<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[15556] 後悔と終結と光
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:96b828d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:38



 高町なのはと月村すずかの二人は、共に連れだって〝時の庭園〟のエントランスホールに立っていた。
 そこは、相変わらず大きな空間だった。
 数千年もの昔に建造されたギリシャ神殿のような造りもさることながら、随所にちりばめられた細やかな意匠、天井を支える石柱に刻まれた紋様、歩けばそれだけで甲高い音を奏でる鏡面のように磨き上げられた大理石の床。どれをとっても、世界遺産に登録されてもなんら可笑しくない。
 おそらく、普通の小学生として暮らしていたままでは、一生お目にかかる事は無かっただろう代物である事は間違いない。



「やっぱり、何回見てもすごいわね、ここは……」
「うん……ほんとうに、おとぎ話のお城だよね、ここって」
「そうね……ギリシャ神話の舞台とかにぴったり」
「ほんだくんだったら、ゲームのステージみたいとか言いそうかも」
「あはは、そうだね~」



 ゆっくり周囲を見回しながら、二人とも感嘆の溜息を隠すことなく思い思いの感想を述べる。
 窓一つない閉鎖空間であるにもかかわらず、ホールの中は淡い光で明るく包まれていた。
 見れば、壁のあちこちにランタンのようなものが設置されており、そこから焔とは違う、独特な燐光が光源となっているのがわかる。
 おそらくは、魔法技術を使ったものなのだろう、とすずかは言葉にはせずに推測した。
 なのはの使う魔法も、フェイトの使う魔法も、どちらも〝発動〟の際には淡い発光現象を見せる。おそらくは、その現象を利用した簡易なもので、ユーノ達の暮らす世界では最もポピュラーな技術なのかもしれない。
 そんな、技術者の卵としてのロジックが思考を走ったものの、すずかはすぐに頭を振って思考を切り替えた。気負い過ぎは良くないが、かといって集中しないのもまずい。
 なにせ、なのはと一緒にここにいるのは、二人にとっても、時彦達にとっても重要な意味を持つのだから。



「……フェイトちゃん達、うまくいくといいな」
「大丈夫だよ、なのはちゃん。みんな一緒にいるんだもの」
「……できれば、私も一緒に付いていきたかったけど」



 現在、時彦達はフェイトと共に姿をくらましたフェイトの母――プレシアを追っている。
 一時は心神喪失していたフェイトだったが、みんなの語りかけでどうにか正気に戻ってくれたのもあり、その案内もある御蔭でこの広大な城の中で迷う事はないだろう。
 時彦曰く『第三次フェイト幸福大作戦』と名付けられたその目的は二つ。

①:ジュエルシードの奪還。
②:フェイトとプレシアの親子関係の修復。

 前者はともかくとして、後者の達成が非常に困難である事は、なのはとすずかも言葉にせずとも理解していることだ。
 だが、それをどうにかするために今、時彦達は動いている。
 そしてなのはとすずかが今ここにいるのは、そのサポートのためだった。
 本当なら、時彦達と一緒に行動したかったのだが、その時彦に熱心なお願いをされてしまったために、ここに残る事にしたのだ。その〝お願い〟がフェイトのために繋がるとすれば、なおさら断るわけにはいかなかった。



「うん……私も。でも、アリサちゃんと本田君ならきっと大丈夫。特に、本田君ってば時々すごいことしちゃうから、案外あっさりとどうにかしちゃうんじゃないかな」
「にゃはは、すずかちゃんの時すごかったもんねぇ。わたしびっくりしちゃった」
「その節は大変お世話になりまして……」
「いえいえこちらこそー♪」



 呑気な会話が弾むが、二人に課せられた〝任務〟は、結構ハードなものだったりする。
 ずばり、そろそろ踏み込んでくるであろう管理局の足止めだ。
 正確には、時彦がプレシアからジュエルシードを奪い返すその瞬間まで。ジュエルシードを奪い返せさえすれば、ソレをネタに管理局に交渉を持ちかける腹積もりらしい。
 ……最初、アリサがその話を聞いて〝それじゃまるっきり犯罪者じゃないのよ!〟と目を吊り上げて大激怒していたのだが、時彦の〝今までさんざんぱら危ない目に遭ってんだから、このぐらいの役得いいだろうが〟という屁理屈でやり込められてしまったのは秘密である。
 そのためにと、時彦はなのはの持っていたジュエルシードも預かって行ったのだが―――どうしても、すずかにはその行動が気にかかって仕方なかった。
 プレシアに対する交換条件に用いるというのはあり得ない。それは第一の目的と矛盾するからだ。わざわざジュエルシードを取り戻すためにジュエルシードを渡すなど本末転倒ものだし、フェイトとプレシアの仲を修復するためにジュエルシードを使う事に対しても同じことが言える。
 では、一体何のために……?
 ジュエルシードを使って、一体何をするつもりだと言うのだろう……?
 


「すずかちゃん、どうしたの?」
「え、あ、ごめんなさい。ちょっと考えごとしてただけだよ。大丈夫」
「そっか……なんだか、すごく難しそうな顔をしてたよ?」
「ちょっと気になる事があって」
「きになること?」



 きょとんと、杖を両手で腰のところに持ち、かくんと上半身ごと傾けながら問いかけるなのは。その仕草が妙に小動物っぽくて、すずかは微笑ましいやら可愛いやら、思わず笑みを浮かべながら答えた。


 
「――――本田君、なのはちゃんからジュエルシード預かって持って行ったじゃない? アレ、何に使うのかなぁ、って……」
「あ~……たしかに。ほんだくんは〝目的のためにどうしても必要なんだ!〟~って、すごい真剣だったけど、何に使うのかなぁ?」
「危ない事じゃないと良いんだけれど……」
「ほんだくんだもんねぇ~……きっとあぶないことしちゃうんだろうなぁ~」
「でも、アリサちゃんもいるし、なによりユーノ君とフェイトちゃんもいるから大丈夫よね、うん」
「うぅ……今さらながらに、ほんだくんにジュエルシードを渡してしまった事を深く後悔してます……」
「あ、ち、違うよなのはちゃん! 別に、なのはちゃんの事を責めてるんじゃなくて!」
「ううん、だいじょうぶ、わかってるよすずかちゃん。それに、すずかちゃんの言うように、すとっぱー役のアリサちゃんにくわえて、ユーノ君とフェイトちゃんもいるもん。何かあっても、三人がいればきっと大丈夫だとおもうの」



 なのはの言うとおりだった。
 仮に何か問題があったとしても、相棒役のアリサに、優秀な魔導師である二人がついているのだから、きっと大丈夫だろう。
 特に、ユーノはアースラで受けた処置(?)の御蔭で、ベストコンディションに近い魔力が回復してきているとも聞いている。余程の事が無い限り、ジュエルシードが関わる問題は大丈夫だろう。
 異変が現れたのは、ちょうどそんな結論を出して二人で笑いあってた時だった。
 大きな光の円陣が虚空から現れ、大理石の床を綺麗な燐光で彩る。
 それは周囲にある魔法のランタンの光にそっくりで、考えるまでもなく、その円陣が魔法によるものであることがわかった。



「……来た」
「無理はしないでね、なのはちゃん」
「うん……すずかちゃんも、気をつけて」



 円陣は一つだけではない。二つ、三つと増えたところで、さらに最も手前に一つ―――ただし、これは人一人分程度の小さなものだ―――が現れた。
 そして、円陣が一際眩く光ったかと思うと、瞬きする間に、そこには特徴的な衣装に身を包んだ人達が立っていた。
 時空管理局が本局次元航行部所属、次元航行艦〝アースラ〟専属魔導師部隊。
 総勢三十名近くにも昇る魔導師が姿を見せ、最後の円陣からは、なのはとすずかの両名が良く知る人物が姿を現す。



「――――探したぞ、高町なのは。月村すずか」



 指先まで覆う金属グローブに、棘付き肩パットの黒装束。
 時彦の弁を借りれば〝立派な厨二病患者〟と不名誉な呼ばれ方をされた格好だが、それを身に纏う少年の眼光の鋭さは到底茶化せるようなものではない。
 クロノ・ハラオウン執務官。
 若干14歳にて最年少執務官となった、異世界のエリート少年は、その手に携えた杖を大理石の床に突き立てながら、心底呆れたように嘆息して見せた。



「とりあえず、君達に言いたい事はたっぷりとあるが……他の人達はどうした?」
「えと、クロノ君。あのね、その、実はお話と言うかお願いと言うか――――ちょっと、事情があるの。聞いてもらえるかな?」
「悪いが、そんな時間は無い。プレシア・テスタロッサの身柄を一刻も早く確保しなければならないんだ。だから――――」
「お願い、話を聞いて、クロノくん!」



 頑なに事務的な態度で一歩を踏み出そうとしたクロノの足が止まった。
 そして、顔を挙げて、彼女を、彼女達を見て。
 


――――息を、呑んだ。 



「……どういう、つもりだ? いくら君達が相手でも、これ以上は公務執行妨害と見なすぞ?」
「わかってる。これはクロノくんのお仕事で、わたしがしようとしているのはイケナイことだって、ちゃんとわかってるの」



 クロノ・ハラオウンの執務官時代は、まだ数年の短いモノではあるが、その密度は他の執務官/ベテランに負けず劣らず、非常に濃密なものであったと自負できる。
 チャチな違法魔導師から極悪次元犯罪者まで、程度の差は関係なく彼自身が解決してきた事件、出会ってきた人々、それら全てをひっくるめたこれまでの人生―――どれもこれもが忘れることの難しい、クロノ・ハラオウンを形作る経験の全てだ。
 その数多の経験が、濃密な過去が、無意識のうちにクロノへと語りかける。


――――今、自分の目の前に立つ――――いや、立ちはだかる少女二人の双眸は、決して〝巫山戯て〟などいない、と。


 だから足をとめた。
 だから顔を上げた。
 だから耳を傾けた。
 決して気まぐれなどではない。そうせざるを得なかったから。
 そして、希代の最年少執務官に対し、白い天才魔法少女と夜の一族の姫が、語りかける。



「でも、お願い。少しだけでいいの。フェイトちゃんが幸せになるために、わたしの大切なおともだちがお母さんと仲直りできるまで! それまででいいの!」
「私からもお願いします。少しの間で良いんです。――――どうか、ここでお待ち頂けませんか?」



 そう言って、白と菫の少女が揃って頭を下げた。
 広間に、戸惑いと逡巡を孕んだ沈黙が広がって行く。
 魔導師部隊の面々は、突如始まった少女達の懇願をどう受け止めていいかわからなかった。
 無理もない。彼らからしてみれば、いざ勇みこんで敵の本拠地へと足を踏み入れたはいいモノの、そこには既に彼らが保護するべき少女達の姿があり、しかもその少女達から、いきなり〝ここで待ってて欲しい〟と、彼らにとっての敵――すなわち犯罪者の肩を持つような事を言われたのだ。
 隊員の中には、少女達が洗脳されているのではないか、と当て推量をする者までいた。もしそれが事実であれば、彼女達の〝懇願〟は明確な時間稼ぎであるのは言うに及ばず、自分達を一網打尽にする相手の罠の可能性が高くなる。最悪の場合、部隊の全滅すらありえるのだ。警戒しない方がおかしい。
 故に、部隊の面々が揃って先頭に立つ少年――――この場における部隊責任者を任された最年少の執務官を見やるのは、当然の帰結と言えた。最終的に彼の判断で流れが決まる以上、彼がどんな答えを選ぶのか、誰もが気を揉みながら待つ。
 ただ、その沈黙も長くは続かなかった。
 そんな風に周囲から指示を求める視線を投げかけられたクロノは、毅然とした態度で、そして静かにはっきりと答えた。
 


「――――――断る」



 それは単純で力強く、そして鋼のような意志を宿した断固たる答えだった。
 悩むことではない。悩んではいけない。それゆえの実直な答えだった。
 クロノ・ハラオウンだけではない。その彼の背後に立つ局員達全員にとって、今自分達が為すべき事は〝次元犯罪者:プレシア・テスタロッサ、及びフェイト・テスタロッサの身柄確保〟である。
 特に、この件は次元震による次元崩壊の可能性を大きく孕んでいる。次元崩壊はそのまま高町なのは達の住む世界が崩壊する事に直結し、同時にそれは管理局における犯罪規模として最上級に位置するものだ。
 だからこそ、クロノは一分一秒でも早くプレシアの身柄を確保し、彼女達―――高町なのはとその友人達の世界を守りたいと考えている。


――――だが、彼の持論通り、世界とは何故こうも〝いつもこんなはずじゃなかった〟事ばかりが起こるのだろう。


 あろうことか、皮肉にもその守りたい対象であるはずの少女達は今、自分達の前に立ち塞がっているのだ。
 ただでさえ危険な事件に現地住民であるなのは達を巻き込んでしまい心苦しいと言うのに、更に最後の詰めの段階で、突如保護対象であるはずの少女達に立ち塞がられたクロノは、内心どこに向ければいいのかわからない、荒れ狂う嵐のような苛立ちに奥歯を噛みしめる。

 だが、クロノ・ハラオウンという少年は、良く言えば職務に忠実で、悪く言えば不器用な人間だった。

 彼の中に存在する〝二人の主張を呑みたい〟という考えは、なのは達の姿を見たときから存在していた。
 だが、彼はその〝私情〟をグッと奥歯を噛みしめて抑え込んだ。抑え込んで、その事はおくびにも出さずに、毅然と少女達の願いを拒絶した。
 何故なら、彼にはその〝私情〟以上に、〝高町なのは達の住む世界を救いたい〟という強い思いがあったからだ。


――――だから、こちらは何があっても引く気はない。


 言外にその意味を載せて紡がれた言葉は、だからこそ確りと二人の少女へと届いた。
 優しく不器用な、幼い身で世界を救おうとする黒ずくめの少年の心は、その真意を一切違えることなく、二人の少女の元へと届いたのだった。
 そしてそれは、奇しくもなのはの望む〝話し合い〟として、〝最高〟ではなくとも、〝最上〟の結果と言える。
 不思議なものだった。
 世界には千を超え万ですら足りない言葉でも、互いの心を通わせることが出来ずにいる事の方が多いと言うのに。今この場では、十も半ばに満たない少年と、十にすら満たない二人の少女は、たった数度の言葉の遣り取りで互いの心を理解したのだ。
 故に惜しまれる。
 互いに互いの心がわかりあえたと言うのに、立場の違い故にぶつかり合わなければならない運命が。そしてなにより、どちらも誰かのためにという同じ未来へのベクトルを向いていながら、合わさることのできないもどかしさが。
 クロノの鋭い眼差しを受けて、なのはもすずかもこの先どんな未来が待ちうけるのか理解したのだろう。
 なのはは相棒の魔導具/デバイスを胸に抱き寄せ、今にも泣きそうな表情をクロノに見えないように伏せた。
 その隣に立つすずかは、形容できない沈痛な面持ちのまま、そっとなのはの傍らへと立つ。
 二人の行動は決して機敏なものではなく、むしろ緩慢で、ゆっくりしたものだった。
 それを受けて、クロノも自身の魔導具/デバイスを構える。構えながら、ほんの僅かに、その顔を顰めた。
 図らずも、二人の少女の顔を曇らせてしまった事に。こんな、お互いに望まない結果に導いてしまった自身の力無さに。そして何より、いつでもどこでも誰にでも襲い来る〝こんなはずではなかった現実〟への苛立ちが零れてしまったがために。
 クロノの動きに釣られて、その背後にいた魔導師達全員もまた、一様に杖を構えなおす。
 それが呼び水となって、それまで俯いていたなのはと、傍らに立っていたすずかの両名が、顔を上げた。



「ほんとは、こんなのイヤだけど……でも、わたしはやっぱり、フェイトちゃんに幸せになってほしい! だから、とめるよ! 全力全開で、絶対にクロノくんを止めるよ!」
「本当は、話し合いだけで終われば一番良かった。でも、そうはいかないんだよね……なら、私も本田君との約束を果たします」



 二人の宣言を受けて、クロノは尚更遣り切れない思いをする。

 一体自分は何をしているのだろう。
 本来ならば、自分が向けるべき杖は彼女達ではないはずなのに。彼女達は守るべき対象のはずなのに。だというのに、自分は今、彼女達に向かって杖を向けるばかりか、彼女達に歳不相応な〝覚悟〟までさせてしまっている。



「どうしても、そこを退かないと言うんだな?」
「ごめんなさい、クロノ君」
「でも、これが、わたしと、わたしたちのだした答えだから」



 だが――――だからこそ、迷うわけにはいかない。自身の〝信念〟のために、なにより彼女達の〝未来/明日〟のために。そのためなら、自分はいくら謗られようと恨まれようと構わない。
 なぜならそれが、クロノ・ハラオウンの〝正義〟だからだ。 
 


「そうか――――ならば、力尽くでもそこを退いてもらう!!」



 水色の閃光が、突風と共に弾けた。




 





                           俺はすずかちゃんが好きだ!










 数ある喧嘩の中でも、親子喧嘩に赤の他人が割って入ることほど、割にあわないモノは無い。
 俺はそれを前世で身を持って経験したこともあって、今世では絶対に他人の家庭環境に首を突っ込むような真似はしないようにしよう、と心に堅く誓っていた。
 ……よもやその誓いをあっさりと破り捨てる羽目になるとは夢にも思わなかったがな。
 大体喧嘩ソレ自体が、他者が首を突っ込んで得するようなものではないのだ。往々にして首を突っ込んだが最後、余計な面倒まで抱え込んだ挙句にババを引かされる羽目になるのが常である。それが親子関係ともなれば尚更だ。そして、一時の感情の流れやくだらない偽善心から、好き好んで自分からババを引きに行くなんてとんだモノ好きもいいところだろう。
 だというのに……俺は今まさに、自分がその〝とんだモノ好き〟であることを自ら証明していた。



「……もう、貴方達に用は無いといったはずだけれど?」
「ざーんねーんでしたー! アンタになくとも、こっちにはあるんですぅー!」ベーッ



 ほとんど小学生の特権とも言って良いあっかんべーを、俺はここぞとばかりに披露する。が、それに対する反応は全力のスルー。期待通り過ぎていっそすがすがしい。
 無論、俺達と相対している〝この人〟が、そんな子供じみた(というかそのまんまだが)挑発に反応するようなお人ではないのは、よぅくわかっている。

――――プレシアという名を持つ、俺と因縁深き妙齢の魔女。

 前世でも今世でも、そのマッドサイエンティストっぷりは某ギターケースバズーカの博士に勝るとも劣らないものがあり、同時に娘を愛して過ぎてしまったあまり正道を踏み外してしまった悲難の人だ。
 きっと、その本来の性格は穏和で優しい、いっそ理想的とすら言える母親だったのだろう。不運だったのは、それに加えて天才的な頭脳を持ってしまった事にあると、俺は考える。
 なまじ頭が良過ぎたから、〝娘が死んだなら生き返らせればいいじゃない〟と頭が悪い方向に物事を持って行ったに違いない。だからと言って、もう一人の実の娘を殺しに来るのはどうかと思うのだが。今世でも前世でも〝もう一人の娘を憎む〟事に代わりがないのは、きっとこの人が持つ業というやつなのかもしれないな。
 改めて考えると、小学生が臨んでいい状況じゃねぇな、これ。苦笑いすら浮かんでこねぇよ。
 言うなれば、アーカムアサイラムの常連であるピエロさんに匹敵するような危険人物を目の前にしてるわけで……しかも、そんなアブナイ人相手に〝交渉〟を持ちかけようとしてるってんだから、自分の無鉄砲さ加減に我ながら辟易するね。本当に〝バカ〟ってのは死んでも治らんらしい。 
 おまけに、今俺達がいる場所も、そんなヤバい状況にぴったりってな具合に素敵な場所なせいで、さっきから背中に流れる冷や汗がナイアガラの滝レベルで酷い事になってる。
 一言で言えば、RPGのラスボスがいるようなステージだ。
 まるで理屈が理解できないほど広大な空間は、紫がかって薄暗く、見回せばあちこちに大黒柱と思しき巨大な石柱と、結晶体のような岩塊が空中でフヨフヨ漂っている。
 踏みしめている足場も紫がかった岩でできており、大人五人が横に並んでもまだ足りるほど幅は広い。そして、そんな岩道を彩るように、ラスボスの住まう神殿よろしく、どこぞの宗教遺跡を連想させるやたらと凝ったレリーフが印象的な石柱が立ち並んではアーチを作っている。
 まさに魔窟だ。ついでにラスボスのステージとしてこれ以上ぴったりな空間もない。
 ……おかしいな。俺、ゲームと現実の区別はきちんとつけられる良ゐ子のはずだったと思うんだけど。



「なるほど……ソレが、アンタのご執心な〝アリシア〟ってわけか」



 目の前で繰り広げられているのは、そんな二次元と区別するのが難しいほど、あまりにも非現実的な光景だった。
 いやすでに〝魔法〟なんつー非現実の極地みたいなもんを見せつけられて久しくないが、それでも俺は、改めて自分が非現実の真っ只中にいるのだと理解した。
 


「うそ…………ホントに、フェイトと瓜二つじゃない!」



 呻くようにそう言うアリサの声音は、はっきりとわかるほどショックに震えていた。
 アリサだけじゃない。その場にいた皆が――――特にフェイトが、目の前で起きている事を信じられないとばかりに目を見開いて驚いていた。
 ソレは大きな円柱の水槽だった。内部は淡く発光する蛍光イエローの液体で満たされ、どこぞの社会現象を引き起こしたアニメの操縦席を思い起こさせる。
 しかもご丁寧に、その中に漂っているのは、そのコックピットのパイロットとでも言いたげな一人の少女の姿だった。
 蛍光イエローの液体においても眩く輝く金髪。抱え込んだ膝に顔をうずめ、まるで眠りから覚めるのを待つ眠れる森の御姫様のような〝フェイト/シルフィそっくり〟の女の子。
 俺の知る限りでは、その生存を世界に認められなかった悲しい存在。フェイト/シルフィの不幸の始まり。
 そして――――フェイトの素体となった存在。


 
「まるで、今にも起きだしそうだ……」
「そうよ。この子は長い眠りについているだけ…………けど、長かったその眠りも、もうすぐ醒めるわ」



 ユーノの呟きに反応して、水槽に寄り添う魔女様は、得も言われぬ感動に包まれた様子でそのガラスの表面を撫で上げた。
 それはちょうど、水槽の中で眠る少女の頬の辺りで、まるでガラス越しにその頬を撫でようとするかのよう。だが、分厚いガラスに隔てられたその行為には、眠れる少女の無言と無機質な冷たさしか帰ってこない。 
 だからこそ、俺達は魔女の言葉に戦慄した。
 言葉だけを見れば、それはさぞかし心優しく娘想いな母親の言葉だったろう。だが、現実に俺達の耳朶を叩いて見せたのは、底冷えするような空虚さと、全身が泡立つようなおぞましさだった。
 もはや、これは執念という一言では表しきれない。
 冷たく、無機質で、まるで心をヤスリで擦られるかのような痛みさえ覚えるほど――――彼女の言葉は痛々しさに満ち満ちている。
 ……正直言うと、俺はもうこの時点でこの魔女様の説得は諦めていた。
 前世のお義母様も相当にアレな精神状態だったが、はっきりいって、今俺達の目の前にいるお方は、そんなお義母様を軽く凌駕している。残念ながら、そんな〝まともじゃない〟人間と話が出来るなどと勘違いするほど、俺は平和主義者にはなりきれない。
 だから、俺は無言のままポケットに手を突っ込んだ。
 すずかちゃんと高町との別れ際、高町の持っていた6つのジュエルシード全てが、今俺のポケットの中に入っている。
 高町には〝フェイトのためにどうしても必要だから〟と、ほとんど詐欺じみたやり込め方で借り受けたのだが、まぁそれは割愛しよう。
 勿論、借りた理由が高町に話したようなモンじゃないこたぁ言うまでもない。悪いが、これも俺の目的のためなんでな……。
 そして俺は、その六つの内から適当に一つを掴みとり、以前すずかちゃんの家でやった時のように、〝とある事〟を強く脳裏に思い描こうと――――、

 
 
「母さん!」



 して、やめた。驚いて思考を中断したせいと言えばそれまでだが、それに加えて何故か、俺は中断しなければいけないような気がしたから。
 気がつけば、俺の横を黒い風が通り過ぎていた。
 それは金髪の髪を靡かせ、黒のマントに身を包み、その手に漆黒の鎌を携える捨てられた娘/スクラップド。



「フェイト……?」



 思わずそう呼びかけてしまいながら、同時に見えたその横顔に、あの時のアイツの横顔がダブる。
 意識した時には、既に遅い。脳裏にめまぐるしくフラッシュバックが走り、抑えように抑えきれない胸の痛みが去来した。
 しかし、結果的にそれはよかったことなのかもしれない。
 元々、俺がフェイトをここに連れてきたのは、言うまでもなくフェイトに最後の悪足掻き/チャンスを与えてあげるためだった。
 ただ絶望して、諦めて、〝アイツ〟が辿った不幸な運命を辿るのが許せなかったから、無理矢理ここまで引っ張ってきた――――はずだったんだけどなぁ。
 
 シルフィは、アホでドジで世間知らずで、挙句に重度の厨二病患者という、割とガチで手の着けようがないくらい〝残念〟なヤツだった。
 だが、その一方で頭脳の明晰さと思考の回転の速さは凄まじいモノがあり、ぶっちゃけた話天才ってカテゴリーに当てはまる人間でもあった。
 天は人に二物を与えずとはよく言ったものだと思う。シルフィという少女がもし、厨二病患者でさえなければ、アイツは間違いなく周囲から認められる天才少女として一躍勇名をはせたことだろう。……まぁ、アイツから厨二病を取り除いたらぶっちゃけなんも残らん気がしないのは気のせいだと思いたい。それぐらい、シルフィという少女を形作る厨二病と言うのは、重要なアイデンティティだった。
 ただ、そんな残念系ジーニアス美少女シルフィさんであるが、これが存外精神的にもタフで、生半可な事じゃその心を折らない。
 例え実の母に捨てられても「これはボクが臨んだ家出だ!」と開き直り、自分を殺しに来たヤツが、実の母の差し金だったと知った時も「だから言っただろう? ボクはとある機関に命を狙われている、と。そんなボクに関われた事を感謝するんだな、はーっはっはっは!」と厨二節全開だったり、挙句実の母と絶縁した時なんかは「違うな、間違っているぞ! ボクがあの人に捨てられたんじゃない。ボクがあの人を捨てたんだ!」と強がって見せたり………とにかく、生半可な事じゃ、絶対に心を折らない強さを持っていた。

 ならば、それはこの世界におけるフェイト/シルフィにも言える事だ。
 例えシルフィとしての記憶が失われていたのだとしても、その本質に差異はないはずだと俺は信じている。でなきゃ、ついさっきまで廃人同然だったフェイトが、こうも覚悟に満ちた表情をしていることへの説明がつかないじゃないか。
 そうさ。コイツは俺に無理矢理引っ張られてここに来たんじゃない。
 前世で、シルフィが母の名を捨てたあの時のように、フェイトは不退転の覚悟と毅然とした目的を持って、今この場に自らの意志でやってきたんだ。
 ならば、今はまだ、俺の出る幕ではない。
 静かに一歩、後ろへ下がり、俺はフェイトの後姿を見守る事にした。
 


「どこへなりとも失せなさい、と私は言ったはずだけれど?」
「――――貴方に、どうしても伝えたい事があって、来ました」



 それは、まるで鈴が間を打ち払う瞬間のような静謐さを湛えた、それでいて力強い宣言だった。
 威圧するような返答に一瞬ビクリと体を竦ませたフェイトだったが、一度覚悟を決めたこいつはその程度でめげることはなかった。
 胸の前で両手を握りしめているのは、今にも逃げだしそうになる自分の心を抑え込んでいるのだろう。現に声は震えているし、僅かながら、その両足も震えているように見えた。
  


「私は……出来損ないで、失敗作で、母さんの望む者にはなれなくて、期待を裏切ってばかりで……いつも母さんを困らせてばかりだったと思います」



 独白を続けるフェイトの言葉を、魔女は氷のような冷たい無表情で受け止めていた。
 その胸中には、一体どんな思いが渦巻いているのだろう。



「でも、それでも、私は……プレシア・テスタロッサの娘です」



 表情通りに何も感じてないのか?
 役立たずの出来損ないに対する侮蔑か?
 あるいは、今の今になって罪悪感を覚えているのか?



「嫌われていても構いません。顔も見たくないと言われたら、どこか遠くへ行きます」



 どちらにせよ、既に〝フェイト/シルフィを捨てた〟魔女の胸中を推し量ることはできない。
 フェイトを見る目からは何も感じられず、それどころか、忘我とした視線は果たしてフェイトを捉えているのかどうかすら分からない。
 それでも、フェイトは独白を続けた。
 強く、静かに、しっかりと。
 自分の心の内をさらけ出し、胸の奥に溜め続けていた想いを少しずつ吐露する。
 


「でも、例え私が貴方にどう思われていても、私は貴方を愛しています。貴方のためなら、例えどんな時でも、どんな場所からでも、貴方の力になるために手を差し出します」



 そう言って、フェイトはゆっくりと自分の右手を前に差し出した。



「―――――だって、私が貴方を愛しているこの気持ちは、間違いなく本物だから」


 
 フェイトはそこまで言うと、一度言葉を切り、目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
 紫幻の空間に、どこか遠雷の残滓のような低く唸るような音がやけに煩く響き渡っていた。
 そして、その闇の囁きを振り払うように頭を振ると、再びゆっくりと目を開けたフェイトは、ふっ、と枝垂れ桜のような、柔和でありながらどこか物悲しい、切なさに満ちた微笑みを浮かべて言った。

 

「例え今までの記憶が全部偽物だったとしても。私が今、この瞬間抱えているこの気持ちだけは、きっと、間違いなく、本物だから。私が〝フェイト・テスタロッサ〟として抱いているこの気持ちは、紛れもない〝真実〟だから」


 
 力強くそう言い終えたフェイトの横顔に、シルフィのそれが重なって見え、俺は我知らずと息を呑んだ。
 状況が似ていた、っていうのもあるのだろう。だが何よりも、その覚悟を決めて母と対峙する姿がかつてのシルフィの姿を彷彿とさせる。
 差し出した手も。
 儚げな笑みも。
 そして、どんな事があっても、それでも母を愛しているその心も。
 ……だが、結局あの時差し出されたシルフィの手が取られる事は無かった。
 帰ってきたのは、シルフィの〝希望〟をあざ笑うかのように残酷な、絶縁の小切手と、完全に母に捨てられたと言う〝絶望〟の未来。
 だから、俺は今こんなにも胸が締め付けられているのだろう。
 この世界のシルフィが――――フェイトが、また同じ未来を迎える事になるのではないかと。それが、怖い。
 
 いや、弱気になるな。弱気になる事が、今は最もやってはいけないことだ。

 ドロドロとした不安に飲みこまれそうになるのを、俺はポケットの中のソレを強く握り締めながら耐えた。
 弱気になるな。不安になるな。疑うな。
 例え待ちうける運命が絶望の未来だったとして、〝今回〟は〝前回〟のようにはいかない。そのための手段が、〝今回〟は確かに存在する。
 ……そうさ。これはフェイトだけの戦いじゃない。俺のリベンジマッチでもあるんだ。
 気をしっかり持て、本田時彦。そして覚悟しろ、プレシア・テスタロッサ。
 


――――最後の最後に笑うのは、今度はアンタ/プレシアじゃねぇ。この俺だ。 
   
 
 
 ただまぁ、そんな風に腹の中で真っ黒な事を考えていつつも、頭の片隅ではこのままご都合主義満載なハッピーエンドに向かてくれたらどれだけいいだろう、と夢想してしまうのは止められない。
 それはフェイトの独白が終わり、絶賛天使が行列組んで大行進しているこの沈黙の時間においては、ほとんど止められない自然現象だ。
 だからこそ、世界が見せつける残酷な現実とやらに、俺は〝デスヨネー〟と辟易する。



「何を勘違いしているのかしら」
「え――――」



 氷を通り越して鉄面皮の如き無表情のまま、黒装束の魔女が吐き捨てるように呟いた一言が沈黙を引き裂いた。
 同時に、俺は心の中で頭を抱える。……〝やっぱりこうなったか〟と。



「私にとって、娘はこの世にただ一人―――アリシアだけよ」
「……母、さん」
「誰も代わりにはなれない……例え遺伝子レベルで同じ人間でも、私の娘であるアリシアは、今ここで眠るアリシアただ一人。そんな簡単な事に気付くのに、私は十何年もかかった…………」



 そこまで言って、初めて魔女は俺を見た。
 ゾクッと背筋が震えると共に、前世でのやり取りがフラッシュバックする。
 あれは確か……今見たくお義母様にシルフィの姉の事を問いただした時だったか。まさに今のやり取りのように、お義母様はシルフィを完全に否定していた。自分の娘は、シルフィの姉ただ一人だったと。
 世界が変わろうと、その人間の本質はやはり変わらないのだろうか。期待してなかった、と言えば全くのウソになるが、しかし救いも何もない残酷な事実には、少しばかり嫌気がさしてくる。
 


「最初から最後まで、私の娘はアリシアただ一人だった。―――――〝貴方なんて、私は知らないわ〟」
「母さん……」
「それに……どうやら、招かれざる客まで来てしまったようね」



 その言葉が示すように、突然前触れもなく空間の空が揺れた。
 パラパラと埃が落ちてくることから、無限に広がっているようでもきちんと天井のある場所ではあるらしい。まぁ当然と言えば当然だが、目の前に広がっている光景があまりにも非室内的だからか、妙な感動を覚えてしまう。



「管理局!? 」
「クロちー……仕事熱心なのはいいが、少しは空気読んでほしいな」



 もはや疑うまでもなく、クロちー達がやってきたらしい。まだこっちは始まってすらいないと言うのに……ぐずぐずしている場合じゃなくなってきたな。
 すずかちゃんと高町の話術には期待しているが、どれくらい時間を稼げるかまでは分からない以上、無駄に時間をかけるわけにはいかない。
 結局、フェイトの説得も意味を為さなかった。魔女様の性格を考えれば、これ以上の説得は無意味だろう。
 とくれば、やる事はもう一つしかない。
 俺はポケットの中にある〝アレ〟を握りしめ、最終手段を切りだそうと―――――、



「ねぇ、時彦。ちょっと待って」
「……なんだよアリサ。人がせっかく覚悟決めたってのに邪魔しやがって」
「少し、私に任せてくれない?」



 それまで沈黙を保っていたアリサが、冗談を挟む余地がないほど真剣な表情で俺を呼びとめた。
 そのあまりにも真面目な様子に、俺は思わず口を突いて出そうになる軽口を押し留めてしまう。こんなにも真剣なアリサを見たのは何時以来だろう。
 少なくとも、つまらない理由で俺を呼びとめたのではないことぐらいは推察できる。その内容までは窺い知れないが……それでも、俺が道を開けるには十分すぎた。



「……手短に済ませろよ。もう、何を言っても無駄だろうからな」
「わかってる。Thanks,時彦」
「ヘッ」



 いつにもましてらしくない態度に、俺はつい顔を背けた。
 ……い、いかんっ。今のは明らかにツンデレ的な行動だったんじゃないか?
 そんなのはアリサの専売特許だろうに、まさか立場が入れ替わるほど今の奴は影響力があると言うのか……恐るべし、真面目モード。
 なんて、つい自分でツンデレな反応をしてしまった事を内心で誤魔化している間にも、アリサはフェイトに並び立ち、ゆっくりと魔女様を見上げた。
 みんなの視線が、一様にアリサへと集まる。だというのに、そんなプレッシャーに負けることなく、紡がれたアリサの声音は堂々としたものだった。



「最後に一つ、お聞きしたい事があります」
「………なにかしら」
「―――――貴方は、本当にそれでいいんですかッ?」



 静かでありながら、しかし力強い言葉だった。それも、今まで俺が見た事もないような真剣な面持ちで、アリサは臆することなく魔女様へと食ってかかっている。
 相変わらずのクソ度胸と言うか、怖いもの知らずと言うか……周りからしてみれば心臓にヨロシクナイ行動である。何故か今、あちこちからお前が言うな的な声を聞いた気がするが気のせいだろう。
 下手をすれば問答無用で雷撃をぶっ放されてもおかしくないんだ。心配にならない方がどうかしてる。
 事実、今この瞬間も俺はその危険性を考えていたのだが――――予想に反して、魔女様からの反撃は無い。代わりに、酷く諦観した声音で、静かな返事が返ってきた。



「止まれないのよ。ここまできたら、もう振り返る事は許されない」
「だからって! こうやってまた、やり直せるチャンスがあるのに! それをみすみす不意にするなんて――――愚かだわッ!」
「…………私はね、いつも遅すぎるの。そして今回もまた、私は遅すぎた」
「だから諦めるんですか!? 自分の娘を生き返らせるために、こんなに頑張ってきたのに……たったこれだけの事ができないって、諦めるんですか!?」
「何度も言わせないで頂戴。私はその子の事を〝何も知らない〟わ。娘に似ているから利用した。ただ、それだけよ」
「そんなの、卑怯よ……結局、全部私達に丸投げするってことじゃない!」
「そうよ。私は、卑怯者なの。自分の娘を幸せにするためなら、なんだってする。聡い貴方なら、わかるでしょう?」



 …………何故だろう。
 アリサと魔女様、二人の会話を聞いている限り、何も可笑しいところは無い。アリサが怒るのは当然だし、魔女様のスタンスも別段今まで通りで、言っている事にぶれは一切ない。
 なのに、何故か違和感が拭えなかった。いや、違和感というより、自分の認識と相手の認識が〝ズレ〟ている時のような気持ち悪さが、胸の中でもやもやと渦を巻いてしまう。
 二人が話しているのはフェイトの事で間違いないはずなのに……どうしてか、それだけじゃないような気がした。
 だが、いくら考えても答えはわからない。そして、そのまま二人の会話は、終わりを迎えた。



「私は…………フェイトの友達ですから」
「見ていればわかるわ。貴方と、その後ろにいる子供達も。だから―――――」



 最後に聞き取れないほど小さく何かを呟いた魔女様が、ちらりとフェイトを見た。
 びくり、と肩を震わせながらも、フェイトはその視線を正面から捉える。
 しかし、それもほんの一瞬。瞬きする間に魔女様は再び顔を逸らすと、唐突に手に持っていた杖の石突で、高らかな音を奏でて地面を突いた。



「さぁ、お行きなさい。後は、私の問題よ」



 魔女様の言葉と共に、いつの間にか水槽の上に展開されていたジュエルシードが眩く発光を始めていた。
 一体、何時の間に……全く気付かなかったぞオイ!
 仕方がない。こうなったら、問答無用で実力行使だ。



「待ってくれ! その子を生き返らせるのなら、俺も手を貸す!」



 叫びながら、俺はポケットにあったジュエルシードを全てひっつかみ、握りしめたまま眼前にかざした。
 既に頭の中でイメージは出来上がっている。そのせいか、握りしめた拳の中は仄かに暖かく、そして淡い青紫の燐光が洩れていた。
 ジュエルシード。これは、人の願いを叶える石だ。
 そして叶える人の願いは、つまりイメージに強く依存する―――――はずだ。
 さらに、これは俺がジュエルシードを使ったから、という経験則によるのが大半だが、特にそのイメージには二種類が必要だと考えている。
 即ち、主観と客観の二つ。
 叶えたい願いを願う人間自信が持つ、願いへのイメージと、それが叶った状況を第三者が見た視点でのイメージ。
 例えば俺の事例を持ちだせば、月村家事件の際、あの日俺がジュエルシードに願ったのは〝すずかちゃんと忍さんの日常〟だ。
 小難しい事は考えず、ただ純粋にいつも通りのすずかちゃん達の日常を想像し、それが現実になればいいと願った。
 結果的に試みは成功したわけだが、実のところあの時、すずかちゃん自身にも自分が元の体に戻る事をイメージしてもらっていたのだ。
 仮にあの時、俺のイメージだけでジュエルシードを発動させていたら、きっと高い確率で失敗していただろう。最悪、すずかちゃんでありながらすずかちゃんではない――――以前の〝お嬢アリサ〟のような状態になっていたかもしれないのだ。
 ……つまり、ナニが言いたいかと言うとだな。



「プレシア・テスタロッサ。アンタはジュエルシード/ソレの正しい使い方がわかってるのか?」
「愚問ね。そういう貴方こそ、ジュエルシード/コレの本当の正体を知っているのかしら?」



 振り返ることなく即答して見せる魔女様。
 無論、こちらに返事を返しながらも、作業を止める事は無い。水槽の上に展開されたジュエルシードの燐光は徐々に力強さを増していき、気のせいか、周囲の空間というより、この〝世界〟全体が緩やかに揺れているような気さえしてくる。
 ……わかってるっていうなら、なおのこと今の魔女様がやっていることが腑に落ちない。



「ジュエルシード/コレの正体がなんだとかはどうでもいい! それより、ジュエルシード/ソレを使うつもりなら、客観的イメージをどうする気だ!? このままアンタの主観イメージだけで発動すれば、失敗は間違いないんだぞ!」
「…………」
「時彦、まさか君……!」
「気付いたに決まってんだろ。こちとら生で発動してんだ。どういう仕組み/カラクリなのかぐらい、直感的に理解できたよ……!」



 元々発掘したのはユーノだから、ジュエルシード/コレに関する情報を詳しく知っているのは当然だ。それは勿論、ジュエルシード/コレが造られた目的からその使い方、そして本来の用途まで知っているはずだ。
 それを俺達に教えなかったのは、その必要が無かったから。とりわけ、目的用途がとんでもないものだった場合、高町達に余計な恐怖感を植え付ける可能性もある。
 俺達に必要だったのはあくまでジュエルシード/コレの封印方法だけだ。効率よく、的確に、そして確実に。失敗することなく封印するためには、極力不安要素を排除する。
 誰かが聞けばユーノの事を腹黒野郎だとか言いそうだが、俺としては全面的にユーノの考えを支持するね。ある程度物事を理性的に捉えられる人間なら、誰だってそうする。俺だってそうする。
 だから、ユーノに非は全くないとは言わないが、あの状況下での行動は十全中九は正しい行動だったと、俺は支持できる。
 そのユーノが今、間接的に認めたのだ。


――――ジュエルシード/コレの発動には、発動者の叶えたい願いにおける主観的イメージと客観的イメージが必要なのだ、と。


 つまるところ、ジュエルシード/コレは、最低でも発動者とその発動者の願いをイメージし、観測できる存在が必要に違いないのだ。
 まさか、ここにきてそれがわからない魔女様ではあるまい。そして、自身でも公言しているが、この魔女様は目的のためならば手段を選ばず、その手段の完遂のためにはあらゆる準備をしているはずだ。
 なのに、その客観的イメージの補助手段が見つからない。あるのは一人の少女が揺蕩う水槽と、その上に縁を描くようにして配置されたジュエルシード。そして、魔女様の持つ杖のみ。
 発動者は魔女様本人として、その観測者が見当たらないんだ。こんな状態で発動させたら、ナニがどうなるかなんて予測がつかねぇってのに――――最悪、クロちー達が言っていた〝次元震による世界崩壊〟だってありえるんじゃねぇのか!?
 そんなの、絶対にさせてたまるもんかよ!



「ちょっと、時彦それどういうこと? まさかアンタ、ジュエルシード/ソレを持ちだしてきた理由って……!」
「あぁそうさ、お前の考えてる通りだよアリサ。最初っから、俺はあの魔女様の願いを――――その客観的イメージの補助をするために、ここに来たんだ」
「トキヒコ、それじゃ最初から……!?」
「勘違いするなよフェイト。確かに俺はあの魔女様の手伝いをするために来たが、ただそっくりそのまま手伝うつもりはない。俺が望むのは――――」



 神様はいつもそこにいる。
 願いを聞き届けてくれるわけでも、世界から不公平が無くなるようにするでもなく、ただ自分の造りだした箱庭で繰り広げられる世界を見て、時折悪戯的な介入をして楽しんでいる。
 なら、ほんの少しの〝気まぐれ〟で良い。ジュエルシード/コレがアンタにその〝気まぐれ〟を起こさせる事が出来るって言うんなら、せめて前世で不幸だったヤツを、こっちの世界で幸せにしてくれたっていいだろう………?
 俺は聖人君子でもなければ博愛主義者でもない。自分とその周りが大切な、極々普通の独善的な人間だ。
 すずかちゃんが大好きなのは変わらないし、ぶっちゃけ嫁にしたい。でも、それに勝るとも劣らないほど、俺にとってシルフィ/フェイトという人間は大切な存在なんだ。
 前世で約束を果たせなかった身の上であつかましいってのはわかってる。でも、せっかくもう一度チャンスを貰ったのなら、俺はなんとかしてでも果たせなかった約束を果たしたい。
 大切な人間が何人いたっていいじゃねぇか。好きな子が二人以上いたっていいじゃねぇか。その中で一人を選べっていうのなら、そん時は神様/アンタに任せるよ。
 この世界で生きて見つけたすずかちゃんを想い続けることになっても、前世の約束を果たすためにシルフィに囚われ続けることになっても、どちらを選んでも、俺は後悔しない。……盛大に残念がるとは思うけど。
 だから、奇跡を起こしてくれ。
 前世で恵まれなかった俺の大切な人のために。
 ただ、母と手を繋いで笑いあいたかったアイツのために。
 家族と幸せに過ごす、そんなささやかな願いすら叶わなかった親子のために!
 


「俺が望むのは――――――アンタ達親子が揃って幸せになることだッ!!」
「トキ、ヒコ……」
「同じ過ちは繰り返させない。せっかくここに運命を捻じ曲げる力があるんだ。ありえなかった未来を現実にすることができる裏技/チートがあるんだ。夢物語みたいな望みを持って何が悪いんだよ。自分の娘を生き返らせるっていうんなら、全員揃って幸せになるぐらいやって見せろ、プレシアさん!!」
「―――――やはり、貴方……」



 ズズンッ!
 魔女様がこちらへ振り返って小さく呟くのと同時に、遥か彼方の天井から青い光芒が突き抜けた。
 何事かと皆がそっちを見れば、瓦礫を打ち崩すようにして飛び込んできた影が一つ。
 額から決して少なくない血を流し、疲弊によるものなのか肩で息をしながら籍中の上に降り立ったのは、誰であろうエリート少年クロノ・ハラオウンだった。



「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ! プレシア・テスタロッサ、貴方を時空管理法違反の疑いで逮捕する!」
「げぇッ、クロちー!」
「彼がここにいるってことは、なのはと月村さんは……!? 無事なのか!」
 


 無骨ながらもその服装に良く似合う杖を突きつけながら、高らかにクロちーが宣言する。
 まずい、早すぎる。先程からユーノやアリサがあちこちを見回して探しているであろう高町だけでなく、すずかちゃんの姿も見当たらないことから、文字通り〝力尽く〟で突破されたのか?
 


「安心しろ。高町なのはと月村すずかはこちらで保護している。僕達の〝援護〟でかなり疲弊していたからな」
「援護……? 足止めされてたはずじゃ……」
「……やはり、アレは君の差し金だったか」
「やべっ、藪蛇った!?」
「……まぁいい。その話は後だ。それよりも、プレシア・テスタロッサ。大人しく投降してください。既にこの庭園の動力炉は魔導師部隊が制圧。次元震は艦長が直接抑えてくれています。これ以上無理にジュエルシードを発動しようとすれば、この庭園ごと次元断層の虚無空間に呑みこまれてしまう可能性も低くは無い」



 既にそこまで制圧済みとは……さすがというべきか、エリート様のやることはえげつないな。
 けど、一手遅かったな、クロちー。
 魔女様がジュエルシードを発動させる前だったならば、間違いなくチェックメイトだった。
 翻って言えば―――――もう、止まれない。



「貴方もソレは本意では―――――「わりぃ、クロちー!」―――――なに?」
「実は、俺も使っちゃったんだ、ジュエルシード/コレ」
「―――――ッなぁ!?」



 器用に両手に三つずつ、指の間に挟んだジュエルシード/ソレを、テヘペロしながら見せびらかす俺。それを見たクロちーの顔が、平静なものから徐々に引き攣っていく様は実に面白かった。
 もちろん、この隙を逃すような俺ではない。素早く魔女様へと向き直り、俺は高らかに言い放った。



「プレシアさん、アンタの邪魔はしない! ただ、俺はそこにフェイトを加えてあげたいだけなんだ!」
「ッ―――待て、本田時彦!」
「だから、手伝わせてくれ! アンタの望む幸せな世界に、フェイトも加えてやってくれ!!」



 水槽の上で発光するジュエルシードは、いよいよ輝きを強めていた。
 クロちーがやかましくこちらに何かを言っているみたいだが、今の俺の耳には馬耳東風とばかりに、入ったそばから外へと飛びぬけているため聞こえん。
 それよりも、俺はじっと黙したままの魔女様の返事を聞き洩らさないために、全神経を集中して耳を傾ける事に忙しい。
 指の間の六つのジュエルシード/ソレも、俺のイメージを汲み取っているのか、徐々に光の強さが増してきた。
 ここまできたらもう止められない。後ろに立つユーノが何も介入してこなかったのは、既に諦めていたのか――――あるいはフォローする手段をきっちり備えていたのか。恐らくは、後者だろう。
 なにせ今の状況は以前の月村家事件の時と似たり寄ったりだ。なら、その時の経験を基にしていくつか対策を用意できていてもおかしくはない。ユーノ・スクライアという少年は、それぐらい勤勉で細かいところで熱心な、実に優秀な人間だから。
 そう言う意味では、最も信頼して背中を預けられる人間、とも言える。

 そして、俺の身勝手極まりない願いを聞いた魔女様は、縹渺とした表情にうっすらと温容の色を浮かべると、



「――――――好きにしなさい」
「ッ――――――有難うございます!!」



 その言葉を聞き取ったと同時に、俺は両の拳を強く握りこんだ。
 そして、背後を振り返り、そこに思っていた通りのモノを見て、深く安心する。



「わり、ユーノ。後任せた」
「……そんなことだろうと思ったよ。帰ったら覚えてろよ、時彦」
「そう言うなよ。友達だろ?」
「随分便利な友達だ。まったく――――ヘマは絶対に許さないからね?」
「―――――任せろ!」
「くっ、まて二人とも! ソレがどういう事を意味しているのか―――――!!」



 相変わらず、向こう側からはクロちーのやかましい声が聞こえてくる。けど悪いな。颯爽と登場させておいてなんだが、お前の出番はここまでだ。エリートの勝ち組ざまーみろ!
 ……後の報復がとても怖いが今は勤めて無視。
 それよりも、イメージするんだ。
 魔女様が望む願いと、そこにほんの少しだけ加える追加要素。
 ベースは〝前世〟の記憶。シルフィの語った理想の世界を夢想したあの時の事。
 それをこの世界の人物に置き換え、ヴィジュアルを変更し、夢想するままに動かす。

 笑う少女。
 微笑む母。
 はにかむ娘。
 手を取り合う親娘。
 そして―――――三人の親娘。
 
 それは、なんてことのない、やや特殊な背景を持つ極々平凡な家族だ。
 仕事で忙しい母をフォローする、気立てのいい娘達。
 時たましか構ってあげられない事を悔みながらも、精一杯娘達に愛情を注ぐ母。
 母が、どちらか一人を切り捨てることもない。
 娘が、母と縁を断つこともない。
 妹が、姉と離別する事もない。
 母の右手と左手、それぞれを二人の姉妹が握り、穏やかで朗らかで、見るだけで心安らぐ笑顔と共に歩いている。そんな、聞けば噴き出すような、つまらなくてありふれた、でも実現する事のとても難しい家族模様。
 
 そこには義母様/魔女様がいた。
 そこにはアリシア/長女がいた。
 そこには―――――シルフィ/フェイトがいた。

 思い描いた夢が、そこにある。
 水彩絵のように儚く、判然としないイメージとしての未来が、徐々に明確な色彩と存在感を伴って光を強めていく。
 未来が近づくように。
 過去が遠ざかるように。
 そして、理想が受肉するように。
 


「やっと、約束を果たせそうだよ―――――シルフィ」


 
 視界全てを、ついに青白い閃光が覆い尽くしていく。
 目を開け続ける事が出来なくて、俺はぎゅっと目を閉じた。
 それでも瞼越しに目を焼く光が余りにも眩しくて、ついには顔を逸らしてでもその光から逃れようとする。



―――――ギュッ。



 何かが、俺の手のひらを包み込んだ。
 すべすべした心地よい肌触りは何かの布で、その布越しに伝わってくる熱は例えようがないほど暖かい。
 それでいて、包み込む力は儚く、少し拳を開けばすぐにほどけてしまいそうなほど、弱々しい。
 でもこれは、以前どこかで――――、



「――――――――――随分待ったぞ、バカ」
「…………え?」



 耳のすぐそばで囁かれた言葉を聞いた瞬間、ついに俺の意識は、あの日/月村家事件の時と同じように、光の中へと溶けていった。
 とても懐かしく、心地よく、実は、心のどこかでずっと願い続けていた、もう一度聞きたかったあの声と共に。
 ありえなかった未来が、ありえてしまった過去を凌駕する。
 その時、俺は間違いなく、嬉しさのあまり――――――泣きながら笑っていた。
 
  








































――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いぶりすのせーぞんほーこく
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 以上、俺はすずかちゃんが好きだ―過去の女襲来編―、最終話一歩手前をお送りいたしました。
 
 一ヶ月以上もお待たせしてしまい、申し訳ございませんorz
 挙句にこのクオリティではもはやどうにも言い訳できませぬ!
 どうかひらに、ひらにごようしゃを……ッ!



 本当に今回は難産でした。
 特にプレシアとの会話の辺りは都合十数回は書きなおした結果になります。
 ホントに極悪マッドサイエンティスト一直線だったり、子供の気持ちがわからないダメ母だったり、ふんぐるい・むぐるうなふとか言いかねないほどヤバい病み母だったり……結局、MOVIE1stの演出を誇大&妄想解釈した結果に落ち着きました。
 
 あと、予定していたクロちーVSなのはのガチバトルは、さすがにこれ以上お待たせするわけにはいかん、ということで全面カットすることにいたしました。
 機会があれば番外編みたいな感じで書いてみたい気はするのですが……果たしてそんな機会が来るのやら。
 
 ともあれ、このお話も残るところエピローグのみ。
 もしかしたら癪が長くなりすぎて前後編に分かれてしまうかもしれませんが、次回も更新は絶対致しますので、どうか長い目で見守りください。
 それでは、本日はこの辺にて。
 ここまでこのお話が続いたのも、ひとえに読者の皆様方のお陰です。ここまでこの冗長でまとまりのない話を読んで下さった読者の皆様へ、深く感謝を。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.025970935821533