャンと茶器と皿がぶつかる音がした。
いつもなら絶対一人で訪れることのない場所に緊張が拭いきれない。
目の前にいるのは友人であるはずなのに、この様だ。

「なぁに、アンタ、結局逃げてるの?」
「いや、そういうわけじゃ」
「逃げてるでしょ。また、一発貰いたい?」
「もう十分だから」

アリサの語気に、慌てて首を振る。
龍野がここにいるのは理由がある。
しかし、それは叩かれることではない。

「幸せにしたいと、思ってる」
「ふぅん」

アリサの相槌が突き刺さるようだ。
まるきり信用されていない。
龍野は心を決めて顔を上げる。

フェイトから告白されて、その返事を保留した。
その後、なのはからも似たようなことを言われ、それも待っていてもらっている。

「好きなんてね、後でいいのよ。特に、なのはたちには」

なのはとフェイトはきっと龍野が傍にいるだけで喜ぶ、とアリサは言う。
自分で言うのもあれだが、そんな気はしていた。
あの優しい二人のエースは、そう言ってくれるだろう。

「二人とも本気なら、私も本気で応えたいから」

好きじゃなくても、好きと言うことはできる。
好きじゃなくても、できることはある。
それでも、龍野は本気で二人に応えたかった。
なぜなら自分の命がいつ尽きるかわからないからだ。

「半端に付き合って、半端に喜ばせて、大きく傷つけるのは嫌」
「よく言うわ」

アリサがほとほとあきれ果てた顔で龍野を見る。
ずっと三人の関係を見てきたアリサにしてみれば、それこそ今さらの言葉だった。

「また、危ないことするつもりなの?」
「そのつもりはないけど、何があるかはわからないから」
「それもそうよね」

本来ならば龍野よりもフェイトやなのはに命の危険がある。
ただ、今の自分は命のカウントダウンが始まってしまっている。
うかつに手を出すことはできないと龍野は考えていた。

「人間、誰だっていつ死ぬかなんてわかんないわよ」

「あたしも、あんたも」とアリサはお嬢様らしくなく指をさす。
白い指先が動くのを龍野はじっと見ていた。

「もしかしたら、明日死ぬかもしれないし、ずっと先かもしれない」

誰にも分からない。
龍野にも、フェイトにも、なのはにも。
龍野の命がいつ消えるかわからないように、なのはとフェイトの命も今消えている可能性があるのだ。
その想像だけで龍野は背筋に氷を差し込まれたような気がした。

以前ならわかった。
何が危ないのか、いつ危ない時期が来るのか。
しかし今の龍野にその能力はない。
できるのは疲れをとることくらいだ。

「どうしよう」
「だから、さっさと決めて、目いっぱい幸せになったら、って、あたしはずーっと言ってるのよ」

煮え切らない龍野に、アリサが面倒くさそうに答える。
龍野の言うことはわかる。
わかるけれど、ひどく面倒くさい。
いらいらをごまかすようにアリサは前髪をかき上げた。

「死ぬとか考えてないで、さっさとあたしの友達を幸せにして」

ぼそりと呟いた一言がアリサの本心を何よりも表していた。
危なっかしいところはまだある。
それでも以前よりは、なんというか、人らしくなった。
フェイトとなのは、龍野の関係がどうなるかは分からないが、きっと悪いことにはならない。
そんな予感がアリサはしていた。

「わかったら、人生相談に来る前にさっさと行動!」

アリサの言葉に龍野は小さく頷いた。
何杯もお代わりしていた紅茶を飲み切り、席を立つ。
今日はなのはとヴィヴィオと遊ぶ約束をしていた。
明日はフェイトが泊まりに来る。

死にたくないなと龍野は思った。
いつか死ぬとはわかっていても、今は死にたくない。
人として生まれて、人生二回目にして、初めての感覚だ。

見上げた空は、いつもと変わらず青かった。




最終話  終了



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