次元艦船に搭乗してから一夜が明けた。
とはいっても部屋から外の景色を見ることは出来ないので、これは個人的にそんな気がするだけである。
昨日はあれから食堂で夕食を頂き、ジュエルシードにユーノが封印を掛けなおしてから一緒に風呂に入り、その後は直ぐに寝た。
艦内で出される食事はいろいろな種類があったものの、野菜生活100%な生活を送っていたためか身体が油ものを受け付けず、結局肉類は食べることが出来なかった。
これは健康で文化的な最低限度の生活というのは本当に最低限度ということなんだろう。 ピーマンうめえ。
またユーノのアレにはまだ毛は生えていなかったが、そこにはあからさまな大器の片鱗が存在し、俺はその揺れっぷりに思わず絶句してしまった。
いったい神様は何処まで不公平なんだろうか。
ちなみにジュエルシードは、一度封印を掛ける前に超音波洗浄機で洗ってみたものの結局染みついた臭いは取れなかったらしい。
いや、もうほんとすいませんでした。
今は朝食も食べ終わり、貸し与えられた一室でユーノとトランプで遊んでいるところである。
初めはババ抜き、ポーカー、ブラックジャック、スピードといった定番のゲームをやってみたが、賭けるものもないしお互いどちらかというと頭脳派なので対して面白くもなく、ババ抜きなんて一度も俺が負けなかったためにユーノはかなり落ち込んでしまった。
そしてつい先ほどは大富豪をやってみたのだが、これはカードを貰った段階で相手の札が読めてしまうため今までで一番つまらなかった。
「なんだか予定調和的だったね。 残りの手札から相手の出方が読めちゃうし」
「ああ、正直一番初めに3のトリプルが出てきた段階で展開が読めた。 これは正直萎えるな」
「そうだねー」
二人で大富豪とかある意味オナニーみたいなもんだよな。
俺の得意分野です。
「他には何か無いの?」
「UNOとかも面白いんだけど、そっちは家に無かったんだよなあ……」
「ウノ? それってどんなゲーム?」
「簡単に言うと、0から9までの数字と特殊な効果を持つ英字カードを駆使し、相手より先に手札を消費した方が勝ちって言うゲーム。 正直かなり面白い。 俺はみんながやってるのを後ろから見てるだけだったけど、作戦とか考えてるだけでも結構楽しかったし」
そうだ、大富豪とUNOのルールを混ぜれば面白くなりそうだな。
「おいユーノ、いいことを思いついたぞ。 さっきの大富豪のルールを変更してもう一度やろう」
『大富豪に以下のようなルールを追加する。
1.初めに配られるのは7枚。
2.お互いに配られたカードから最弱カードを見せ、弱いほうが先手になり、先手は好きなカードを場に出してゲームを始めることができる。
3.通常の大富豪と同様、場に出されているものよりも強いカードを出していき、場に出せなかった、またはパスをした時、1枚ずつ出されている場合は1枚、2枚ずつ出されている場合は2枚という風に枚数に応じて山札からカードを引く。
4.『8』と『J』を特殊効果カードとし、『8』を出すと場は流れ(8流し)、『J』を出した時はカードの強さが逆転する(イレブンバック)。 この時8流しでは相手はパス扱いにはならない。
5.縛りとして『スート縛り』と『階段縛り』を設ける。 『スート縛り』では同じ絵柄マークが3つ続いたときそれ以降は場が流れるまでは同じマークしか出せなくなり、『階段縛り』では数字が場に出されたカードが3つ連続する(5→6→7など)、または同じ間隔で跳ぶ(5→7→9や5→9→Kなど)場合その後も同じ間隔が開いた数字しか出せなくなる。
6.『縛り』が発生している場では特殊効果カードは効果を発動することができない。 またこの『縛り』の確定するタイミングで特殊効果カードが出された場合は、カードを出したものが効果を発動するかどうかを選択できる。
7.最後に『JOKER』、『2』を出して上がってはいけない。 』
「どうだ? これで駆け引きができるようになるんじゃないか?」
「へえ、これなら面白そうだね。 早速やってみようか」
ということでカードを7枚ずつ配り、俺達は互いの最弱手札を見せ合った。
俺の最弱手札は♣の『4』。
ユーノの最弱手札は♠の『5』。
先行は俺か。
俺の手札は“♣『4』、♠『9』、♦と♥『10』、♥『Q』、♠と♥の『2』”。
相手から読まれないように順番はランダムに並び変える。
この手札ならば上手くやれば即効で終わりそうだ。
『2』はダブルだからまだ出せない。
イレブンバックの可能性を考えると『4』はとっておくべきだろう。
となるとまずは処理しづらい♠の『9』だな。
俺はカードを場に出した。
場
俺 ♠『9』→ユーノ ♦『A』
何っ、いきなり『A』を切ってきただと?
奴は配られて直ぐカードを見ながら順番を並び変えていた。
最弱である『5』をこちらから見て右から2番目に入れ、今の『A』は左から2番目の位置から出されたということは、『5』はダブルで『2』か『JOKER』を持っている可能性が高い。
先ほどの特別ルール無しの大富豪で奴はカードを順番に並び変えていたからな。
そして今の出し方にためらいや迷いは感じられなかった。
ババ抜きでわかったことだがユーノは感情が表情に出やすい。
ならば残りの6枚中3枚のカードは①『何かのトリプル』、②『8とそれ以外のダブル』、③『8とJ、そして6か7』の場合が直ぐに想像できる。
これはそうそうに『A』をノータイムで出してきたのは残りの手札で上がる手段を持っていないと説明がつかないことからの推測だ。
最後の場合が一番確率が高いが確率論などこの勝負では何の役にも立たない。
勝つためには全ての可能性を考え、常に最悪に備えるべきだろう。
それにここはまだ序盤だ。
後にいいカードを引く可能性を考えれば、ここは相手にカードを引かせて反応を見た方が優位に立てるのではないだろうか?
それにもし『JOKER』を持っているのならここで使わせてしまいたい。
とするとここは①の場合を考えて『2』のペアを崩さざるを得ないか。
場
俺 ♠『9』→ユーノ ♦『A』→俺 ♠『2』
「パス」
そう言ってユーノはカードを1枚引いた。
その表情はあまり良くない。
そしてそのカードを向かって右から4番目に入れた。
これで手札はほぼ確定したと思っていいだろう。
今のユーノの手札は左から順に“『5』のダブル、『6』、『7』、『8』、『J』、『2』”だろう。
もし①や②ならばまだ何とでもなるから表情はそう悪くならない。
また『JOKER』を持っている場合も同様の理由によって除外される。
そして『8』と『5』の間にカードを入れ、このような微妙な表情になったことを考慮すればダブルになった可能性も排除できる。
さて、後はじっくり料理してやるか。
『イレブンバック』は現時点では怖くないのでまずは邪魔な『2』をどうにかしたい。
ここは『Q』を出しておこう。
場
俺 ♥『Q』
「パス」
またユーノはカードを一枚引いた。
しかし今度は拙いことになったかもしれない。
奴の表情とカードを入れた位置から考えれば引いたカードは間違いなく『2』。
ダブルへの対処に『10』は採っておくならば次は『4』を出すべきか。
場
俺 ♣『4』→ユーノ ♦『2』
「パス」
くっ、流石にそう甘くはないか。
こちらに『2』がある危険性を考えれば当然だな。
だがこれで奴の保持している『2』のペアは崩れた――――
そんな感じで読みあいが楽しくてついつい小1時間程続けてしまった。
そして、精神的に疲弊してきたからこれで最後にしようという回にソレは起こった。
――――次の場はユーノが親か。
しかしおかしい。
ユーノの手札が今回に限って全く読めない。
予測通りの場合もあれば、全く予測もしないカードが出されることもある。
いったいどうなってるんだ?
場
ユーノ ♦『4』→俺 ♣『6』→ユーノ ♠『8』(効果非発動・階段縛り発生)→俺 ♠『10』
ここでユーノが俯きがちに聞いてきた。
「一つ確認したいんだけどさ、スート縛りって『3枚連続で同じ模様』が出たらいつでも発動するんだよね?」
目を伏せているから表情が読めない。
「ああ、その通りだ」
「それは良かった」
そう言いながらユーノが出してきたのは♠の『Q』。
「ならこれで『スート&階段縛り』になった訳だ。 もう♠の『A』と全ての『JOKER』は使用されているよね?」
ちっ、油断していた。
今の手札は“♦の『A』、♥の『8』、♣の『10』”。
縛りは3枚連続で発動するとルールを設定したのは俺だ。
文句は言うまい。
むしろそこをついてきたユーノを上手いと褒めるべきだろう。
「確かに♠の『A』はもう使用されている。 パスだ」
俺は山札からカードを一枚引いた。
引いたカードは♥の『A』。
山札に残る最後の『A』だ。
既に全ての『2』と『JOKER』は出尽くしていることを考えればこれは最強のカードを引いたということだな。
そしてまだユーノの手札は5枚もある。
ふっ、残念だったなユーノ。
今回はお前の手札を読み切れなかったが、それでも幸運の女神は俺に微笑んでくれたようだ。
「ふはははは、さあお前の番だ。 好きなカードを出すがいい」
勝者の余裕を浮かべてユーノを見下してみたものの、奴はこちらを見て嫌な笑いを浮かべている。
なんだ? 何故か胸騒ぎがする。
「……サニー。 君は今、
『俺の持っているカードは『A』が2枚と『8』が1枚、『10』が1枚。 ダブル以下なら何が出てきても返して上がれる。 どうせユーノは強いカードなんて持ってないし、数字はバラバラで弱いものばかりだ』
そう考えているだろう?」
っ!? どうしてわかった!?
「ふふっ、驚いているみたいだね。 でも僕は大分前から君が『A』を持っていることには気付いてたよ?」
「なんだと?」
「君はババ抜きの時もそうだったけど、ピンチの時ほど相手を騙すのが巧くなる癖がある。 そして自分に余裕があるときはそこまで気を張っていない。 ついでに言えば、僕は最初からずっと自分の手札が読まれていることにも気が付いてた」
ならばどうしてそれがわかった時点でカードの並び順を変えなかったんだ?
「だけど僕はあえて情報を渡すことを止めようとは考えなかった。 そして今回だけ、君がカードを引いて注意が逸れる一瞬の間に並び順を変えた。 そして言葉を使って思考誘導もさせてもらった」
「ということは――」
「そう、全ては最後のこの勝負で勝ち逃げする為の布石だったのさ!」
「な、なんだってーーーー!!」
野郎、ちょっとカッコイイじゃねえか。
その策士っぷりに思わず惚れちゃいそうだぜ。
最後さえ勝てばいいというその潔さに痺れて憧れないこともない。
「さて、話を戻そうか。 君は『2』が全て出そろった瞬間、ほんの一瞬だけどほっとした表情を見せた。 そしてさっき『8』が流されなかったとき君はこう思ったはずだ。
『『JOKER』も『2』も全て出た。 『A』も2つは出ている。 だから俺が今持っている『A』は現在最強のカードだからいつでも出せる。 あとは何処かで『8流し』を使い場のコントロールを奪ってから『A』を出せば上がりだ。 もし『Q』が出されて『階段縛り』になっても『A』を出せるから問題ない』
とね」
ちっ、そこまで読まれていたらぐうの音も出ないぜ。
「僕はその♠『10』が出される瞬間までは『もうこれは負けた』と思っていたんだ。 だって君はもう1枚『10』を持っているはずだったからね」
「ああ、確かに俺は今♣の『10』を持っている」
「でも君は『スート縛り』のルールを忘れて『♠の10』なんていうカードを出してしまった……! なんという油断っ……! 慢心っ……! 迂闊っ……!」
くそっ、俺の馬鹿野郎っ……!
そして『負けたと思っていた』だと?
つまり奴はもう完全に俺に勝ったと思っているってことだ。
考えてみよう。
奴が今持っているカードは♥を含む『5』のダブルと……ちょっと待て。
そういえば奴は『ようやく欲しかった数字がきた』と言った時そのカードを手札の何処に加えた?
あの時は順番通りに揃えていたとするなら……まさかっ!!
「勝負の最中に相手を弱者と侮り一瞬でも気を抜くことは死を意味する。 そのことを君に教えてやる!」
そのとき俺は体中に強い衝撃を感じた。
強力な決闘者は立体映像による攻撃で実際に物理現象を発生させることもできるらしい。
つまり奴は圧倒的強者っ……!
「食らえっ! 5月革命(General Strike)! そしてこの『6』で上がりだっ!」
「ぐわああああああっ!!」
俺は大げさに吹き飛ばされた振りをしてベッドに倒れ込んだ。
「いやー、でも今の勝負はかなり熱かったな。 特に最後の革命を決められた時なんて体中に衝撃が走ったぜ」
「僕もカードゲームでこんなに楽めたのは初めてだよ。 基本的に頭を使わなくても勝てることが多いから戦略をちゃんと立てたのも初めてだし。 でも最終戦の序盤でいきなり『2』のダブルが出てきた時はどうしようかと思ったよ」
「俺の方こそそれをいきなり『JOKER』のダブルで返されたときは『コイツ正気か?』と思ったっての」
しかもそこで引いたのが『7』と『9』とか、もう勝負はそこで終わったと思ったものだ。
その時点での計算が全部パアになっちまったし。
あー、でもすっげー疲れた。
こういう頭脳戦って楽しいけど疲労感半端ないな。
ユーノも凄く疲れたみたいで額に汗をかいている。
「そうだ、折角だからこのゲームに名前でも付けようよ」
「それはいいな。 なら勝者の名前とネタ元のゲーム名にちなんで『YU-NO』ってのはどうだ?」
「それってまんま僕の名前だよね?」
「気に入らなかったか? 俺の元々いた世界の『有能』って単語ともかけてみたんだが」
「うーん……じゃ、それでいっか」
その後二人でこのゲームの素晴らしい点について話していたところに、護送艦の乗組員が非常に慌てた様子でやってきた。
「失礼します!」
「何かあったんですか?」
「先ほど突発的な小規模次元乱流によって本艦の一部機能が損壊、停止しました!」
「なんだって!? それってもしかして――」
「破壊されたのは保管庫がある区画や艦砲などの兵器部、それに動力炉や計器の一部で、外装に開いた穴からロストロギア『ジュエルシード』を含む積荷が次元世界へと流出しました!」
おいおい、なんかえらいことになってねえか?
「いけない! そのジュエルシードはどこに流出したかわかりますか!? 一番近い次元世界でもいいです!」
「はい! ここから一番近いのは第97管理外世界です! 事故が起こって直ぐに計算した結果、艦長はジュエルシードが落下したのはそこの『ウミナリ』という街だと言ってました!」
「そうですか……」
つまりさっきトランプで遊んでた時の衝撃は事故によるものだったのか。
とにかく場所が判明しただけでも良かった、とユーノは少し落ち着きを取り戻したようだった。
「ところでこの船や局員の方達は大丈夫だったんですか?」
俺は他の乗組員達の安否が気になったので聞いてみることにした。
「はい、幸い穴が開いたのは保管庫に繋がる箇所だけだったので隔壁の緊急閉鎖で対処できました。 なんでも事故の発生直後に謎の魔力シールドが発生したお陰だそうです」
「そういえばこの次元海域って、よくわからない現象や原因不明の事故が多発するって聞いたことがあったっけ……」
まるでバミューダートライアングルみたいな話だな。
まして宇宙空間で船体に穴が開くとか生きた心地がしないものである。
あれ? でもここって宇宙空間でいいのか?
「よし、ならこの船はそのままミッド……いや、本局の方へ向かい事の詳細を報告、今回のロストロギアについての説明をして、いざというときの為に備えるように伝えてください」
「了解しました! 直ぐに艦長に伝えます! あ、でもユーノさんが直接言いに行った方がよろしいのでは?」
「僕はこのまま第97管理外世界へと向かいます。 あれが魔法技術の無い星で暴走なんてしたら目も当てられないことになりますから。 それとサニーは――」
「まさか『そのままこの船に乗って1人だけ安全なところに行け』、なんて言わねーよな?」
「でも、せめて自分の身を守れないと危険すぎるよ」
「おいおい、お前は俺に、初めてできた友達が危険なところに行くのを黙って見過ごせっていうのか?」
それでユーノが大けがをしたとか亡くなったとか聞いたら俺は泣くに泣けない。
「俺にだって手伝ってやれることの一つや二つぐらいあるはずだ」
「まあそれぐらいはあるだろうけど、でも――」
「まず人のいるところに落ちているとは限らないだろう? 食べられる山菜や下の処理なら俺の得意分野だ。 だから俺も連れて行ってくれ。 どうせ心配させられるのなら近くで心配させてくれよ」
もちろん例の件についての罪滅ぼしという意味もある。
「……わかった。 でも危険なことには関わらないこと。 これだけは約束してもらうよ? いいね?」
「ああ。 俺だって自分にできないことぐらいわかっている。 後方でサポートに徹させてもらうさ」
「ならなるべく急いだ方がいい。 1分で準備して。 準備ができ次第この船の遠隔転送で地球へ向かおう」
「お前は俺を誰だと思っていやがる。 もう準備はできてるぞ」
というかトランプ片づけただけなんすけどね。
「よし、じゃあ地球に向かって出発だ!」
「おう!」
こうして俺とユーノはジュエルシードを回収するため、ほにゃらら世界『ウミナリ』へと向かうことになった。
ミッドに行けなくなったのは残念だけど、まあこれはこれで。 だって友達と一緒だからな。
……あれ? っていうか今地球とか言わなかったか? でも俺たちが昨日まで居た世界も地球だろ?
どういうこっちゃ。 謎が多いぜ次元世界。