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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:96b828d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:38
――――――四月某日:時の庭園エントランス




 戦いの火蓋を切って落としたのは、他ならぬ青き短剣だった。
 鋭い軌跡と光芒を棚引きながら空間を引き裂く、魔法の短剣。
 青い魔力結晶のそれは、素分違わず術者の意図を反映し、狙い過たず目標を穿つ。
 着弾、爆発。
 だが、それは目標に命中したのではなく、あくまで目標の〝いた〟場所に命中したからである事を、術者は一瞬のうちに理解した。
 理解と行動はほぼ同時。新たに術者は魔法陣を展開。さらに12の青い短剣が、術者を囲むように現れる。
 着弾の煙を吹き散らしながら、桃色の閃光が迸ったのはそれとほぼ同時だった。
 術者は迫る光芒をしっかりと視認しながら、右前方へと身を滑らせ回避。光芒と擦れ違いざまに3本の短剣の矢を放つ。
 無論、それは牽制。放たれた短剣は再び真っ直ぐ目標へと殺到し、二度目の着弾を披露する。
 さらに、術者は相手に狙いを絞らせないためにジグザグに三次元機動を披露。高度は低めに、かつ上下左右を交えた複雑な高速機動で相手へと接近を図る。
 


「―――――ッ!」



 だが、突如横から飛び出してきた影に、あわや術者は杖を奪われかけた。
 重力を無視した急速停止により、術者の目の前を目論見が外れた影が通り過ぎていく。ただ飛び込んできただけではない、ともすれば常人では視認するのが難しいほどの高速度で飛び出してきたその影は、到底一般人のソレとは思えない速さと動きであった。
 そもそも目標は〝二人〟いた。その内一人は一般人であったとはいえ、魔法戦に気を取られて失念するとは何たる失態か。
 だが、自分への悪態はすぐさま締め出し、交差した影に三つ、短剣を小さな輪へと変換させて放つ。 
 あわや影の手足を捉えるかと思われたそれは、しかしどこぞより飛来した桃色の光弾によって撃ち落とされる。
 その直前、術者は静止状態から急速後退。ついでに目視することなく残りの短剣を〝予測位置〟に向けて一斉に発射。
 桃色の光弾の軌跡から、それが誘導制御型の射撃魔法であると判断した術者は、フィールドの配置よりタイミング的に自身の魔法を打ち落とせるであろう位置6か所にそれぞれ残りの短剣を発射したのだ。
 弾着と爆発が三度。
 そして、すぐさまそれを振り払うように突風が吹き荒れる。
 術者は高揚する意識を抑えつつ、しかし高鳴る鼓動を自覚しながら、二人の目標たる少女達を睥睨した。
 足元に桃色のミッドチルダ式魔法陣を展開する、栗色の髪の少女。
 柱の陰からこちらを油断なく見上げながら、突風に濡れ羽色の長い髪を棚引かせる少女。
 戦況は、当初の予想とは打って変わり、予想外の苦戦の様相を呈していた……。











―――――五月某日:時空管理局所属、次元空間航行艦船巡航L級8番艦〝アースラ〟#ブリッジ





「改めて見て見ると、なのはちゃんもそうだけど、すずかちゃんの身体能力がとんでもないねぇ~……」
「まったくだ……」
「あはは~。やっぱりクロノ君でも焦ってたか」



 エイミィ・リミエッタの茶化すような質問に返事するのは癪だったので、クロノ・ハラオウンは黙って手に持っていたマグを呷った。
 熱く、苦い液体が舌を刺激し、豊饒な香りが鼻腔を突く。嚥下する事に由る別れを若干惜しく思いながらも、クロノは静かに嘆息した。

 クロノは今、次元航行艦アースラのブリッジ、エイミィの管制座席へとやってきていた。
 元々は、今回の事件―――通称〝JS事件〟に関する新しい報告書を提出するために来たのだが、そのついでにエイミィに誘われ、息抜きがてら以前の〝時の庭園突入作戦〟の際に記録した高町なのはと月村すずかとの戦闘記録を閲覧しにきたのだ。
 ちゃっかりとコーヒーを用意していたあたり、エイミィの用意周到さがうかがい知れる。



「あの時は、何故一般人の月村すずかがあの場にいたのか不思議に思ったが、〝こういう事〟だったワケだ」
「仮にも手加減しているとはいえ、クロノ君と並みに戦えているって時点でとんでもないなぁ。そりゃなのはちゃんと並んでとおせんぼしにきたわけだわ」
「加えて、自分達の力量を把握した上、敢えて僕の杖を奪う選択肢を取ったことを鑑みても、二人の状況判断能力も高い。二人とも、素人とは思えないな」
「なんでも、なのはちゃんのご家族やすずかちゃんのお姉さん達はこれ以上にすごいらしいけど……」
「恐ろしい世界だな、ここ/第97管理外世界は。生身で魔導師相手に肉薄できるなんて話、古代ベルカ騎士や聖王並みの眉唾だと思っていたんだが……」


 
 古代ベルカ―――現在では扱える者すら希少となった、〝古代ベルカ式〟と呼ばれる魔法を操る者達が築き上げた古代文明。
 多くのロストロギアが造られ、またそのロストロギアによって滅んだと噂され、今もってその全容が明らかになっていない。
 だが、古代ベルカ式を操る魔導師―――騎士達についての文献は、確かなモノがいくつも残っている。
 それらの話に上がっているような騎士達の話を総じれば、曰く管理局の魔導師ランクのSランクに匹敵、あるいはそれすら上回るとさえされている。
 実際、管理局首都防衛隊に所属するとある魔導師がその〝騎士〟であり、その実力のほどは噂程度ではあるがクロノもよく耳にしている。
 それでも、前提はあくまで〝魔法を使った上で〟の話だ。この映像の月村すずかのように、一切魔法を使わない状態で、仮にも魔導師ランクAAA+の執務官に肉薄する等、冗談でも聞いた事が無い。
 改めて口にすると、月村すずかが如何に出鱈目なのかがよくわかる。ついでに、まだ見た事の無い、高町なのはの家族も。
 直接的なダメージこそ受けなかった―――バリアジャケットもあったし、月村すずか本人から攻撃を受けたわけでもない―――ので、もし本気で戦った場合どうなるかは分からないが、それでも魔導師の空戦機動に対応して見せた、というだけで驚嘆モノだ。確かに魔導師の攻撃を生身の人間が避けることは可能だが、これはもはや冗談の領域なんじゃないか、とクロノは自分の常識が信用できなくなる。
 映像の中で、月村鈴鹿は蝶舞蜂刺の如き身のこなしをしたかと思えば、閃光烈火の如き怒涛の攻めを見せる。クロノの攻撃を悉く避け、かつ何度かクロノにその一撃を届かせんばかりの攻撃を見舞う。
 ただ――――。



「動きに〝雑さ〟があるところをみると、恐らく普段は全く〝荒事〟とは無縁の生活をしているはずなんだがな……」
「うーん……本人もそう言ってるんだけどね。でも、この動きって訓練した人間じゃないと無理だと思うよ?」
「そこが腑に落ちない。とはいえ、これ以上は本人に直接聞く他はないだろう」
「それもそうだね」



 既に、モニターの中での戦闘は、中盤へと差し掛かっていた。当然、記録映像の主観者は変わらずクロノだ。
 まるで重装高火力型を体現したかのような、やや不慣れではあるが堅実なスタイルを貫く――しかし、良い師の指導を感じさせる――駆けだし魔導師の少女と、時に水のように、時に猛禽の如く緩急をつけた動きで的確に〝自分〟に食いつく一般人の少女。
 その二人を相手取り、ある程度の加減をしながら、常に二人をバインド魔法で無力化しようとしている〝自分〟という構図は、対象さえ犯罪者と入れ替えればよくある構図――――の筈だった。
 しかし初撃を交えあった時点で、己の認識が甘かった事を改めたのをクロノは思いかえす。
 既にこの時点で、念話によって他の武装隊員達には別名を与えてあった。その裏付けとして、武装隊員達の報告書にはこの時、それぞれ庭園の動力炉に向かっていたことが記録されている。無論、それまでの道のりがノーガードであったはずもなく、道中では天才魔導師たるプレシアの手によって随所にしこまれた周到極まりない〝妨害工作〟によって、隊員達に少なくない被害が出た。
 とはいえ、この時はそんな由など知るはずも無く、とにかくなんとしても目の前の二人を早急に無力化し、迅速に隊員達の援護に向かわねばならないと息巻いていた。



「(……やはり、高町なのはの熟練度が高い)」



 静かにモニターに映る戦闘を眺めながら、クロノは改めてそう分析する。
 動作一つ一つのキレ、魔法と魔法の間における行動、状況に合わせた最適な魔法の選択。
 そして、なによりも。



「目が良いね、なのはちゃん」
「ここまで来ると、もはや未来予知のレベルだな」



 映像では、クロノが高町なのはの死角に完全に回りこんでから、その背面めがけて間髪無しに直射型射撃魔法〝スティンガー・レイ〟を放ったところだった。
 しかし、高町なのはは振り向くよりも早く、背面にシールド系防御魔法〝ラウンドシールド〟を展開。それを〝完全に〟防いで見せた。
 


「ちなみにクロノ君」
「なんだ」
「〝コレ〟の威力はどのくらい?」
「…………八割だ」
「わぉ………全周囲警戒能力と、強固な盾持ちですか」



 クロノは確かに最年少指揮官と幼い身であるが、両親譲りの魔力量と、積み重ねてきた飽くなき努力、そして英才教育という言葉が子供のお遊戯レベルに感じられるような厳しい指導を受け続けてきたおかげで、管理局屈指の魔導師ランクAAA+という実力者まで上り詰めた。
 それはつまり、彼自身の魔法のスキルが決して低くない事を意味する。
 先程映像で見た直射型射撃魔法は、威力こそ低いものの、本来であれば並みの魔導師のラウンドシールドであればやすやすと〝貫通〟せしめる威力を持っている。
 無論、クロノも相手の魔力をシールドの上から魔力をそぎ取るつもりで放った―――――放ったのだが、その一撃を高町なのはは完全に防ぎきって見せたのだ。それも、不意打ちに近い形での攻撃を。
 おまけに。



「うわぁ……えっぐ」
「……エイミィ。正直に言おう。僕は彼女がフェイトよりも末恐ろしい」



 再び映像では、魔力による閃光が画面を満たしていた。
 何の事はない。攻撃を完全に防がれた事に思わず虚を突かれたクロノに、高町なのはがお得意の直射型砲撃魔法〝ディバイン・バスター〟を放ってきただけだ。
 どうにか防御魔法は間に合ったのだが、その瞬間の事を思い出して、クロノは渋面を浮かべるのを隠す事が出来ない。



「受け止めた瞬間、全身に鉛を溶接されたかのようだったぞ。あれは〝撃ち抜く〟のではなく、〝抉り抜く〟と言って良い」
「加えてとんでもない火力持ち、と――――ねぇ、クロノ君。これなんて重装高火力型移動要塞/ギガンティック・フォートレス?」
「しかもまだ魔法に触れて一ヶ月も経っていないときている。艦長でなくとも、局員なら誰もが是が非でも欲しがる人材だな」



 最近、艦長ことクロノの実母、リンディ・ハラオウン提督の口癖と言えば、「あぁ……なのはさんが欲しいわねぇ……」である。局員(特に武装隊員達)の中には、その台詞を百合な方向に受け止めて勝手に盛り上がってる輩もいるとか何とか。無論、そういう連中は例外なくクロノの実戦演習の餌食となったが。
 それはともかく、艦長ことリンディ提督は、高町なのはにご執心なのである。
 今現在、高町なのはは臨時嘱託魔導師としてアースラに所属、現地住民として協力をしてくれているが、艦長としてはなんとしてでも管理局にひっぱりこみたいらしい。
 特に、ジュエルシードの回収などで、直接現地に出向く事が多いため、なにかと高町なのはと会う機会の多いクロノに、会うたび会うたび催促のように言ってくるのだから質が悪い。
 確かに、高町なのはの才能は稀有を通り越している。
 わずか一月と経たずにこれだけの成長を見せ、なおかつ未だ発展の始まりでしかないと言う事実に、クロノは自身と彼女との隔絶した才能の差に呆れるどころか、同時に背中が寒くなるのを感じる程だ。嫉妬を覚える余地すらない。
 


「でも、ここまでなのはちゃんを仕上げたユーノ君の教育もすごいよ。特に防御系は教導隊としても通じるレベルに仕上がってる」
「奴の異名を知れば納得がいくことさ。むしろ、この程度はやってもらわないと困る」
「なに、クロノ君ってば、なんだかんだ言いながらユーノ君の事調べてたの?」
「スクライアの一族でも一等優秀だったようだからな。探せばすぐに見つかった」
「そっか。彼の素性までしか調べてなかったから、魔導師としての実力までは調査してなかったよ……ちなみに、その異名って?」
「――――〝結界魔導師〟」
「………そりゃまぁ、なんとも頼もしい」



 エイミィが苦笑するのも無理はない。
 その異名を単純に捉えるならば、結界魔法が殊更得意な魔導師となるが、より多角的に見るのであれば、〝サポート魔法のスペシャリスト〟と言い換える事が出来る。
 結界魔法とは、端的に言うならば、空間を切り取る、ないしは空間を支配する特質を持つ魔法系統の事を指す。
 世間一般で知られているイメージでは主に防御系の発展型と思われがちであるが、実際は防御系とはまた独立した、れっきとした別系統の物であり、その特質もまた異なるものだ。
 例えば、術者の指定した範囲内を時間と因果より隔絶して封鎖する〝封時結界〟や、空間封鎖による捕獲を目的とした〝捕縛結界〟等のエリアタイプ、空間に足場を形成したり、魔法陣の内部を守るための障壁を形成するフィールドタイプの二種に大別されるが、どちらも絶大な〝防御力〟を持つ。
 特に、エリアタイプの結界魔法を破壊、ないしは突破するには、魔法ランクAA以上が威力として最低条件であり、特に一撃で結界を破壊するとなればランクS相当の魔法威力を必要とする。
 故に、結界魔法は一度張られたが最後、術者が解除するか、ほぼ全力の一撃を以て粉砕しなければならないという、結界の名に恥じない防御力を持つ実に厄介極まりない魔法系統なのだ。
 例外として、術式そのものを破壊するという方法もあるが、えてして結界魔法を用いる魔導師と言うのはそう言った術式戦においても非凡な才能を持つ事が多い。
 そもそも、結界魔法そのものが認識空間及び魔法効果の範囲指定、及び結界の強度や維持地時間など実に繊細な術式構築能力を必要とし、発動するだけでも少なくない魔力も必要になることから、単身でこの系統の魔法を好んで使う者はほとんどいない。いても、それは魔導師ランクA以上、ないしはBでも魔力量に余裕がある者だけで、それ以下の者は複数人による発動を行うか、ないしはデバイスの補助に頼った、極限定的な範囲に絞ったモノになる。つまり、ただでさえ資質に左右される魔導師達ですら、誰もが簡単に扱える魔法系統ではないのだ。
 なおかつ、必然的に必要とされるスキルから、様々なサポート系統の魔法も得意な事が多いため、管理局では常に歓迎ランキング一位のポジションだったりする。
 防御の固い回復役、と言えば、そのポジションの重要さが分かると言うものだろう。



「〝結界魔導師〟なんて、その道のスペシャリストじゃない。なのはちゃん、運まで兼ね備えてるなんて、もう行くところ敵なしなんじゃない?」
「全くだ。百年に一人の天才と、魔導師数万人に一人の結界魔導師。これでさらに攻撃のスペシャリストまで加わったら、文字通りエース・オブ・エースになる日も夢じゃないな」
「というより――――――魔王?」
「………よせ、エイミィ。何故か寒気がする」
「自分で言っておいてなんだけど、ごめん、クロノ君」



 二人揃って、何故か背筋が凍るように冷たくなった。
 しかし、二人は知らない。既に高町なのはがその〝攻撃のスペシャリスト〟の指導を、簡易でありながらも受けている事を。
 しかも、その兄は、ゆくゆくは一族秘伝の技術を仕込みたいとすら思い始めていることを。
 それだけでないばかりか、一族秘伝の技術と魔法と言う未知なる技術を組み合わせた、新たなる可能性に心ときめかせている親バカがいることを。
 唯一の救いは、高町なのはの一家における女性陣が、あまり彼女の訓練に賛成的ではないことだろうか。高町なのはが魔王となるか否かは、まさに高町家の母と長女の手腕にかかっていると言っても過言ではない。
 閑話休題。
 改めてクロノとエイミィは、依然戦闘が続くモニターの映像に見入った。
 相変わらず、画面内の戦闘は激しいばかりだが、よくよく見ると、攻撃のテンポが変化している事に気づく。
 特に、それまでは高町なのはがメイン、月村すずかが不意打ちといったパターンを組んでいた二人の動きが、徐々に月村すずかの方に重点が移ってきていた。



「……この時点で気付いておくべきだったな」
「改めて見るとはっきりわかるけど。でも、戦闘中じゃ気付くのは難しいかも」
「恐らく、月村すずかの考えだな。高町なのはは、どちらかというと人を出し抜くという事が得意な方ではない」
「類は類を知る、って感じ?」
「……何が言いたい、エイミィ?」
「さて~?」



 すっとぼけるエイミィに冷たい視線を送るも、それをいつもの事とばかりに涼しげに流すエイミィであった。
 そして、モニターの中の戦闘はついに佳境を迎える。
 月村すずかの攻撃(というより、杖の奪取)が主軸となり、高町なのはの攻撃はあくまでも月村すずかのフォローに回り始めてから暫く、突然月村すずかがペースを上げる。
 柱を蹴り、高町なのはの展開する疑似足場/フローター・サークルを蹴り、獲物を狙う鷹の如く全方位からクロノに襲いかかる。
 もはや常人とは思えぬその身体能力に、画面上のクロノは面白いように揺さぶられている。
 当然だ。空も飛べぬ人間が、周囲の空間や高町なのはの展開するフローター・サークル等をフルに活用して上下左右、360度の三次元機動による高速機動戦をしかけてきたのだ。なまじ月村すずかを心のどこかで常人だと思っていたクロノにとって、その事実はあまりにも予想外すぎた。
 それに、クロノが度肝を抜かれたのは、それだけではない。



「エイミィ、そこで止めてくれ」
「え、ここ?」
「いや、もう少し前。そう、そこだ」
「ん~? ここがどうかしたの?」



 クロノの指摘したシーンは、ちょうど月村すずかの攻撃が何度目ともしれぬ失敗に終わり、エントランスの石柱に彼女が――まるで、重力を無視するかのように、柱へ垂直に――〝着地〟した場面だった。
 


「……やっぱり、おかしい」
「?? 一体どういうこと?」
「…………杖を、取られていない」
「………………はい?」



 一瞬、エイミィは目の前の少年が何を言っているのか理解できなかった。
 あるいは、あまりにもめまぐるしい戦闘だったため、記憶の細部がごっちゃになったりしたのだろうかと推測するが、目の前で腕を組み、渋面を浮かべて真剣に悩んでいるクロノの姿に、その可能性をすぐに棄却した。
 


「僕の記憶では、この時に僕は杖を取られていた」
「……え、あの、クロノ君?」
「だが、映像では、彼女は杖を持っていないし、ただ僕を〝見上げている〟だけだ」
「……えーと、お姉さんにもわかりやすいように話してくれると助かるんですけどぉ~」
「言葉通りだ。この場面、僕の記憶では〝杖を取られていた〟んだ」
「……でも、すずかちゃんは何も持ってないよ?」
「そう。そして映像の中の僕は変わらず杖を持ち続けている。それがおかしい。いいか、エイミィ。僕の記憶では彼女は僕の杖を奪っていた。だが、この映像では〝そうじゃない〟んだ」
「―――――まさか」




 クロノが何を言わんとしているか、エイミィはここにきて理解した。
 記録映像と異なる本人の記憶。その異なる記憶を、今の今まで真実と認識していたという事実。
 二つが示すのは―――――、



「〝催眠〟あるいは〝認識操作〟系の希少技能/レアスキル」
「……あぁ、間違いない。それも、とんでもなく強度の高いものだ」



 〝希少技能/レアスキル〟
 それは文字通り、身につけている者が極めて珍しい固有技能であり、今もってそのメカニズムが明らかになっていない未知の分野だ。
 超能力や先天技能とも称され、広義では古代に失われた魔法(それこそ、前述した古代ベルカ式魔法も含まれる)や、今では再現するのも困難な魔法も含まれていたりするが、意味するところは全て同じである。
 即ち、普通であれば持つことすら叶わない、希少な技能。その存在確率は、高町なのはのような天才魔導師を発見する確率に匹敵するか、あるいは上回ると言えば、その希少具合がうかがい知れるというものだろう。
 また、希少技能/レアスキル保有者には、その技能の種類によって特別扱いがされるものもあり、有名なところでは聖王教会教会騎士団のカリム・グラシアがいる。
 月村すずかの場合はそこまで希少と言うワケではないが、しかし対象に違和感を抱かせる事も無く認識誤認を起こす程となれば、特別措置を受ける資格は十分に持っていると言えよう。



「クロノ君の認識をまるまるすり替えてたなら、実はこの勝負、最初から決着付いててもおかしくないよね」
「あぁ……事が始まる前に仕掛けられていたら、その時点で僕の負けだった」



 そう、相手の認識や思考を操作する類の希少技能/レアスキルの恐ろしいところは、対象に気付かれる事無く〝洗脳〟するところにある。
 戦闘で言えば、単純に自分に向かってくる飛礫を〝視えなく〟させるだけでも十分脅威となるし、距離感を狂わせるだけでも絶大なアドバンテージとなる。
 加えて、それが相手の認識や思考を阻害、操作できる領域にまで達しているとなると、もはや相手にした時点で負けが確定すると言っても過言ではないのだ。戦闘開始直後に絶対服従するように洗脳されようものなら目も当てられない。
 そう言う意味では、この戦闘においてクロノは運が良かったのかもしれない。あるいは、月村すずかに事情があって最初から希少技能/レアスキルを使う事が出来なかったのか―――――はたまた、〝本当は使いたくなかった〟のか。



「どちらにしても、この二人はもう二度と敵には回したくない。絶対にだ」
「あはは~…………うん、確かに。これは酷い」



 そうこう言っている間にも、映像内の戦闘は進んでいき、ついに終わりへと差し掛かっていた。エイミィは、その映像とクロノの表情を見てイヤな汗と同時に乾いた笑い声を出すしかなくなってしまう。
 士官教導センターからの長い付き合いだが、ここまで顔色を悪くしたクロノを見た事があるのは片手で数えて足りる程度しかない。
 映像を見れば、そのワケにイヤが応にも納得せざるを得なかった。










――――――四月某日:時の庭園エントランス





 戦いは既に佳境を超え、先に動力炉を目指していた武装隊員達からは念話で応援要請が来ていた。
 これ以上戦いを長引かせるわけにはいかない。一刻も早く二人を無力化し、みんなの応援に向かわねば。
 だが、どうする?
 月村すずかの動きは無視できるモノではなく、しかしそれは高町なのはも変わりない。ならば、先にどちらかの動きを封じる――――いやせめて足止めをして!
 その思いが、焦りとなった。



「今だよ、なのはちゃん!!」
「おっけーっ!」



 月村すずかの掛け声に、高町なのはの元気な声が答える。
 


「しまっ―――!?」



 気付いた時には遅かった。
 回避は絶望的であり、故にクロノは咄嗟に自身が身につけている魔法の中でも最硬の防御魔法/ラウンド・シールドを、最大限の魔力を込めて即座に展開した。
 高町なのはを相手に、中途半端な防御はむしろ自滅を招く。この短時間の戦闘でそれを嫌と言うほど思い知ったが故の選択だった。
 だが、防御を選んだ――――いや、防御しか選べなかった時点で、既にクロノの未来は決まっていたのだ。



「ぐぅっ――――!!!」



 衝撃が全身を蝕む重りとなってのしかかる。
 視界全てが桃色の閃光で満たされ、その眩しさに痛みすら覚えるほどだった。
 片目を閉じ、もう片方を薄めにして、抉り削られる防御魔法/ラウンド・シールドを維持するべく更に魔力を込める。
 直撃すればただでは済まない。例え魔力が削られようと、このまま耐えきらなければ。
 どの道防御を選んだ時点で、クロノの未来は決まったようなものだった。
 確かに、高町なのはの攻撃を防御する際、中途半端な防御はするべきではない。何故なら、彼女の砲撃は生半可な防御であれば、塵紙を貫く銃弾の如く食い破ってしまうからだ。そうなれば、結果的に砲撃によるダメージ+展開した魔法分の魔力という笑えない結果が待っている。
 そう言う意味では、クロノの取った行動は実に最善であった。魔力をけちって自滅するより、通常では考えられないような魔力量を込めてでも絶対に防御する。高町なのはの攻撃を防御するのであれば、それ以上の答えはない。
 だが、既にその時点で間違いだ、とクロノは内心で自身を罵倒する。
 そも高町なのはを相手取った際、決してやってはならないことは〝防御しない〟事なのだから。
 そしてその結論は、この後の結果/経験により、より確かな真理となる。

 閃光が終わり、全身を苛んでいた自身の体重の数倍もの圧力が消える。
 耐えきったことへの安心感もそこそこに、クロノはすぐさまその場から移動しようとして―――――今度こそ、背筋を凍らせた。
 見れば、四肢全てに桃色の光輪が巻きつき、まるで何もない空間へ磔にされたかのように体が動かない。
 さながら標本図鑑の虫のように空中に磔にされたクロノは、これが高町なのはによる拘束魔法であると即座に看破した。
 しかし、それを看破したところで、自身の拘束が解かれるわけではない。おまけに、コレはいかな優秀な最年少執務官といえども即座に振りほどくのが困難な強度だ。
 油断はなかった。常に対象二人の動きには気を配り、動きを予想し、決して隙を晒したつもりはなかった。
 しかし、現実には捕まってしまっている。ほんの少しの焦りが、決着を急ぐばかりに致命的なコンマ数秒の遅れをもたらした。
 隙を突いての砲撃魔法に由る足止め。そこから気付かれる事無く高位の拘束魔法で対象の動きを完全に封じる。
 まるで無駄の見当たらない、実に教科書通りの美しい連携だ。こうも綺麗に決められては、逆に感心する他ない。
 無論、クロノは拘束された瞬間から即座に拘束魔法の特定、解析、解呪を試みるが、〝デバイスの補助なし〟に行うには、あまりにも時間がかかり過ぎる。
 いかなクロノであっても、解呪には約数秒――――最悪二桁に達する時間が必要だと判断した。
 そう思考している間にも、マルチタスクに由って拘束魔法の同定が完了――――厄介な。クロノは臍を噛みながら続けて術式解析を行う。
 よりにもよって、拘束系の中でも一等面倒極まりないレストリクトロックとは。オマケにやたらと錬度が高いのと込められた魔力量のせいで、冗談のように強固だ。
 レストリクトロックは、基本にして単純な拘束魔法の高位に位置する魔法であり、それ故に極めれば絶大な拘束力を発揮する。何より単純なのは、込めた魔力量に拘束力は比例する所だろう。
 故に、クロノは予想以上にその解呪に手間取ってしまう。そして、その〝隙〟こそが、高町なのはの最大の好機であったのだ。



「いくよ、クロノ君。これが――――――私の、全力全開!
「……ぉい待て、ちょっと待て。なんだそれは」



 思わず普段使わないような言葉遣いになってしまうほど、クロノの目の前に広がる光景はばかげていた。
 端的に言うならば――――そう、それは極小の〝星〟だ。
 それも自らが輝き光を放つ、その内に絶大なるエネルギーを内包した恒星のような、人口の〝星〟だ。
 同時にクロノは気付く。
 周囲に漂っていた残留魔力――魔法の行使で生まれたり、元々その場にあった魔力――が、次々にその星へと吸い込まれている事に。
 始まりは桃色から、次第に周囲に散らばる魔力を際限まで吸い込もうとするそれは、いつしかクロノの魔力光すらも取り込み、いっそ禍々しささえ感じさせる紫色に染まっていった。
 既に、その大きさはバカ広いエントランスホールの半分を埋め尽くし、集められた魔力のうねりが、その途方も無いエネルギーの行き場を求めて暴風と衝撃波をまき散らしている。
 柱が崩れ、瓦礫が砕け、突風がエントランスごと崩壊へと導く。
 ついに崩れた天井から、庭園の疑似天候システムに由る日光が差し込み、偽物とは思えない美しい青空が垣間見えた。
 だが、その青さすら塗りつぶす勢いで、その〝星〟は成長を続け、ついにはホールの天井を消し飛ばす。
 可能性として考慮はしていた。彼女の得意としている魔法、魔法行使後の妙な違和感、砲撃型の魔導師であるにもかかわらず、異様に無駄な魔力消費……振り返れば、わかることだったのだ。
 だが、できるはずもないと、心のどこかでその可能性を排除していた。
 まだ魔法に触れて一月も経っていない子だぞ?
 そんな子が、〝こんな芸当〟ができるなどと、一体誰が想像付く?



「――――収束、砲撃…………だと…………ッ!!!?」 



 吹きつける突風、荒れ狂い、行き場を求めてうねる魔力の渦。
 それらが内包する途方も無いエネルギーの恐ろしさを肌で感じ取ったクロノの呟きは、ほとんど掠れた音となって風に呑みこまれる。
 正直に言うならば、クロノはどこかでまだ高町なのはという人物を甘く見ていた。
 確かに錬度は素人と思えないほど桁外れ、腕も天才的で魔力量も圧倒的。油断できるような相手ではないし、するような無能でもないつもりだった。
 だが、これは自身の想像を超えていた。まさかとは思いつつも、どこかで心が〝有り得ない〟と断じていたはずだった。 
 


―――収束魔法系統。



 文字通り、ただ魔力を塊にして放出する直射魔法とは違い、周辺や自身の魔力を収束させ、従来の魔法とは隔絶した威力を誇る魔法系統のことである。
 単純に、自身の放出した魔力体(弾体となった魔力等)を再び取り込んだりすることは、それなりに経験を積めば誰でもできる。だが、こんな――――周囲にある魔力を〝無差別に掻き集める〟技術、即ち〝収束魔法〟を行えるのは、それこそ魔導師ランクSクラスでもなければ出来ない芸当だ。
 それを、高々訓練から一月にも満たない魔導師が――――それも、管理外世界のたった9歳の少女が行えるなど、一体誰が知っていよう。予測できよう。もしこれを知っていたのであれば、そいつは未来予知者の類か何かだろう。
 どちらにせよ、〝コレ〟は防御するだけ無駄だ。したところで、数秒と持たずに防御の上から〝潰される〟のは間違いない。
 呆然としつつも、拘束魔法の解除は進む。術式解析完了。解呪のための対術式構築を開始。脚部拘束捕獲輪の解除を優先。左足10%、右足4%―――――!



「すたーらいとぉおおお……………」



 風が凪へと移る。
 肌を震わす衝撃が霧散し、恐ろしいまでの静寂の中、甲高い耳鳴りのような収束音だけが耳朶を叩く。
 まるで嵐の前の静けさだ。多分、この次に待っているのは嵐など比べるべくもないものだろうが。
 クロノはマルチタスクで忙しい思考の中そんな益体も無い事を考え、そしてその間にも彼の思考は目まぐるしく戦術を組み立て上げる。

 発射までに完全解除は無理だ左足はいける右足と腕に時間がかかるな一秒いや二秒稼ぐ〝三発分〟だけ残せればそれでいい他は全て防御に回す―――――!

 間に合うかどうかはわからない。いや、間に合わせる以外に選択肢はない。

 自分は誰だ?
 時空管理局執務官クロノ・ハラオウン。
 その職務はなんだ?
 次元世界の安寧と平和を保つ事。
 ここで敗れればどうなる?
 次元震によって取り返しのつかない事態が起こり得る。

 無音詠唱防御魔法/ラウンド・シールド五重展開完了バリア・ジャケット再構築完了拘束完全解呪まで残り三秒――――――!

 彼女達が行おうとしている事を間違っているとは思わない。だが、それが失敗した時、犠牲になる存在があまりにも大きすぎるのが問題なのだ。
 悪党と思われたって構わない。彼女達の邪魔をする事になっても、自分は次元世界を守ると言う義務を全うせねばならない。
 十を救うために十を殺しかねないより、九を救って一を殺す。
 夢を見る段階は既に通り過ぎた。今はただ、より確実な手段でより多くの人を助けたい。例え彼女達に恨まれようとも、クロノ・ハラオウンは〝こんなはずじゃなかった〟悲劇を食い止めるために、全力を尽くす。
 それが、クロノ・ハラオウンの正義だから。

 左足の解呪に成功。完全解呪まで残り二秒同時に術式二重起動による―――――!

 そして、星を砕く奔流が、解き放たれる。
 
 
 
「――――――ぶれいかぁぁあぁあぁぁあああああああああ!!!!!!」



 それはまさしく、星を砕く一撃と言ってよかった。
 五重にも展開した防御魔法/ラウンド・シールドがものの一秒と持たず砕け散り、クロノはコンマ数秒、その直撃を一身に受ける。
 それは、彼の人生を振り返ってみても、筆舌に尽くす事のできない衝撃だった。
 四肢全てをもぎ取られんばかりの衝撃が全身を襲い、みるみるとバリアジャケットが破壊され、元は端整なコートだったものが冗談のような勢いで襤褸切れへと変貌していく。そして、バリアジャケットがみすぼらしくなるのと比例して、全身から魔力と言う魔力がごっそり持っていかれるのを感じた。
 魔導師の生命線、魔力の源泉たるリンカーコアから形容しがたい痛みが走る。それが、リンカーコアが全身から削られゆく魔力を補填しようと異常なまでの活動を始めた弊害であるとわかったのは、突入作戦が終わってから受けた精密検査の時だった。
 とにかく、まるで大洪水の鉄砲水に晒されたかのような状態の中を抜けだせたのは、ひとえにクロノの歳の割りに豊富な経験のおかげだった。
 相手の攻撃を防御しながら、裏へと回り込む。やった事と言えば、それだけだ。ただこの時は、その攻撃が信じられないほど大規模なモノで、ついぞ忘れていた〝我武者羅〟な状態だったというだけだ。
 予想以上に魔力をごっそりもっていかれながらも、クロノは拘束魔法/レストリクトロックの解呪と同時に、事前に準備しておいた二つの魔法の内一つ、高速移動魔法/フラッシュ・ムーブを発動。高町なのはの一撃から即座に身を外し、その勢いのまま彼女の側面へと回り込む。



「なのはちゃ――――!」



 そのクロノの動きを追う事が出来ていた月村すずかの動体視力は、やはり驚嘆すべきものがあったと言える。
 だが、彼女の警告が届くより早く、クロノの反撃の一撃が高町なのはの脇腹へと突き刺さった。



「あ――――!?」
「―――…ァシュ・インパクトッッッ!!」



 トリガーボイスを完全に発音できない。しかし、魔法は確実に発動し、高町なのはの脇腹へと直撃した。
 だが、浅い。
 大威力の魔法を行使した後であるにも関わらず、インパクトの瞬間、高町なのはが打撃面のバリアジャケットを瞬間的に強化したからだ。
 故に、直撃したはずのソレは、しかしクロノの予想通りのダメージに終わる。
 高速移動魔法/フラッシュ・ムーブからの高速度を利用し、拳に乗せた圧縮魔力を直接叩きつける打撃魔法/フラッシュ・インパクトは、その単純さ故に直撃すれば相当の威力を誇る。
 その威力はスピードと圧縮魔力の密度に比例し、今この時クロノが放ったのは、並みの魔導師であれば即座に昏倒しかねないレベルのものだった。しかし、高町なのははそれをバリアジャケットの破損だけで済ませている。
 わかってはいたことだが、あまりにも出鱈目な反応速度とバリアジャケットの強度に、クロノは内心で乾いた笑みを浮かべるしかない。
 その思考とは切り離された現実時間の中、クロノは打撃魔法/フラッシュ・インパクトの直後からさらに術式を起動。高町なのはのバリアジャケットを撃ち抜いた右手を、そのまま高町なのはの体に密着させる。
 
―――バリアジャケットの固有振動数を解析。特定。術式に組み込み発動!

 打撃魔法/フラッシュ・インパクトの衝撃で、まだ高町なのはが体勢を立て直せていない今がチャンスだった。対策を取る前に、畳みかける!
 


「―――ブレイクゥッ!」
「――――じゃ、けっと!」
「―――――――――インパルスッッ!!!」



 クロノの攻撃の前に、高町なのはが欠損した部分のバリアジャケットを再構築する。
 しかし、それに構うことなくクロノはトリガー・ヴォイスを唱え、右手に溜めていたエネルギーを放出。
 一瞬、高町なのはの体が激しく痙攣し、各所のバリアジャケットが弾け飛ぶ。同時に、声にならない呻き声を漏らすと、高町なのははそのまま全身から脱力して気絶した。
 クロノはそれを確認しながらも、間髪を逃さず魔法を発動。こちらに迫っていた月村すずかを、一定空間に侵入した者を捕獲する遅延反応式捕獲魔法/ディレイド・バインドで捕獲する。ちょうど魔法三回分の魔力。中々に、ギリギリだった。



「くっ――――!」
「無駄だ。魔力を持たない君では、力尽くでも解除できない。君達の負けだよ」
「―――――そう、みたいですね」
「モノわかりが良くて助かる。ひとまず、下に降ろそう」
「はい」



 潔く、自分達の負けを認めてくれたのは、クロノにとって実に有難かった。
 これが高町なのはであったならば、もう一悶着が起きていたことだろう。そう考えると、思わず溜息が洩れてしまう。
 もはや原形をとどめていないエントランスの中でも、比較的マシな場所に高町なのはを寝かし、月村すずかの拘束を解く。
 本当であれば、このまますぐにでも隊員達の救援に向かわねばならないのだが、出来るならば少しだけ、ほんの一分でもいいから休みたかった。
 


「あの、これ……」
「ん、すまない」


 
 先程の収束魔法の煽りで飛んできた飛礫がぶつかったのか、切れた額から流れた血が、目に入る。
 驚きながらもそれを拭うと、横からそっと、菫色のハンカチを差し出された。
 見れば、申し訳なさそうに月村すずかがハンカチを差し出しており、同時に心配そうにへたり込んだクロノの顔を覗き込んでいる。
 断る理由も無かったので、クロノはそれを有難く受け取り、鬱陶しく感じ始めていた出血を拭う。
 額の血を拭いながら、どこか呑気な感じに寝こけている――正しくは気絶しているのだが――高町なのはを見て、クロノは何とも言えない気持ちになって、思わず笑ってしまった。
 あちこちに空いた隙間から、疑似天候システムによる穏やかな風が吹き抜けていく。
 それはまるで、吹き荒れていた嵐の終わりを告げる、音無き調べのようであった。










 戦闘記録の映像が終わり、クロノとエイミィは揃って溜息を吐いた。
 片方は蘇る悪夢を振り払うために。もう片方は、今見た戦闘の出鱈目さ故に。



「……ねぇ、クロノ君」
「なんだ」
「よく、生きてたね」
「自分でも不思議に思うよ」



 まず最初の感想がそんなものであるあたり、エイミィの受けた衝撃の大きさは相当なものである事が窺い知れる。
 それはクロノも同じで、改めてよくあの攻撃を受けて無事だったな、と己を自画自賛せずにはいられなかった。
 


「なのはちゃんのあの魔法、直撃を耐えきれるような人がいるとはとても思えないんだけど」
「艦長なら、もしかするかも知れんがな……あとは、グレアム提督とか」
「どっちも規格外の人間の話じゃないの。そうじゃなくて、普通の魔導師の話だよ」
「そんなの議論するまでも無いだろう。後であの魔法の推定魔力値を見て見ろ。考えるだけ馬鹿馬鹿しくなる」
「まぁ、AAAランク以上の魔導師二人分の魔力の塊みたいなもんだもんね……」
「挙句巨大一式収束円環と四式加速円環のコラボレーションだ。その内本当に星を砕きかねないな」
「〝打ち毀す星の光/スターライトブレイカー〟とは、よく名付けたものだねぇ……もうこれ、なのはちゃんがラスボスでよかったんじゃないかな」



 未だに二人の脳裏には、あの形容しがたいトンデモ魔法の映像がリピートされている。特にクロノは、防御間際まで自身に迫り来ていた、あの光の奔流がフラッシュバックしており、よくよく見れば、マグカップを持つ手が小さく震えているのがわかっただろう。
 幸い、エイミィがその様子に気付いた様子はなく、クロノは取り繕うようにわざとらしくマグを仰ぐと、無理矢理話題を変えに行った。



「しかし、マリーには感謝しないといけないな」
「あぁ、出港前にS2Uの調整ついでにくれた、〝試製緊急用魔力補填莢機構/プロト・カートリッジ・システム〟の事?」
「おかげでその後の戦闘を切り抜けられたからな。試作品とは言え、今後ああいうのが採用されれば、現場での心配も減る」
「うーん……どうだろう」



 戦闘記録の後、つまり別動隊に合流する前に、クロノは失った魔力を補充するためにとある〝試作品〟を使用した。
 
 〝試製:緊急用魔力補填莢機構/プロト・カートリッジ・システム〟

 特定の容器に魔力を圧縮して充填し、必要時にそれを解放する事で失った魔力を補填する。
 そういったコンセプトのもとに開発されたその技術は、しかしその危険性や安全性の問題から、まだ実用化には至っていない物だった。
 大きさはせいぜい煙草一箱分でありながら、使用可能な回数は一度のみ。しかも、安全面など諸々の理由から回復できる量はよくてせいぜい10%程度。
 だが、管理局技術部謹製の試作品であり、未だ実用化の目処すら立っていない物だったにも関わらずクロノが躊躇いも無くソレを用いたのは、それだけ状況が切迫していたと言う事に他ならない。
 ただ、やはり問題点は多い。
 なによりも、それを使用する事によって、対象にどんな影響があるか完全に把握できていないのだ。最悪なパターンでは、魔力の制御に失敗して手足が吹き飛んだ、等と言うグロテスクな話もある。無論、そう言うのは違法な代物の所為ではあるのだが、危険な事には変わりはない。
 懐から取り出した、魔力の感じられないソレを矯めつ眇めつ、クロノは感慨深そうに呟いた。



「暴発の危険さえなくなれば、すぐにでも採用してもいいと思うんだがな……」
「今後採用されるかどうかは微妙なところじゃないかな。ベルカ式のカートリッジ・システムを参考にしているとはいえ、今じゃ失われた技術だからね。再現するだけでも大変だよ」
「逆に言えば、よくここまで再現できたとも言える。マリーにお土産を買わないといけないな」
「あらま、意外と気配り屋さんです事」
「茶化すな」



 クロノの手にあるその試作品は、管理局本部を出港する前、とある知り合いの技術部局員より渡されたものだ。
 前々より、戦闘中の魔力切れが心配であったクロノのために、彼女―――マリエル・アテンザが開発中だった試作品を託してくれたのである。
 とはいえ、まだ正式な認可の下りてない品であり、使用許可こそ得たものの造った本人ですら安全性に問題があると念を押していた事もあり、クロノはそれこそ最後の手段としてこれまで温存してきていた。
 もしこれが実用化されれば、今まで魔力切れや決定的な威力不足に悩んでいた魔導師達全員の希望ともなる。
 本部に戻ったら、出来得る限り力になるとしよう。クロノは、心の中で静かに決意した。



「ともあれ、未回収のジュエルシードも残り四つ。あと少しでこの事件も完全に収束だね」
「……完全とは、言い難いがな」
「やっぱり、気にしてる?」
「当然だ。もっと早く事態を把握できていれば、ここまで事態を深刻化させずに済んだだろう」
「この言葉は嫌いだけど、でも敢えて言うよ。今回は仕方なかった。私達が、事態を把握するのが遅すぎたから」
「……わかってる……ッ」



 不器用だなぁ、相変わらず。エイミィは、内心腸が煮え繰り返っているであろう小さな弟分の様子に、苦笑を洩らすしかない。
 次元輸送船の事故より今回の事件が始まっていた事を考えると、エイミィらアースラ組は、あまりにもスタートから出遅れていた。
 しかも、遡ればさらに十年以上の歳月が必要となるほど、今回の事件には根深い禍根がある。少なくとも、あの天才魔導師であるプレシア・テスタロッサの動向に、全ての始まりの事件以降から気を配っている人物でもなければ、今回の事件に最初から気付く事は出来なかっただろう。
 そう言う意味では、ユーノ・スクライアの行動は違法ギリギリではあったものの、エイミィ的には不幸中の幸いに思えてならなかった。
 もしユーノ・スクライアの存在がなければ、最悪この世界は次元の狭間に消えてしまっていたかもしれないのだ。そういう意味もあって、ユーノ・スクライアの〝おイタ〟はなんとかお咎めなしに終わったのだが。
 結果的に、今回の事件は首謀者が行方不明となったことで幕を閉じる事になるだろう。
 それがクロノにとって満足できる結果であろうとなかろうと、一つの次元世界の崩壊を救った事には変わりはない。それは、手放しでほめられて良いことだと、エイミィは思う。
 だが、例えどんな事件を解決しても、もっと良い結末があったのでは、もっと良い解決方法があったのではと悩むのがクロノ・ハラオウンという少年である事も、エイミィは知っている。
 そうなると、もうエイミィからは何も言えなくなってしまう。
 その答えを見つけるのはクロノ・ハラオウンその人自身でなければならず、自分にできるのはその手助け程度であることをわきまえているからだ。
 言葉では納得していると言いつつも、一人静かに苦悩する少年を見守るエイミィは、常に心の中で彼を応援する。
〝正義の味方になる〟と息巻いていたあの少年が、その重圧に押しつぶされないように。



「ほらほら、堕ち込むにはまだ早いぞクロノ君。まだ事件は全部解決してないんだからね!」
「……わかってる。昨夜もう一つのジュエルシードの反応を見つけたはずだが、どうなっている?」
「もっち解析済みよ♪ ただ、なーんか妙なんだよねぇ……」
「何がだ?」
「何日か前にも同じ反応をキャッチしたんだけど、どーやら〝移動〟してるみたいなのよ」
「……起動状態なのか?」
「ううん。基準値を超える反応じゃないから、まだ待機状態の筈」
「となると、動物かなにかに運ばれていると考えるべきか」
「それが順当だね。もしかしたら、なのはちゃん以外の現地魔導師かもしれないけど……」
「……例の正体不明な魔力反応だったか。それも合わせて調査できればいいが」
「残念ながら、今のうち/アースラにそんな人的余裕はないんだよねぇ、これが」
「……まぁ、地道にやるしかないだろう」
「つまりは、いつも通りって事で」
「そう言う事だな」



 管理外世界に散布された古代遺失物/ロストロギアも、全21個の内6つが失われたが、それでも残る15個の内11個が集まった。まだ見つかっていないモノも、そう遠くないうちに全て回収できるだろう。
 そして無事に全ての古代遺失物/ロストロギアが回収できた時――――ようやく、この長く、哀しい、だけども素敵な出会いに満ちていた事件が終わりを告げる。
 だが、不思議な事に、クロノとエイミィにはそれはただの仮初めでしかないように思えるのだった。
 まだ何か、二人には想像もつかないような大きな事件が、再び起きそうな気がする。
 その原因を考えると、なんとなく二人の脳裏に、今回の事件で活躍した怖いもの知らずな四人組の姿がよぎるのだった―――――。
















――――――――――――――――――――――――――――――
いぶりすのちんしゃたーいむ
――――――――――――――――――――――――――――――

 あと一話と言っておきながらこの様です。いぶりすです。仕様です。
 ……ほんッッッとうにもうしわけありませんッッッッどうかひらに!ひらにご容赦を!!orz


 もはや説明するまでも無い事ですが、後日談を書いていたところ、どうせなら蛇足も追加してしまえと調子に乗った結果、とてもではないが一話で投稿するには量が多くなりすぎる事になってしまい、この度分割投稿という形にあいなってしまいました。
 一応、現状では後日談③まである予定です。
 今回は、以前なくなくカットする事になったクロノとなのは&すずかの戦いのお話です。
 せっかくだから、もう色々好き放題やっちゃおうという内容になっております;;;
 
 恐らく結果については納得されない方もいらっしゃると思いますが、その弁明として以下にいくつか設定を捕捉させていただきます。
 (*注意!!:以下ネタバレとなっております。まだ本文を未読のお方はご注意くださいませ)


Q1.なのはの強さはどのくらい?
A.ドチートです。なのは様だからしょうがない。
 ……というのは冗談にしても、元々の才能に加え、半月ほど父兄姉に簡易的ながらも稽古をつけてもらったり、ほとんど勉強そっちのけでユーノに魔法を教えてもらったり自主的に訓練に励んだりしていたことが補助的な要因となって、庭園突入後はフェイトとタイマンでは互角。クロノとは今回の話の通りとなっております。
 まぁつまりはチートレベルです。ベクターキャノン打てるアヌビスみたいな。サブウェポン使いだすのはA'sからじゃないでしょうか……?((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル


Q2.すずかは結局どうなってるの?
A.〝夜の一族〟として半覚醒状態にあります。以前時彦が家庭科の時間に指を切り、その血を呑んだのを皮切りに、忍の体と入れ替わった際の吸血衝動でがきっかけで、忍のような身体能力のブーストが可能になっていました。
 具体的な背景については、第2部で明らかに……?


Q3.なんで素人のなのはにクロノがこんなに苦戦してるワケ?
A.まず、第一にクロノはすずかの〝特技〟によって、杖を奪われていると思い込んでいます。故に、後半はずっとデバイスの補助なしに戦っていました。
 第二に、すずかが予想以上に出鱈目に手強く、特に後半は杖を使わずに戦っていたため想定以上に消耗していました。
 第三に、クロノ自身、心のどこかで二人に対して手加減していたからでもあります。冷徹になりきれない真面目な熱血漢。そんなクロノ君をいぶりすは応援しています。


 以上、蛇足となりましたが捕捉説明をさせていただきました。

 次回の後日談②は、温泉旅行後の日常話で、第二部への布石や、いぶりすの趣味嗜好がダダ漏れとなる予定です。
 なるべく早く次回のお話をお届けするべく、鋭意努力いたします。今しばらくお待ちくださいませ。

 また、改めましてここまで読んで下さった読者の皆様方に多大なる謝辞を。ありがとうございます。
 それでは、本日はこの辺にて。

                ~いぶりす


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