『え、これが船? 空に浮かんでるじゃん。 何処の戦艦ヤマトだよ』
これが初めて次元航行艦というものを見た俺の感想だった。
現代人の反応としては普通だろう。
え、普通だよね?
つかどうやって浮いてんの?
反重力機関とかそういうの?
……あ、魔法か。 そういやそんな魔法もあったけど消したってバールが言ってたな。
魔法って他にどんなものがあるんだろうか。
流石異世界。 興味が尽きないぜ。
「はじめまして。 僕が今回発掘されたロストロギア『ジュエルシード』およびその他の発掘物全般の責任者のユーノ・スクライアです。 今回は急な依頼にも関わらず引き受けてくださって大変感謝しています」
「こちらこそはじめまして。 私はこの船の艦長のラマン・チャンドラセカールです」
そんなことを考えながら指定された集合ポイントで待っていると、近くからユーノの声が聞こえてきた。
そこで声の元を探してみると、集合ポイントから少し離れた場所でユーノと口周りの髭がもっさもさのゴツい男が友好的に挨拶を交わしているのを発見した。
おい、集合ポイントを指定したのはお前だろうがコラ。
「あなたがあのユーノ・スクライアさんですか。 最近のスクライア一族の中でも特に優秀な一人だと聞き及んでいます」
「ありがとうございます。 お世辞でもそう言っていただけるとやっぱり嬉しいものですね。 でも僕はそんな噂をされるほど優秀じゃないですよ? この間も大きなミスをして皆に怒られましたしね」
「そうはいってもこの若さで責任者になれること事態がその優秀さの証明でしょう。 少しぐらいは自慢してもいいと思いますよ」
そうだよな。
普通ちょっと賢いからってこういった発掘現場の責任者なんてなれるもんじゃないだろう。
というか話し方はやっぱ目上相手だと違うんだな。
「ところで、今回の依頼内容はロストロギア、および遺跡で発掘された他の発掘物の護送任務ということで伺っていますが、それでよろしいでしょうか?」
「はい。 間違いないです。 一応先日お送りした資料にも書いてありますが、今回発掘されたロストロギアは魔力素でできた結晶と考えられてまして、そういった性質上思念波に反応しやすいため護送には細心の注意が必要です」
全くだ。 こういった開けた場所ならまだしも狭い艦内でゴキブリの大量発生とかマジで笑えない。
というか俺はどうすればいいんだ?
もう出て行ってもいいのか?
話がひと段落するまで待ってた方がいいのか?
「なのでこのロストロギアには定期的に思考波を遮断する結界を張り直すことを考えています。 その結界については僕に任せてもらってもよろしいでしょうか? これはそちらを信用していないから言っているわけではなく、一応僕が結界魔法の専門家あることと、本件の責任の所在をはっきりさせる為に提案したまでです」
「わかっていますとも。 そうしていただけるとこちらも助かります。 情けない話なのですが、こちらは最近本局の人員整理の関係で護送艦に搭乗できる定員数が減らされ、本来の規定通りに移送することも難しくなってきてるんです」
「人員整理の話はこちらでも聞いています。 なんでも海の人員が足りなくなったせいで護衛艦に就いていた優秀な人材が根こそぎ引き抜かれたとか。 そのせいで今まで通りに任務を遂行するには二つ以上の任務を同時に引き受けなければならなくなったらしいですね。 お察しします」
うーん、海がどうとか言ってるけど、それは恐らくseaのことじゃないんだろうなぁ。 だってあの船、宙飛んでたし。
でもどうしよう? 全然こっちに気付く気配が無いぞ。
そうだ、石でもぶつけてみるか。
そう思った俺はあたりに落ちている石を探しながらユーノ達の会話に耳をすませた。
「私達の船はもともと海からあぶれた人間が多かったのでそこまで大きな影響はなかったのですが、とある部隊なんて艦長直々に鍛えた部下の8割を持って行かれたそうですよ」
「うわぁ……。 しばらくはこの影響が続きそうですね」
「ええ、地上から回されてきた新人が使えるようになるまではこのままでしょう。 まあもっとも、今回の任務では何も問題はないと思いますけどね。 結界魔道師としても有名なユーノさんが我々の護衛に加わってくれるなんて本当に心強いですよ」
「やだなあ、そんなに持ち上げないで下さいよ。 僕なんてまだまだ若いんだからそんなに持ち上げられると調子にのっちゃいますよ?」
なんだかんだ言いながらもユーノは褒められてうれしそうだ。
というか一体なんなんだこの勝ち組野郎は。
一方はイケメンかつ優秀で、周りからも頼られる将来有望な若手魔法使い9歳。
かたやこっちは人間不信の気があり、将来に様々な不安が残る童貞魔法使い27歳(仮)。
つーか石みつかんねーし。 お前なんか猫のウ○コ踏め。
「ああ、それと今回の護衛に関する保険関係の書類は後ほどお部屋にお持ちします。 前回のものと契約内容の変更はないのですが、一応ご確認ください」
「お願いします。 あ、今ので思い出したんですが、先ほど連絡した――」
「ああ、一人追加で連れて行きたい人が居るとおっしゃっていた件ですね?」
「ええ。 先日一人の次元漂流者と出会ったのですが――」
へぇ、俺は次元漂流者とか言う分類になるのか。
かっこいいじゃん。
『次元漂流者サニー ~愛と青春の旅立ち~』
みたいにすれば新番組とか作れそうだな。
いや無理だろ。 つーか往年の名作映画パクってんじゃん
「――そろそろこちらに来るはずなんですけどね」
っと危ない危ない。
ドリームシアターは一旦打ち切りにしてそろそろ出て行くとしよう。
じゃないとタイミングを逸してしまいそうだ。
「あ、来た。 艦長、彼が今話していた人物です。 サニー、こちらがこの次元航行艦の艦長のラマンさん」
「どうもはじめまして。 只今ご紹介にあずかりましたサニー・サンバックと申します。 田舎者なのでご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします」
俺は悪い印象を与えないように言葉を選びながら挨拶をした。
いきなり船から追い出されたりしたらたまらないからな。
「これはまた礼儀正しい少年だね。 はじめまして。 私の名前はラマン・チャンドラセカール。 向こうにある護衛艦の艦長を務めさせてもらっているんだ。 なに、私も田舎者の一人さ。 艦内では基本的に艦長室か指揮所にいるから、何か困ったことや気になったことがあったら気軽に声をかけてくれるといい」
「ありがとうございます」
そうして俺と艦長はにこやかに握手を交わした。
でもやっぱ俺とユーノじゃ全然扱いが違うんっすね。
ユーノ⇒大人=対等 俺⇒子供
ま、当然か。
その後俺、ユーノ、艦長の三人は『田舎暮らしで持っていたら便利そうな7つ道具』について語りながら船に乗り込んだ。
宇宙戦艦みたいな船に乗り込んで約30分。
俺とユーノは自分たちにあてがわれた部屋でくつろいでいた。
「そういやまだ聞いてなかったんだけどさ、次元艦船っていったいどんな船なんだ?」
俺は用意されたベッドに座りながら机で書類に目を通すユーノに質問した。
「え? あの時サニーは何も知らないで付いてくるって即答したの?」
「見知らぬ世界への旅行と聞いたら思わず身体が反応していた」
「まるで山があるから登ってしまう登山家みたいな発言だね。 でもそれって山師としては優秀なのかもしれないけど危機感がなさすぎると思う。 僕らの年齢を考えると誘拐とかも普通にあり得るんだから、これからは知らない人について行ったら駄目だよ?」
知り合った翌日に長旅に誘ったりするあたりこいつも充分に危機感がないような気もしたが、あえてそこには突っ込まないことにした。
なぜなら今は疑問のほうが山積しているからだ。
「んで時空艦船って結局なんなん? ただの空飛ぶ船に付ける名前にしては随分と大げさじゃね?」
「ああごめんごめん、脱線しちゃったね。 時空艦船っていうのは次元世界間に存在する次元空間を行き来できる船のこと全般を指すんだ」
次元世界? 次元空間?
また意味不明な単語が出てきたな。
「これだけじゃ何のことかわからないと思うから、ついでに次元世界についても説明させてもらうよ」
俺がポカンとしているとユーノが続けて解説を始めてくれた。
「次元空間についてはまだ分かっていないことも多いんだけど、昔宇宙を満たしている未知のエネルギーについて観測を行ったとき、この世界には数多くの時空の歪みが存在することがわかったんだ」
「ほう時空の歪みか」
「そして彼らはこの歪みを次元境界と呼ぶことにした。 この次元境界はわかりやすく言うと次元世界同士を繋ぐゲートのようなものだね」
「へーえ」
しかし折角解説してくれたのはいいがいまいち良くわからない。
なので俺は理解した振りをして適当に相槌を打つことにした。
だって時空の定義ってそもそもなんなわけよ? 普通に宇宙空間のことでいいの?
「うん。 ちなみに初めて境界の向こう側を観測した時、そこには観測元の世界と同じような空間が広がっていたんだって。 だから当初次元境界は『ただ単純に空間を重力レンズのように歪めているだけ』だと思われていたんだけど、さらに調査を進めていくと境界を挟んだ世界間ではいくつかの相違点が見つかったらしいんだ。 例えば――」
「『元素の宇宙存在度』、『物理定数』、あとは『時の流れ方』とかか?」
ようやくちょっとだけ知ってる話になった。
ちょうど秘密基地で読んでた資料に『平行世界で見られ得る相違点』ってのがあったんだよな。
へぇ、『可能性は指摘できるがその存在は確認されていない』って書いてあったけど本当にあったんだ。
まあそもそも俺自身がどこかの世界からこちらの世界に転生したらしいから存在するのは当たり前か。
でもまさか行き来できるようになってるとはなぁ。
つうか俺みたいに魂の転生ができるっていうんなら不老不死とかも普通にできるんじゃね?
「よく知ってるね。 でも今サニーが挙げた世界間の違いの内、『時の流れ方』に関しては各次元世界間ではそのズレが存在しないことが既に証明されている。 そして残りの二つも有りそうだけど見つかってはいない」
「ふーん。 でも相対性理論とか考えると各世界間で時間のずれぐらいはあってもよさそうなんだけどなぁ」
あれって重力が違うと時間の進み方が違うって話だったよな?
やっぱ嘘八百だったんじゃねえか。 あのペテン師が。
「相対性理論? 何それ?」
「前世で物理学会を風靡していた、重力と時間を扱った物理学の胡散臭い理論の1つ」
「それは面白そうな話だね。 後で聞かせてよ」
「おう。 でも今はとりあえず次元世界の話を続けてくれ」
話の半分は理解できなくても、今後この世界で生きていく以上こういった知識は少しでも知っていて損はないはずだ。
「あ、ごめん。 えーっと、どこまで話したっけ? 次元世界では地形の違いやいろんな生物が見られることは言ったっけ?」
「いや、今初めて聞いた」
「じゃあここからだね。 いくつかの次元世界では遠く離れた世界間において、地形や惑星の大きさが全く異なるのにそこに住んでいる生物相がほとんど同じということがよくあるんだ」
「そりゃまた面白い事実だな」
惑星の大きさが違うと標準重力も違ってくるから生きている生物が全然違ってもよさそうなんだけどな。
いや、まあ地球も大昔は標準重力が全然小さかったという説もあることを想えばそう不思議でもないか。
「うん。 後は逆に、星の大きさや地殻の化学組成が同じでも住んでいる生物が全然違ったり、大気があって水もあるのに生物が一種類も存在しない星とかもあったりする。 幻想生物だと思われてた竜が発見された時はかなり盛り上がったらしいよ」
すっげ! この世界には竜がいるのか!?
ロマンあふれまくりじゃん!
大魔法使いにはなれないけど竜騎士にならなれるかも!
うっはー、異世界万歳!
「でもどれだけ次元境界を越えても時間の進み方には差が見られなかった。 このことは旧暦時代からの未解決問題として有名だったんだけど、2年程前にジョン・ベル博士がようやく証明したんだ。 いやあ、あの時の学会は熱かったなあ」
そう言ってユーノは昔を懐かしむように目を細めた。
……うん、薄々は感じていたけど、やっぱこいつ半端なく優秀だな。
2年前っつったら7歳だろ? そんな歳で最先端物理学についていけてたと。
うわあ、頭の出来が違うわ。 ユーノさん、あんた相当っぱねえっすよ。
昔テレビで見た天才児とか軽く凌駕してんじゃん。
「ちなみに現在もっとも支持されている次元世界モデルでは、『これら次元世界で見られる様々な差異は各次元世界誕生時の初期条件の違いによって生まれた』って言っているんだ」
「ほうほう」
「既にわかっている事実に、『次元世界同士を比較すると、世界間の距離が近ければ近いほどその差異は小さくなる』というのがあってね、この事実と先ほどの『時の流れ方はどの世界でも同じ』という事実から、次元世界の移動というのは縦・横・高さ以外の4つ目の軸の移動だという仮定が生まれた。 そうすれば近い世界間では惑星の大きさや質量、住んでいる生物などが似ていることにも説明がつくし、時間の進み方が常に普遍だということにも一応説明がつくからね」
「そうだな」
「また『近い次元世界同士で、住んでいる生物相が酷似しているのに文明の発達度が大きく違うことがままある』ということも一応この説で説明がつくと言ってる人もいてね、最近の次元物理学会ではそこからさらに発展させて『各世界を代表する惑星は、元を正せば全て同じ星なのではないか』という仮説についての議論が熱いんだ」
「なるほどねー」
これはあれだ、講義を聞いていてその時はふんふんとうなずいて聞くんだけど、終わってみると頭の中で繋がっていなくて最後に『質問がある方はどうぞ』と言われても何を聞けばいいのか分からない状況と同じだ。
結局疑問は増えただけだったな。
まあいいや、今度なにか本でも借りることにしよう。
「ま、それもさっきまでいた世界が発見されたことでほとんど否定されちゃったんだけどね。 次元世界の説明については以上だけど、何か質問はある?」
「とりあえずユーノから離れて行動するのは拙いってことが分かった」
ユーノの投げた言葉のストレートを見送り三振してしまった俺は、案の定やってきたその質問に対し振り逃げ気味の返答しか出来なかった。
「そうだね。 サニーはまだこういったことに詳しくないみたいだし、ある程度状況が落ち着くまでは僕から離れない方がいいかも。 この任務の後は僕もしばらく休みを貰う予定だから、することが全部終わったら一緒にミッドにでも行かない?」
「ミッド? そこが何の店か知らないけど俺が一緒に行ってもいいのか?」
「何言ってるの? 当然じゃないか。 僕達はもう友達だろ?」
「らめぇ! イッちゃうぅーー!」
TO☆MO☆DA☆CHI!
まじでっ!? 俺に生まれて初めての友達ができたのか!?
前世の記憶が18年程無いから生まれて初めてかわからないけどな!!
でもこれドッキリじゃないよね!? ドッキリだったら仕掛け人探し出してぶっ殺すぞコノヤロウ!!
昔から一度は友人というものを持ってみたかった俺は、思わずベッドの上でブリッヂからの三点倒立を決めた。
もう少し俺の肉体年齢が大きかったなら個性的なノズルから個性的なシャワーがほとばしっていたかもしれない。
「もうおおげさだなあ」
「本当に、俺が、友達でも、いいのか?」
俺は頭に血が集まってきているのを感じながら聞き返した。
ちょっと辛くなってきたので普通に座りなおすことにしよう。
「僕はそうだと思っていたんだけどサニーは違ったの?」
「いや、だって俺、友達ってテレビや漫画の中でしか見た記憶ないし。 正直友達なんて異次元の存在だと思ってた。 ごめん、嬉しすぎてちょっと涙出てきたわ」
今日は死ぬにはいい日だ。
しかしますます例の件が言い出し辛くなってきたな。
できて直ぐに友達がいなくなるのも嫌だし、できるだけ隠しておいて魔法を使わないとどうにもならない状況になった時にでもそこで説明しよう。
……そうやってすぐに保身を考えてしまう俺はやっぱり友達を持つ資格はないのだろうか?
「まあ僕もあまり友達が多い方じゃないからね。 気持ちは分からなくもないけど。 そういえばさっきミッドを知らないって言ってたよね?」
「おう」
「ミッドっていうのはミッドチルダの略で、現在次元世界でもっとも発展しているところ、とでも言えばいいのかな?」
「へえ、楽しそうだなぁ」
きっとゲームセンターとかにはあのガ○ダムのやつとかが目じゃないような3Dゲームもあるんだろうな。
「じゃあ僕の引き継ぎが無事に終わったら一緒に遊びにいこうよ」
「何処までもついて行きます」
そんな風にまだ見ぬ異世界の遊び場に思いを馳せているとユーノから改めてお誘いを受けたので、俺はノータイムで即答した。
しかし答えた後で1つの疑問が頭に浮かんだ。
「あ、でも俺お金とか持ってないけど大丈夫?」
「そこら辺は僕が何とかするよ。 僕は基本的に本や調査道具、それと食費ぐらいにしかお金は使わないからね。 結構余ってるんだ。 どうしても返したいって言うなら出世払いで返してもらってもいいし」
そういえば友達はお金を貸し借りするという都市伝説を聞いたことがあるな。
あれは実話だったのか。
「いつか必ず、死んでも返すのでお借りします」
「死ぬぐらいだったら別に返さなくてもいいってば」
そのから数時間、俺とユーノは『ミッドで起こりうる理不尽な状況への効率的な対処方法』というテーマで雑談を続けた。
その中の1つ『痴漢冤罪に対する対処法』の話は大層盛り上がったと言う。