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No.15974の一覧
[0] 【A's編完結】俺とデバイスとあるハザード(下ネタ注意)[T・ベッケン](2010/09/19 07:21)
[1] 再出発編 第1話 汚伝はじめました。[T・ベッケン](2010/01/29 00:17)
[2] 再出発編 第2話 だけどよだれが出ちゃう。だってオタクなんだもん。[T・ベッケン](2010/02/14 17:02)
[3] 再出発編 第3話 ここはジョークアベニューです。[T・ベッケン](2010/01/29 10:48)
[4] 再出発編 第4話 Q.まほうってなんでできてる? A.血汗に欲望、金のニワトリでできてるよ。[T・ベッケン](2010/01/29 18:19)
[5] 再出発編 第5話 危険物につき取り扱い注意[T・ベッケン](2010/01/30 03:08)
[6] 再出発編 第6話 感離極の黒い悪魔[T・ベッケン](2010/01/30 14:06)
[7] 再出発編 第7話 次元世界の真実?[T・ベッケン](2010/02/15 13:42)
[8] 再出発編 第8話 戦う決闘者達[T・ベッケン](2010/02/01 17:43)
[9] 出会い編 プロローグ 思い出は時の彼方に[T・ベッケン](2010/02/07 15:52)
[10] 出会い編 第1話 それは不可避な出会いなの?[T・ベッケン](2010/02/16 17:13)
[11] 出会い編 第2話 咄嗟の言い訳はロジカルなの?[T・ベッケン](2010/02/16 17:14)
[12] 出会い編 第3話 わかりあえない気持ちなの?[T・ベッケン](2010/02/06 13:35)
[13] 出会い編 第4話 街は危険がいっぱいなの?[T・ベッケン](2010/02/07 15:51)
[14] 出会い編 第5話 ライバル!?もうひとりの火砲少女なの?[T・ベッケン](2010/02/15 13:44)
[15] 出会い編 第6話 ここは湯のまち、海鳴地獄なの[T・ベッケン](2010/02/10 00:42)
[16] 出会い編 第7話 それは大いなる危機なの?[T・ベッケン](2010/02/11 02:45)
[17] 出会い編 第8話 三人目の魔法使いなの?[T・ベッケン](2010/02/11 18:58)
[18] 出会い編 第9話 決戦は海の上でなの[T・ベッケン](2010/02/13 02:34)
[19] 出会い編 第10話 それぞれの胸の誓いなの[T・ベッケン](2010/02/13 15:24)
[20] 出会い編 第11話 宿命が閉じるときなの[T・ベッケン](2010/02/15 19:32)
[21] 出会い編 エピローグ なまえをよんで[T・ベッケン](2010/02/20 11:07)
[22] 友情編 プロローグ Dear My Master[T・ベッケン](2010/03/17 03:22)
[23] 友情編 第1話 たくらみは公然になの[T・ベッケン](2010/03/17 03:24)
[24] 友情編 第2話 戦いの嵐、ふたたびなの[T・ベッケン](2010/03/17 14:45)
[25] 友情編 第3話 再会、そしてお引っ越しなの[T・ベッケン](2010/06/07 14:42)
[26] 友情編 第4話 新たなる力、乱用[T・ベッケン](2010/09/16 22:39)
[27] 友情編 第5話 それは新たなお友達なの[T・ベッケン](2010/06/07 14:44)
[28] 友情編 第6話 それは普通の日常なの[T・ベッケン](2010/05/08 04:58)
[29] 友情編 第7話 懲りない馬鹿と原罪となの[T・ベッケン](2010/04/24 06:36)
[30] 友情編 第8話 正しい決意、勇気の選択[T・ベッケン](2010/09/16 22:38)
[31] 友情編 第9話 運命[T・ベッケン](2010/09/24 10:54)
[32] 友情編 第10話 聖夜の送り物[T・ベッケン](2010/09/20 10:58)
[33] 友情編 第11話 夜の終わり、旅の始まり[T・ベッケン](2010/09/19 07:18)
[34] 友情編 エピローグ Lots of love[T・ベッケン](2010/09/19 09:42)
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[15974] 出会い編 第11話 宿命が閉じるときなの
Name: T・ベッケン◆73c3276b ID:e88e01af 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/15 19:32
『ぁ……』


 フェイトは茫然として画面に映る母親を見つめている。


『これで取り戻せる……そしてようやく終わるわ。 この子を亡くしてからの憂鬱な時間も、身代わりの人形を娘扱いするのも』


 そしてプレシアはやはりこちらから見られてることに気付いていたようだ。
 しかしその目線はもう動かない自分の娘に固定されていて、こちらのことなど眼中にないとでもいうような態度であった。


「酷い……」

「まったくだ……」


 そんなプレシアの発言を聞いたエイミィさんは顔を伏せ、クロノは握りこぶしを作って画面の中のプレシアを睨みつけた。


『折角アリシアの記憶をあげたのにそっくりなのは見た目だけ。 役立たずで出来の悪い、ただの失敗作』


 おいおい、お前がやらせた糞きつい仕事をちゃんと成し遂げた娘に向かってなんてことを言いやがる。
 確かに最後の6個は自分で回収したようなもんだけどさ、いくらなんでもそれはねえだろ。

 なのは達は何が起こっているのか理解出来ておらず困惑した様子だったため、エイミィさんが指揮所にいる皆にこちらで調べてわかった事情を話し始めた。


「最初の事故の時にね、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。 彼女が最後に行っていた研究は、使い魔とは異なる、使い魔を超える、人造魔導師の研究。 そして死者蘇生の秘術。 フェイトっていう名前は、当時彼女がしていた研究に付けられた開発コードなの」

『良く調べたわね。 そうよ、その通り』

 
 しかしその使い魔を超える人造魔導師ってのは結局何なんだ?
 さっきは軽く流したけど、一応は人間ってことで合ってるんだよな?


『だけど駄目ね、ちっともうまくいかなかった。 作り物の命は所詮作り物。 失った者の代わりにはならないわ』


「クロノ、人造魔導師って何だ?」

「僕も詳しくは知らない。 おそらく遺伝子操作等によって高い魔力資質を持つよう調整された素体に、魔道師としての知識や経験を植えつけたものなんだと思う。 そうすれば簡単に強力な魔導師を造りだせるからね」

「なるほど」


 つまりは特殊クローンに記憶の転写を利用して生み出される最初っからクライマックスな魔導師ってところか。


『アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。 アリシアは時々わがままも言ったけれど、私の言うことをとてもよく聞いてくれた』

『やめて……』


 なのはが小さく呟いた。
 フェイトは薄々と感じているようだが、それでもまだ縋りつくような視線で母親を見ている。
 その表情はとても痛々しく、見ているだけで胸が苦しくなってくる。


『アリシアは、いつでも私に優しかった……』


 プレシアはもう動かない自分の娘を優しく見つめ、暖かな想い出に触れるかのように彼女の居るシリンダーをそっと撫でた。
 お前の気持ちもなんとなくはわからないでもないけどさ、フェイトにもそうしてやれよ糞ババア。


『フェイト、やっぱりあなたはアリシアの偽物よ。 折角あげたアリシアの記憶も、貴女じゃ駄目だった』

『やめて……やめてよぅ……』

『貴女はアリシアを蘇らせるまでの間、私が慰みに使うだけのお人形』


 なのはは泣きそうになりながら必死に声を絞り出すも、その声はプレシアには届かず、彼女は更に言葉の凶器をフェイトに向かって投げ続ける。


『だからあなたはもういらないわ。 何処へなりとも消えなさい!』

『お願い! もうやめてぇっ!』

『っ……、ぅ……』


 その後プレシアは自分の顔を手で押さえ、嘲るように大声で笑いだした。
 その発言にフェイトは大きなショックを受けたものの、それでも崩れまいと必死に耐えている。
 今ならアルフがあいつを散々に言っていた理由が痛いほど理解できる。
 クソッ、この手が届く範囲にあいつがいたら有無を言わさず窒息させてやるのに!


『ああ、そうそう。 いいことを教えてあげるわ、フェイト』


 マズイ、これ以上あの母親からの暴言を聞かせたら決定的な何かが壊れかねないっ!


『貴女を造り出してからずっとね……』


「おいクロノ! この映像と音声を今すぐ止めろっ!」

「さっきからやってる! でもこっちからのアクセスを受け付けないんだ!」

「ハアッ!? この船はお前らの船だろうが!」


『私は貴女が、大っ嫌いだったのよっ!』


 しかし俺の願いも空しく、プレシアの口からは決定的な一言が放たれてしまった。
 そしてそれを聞いたフェイトは、その場で糸が切れるかのように崩れ落ち、その小さな手からは彼女がずっと大切にしてきたデバイスがこぼれ落ちた。
 ひび割れながらもまだ形を残していたそのデバイスは、まるでフェイトの心を表すかのように、落ちた拍子に砕け散った。


「なんてことを言うんだあの親はっ! サニー、君はすぐに指揮所へ行っ――」

「言われなくても行くっての!」

「ちょっと待てっ! なのは達に伝え――」


 そんなフェイトの姿を見てしまった俺はクロノの話を最後まで聞かずに管制室を飛び出し、彼女の元へと走った。




 指揮所へ向かって走り続けて数十秒。
 俺は通路を走るなのは達を見つけた。
 先頭はなのはで次にユーノ、そして最後にフェイトを抱えたアルフの順だ。
 向かっている方向からすると医務室に向かっている様である。


「なのはっ!」


 俺は彼女達に聞こえるよう大声で呼びかけた。


「サニーくん!? どうしてここに!?」


 なのはは俺の姿を見て酷く驚いた表情を見せた。
 そんなに意外だったか? まあ今はそんなことどうでもいい。
 おおかたふてくされて部屋にでもいると思っていたんだろう。


「それよりフェイトは? って聞かなくても何となくわかるか」


 アルフに抱えられたフェイトの目は虚ろで、身体には力が入っておらず、それこそプレシアの言っていた人形の様に見えた。


「今はちょっと自失してるけど命に別状はないと思う。 でも――」

「ねえ」

「なん、だ?」


 俺がユーノの話を聞こうとしているとアルフがそれを遮って話しかけてきた。
 俺はそれに対して文句を言おうとしたが、アルフの真剣な目を見てそれは止めた。


「アンタにさ、フェイトの事頼んでもいいかい?」

「アルフさん!?」

「任せろ」


 俺はなのはが何か言い出す前にアルフに向かって強く頷いた。
 心配すんなって。 俺だって今がどういう時かぐらいわかってる。


「あ、そうだ。 なのは、ユーノ、アルフ」

「なに?」

「クロノからの伝言だ。 『転送ポートで待ってる』ってさ」


 実際には言われてないが、直前までしていた会話から考えればおそらく今の指示で正しいはずだ。


「うん、こっちは任せて! 絶対プレシアさんを捕まえてみせるから! だってこのままだとフェイトちゃんがあんまりだよ!」

「アタシもこのまま終わらせるのは納得いかないよっ!」

「僕もだ!」

「ならもう時間がない。 早く行ったほうがいいぞ」

「わかった! じゃあサニーくん、フェイトちゃんのことお願い!」

「おう! お前らも頑張ってこい! そんで俺の分もぶっ飛ばしてくれ……って、もう行っちまったか」


 なのは達は俺が最後まで言い切る前に転送ポートへと全力で駆け出していった。
 そうして通路に取り残された俺はフェイトをおぶって、なるべく揺らさないよう静かに医務室へと向かった。






 医務室についた俺はまずフェイトをベッドにそっと寝かせ、彼女の見開いたまま何も写していない瞳をそっと閉じてやった。


「フェイト。 お前の家族と新しいお友達が、きっとお前の心を守ってくれるはずだ。 だから今はゆっくり休め」


 これ以上俺は何もしてやれない。
 後はせいぜいフェイトの傍に座り、モニターに映るなのは達を見ていることぐらいだ。

 現在医務室の壁にある画面には禍々しい魔王城みたいな建物が映されている。
 その建物の入り口にはやたらと巨大な門があり、その前には30を優に超える機械でできたプレシアの手先が待機していた。
 そしてそれに対峙するように立っているクロノからは不安や恐れに似た感情がにじみ出ており、ユーノの方も相手の数に脅えているのか少し震えているようにも見える。
 確かにいくら強いと言ってもあの数を相手にするのは厳しいだろう。

 『じゃあなのはは?』

 ふと俺がそう思ったところで、丁度サーチャーの映像が切り替わった。


「あ、なの……いや、まま、まさかね、まさかこれなのはさんじゃないっしょ」


 だがそこに居たのは禍々しいピンク色のオーラを身に纏った白い悪魔ただ一人。
 え、ちょっ、コレやばいだろ。
 なのはさん、顔は笑ってるけど目が笑ってねえじゃん。
 これ絶対カメラを止めたほうがいいって。
 万が一子供が見たら泣いちゃうぞ?
 俺も怖くて泣きそうだし。 あ、やべ、足ガクガクしてきた。

 ああそっか、クロノとユーノが脅えてるのはこっちの方か。
 二人とも全っ然なのはの方を向こうとしないしな。
 これ普通に100年の恋も一瞬で冷めるだろ。 もうドン引きだっつの。

 よく画面を見れば、隅の方には建物に隠れて尻尾だけを出しているアルフの姿があった。
 ああアルフ、お前そんなとこにいたんだ?
 いやわかるわかる、だって本能的な恐怖を感じるもんな。


 俺がそんなことを思っていると、なのはが金剛力士像のような表情でクロノに話しかけた。
 クロノは何か反論をしようとしたみたいだが、なのはの顔を見た途端黙りこみ、無言でコクコクと頷くだけの存在になった。
 普段ならお前はダンシングフラワーかと突っ込むところだが、これはしゃあない。
 もし俺があそこにいたとしたら、俺は全てをかなぐり捨てて逃げ出していることだろう。
 だってまじ巻き込まれたくねえもん。
 何処に逆鱗があるのかもわかんねえし。


「というかこのモニターって音声出ないのか? おいバール、お前も機械なんだからなんとかしろ」

「どうせ病人がくることもあるから音声を消しているだけだろう。 壁にあるコンソールで調節できるんじゃないか?」


 バールにそう言われたので見て見ると、壁には確かに操作盤っぽいものがあった。
 そして俺がそれを確認している間、画面の中では丸い弾が幾つも飛び交い、機械でできた兵士の軍団がぐちゃぐちゃに蹂躙されているショッキングピンクな映像が映されている。
 あんな奴からかってて俺は良く命が無事だったなぁ。


「うーん、どれが音声を調節するやつなのかわかんねーな。 ていうか文字すら書いてねえじゃん。 初心者にやさしくないコンソールだ」

「適当に触って壊すなよ」

「大丈夫だって。 壊れたらなのはかアルフのせいにするから。 あ、やっぱなのはは止めた。 アルフが悪い。 そうれポチッとな」


 隅のほうにあったキーを一つ押してみたがモニターには何の変化も見られない。
 仕方がないので適当に押していくと8個目のキーでようやく音声が聞こえるようになった。


『わ、わわわかった。 なら僕とユーノがその時間を稼、稼ぎます』

「おお、ちゃんと音が出た」


 門の前に居た機械兵が全て塵一つ遺さず消滅したところでクロノが脅えるようになのはに話しかけていた。
 その姿は普段の冷静な彼からはとても想像がつかない。


「流石俺、天才だな」

「馬鹿の間違いだろう。 言葉は正しく使え」


 まあ確かにちゃんと理解せずに機械を操作して壊すというのはよくある話だからな。
 でも見れば見るほど他のキーも押したくなる不思議。
 どうしよっかな、ちょっとぐらいなら押しても――


『二人ともありがとう。 それじゃあいくよっ』

「見ろ、あの白い女が何か大きい魔法を使うみたいだぞ」

「白い女とか軽々しく言うな。 俺が狙われたらどうするんだ。 っておお、すげえ、なんだあの糞でけえ魔方陣」


 画面にはなのはの構えている杖の前の方へ光の粒子が収束してゆく様子が映っていた。
 いかにも魔力が集まってきてますって感じである。


『フェイトちゃんにあんな酷いことを言うなんてっ! 全力全開っ! スターライトォー』


 彼女の怒りのボルテージに伴い、その光の塊はますます大きくなっていく。
 クロノやユーノの姿を確認すれば、彼らもまた俺と同じかそれ以上に驚いているようだ。


「バール、あれってやっぱり凄いの?」


 俺はその凄さがいまいちよくわからなかったのでバールに聞いてみた。


「自分の力量だけであそこまで魔力を収束させるのは非常に難しいといえる。 おそらくレイジングハートはこの収束に関与していないはずだ」

「へえ、そんなすげーの? でも今の言い方からするにまさかお前ならできるとか――」

『ブレイカーー!!』

「――言うわけないよなぁ。 っていうかできたとしても言わないでくれ。 恐ろしいから」


 俺がセリフを言い切る前になのはから凶悪な一撃が放たれた。
 ピンクに光る魔力の塊から放たれた太すぎる光の濁流は、城入り口の扉を吹き飛ばしてなお減衰せず、その砲撃が建物の内部に充分届いたと思われた瞬間、まるで水素爆弾が着弾したかのような眩しい光のドームが形成された。
 画面がホワイトアウトから復帰し、ようやく煙が晴れたときには魔王城の8割は跡形もなく消失していた。
 これが以前ユーノが言ってたS-ランク魔法って奴だとするとSSSランクとかになるとどんだけすげーんだよ。
 あの糞ババアがやってた次元跳躍攻撃って奴がそうなのか?
 どっちみち高ランク魔導師連中が半端ないことには変わりないけどな。

 おめでとう! たかまちなのはは にんげんかくへいきへと しんかした!



「なのは……」

「うおっ!?」


 俺がそのとてつもない威力の魔法に震えていると、突然後ろから魔王の名を呼ぶ声が聞こえた。


「ぶ、ぶっ殺、ってフェイトか。 気がついたのか?」


 俺は内心の動揺を隠していつの間にか意識を取り戻していたフェイトに話しかけた。
 ああ、さっき適当に押してたボタンの1つがベッドのリクライニングボタンだったのね。
 なんかベッドの半分が90度程起き上がってるし。
 そりゃ90度じゃ目を覚ますわ。


「うん」

「でも大丈夫なのか?」

「大丈夫、身体のほうは問題ないよ」

「あー、いや、身体じゃなくって心のほうだ」

「っ――」


 フェイトは母親から言われたことを思い出したのか、悲痛な表情をして胸を押さえた。


「悪い。 嫌なこと思い出させちゃったな」


 俺はそれ以上何も言えなくなり、場には気まずい空気が漂い始めた。
 どうしよう?
 そういやアルフが言ってたっけ。
 俺の存在意義はフェイトを笑わせることだけだって。

 でもこういうときなんて言えば彼女を笑わせてやれるんだ?
 何を言ってもフェイトは顔だけ笑って痛みを我慢するだけのような気がする。
 駄目だな。 俺は友達としてこの程度の力にもなってやれないのか。


「……母さんが」


 結局、この微妙な雰囲気を壊したのはフェイトの方からだった。 


「母さんが私のこと、偽物だって……私は要らないって……私なんて――」

「別にいいじゃねえか、偽物でも」


 だがその口からこぼれてきた言葉は彼女自身を傷つけるものでしかなく、これ以上フェイトが傷つく姿を見たくなかった俺は、その発言を無意識のうちに遮っていた。


「えっ?」

「だってそれってお前はお前だってことだろ? お前は別の誰か、アリシア・テスタロッサじゃない、フェイト・テスタロッサという一個人だって、そういうことだろ? それに俺やなのはの大事な友達をいらないとか抜かしやがる親なんてこっちから捨てちまえ」


 なんか勢いに任せて凄いこと言ってるな俺。
 まあいいや、どうせ本心だし。


「そんでどうしようも無くなったら俺もなのはも、クロノやユーノ、みんなで何とかしてやるさ。 だからお前はあの母親に『うっせー馬鹿、お前の娘なんてこっちからお断りだぶっ殺すぞコノヤロウ』って言って決別してしまえばいいんだ」

「……うん」

「おら、しゃんとしろしゃんと」


 あー、ちょっと言い過ぎたか?
 今まで何度も酷い目に遭っていて、それでも母親を好きだって言ってたんだもんな。


「でも……やっぱり私は、母さんの娘だから。 だから、この想いは捨てられない。 ……折角私の為に言ってくれたのに、ごめん」

「いや、俺のほうも今のは言い過ぎだったからな。 こっちこそ悪かった」


 そっか、やっぱりあれだけ酷いことを言われて、それでもまだあの母親を好きで居られるのか。
 アルフの言っていた通りフェイトは本当にやさしい子なんだな。
 ならそんなに大切に思っている相手に二度と会えなくなるとしたら、それは凄く辛いことなんじゃないだろうか?


「じゃあさ、そのことを母親に伝えてきたらどうだ? だってほら、もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれないじゃん」


 正直なところ俺はクロノやなのはが全力で止めようとしても、結局プレシアの暴挙を止められない可能性は高いとみている。
 いくらなのはが恐ろしいと言っても、なのはのあの砲撃を見てもプレシアは動揺のカケラすら見せなかったのだ。
 つまりなんとでもなると言うことだろう。
 そしてクロノは疲労困憊でユーノはぶっちゃけサポート専門。
 ランクの差は絶対じゃないと言っても、ランクに差があると厳しいのは事実だろう。

 だがそこに仮にも娘であるフェイトが行って説得すればどうなる?
 可能性は低いながらもプレシアが改心することだってありえるかもしれない。
 人の心がどう動くかなんて予測もつかないからな。


「……うん。 うん!」


 フェイトは目を瞑って少し考えた後、全て吹っ切るかのように力強く返事をした。


「じゃあサニー、私行って――」

「ちょーっと待った!」


 その返事の直後、フェイトはデバイスが半壊した状態でそのまま現場へ行こうとしたため、俺は慌てて彼女の肩を掴んで止めた。


「行くのは良いんだけどお前、そのデバイスじゃまずいだろ」

「大丈夫」


 そう言ってフェイトはそのデバイスを斧のような形状へ変化させ、入っていた罅を修復させた。
 しかしそのコアとなる部分であろう黄色い球の部分はまだ罅が入ったままだ。
 おそらく完全に修復された訳ではないのだろう。


「私のバルディッシュは最強だから」

「Sure. (その通りです)」


 そして今の発言にイラッときたのかバールが手元でチカチカ光り出した。
 うぜぇ。 わかってるから少しじっとしてろ。


「まあほら、いくらそのデバイスが最強だっつってもさ、演算部分がやられてたら全力は出せないだろ?」

「うん、でもその分は私が――」

「まあ聞けって。 実はな、俺もたまたまインテリジェントデバイスってのを持ってるんだ」


 そう言いながら俺は自分の左手を持ち上げ、手首でうるさく点滅している変なブレスレットをフェイトに見せた。
 でもやっぱりクロノが言ってた通り自力でもある程度計算できるんですね。
 魔道士って連中はホントっぱないな。
 いつかはなのはもスパコン並の計算力を身につけるのだろうか?
 いやもう既に身につけてそうだけど、あいつにだけは負けたくないなぁ。


「そう言えば前にそう言ってたね」

「おう。 そんでな、なんでもそのデバイスは演算能力にかけては根拠の無い自信があるらしい」

「根拠はある。 元々私は――」

「だからこいつを持ってってくれないか? 姉妹そろって事故で死ぬとか勘弁してほしいし」


 俺はAI部分に異常がありそうなデバイスの発言を遮って話を続けた。
 だから機械のくせに自分の自慢話とかすんなって。


「いいよな、バール?」

「ふう。 マスターに言われたのなら仕方がない。 厭々ながら私も協力してやろう」

「だからなんでお前はいちいちそんな偉そうなんだ」


 バールは不平を口にしているものの内心ではバルディッシュにライバル心を燃やしてるのか、声からは『やってやる』という感情が溢れていた。
 ノリノリじゃねえかお前。


「……それじゃあ、少し借りるね?」

「おう。 せいぜいこき使ってやれ」


 フェイトは少し悩み、結局は俺の提案を受け入れることにしたようだ。
 その返事を聞いた俺は左腕からバールを外してフェイトに投げ渡した。


「手荒に扱うな糞マスター」

「だったらその減らない口を何とかしろ」

「み、短い間だけどよろしくね、バール」

「ああ。 魔法式の演算補助、それに魔力素の集束はこちらで担当しよう。 それ以上は邪魔になりそうだ」

「あんまり迷惑かけんなよ?」


 母親や皆が見てる前で俺みたいにア○ルフ○ックとか悲惨にも程があるからな。
 ちゃんと釘を指しておかないと。


「誰に言っている?」

「お前に決まってんじゃんファッキンデバイス」

「ふん、プライドチキンの分際でよく言った。 せいぜいそこで指を咥えながら私が活躍するのを見ていればいい」

「ち、ちち、チキンとちゃうわ! その証拠になぁ……ってもう時間がねえ。 なあ、フェイト」


 俺は自分がチキンなどでは無いことを証明しようとしたものの、それをするには余りに時間が足りなかったので言い訳することを諦めてフェイトに何か言うことにした。
 あ、言い訳って言葉は誤解を生むな。 説明だ説明。
 決してその証拠を示すことが出来なかったからではない。
 だからちげーっつってんだろ糞バール。 ぶっ殺すぞコノヤロウ。


「なに?」


 やるべきことが見つかり少しは元気が出てきたのか、フェイトの表情は僅かではあるものの明るくなっているようにも見えた。


「余り上手くは言えないけどさ……頑張ってこいよ?」

「うん!」








 それからフェイトは時の庭園と呼ばれる廃墟へと向かい、そこでなのはが破壊の限りを尽くしている間にプレシアの説得にあたった。
 だけど残念ながらフェイトは母親の意志を変えることができず、結局プレシアは虚数空間と呼ばれる次元の狭間へと旅立っていった。
 なんでもその先にはアルハザードと呼ばれる場所があり、そこには遥か昔の伝説級の魔法が眠っていて死者蘇生の秘術すら存在するという話だ。
 そういやどっかで"Arhazard"って文字を見たことがあったようななかったような。
 うーん、何処で見たんだっけなぁ……。
 前世だったか今世だったか。 それすらも思い出せないや。
 まあいい、思い出せないってことはきっとどうでもいいってことだろう。


 ちなみにフェイトはクロノらと共に先ほど無事アースラへと帰還してきた。
 現在はなのはやアルフと一緒になってベッドで眠っているそうだ。
 今はただ、その心に負った様々な痛みを少しでも癒してほしいと思う。


「さてユーノ、この後の予定はどうなってんだ?」


 俺は医務室で現場から帰ってきたユーノの傷の手当てをしながら尋ねた。


「まずジュエルシードに関しては管理局側としては一通り落ちついたんだけど、発掘側としては事後処理がまだ終わってないんだよね」


 今回の事件は第一級ロストロギア盗難事件として処理されるらしい。
 そうすることでフェイトの裁判の期間が短くなるそうだ。
 本来予想されていた次元犯罪事件の場合この裁判は半年程かかるそうだが、この場合2カ月程で結審まで行くとのこと。
 そこだけはチート魔導師プレシア・テスタロッサに感謝だな。
 ああ、あとフェイトを生み出してくれたこともか。


「だから僕はまず本局に行ってそれ関係の仕事を片づけないと」

「その本局ってミッドから離れてるのか? というか本局ってミッドにあるんじゃないのか? 前にチラッと聞いたような気がするんだが……」

「ミッドと本局は全然別ものだよ。 距離的には大体この艦で3時間前後って感じかな。 どっちも大きな街なのは同じなんだけど、一番の違いはミッドの方は地上にあって、本局の方は次元空間内に浮かぶ人工の都市だってこと」


 つまり本局ってのは某機動戦士アニメにでてくるコロニーみたいなもんなのか。


「あれ? でもジュエルシードの移送予定先ってミッドじゃなかったっけ? 本局でいいの?」

「今回の事件のせいで裁判の重要証拠物品に指定されちゃったからね。 研究とかそこらへんは事後処理が全部終わるまで一旦お預けになったんだ。 だからそれまでは本局で保管。 そこらへんの書類も後でクロノに貰ってこないと」

「それに関してはこちらでやっておくつもりだったんだけど、どうする?」


 『噂をすれば影がある』というやつで医務室にはいつの間にかクロノがやってきていた。
 結構ふらふらしていたのでクロノの傷も手当してやろうとしたが、彼の体には特に怪我をしている箇所は見つからなかった。
 どうやら疲れているだけのようだ。

 そりゃそうか。
 海上での戦闘からほとんど休む間もなく働いてたんだもんなぁ。
 それに怪我の方はなのはのあの砲撃が敵をほとんど消し飛ばしちゃったからなくてもおかしくはない。
 そのせいでバールはほとんど役に立たなかった。
 せいぜい通路に居たデカイ機械兵を一撃で倒したぐらいである。 ざまぁ。

 ちなみにユーノの怪我はなのはの砲撃による二次災害が原因である。
 ちょっとあのシーンは情けなかったので忘れてあげようと思う。


「僕らはこのあと今回の事件の報告とフェイトの件で一度本局に行かなくちゃならないんだ」

「そうなの? だったらお願いしようかな」

「それに君の問題もあるしな」


 クロノは今度は俺の方を向きながらそう言った。
 あ、そういやそんな話もあったっけ。 すっかり忘れてた。
 フェイトの事について謝ることばかりに気が行ってたからな。
 丁度いいから今謝ってしまおう。


「クロノ、ごめん」

「どうしたんだ突然。 君に謝られるような覚えはないぞ?」

「いやほら、俺がフェイトにジュエルシードを渡してなければプレシアは捕まえられたかもしれないし」

「なんだそのことか」


 軽く言ってくれるなぁ。
 俺はかなり不安だったってのに。


「僕にはたった1つしかジュエルシードが手に入らなかったとしても彼女はアルハザードに向かったとしか思えないんだ。 それと下手に数が足りなかった場合次元震が発生していた可能性もある。 だから君はそれについて気にする必要はないよ」

「……やっぱお前、いい奴だよなぁ」

「そ、急にそんなこと言っても何も出ないぞっ!?」


 何と言うツンデレ。
 でもこれで懸念事項の1つは片付いた。
 後は俺自身の問題だな。


「それでさっきの話に戻るんだけどさ、俺はまだ身分証明とかが必要な事態に遭遇してないからわかんないんだけど、それが無いとやっぱ次元世界で生活するのって難しくなったりとかすんの?」

「そうだな……。 やっぱりそれが無い場合かなり大変な目に遭うと思う。 でもそこら辺に関しても僕がなんとかするから心配はしなくていいよ」

「それに僕もついてるしね」


 クロノとユーノが安心させるように俺の肩を叩きながらそう言った。


「……お前らって本当に良い奴だな。 俺、ちょっとその優しさに涙出そうになったわ」

「あはは、サニーは涙もろいなぁ。 そうだ、ミッドは無理だけど本局も遊ぶところはたくさんあるし、そっちで遊ばない?」

「それは実にいいな! じゃあクロノも一緒に行こうぜ!」


 折角なのでクロノ君もお誘いするとしよう。


「僕は仕事が……」

「ノリが悪いとなのはに嫌われるぞ?」

「そんなのは別にどうだっていい!」

「でもお前、この間『今日のなのはのパンツはピンクか、悪くないな』って言ってなかったか?」

「ええっ!? まさかクロノ、ロリ――」

「ふ、ふふふ、君達には一度僕の本気を見せつけないといけないな。 本局に行ったら覚えてろ?」

「ひゃっほぅ! クロノさんの参加表明いただきましたーっ!」


 俺は小躍りしながらクロノの参加を喜んだ。
 何をして遊ぶんだろうか? 俺が知ってる遊びなんだろうか?
 でも友達と一緒ならどんなことだって楽しいはず。
 うひょー、超楽しみになってきたぜ!


「意味がちがうっ! ……が、まあ少しぐらいなら大丈夫か。 折角だから二人まとめてコテンパンにしてやる」

「ふん、そう簡単に僕を倒せると思ったら大間違いだよ?」

「良く言った淫獣。 君の得意分野で勝負してやる。 負けたからって泣くなよ?」

「淫獣って言うな! 絶対勝って泣かせてやる!」

「俺たちの戦いはこれからだ!」

「その打ち切り臭いセリフはやめろ!」


 こうして俺の不注意から始まった一連の事件はようやく収束することとなった。
 ……そういえば俺が魔法を使えること、結局話さないまま終わっちゃったな。
 どうしよう? ま、いっか。 別に。


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