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No.15974の一覧
[0] 【A's編完結】俺とデバイスとあるハザード(下ネタ注意)[T・ベッケン](2010/09/19 07:21)
[1] 再出発編 第1話 汚伝はじめました。[T・ベッケン](2010/01/29 00:17)
[2] 再出発編 第2話 だけどよだれが出ちゃう。だってオタクなんだもん。[T・ベッケン](2010/02/14 17:02)
[3] 再出発編 第3話 ここはジョークアベニューです。[T・ベッケン](2010/01/29 10:48)
[4] 再出発編 第4話 Q.まほうってなんでできてる? A.血汗に欲望、金のニワトリでできてるよ。[T・ベッケン](2010/01/29 18:19)
[5] 再出発編 第5話 危険物につき取り扱い注意[T・ベッケン](2010/01/30 03:08)
[6] 再出発編 第6話 感離極の黒い悪魔[T・ベッケン](2010/01/30 14:06)
[7] 再出発編 第7話 次元世界の真実?[T・ベッケン](2010/02/15 13:42)
[8] 再出発編 第8話 戦う決闘者達[T・ベッケン](2010/02/01 17:43)
[9] 出会い編 プロローグ 思い出は時の彼方に[T・ベッケン](2010/02/07 15:52)
[10] 出会い編 第1話 それは不可避な出会いなの?[T・ベッケン](2010/02/16 17:13)
[11] 出会い編 第2話 咄嗟の言い訳はロジカルなの?[T・ベッケン](2010/02/16 17:14)
[12] 出会い編 第3話 わかりあえない気持ちなの?[T・ベッケン](2010/02/06 13:35)
[13] 出会い編 第4話 街は危険がいっぱいなの?[T・ベッケン](2010/02/07 15:51)
[14] 出会い編 第5話 ライバル!?もうひとりの火砲少女なの?[T・ベッケン](2010/02/15 13:44)
[15] 出会い編 第6話 ここは湯のまち、海鳴地獄なの[T・ベッケン](2010/02/10 00:42)
[16] 出会い編 第7話 それは大いなる危機なの?[T・ベッケン](2010/02/11 02:45)
[17] 出会い編 第8話 三人目の魔法使いなの?[T・ベッケン](2010/02/11 18:58)
[18] 出会い編 第9話 決戦は海の上でなの[T・ベッケン](2010/02/13 02:34)
[19] 出会い編 第10話 それぞれの胸の誓いなの[T・ベッケン](2010/02/13 15:24)
[20] 出会い編 第11話 宿命が閉じるときなの[T・ベッケン](2010/02/15 19:32)
[21] 出会い編 エピローグ なまえをよんで[T・ベッケン](2010/02/20 11:07)
[22] 友情編 プロローグ Dear My Master[T・ベッケン](2010/03/17 03:22)
[23] 友情編 第1話 たくらみは公然になの[T・ベッケン](2010/03/17 03:24)
[24] 友情編 第2話 戦いの嵐、ふたたびなの[T・ベッケン](2010/03/17 14:45)
[25] 友情編 第3話 再会、そしてお引っ越しなの[T・ベッケン](2010/06/07 14:42)
[26] 友情編 第4話 新たなる力、乱用[T・ベッケン](2010/09/16 22:39)
[27] 友情編 第5話 それは新たなお友達なの[T・ベッケン](2010/06/07 14:44)
[28] 友情編 第6話 それは普通の日常なの[T・ベッケン](2010/05/08 04:58)
[29] 友情編 第7話 懲りない馬鹿と原罪となの[T・ベッケン](2010/04/24 06:36)
[30] 友情編 第8話 正しい決意、勇気の選択[T・ベッケン](2010/09/16 22:38)
[31] 友情編 第9話 運命[T・ベッケン](2010/09/24 10:54)
[32] 友情編 第10話 聖夜の送り物[T・ベッケン](2010/09/20 10:58)
[33] 友情編 第11話 夜の終わり、旅の始まり[T・ベッケン](2010/09/19 07:18)
[34] 友情編 エピローグ Lots of love[T・ベッケン](2010/09/19 09:42)
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[15974] 友情編 第2話 戦いの嵐、ふたたびなの
Name: T・ベッケン◆73c3276b ID:e88e01af 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/17 14:45
 地球への上陸許可が下りた翌日。
 俺はいくつかの手荷物をお供に第97管理外世界のとある公園に降り立った。


「地球か……何もかもが懐かしい……」

「まるで銀河の果てまで冒険してようやく帰ってきたみたいに言ってるけど、そんな感慨に耽るほど前の話じゃないよね?」

「まあな」

「え? え?」


 久しぶりの大地の感覚に浸っているとユーノとなのはが迎えに来た。
 なのはは元ネタが全くわからなかったみたいだ。
 不勉強な奴め。


「久しぶりだね、サニー」

「お久しぶり、サニーくん」

「おう。 2人とも久しぶり」

「直接会うのってどれくらいぶりだっけ?」

「俺たちがクロノにボッコボコにされた時以来だな」

「あーあれね……。 ところで急にこっちに来ることになったって言ってたけど、何の用事?」


 ユーノはその時の事を思い出して話を逸らすようにそう尋ねてきた。
 このチキン野郎が。 ガキのマッパぐらい別に捕まりゃしねえっての。
 というかお前はまた小動物形態で高町家に居候してんのかよ。
 もうばれてんだから人型で良いと思うんだけどなぁ。


「前にこの世界が俺の昔居た世界の可能性があるって言ってただろ? そうしたら身分証明の手続きとか身の振り方を決める上でそれが事実かどうか確かめる必要があるって言われてさ」

「そういえばそんなことも言ってたね」

「ええ~っ!? サニーくんってこの世界の出身だったの!?」

「だからそれを確かめに来たんだって。 おいユーノ、こいつちゃんと魔法だけじゃなく国語の勉強もさせてんのか?」

「あはは……」


 ユーノは笑って誤魔化そうとした。
 やっぱりしてないんですね。


「ちゃ、ちゃんとしてるよ! ただちょっと成績が良くないだけで……」

「それはしてないのと一緒じゃね? 小学校の国語ってそんな勉強しないと点が取れないようなもんなのか?」


 小学生の頃の記憶が無いから今いちよくわかんねえけど、そんな極端に難しい問題は出ないと思うんだが。
 まあ記憶が無いっつっても小学校では英語がないとか、中学校では英数国理社の5教科が重要だとかの知識はある。
 これはやっぱ知識と記憶は別もんだってことなんだろうな。


「それは僕の口からは……」

「ふーんだ。 どうせユーノくん達は頭がいいからできない人の気持ちなんてわからないの」


 そう言ってなのはは片方の頬を膨らませてそっぽを向いた。
 ちくしょう、ちょっと可愛いじゃねーか。
 まあ今は身体は子供、頭脳は大人なバーロー状態だからパッと見賢く見えるけど、俺は少なくとも大学浪人をしているので勉強はあまりできない子だったのは間違いない。


「気にしなくても大丈夫だよ、なのは。 だってなのはは理系科目だけは良かったじゃないか」

「だけとか言わないでよ!」

「あれ、てことはもしかして社会も悪かったのか? なら半分は駄目ってことじゃねーか」

「英語は平均点よりあったもん! だから半分よりは上だったの! あと国語もちゃんと聞いてよ!」

「聞くまでもねえだろ」

「酷いっ!?」


 酷いのはお前の成績だとは言わないでおこう。
 でも最近は小学校でも英語ってやってんだな。
 これは俺の知識が間違ってんのか、それとも学校が私立だからなのか。
 まあそんなことは今考えても仕方ない。


「英語はやってるってんならこの質問には答えられるよな? How did you come here? (あなたはどういった手段でここにやってきましたか?)」

「はう? え、えーっと、イエス、あいむ……ひあ? (はい、私はここにいますか?)」

「ブッ」

「強く生きろよ?」


 俺はやさしく微笑みながら彼女の肩を叩いて励ました。
 あとユーノ、頑張って堪えようとしてるのは偉いと思うが残念ながらなのはには隠せてないぞ。


「むっかー! もうサニーくん達なんて知らない!」

「ご、ごめんってばなのは」

「つーん」

「ああ、そういえばサニー、エイミィさんから聞いたんだけど何か僕達に渡すものがあるんだって?」


 このままだとますますなのはの機嫌を損ねると思ったのかユーノは再び話を逸らそうとした。


「おお、そういえばそうだった。 フェイトからの預かりものがあるんだ」

「フェイトちゃんから!? こないだのお返事とかかなぁ? サニーくん、早く早く!」

「忘れてきちゃったの」


 だが俺は自重しない。
 まだまだなのはで遊んでやる。


「サニーくん」

「なぁに? なのはちゃん」

「私の全力全開の一撃、受けてみる?」

「すいませんでした」


 表情筋は笑顔を形作っているんだけど目が笑っていない。
 それは以前フェイトの実家を崩壊せしめた時のことを思い出させるような壮絶な笑みだった。

 俺はあの庭園と同じようにはなりたくなかったので、預かってきたDVDを持ってきた鞄から取り出してなのはに渡した。


「こっちの『for Nanoha & Yu-no』って書いてある方がなのはとユーノ用で、こっちの『for Friends』って書いてある方はお友達みんなと見てね、とのことだ。 ひらがなで横に書いとこうか?」

「それぐらい間違えないよ! ほんとにサニーくんはいじわるなの!」

「その通り。 俺は可愛い子にはいじわるなのだ。 あとユーノ、お前にはクロノからの預かり物がある」

「え!? ち、ちょっと――」


 俺は適当な言動でなのはを煙に巻いてからユーノに一通の封筒を渡した。


「何? これ」

「何でも管理局本局にある無限書庫の閲覧資格取得についての書類だそうだ。 前にお前が無限書庫で探してみたい資料があるって言ってたから用意したんだってさ。 後でクロノにお礼言っとけよ?」

「……うん」「あの、サニーくん、今わたしのこと可愛いって――」

「でもお前、なんでクロノの時だけ微妙な反応になるんだ?」


 やっぱこの間のダーツん時散々にからかわれたのが原因か?
 それともなのはを巡る三角関係トラブルなのか?
 俺としては後者に期待なんだが。 ちびくろサンボのトラバター的な意味で。


「それはクロノが皮肉を言うからだよ。 そう言えばサニーは今日泊まる場所はどうするの?」「ねえ聞いて……あ、わかった照れてるんだ」

「今日は向こうで適当に一泊する予定」「図星? 図星なんでしょ? へえ、そうなんだぁ~」

「いちいちうるせえな。 この小娘が」

「アリサちゃんにも素直になれないみたいだし、それも仕方ないね」

「おい適当なことをぬかすな。 名誉棄損で訴えるぞ?」


 まったく、油断も隙もあったもんじゃないな。
 いい加減冗談は馬鹿と魔力だけにしてほしい。


「泊まるところがないならまた家に泊まればいいよ。 お父さんもきっと喜ぶと思うし」

「その申し出は非常にありがたいが、とりあえずこれを見ろ」


 そう言って俺はポケットから財布を取り出し、その中の万札をなのはに見せびらかした。


「ええっ!? 何このすごいお金! これどうしたの? まさかぬす――痛っ!?」


 俺はそのセリフを最後まで言わせずに拳骨を食らわせた。
 人の評価を不当に貶めようとする奴は殴られても仕方ないと思う。


「何するの!?」

「勝手に人を犯罪者にしようとするからだ。 これはちゃんと働いて得た正当な報酬だっつの。 本局のほうで簡単なバイトがあってな、それで稼いだんだ」

「うぅー……。 それでそのお金がどうしたの?」


 なのはは頭を両手で抑えながら聞いてきた。


「金さえあればホテルに泊まれるだろ? つまりはそういうことだ。 だから泊まるところの心配はしなくていい。 あ、それと……これ、本局土産のお菓子」


 俺は先ほどのDVDと同じように鞄から本局饅頭の入っている箱を取り出してなのはに渡した。


「士郎さんに『その節は大変お世話になりました。 ちゃんとしたお礼はまた後ほどいたしますので、とりあえず今回はこれで』って言って渡してくれ」

「そのせつわ……そんなの別にいいのに」


 そうか、覚え切れなったか。
 社会経験がまだ少ないなのはには難しかったかもしれないな。
 でもこれは社交辞令みたいなものだからお礼さえ伝えてくれればそれでいい。
 ユーノもいるから、いざというときはフォローもちゃんとしてくれるだろう。


「まあこれは礼儀みたいなもんだ。 お世話になっときながら何もないってのはいくらなんでも失礼だろ?」

「ふーん、ちなみにバイトってどんなことしてたの?」

「基本的にはクロノからの依頼が主で簡単な内職や事務仕事、あとは艦内清掃がほとんどだった。 本局の方であった求人は身分証明書がないからできなかったし。 まあ文字が完全には読めないからどの道そっちは無理だったんだけどな」


 ミッドチルダ語の文字は通常の英字とは少し違うものの、単語や文法なんかは英語と殆ど同じである。
 だから特に勉強しなくても話す方は大丈夫だろうと高を括っていた。
 ところがこのミッド語、意外と英語と異なる点が多かったため恥を掻くこともしばしばあった。
 いきなり翻訳魔法が切れた時はびっくりしたけど、田舎者と差別されなくてよかったぜ。


「そういえばなのはも今ミッド語の勉強をしてるんだよ」

「そうなのか?」


 ユーノの発言を確かめるため、俺は箱の中を覗き込むことに夢中ななのはに聞いてみた。


「えへへ、実はそうなんだ」

「なら確かめてみよう。 What kind of magic are you good at? (あなたの得意な魔法は何ですか?)」

「えと、ちゃ、チャージショット……?」


 なのはは『これであってる?』とでも言いたげに上目づかいでこちらを見ている。
 俺は一応でも合っていることが気に入らなかったので、さらに突っ込んだ質問をすることにした。


「When is its magic used at? (それはどういうときに使いますか?)」

「ええっ!? 質問は1つだけじゃないの!? え、えと、えと……あ、わかった! アイショットイット、トゥーフレンド(私はそれを友達に向けて撃ちます)。 どう? これでちゃんと勉強してるってわかってくれたよね?」


 なのははどうだ、とでも言いたそうに無い胸を張りながら自信満々に言い放った。


「そうだな。 今後君とは付き合い方を考えないといけないことは十二分にわかった」


 forならまだしも、toって。
 お前は友達を亡き者にする為に魔法の勉強をしてんのか?
 あ、そういやこいつ、半月前にユーノに向かって長距離砲撃をぶちかましたって聞いたな。
 あんときはユーノがなのはの風呂を覗いたりして怒らせたのかと思ってたけど、今のを聞くと案外ただの趣味だったのかもしれない。
 フェイトもバインド掛けられた後で撃たれてるし。
 ちなみになのはにぶっ飛ばされた事のある俺の友人は、現在腹筋崩壊の魔法を食らってしゃがみ込んでいる。


「じゃ、じゃあサニーくんはどうなの? ユーノくん、ちょっとサニーくんに問題だして、ってなんで笑ってるの!?」


 なのはは俺に話を振って自分のミスを誤魔化そうとしたが、肝心のユーノは笑い転げていて使い物にならない。
 それに怒った彼女はユーノをポカポカ叩いて追い回し始めた。


「ヒィー、くるし、あ、ごめ、いや違うんだ。 別になのはのことを笑ってたわけじゃ、いて、いたいって、サニー、なのはを止め――」

「I'm here? (わたしはここにいますか?)」

「アハハハハ!!」

「レイジングハート「All right」」

「ちょっ、え、ええっ!? 悪いのは全部サニーじゃないか! どうして僕が!?」

「誰だって少し間違えることくらいあるよ! なのにそれを笑うなんて失礼じゃないかな!? だからこれで少し反省するの!」

「やめてなのは! そんなの食らったら僕死んじゃう!」

「非殺傷設定だから多分大丈夫っ!」

「多分!? くっ、ラウンドシールド!」


 本気で拙いと思ったユーノは慌ててシールドを張った。


「いくよ! ディバイーン……バスターッ!!」

「よし、何とか間にあっ、てないっ!?」


 だが残念。
 ユーノが張ったシールドは極太ビームによってあっけなく砕け散った。


「サニーのばかああああぁぁぁぁ!!」


 そうしてユーノは俺に罵声を浴びせた後、ピンク色の光の奔流に呑まれて見えなくなった。
 やっぱり"I shoot it to friend."でちゃんとあってたな。
 馬鹿にして悪かったよ、なのはさん。
 ちゃんと謝るからその杖をこっちに向けないでくれませんかね?
 おい、だからマジでやめろ、冷静になれって。
 今度ミジンコでもわかる英語辞典買ってやるから、な?



 その後フェイトの近況として『裁判は実質無罪の保護観察になりそう。 今は嘱託魔導師としての試験勉強をしてる』ということを話したり、『だったらわたしも食卓魔導師になろうかな。 お母さんに料理を習えばいいの?』と聞いてきたなのはを小馬鹿にしたりしていると、何処からともなく正午を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
 高速バスの出発予定時刻が12時30分なのでそろそろここを離れないと間に合わない。


「じゃ、ここでの予定も全部消化したしもう行くわ」

「うん!」


 なのはは見た感じ明らかにボロくなっている俺に向かって元気に返事を返してきた。
 日ごろの鬱憤を晴らしたのかその顔には満面の笑みが浮かんでいる。
 ファック、いつか泣かしてやる。


「おいユーノ、お友達のお見送りぐらいちゃんとしないと碌な大人にならないぞ」

「…………」


 返事が無い。 ただの屍のようだ。
 というかよだれを垂らしながら白目を向いて気絶してる。
 そんなボロ雑巾のようになってベンチに座らされているユーノを見て、俺は少しだけ罪悪感を覚えた。
 ごめんなユーノ。 お前のことはきっと忘れないよ。


「なのは、ユーノの事は頼んだ。 ちょっと今は見た目がアレだけど、根はいい奴なんだ」

「う、うん、わかってるよ。 ちょっとわたしもやりすぎたかなぁって。 にゃはは……」

「まあユーノもお前に介抱してもらえれば文句の一つも言わないはずだ」

「え? それってもしかしてユーノくんがわたしの事を――」

「こいつは無類の女好きでな。 上は80、下は3歳までいけるってこの間自慢してたからさ」

「……そうなんだ。 もう誰を信じればいいのかわからなくなってきたよ」


 とりあえず俺の事を信じなければそれでいいと思うよ。


「って、本当に時間が無くなっちまう。 See you later. (じゃーな)」

「し、シーユー、サニーくん」

「一応言っておくと、最後の『くん』は日本語だからな?」


 その突っ込みを最後に、俺はなのは達と別れて自分探しの旅に出かけた。






 バスから降りて目的の土地に着いた時にはもう日は沈みかけていた。
 だが当時通っていた大学の事務局はまだギリギリ人が居る時間だったので、俺は公衆電話からそこへと電話を掛けてみた。


『はい、こちら理学部地球科学科事務室の伊藤です』

「あ、すいません、ちょっと確認したいことがあってそちらに電話したんですが」

『はい、なんでしょう?』

「僕は以前そちらの工藤研究室に在籍していた卒業生なんですけど、ちょっとした証明みたいなものが必要になったんですよ」

『はい』

「それで先日教務課の方に連絡を取ったところ、『それに関してはまず在籍していた学科の事務室の方に頼んでくれ』と言われたんですよね」

『あー、なるほど。 そうしましたらまずは卒業生であることを確認しますので、あなたのお名前と卒業年度、あとはもし覚えていたら当時の学籍番号をお願いします』

「はい。 名前は空野太陽、卒業年度は――」


 それから少々お待ち下さいと言われ、久しぶりに口に出した恥ずかしい名前に悶えながら待つこと数分。
 電話口から流れる単音で紡がれるメロディーに飽き飽きして来た頃、ようやく確認が終わったのか相手が電話に出る気配を感じた。


『お待たせしました』

「いえ、気にしないでください」

『今『空野太陽』の名で探して見たんですけど、ちょっと学部の方でも修士、博士の方でも見あたらなかったんですよね』

「えっ?」


 先ほどまで感じていた何とも言えない羞恥心が完全に吹き飛んだ。
 見つからない? そんな馬鹿な。
 学士か修士の方には載ってるはずだぞ?


『もしかして電話を掛ける場所間違えたりとかしてないですか?』

「……あれ、そちら理学部化学科の事務室ですよね?」

『いえ、こちらは理学部の地球科学科の事務室です』

「ああ、じゃあ見つからないのも当たり前ですね。 お手数おかけして申し訳ありませんでした」

『いえ、お気になさらず』


 俺は相手がそう言ったのを確認してから電話を切った。
 相手は特にこちらを不審には思っていなかったようなので、俺の対応が問題で個人情報を洩らさなかったということではなさそうだ。

 その後、深夜まで待ってから大学の図書館に忍び込み、卒業論文集から自分の名前を探してみたり、そこに置いてあったPCから研究室のHP等を確認してみたが、俺が以前この大学に在籍していた痕跡はどこにも見つからない。
 他にも色々と手を尽くしてみたものの、結局自分が昔この星に存在していたという証拠は1つたりとも見つけられなかった。

 記憶の中にある教授の名前や容姿はほとんど変わってない人もいれば、逆に全く知らない人もいる。
 理科年表や地図等を見ると年号や地名に若干の違いが見られる。
 そうして見つけた中で一番わかりやすい違いは、現在の西暦が俺の死んだ年よりも過去であるということだ。

 何と言うミステリー。
 これは一体どういうことだ?
 確か次元世界間では時間軸にズレは存在しないんじゃなかったのか?
 いや、時間の進み方が違うだけでここは俺の知る世界とは違うという可能性もある。
 だが、もしそうだとすると俺の知っている教授達と名前や容姿が一致することの説明がつかない。
 これはもっとユーノの話をちゃんと聞いておくべきだったな。
 もしかしたら俺の記憶はフェイトと同じく作られたものなのかも――――

 そのことに気付いた途端、俺は急速に自分という存在が崩れて行くのを感じ、立つことすらままならなくなった。
 俺は別に元の世界へと帰りたい訳ではない。
 しかし、確かだと思っていた自分自身を否定されると言うことは、こんなにも恐ろしいものなのか。
 フェイトはこんな感覚からよく短時間で立ち直れたものだ。
 これはちょっと、かなり厳しい。


 それからしばらくはその街をふらふらと彷徨い続けたが、やはり街の風景そのものは前世の記憶とほとんど違いがないことがわかった。
 しかしそのことは、俺の精神にとってなんのプラスにもならなかった。






 下弦の月が東の空に見えてきた頃、俺は転移魔法を使い今朝なのは達と会っていた公園まで戻ってきた。
 そしてベンチに座り、ユーノやなのは達の顔を思い出したところで、俺はようやくひと息吐くことが出来た。


「あー、マジで怖かった。 本当に死ぬかと思ったぜ」


 アイデンティティークライシスはもう勘弁したいのでこの事について考えるのはもうやめよう。


 その後『いろいろあって疲れたし、そろそろホテルにでも行くか?』とも思ったが、今はもう子供が一人ふらふらしてると通報されるのが確実な時間である。
 というか子供一人のウォークインはもともと無理があるだろ。 常識的に考えて。

 そのことに気付いた俺は結局野宿をすることに決めた。
 なのはの家へ行かなかったのは、一度断ったにも関わらずのこのこ出て行くのが恥ずかしかったこと、今日は向こうに泊まると言ってしまったこと、そしてこれ以上あの家に迷惑を掛けたくなかったことが理由だろう。
 無意識的に避けようと思ったのはきっと何かの間違いに違いない。


 こうして俺は始めてこの街で夜を過ごした公園で、久しぶりに野宿をして夜を明かすことになった。
 風邪をひかないか少しだけ心配ではあったが、その日の夜は既に夏が近付いていることもあるのか、たった一部の新聞でも余り寒くはなかった。






 翌朝。
 まだ気温も温まり切っていないのに周りが騒がしくなってきたため目が覚めた。
 何事かと思って確認してみると、そこにはハンマー片手に球を叩きまくっている老人達の姿があった。
 よく見ると俺と同じ年ぐらいの女の子も楽しそうにしていたのでとりあえず俺も参加させて貰うとしよう。

 そうしてリーダー的な老人に混ぜてくれと頼み込んだ許可を貰ったところ、別の老人たちに囲まれていた小生意気な赤毛の少女が俺に話しかけてきた。


「お前、名前は?」


 これはまた、やたらと偉そうなガキだな。
 どうせジジイ共に甘やかされて育ってきたんだろう。
 ちょっとからかってやるか。


「俺の名前はトワレッテン・ベッケン・ドルフファーレン。 略してライヒトグロイビヒ・ナハッティーア。 俺の事はゲルトハイラートと呼んでくれていいぞ」


 トワレッテン・ベッケン=便座
 ドルフファーレン=下痢

 ライヒトグロイビヒ=騙されやすい
 ナハッティーア=夜行性動物
 ゲルトハイラート=財産目当ての結婚


「よし、じゃあ下痢便野郎。 やるならおまえは敵チームな」


 そいつはニヤニヤ笑いながらそう言った。
 というかよりによって一番嫌な訳し方をしやがって。
 この糞ガキ、絶対泣かしてやる。



 さて、まずはゲートボールの簡単なルールを説明しよう。
 このゲームの目的は制限時間内に自分の手玉をコの字型の金属で出来た3つのゲートを順に通し、最後にゴールポールに当てて『あがり』を目指すことにある。
 基本的にチーム戦であり、5対5でやることが普通だという。
 そして勝敗は試合終了時、持ち玉のゲートの通過状況によって決まる1人1人の得点を、チーム毎に合計したもので決める。
 またこのゲートボールでは『いかに得点するか』よりも『いかに相手を邪魔するか』に重点がおかれる。
 これは一度『あがり』になった選手はそのゲームではもう参加できなくなり、相手に多く打順が回ってしまうためだ。

 それを知らなかった俺は、第一ゲームではひたすら小娘に蹂躙されてしまった。
 しかしそこは本局でビリヤードを極めた俺である。
 それさえわかってしまえばこの程度の非弾性衝突計算なんぞ赤子の手をひねるように優しい問題だ。

 最初のゲームでこそ何もさせてもらえなかったが、それ以降のゲームではむかつくガキの玉を執拗なまでに邪魔してやった。
 だんだんとイライラしていき地団太を踏みだしたそのガキンチョの様子に俺は大変満足した。 ざまあミソラシド。


「あー畜生! もう時間切れかよ。 次はぜってー負かす。 そんで泣かす」

「物騒な奴め」


 赤毛の少女が涙目で俺にそう言ってきた。
 よく初対面の相手にこれだけ乱暴な言葉を使えるな。
 下手に道端で遭遇するといきなりハンマーで殴られかねん。
 というかなんでこいつはこんなにハンマーが似合ってるんだ?


「というかお前、そろそろ本当の名前を教えろよ」


 だが今後道端で出会った時いきなり殴りかかられては困る。
 ふむ。 ここは保身に走った方がよさそうだな。


「わたし高町なのは9歳、小学3年生。 今はちょっと訳があって変装してるけど、ホントはお下げが似合う可愛い女の子なの」

「おまえそんななりして実は女なのかよ! たかまちなにょ、なも、だあーっもう言いにくい名前だなっ! とにかくキモいからその変な喋り方はやめろ」


 こいつ意外と面白い反応を返してくるな。
 俺はそう思ったので人の名前もまともに言えない可哀そうな子を更におちょくることにした。


「ヴィータちゃん、小さいうちから乱暴な言葉遣いをしてると大きくなったら陰毛がボーボーになっちゃうよ?」

「なるわけあるか! ちょっと人よりゲートボールが上手いからって調子に乗るんじゃねーですよ。 今日はもう終わりだけど、次はもう手加減しねーかんな?」

「ヴィータちゃん、手加減っていうのは相手より強い人がするものなの。 言葉は正しく使わないと大きくなれないよ?」

「だーっ、こいつすっげームカツク! たかまちにゃの、にゃにょ、と、とにかく! 明日も来いよ!? 勝ち逃げとかしたらマジで泣かすかんな!? ぜってーだぞ!?」

「にゃはは、返り討ちにしてあげるの」


 ところがどっこい、残念ながら俺はその頃既に宙の人になってるんで再戦は出来ません。
 代わりに高町なのは(♀・9歳・学生)を必死に探してボコってあげてください。



 こうして俺は大きな謎と小さな勝利、そしてちっぽけでも確かに存在している自分自身を手土産にこの星を後にした。
 さらば~地(某利権団体に検閲されました。 続きが聞きたい場合その団体にいる天下り社員に金の延べ棒をご提出ください。 にっぷるにっぷる)


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