通常とは異なった位相空間の中、灰色の空の下。
一台も車が走っていない道路の真ん中で、俺は途方に暮れていた。
結界内部には、先ほどアリサ達と確認したときと同じく、人の姿はまったく確認できなかった。
周囲には高層ビルがいくつも並んでいるが、どれ一つとして電気がついているものはない。
辺りを照らしているのは、光源もよくわからない淡い明かりだけだ。
フェイト達に電話を掛けてみるというのも考えたが、着信音のせいで敵に居場所がばれました、とかになった時の事を想像してそれはやめておくことにした。
あまり期待はできないが、次はビルの屋上にでも転移して、そこから二人を探すというのも考える余地はあるかもしれない。
ってか、恰好付けて戻ってきたのは良いけど、ぶっちゃけあいつらがここに居る保証って何処にも無いんだよね。
わざわざ海鳴で結界を張ったんだし、可能性としては居る方が高いとは思うんだけど。
「なあバール、お前はどっちだと――」
「サニー! そんなことより上を見ろ!」
「ん?」
バールに促されて空を見ると、そこにはピンク色をした謎の発光物があった。
しかもその塊はだんだん大きくなっていく。
見えてるものの姿が大きくなる理由って何があっただろうか。
1、物体そのものが大きくなっている。
2、物体そのものが近づいてきている。
さて、この場合どちらだと考えられるでしょうか。
どうみても後者です。 本当にありがとうございました。
「俺さ、いつかAV男優になるのが夢だったんだ」
「そんな妄言はいいから、早くゲートを開け!」
「お、おう!」
唐突な展開に思考停止していた俺は、バールに叱られながら道幅いっぱいに広がるゲートを展開した。
十秒ほど待っていると、辺りを染めていた桃色の光が唐突に消えた。
それを確認してからゲート魔法を解除すると、ピンクの物体はもうどこにもなかった。
どうやらちゃんと虚数空間に消えてくれたようである。
ふぅ、危なかったぜ。
来て早々いきなり死にかけるとか、出オチにも程があるだろ。
いきなり過ぎて技の名前を考える余裕も無かったし。
しかも今のってアレじゃなかった? なのはのスターマインなんちゃらとかいう超必殺技。
魔力光の色もピンクだったし。
ってことはやっぱあれか。 あいつらもこの中に居るのか。
「すまんバール。 助かった」
「なに、気にするな。 この程度当然だ」
「おお、さすがは星に匹敵すると言われたデバイス。 バールさんカッコイイ――」
あれ? そういやこいつ、さっき俺の事呼び捨てにしなかった?
いや、まあ別にいいんだけどさ。 それぐらい。
咄嗟の事だったし、心の中で思ってる事がつい出ちゃってもおかしくはないよね。
おい、ならバールの中で俺は呼び捨てにされてんのかよ。 カチ壊すぞコノヤロウ。
「それより来たぞ」
「ん? 何が?」
自分のデバイスに対し微妙な感情を抱きながら額にかいた冷や汗を拭っていると、後方上空から高町なのは(9歳・♀)が現れた。
「すみませーん! そこのひとー! ここは危ないので非難してくださ……って、ええっ!? サニーくんっ!? どうしてここに居るのっ!?」
「ああ? 俺はお前らがまた誰かに襲われてんじゃないかと心配してここに来たんだよ。 わりいか」
「じゃあじゃあ、さっきスターライトブレイカーを何とかしたのって、もしかしてサニーくん!?」
「そうだけど、とりあえず謝罪しろ!」
俺は未だ戻らない心拍数と過剰分泌されたアドレナリンに任せ、なのはに拳骨を食らわせた。
魔力光の色から言って、先程の狂行は明らかにこいつが犯人である。
これぐらいしても罰は当たらないと思うんだ。
「いったー……」
「ったく、マジで死ぬかと思ったっての。 これに懲りたらもう人に向けての砲撃と落書きは――」
「いきなり何する、のっ!」
「らめぇ!?」
なのはの杖による反撃は、先程はやて達に殴られた箇所へピンポイントに突き刺さった。
尖った部分でフルスイングとかないわー、マジないわー。
「そもそもさっきの砲撃だって、やったのはわたしじゃないし」
「なのは、どうだった――って、ええっ!? どうしてサニーがここに居るの!?」
あまりの痛さにうずくまって悶絶していると、なのはに遅れてやってきたフェイトが心配そうに話しかけてきた。
しかし俺には、先程なのはに答えた台詞をもう一度言うだけの元気は残っていなかった。
「……いや……なんとなく、DEATH」
しかも必死に逃げようという様子がないのを見るに、2人とも特に心配はいらなかったようだ。
あれ? じゃあ俺何しに来たんだろう?
もしかしてただのお荷物じゃ――いやいや、この考えは危険だ。
っていうかさっきのアレ、犯人なのはさんじゃなかったんっすか。 そんな馬鹿な。
「あの、大丈夫?」
「や、もう駄目」
俺は痛みに耐えながらそっと服をまくりあげ、自分の腹を見た。
血は出ていないので、外見上は特に問題なさそうである。
でもこれ絶対内臓破裂してるって。
だって吐き気すっごいもん。
うぇええ、気持ち悪ぅ。
「だ、大丈夫だよ。 だってさっきのは非殺傷設定だったんだもん」
「俺だから。 大丈夫かどうか判断するのは俺だから。 ってか金属の固まりで思いっきり殴っといて非殺傷も糞もあるか」
魔導とは魔力素の持つ様々な性質を主とした科学技術の総称である。
それゆえ、どんな魔導でもそこには必ず何らかの原理が存在する。(それがちゃんと解明されるかどうかはまた別問題だが(e.g., ロストロギア))。
また、魔法とはこれら魔導による現象を、個人個人の能力によって制御、運用する技法のことを指す。
この魔法というものの一つに、非殺傷設定という技法が存在する。
これは『魔法行使において、強い意識場を持つ物体に対しての物理的ダメージを極力抑える』という働きを持たせた、魔法式に組み込むコードの総称である。
具体的には魔力素でできた球体があったとして、それが人にぶつかる直前で光子の塊になる、というような形で効果が表れる。
ちなみにその起源は非常に古く、ミッドチルダで魔導が発展し始めた頃には既に基礎は出来上がっていたという。
さて、その非殺傷設定が杖や剣型をデバイスに作用させた場合どうなるのだろうか?
具体的には『それらのデバイスを魔力素の膜で覆い、殺傷力を極力抑える』という形になる。
わかりやすく言うなら、金属バットを厚いスポンジで覆ってぶん殴る、といった感じ。
だから、たとえクッションで覆われていたとしても、そんなもので思いっきり腹を殴られれば、そりゃあ痛いに決まっている。
や、これ冗談抜きに痛いから。
「でもなんでサニーくんはバリアジャケットを着てないの? あの砲撃を何とかしたってことは、魔法を使えるんだよね?」
「魔法は一応使えるけど、バリアジャケットって何それ?」
「今なのはやフェイトが身に纏ってる服のことだよ」
腹を擦りながらなのはに問い返したところ、そんな声が後ろから聞こえてきた。
声がした方へ振り返ると、そこにはユーノとアルフの姿があった。
「これは魔力で編まれてるから、対物理・魔法用の薄い鎧として機能するんだ」
「おお、ユーノ。 お前も巻き込まれ――」
「ごめん、少しじっとしてて。 フィジカルヒール」
そう言いながら、ユーノは俺の腹部に光る手のひらをあててきた。
すると、俺が感じていた腹の痛みは少しずつ収まり、吐き気も引いてきた。
コレが治療魔法って奴か。
初めて体験したけど、これかなり気持ちいいな。 なんか癒される感じがする。
「なのは、フェイト、それにアルフも。 サニーは僕に任せて、君達はもう一度はやての所へ」
「うん!」
「サニーのことはお願いするね?」
「だけどユーノもなるべく早くこっちに合流してよ? アタシ達だけじゃ防御が心もとないしさ」
「わかってる。 みんな、気を付けて」
そうしてユーノに促されたなのは達は、遠く空に浮かんでいる人影を目指して飛んでいった。
もしかしてあいつがさっきの砲撃魔法を放ったのか?
そりゃあ、濡れ衣を着せられたなのはも怒る――ん? それよりさっきユーノはなんて言った?
確か『はやて』とか言わなかったか?
……あ。
今、何かが繋がった気がする。
なのは達を襲った魔導書の守護騎士は4人。
その4人をシグナムさん、シャマルさん、赤い髪の糞ガキ、蒼い犬とすれば、人数はピタリと一致する。
それに病院でのシャマルさんやなのは達の態度も、シグナムさんがはやてを主と呼ぶことも、はやてが闇の書の主だと仮定すると綺麗に繋がる。
そして、はやてが以前言っていた『比較的最近出来た家族』って発言にも説明がつく。
「ユーノ」
「説明は後でするよ。 でもその前に、まずはここから離れよう。 ここだと流れ弾が飛んでくることもありえるから」
「そうだな」
さっきの桃色の不意打ちを思い出した俺は、ユーノの提案になんの躊躇いも無く頷いた。
っていうかバールさん、俺にバリアジャケットは無いんすか? あ、無い? そうっすか。
そんな感じで現実を思い知らされていると、俺の治療を終えたユーノが転移魔法を発動した。
どうやら移動先は何処かのビルの屋上のようだ。
場所も先程の位置から大分離れているようで、なのは達の姿は時々発せられる魔力光でしか確認ができない。
「ここなら安全だと思う」
「そうっぽいな」
何か場所を特定するようなものは無いかと周囲を確認していると、直ぐ近くで眠るように倒れているヴィータとか言う小娘を見つけた。
なんでこいつがここにいるんだ?
これはアレか。 神様がくれた復讐するチャンスってことか?
でも俺、今マジックとか持ってないしなぁ。
鞄とか余計なものは、ここに来るときついでに家へ転送しちゃったし。
「さて、何から話せばいいのか……」
俺が驚きのあまり復讐する方法を思いつかないでいると、ユーノが難しそうな顔でそう呟いた。
まあ、この状況を見ただけでも事態が複雑なのはわかる。
復讐はすっぱり諦めて、まずはこの状況を何とかするのが先か。
「それならいくつか質問があるんだけど、それに答えるような形で説明してもらってもいいか?」
「そうだね。 その方がいいかも」
「なら、まずはさっき頭に浮かんだことの確認をさせてくれ。 以前なのは達を襲ったのはシグナムさん達で、例の魔導書の持ち主ははやてってことでいいんだな?」
「うん、それであってる。 付け加えるとすれば、はやては騎士達が魔力の蒐集をしてたことを知らなかったみたい」
知らなかった? 主なのに?
……ああ、そうか。
蒐集行為は騎士達が自主的に行っていたのか。
魔力の蒐集は相手を傷つける可能性が非常に高い。
はやてがそんなことを望むとは思えないもんな。
「じゃあ次。 なのはやフェイトが病院を出てからの行動は?」
シグナムさん達やなのは達が家に帰ったというのは、この状況を見るかぎり本当とは思えない。
もし本当に家に帰っていたとすれば、ビルの屋上でヴィータが一人気絶している意味がわからない。
いくらなんでも、こんな寒空の下半袖一枚で寝る趣味が有るとは思えないし。
「なのは達は病院を出てすぐ、僕や守護騎士たちと一緒にここの屋上に来たんだ。 闇の書について話をする必要があったから」
「ああ、そういやお前はこの件についてなんか調べてたんだっけ?」
「うん。 ここ最近は無限書庫に籠って、例の魔導書について調べてた」
「それで、何かわかったのか?」
「まず、闇の書の正式な名前は夜天の魔道書。 その本来の目的は、各地の偉大な魔導師の技術を蒐集し、それを研究すること。 そしてこの魔導書は、魔導師や魔法生物からの魔力蒐集によって項が埋められていく」
「そうして全てのページが埋まれば書は完成、ってわけか。 完成するとどうなるんだ?」
「伝承では大いなる闇の力がどうとか言われてるけど、具体的には蒐集した魔導師の魔法を使えるようになるほか、個人で扱える最大魔力量が増えるという効果が知られてる」
ということは、さっきの砲撃はやはりはやてが行ったものと考えられる。
『研究の為の蒐集』ってことは、コピー元と全く同じ魔力光で技を使えてもおかしくないからな。
これで魔力光の色を変えるという話も現実味を帯びてきた――っといけね、それに関しては後回しだ。
「魔導書誕生の歴史と目的はわかった。 で、そんな魔法辞典がどうしてあんなことになってんだ?」
俺はなのは達が戦闘を行っているであろう方向を指差しながらそう聞いた。
戦いの余波による魔力光や爆発音は、遠く離れたここからでもはっきりと確認できる。
遠目にしか見えないので、何が起こってるのかはわからない。
だがその魔力光の軌跡を見る限り、相当激しく戦っているのは間違いない。
「根本の原因は、歴代の持ち主の誰かが書のプログラムを改変したからだと思う」
「改変によって出た影響は?」
「色々あるけど、それによる悪影響の1つに、『一定期間蒐集がない場合、書が持ち主自身の魔力や資質を浸食し始めるようになった』というのがある」
「は? じゃあもしかしてはやての足って――」
「うん。 その浸食が原因。 ついでに言っておくと、守護騎士システム自体もはやての今年の誕生日までロックされていたんだって」
おいおい、マジかよ。
俺は本の目的が『魔導師の技術の蒐集と研究』と聞いたことから、守護騎士が魔導師を襲っている理由は、はやてのための治療魔法を探しているからだと思っていた。
しかし、どうやらそれは間違っていたようだ。
守護騎士達が魔導書の完成を目指す理由は、魔導書を完成させて浸食を止めることだったわけか。
まあとにかく、これで話の流れは大体分かった。
はやての足が魔導書の浸食によって不自由になる。
⇒今年の誕生日にシグナムさんたちが現れる。
⇒やがてはやての病状が悪化。
⇒原因が闇の書の未完成によるものだと気付いた騎士達は、はやてに内緒で蒐集を開始。
⇒その過程でなのは達が襲われた。
今までの話を時系列順にまとめるとこうなるのか。
「改変による影響は他にもあるよ。 蒐集によって書が完成しても、『持ち主の魔力を無差別破壊の為に際限なく使わせるだけで、元の機能はほとんど使えなくなっている』、とかね」
「そのことをシグナムさん達は知ってたのか?」
「知らなかったみたい」
「うっわぁ……。 もう踏んだり蹴ったりだな。 それって、結局魔導書が完成してもはやては助からないってことだろ?」
「うん。 だからこそ話し合いをする必要があったんだ――」
それからユーノによって語られたことを要約すると、次のようになる。
話し合いによって騎士達から聞けた主な内容は以下の4つ。
1.蒐集は主に内緒で行っていた。
2.騎士達は魔導書そのものが壊れていることを知らなかった。
3.魔導書が完成すれば主は助かると思い込んでいた。
4.魔導書が未完成のとき、外部からの干渉はおろか、契約者からの干渉すら受けつけない。
それを聞いたユーノは、まず現在わかっている魔導書の暴走機能について説明。
これを停止する方法が無いか皆で相談しようと持ちかけた。
始めは多少荒れたものの、シグナムさんが守護騎士を代表して場を収め、話し合いが煮詰まってきたところで、最後の暴走に対しての対策が一応形になった。
その解決策とは、書が完成し次第、主が魔導書の完全消去プログラムを作動させ(ユーノが無限書庫から見つけてきた)、主と本体を完全に切り離す。
その後数分してから現れる自動防御プログラムを、なのはやアースラの皆でただの分厚いノートとなった魔導書ごと破壊する、といったもの。
聞いてみればなんとも単純に思えるが、この防御プログラムがまたとんでもない代物らしい。
なんでも、やたら分厚い魔力障壁と無限再生機能を持っている、とかなんとか。
一応、それでも管理局の所有するアルカンシェルという兵器で潰せるそうだが、そこには1つの問題があった。
切り離した暴走体が出現するのは地上。
そしてアルカンシェルの効果は、着弾点から半径数百キロ内の物質を、時空間歪曲現象を利用して消滅させるというもの。
それによる影響は、どれだけ堅い結界であろうと外側まで及び、その余剰な破壊力だけでも海鳴という街を滅ぼして尚余りあるそうだ。
だがこの問題もなのはの思いつきでクリアすることができた。
分厚いと言われる魔力障壁ではあるが、障壁自体ならフェイトやクロノ、それにリンディさんや武装局員が全力を出せば砕くことは出来るらしい。
また、その障壁の破壊後に露出する防衛プログラム本体も、なのはのスターライトブレイカーならかなり削れるとのこと。
最後は、そうして小さくした本体をユーノとアルフが宇宙空間に転送すれば、地球への影響を考えることなくアルカンシェルをぶっ放すことができる。
結局、これ以上の案は誰も思いつかず、はやての体調のこともあって早速実行されることとなった。
――と、いうのが俺やアリサ達が結界に取り込まれる直前までの話。
「なるほど。 でもその方法にはまだもう1つ問題が残ってるな」
「そう。 闇の書をどうやって完成させるか、という問題が残ってた。 そして、それこそがはやての暴走の引き金になったんだ」
「……オッケー、これで全部繋がった」
魔導書最後の数ページは、守護騎士が自ら犠牲になることで埋めたのだ。
更に言えば、守護騎士全員が犠牲になる必要は無かった。
その為、ヴィータはここに一人だけ残されることとなった。
ヴィータがここで寝てるのは、それに抵抗したところを誰かに気絶させられたからだろう。
はやては騎士達を自分の大切な家族だと言っていた。
あれだけ大事に思ってたんだ。
自分の命など惜しくないとまで。
だとすれば、そんな犠牲をはやては認められるだろうか?
たった一人しかこの世界に残れないなんて、そんなことを納得できるだろうか?
……無理だろうな。
だからこそ、今なのは達と喧嘩してるわけだし。
「サニー。 今サーチャーの映像を繋げるから、空間モニターを出して」
説明されたことを頭の中で整理していると、ユーノがそんなことを言ってきた。
「あー、ちょっと待て」
管理局ではおなじみの空中に浮かぶディスプレイ。
実はこれ、身分証明書を表示する為の機械に標準で付けられている機能だったりする。
管理世界での身分証明書とは、耳の裏等の目立たない部分に取り付けられた非常に小さな機械の事を指す(デバイス所有者は普通デバイス内部に取り付けられる)。
この機械には空間モニターを展開し、そこに所有者の個人情報を表示させる機能がある。
それを表示させる方法とは、
1.頭の中でユーザーIDとパスワードを思い浮かべることで機械のロックを外す。
2.特定のコマンドを脳内イメージで入力する。
(例:oppi /display /r-hand 等。 なお"oppi"は"Open Personal Information"の略で、断じておっぱいでは無い)
3.上の例だと、自分の手のひらの前に空間モニターが展開され、そこに個人情報が表示される。
以上である。
そしてこの空間モニターは入力するコマンドを変えることで、有る程度自由な位置、大きさに展開することが出来る。
今の場合だとop /display だけでいいはずだ。
「おし、これでいいか?」
「うん」
こうして目の前に展開されたモニターに対し、ユーノに指示された通りの操作を行っていくと、その画面上に戦っているなのは達の姿が映し出された。
なのはとフェイト、それにアルフのバリアジャケットは既にボロボロになっている。
肩で息をしているのを見るに、3人とも体力、魔力共にかなり消耗しているようだ。
一方、はやての方はそんな疲弊したなのは側とは対照的で、3人による攻撃を片手で軽くいなしていた。
うおー、はやてさんぱねーっす。
「あれ? なんかはやての髪の色とか普段と違ってね? 黒い羽根とか生えてるし」
はやての髪は普段よりも色が薄くなっており、瞳の色も普段の茶色から青色へと変わっている。
なんかちょっとスーパーサイ○人みたいで羨ましいと思わなくもない。
やってることはバー○様の天地魔闘の構えだけど。
「これは魔導書の管制人格とはやてが融合した姿だよ」
「マジか」
魔導書ってそんな機能もあんの?
俺も魔導書があったら変身とかできるのかもしれない。
今度ユーノと一緒に無限書庫でも探してみるかな。
Q.そーらをフリーダムにーとーびたーいなー? A.はい、ポタラー。
「他に質問は無い?」
「あー、そうだな、取りあえずは無いや」
「じゃあ僕は行くよ。 なのは達に回復魔法を掛けてあげたいから」
「なんか邪魔しに来たみたいで悪かった」
「いいって、そんなこと気にしなくても。 どうせ僕が行ってもそれほど役に立つとは思えないし」
ユーノは謙遜でもなんでもなく、平然とそう言った。
以前、ユーノは自分の攻撃魔法はアルフと同じかそれ以下だと言っていた。
そのアルフは今もオレンジ色の魔力でできた鎖で攻撃しているが、それははやてに触れたそばから呆気なく消滅していく。
直接的な攻撃も厚い弾幕や防壁によって届く気配がない。
これを見る限り、ユーノが行っても戦力にならないというのは確かに事実だろう。
「それでも、お前は行くんだろ?」
「うん。 傍に居れば出来ることはきっと有るんじゃないかなって」
「だよな」
自分が直接的な力になれないことは理解している。
それどころか邪魔になるかもしれない。
それをわかっていながら、何かできるはずだと自分を奮い立たせ、彼女達の横に立つ。
ユーノが今感じている想いは、きっと俺と似たものに違いない。
「っと、また引きとめちまったな。 それじゃあ気をつけて逝って来い」
「あれ? 今『いく』って漢字間違ってなかった?」
「細かい事は気にすんなって。 ほら、時間ないぞ?」
「否定ぐらいしてよ!」
それから、ユーノは『何か用事があったら、空間モニターに繋いだサーチャーへ信号を送って』と言い残し、はやての下へと飛んでいった。
さて、俺も負けてらんないな。
俺にできることなんて無いかも知れないけど、注意して見ていれば何かが見つかるかもしれない。
いや、見つけるんだ。
俺はそんな決意をしながら再び画面に目を向けた。
そこには、はやての説得を続けるなのはの姿が映し出されていた。
『お願い! わたし達の話を聞いて! はやてちゃん!』
『嫌や! どうせなのはちゃんも、魔導書をわたしと切り離せゆうんやろ!?』
『だって、そうしないとはやてちゃんは死んじゃうんだよ!?』
『そんなんとっくにわかっとる!』
『だったら――』
『それでも、私が死ぬまでの間だけでも、あの子らを幸せにするって約束したんや!』
はやてはそう叫びながら、相手を拒絶するように百を超える数の魔力弾をばらまいた。
なんという馬鹿魔力。
これはもしかしたらなのは以上かもしれない。
「はやて……」
「ひぃいい!?」
突然耳に入ってきた声に後ろを振り返れば、いつの間にか起き上がっていたヴィータがモニターを見つめていた。
「なんだ、起きたのか」
「ぬわっ!? お前は! って、それどころじゃねぇ! 今ははやてを何とかしないと……痛っ!」
彼女は立ち上がって直ぐにはやての元へ向かおうとした。
しかしどこか身体を痛めているのか、2,3歩歩いただけで膝をついてしまった。
「おい、大丈夫か?」
「心配ねえ。 こんなの、全然平気だ」
「そうか」
腹を押さえているのを見るに、眠らされる時シグナムさんにでも殴られたのかもしれない。
こんな時ユーノが居ればよかったんだけどな。
タイミングが悪い――
「うおっ、まぶしっ!?」
ヴィータに気を取られていた俺の網膜に、突然モニターからの強い光が飛び込んできた。
『っぐぅ――! はやてちゃんっ!』
どうやら何か大きな魔法が使われたようだ。
改めて映像を見れば、既になのはとフェイトは満身創痍。
ユーノ、アルフもそれは同じで、4人とも体力、魔力、共に限界が近い。
それでも、はやてからの攻撃を必死にシールドで防ぎつつ、説得を続けていた。
『こんなことして、はやては本当に後悔しないの!?』
『後悔なんてせえへん! 暴走が始まったらわたしごと消してくれてもええ! 死ぬ覚悟なんてとっくにできとる!』
『そんなの駄目だよ!』
『ええんや!』
しかしはやての態度は頑なで、なのは達の言葉に対し聞く耳を持とうとはしない。
『それやったら守護騎士の皆も、闇の書も、みんな消えんで済む!』
『ッ! この、駄々っ子!』
『だって――!』
デバイスを鎌状にして突っ込んできたフェイトに対し、はやては身体の前にバリアを張った。
フェイトの作り出した光の鎌はそれに食い込みはしたが、貫くことはできず、いつの間にか用意されていた魔力弾が横合いからフェイトを襲った。
『くっ……!』
『だってなのはちゃん達の方法やったら、ヴィータ以外みんな死んでまうやないかっ!』
そして、はやての悲痛な叫びが灰色の空に溶けた。
「……おい赤毛、そうなのか?」
「赤毛って言うな。 まあ、あたし達はそもそもプログラムだから、別に死ぬわけじゃねえ」
「なら――」
「だけど、二度とこうして話したりできなくなるってのはおんなじだ」
「……そっか」
ヴィータは、画面に映るはやての顔をじっと見つめがらそう言った。
その表情から、今のはやてに心を痛めているのが伝わってくる。
相手はプログラムだというのに。
「なあ、全員生き残る術って本当に無いのか? 闇の書の暴走部分だけを切り離すとかさ」
「……それはできるかわかんねえ。 でも、そもそもこうなる事はあたしだって覚悟してたんだ。 なのにまたあたしだけこんな――あれ? あたしだけって、なんのことだ?」
「そんなこと俺に聞かれても。 正直困る」
「っかしいなぁ。 なんだろ? なんかこう、すっげーもやもやしてきた。 んー、あー、出てこねー」
ヴィータは忘れている何かを思い出すため、頭を抱えたり首を傾げたりし始めた。
魔導書が壊れているのなら、プログラム体であるこいつの記憶に影響が及んでいても不思議ではない。
それに闇の書は1000年以上もの時を生きてきたという。
それなら、これまでの記憶には嫌なものだって数多く有ったはずだ。
たった数十年しか生きていなかった俺ですら、忘れていて良かったと体感することはある。
だったら、守護騎士に記憶が無いのは幸せなことなのでは……いや、そうとは限らないか。
失いたくない記憶こそ失くしている、そんな可能性だってあるもんな。
「っといけね! そんなことより何とかしてはやてを止めないと!」
「あ、ちょっ! そんな体調で行っても――」
だが俺の制止も空しく、ヴィータはバリアジャケットとかいうゴスロリの服に着替え、はやての下へ飛んで行ってしまった。
「あー……」
結界内に戻ってきて、なのはやユーノの邪魔をして、折角助かったかもしれないヴィータも止められないで。
このままだと俺、マジでここにいる意味がないじゃん。
取りあえずこの位置からできる援護って何か無いだろうか?
転送魔法やゲート魔法を駆使すればはやてを止めることも出来るけれど、それだと根本的な解決にはならないしなぁ。
どうすりゃいいんだ?
『――闇の書も、守護騎士の皆も、きっとまた辛い想いをすることになると思う』
そんな風に俺が自分の存在意義について悩んでいる間も、画面の向こうでははやての独白が続いていた。
『せやけど、わたしと過ごした記憶を少しでも覚えててくれたなら、それが絶対救いになるはずや!』
『違うっ! それは違うよっ、はやてちゃん!』
『もしはやてが死んじゃったら、守護騎士の皆にはきっと後悔しか残らないよ!』
『そんなわけあらへん! 楽しかった想い出が、あの一緒に過ごした幸せな毎日が、後悔しか残さへんなんてそんなわけないやろ! せやから――』
はやては右手を勢いよく宙に向かって伸ばした。
すると、はやての周りに血を固めて作ったようなナイフが数え切れないほど出現した。
『――それを邪魔するゆうんやったら、わたしは悪魔にでもなるっ!』
『きゃああああ!?』『くぅううううっ!』
はやてが手を強く振りおろすと、それらのナイフはなのは達に降り注ぎ、爆発した。
『なのは!』
『フェイトッ!』
だが、その爆煙が晴れたあと確認できた2人の姿は全くの無傷だった。
なぜなら、なのは達のかわりにその攻撃を受けたのは、遅れてやってきたヴィータだったからだ。
『はやてっ!』
『ヴィータ!? なんでここに……? いや、それより大丈夫やったか? 怪我とか――』
『あたしの事なんてどうでもいい!』
はやては突然の登場に驚きながらも、自分の攻撃を一人で受け切ったヴィータに心配の言葉を掛けようとした。
しかしヴィータはそんな心配など無用だというように、はやてに食って掛かった。
『なんではやては、あたし達の為なんかにここまでしてくれるんだよっ!』
来て早々バリアジャケットはボロボロになってしまったものの、そこに先ほどのダメージの影響は見られない。
むしろその目にある意思の光は、俺と話をしていた時よりも強いように思えた。
『そんなん、家族やからに決まってるやん!』
『あたし達は今まで充分悪い事をしてきた! だから、こうなることはもう納得してたんだ!』
『せやかて、それ以上に不幸な目におうてきたやないか! いろんなものを失って、戦いたくない戦いをさせられて!』
『それは……』
『せやけどもう心配ないよ。 みんな一緒や。 一緒にいこ?』
『あっ――』
『ヴィータちゃんっ!?』
はやてがヴィータに向かって手に持っていた魔導書を広げた途端、ヴィータはまるで書に吸い込まれるようにして消えてしまった。
そして今のが引き金になったのか、はやては苦しそうに胸を押さえ出した。
『ぐぅうううっ……!』
『はやてちゃん!?』
『ユーノ、これってもしかして――』
『……うん。 文献にあったのと同じだ』
フェイトの質問に対し、ユーノはどこか諦めた風にそう答えた。
根本の原因を主が解消しようとしないため、できることがもうないからだろう。
やがてはやての身体は光に包まれ、見えなくなってしまった。
『はやてちゃんはこの後どうなっちゃうの?』
『……そう遠くない内に、はやての意思が消え、本格的な暴走が始まる』
『そんな……』
はやてを包んでいた光の塊は徐々に大きくなり、大人の女性のような形に変化したところで発光が止まった。
そして中から長い銀髪、黒い羽根、そして赤い目をした女性が現れた。
『貴女は……?』
『私は、闇の書と呼ばれている魔導書の、管制人格だ』
『管制人格?』
『魔導書の意思、とでも思ってくれればいい。 それと、お前たちには悪いことをした』
『え?』
『あの、なんのことですか?』
管制人格の突然の謝罪に、2人はきょとんとした様子で聞き返した。
『私は主や守護騎士達と精神的に繋がっている。 だから、お前達が主の為、力を尽くしてくれたことは知っている。 それなのに、私が不甲斐ないばかり、こんなことになってしまった』
彼女は魔導書を片手で開き、空いているほうの手をなのは達にかざした。
すると、2人のボロボロになっていたバリアジャケットはあっという間に元の綺麗な状態に戻った。
『あっ……?』
『これは、回復魔法?』
今の魔法には体力の回復効果もあったのだろう。
先程まで2人からにじみ出ていた疲労感が、きれいさっぱり消えていた。
『どうやら私は、主の事を第一に考えているようで、結局自分のことしか考えていなかったようだな……』
『闇の書さん……』
魔導書の管制人格は自嘲気味に苦笑し、魔導書をそっと閉じた。
『今、私の中で紅の鉄騎が主はやての説得に当たっている。 だが、じきに私達は意識を亡くす。 そうなればもう手遅れだ』
『そんな……』
『だから、この説得が上手くいかなかった場合、先にそちらの執務官が言っていた永久凍結という方法を取って貰えないだろうか?』
どうやら、はやての暴走前にしていた話し合いにはクロノも参加していたようだ。
そういやあいつは今何処に居るんだ?
なんか結構まずい状況な気がするんだけど。
街の方を見渡せば、あちらこちらで謎の火柱が立ち昇っているのが見える。
他にも謎の触手もどきが建物を壊しまくっており、震度7の地震でもここまでいかないだろうというほどひどい有様になっていた。
『でも、永久凍結にはいくつか問題があるって……』
『それはわかっている。 だが凍結なら、主は騎士達と一緒に居られる。 例えそれを、主が認識できないとしても――』
管制人格は手に持った魔導書をじっと見つめながらそう言った。
……なんで現実って、いつもこうなんだろうな。
正数の寄せ算が、ちゃんとプラスになってくれない。
よかれと思ってしたことが裏目に出る。
はやても、守護騎士達も、この管制人格も、皆お互いを強く想いあっている。
今の状況はそれが原因で起こったともいえる。
だからこそ、この結果は余計に辛くて、きつい。
はやても闇の書の騎士たちも、今まで悲しい思いをたくさんしてきたはずだ。
だったらもう少しぐらい、幸せな結末になったって罰なんて当たらないんじゃないか?
そんな想いが通じたのだろうか。
『――そうなると、やはり最善は凍結した後、主はやてごと次元の狭間へ……と、どうやら今の議論は無駄に終わりそうだ』
ユーノと氷結魔法の問題点について話をしていた闇の書の管制人格は、途中で言葉を切ってそう言った。
『ってことは!?』
『ああ。 説得に成功した。 更に、上手くいけば守護騎士達も無事に済むかもしれん』
『本当!?』
なのはが事態が好転したことに喜びの声を上げた。
フェイトやアルフ、そしてユーノも、声には出さなかったが嬉しそうな顔をしている。
しかし俺は、そう言った管制人格の顔がまるで泣きそうに見えたのが妙に気になった。
『今、主はやての意識を表層に浮上させる――なのはちゃん、フェイトちゃん!』
管制人格が目を瞑って少しすると、姿はそのままで声だけがはやてのものになった。
守護騎士達を救う手段が見つかったのがよほど嬉しかったのだろう。
はやての声は先程までとは違い、元気に満ち満ちたものだった。
『はやてちゃん!』
『よかった、無事だったんだね?』
『ありがとな? でもその話はあとや! いま防衛プログラムと夜天の書の切り離しに成功したんやけど、本体はこっちから停止させることができひん! せやから、皆でなんとかしてこの表に出とるプログラム体を止めてくれるかっ!?』
まあいい。 管制人格の感情のことは後回しだ。
ようは、暴走の原因である自動防御プログラムだけを魔導書本体から切り離したことで、後はそいつを処分すればよくなったという訳だな?
で、その本体ってのがあの人型のプログラム(=変身したはやて)で、そいつを止めればいいと。
ふっ。 それなら簡単だ。
そう思った俺は、辺りにあった雪をかき集め、圧縮魔法によって超高圧を掛けることで氷の結晶を作り始めた。
水は常温で高圧にしていくと、ある圧力を超えたところでIceⅦ相という固相へ一瞬で相転移する。
これは通常の温度低下によって作られる六方晶系のものとはかなり異なった性質を持っているのだが、まあそこら辺は割愛。
要はそれが簡単に作れて、かつ空気を通さないということが今は重要なのだ。
さて、そんなことを考えているうちに、俺の手の中の雪玉はピンポン玉サイズのIceⅦ結晶へと変わってくれた。
あとはこいつを魔力膜でつつんで、高圧を保ったまま防衛プログラムの気管へと転送してやれば――
『任せてっ! ……と、言いたいところだけど、ユーノ君、これって結局どうすればいいの?』
『えーと、必要なのは防衛プログラムの停止だから、簡単に言えば彼女に魔力ダメージを叩きこんで撃墜すればいいんだ』
――え? 魔力ダメージ?
『しかも今なら、はやてが行動を押さえてくれてるみたいだから、デカイのを一発叩きこめばそれでオッケーだよ』
『なるほど! さっすがユーノ君! わかりやすくていいね!』
嘘、俺もしかして早まっちゃった?
そう思いながら恐る恐るディスプレイを見てみると、なのはの杖を向けられているその先には、急性呼吸困難に伴うチアノーゼが現れ始めた銀髪女性の姿があった。
『じゃあ行くよ、フェイトちゃん!』
『オッケー、なのは!』
うわっ、やべえ、なんか激しく痙攣しだしたぞ。
とりあえず氷の結晶は海に捨てたけど、まさか死んだってことは無いよね?
窒息第Ⅲ期の『意識の消失』を待とうと思っていたのだが、どうやらこの方法は少しだけ間違っていたようだ。
『全力全開――』
『疾風迅雷――』
『『ブラストシューートッ!!』』
とにかく、何らかの原因で身動きが取れなくなっていたはやては、なのはとフェイトによるコンビネーション攻撃をまともに受ける事となった。
二人が放ったピンクと黄色の光ははやてを飲み込んでなお減衰せず、海に突き刺さって大きな水しぶきを上げた。
おいおい、これやばいんじゃね?
今バリアとかシールドとか一切出現しなかったよね?
あわわわわ、ぼく知ーらないっと。
脇の下に嫌な汗を掻きながら画面を注意深く見ていると、突然海上に直径2メートルぐらいの白い球が現れた。
やがて水しぶきが完全に晴れたところで、その球から天を貫く光の柱が発生し、中からはやてが現れた。
ほっ。
無事だったか。
やー、よかったよかった。
突然痙攣し始めた時は一体どうなる事かと思ったけど、やっぱ防衛プログラムとか言う奴とはやては別もんだったってことか。
『サニー君』
そうして一息ついて安心していると、何故かはやてが俺に向かって話しかけてきた。
しかもサーチャー越しなのに、視線が俺をロックオンしているというおまけつき。
なぜか急に気温が下がった気がするものの、俺はそういったサスペンスやホラーは苦手ではないので、そんな恐怖には負けず屈せず、気丈に返事を返すことにした。
「お、おう。 心配したんだぞ? 大丈夫だったか?」
ところが、はやては俺の言葉には答えようとせず、ディスプレイ越しに俺と目を合わせたままこう続けた。
『そこを動くな』
「ひぃっ!?」
そのセリフを言った時のはやてさんの笑顔は、それはもう大層恐ろしかったという。