私立聖祥大付属小学校。
それは、海鳴という海岸線に建てられた白亜の学び舎。
中央に大きな噴水を備え、周囲には約3,200平方メートルもの巨大な校庭が広がる超巨大マンモス校。
そんな、海鳴に住む者ならば誰でも知っている超有名私立校の廊下に、涙と恐怖とパニックの入り混じった悲鳴が響き渡っていた。
「いやぁあああ!!」
「きゃぁあああ!!」
「うにゃぁあああ!!」
「うぉおおおおおおお!!!」
拝啓、お母様、お父様。
夜天に輝く蒼月の下、息災でいらっしゃいますか?
誠に勝手ながら、私本田時彦は、手前勝手な理由ながら、今現在深夜の学校へと訪れています。
ついでに、とても嬉しくないたくさんの〝友達〟と、学校を舞台にした鬼ごっこ中ですっ!!
「きたっ、きたきたきたっ! ちょっと時彦! アンタが言いだしたんだからアンタが何とかしなさいよ!」
「無茶ゆーなよばかやろうっ!? あんな大群相手にどうしろってんだ!!」
「ふ、二人ともこんな時まで喧嘩しないで!」
「そうだよ! 今は隠れないと!」
「あわ、あわわ! ねぇ、ねぇほんだくんどうしたらいいの!? やっちゃうっ!? でぃばいんばすたぁでいっそーしちゃっていいよね!?」
「さりげに物騒な事言ってますよこの子っ!?」
「ふにゃぁああぁ!!! お化けもうやだぁ~!」
阿鼻叫喚。
高町なんか完全に泣いてるし、すずかちゃんも今にも泣きださんばかりの涙目。アリサなんて、もはや泣いてるのか怒ってるのかわからない有り様だ。
救いなのは、高町の肩に必死にしがみつきながらも、ユーノが冷静な判断を下せていることくらいか。
……うん? 俺?
いわゆる饅頭怖いだぜ☆
このおいかけっこを秘かに楽しんでいもするが、しかしながら、〝本物のお化け〟においかけられるというスリルにすっげぇドキドキしてる!
とまぁ楽しさ半分怖さ半分という不謹慎極まりないアレなんだが、いささかこの状況は拙い。
走りつつ後ろを伺えば、個性豊かな夜の学校のお友達連中が鬼気迫る勢いで追いすがっていた。――――すみません、やっぱ俺もちょー怖ぇええ!!!
「ちぃ、こうなれば高町、実力行使だ! 砲撃戦よーいっ!」
「やっちゃうよ!? 遠慮なしにやっちゃうんだからっ!!」
「え、ちょっ! 時彦!? こんな狭いところでそんなっ――――!」
「なのはの目がぐるぐるしてるー!?」
急ブレーキをかけながら振り返りつつ、俺達に追いすがる〝大群〟を指差し指示を飛ばす。ユーノがなんか文句を言っていた気がするがこの際無視だっ!
若干戸惑いながらも俺の命令を受けた高町は、それまでの赤いミニスカートにボーダーチェックのシャツ姿から、うちらの学校の制服にも似た〝魔法少女〟へと変身した。
同時に、高町の手にはそれまで影形も見当たらなかった杖が握られていて、それは高町の宣言と共に、まるでプログラムが変化するかのようにその形を変えていく。
「レイジングハート、カノンモード! ディバインバスター、セット!」
≪All right. Stand by cannon mode. Charging "Devine buster"≫
「な、なのは待って! タイム! だめだよ、こんな狭いところでそんな魔法使ったら――――!」
高町の構えた杖が、まるでその先端を銃口のような形に変えたと思うと、持ち主の言葉に従ってその銃口の前に魔方陣と共にサッカーボールじゃきかないくらいの、大きな光を集めだす。
実際にこの目で魔法とやらを見るのは初めてだが、この状況でそのことに感動している余裕なんてなかった。
とにもかくにも、今俺達が求めているのは、現状からの脱出。さらに言えば、敵の排除なのだから。
俺は、準備ができたであろう頃合いを見計らいつつ、さながらどこぞの艦長の如く左半身になりながら人差し指を敵陣へと突きつけた。
「目標、敵陣中央! 主砲! テぇーーっ!」
「こっちにぃ――――こないでってばぁああ!」
≪Shoot!≫
まさに漫画だった。いや、アニメと言った方が正しい。ハリウッド映画でも、こうまで荒唐無稽なシーンを再現するのは不可能だろう。
それほど冗談じみていながら、しかし現実感があり過ぎて逆に信じられないような攻撃だった。
桃色の魔方陣の向こうに、一条の光が走る。
光と言っても、その太さがヤバかった。
率直に言おう。学校の廊下を埋め尽くすほどの光を、はたしてまともな一撃と捉える事が出来る人間がいるだろうか。それも、普段はほぇほぇとしていてあまりぱっとしないドジっ子娘がそれをやらかしたという事実を、一体誰が信じられると言うのか。なんというメガ○子砲。
「おぉう…………まさに死屍累々」
「なのは………恐ろしい子っ!」
「なのはちゃんすごーいっ!」
「にゃ、にゃはは…………はぁ~……」
「……あぁ、なんてことを」
言わずもがな、上から俺、アリサ、すずかちゃん、高町の順だ。そして最後に、器用にも背後にたくさんの縦線を引きながらユーノが項垂れる。
高町の放ったかめはめ波の跡には、それまで俺達を追いかけまわしていた〝日本の妖怪~学校の怪談シリーズ~〟の無残な姿が積み重なっていた。
――――そう、俺達は今、季節外れの肝試しに来ていた。
俺はすずかちゃんが好きだ!
結論からいえば、ジュエルシードとやらの影響だ。
どっかの馬鹿が俺みたいにジュエルシードを拾った後、あろうことか保健室だかどっかにおっことしてその時に発動したんじゃないか、というのが我らが灰色の脳細胞ことアリサ・バニングスの推理である。
情報が入ったのは、海鳴カリビアンベイでの事件の翌日、つまり昨日のことであり、どうやらカリビアンベイでの事件が解決したその夜に、ここでもジュエルシードが発動していたらしい。
なんでも、警備員が夜な夜な廊下を「僕の肝臓、どこだよぅ~」とか涙目になって探し回っている人体模型と、その人体模型を慰めるように肩を叩きながら横を歩くケタケタ笑うガイコツ標本を見たとかなんとか。さらに言えば、夜中の間ずーっと音楽室から大合唱が響いていたり、トイレからすすり泣く声が止まなかったり――――昨日の昼、話を聞いていた高町はこのあたりで気絶した。
で。
ならば、我ら海鳴防衛隊が出張らなくてはならんだろう、という話に相成ったわけである。
ちなみに隊長は高町。副隊長がアリサでその補佐がすずかちゃん。俺が雑用。なんだこの人為的な差別は。しかし人選はアリサが行っているので、俺に文句を言う権利はないのでした。ぐっすんおよよ。
学校の外には忍さんと鬼ー様が待機していて、俺達に万が一があった場合手助けしてくれることになっている。美由希さんは明日朝早いので今日はお休みとのこと。
まぁ、そもそもなんで俺達だけでこんなことをしているのかというのは、多少なりとも事情があったりなかったり……。
「ふぅ……まさか勘で入ってみた保健室がドンピシャだったとはな」
「ふざけんじゃないわよこのウスラトンカチ!」
「あでっ!?」
ぺたりと廊下に座り込んだアリサが、おもむろに俺に向かって上履きを投げつけてくる。
見事にテンプルに的中したそれは、ポテンポテンとシュールな音を立てて廊下に転がった。
ヒットした衝撃でのけぞった頭を戻しながら、俺は金髪怪力女にモノ申すべく拳を掲げて見せる。
「てめぇこらアリサ! だからって上履き投げんなよ! 滅茶苦茶いてぇんだぞソレ!?」
「知るないわよそんなのっ! あぅう……もう一生分の恐怖を味わった気分だわ……」
いつものアリサにしては勢いがない。言葉の途中でしおしおと養分の足りない食虫植物のようにくずおれてしまった。
見回してみれば、高町もすずかちゃんも同じようにしてその場に座り込んでしまっている。
確かに、ここまでずっと全力疾走だった上に、その鬼が学校の怪談から出てきたようなお化け集団だったのだ。腰が抜けたように力が抜けてしまっても、無理はない。
「すごくドキドキしたね……お化けさんを見たのは初めてだよ」
「にゃぅうう……もうお化けやだぁー! こんなことになったのも、全部ほんだくんのせいなんだからっ!」
「だから僕はもっと慎重に行動した方がいい、って言ったのに……」
「あ、ユーノてめぇ、お前だって保健室の前に来た時は怪しいとか言ってたじゃねぇか!」
いつの間にか俺の肩に飛び移っていたユーノが、ほとほと呆れたような口調で俺を窘めるようなことを言ってくる。
俺はこいつが怪しい、っていうから保健室に突入する決心をしたというのに、この責任転嫁はどういうことなの……。
まぁ、確かに学校で怪しいことが起きてるって言うのに、その怪しい匂いがぷんぷんする中へ突入するとか、今考えてみると馬鹿にも程があるんだが。
「お、俺は悪くねぇぞ! ユーノがやれっていったから!」
「えぇえ!? 僕のせいなの!?!」
「いや、ネタだからな? いきなり突っ込んでったのは実際悪かったと思ってるし」
「……変な冗談はやめてよね」
「はは、わりぃわりぃ」
「うむうむ。まったくじゃ。男が人に責任をなすりつけるなど、冗談にしても唾棄すべき愚行よな」
「ですよねー。いやー本田さん失敗しっぱ…………え?」
気がつくと、俺とユーノを除く皆が、俺を指差して一様にガクガクと震えながら蒼い顔をしていた。
……既にこの時点で嫌な予感はびんびんとしているんだが、俺は男。本田君はあえて死地に足を踏み入れる勇気ある人間っ!
はたして、振り向いたそこには。
「ところで少年、勉強はしとるかの? 勉強はいいぞ。人類が生み出した文化の極みじゃ」
「にのみやきんじろうさまでしたぁああああああああああああああ!!!!!」
「「「きゃぁあああああああああああああ!!!!!」」」
わけのわからんことをしたり顔でのたまっていやがる石像を無視して、俺達は蜘蛛の子を散らすように逃げだしたのだった。
「……なんじゃい。最近の若いもんは、向学心がなっとらんな」
俺達が走り去った後、ポツネンと一人残った二宮金次郎さんはそう呟いていたそうな。
……んなもん知るかぃっ!!
☆
さて。
不覚にも、一体いつの間に背後へと回り込んでいたのかわからない二宮金次郎さんを捲いて逃げ出したのは良かったのだが。
「いかん、はぐれてしまった」
「なのはちゃんとアリサちゃん、大丈夫かな……?」
「なのはがいるからきっと大丈夫だよ。むしろ、僕は時彦と一緒になってしまったすずかさんが心配なんだけれど……」
「おいこらそこの茶色いバナナ。あんまり本田さんを見くびるなよ?」
どこをどう逃げ回ったのか全然記憶にないんだが、気がつくと西棟の反対側、それも特別教室などが並ぶ三階にきてしまっていた。
隣でじんわりとにじんだ汗をぬぐっているのは、何の因果か月村すずかおぜうさま。正直、目下俺の悩みはと言えば、こんな真夜中の学校で彼女と二人っきりという極限状態に他ならない。ぁあ、俺の意識あとどのくらい持つんだろう。
「時彦? 顔が真っ赤だけど大丈夫?」
「本当だ……! 本田君、具合悪いの?」
「い、いやいや! 大丈夫、全力疾走したせいで息切れしてるだけだから!」
「……その割には息荒れてないけど」
「さ、さーて! とりあえず保健室に戻ろうぜ! アリサのヤツが冷静なら、きっとそうするはずだし!」
「……誤魔化したな」
肩で呟くユーノの声なんて聞こえません。
「あ、あの本田君!」
「はいっ! なんでせうか!!」
びしぃっ!と体を一直線に伸ばして気を付けの姿勢。ともすればそのまま敬礼さえしだしかねない勢いだが、別にそこはどうでもよろしい。
問題は、あのすずかちゃんが白木のような御手を胸に当てながら、ウルウルとやや涙目でこちらを見上げているこの現実である。
「そ、その……本田君が嫌じゃなければ、ね?」
「いやもう月村の御嬢さんとこの御願ならこの本田さん、血を吐き骨を砕こうとも叶えてあげる所存ですよ!」
「本当に! それじゃぁ、その…………手を、繋いでもいいかな?」
「――――――て?」
予想を外れた――――それも斜め仰角48度くらいを飛んでいくその言葉に、俺はしばし我を忘れる。
〝て〟とは……まぁ手だよな?
繋ぐって、俺と? こんな二人っきりの状況で? そんな不安そうにおろおろしているすずかちゃんの、白磁の如く白くて細い指が眩しいその御手を?
「――――――全力で喜んで!!」
思わずその場で跪いてしまいそうになるくらいの勢いで、俺はすずかちゃんの手を取る。
ちょっとがっつきすぎたかなとも思うが、すずかちゃんは一瞬驚いて手をこわばらせたが、すぐに弛緩して俺の手を握り返してくれた。
……あかん、これは夢だろうか。しかし夢であっても覚めてほしくないのでそのままにしておく。
正直、今日は厄日かとも思ったがとんでもない。むしろコレだけで俺は昇天してもいいくらいだ。
「よかった……本当はね、すごく怖かったの」
「そ、そっか……ごめん、俺が無思慮に突撃したばっかりに」
「ううん、本田君は悪くないよ。私だって、あんなところに原因があるなんて思わなかったもん」
「そう言ってもらえると、その――――すごく救われる」
「ふふ、それにね?」
「うん?」
てくてくと、心臓がバクバク言うのを意識しながら廊下を歩く俺。その隣に、餅のようにしなやかな手を俺と繋ぎながら、すずかちゃんが歩いている。
窓から差し込む月明かりはまばゆく、非常灯しか付いていない暗い廊下を、青白く染め上げている。
その青白いキャンバスの上に黒い影を映しながら、俺は隣のすずかちゃんを見た。
「こうして手を繋いでくれてるから、今は怖くないよ?」
「――――――っ!?」
死んだ。本田時彦の精神体は、この瞬間ん完膚なきまでに再起不能寸前に追い込まれた。
あぁ、この喜びをどう表現したらいいのだろう!!
英国民が女王に微笑まれる? いや、それともアイドルのライブで直接握手してもらう? はたまた、期待もせずに買った宝くじが一等賞だった?
……違うね。そのどれもがどうでもいいくらい、今の俺は幸せすぎて気持ちが天元突破している。
マジで今なら火の中水の中所構わず突撃しても生きていられる自信がある。あぁ神様今だけありがとう! でも死ね!
「そ、それはよかった。うん、ホント」
なんとか口にできたのは、その程度の言葉。
感謝でも、否定でもない。ただただ、無難な回答。
いくら緊張で頭が飛んでいるとはいえ、コレは酷い。紳士を目指すのならば、いや、そうでなくとも惚れた女の子の手前なら、もっと気のきいたことを言ってあげるべきだと言うのに……っ!
せめて――――そう、せめて「大丈夫、僕が守るから」とかそのくらい気障な台詞をいっても、今なら絶対に許されたはずだ。シリアスにしろ、ジョーク扱いにしろ、少なくともそのぐらいの気概があることを示せたはずなのに。
肝心なところでポカをやらかす。それは、前世から変わらない俺の欠点の一つです。
「……ねぇ、本田君」
「な、なななんざましょ!?」
唐突に声をかけられたせいか、声が裏返る。
相変わらず心臓は激しく血液の輸出入を繰り返し、その過剰動作によって呼吸が激しく乱れてしまう。
見れば、すずかちゃんはそれまでの清純な少女らしい清涼な雰囲気から180度ひっくり返したような、とんでもなく真剣なまなざしと雰囲気を纏っていた。
「つ、月村……さん?」
「失礼なこと、聞いちゃうと思うんだけど……聞いても、いいかな?」
「月村さんの質問だったらなんでもっ!」
「それじゃ御言葉に甘えて聞くけれど……本田君、〝夜の一族〟って、知ってる?」
「〝夜の一族〟? なにそれ、小説?」
すずかちゃんが紡いだ言葉に心当たりがないか、すぐさま脳味噌がフル回転を始める。
しかし、いくらあっちゃこっちゃ記憶の棚をひっくり返してみても、該当する単語は見つからなかった。
名前からして、何かの本のタイトルのようだけれど……はて、映画のノスフェラトゥとは違うのかな?
それとも、ブラム・ストーカーの出した本の一つだろうか?
どちらにしろ聞いたことがないし、読んだこともない。そもそも、そういう本が世にあるのかどうか……いやまぁ、俺の〝前世〟とは微妙に違う世界なんだし、出ていないとも限らないんだが。
すずかちゃんは、そんな「本気でわかりません」という間抜け面な俺をじーっと見つめて、ふっと笑った。
その笑みはどこか儚げで、まるで「知らなくてよかった」とでも言いたげなものだった。
「そっか……ううん、知らないならいいの。ただ、少し気になっただけだから」
「なに、探してる本? 俺、出来る範囲で手伝うよ?」
「あ、ううん、本じゃないんだ。本当、私の個人的な疑問だから」
「??? ま、まぁ大丈夫ならいいんだ」
「ごめんね、変な事聞いちゃって」
「いえいえ、このぐらいなんてことないっすよ。そりゃもうアリサの毎度のド突きに比べたら……」
そこで、クスクスとはんなり笑ってくれるすずかちゃん。あぁかぁいい。
その笑みの前では、それまでの俺のささやかな疑問なんて火の前の虫である。たどり着く前に焼却されるか、恐れ戦いてまわれ右だ。
「でも、なんで小説だって思ったの?」
「んー、なんとなく、だけど……しいていうなら、月村さんがよく本を読んでるから、かな。タイトルも小説の題名っぽいし」
「確かに……言われてみれば、小説のタイトルみたいだね」
手を繋いでない左の人差し指を口元に当てながら、うーんと唸るすずかちゃん。あぁかぁいいその2。
「んでもって、内容は吸血鬼モノと見た。あるいは人狼とか、そういう超人が主役で、こそばゆい恋愛をするんだ」
「本田君、恋愛小説も読むんだ?」
「むしろ大好きです! あとはサスペンスも好きだね。シェルダンの血族とかはすごい面白かった」
「あ、それ私も読んだよ。途中で犯人はわかったんだけど、正直信じたくはなかったなぁ……」
「……あれを小学校三年で読むとは、さすが月村さんパネェ」
「そ、そんなことないよ! それを言ったら、本田君だってすごいと思うよ?」
俺の顔を覗き込みながら、ぎゅっと手を握りながらそう言ってくれるすずかちゃんの顔に、蒼い月光が反射してキラキラと輝いていた。あぁかぁいいその3。ていうかヤバいだろこれ。お月さま空気読み過ぎです。ここにおわすのは一体どこのアフロディーテ様だろうか。
瞬間湯沸かし器のように、自分の顔が熱くなるのがわかる。
思わず恥ずかしくなったのを悟られたくない一心でその視線から逃れた俺は、ぽりぽりと頬を掻きながら無難に誤魔化す。まさか〝前世〟持ちのチートなんです、なんて口が裂けても言えない。
「あー、まぁ俺はほら、ちょっと特殊だから」
「特殊……?」
「イイ男には秘密がつきものなのです」
「ふふ、なぁにそれ」
「紳士たるもの、意味深な秘密の一つや二つはないとだめなのですよ、ほっほっほ」
「くすくす」
そんな感じで、俺達はのんびりと保健室に向かうのだった。
しかし、俺は知らなかった。
いつものように、またこの後騒ぎがあって、しかし最終的には何事もなかったかのように解決するこの事件が、あんな衝撃的な出会いを生むなんて――――。
――――――――――――
とりあえず学校の怪談編前篇
妖怪さん達との騒動については割愛しまつ。
大事なのはフラグ。オリ主の特権だよね!