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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 屋敷とアリサとネタバレ
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:a9a6983b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:37
 夏が過ぎ、あのすずかちゃんとの衝撃の事件から季節が一つ廻った同年の冬。
 俺は、高町家の離れにある道場で、一人の男性と対峙していた。


「よし、それじゃあまず、君の基礎体力を測る。――――覚悟はいいか?」
「うすっ!」



 それが、俺こと本田時彦と、高町家が長男――――高町恭也鬼ー様によるトラウマとの出会いだった。
 それから30分も満たない内に俺は気を失い、次に気がついた時は高町のベッドの上で、高町の奴が心配そうに俺のことを見下ろしていたのを覚えている。
 意外に端整なその顔立ちに、とても少女らしからぬシップと絆創膏をこさえて、どこか複雑な面持ちで俺を見下ろすヤツの顔は、恐らく一生忘れることはできないだろう。 
 あいつがそんな世にも愉快な顔をしていた原因は、無論、どっかで転んだとか、どこかにぶつけたとかそういうオチじゃない。
 実は、つい数時間前に、俺がこさえさせてしまったものだったりする。

 ……きっかけは実に些細なものだった。

 夏の事件のせいでわだかまりが多少あったものの、一ヶ月もたたないうちに俺とすずかちゃん、そしてその友人であるアリサ・バニングスことパツ金ジャリガールと、高町なのはとの仲は急接近していた。
 具体的には、昼休みや放課後一緒に過ごす時間が多くなった。
 ソレ自体は、俺個人の話で言えば嬉しいことしきりだったし、何よりその時には既にすずかちゃんにベタボレしていたから、純粋に〝なんという天恵か!〟と無邪気に喜んだりもしていた。
 ロリオークとのバカみたいなやり取りもその頃からお決まりになりだし、秋の中頃には運動会もあって、俺とジョンブルジャリロールとの熾烈な争いがくり広げられたりもした。
 そして秋が終わり、冬が来て。聖祥大付属、年末最後のお祭りと言ってもいい生誕祭を一ヶ月後に迎えたある日のこと。
 生誕祭では、クラスごとに何か舞台芸をやらなければいけない。テーマはもちろんクリスマスで、既にうちのクラスは〝マッチ売りの少女〟をやることになっていた。蛇足で付け加えておくならば、マッチ売りの少女役はジョンブルジャリガールだったりする。
 しかしながら、他にもクラスごとに、クラスでの出し物と言うものがある。舞台での芸は二日目だ。
 初日は各クラスが思い思いので店だったり展示だったりをすることになっているのである。
 そして、その内容をどうしようか――――そういう話だったと思う。
 よくある班ごとではなく、クラスみんなであちこちに集まって思い思いの考えを言い合って案を募り、そこから最終的に選ぶという形で話し合いは行われていた。
 幸い、うちのクラスは全員仲が良かったし、誰か一人だけポツンとひとりぼっちで机に残っていたりすることもなく、あちこちで活発な意見が交わされていた。
 当然、その時には俺とすずかちゃん達三人はセットで扱われるようになっていたこともあって、俺達四人は真っ先に集まって意見を言い合った。
 ヤンキーロリの意見に俺がケチをつけ、すずかちゃんの意見に一も二もなく賛同し、そのことに「贔屓してるんじゃないわよ!」とグレムリンガールにイチャモンをつけられ――――概ねそんな感じで、話し合いはつつがなく進んでいたと思う。
 
 ところで、俺は常々思うのだ。この俺には、間違いなく余計なお節介癖があると。
 クラスの連中にやたらと頼られるのもそれが原因だろうし、担任の先生にやたらと仕事を押しつけられてしまうのも、そういった生来の性格を見こされているからなのかもしれない。
 だが、〝余計な〟という枕詞がつくように、それは決していいことばかりではないのだ。
 そしてその良くない〝癖〟のせいで、俺はこの度の事件を引き起こすことになった。



「おい高町。お前もなんか意見言えよ。聞いてばかりだとつまんないだろ」



 きっかけは、そんななんてことのない話題振りだった。それは間違いない。
 その後に起きた乱闘の所為で、そのあたりの記憶が結構あやふやなんだが、しかし俺がそう言って話題を振ったことだけは、間違いなく覚えている。
 もともと俺は付和雷同という気質があまり好きじゃない。
 ……何故かって?
 〝前世〟でそういう性格をしたヤツにロクなやつがいなかったからだ。早い話が、ハイエナしかいなかったからである。
 だから俺は、高町のいつもどこでも「うん、私はそれでいいよ」という、消極的かつ付和雷同的な態度が到底我慢ならなかった。
 今回の件にしたって、先の言葉の根底には、俺のそんな感情が含まれていたのは否定できない。
 だが……それよりも俺は、高町がずっとにこにこ笑ったまま何も言わないでいるのが、すごく残念だと思っていた。
 意外と知られていないが、高町の奴は頭がいい。
 国語――――特に漢字がクソ苦手なことを除けば、多分エセお嬢様やすずかちゃんと十二分に争えるくらいの学力を持っているし、特に算数や理科なんかはいつも満点だ。
 そんな高町が、なんでいつも何も言わずにみんなの意見に従うだけなのか――――疑問に思うと同時に、すごく勿体ないと思っていた。
 そう思っての、先の発言だったのだが……。



「ほんだくんのばかっ! ほんだくんなんかだいっっきらいっっっ!!」
「俺もてめぇみたいな〝事なかれ主義〟の偽善者が大っ嫌いだよっ!!」



 気がつけば、殴りあいの喧嘩に発展していた。
 あぁそうさ。正真正銘、なんのチートもない小学校三年生と、精神年齢三十ン歳の俺が、正面から恥も外聞もなく力の限り殴りあうことになってしまったのだった。
 ジョンブルヤンキーが「二人ともやめなさいってば!!」と喚くのを無視し、すずかちゃんが泣きながら「お願いだからやめて二人とも!」と制止するのすら振り切って、俺と高町はとにかく先生が止めに入るまで大乱闘を繰り広げていた。
 相手が女? そんなの関係ない。
 その瞬間、その時、俺と高町はお互いに互いを〝敵〟と認識していたし、それ以上の理由はいらなかった。
 腹にケリを入れ、顔を殴られ殴り返し、椅子を投げられ筆箱を投げつけ、最後にはとっくみあいになって床にもつれあうと、髪をひっぱり頬を引っ張り、先生が止めに入る頃にはどちらかが気絶するまで頭突きをかましあうという、そこらの男同士の喧嘩よりも男らしい喧嘩をやらかしたのだった。
 そして先生が仲裁に入った頃には二人して目を回して気絶し、放課後まで俺達二人は仲良く保健室でおねむ、という次第だったわけである。
 無論、この大乱闘のことは互いの両親の元へ連絡が行き、なんというか、事情が事情なだけに俺が全面的に悪い――俺自身もそうとられるように話をした。ほとんど事実だし――ということになって、両親が仕事で忙しいために夜に謝罪のために高町家に窺わせていただく、という話でその場は終わった。
 顔のあちこちにシップと絆創膏を貼った高町が、慌ててやってきたであろう母親に連れられて先に帰り、そのすぐ後に俺の携帯に母からの電話がかかってきたのは、俺が高町家の道場で気絶する、一時間前のことだった。
 電話越しに母親に盛大に怒鳴られた揚句、今晩の晩飯抜きを通達され、帰ったらさらに説教確定と言うバンドエンドコンボフルコースを食らってげんなりしたのも束の間。
 そもそもからして、今回の事件は俺が招いたものだ。自分のケツは自分で拭くのが常識である。
 相変わらずジンジンと顔だけでなく体中あちこちが痛むのを我慢して、俺は誰もいない教室に戻って帰り仕度をすると、すぐさま高町の家へと向かった。
 意外に大きな日本家屋である高町の家にびっくりしつつ、恐る恐るインターフォンをならして自己紹介をする。
 ややこわばった声の主は高町のお母さんだった。
 一人でやってきた俺にびっくりしたらしく、パタパタと慌ててやってきた高町のお母さんに案内されて、俺は高町家へと上がらせてもらった。
 そして、高町家一同がリビングに集まり、俺の土下座による謝罪会見が開かれた。
 最初こそ渋い顔をしていたご家族だったが……まぁ色々あって結局「今度から、女の子を殴るようなことをしてはいけないぞ」と高町のお父さんにたしなめられ、それ以上お咎めはなかった。
 しかし、ここで終わってればよかったのである。
 そうすれば、俺が今もこれからもいらんトラウマを引きずることもなかったし、俺が高町のお兄さんを〝鬼ー様〟などと呼ばずにすんだはずなのだ。
 しかし、その時の俺は何をトチ狂ったか、高町の家がなにかしらの武術を教えているのを思い出して、よろしかったらぜひとも教えて欲しいですなどと名乗り出てしまい――――そして冒頭に至る、というわけである。
 では、夕食をうちで食べていきなさい。いいんですか? ついでにご両親もお誘いしよう、せっかくの機会だし、君のご両親とも話してみたいからね。いやもうホントすみませんでした。あぁ違うよ、君みたいなしっかりした子供を育てたご両親に、ぜひともアドバイスを頂きたいんだ。
 ……そんな、なんかよくわからない会話があって、うちの両親と高町家一同は仲が良くなってしまったのである。特に、内の母上と高町のお母さん―――桃子さんはすごい仲がいい。その仲善さたるや、喫茶店での支払いがツケでいいというくらいである。恐ろしや我が母上。

 色々とあったが、はっきりしているのは、その事件がきっかけで高町の奴は我を出すようになったことと、うちの両親と高町の両親が仲良くなったこと。そして、俺が高町恭也という鬼ー様に対してトラウマを覚えることになった、という三つの事柄だけである。
 特にトラウマの原因となった道場内での出来事は今でも思い出したくない。うぅ……妙に年齢不相応の身体能力をしている所為で、変に目をつけられてしまったこの身の上が憎いっ!

 だから、俺は夢であってほしいと願った。
  
 だって、アレだぞ?
 いつもいつも、隙あらば俺を殺そう――多大な誇張表現、及び誤解が混じっております――としてくる人が、あんな場所にやってきたんだ。俺じゃなくとも心臓が止まる思いがすると思う。
 いつもなら追っかけまわされるだけで終わるんだが、しかし今回は事情が事情だ。
 あろうことか自分の妹を無理やり学校から連れ出して、化け物が闊歩する行楽施設にサボりにきているだなんて知られたら――――俺だったら間違いなく元凶の人間を半殺しにしかねない。それでなくとも、あの一件以来鬼ー様には「次になのはに傷をつけたら――――そうだな、俺と組み手をしてもらおうか」という、事実上の半殺し宣言をされているのだ。
 だというのに、俺がこうして益体もないことを考えながら、見知らぬ天井を見上げていられるのは一体なんの悪戯なのだろう、と思わないでもない。
 埃一つない天井に、柔らかいクリーム色の照明。
 ふかふかのベッドに、くらくらするくらい鼻腔を刺激してやまない、どこかで嗅いだ事のある気がする女の子の甘い匂い。
 ぱっちり開いたお目目をぱちぱちさせて、次の瞬間がばっと身を起こす。



「…………はて?」



 身の毛もよだつ最後の記憶から、突如として放り込まれたこの癒しワールド。
 はっきり言ってしまえば、地獄から突然天国に投げ込まれたような気分である。
 しかしながら、最悪の状況から最高の状況に好転した場合、えてしてロクでもない罠があるのは世の常だ。だからこそこうして警戒を密にするのだが……。
 豪奢とまではいかないが、しかしどれもこれも品のいい調度品が置かれ、床には高級そうな絨毯が所せましと敷かれている。
 首をかしげて状況把握に努めるが、正直さっぱりだ。何が起きているのか誰か説明プリーズ。
 そんな俺の要求に神は答えた。それも心臓が止まりかねないサプライズと共に。









                           俺はすずかちゃんが好きだ!










「っ―――目が覚めたの、本田君!?」
「ほ……ぉおお!?」
「どこか痛いところはある? 頭痛とかしない?」
「な、なつ、つつき、月村さん!?!」


 
 ドアが開いた音を耳ざとく聞きつけた先には、宵闇の長髪に白いヘアバンドがよく似合う、俺の大好きな女の子が立っていた。
 学校の制服とは違う、黒いロングスカートに、薄手のカーディガン姿という実にお嬢様らしい私服姿で、ぱたぱたと俺が横たわっていたキングサイズのベッドに乗り上げてくる。
 わけがわからず混乱する俺。
 そもそもここはどこなのか、なんで俺は寝ていたのか。そして、何故ここにすずかちゃんがいるのか。
 説明を要求したくても、顔に息がかかりそうなくらい顔を近づけられた俺は、ただどぎまぎして口を満足に動かすことすらできない。
 


「あの、え……? なんで?」
「本田君、気絶してたの覚えてる?」



 どうにかしてここにいる理由を尋ねる意味で〝なんで?〟と絞り出した俺の問いを、すずかちゃんは的確にとらえてくれたらしい。
 確かに、最後の瞬間あの鬼ー様の姿を見て気絶したのは覚えてる。
 ついでに、俺とすずかちゃんが謎のすずかちゃん似のおねーさまに抱きかかえられていたことも。



「そのあと色々あったんだけど、本田君気絶したまま動かなかったの。だから、私の家に運んできたんだ」
「はぁ……うん? 月村さんの家!?」
「そうだよ。何もない客室よりも、私の部屋の方が看病しやすいから、私のベッドに運んでもらったの」
「へぇ、そうだったんだ。ごめん、ありが――――――――――なんですと?」



 今、とてもじゃないが看過できない事実を聞いた気がする。
 俺が気絶しっぱなしだったから、とりあえず月村邸に運んできた。
 しかし、客室は何もなさすぎるから、すずかちゃんの部屋に―――――すずかちゃんの部屋ぁっ!?!



「――――――きゅぅ」
「ほ、本田君!? 本田君しっかりして!」



 あぁ、薄れゆく意識にまじって、天国へ誘うかほりがする……っ!
 そうか、コレが天国へ至る道か。
 神父、アンタの言う〝天国へ行く方法〟は一つじゃぁ、なかったんだ……。
 わざわざらせん階段だとかイチジクのタルトだとかドロローサへの道だとか秘密の皇帝だかを唱えずとも、天国へと至る道はあったんだよッッッ!!
 へっ……俺ぁ、満足したぜおやっさん。
 なんたって、好きな子のベッドで寝れるんだ。これ以上幸せなことはない。
 そうだろ………………ブラザー? 
 










 そんな馬鹿なやり取りをしていたら、さすがにすずかちゃんに怒られた。
 曰く、



「みんな心配してるんだから、狸寝入りはいけませんっ!」



 とのこと。いぇあ、イグザクトリーでございますお嬢様。
 というわけで、俺の回復報告も兼ねて、すずかちゃんに手をひかれるまま〝みんな〟が待つリビングへ案内されることに。
 同時に、てくてくと歩きながら俺の背中を冷や汗が気持ち悪いくらいに伝って落ちてくる。
 言わずもがな。歩きながら話していた状況確認によって、俺の悪夢はまだ終わってないことがわかったからだ。
 まったく今日は何という日だろう。
 〝前世〟でのトラウマをほじくりまわされ、結構ガチな勢いで殺されかけ、そして最後に我が天敵――もういろんな意味で――に出会ってしまった。
 そしてすずかちゃんの話によると、どうやら俺は今、彼女の家――――というか屋敷にいるらしい。
 豪勢なシャンデリアが廊下の天井をずらりと彩り、普通の家じゃ到底お目に抱えれないような豪華な調度品があちこちに並ぶ、毛長の絨毯の上を歩きながら、俺は初めて来た大好きな子の家の内装に見惚れた。

――――なんていうか、想像通りだ。

 いつものはんなりとした柔らかい笑みに、少女特有のあどけなさを内包した無邪気で優しい性格。
 深窓の令嬢とはかくあるべき、と断言してもいいくらいに清楚で落ち着いていて、そして趣味が読書に好きな動物が猫ときたもんだ。これですずかちゃんが可愛くないとかいうやつがいたら、そいつは自分の目を抉って自殺していいと思う。
 とにかく、俺は今、そんなすずかちゃんの家のリビングに向かっている。
 そして、そのリビングには全員が揃っているそうな。
 


「……全員って、具体的には?」
「うーんと、なのはちゃんとユーノ君、恭也さんと美由希さんと、アリサちゃんと私のお姉ちゃんと叔父様だよ?」
「おろ、あのダンディなおっさん、まだいたんだ?」
「うん。昨日京都から帰ってきて、来週には帰国されるんだって。ただ、その……」
「なに、何か問題でもあったの?」
「ううん、そうじゃなくてね? なんていうか……その、本田君が気絶してから、すごく色々あって……」
「色々……ですか?」
「そう、色々」
「ふむん。色々十色。じゅーにんじゅっしょっくひとよばならにゃー♪ なっさーけむようのおにおやぶん♪」
「くすくす。なぁに、その歌?」
「作詞作曲本田時彦。哀愁のバラード」
「今の曲調はバラードじゃないよ、もう」
「偉大な人間は細かいことを気にしないものさ。ゲーテもそう言ってるぜ」
「ウソ。なのはちゃんと違って、私、だまされないからね?」
「月村さんが今ナノハムを暗にアホの子だと認めた気がするのですが気のせいでせうか」
「ち、ちがうよ!? そういう意味じゃないもん!」
「あっはっはー♪ だーいじょーぶ。本田さんはよーくわかってます。ええ、ナノハムは誰もが認めるアホの子だと」
「もう、本田君いじわるっ!」



 てくてく歩きながら、俺とすずかちゃんはそんな益体もない話を続けた。
 無論、その間俺の背中は冷や汗で濡れっぱなしである。意図的に現実を受け入れたくなくて逃避していたのは言うまでもないだろう。
 しかし、俺は今幸せだった。
 何故かって?
 そんなの決まってるだろ。
 大好きな女の子の家で、手を繋ぎながら、たとえその内容がくだらないものでも、すごく楽しいお話ができているのだ。これ以上の幸せがあるならば、それはまだまだ性急過ぎる望みと言うものである。
 


「みんな、本田君が目を覚ましたよ!」



 しかし、神様/現実はいつも残酷である。
 ギィ、と予想通りな音をたてて開かれた豪奢な扉の向こうには、さっきすずかちゃんの言っていた面々が深刻そうな面持ちでずらりと雁首を揃えていらっしゃった。
 そして突き刺さる俺への視線。若干一名、なんだかすごく子供じみた純粋な視線を投げつつ「お、やっぱり無事だったか」とかその言外に不穏な響きを含ませて話しかけてくる人がいたが、スル―9割の愛想笑いで乗り越える。



「ちゃすっ! 本田時彦、れいずでっどのおかげで復活しました!」
「やほー本田君♪ 元気そうでよかったよかった」
「あれま、美由希さんじゃないっすか。なにしてんですこんなところで?」
「いやー実は色々用事があってね」
「さいでございますか……っと、それよりも、心配おかけしましたみなさん。御覧の通り、本田時彦、完全に復活しております!」
「……どうやら無駄な心配だったみたいね。アホ猿はやっぱりアホ猿のままだったわ」
「んだと!? このファッキンロリガー……る?」



 はぁ、とあからさまな溜息をついてこれ見よがしに言ってのけられた台詞に、半ば脊髄反射の如く口が反応し――――気付いた。
 部屋の中央、あははーとなんだか気疲れしたような感じの乾いた笑いを浮かべるナノハムの傍ら。
 憤然と腕を組んで胸を反らし。態度も大きく足を組みながら、そのソファーの背もたれにゆったり寄り掛かって俺を睨みつける一人の少女。
 はちみつ色の金髪に、まんまるだけどややつり上がった可愛らしい瞳。意思の強そうな眉に、小さな桜色の唇。
 すずかちゃんに負けず劣らずの美少女お嬢様――――アリサ・バニングスだった。それも、〝元〟の。 
 今日何度目の思考停止だろうか。
 脳味噌が「もうヤ。ふざけんな馬鹿こんなしょっちゅうエンストさせやがってこんち本気で拗ねるぞバカヤロウ!」と怒り狂っているのが俺にもわかる。
 その気持ちはよぅくわかる。俺だって、何がなんだかさっぱりなんだ。



「あ、ああ、アリサ!? え、あれ!? 今俺のことアホって!?」
「アホにアホって言って何が悪いのよ」
「戻った!? お前、ナニ戻ったの!?」
「まぁまぁ、詳しい話を今からしてあげるから、まずは座ったらどうかしら、少年君?」



 驚愕に身を震わせる俺に、そう言って優しく声をかけてくれたのは、例のすずかちゃん似のお姉さんだった。
 くすくすと柔和に微笑む姿は、やはりすずかちゃんが大人になったソレとしか思えない。
 ただし、やや悪戯好きそうなその笑みは、どこかチェシャ猫のような魅力を持っている。すずかちゃんが将来こんな悪戯猫みたいな笑い方をするのかと想像したら――――おおふ、なんだか背筋がゾクゾクしてきましたヨ?
 そして、俺はすすめられるままにソファに座り、改めて周囲を見回してみた。
 リビングと言えば、ごくごく普通の、それも中流家庭が暮らすようなマンション、あるいは一軒家のソレを思い浮かべるだろう。
 3LDKだったり4LDKだったり、間取りはどうでもいいが、それなりに大きなリビングを思い浮かべれば、俺の想像したものがどんなものかわかると思う。
 だが、ここは違った。ていうかリビングとかそんな生易しいもんじゃなかった。
 まず天井だ。
 真っ白な天井ではなく、綺麗な絵が描かれている上に、その中央には値段が想像できないような豪奢なシャンデリアが燦然と輝いている。
 そして、足もとには真っ赤な、これまた毛長の絨毯。もちろん、どことなく豪華そうな柄であり、いちいち踏みしめるためにモフモフとしているのが物凄く心地よい。踏むのがもったいないくらいだ。
 部屋全体は長方形であり、うちの学校の教室の二倍はありそうなくらい広い。
 短い辺の南側には暖炉が設えてあり、冬はそこで暖を取るのだろう。物語に出てきそうなマホガニーのロッキングチェアーが2つ置いてある。ていうかマホガニーかよオイ。
 確か、前に偶然ネットか何かでみたが、一つ十五万とかしてたな。
 さすがはお嬢様といったところだろうか。
 そして、本来ならばだだっ広いとしか評価しようのない空間の中央に、大理石のそれなりに大きめのテーブルが置かれ、それを囲むようにソファが置かれている。
 東側に俺達小学生組、その対面にすずかちゃん似のお姉さんと鬼ー様。そしてその妹であり、ナノハムの兄であるお姉さんこと美由希さん。
 その後ろには――――え、あ、うん?

 ……タイムタイム。やーおかしいな、俺の目終わってんのかな。

 本当に今日はカルチャーショックどころか、ブレインショックが多い一日だ。転生者だったおかげで発狂せずに済みました(笑)――――とか洒落にならんぞおい。
 ここは一つ、俺の脳味噌さんが正常な事を確認するためにも、隣でぎこちなく笑いっぱなしのナノハムに聞いてみることにしよう。
 
 

「なぁなぁナノハムさんや」
「なに、ほんだくん?」
「メイドさんがおるんだが……え、アレマジ?」
「うん、ノエルさんとファリンさんだよ。すずかちゃんのお家で昔から働いてるの」
「マジか。マジなのか。俺がおかしいんじゃなくて、世界がおかしいのか」



 本田さん、新しい発見をまた一つしましたよ。世界は不条理極まりない上に、いつだってどこだって意味不明だ。
 まさか現代の、それもこんなに身近に生メイドさんが存在しているとは。神様って、もしかしてオタク?
 


「さて、少年も現状がそろそろ把握できた頃合いのようだ。話を再開したいのだが、構わんかね?」
「あ、ダンディなおっさん」
「こ、こらほんだくん!」



 そして、いわゆるお誕生日席にふんぞり返るようにして大仰に座っているのは、いつぞやのバスで会ったダンディズムに溢れているおっさんだった。
 つまりすずかちゃんの叔父さん。
 今日もまたその厳つい髭と口にくわえたパイプが非常に渋かっこいい。



「あぁ構わん。私のことは好きに呼ぶと良い。堅苦しいのは嫌いでね」
「そ、そうですか……」



 なんかナノハムに怒られたが、そもそもからして前に会った時も呼び方については気にしてなかったし、存外にこのおっさんは茶目っけに溢れていると見える。
 以上、俺達を含めた10人がこのだだっ広いリビングの中央に集まっていた。
 思っていた以上に空気は重い。
 当然と言えば当然だが、ここで土下座をしなきゃいけないかと思うと、なんだかそれまで平気だった胃がしくしくと泣いているような気がする。
 あぁくそう……いくらバニングマのためとはいえ、やっぱり学校をさぼってカリビアンベイに行ったのはまずかったか!
 動機も俺の欲望七割だったし、弾劾されても文句は言えないが、しかしこのプレッシャーは想像以上だった。はっきり言って、昔ナノハムの家で土下座した時以上に緊張する。
 ていうか、そもそもなんだってこんなに勢揃いしているんだろう。両親まで勢揃いしているならまだしも、何故かこの場ではすずかちゃんのおっさんしかいない。
 しかし、俺のそんな些細な疑問は、この後すぐに氷解することになった。
 重苦しい沈黙の仲、パイプを優雅にくゆらしながら、おっさんが俺へと視線を投げかける。
 


「さて少年。聡明な君のことだ、今がどういう状況なのかは、薄々気づいているのではないかね?」
「えーと……まぁ大体二つくらいだったら」
「言ってみるといい。そのうえで、足りない部分を補足するとしよう」



 どうやら、俺が現状を完全に理解しないことには話が始まらないらしい。
 まぁ俺としても、今何がどうなっているのか気になって仕方ないので、おっさんの指示に従うのはやぶさかではなかった。



「それじゃ、まず一つ目。あのカリビアンベイの化け物は片付いてるんですよね?」
「あぁ」
「ちょーっと、色々とあったんだけどね」



 鬼ー様と、隣のすずかちゃん似のお姉さんが苦笑する。
 ていうか、そもそもまずはこのお姉さんが誰かとか、あの時助けてくれてありがとうございますとか、なんでみんなこんなところに集まってるのとか根本的な疑問が後から後から湧き出してくる。
 しかし、そこはほら、大人としてぐっと抑えて、ね?
 じゃないと話が進まないし。
 それに、今現在最も気になっていることを確かめたい気持ちもある。
  


「色々、ですか?」
「あはは、それは後で説明するよ」
「何故にそこでナノハムが割り込んでくる」
「わ、わたしも関係あるの!」
「あの騒ぎの中行方不明だったお前が? なにしたんだお前。あれほど人様に迷惑をかけるなといっただろう」
「アンタがそれをいうなっ!」
「おふぅっ!?」



 調子に乗ったら、暴力ライム娘にわき腹を抉られたナリ。
 


「げふっげふ……で、次ですけど、なんでかこのパツ金バイオレンス娘が〝元に戻ってる〟んですが、一体全体なにがあったんでしょうか本田君はさっぱりわかりません、と疑問を投げかけます」
「誰がバイオレンスですって!?」
「お前しかいねぇだろうが! いきなり人様のわき腹抉ってくるたぁ、随分な御挨拶だとはおもわねぇんですかね今時の外国のお嬢様ってやつぁ!?」
「……ふむ、事態の推移はどうやら飲み込めているらしい。では、これまでの話を整理する意味でも、まず始めから事の成り行きを説明せねばなるまい」



 バチバチと、俺とロリパンツとの間に火花が散るが、大人及び青年組はさらりと無視してくれた。むぅ。
 そんな中で、ナノハムの奴が何故か立ち上がると、ちょうどおっさんの正面側になるところまで歩いていき、みんなを振り返った。



「えと、今日は本当にすみませんでした。あと、いっぱい隠し事していて、ごめんなさい」



 ぺこりと、腰を九十度曲げて謝罪を始める。
 これには俺も度肝を抜かれた。ていうか意味がわからない。
 起きてからこっち、はっきりいって胃がむかむかするほど状況の推移についていけず、今にも「なにがどうなっとんじゃいわれぇ!!」と叫びだしたくて仕方ないのだが、ここで話の腰を折るのもなんだ。とりあえず、大人しく話を聞くことにする。



「謝ることはない。あの異常事態の中、君はよく動いてくれた。なにより、君がいなければあれほど被害を抑え込むこともできなかっただろう」
「そうだよなのはちゃん。その、色々びっくりしたのは本当だけど、なのはちゃんは何も悪くないよ」
「すずかちゃん……うん、ありがとう」



 どうやら、話の流れからして、あの化け物はナノハムが始末したらしい。
 ……アレ? 違和感がないのはどうしてだろう。むしろしっくりくるんだが。



「何変な顔してんのよ、アンタ」
「いや、さすが高町家だなぁと。人外じみたことをするのはあの家系の因子なのか」
「アンタ、それ絶対に恭也さんの前で言わない方がいいわよ」
「言われるまでもない。これでも自分の命は惜しいんだ」



 なんか自然とデビルベアーと話せているが、その声は実に小さなものだった。
 前の方では、ナノハムと鬼ー様が話していて、危険な事をするなとか、ああいう危ないことをする以上、これ以上放ってはおけないとかそんなことを話している。
 いや、だから一体何がどうなって――――あー、もういいや、メンドい。



「……アンタ、今考えるの投げたでしょ」
「うっせぃ」



 思考がダダ洩れである。俺のプライバシーはどこに行った。
 そんな馬鹿話をしている間にも、話は進んでいた。
 どうやらなのはの言い訳タイムは終わったらしく、いよいよ話の本筋が始まる雰囲気が周囲に満ち始める。
 同時に、みんなの視線が集まるナノハムの肩に、どこかで見た――――あぁ、そう。俺が病院で頭の検査をした時だ。その時に見たフェレットがちょこんと、器用に立っていた。
 そして、今度こそ俺は、自分がもう常識で測れる世界にいないことを思い知らされる。 



「初めまして。僕の名前はユーノ・スクライア。この世界とは違う、別次元の世界からやってきました」



 …………拝啓、お父様、お母様。お元気ですか?
 私は今、とても混乱しています。コンランノキワミアッー!って感じです。
 そんな愚息がお一つお伺いしたいのは、他でもありません。
 お父様とお母様の記憶に、しゃべる動物、というのはございませんでしょうか?
 生憎、二度目の生を受けましたワタクシでも、ついぞそのような記憶には心当たりがないのです。
 もしございますならば、ぜひともこの愚息めにそのお話をお聞かせください。そうすれば、この混乱の極地からも少しは解脱できるというものでしょう。
 だって……だって…………っ!


――――――フェレットが喋ってるんですよ!?!!


 




















――――――――――――――――――
なのは、ネタバレ。
次の更新でいったんおやすみ。
さすがにここまできたら、ちゃんと考えないといけないことがでてきた。
流れ自体はできてるけど、それはなのは主軸の話。本田主軸のものを考えないと。


1003210650 Ver2.00 恭也、及び高町家との絡みについての記述を大幅変更。ダウナー状態でモノ書くとロクなことにならないことを痛感。この度は高町恭也氏に多大なご迷惑をおかけしたことを、深く謝罪申し上げます。


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