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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 魔法と夜と裏話
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:a9a6983b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:37
 彼女――――高町なのはにとって、やや茶色かかった自分の髪の毛は、秘かな自慢だ。
 母親譲りのソレは、純日本人でありながらどこか日系人を思わせる非凡さを持ち、何よりも大好きな母とおそろいというだけで、その事実はなのはの胸を軽く弾ませる。
 本音を言えば、母のように腰まで伸ばしたいのだけれども、お手入れがとても大変で時間がかかる、と母から教えてもらって、断腸の思いで断念した。
 


≪なのは、もういいかな?≫
「うん、だいじょーぶだよ♪」



 実家の自室。小学生の部屋にしては小奇麗な内装で、しかしクリームやオレンジを主体とした柔らかい色づかいは、なのは自身の趣味の良さがよくあらわれている。
 主に部屋の装飾はなのはが自分で決めて行ったものであり、そのサポートに母がついていた。父も張り切っていたのだけれど、ちょっとそのセンスが独特すぎたために、母と末娘の反対にあい、敢え無く轟沈。女二人は家庭内では最強である。
 そして、学校から帰宅して真っ先に私服に着替えたなのはは、部屋の隅で壁を向いているハムスター――――もとい、フェレットに向かってにっこり微笑みながら言った。
 ふぅ、と小さな体を震わせて溜息をついたフェレットは、くるりと振り返ると、そのつぶらな瞳をなのはに向ける。
 見た目はただのフェレット。だが、その中身は人語を理解する、次元外生命体。
 昨晩、なのはが運命的な出会いを果たした〝魔法生物〟だ。



「ユーノくん、なんでいつも私が着替えると壁をむくの?」
≪え、いや、それはだって、一応ボク男だし、ていうかなのは! 着替えるなら着替えるって先に言ってよ!≫
「えぇ~、だって私は気にしてないのに……」
≪僕が気にするの! あぁ……なんだか、今日の昼間の男の子がなのはをからかう理由がわかってきた気がする≫
「ガーン!? や、やだよユーノくん! ユーノくんまでほんだくんみたいに意地悪になったら、わたし明日から誰を味方と思えばいいの!?」
≪……そんなに苦手に思ってるのに、意外と仲いいよね、なのはとあの子って≫
「……しりません! もう、意地悪言うユーノくんきらいっ!」
≪わーっ! ご、ごめんなのは! 別にそういうつもりで言ったんじゃ……!≫



 傍から見れば、実に奇妙極まりない光景である。
 女の子がフェレットに向かって百面相しながら話しているのだ。普通ならば〝この子、きっと辛いことがあったのね〟などと勝手な同情をされて憐れまれるのがオチである。
 


≪でも、本当に今日はお疲れ様。まさか二つもジュエルシードが見つかるなんて。すごく幸先がいいよ≫
「でも、まだ一個は回収できてないんだよね……」
≪それは、仕方がないよなのは。だって、あの女の子が持ってるんでしょ?≫
「うん……アリサちゃん、どこで拾ったんだろう?」



 ユーノがこの世界に来た目的はただ一つ。
 詳しい話はだいぶ簡略化されたが、彼はとある遺跡で何かを発掘していたらしい。
 そして、その発掘物の輸送中に起きた事故によって、この世界にばらまかれたのが古代の遺失物〝ジュエルシード〟と呼ばれる計21個の結晶体。
 それを集めるために、彼は単身、何の準備も無しにこの世界へとやってきた。
 彼のその行動を勇敢と取るか、無謀ととるか――――なのはとしては、前者だと思っている。
 ユーノが探している古代の遺失物〝ジュエルシード〟とは、見た目は青い綺麗な宝石だった。
 魔力を通すとうっすらと発光し、その内部にシリアルナンバーを浮かび上がらせるその結晶体の最たる特徴は、何よりも〝願いを叶える〟という願望実現魔法にある。
 詳しい原理こそ不明だが、恐らく世界の因果律、あるいは因果そのものに干渉して〝願望〟を実現させるために本来のソレを書き換えているのかもしれないとかなんとか、ユーノが昨日あたりに教えてくれたような気がしないでもない。
 正直、因果が云々とかの時点でなのはの頭には?マークが雁の群れの如く飛び交っていたため、結局その話を理解するには至らなかったが、その話の最後の部分―――ジュエルシードが叶える願い事は〝なにかしら歪んだ形になる〟という一文だけはしっかりと理解できた。無論、言葉ではなく、体で。
 というのも、今日、クラスメイトである本田時彦が突如謎の奇行を繰り返して気絶した後、なのはは放課後の帰り道、近くの神社で件の魔法結晶体を一つ回収したのだ。
 その際の状況はと言うと、もとは賢くたくましかった犬が、どうやってかは知らないが落ちていたであろうジュエルシードを媒介に、凶暴で醜悪極まりないバケモノに変貌し、その場にいた一般人を襲っていたというものである。
 既に現場に急行して到着していたユーノのおかげで結界こそ間に合ったものの、一般人の結界外への避難が間に合わず、結果的になのははその一般人を守りながら封印作業を行うはめになった。
 だが、それでもなのはは子供ながらも勇敢に立ち向かい、それを見事封じて見せたのである。
 その活躍をユーノは手放しで褒めたものの、一方で内心、こんな危ないことが今後何度も続くようでは早いうちになにかしら対策を打たないとまずい、と感じ始めてもいる。その対策案の一つに、夕方なのはに連れられて会った少年が含まれていることは、まだ秘密だ。
 他にも、なのはには話していない秘密の考えが色々とあるのだが――――それは蛇足になる。
 ともあれ、なのはとユーノはそうやって一つ目の探し物を順調に回収する傍ら、一方で非常に頭の痛い事態に遭遇していた。
 なのはの親友――――アリサ・バニングスの変貌である。



「でもユーノくん、アリサちゃんの場合、本当にジュエルシードのせいなの?」
≪十中八九、間違いないよ。あの子自身からすごく強い魔力反応を感じたし、何より、その反応がすごく歪なんだ≫
「歪……?」
≪レイジングハート、データを頼める?≫
“Yes.”



 ユーノの傍らに、小さな座布団にちょこんと乗せられていた赤い球体が、その内部に短い英文を煌めかせて反応した。
 パソコンが立ちあがるときのような電子音を奏で、中空に映し出されるのは、まるでSF映画に出てくるようなホログラフのウィンドウ画面だった。
 なのはは、その隠された機能を目の当たりにして、ほぇぁ~と口をあけて驚いている。
 この赤い球体は、ただ綺麗なだけの宝石でない。
 ユーノの世界における魔法使いの杖、それも自律思考型の高性能〝デバイス〟だ。
 本来はユーノの持ち物なのだが、現在は協力してくれるなのはに譲っている。というか、レイジングハートがなのはを〝気に入った〟ようで、ユーノとしても完全になのはに譲った気持ちでいる。
 もちろん、なのはは事が終わったらユーノに返すつもりでいるが、今この段階で別れるのを寂しいと思っているあたり、互いの相性は本当にばっちりのようだ。



「れ、レイジングハートって、こんなこともできるの?」
≪デバイスは基本、このくらいの機能は備えているんだ。レイジングハートは特に高性能だから、もっとすごい機能もあるよ≫
「すごいすごい! 今度全部教えてよ、ユーノくん!」
≪あはは、そうだね。今度練習がてら、レイジングハートの機能を把握するのもいいかもしれない≫
“I am honored to be pleased./光栄です”



 謙虚な反応を示すレイジングハート。ユーノとなのはは苦笑するしかない。



≪それで……このグラフの上がジュエルシード単体が起動したときの魔力波形パターン。下が、今日計測したあの女の子から発せられていた魔力波形パターンなんだけど……≫
「……一致してるところもあるけれど、ちょっとずれてる感じ?」
≪うん。多少の違いはあるけれど、起伏のパターンがほとんど一致してる。重なりこそしてないけれど、間違いなく、ジュエルシードの影響だ≫
「でも、アリサちゃん……性格だけ変わったみたいで、他には何ともなかったよ? てっきり物凄く大変なことになると思ったんだけど……」
≪それは僕も不思議に思ってる。ただ、ジュエルシード自体が色々と秘密の多い古代の遺失物/ロストロギアなんだ。だから、僕もあまり詳しいことまではわからないんだよ……≫



 ともあれ、なのはとしては、今日の犬のような変貌を親友がしていないだけで嬉しいと思う。もしそんなことになっていたら、なのははその親友と戦わなければならなかっただろうから。
 だが、かといってこのまま放置するわけにもいかない。
 なんとかしてアリサからジュエルシードをもらうか、あるいはそのジュエルシードを預かるなりして封印作業を行わなければ、いつ暴走して今日の犬みたいな事態にならないとも限らないのだから。



「とにかく、明日お話ししてみる。アリサちゃんだもん、きっと事情を話せばわかってくれると思うの!」
≪あまり、魔法のことは知られない方がいいんだけど……仕方ないか。ごめんね、なのは。こんなことに巻き込んで……≫
「何言ってるのユーノくん! 一度手伝うって言ったんだから、私は最後まで手伝うよ。後悔するより反省しろ、だもん!」
≪……念のために聞くけど、それは誰の言葉?≫
「えーと……ほんだくん」
≪やっぱり≫



 てへへ、と小さく舌を出しながら笑うなのはに、ユーノは小さく溜息をつく。
 なんだかんだで、なのはとあの少年は仲がいい。
 もし彼が協力者になってくれたら……そこまで考えて、ユーノは小さく頭を振ってそれ以上考えることをやめた。



≪(なのはを巻き込んだだけでも大変なことなんだ……なのはを信じよう)≫



 自分が心配性であるのは百も承知だ。一族のみんなからもその点は指摘されてきたし、自分でも少しその面が強いことは自覚している。
 だからこそ、この胸騒ぎも、自分の悪癖のせいだと決めつけて蓋をした。
 そもそも、なのはの才能は素晴らしいものがある。それこそ、自分なんてはるかに上回る、恐らくは百年に一人の逸材と言っていいくらいだ。
 そして、事情を聴いて悩みなく手伝うと言ってくれた彼女を信用しないのは、むしろ礼を失することになる。ここは、彼女を信じよう。彼女と、その才能と強さに。



「なっのはー! ユーノ貸してー!」
「うにゃっ!? お、お姉ちゃん!?」
「ぅん~っ♪ ユーノただいまー! 相変わらず君は可愛いねぇ~♪」
「きゅ、きゅぅーっ!?」



 結局、ユーノの不安は突如としてなのはの部屋へ乱入してきた姉、美由希によって強制終了と相成った。
 入ってくるなり、なのはの驚き様には目もくれずにユーノへと抱きつく彼女は、見て分かるように最近ユーノにご執心である。
 帰宅するなりこの溺愛ぶり、いまや高町家において彼女がユーノを一番愛していると言っても過言ではないだろう。溺愛されている本人がどう思っているかはさておき。
 


「≪あ、あはは……ユーノくん、ごめんね?≫」
≪ううん……居候させてもらってる身としては、このぐら―――うひぃっ!?≫
「おー、お腹あったかーい。なのはなのは、触ってごらん!」
「お、お姉ちゃんあまりユーノくんいじめないで!」
「むっ、いじめてないよー。私は純粋に可愛がってるの!」



 きゃいきゃいと、もてあそばれている本人を余所に始まる、姉妹喧嘩とも呼べない他愛のない喧嘩。
 まだこの家に来て一週間も経っていないが、なんだかすっかり環境に馴染んでしまったことに、ユーノは苦笑を隠しきれなかった。
 











 月村すずかはそっと、ベッドのサイドランプに照らし出された本を読みながら溜息をついた。
 本の内容が、溜息が出るほど美しい話や、あるいはその逆に悲しい話、はたまたつまらないほど単調な話、というわけではない。
 今の溜息は、純粋にすずか自身が抱えている悩みから来るものであり、実際、その本の中身は全然頭に入ってこないでいた。
 親友の変貌―――そして、もう一人の親友のこと。
 前者は言うまでもなくアリサ・バニングスのことであり、今現在もっとも悩みの多くを占めている案件である。
 昨晩まではいつも通りだったというのに、今朝にきて180度人が変わったような態度を取り始めた親友に、表面上こそ動揺せずにいられたが、内心は混乱の極みであった。
 何があったのだろう?
 何を考えているのだろう?
 何故、あんな態度をとるようになったのだろう?
 生憎、すずかには親戚達のような〝ヒトの心を読む〟と言った特殊能力はない。
 もしかしたら、今後〝成長〟があった時に発現するかもしれないが、その時にどんな力が発現するかはわからないのだ。
 だが、例えそんな力があったとしても、すずか自身は使うつもりもないし、その予定もない。大事な友人の心を盗み見るなど、彼女の矜持が許さない。



「……アリサちゃん」



 携帯を開いてメールボックスを起動する。
 受信メッセージは画面いっぱいに〝アリサちゃん〟の文字。つい一時間ほど前まで、すずかはアリサとメールをしていた。
 特に大した内容ではない。今日の出来事についてと、アリサの態度の変貌について、少しだけ探りを入れるような会話をしただけ。
 特に後者のこともあって、すずかには未だに小さくない罪悪感が付きまとっている。
 素直に〝どうしたの?〟と聞くべきだったかな?
 でも、聞いてほしくないことだったら……?
 ううん、違うよ。やっぱり、親友なんだからしっかり聞かないと……。
 そうした思考を、本を広げながら実に一時間以上も延々と繰り広げている。
 それが生産性の無い行為だとはうっすらと理解しているが、まだ9歳の少女の身だ。無駄だと割り切って寝るには、いささか若すぎると言うものである。
 ともあれ、今日の態度が一過性のものなのか、それとも本気で何かきっかけがあって変貌したのか――――今日だけではあまり判断がつかない。
 どの道、今のままでは何をどう考えたところでわかるはずがない。情報が少なすぎるのだ。
 ……やっぱり、明日の朝、様子を見ながら聞いてみよう。
 そんな、なんとも無難極まりない結論を出して、すずかは本を閉じた。
 


「そういえば……本田君、大丈夫かな?」



 ベッドのサイドランプを消しながら、すずかはふと思い出したように呟いた。
 脳裏によみがえるのは、突如正座をしたかと思うと一心不乱に床に向かって頭突きを始めた友人の男の子の姿。あの時、すずかはあまりにも突然の出来事に、気が動転してパニックに陥ってしまった。
 結局、駆け付けたアリサの判断によって、急いで保健室へと運ばれたのだが……病院で精密検査を受けるくらいだったのだから、相当強く打ちつけていたのだろう。
 時々、その友人――――本田時彦は理解できないような、奇妙な行動をとることが多い。
 普段はクラスのみんなと楽しそうに遊んでいるが、ふと見ると、まるで大人じみた静かな眼差しで教室を見回していることがある。いや、他にもまるで大人みたいな物言いをすることもあった気がする。
 例えば、今年の元旦だったか。
 半年前の禍根も水に流され、いつしか四人で遊ぶようになったことから元旦の初詣はみんなで集まって一緒に行こうということになった。
 詳しい過程は良く覚えていないが、確か自分が大人の誰かにぶつかったのだったと思う。
 体格のいい、やや強面の大人だった。ドスの利いた低い声で自分に詰め寄り、「膝の皿が割れた」とかどうのと言っていたと思う。
 まず反応したのが隣にいたアリサで、次に反応したのが本田だった。
 突然男の膝――男が割れた、と言っていた個所だ――にローキックを叩きこみ、突然大声で「助けてー!誘拐されるー!!」と大声で叫びだしたのだった。
 当然、そんなことを叫ばれては大人達も反応せざるを得ない。結果的に絡んできた男達を撃退できたが、すずかは心臓が破裂するかというくらいにドキドキしていた。
 


「……あの時は本当に怖かったぁ」



 今思い出しても体が震えてしまう。
 あの怖い面相に、低い声。子供が相手だからと言ってなめきった態度に、下卑た笑い顔。どこまで人が堕落すればあんな風になるのか、すずかには想像すらつかない。
 そしてなによりも、そんな大人を相手に、むしろ笑い出しそうなのをこらえながら堂々と立ち向かった本田時彦という人間も、すずかには理解できない。
 普段はアリサと一歩間違えば喧嘩と捉えられてもおかしくないようなやり取りをする子供の一面と、あの時のような子供離れした一面――――すずかには、どちらかと言えば後者の方が〝彼らしい〟と感じてしまう。
 失礼だよね、こんなこと……。
 流れるままに出してしまった結論が、考えてみれば本人にとっては失礼なことだと思い至り、すずかは暗闇の中で寝返りをうちながらぎゅっと瞼を瞑る。
 だが、その一方で言葉にできない関心が鎌首をもたげているのも、事実だった。
 不思議な人。どこか、捉えどころのない人。
 仲良くなるきっかけは、はっきりいって最悪のものだった。
 丹精込めて作った風鈴を、わざとではないにしろ割られてしまい、夏の思い出の一つを壊されたことは――――許せないとは言わないでも、未だに心が痛む出来事だ。
 しかし、その後の彼のフォローがあったからこそ、今自分はこうして彼を許し、むしろ好意を抱いて親友として接することができるようになった。まさか、一週間も学校を休んで、自分が作った風鈴と8割方そっくり似せたものを作ってくるとは思わなかったが。



「ふふ……」



 その時のことを思い出して、すずかは思わず笑い声を洩らす。
 小さな木の箱を両手で差し出しながら真剣な目でこちらを見つめる本田の真っ赤な顔は、今でもはっきりと思い出せる。
 大事な夏の思い出を壊されたことで、彼とはあまり関わりあいたくないと思っていたのに――――〝一寸先は闇〟ではないが、まさか彼と親友と呼べる間柄になるとは、その時思いもしなかった。
 彼が何故そこまでしてくれたのか、と考えれば、恐らくは罪悪感からだろう。だが、親友のアリサ――無論、変貌する前のだが――はそれだけじゃないと思うとも言っていた。
 他に、何か理由があったのだろうか?
 普段から仲が良い上に、息もぴったりなアリサと彼という組み合わせならばまだ分からないでもないが、自分と彼ではそれほど接点があるわけでもないし、そもそもあの時は加害者と被害者という立場だった。謝罪と償いという意味をおいて他に意味があるとは到底思えない。
 ……そう、本当に彼はアリサと仲がいいのだ。



「心配してたな、本田君」



 今日、彼がもう一人の親友であるなのはをあそこまでからかったのは、本人いわくアリサに吐き出せないストレスのせいと言っていたが、きっとそれは変貌したアリサへの心配によるものだったに違いない。実際、夕方の病院では、二人っきりで何か重大な話をしていた。
 それが、少し悔しいと思う。
 


「私も心配してるのに……アリサちゃん」



 何故、彼にだけ相談したのだろう?
 自分には話せないこと?
 それとも、二人だけの間の秘密?
 考えれば考えるほど、二人の関係を疑ってしまう、耳年増な自分の性格が嫌になってきた。
 とりとめのない思考は、きっと眠いからに違いない。今日は色々あったし、それに明日もなんだかんだで早いのだから、早いところ寝てしまおう。
 


「……明日、はっきりさせればいいよね」



 秘かな決意を胸に、すずかは布団を耳の部分まで引き上げる。
 カーテンから漏れ入る月明かりが、緩やかに揺れながら部屋の一部を照らし出す。
 ふとその光に導かれるように視線を追いかけされると、箪笥の上にある木箱が目に付いた。
 クリーム色よりも柔らかい、まだ若い木のそれとわかる木目の小箱は、半年前から変わらずそこにある。すずかの、大切な思い出の代わり――――いや、今はもう、大事な思い出の一つ。
 夜光に照らし出されたそれを眺めつつ、すずかは霧のようにまどろみ始めた思考を動かして、他愛のないIFを想像する。
 それは、アリサと自分がもし反対の立場だったら、という実に他愛のない、子供らしい夢想。
 毎日毎日、彼と飽きもせずに激しく口論し、時に叩きあい、時に追いかけ、時に笑いあう。
 今の関係に不満があるわけではない。だが、少しだけアリサに憧れもするのだ。
 彼とふざけあっている時に浮かべる、あの宝石みたいに輝く笑顔を浮かべる親友に――――自分も、あんな風に笑ってみたい、と。
 まどろみは、ついに闇色へと染まっていく。
 夢現の境界線を飛び越えて、すずかは抗いきれない眠りの手に引かれるようにして、そっと思考を手放した。


 




















――――
そろそろ補足説明をと。
なのは→リリカル化完了
すずか→フラグ建築に暇なし。

原作で言うと、神社での回収が終わった感じです。

100207/1631 Ver,1.01修正。アリサとすずかごっちゃになるw
100304/0848 Ver,1.02修正。ちょこちょこと。


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