<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[15556] 任務と先走りと覚悟
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:96b828d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/21 04:07


―――――――――――時空航行艦L級8番艦〝アースラ〟:ブリーフィングルーム



 本田時彦が、魔導師フェイト・テスタロッサによって拉致されてから二時間。
 現場に居合わせていた本田時彦の友人ら三名、即ち高町なのは、アリサ・バニングス及び月村すずかの三名と、直前に合流したユーノ・スクライア含む四名は、現在アースラ艦内のブリーフィングに集まっていた。
 腰かけているテーブルの反対側には、アースラ艦長リンディ・ハラオウンとその息子、管理局執務官クロノ・ハラオウンと補佐官のエイミィ・リミエッタの三名である。
 室内には重苦しい沈黙が垂れこめ、もしこの部屋に拉致された件の少年がいたならば、あまりもの居た堪れなさに、大火傷覚悟の寒いジョークでも言っていたことだろう。無論、この場にはいないため、そんなことも起ころうはずが無い。
 リンディとクロノの両名は、親子であるのを納得せざるをえないほど、二人揃って目を瞑って腕を組み押し黙っている。
 言うまでもなく、つい先ほどの出来事が原因だ。
 独断専行のみならず不用意な古代遺失物の発動。さらにはその発動の余波で一時的な魔法行使すら不可能になるという緊急事態。
 幸い今は魔法行使も問題なく回復しているが、万が一これが回復せず、さらには古代遺失物による影響が解かれなかった場合、迂闊な行動だった、の一言で片づけられない大問題へと発展する。
 ただ、今現在も迂闊な行動だった、と一言で片づけられない大事な事態なのだが、それはそれだ。どちらにしても、リンディとクロノからしてみれば、対面に座る少女達の身勝手な行動が危険極まりないものであった以上、子供大人の区別無しに彼女達に少なからず処断を下さねばならない。
 


「まず、皆さんが無事だった事は僥倖でした。過去には古代遺失物の発動に巻き込まれ、最悪死亡したり、あるいは生涯にわたって後遺症を抱え続ける事になった事例がある以上、皆さんは本当に運が良いと言えますわね」
「そ、そうなんですか?」
「大げさだと思わない方が良い。君達は間違いなく稀なケースだ。一般人が一度だけでなく数度にわたって古代遺失物の発動に巻き込まれながら、なんの異常もない事自体が、そもそも異常なんだからな」
「もっとわかりやすく言うなら、コップに入っていた水をひっくり返して零してしまったのに、それがまた元通りになった事が何度も起きている、と言えばわかりやすいかしら」



 うーん、と人差し指を頬に当てながら告げるリンディの言葉に、なのは達は揃って身を硬くする。
 いくら彼女達が初等教育三年目の少女達であろうと、ひっくり返したコップの中の水を、元通りにするなんて限りなく不可能である事は知っている。特に日本では〝覆水盆に返らず〟という諺があるくらいだ。
 自分達が限りなく奇跡に近い幸運によって、今こうして五体満足無事でいられるのだと理解すると、三人娘は互いに顔を合わせて苦笑する。
 ただし、なのはだけは先の諺を知らなかったのは、言うまでもない。
 


「そう言った意味では、君達はある意味特殊な体質なのかもしれないな」
「ただし、それは同時に無謀さを助長する一因ともなります。つまり、今回の皆さんの行動は軽挙に過ぎます。これまでの事件からも、皆さんは件の古代遺失物―――ジュエルシードの危険性は良くわかっていたはずです」
「はい……すみませんでした」



 はっきりとキツい口調で面責され、少女達は一様に項垂れて謝罪した。
 そして、それまで腕組みしながら瞑目していたクロノが面を挙げ、なのはの隣に座る少年へと鋭い一瞥を投げかける。



「そしてそこの使い魔。君にも今回の責任の一端はある」
「う……ごめん」
「いくら彼女達が管理局法の拘束によらない現地協力者とはいえ、君には彼女達を巻き込んだ以上、その安全を守る義務がある。少なくとも、彼女達を出来る限り危険から遠ざけるくらいはするべきだろう。これは、条約や規定云々以前に、人として当然のことだ」



 クロノの言葉に、ユーノは更に肩を落としてシュンと項垂れる。
 とある事情があって、今回の事件にユーノは全くというわけではないものの、それでもなのは達の危機に助けに入れなかったのは事実だ。それを責められても反論できないし、そもそもユーノにはそれについて反論するつもりもなかった。
 一時は発動した古代遺失物/ジュエルシードの傍で魔法が使えない事態に陥ったなのは達を助けに入れなかった事実と、なのは達がこれまでのことを鑑みても―――というより、なのはと本田時彦の二人が組み合わさった時の暴走具合を、今までの経験から十二分にわかっていたはずなのに、それを失念していた挙句に、時彦が攫われる事態にまで発展したこの度の事件における己の軽挙さを顧みて、ユーノは大きな慙愧に堪えない。
 その事情については後ほど説明するつもりでもあるが、同時に内心では今すぐにでもここからあの〝城〟へと転移して、すぐにでも時彦を助けに行きたい気持ちでいっぱいだった。
 無論、そんなことをすれば正面に座っている堅物執務官が黙っていないだろうし、おまけに魔導師ランクがAクラスを超えてニアSクラスに届くであろうフェイトを相手に、自分独りで時彦を奪還できると思えるほど、ユーノは自分を過大評価していない。
 そも、攻撃魔法がまともにつかえない自分が単身乗り込んだところで、よくて時間稼ぎ程度しかできないだろうし、おまけに未だに魔力が安定せず、十全のコンディションとは言い難い。それを考えれば、断腸の思いで今は我慢し、より確実な計画の基に、みんなと協力して時彦を助けに行くべきだろう。
 古来より遺跡探査を生業にしてきたユーノの一族で、遺跡を甘く見た上、無謀な探査を行って命を落とした人間は両手で足りないほどだ。計画無き蛮勇は失命を示唆している事を、ユーノは良く知っている。
 そんなユーノの葛藤を察したのか、或いは単純に戒めるだけであったのか。クロノは一度だけ深く嘆息すると、「ま、今回は事情があったようだし、これ以上言及はしないさ」と呆れたように言うだけで話を終わらせた。
 それから少しだけ厳しい顔を保っていたリンディは、彼女達が本当に反省しているのが見て取れたところで、突然相好を崩すと、短く手拍子を一つ。



「はい、反省しているならこの話はこれでおしまい。みなさん、今度からは気を付けてくださいね?」
「しかし艦長、さすがに何の咎めも無しでは……」
「クロノ執務官? 彼女達はあくまで現地における古代遺失物の被害者であり、好意的な協力者という立場です。管理局に所属しているわけでもありませんから、過度な問責はただの押し付けになるわよ?」
「ぐっ……ですが、本田時彦が拉致されてしまったのは、彼女達の軽はずみな行動にも原因の一端があるのは間違いありません。少なくとも、今後そういった行動を控え、事前にこちらに連絡をするといった対策を約束してもらうくらいはしなければ、彼女達が今後とも今回のような危険な事をしでかさないとは限りません」



 本人達を前にして随分な物言いではあるが、しかし正鵠を射ているだけに誰も反論できず縮こまるしかない。
 ……ただし、その大半の理由が某少年にあるのは明白であり、そしてその少年がこの場にいないことでストレスを溜める羽目になっている金髪の少女が約一名いるのだが、敢えて触れずにおこう。未来の某少年に幸あらん事を。



「そうねぇ……それじゃこうしましょう。なのはさん、アリサさん、すずかさん、そしてユーノ君」
「はい」
「今後―――と言っても、次の機会があるかどうかはわかりませんけれど、皆さんには、少なくとも古代遺失物に対して何か行動を起こす場合、極力私達に連絡するようにしてもらいましょう」
「連絡、ですか?」
「ええ。古代遺失物の扱いには最大限の注意を払わなければなりません。そんな危険なモノに近づく事がそもそも言語道断なのですけれど……皆さんは生憎、時空管理法に縛られない管理外世界の住人ですから、こちらのルールを強要する事はできません。ですから、私達からできるのは〝できるだけ、危険な物には自分から近づかないでほしい〟〝しかし、それでも近づいてしまう場合、私達に事前の連絡が欲しい〟とお願いする事しかできないのです。特に後者は、事が起きる前に対策を立てたり、万が一の事態に備えると言った意味でも、連絡一つしていただくだけでとても助かります」
「なるほど……つまり、万が一に備えて私達のバックアップをする、って感じでしょうか?」
「理解が早くて助かりますわ、アリサさん。その通り、私達は皆さんの安全を守るために、全力でバックアップすることを惜しみません。勿論、そんな事態にならない事が一番なのですけれど……」
「にゃ、にゃはは……」



 言外には、無茶な行動をして危うい状況に陥ったなのは達への棘が含まれていたが、ともあれ、なのは達はリンディの言わんとしている事をしっかりと理解していた。
 自分達が危険な出来事に巻き込まれても、事前に連絡があれば自分達がそれに対処できる。そうすれば、ある程度の危険は減らせるし、なにより危険な目に逢ったとしても、最悪の事態を避けられる可能性が高くなる。
 そう、例えば今回の事件においては、なのは達がリンディらに事前連絡をしていたならば、もしかしたら時彦の拉致は阻止できたかもしれないのだ。
 ジュエルシードの奪取は無理だったにしろ、時彦が拉致されるのを防ぐ事が出来れば、なのは達にしても当初の〝予定通り〟に事が進んだであろうことを考えれば、リンディの申し出もとい忠告は、拒否する点が何一つない。



「すみません……今度から、連絡を入れるようにします」
「はい。わかっていただければ幸いです」
「使い魔、君もだ」
「だから、僕は使い魔じゃないって言ってるだろ!」
「どっちでもいい。とにかく、君は彼女達と違ってこちら側の人間だからな。今回の事件が古代遺失物案件である以上、君には管理局が定めた規定に従ってもらう」
「わかってる。なのは達が危ない事をしそうになったら、すぐに連絡を入れるよ」
「……わかっているなら、それでいい」



 少し険悪なやりとりではあったが、それでも喧嘩しているわけではないとわかって、隣でやり取りを見ていたアリサはやれやれ、とユーノとクロノの犬猿の仲に溜息を吐き、すずかは微笑ましそうに二人を眺め、そしてなのははほっと短く溜息を吐く。
 ともあれ、リンディにしろクロノにしろ、二人は今回の件そのものに怒っているのではなく、あくまでも自ら危険な事に巻き込まれに行った、軽はずみな自分達の行動に対し怒ってくれているのだと思うと、なのはは申し訳なさと同時に嬉しくもあった。
 もしかしたら、アリサとすずか、それにユーノもその事に気付いているからこそ、リンディとクロノからの叱責を粛々と受け入れてるのかもしれない。勿論、今さらながらそれに気付いたところで何かの意味があるわけでもないが、しかし、まだ出会って二日も経っていない相手が、自分達の事を真剣に心配してくれているのだと思うと胸の奥が暖かくなった。
 特に、クロノは口を酸っぱくするように「もっと危機管理意識を持て」と言ってくれていることからも、かなり自分達を心配してくれているのだろう。



「えへへ」
「……何がおかしい、高町なのは」
「ううん、おかしくなんかないよ。ただ、クロノくんって、実はすごく優しいんだなって思って」
「なっ―――」



 にっこりと、ひまわりのように朗らかな笑みで答えるなの派の言葉に、ぼっ!と湯気が出るのではないかと言う勢いで顔を真っ赤にするクロノ。
 それを目撃したアリサが、咄嗟に口元を覆って顔を背けた理由は、微かに肩を震わせていることからお察しだろう。
 すずかはなのはの意見ににこにこと「そうだねぇ~」と同意を示し、いつものクールさが欠片も残っていないクロノがあたふたと焦っている姿に、なのはと二人で「あと照れ屋さんだ♪」と頷き合う。
 ユーノが少しばかり複雑そうな顔をしていたが、しかしすぐに嘆息しながら、使い魔呼ばわりされていた仕返しなのか「素直じゃないなぁ、クロノ執務官?」と嫌味たっぷりなお返しをする。
 そんなみんなの遣り取りを、リンディとエイミィは微笑ましそうに眺めていた。
 


「こ、こほん! とにかく、古代遺失物に関しては先程も言ったように、極力関わらない事! 仮に関わるとしても、僕達に連絡ぐらいはしてくれ。君達の助力にはなれるし、何より万が一における対処ができるからな」
「はーい」
「……本当にわかっているのか?」
「だいじょうぶだよ、クロノくん。次からはきちんとクロノくんとリンディさんにも連絡するもん」
「だといいが……」
「あの、それと本田君の事なんですけれど……」



 ともすれば能天気ともとれるなのはの返答に、しぶしぶといった様子で納得するクロノ。
 話がキリのいいところでまとまると、今度は待ちかねたようにすずかが少しだけ身を乗り出すようにして、今最も重要とされている案件を取りあげた。
 それまで穏やかだった室内に、瞬時に緊張感広まっていく。
 子供達の遣り取りをニコニコと眺めていたリンディも、すずかの言葉に幾分表情を固くすると、ゆっくりティーカップを持ちあげて一口だけすすり、ゆっくりとカップを下ろしながら口火を切った。



「そうね。皆さんへの注意はそれくらいにして、本題に入りましょう。エイミィ」
「はい、艦長」



 リンディの呼びかけに、補佐官であり、同時に卓越した情報収集能力を持つエイミィ・リミエッタが答えた。
 すぐに腰掛けていたテーブルに設えてある端末を起動すると、ブリーフィングテーブルの中央に投影されたホログラフ・モニターが浮かび上がる。
 すずかは言うに及ばず、その場にいた全員が表示されたモニターを注視した。



「なのはちゃん達の話から、本田君を攫ったのは〝フェイト・テスタロッサ〟という魔導師の少女です。本田君を拉致した彼女は、八回の短距離転移魔法/ショート・ジャンプを繰り返した後、追跡阻害魔法/トレース・ディスターバの反応を残して行方を眩ませています」



 エイミィの説明が始まると共に、その指がまるで鍵盤を奏でるように仮想キーボードの上で踊る。
 すると、中央のモニターに先程までのなのは達の状況の推移と共に、時彦が攫われてからのフェイトの逃走予測経路と、転移魔法発動地点の概念図が映し出された。
 最終的に九つ目の×印の後、経路はぱったりと途切れている。
 それらを見たリンディは、顎に手を当てながら小さく「ふむ」と呟くと、隣のクロノが眉間に皺を寄せながらエイミィに訊ねた。



「彼女のプロフィールは?」
「残念ながら、管理局の魔導師登録目録/マグス・レキシコンには登録されていません。ただ……」
「ただ?」
「彼女の血縁者、と思しき人物なら……」
「映して頂戴」



 少しだけためらうように告げるエイミィに、リンディは一切の迷いなく宣言した。
 それを受けて、エイミィはやや気が進まなさそうな表情を浮かべながらも、迅速にその言葉に答える。
 次にはモニターが切り替わり、全員に見えるように七つのモニターがそれぞれの面々に見えるように映し出され、そこには一人の女性のバストアップの写真と、長々としたプロフィールが表示された。
 


「プレシア・テスタロッサ。二六年前、某企業の中央技術開発局の第3局長に就任。しかし、記録ではその後に新型エネルギー駆動炉『ヒュードラ』の試験駆動実験で事故を起こし、それが切っ掛けで辺境へと異動。その後失踪しています」
「……事故?」
「資料が僅かで詳しい事はわかりませんが、実験中に駆動炉が臨界を超えて暴走。周囲数百メートルに渡る酸素を根こそぎエネルギー変換し、中規模次元震を発生させたそうです」
「凄まじいわね……その改良型が、現在の時空航行艦の主要駆動炉に使われている、と」
「というより、根幹はほとんどそのまま、と言って良いかもしれません。実験が失敗したのは、現場で勝手に行われた実験ステップの前倒しが直接的な原因で、被害が拡大したのは事前に設置されていたはずの安全装置が機能しなかったため、とあります。その後、プレシアは実験の事故の責任を負わされて退職。企業側はプレシアの退職後、安全装置を取り付けた、実験当時の駆動炉とほとんど変わらないものを市場に出したみたいです」
「……なるほど。利権絡みの出来レースと言うワケだ」



 エイミィの報告に一区切りがついたところで、クロノが心底胸糞悪そうに小さく呟く。
 アリサとすずかもまた、クロノのその言葉が何を意味しているのか理解したのだろう。揃って苦々しそうな表情を浮かべると、写真の女性を労わるように見つめ……気付いた。



「あ、そう言えば、この人―――!」
「昨日、お城の大きな広間にいた!」
「……なんだって?」



 アリサとすずかの脳裏にフラッシュバックするのは、盛大に鼻血を流し、尻餅をついている時彦と、それを護るように立ちはだかるフェイトの二人を、傲然と見下ろす一人の妙齢の女性。
 腰まで届く長い黒髪と、子供でもわかる程扇情的な恰好をしながら杖を持つその姿は、いっそ一国の女王と称してもなんら遜色が無い程、迫力に満ちていた。
 同時に、なのはもまたその姿を思い出すと同時に、フェイトが彼女の事をなんと呼んでいたのかも思い出す。そう、確か――――〝母さん〟と。



「フェイトちゃんの、お母さん……?」
「それは本当か?」
「え、えと、昨日フェイトちゃんのお家でちらっと見ただけなんですけど……その、フェイトちゃんが、この写真に良く似た人を〝母さん〟って呼んでるのを聞きました」
「なるほど……プレシア・テスタロッサ。魔導師ランク推定Sオーバー、か。となれば、その娘であるフェイトさんがアレ程の実力を持っている事にも十分納得がいくわね」
「……でも、それはありえないんです」
「……どういうこと、エイミィ?」



 再びエイミィがキーボードの上を踊り、モニターの画像が切り替わる。
 おそらく、それは何かの記事の切り抜きなのだろう。
 事件が起きた現場と思われる駆動炉の残骸の写真を中心に、左右に事細かな記述がなされている。
 そして、なのは達にもわかりやすいよう、地球の言語に訳された写真の隣に記されていたレポート記事を読んで、一瞬、なのはとすずかが息を呑みこんだ。
 


「プレシア・テスタロッサには、その企業に就職する前から一児の娘とペットがいました。父親とは離婚済みで、母子家庭だったようです。離婚後は、ミッドチルダからオフィス近くの街郊外に家を構えています。ですが、その家は……事故の暴走による余波の影響範囲内でした」
「……〝死亡していた被害者の中には、計画主任であるプレシア・テスタロッサの娘も含まれていた〟」
「そんなッ……」



 その身を切るような戸惑いの声は、誰のものだったか。
 それから誰もが口を噤み、衝撃的なその事実に言葉を失っていた。
 室内に重苦しい沈黙が満たされる。
 記事が示すのは一つの事実だが、それは同時に二つの真実を語っている。
 即ち、プレシア・テスタロッサの娘は既にこの世にいない事。そして、その真実に矛盾した、プレシア・テスタロッサを母と呼ぶ少女が存在する事。
 この二つの真実が一体何を示しているのか。
 エイミィの話はさらに続いた。



「娘を亡くし、企業を追われたプレシアですが、その後は数え切れないほどの医療関係及びデバイス開発関連の特許を取得しています。特に、現在のミッドチルダにおける最先端医療の根幹にある技術や、デバイス開発の技術の多くに、プレシア・テスタロッサ名義の特許が申請されていますね」
「細胞分裂促進薬に細胞全能性を利用した再生治療プロトコル、魔力伝導式疑似神経、同式神経バイパスを用いた機械義肢、デバイス回路の魔法術式高速処理プロセッサ、特定魔力反応型形状変化液体合金、エトセトラエトセトラ……」
「特許のパテント料だけで大富豪じゃないか。ミッドチルダでもこんな大金持ち、十人といないぞ」



 次々と表示される、プレシア・テスタロッサが取得したと思われる特許の数々を見て、文字通り目をむくリンディとクロノ。無論、ユーノも例外ではなく、特に医療関連の特許を見て「今使われている先端技術の大半じゃないか!」と身を乗り出す程だ。
 いまいちその凄さがわからない地球組のなのは達は、互いに目を合わせて「どういうことなんだろう?」と首をかしげて見せる。
 


「わかりやすく言えば、金鉱脈と油田の両方を持っているようなものだな」
「うげ……それって、ウチとかすずかの家どころか、FTIも目じゃない大金持ち、ってことじゃない」
「ふぇ!? そ、それってもしかしなくても、フェイトちゃんってばとってもすごくすごいお嬢様ってこと!?」
「うん……たぶん、私の家なんか及びもつかないくらいの、だね」
「それどころか、世界の金持ち御三家って言って良いわよ。下手すればそれすら上回り兼ねないんじゃない?」
「ふぇええ……」


 
 すずかが苦笑しながら捕捉し、アリサがもはや驚きを通り越して呆れ返る様を見て、なのはは絶句したかのように口をポカンと開けて驚いた。
 お嬢様という称号に違わぬ育ちである二人の友人は、なのはにとっての御金持という記号でもあった。だからこそ、なのはにとってお金持ちと言えばアリサやすずかのことなのである。
 それだというのに、二人が言うには、フェイトは自分達等話しにならないレベルと言うのだ。正直想像の埒外過ぎて想像が追いつかない。
 


「ともあれ、今までの話を総合するに、プレシア・テスタロッサがフェイト・テスタロッサの母親である事に間違いはないだろう。問題は、彼女達が何故古代遺失物/ジュエルシードを狙っているのか、ということと――――」
「本田君を二度も狙ったのか、という事ですね」
「まぁ、君達の話を聞いた限りでは、本田時彦とフェイト・テスタロッサが婚約関係であったなんていう話もあるからな」
「情報があまりにも少なすぎるわ。少なくとも、本田君本人か、プレシア・テスタロッサ本人に話を聞くでもしないと、二人の関係についてはこれ以上判断する材料がないもの」



 クロノの台詞を継いだエイミィの言葉に、アリサとすずかが揃って身を硬くしたことに、リンディは秘かに気付いていた。しかし、敢えてそれを無視して話をまとめ上げる。
 二人が何かを知っているのは間違いないが、それを差し引いて考えても、何故時彦がプレシアに狙われているのか、その具体的な理由はわからないのだ。
 なのはを含めた四人とも、時彦の口からも明確な答えを聞いたわけではないうえ、ただ「お互い、聞きたい事があるからだよ」としか聞いていない。
 唯一の手掛かりと思われる、時彦とフェイトの関係にしたって、その実時彦の口からの出まかせなのだ。つまり、フェイトを助けるための嘘。
 だが、今回はその嘘が事態をよりややこしくしている事に、揃って内心頭を抱えていた。そして、同時に四人とも同じ考えに至る。即ち――――時彦に任せよう。

 ともかく、プレシアの目的は依然として不明であり、早急にプレシアの居場所を特定してジュエルシードと本田時彦を奪還しなければならない事には変わりない。
 既にフェイトが回収したジュエルシードの数は、少なくとも5つを超えている。
 それだけあれば、中規模どころか大規模次元震を引き起こすことも難しくないだろう。たった一つで小規模な次元震を起こした代物だ。警戒に警戒を重ねても、したりないということはない。
 下手に発動されて次元震を起こされるのは、なんとしてでも避けなければならない。そして、そのためにもまずは、プレシア・テスタロッサの居場所を見つけなければならないのだが……。



「ただ、幸いだったのはユーノ君が昨日、プレシアがいた居城から地球へと転移する際に術式の一部を記憶していた事です。おかげで、ある程度潜伏先と思われる座標の絞り込みができました」
「そう。でも、まだ特定までには時間がかかりそうね……」



 そう言って頬に手を当て、困ったように思案するリンディ。クロノもまた眉間に皺を寄せた難しい顔をしており、とてもそれ以上話し掛けられる雰囲気ではない。
 だが、それでもなのはは聞かずにいられないことがあった。



「あ、あの!」
「なにかしら、なのはさん?」
「フェイトちゃんは! フェイトちゃんは、やっぱり捕まっちゃうんですか!?」



 シンプルかつストレートなその問いに、リンディとクロノは揃って難しそうな顔を以て返答した。
 なのは達の話を聞く限りでは、フェイト・テスタロッサが違法的な管理外世界での魔法行使や、遺失物捜索を行っているのには、間違いなくプレシア・テスタロッサが関係している。だが、だからと言って犯してしまった罪が許されるわけではないのだ。
 リンディ達が来る前はいざ知らずとしても、来てしまった後にフェイトが管理局法における違反行為を犯しているのは何度も確認されている以上、それを見逃すわけにはいかない。
 無論、フェイトが捕まったとして、その背景事情も考慮せずに罪を断じる事もないのだが、なのはの懸念はそう言ったベクトルの物ではないのだろう。
 なのはから見れば、フェイトはただ母親のために東奔西走してるだけの、普通の女の子に見えるのだから当り前だろう。確かに何度か危険な目に遭わされたり、互いに杖を交えた事もあったが、それとて互いの事情を知らないが故の衝突にすぎない。なのはにとっては、どれも〝ただの話し合い〟に過ぎないのだ。
 故に、フェイトが犯罪者扱いされているという現実に納得がいかない。何故少し擦れ違ってしまっただけで、フェイトがそんな目に遭わなければならないのか。
 そのルールを説明するにはあまりにも時間が足りなく、またあまりにも互いの価値観が違いすぎることに、リンディもクロノも、そしてエイミィも気付いている。
 だからこそ、なのはに返ってきたのは希望を裏切る現実的な、〝大人の〟回答だった。



「……当然、そうなるな」
「でも! フェイトちゃんはただ、お母さんに頼まれたからッ!」「君は勘違いをしているぞ、高町なのは」「――――――え?」



 その声は平坦で、特に感情のこもらぬ業務的なものだった。
 組んでいた腕を解き、ゆっくりとその面を挙げて見つめてくるクロノの双眸に、なのはは言葉を呑みこんでしまう。
 同時に悟った。言葉通り、自分が勘違いをしていたのだと言う事に。
 クロノが……リンディ達が時彦を助けようと動いているのは、間違いない。しかし、だからといって、彼らがフェイトも助けようとしているわけではないのだ。



「僕達は、時空管理局の人間だ。管理内外の世界を問わず、次元犯罪を取り締まらなければならない立場にある」
「勿論、フェイトさんの境遇を考慮した扱いは約束します。ですが、今現在彼女がやっているのは、私達から見て立派な犯罪なのです」
「特に、今回は君達の次元世界が滅びてもおかしくない、最大級の災害である次元震が引き起こされかねない事件にまで発展している。直接的であれ間接的であれ、僕達はどのみち、その関係者と思しきフェイト・テスタロッサ、及びプレシア・テスタロッサを確保しなければならない義務があるんだ。それが、僕達時空管理局の義務であり、次元世界を守るという僕達の誇りでもある」
「ぁ………ッ………!」



 僕達は、時空管理局の人間として動いている。それは慈善事業なんかじゃないんだ。
 クロノにはっきりとそう言われたなのはは、二度ほど何かを言いかけて口を噤む事を繰り返すと、ぎゅっと口元を引き結んで俯き、そのまま何も言わずに踵を返すと、脱兎の勢いでブリーフィングルームを飛び出していった。


 
「ちょっと、なのは!」
「なのはちゃん!」



 アリサとすずかが立ちあがり、なのはの走り去った扉の向こうへと身を乗り出す。
 しかし、走りだそうとした直前で二人はリンディ達を見ると、一言「すみません」とだけ謝り、そのままなのはを追って走りだした。











 少女達が慌ただしくぶり―フィーングルームを去ると、室内にはなんとも言い難い空気が漂い始める。



「……エイミィ、機動隊のみんなに伝達を。第二警戒態勢で待機。プレシア・テスタロッサの居場所が分かり次第、乗り込む」
「……了解。でも、良いの、クロノくん?」
「何がだ?」
「その、なのはちゃんのこと……本当に、フェイトちゃんを捕まえる気?」
「当り前だろう。彼女にどんな事情があれ、古代遺失物の不法収集に管理外世界の住人を拉致しているんだ。捕縛するには十分すぎる理由だ」
「まぁ、それはそうなんだけど、さ」
「煮え切らない言い方だな。言いたい事があればはっきり言ったらどうなんだ?」
「や、クロノ君がそれでいいならいいんだよ。うん。おねーさんには文句はありません」
「……まったく」



 リンディとユーノはただ静かにその二人の遣り取りを聞いていた。
 前者は何か考えがあっての事か、あるいは頭の中で事案を整理しているのか。ともあれ、リンディの動きはクロノの言葉通り、フェイトの確保というベクトルで間違いないだろう。ユーノは管理局組の人間を見ながらそう考える。
 だが、それを良しとしないから―――いや、その行動指針に納得できないからこそ、なのははああして飛び出していった
 クロノが主張に間違いはない。彼らは彼らの義務を為そうとしているだけだし、その中で最大限なのは達の言葉に耳を傾け、その期待に応えようとしている。
 もちろん、アリサとすずかは言わずもがなで、鈍臭くて少しドジっ娘だけど、実はとても賢く聡明ななのはもまた、その事に気付いているのだろう。だからこそクロノの言葉に何も言い返せず、そして言い返せなかった自分に耐えきれなかったから、ああして飛び出して行ってしまったのだろう。
 本当に優しい子だ、とユーノは嘆息すると共に憧憬にも似た思いを抱く。
 自分のような見ず知らずの人間の頼みを二つ返事で引き受けたことといい、フェイトに対する思いやりといい。逆に優し過ぎて怖くなってしまう事もある。
 ……そう、優し過ぎるのだ、なのはは。時空管理局といった〝正義の味方〟のような職業が致命的にまで似合わないと思えるほどに。
 彼女の優しさに敵味方の区別はない。ただ、自分が助けられるのであれば誰彼にと手を差し伸べ、例えその結果〝自分の身がどうなろうと〟誰かを助けられたのならそれでいい。自分の命が、他者のそれよりも圧倒的に軽いのだ。それが、ユーノは怖い。
 いつか、その優しさ故に自分の身を滅ぼすのではないのか。いや、滅ぼす程には至らなくても、それでも傷だらけの道を進んでしまうのではないのか。そんな不安が、最近ユーノの心の中で寒々しい悪寒となって巣食っている。
 きっと、なのははその事を指摘されても、「へいきだよ、ユーノくん!」と笑うのだろう。どれだけ自分が傷ついても、どれだけ自分が犠牲になっても、ただ相手を助けられればいい。そんななのはの思いの強さを、ユーノはここ数週間でこれでもかと思い知らされたのだから。
 現に、今もまた、フェイトを助けたい一心で無茶な事をしでかしたばかりなのだ。……まぁ、その原因にとある誰かさんの無茶と無謀の影響が多々あるのは忘れてはいけない事実だが。
 ともあれ、その悪影響を差し引いても、なのはの自己挺身、あるいは自己犠牲の心は常軌を逸していると言って良いだろう。だからこそ、ユーノは己に誓ったのだ。
 無防備な彼女を、自分の身を全く省みようとしない、彼女を傷つけるありとあらゆるものから、自分が守ろうと。そして、彼女が行こうとする道を、彼女が思う存分走れるように支えていこうと。

 ぐっと、誰にも見えないところで拳を握ったユーノは、改めて覚悟を決める。
 〝彼女〟の提示した取引が罠でないとは言い切れない。だが、たったの数度しか会い見えなかった相手とはいえ、その主人に対する忠誠は、赤の他人である自分でも痛いほど理解できる。
 そんな〝彼女〟が、自身の立場が危うくなることすら顧みず、ただ〝主人〟のためを思って行動したのだ。信用するとすれば、その忠誠心だけで十分というもの。ユーノはそう考える。
 ただ、クロノ達がユーノと同じく〝彼女〟を信じるかどうかは別問題だ。そして、クロノ達を信じさせる事が、取引におけるユーノの役割でもある。
 ……説得、できるのか?
 ちら、とエイミィと何事かを話しているクロノを盗み見ながら、ユーノは突然不安に駆られた。 
 クロノ・ハラオウン執務官殿の理路整然とした物言いと、生真面目が服を着て歩いているような人柄を思い出すと、途端に自分がしなければならない〝ミッション〟が、その後ろに〝インポッシブル〟と付け加えなければならないような気がしてならない。
 仮にも相手は、今まさに捕まえようとしている人間の関係者だ。しかも、その関係者からの協力の申し出なんて、この堅物執務官が果たして受け入れてくれるだろうか?
 内容的には、間違いなくクロノの嫌う類のものなだけに、成功する確信よりも失敗する不安の方が倍々に増している気がする。例えれば、三流アクション映画で敵組織の人間が、主人公に向かって〝お金はやるから助けてくれ〟と頼む類のものなのだ。果たして生真面目堅物執務官様は、それに対しどう返事するのか――――ユーノは、どう考えてもNO以外に想像する事が出来ない自分の想像力に嫌気がさした。
 ホント、説得できるかな、ボク?
 ……いや、できるできないではない。させるしかないのだ。
 なにより、なのはの事を思うのであれば――――きっと、この〝取引〟の成功は、なのはの望む未来だ。 
 フェイトを助けたいという願い。フェイトの力になりたいという願い。どれも、クロノ達管理局からしてみれば、叶えるのが難しいモノだ。だが、この〝取引〟にクロノが応じれば、少なくともなのはの望む前者の願いを叶える事は出来る。



「…………やってみせるさ」



 なのはのためだ。
 いつでもどんな時でも、自分の事以上に他人を気にかけるあの優しいパートナーの事を思えば、今の今まで弱気になっていた自分が情けなくなる。
 決めたはずだ。なのはを支えていこうって。彼女が彼女の望む道を進めるよう、力になろうって。
 だったら、いつまでもつまらないことでウジウジ考えている暇なんてないじゃないか!
 


「あの!」

  

 それまで沈黙を保っていたユーノの、やけに通る朗々とした声が、ブリーフィングルームの中に木霊する。
 リンディとエイミィがこちらを見て、そして送れてクロノがゆっくりと振り向く。
 少し、その威圧感に気圧されかけたが、ユーノは改めて内心で自分を鼓舞して耐えて見せる。
 そうさ。僕は守るんだ。なのはが進む道を、なのはが進みたい道をなのはが進めるように、いろんなものからあの子を守るって決めたんだ。
 なら、こんなチビ豆執務官の圧力なんかに屈してなどいられない。


――――例え火の中水の中だろうが、好きな子のためならえんやこら!


 ふと、時彦のそんなバカな台詞を思い出した。
 時彦なんかの言葉に同意するのは癪だが、しかし今この時ばかりはそれに賛同せざるを得ない。
 何故ならば。



「リンディさん、クロノ執務官。お話があります」
 


 自分がやろうとしている事は、時彦のそれとまるっきり同じような動機からきていたからだ。
 









 
 ブリーフィングルームを飛びだしたなのはを追っていたアリサとすずかは、思っていたよりも早くなのはの姿を見つける事が出来た。
 部屋を出て角を一つ曲がったところ、休憩用にという意図で設えられているのか、三人が腰かけられそうなベンチに独り、俯いて腰かけていた。
 なのはの座るベンチの背後には、鎧戸のようなシャッターが下りた窓があり、もしここが宇宙空間に浮かんでいたのであれば、そのシャッターの向こうには息を呑むほど美しい、漆黒の海に浮かぶ星の絨毯が広がっていただろう。時彦が今朝、それを見れなかった事について地団太を踏むほど悔しがっていたのを、アリサは思い出した。
 やや癪ではあるが、しかしこのシャッターの向こうに広がる星空を見れたら――――そう思うと、そんな時彦の悔しさに同感せざるを得ない。
 そして、そんな星空を背景に黄昏るなのはを想像して、やや不謹慎だが、それが見れない事を改めて残念に想うのだった。



「…………わたし、どうしたらいいんだろう」
「なのは……」
「なのはちゃん……」



 足音でわかったのだろう。
 アリサとすずかが近づいてくるのに合わせるようにして、なのははぽつりと、蚊の鳴くような声でそう呟いた。
 二人とも、なのはが今抱えている苦悩が痛いほど理解できてしまう。
 友達としてフェイトを助けたい思いと、クロノの言葉の正しさ。
 互いの世界におけるルールが異なるが故の、些細な擦れ違いだ。単純ではあるが、だからこそどうしようもない。
 フェイトを助けようとすれば、きっとクロノは自分達の事も捕まえようとするだろう。
 しかし、フェイトを助けなければ、きっと悲しい結末しか待っていない。
 


「わたし、フェイトちゃんを助けたい。でも、クロノくんが言っている事も正しいってわかるの。ジュエルシードが危険なもので、フェイトちゃんがそれを集めてるのもほんとうで、でもそれはいけないことで……。だから、クロノくんが次元世界のおまわりさんなら、フェイトちゃんを捕まえようとするのは何もおかしくないんだって……頭ではわかってるんだ」
「……そうね。クロノは間違ってないわ。それが彼の仕事だし、フェイトは現に、私達からジュエルシードを奪ってるもの」
「それでも! フェイトちゃんは好きで集めてるわけじゃないんだよ!? お母さんに頼まれたから、仕方なく集めてるだけなのに……」



 何もできないことへの悔しさなのか、なのはの声は徐々に水気を帯び始めていた。
 深く俯き、膝の上に載せられた拳が微かに震える。ぎゅっと握りしめられた手は、微かにスカートの裾に皺を作り上げていた。
 その姿に、アリサとすずかは何も言えなくなってしまう。
 だが、同時に二人は想う。今、自分達にできる事は何もないのだ、と。
 時彦を助けようにも、それにはユーノかクロノ達の協力が不可欠だし、仮に自分達だけでフェイトに会いに行けたとしても、会ったところでどうなるというのだろう?
 フェイトの意志の強さは言わずもがなで、ともすればなのはの頑固さにも引けを取らない。そんなフェイトの説得などまず無理な上、下手に戦闘にでもなろうものなら余計に話がこじれてしまうのは火を見るより明らかだ――――明らかなのだが。



「ま、それをどうにかしたいから、っていってあの馬鹿が拉致されたんだけどね」
「ちょっと、無理矢理だった気がするけどね」



 やれやれ、と嘆息して呆れるアリサの言葉に、すずかが苦笑を交える。
 今回の時彦の演技―――といえるかどうかは微妙だが、題して〝実はフェイトが許嫁とそっくりだったから勘違いしちゃった〟作戦には、正直三人ともあまり乗り気ではなかった。特に、アリサとすずかは。
 時彦の言い分では、そうすることでクロノ達にフェイトが自分達の関係者であることを印象付け、出来る限りフェイト=犯罪者であるという認識を挿げ替えようとしてのことだった。
 ……結果は、まぁ言わずもがなで、正直成功したかどうかでいうと、否としか言いようがない。
 クロノ達がフェイトとその母親、プレシア・テスタロッサの逮捕に踏み切ろうとしているのは明白だし、アリサとすずかでさえも大規模な組織なのだと理解できる時空管理局と言う組織は、一度決定が下れば余程の事でもない限り、それが覆る事はないだろう。



「フェイトちゃんの住んでるお城も、今はまだ分からないみたいだけど、時間が経てばわかる、みたいな事をエイミィさんがおっしゃってたし……」
「居場所が分かったら、クロノ達は間違いなく、すぐにでも踏み込みに行くでしょうね。この組織、一度動き出したら迅速っぽいし」
「じんそく?」
「えっと、物事を進め方とかが、とても素早いことだよ。ほら、子供と大人じゃ全力で走る時の速さが違うでしょう?」
「え? なんでクロノくん達が動くと速いの?」
「組織っていうのは、最初の動きだしは亀みたいにおっそいけど、一度動き出したら新幹線、って相場が決まってるのよ。逆に、最初の動きが素早いけど、最高速度がせいぜい乗用車程度なのがうちらみたいな小さな集団ね」
「そうなんだ……ということは、フェイトちゃんを助けるためには、クロノくん達が動く前にどうにかしないとだめ、ってことなの?」
「そう、だね……クロノ君達が動き出してから私達が動いても、多分間に合わないと思う」



 そうなれば、もはやフェイトの逮捕までは秒読みだ。なのは達には、フェイトの逮捕という結果を指を咥えて見ているか、あるいはフェイトを助けるために、厳罰を承知で捨て身の邪魔をする他ない。
 前者は自分達にとって納得のできる結果ではなく、後者は自然とクロノ達と衝突する事を意味する。
 そして、自分達がもし後者の選択肢を取った際、果たしてどんな結果になるのか――――そのリスクが想像できない以上、迂闊に行動するわけにはいかないのだ。
 ……時彦に出会う前であったら、そう思っただろう。



「ま、どっちにしろ私らがすることは決まってるでしょ?」
「問題は、どうやってユーノ君を説得するかだけど……」
「言う事聞かなかったら美由希さんの手料理フルコース食べさせればいいんじゃない?」
「それは、ちょっとひどいような……」
「あの……アリサちゃん、すずかちゃん?」



 何故か話に置いていかれているような気がしたなのはは、おずおずと手を挙げて二人の名前を呼ぶ。
 そもそも、さっきのクロノ達の行動が云々という話から、どうしてユーノの説得(そもそも何をどう説得するかは置いておいて)という話が出てくるのか、なのはは理解が追いつかない。
 みる限りでは、アリサもすずかも、お互いこれからどうするかを決めているらしく、その言葉の節々にはなんら迷いを感じられない。
 一体この二人が今何を考え、そして何をしようとしているのか――――なのはは首をかしげて、質問を投げかけた。
 


「なんで、ユーノくんがでてくるの? というか、なにをするつもりなの?」
「……はぁ? アンタバカぁ?」
「うにゃっ!? ば、ばかはひどいよ!」
「バカにバカって言って何が悪いのよ。なにするかだなんて、そんなの決まってんじゃない」
「決まってるって……」
「なのはちゃんが今、一番やりたいことだよ」
「わたしが、いま、いちばん、やりたいこと……?」



 一言、一言。すずかの言葉を口の中で転がすように反芻する。
 腕を組み、心底呆れたと言いたげな表情で顔をしかめているアリサ。
 その隣で、まるで母の桃子のように慈愛にあふれた微笑みを浮かべるすずか。
 二人の顔を交互に見比べ、そしてようやく、なのははアリサの態度と、すずかの言葉の意味に思い至った。



「そ、それって――――!」
「そういうことよ。でも、アンタはその、てんそうまほー、だっけ? 使えないんでしょ?」
「でも、ユーノ君ならこの間使ってたでしょう? だから、ユーノ君に協力してもらおうって」
「アリサちゃん……すずかちゃん……!」



 感極まったなのはは、目尻に浮かび始めた涙を拭う事もせずに、勢いよく大好きな親友二人へと抱きついた。
 いつまでもうじうじと迷って、くさって、悩んでいた自分が恥ずかしい。
 自分がそんな情けない醜態をさらしている間にも、二人の親友はずっと前を向いていた。心を折ることなく、迷うことなく、逸らすことなく、ただまっすぐに走らせていた。
 そんな親友に迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思うと同時に、こんなに素敵な親友が二人もいる自分が、とてつもなく幸せに思える。



「もとより、私達はフェイトを助けるつもりでやってきたんだもの。あったりまえでしょーが」
「アルフさんとも約束したし、私も、ちょっと個人的に気になる事があるから……」
「それでも、それでもうれしいよっ! アリサちゃん、すずかちゃん、ありがとう、だいすきっ!」
「ちょっ、力入れ過ぎだってばっ! もー、しょうがないやつね、アンタって娘は」
「ふふ、アリサちゃん顔真っ赤。ひょっとして、照れてる?」
「う、うっさいっ! そういうすずかだってちょっと顔赤いじゃないの!」
「もちろん、嬉しいからだよ?」
「うー……時々、アンタが私と同い年なのが不思議でしょうがなくなるわ」
「えへへー、アリサちゃんとすずかちゃんもやさしくてだいすきですっ!」
「よしよし。大丈夫、私も優しいなのはちゃんと照れ屋さんなアリサちゃんが大好きだよ」
「アンタらちょっとは恥ずかしがりなさいよ!?」



 少女三人の間に、くすぐったくて、こそばゆい空気が流れる。
 フェイトという、新しい友達を助けたいという共通の思いと、それに伴うリスクなどものともしない友情。
 見る人が見れば、それはきっと、子供の御ままごとに取られるようなものなのかもしれない。
 だが、例え第三者がどう思うとも、なのはとアリサ、すずかの三人にとって、今この瞬間、そしてこれから先もずっと、互いに繋がった見えないソレは、誰にも断ち切ることのない、強固で柔軟な宝物だ。
 その宝物を、フェイトに――――あの不器用な少女に分けてあげたい。あなたは独りじゃない、私達もいるんだよ、って伝えたい。
 三人の思いは違わず一つ。その友情は、どんな困難すらも撥ね退けて見せる。
 二人の親友と手を繋ぎ、互いに顔を見合わせて歩きだす。
 ぎゅっと、暖かく滑らかな手に力を込めて、なのははまっすぐ前を向いた。
 友達を助けるために、今は迷わず歩いていこう。例えそれが、クロノとぶつかってしまう道になるのだとしても――――。






 それからしばらく後、高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか、ユーノ・スクライアの四名はアースラから姿を消した。
 去り際に使用したと思われるトランスポーターに残されていた転送履歴より、四名の転移先は、その直前にユーノ・スクライア及びその協力者による情報提供によって割りだされた、プレシア・テスタロッサの拠点と思われる〝時の庭園〟と判明。
 時空管理局所属アースラ魔導師部隊は、クロノ・ハラオウン執務官の指揮の下、四名の捜索、及びプレシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサ両名の身柄確保のため、四名の失踪から数時間後、ようやく〝時の庭園〟へと突入する。
 折しも悪く、クロノらアースラ魔導師部隊が〝時の庭園〟へと侵入した時点で、庭園深部より高魔力反応、及び微弱な次元振動を感知。状況は次元震発生一歩手前に差し掛かっており、プレシア・テスタロッサ及び既に発動していると思われる奪取されたジュエルシードの確保、封印の急を要する事態となっていた。
 そして……。



「どうしても、そこを退かないと言うんだな?」
「……ごめんなさい、クロノ君」
「でも……これが、わたしと、わたしたちのだした答えだから」
「そうか――――ならば、力尽くでもそこを退いてもらう!!」



 〝時の庭園〟へと突入したクロノ・ハラオウン含むアースラ魔導師部隊は、庭園の城、その中央大広間にて、高町なのは、及び月村すずかと対峙した。
 










 フェイト・テスタロッサが使い魔、アルフにとって今の状況は予想外と言って良いものだった。
 ちらりと気付かれないように後ろを振り返れば、肩にブロンドの毛並みが眩しいフェレットを乗せた少女と、その友人の二人の計三人の少女が付いて歩いている。
 フェレットと、ソレを肩に乗せた少女はわからなくもないが、その両隣の二人の少女が何故ここにいるのか。いや、そもそも何故この三人〝しか〟この場にいないのか。
 この事態を招いたのは自分だが、しかし予想の斜め上をいく少女達の行動に、アルフは視線を前に戻しながら、そっと嘆息した。 

 先日のプレシアとの対話以降、秘かに最愛の主であるフェイトにも打ち明けず抱えていた考え―――それを敵側であるはずの魔導師、ユーノ・スクライアへと取引として持ちかけたのは、フェイトが海鳴の街外れにある廃材置き場で、高町なのはらとジュエルシードを取り合っている時のことだ。
 内容はいたって簡単。
 こちらの――つまりフェイトの事――身柄の安全の保証と引き換えに、プレシアの居場所を教える。
 それは間違いなく、裏切り以外の何物でもない行動だ。
 主人であるフェイト・テスタロッサは母プレシアの命令に従う事を第一とし、その邪魔をするものを出来得る限り、時には容赦なく排除してきた。
 それが間違っているとは思わない。だが、その努力の末に与えられる結果を見た時、アルフは到底ソレを許容する事が出来なかったのだ。
 文字通り身を削り、危険を顧みず必死の思いで言われた通りに古代遺失物を集めてきても、待っているのは〝役立たず〟の罵倒と容赦なき鞭打の〝躾〟では、あまりにも救われない話ではないか。
 アルフは知っている。彼女の主フェイト・テスタロッサは、決して〝役立たず〟でもなければ、理不尽な鞭打ちを褒美として頂かなければならないような〝無能〟でもないと。
 だからアルフは、あまり得意ではない〝頭を使って〟必死に考え抜いたのだ。どうすれば、大好きなご主人様を幸せにできるか。そのためには、まず何よりもあの鬼婆からフェイトを引き離さなければならない。それが最も近道で、フェイトにとって最良ではなくとも、それでも今よりはるかにマシな道となると、アルフは考えたのだ。

 しかし、それには二つの障害があった。

 一つは言うまでもなくフェイトの承諾。
 母のためなら命すら投げ出しかねないフェイトが、母を見捨てる、ないしは裏切ってどこか遠くへ逃げるなど考えられない。きっと、説得しようにも無駄に終わるのは火を見るより明らかだ。
 そしてもう一つは、仮にフェイトをあの鬼婆から引き離せたとして、その後どうするか、ということである。
 万一説得に成功し、あの鬼婆の下から逃れられたとして、ではその後、自分達はどうすればいいのだろう?
 アルフにとって、世界はあの〝時の庭園〟であり、その外側へとやってきたのは今回の探索が初めてのことだった。はっきりいってしまえば、世間知らずの一言に尽きる。
 基本的な生活の知識こそあるものの、実際に暮らしてみるのとでは大いに違う。それは、今回の探索の前準備として、第九七管理外世界における活動拠点の確保の際に痛いほど学んだことだった。
 つまり、後ろ盾―――バックアップがないのである。
 戸籍も何もないような管理外世界で拠点を手に入れられたのは、結局はあの鬼婆の御蔭である。それに伴う諸雑務や使用する通貨も同じくプレシア・テスタロッサのバックアップの御蔭であり、仮になんのサポートも無しに自分とフェイトが管理外世界にほっぽり出されていたら、その日の内に路頭で迷うハメになっていただろう。
 速い話が、逃げ出してからの転がり込む先がないのだ。幸せになるために逃げ出したのに、逃げ出した先で不幸になりましたでは笑い話にもならない。

 結局、アルフが選択したのはソレは苦渋の決断だったと言えよう。
 だが、二つ目の障害を考える場合、こと時空管理局という組織は実に魅力的な存在だったのだ。
 なによりフェイト達にとって身近とも言える第一管理世界/ミッドチルダに本部を置いており、様々な次元世界を旅する性質上、イレギュラーな出来事があってもある程度の柔軟性を以て対応できる。
 であれば、古代遺失物の違法収集や管理外世界での魔法行使といった、時空管理法を犯した自分達であっても、彼らが今直面している危機を餌として利用すれば、もしかするかもしれない。
 アルフが思い至ったのは、そんな漠然とした博打のような取引だったのである。
 無論違法行為による罰則は免れないだろうが、それでも愛する母に報われぬ愛情を求め、挙句に鞭で打たれるような今の生活よりかは遥かにマシの筈だ。
 最悪の場合、フェイトを連れてあの第九七管理外世界のどこかに逃げ込んで、ほとぼりが冷めるまで身を隠し続けても良い。万年人手不足の管理局が、自分達ごときを、おなじ次元世界にとどまって何年も探し続けるというのは考えにくいし。
 ……例え結果的にフェイトに恨まれようとも構わない。愛する母に鞭で打たれる主人の姿を見るより、自分が嫌われた方が遥かにマシだ。

 そういった考えの末、アルフは先日、ユーノに件の取引を持ちかけたのだった。

 仮にこのたくらみが上手くいったとしても、フェイトはきっと悲しむだろう。
 例え鞭で打たれようと、母の元で暮らす方がいいというに違いない。
 最悪の場合、大好きなご主人様はこのバカな使い魔を嫌いになるかもしれない。
 でも――――例え身を引き裂かれるような言葉を投げつけられ、この世で最も憎いとばかりに睨まれようとも、アルフは想う。
 それでも、愛する主人が実の母に鞭で打たれるのを見るしかないよりは遥かに良い、と。 

 ただ、アルフはもう一つ、その決心の裏側に潜んでいる打算から敢えて目を背けていた。
 今自分の後ろを歩いている三人の少女と一匹、そして今まさにフェイトとあの鬼婆と共にいるであろう少年。
 しつこいくらいに幾度となく自分達の前に立ち塞がり、今なおこうして自分達に纏わりつく物好きな子供達。
 彼女達なら、もしかしたら――――。
 


「……なんて、なにバカなこと考えてんだろぅね、アタシは」
「え? なにかいいました、アルフさん?」



 耳聡く自分の独り言を聞きつけたなのはが、そのお下げを揺らして首をかしげながら近づいてくる。
 つい先日までは敵対していたと言うのに、この無防備さはどうなんだろうね、と内心で呆れ返りながら、アルフは「なんでもないよ」と適当にあしらう。
 そんなアルフのつれない返事に、まるで邪険にされておちこんだ子犬のようにシュンと項垂れるなのは。それを右隣の黒髪の少女が慰め、今度は左隣の金髪少女がなんか怒鳴ってくるが、アルフは聞こえないふりをして無視した。
 ホント、こんな小娘達に何を期待してんだろうね、アタシは。
 今度ははっきりと溜息を吐いて、アルフは再び前を見据える。
 やがて、異様な威圧感を以て聳え立つ巨大な扉の手前にたどり着くと、アルフは深呼吸をした。
 小娘達の話からして、管理局の連中が踏み込んでくるまでもう少し時間があるはずだ。
 それまでに、何としてでもフェイトを説得する。今、自分が為すべき事はそれだけだ。
 例外的に一つだけ、することがあるとすれば――――それはきっと、いるのかいないのか定かではない神様とやらに、御祈りをするくらいだろう。
 アルフは、ほとんど期待もしてない神様へ、短い祈りを捧げながら、扉を押しのけた。



――――フェイトが、宇宙一幸せになりますように、と。
 

 

































――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いぶりすのせーぞんほーこく
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とりあえずいきてます。

地震直後ホント諸々あって、しかし筆が進まず放置

月末変なウイルスに掛ってニート

なんとか更新←いまここ


  あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

『おれは〝なのはとフェイトのガチバトルを書く〟と思ったら、いつのまにか〝クロノとなのはのガチバトルを書く〟と思っていた』

 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
  おれも何をされたのかわからなかった  

  頭がどうにかなりそうだった…

 超展開だとか催眠術だとか
  そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


そんなわけで次回からようやく終息編。
第一部完に向けてがんばりまっしゅ。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026496887207031