<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[15556] 御嬢と病院と非常事態
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:a9a6983b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:36
――――アリサ・バニングスが壊れた。
 


 その速報は瞬く間に学校中に広がり、その様子を一目見ようと、休み時間には大勢の生徒が俺達の教室へと詰め掛けてきた。
 低学年だろうが高学年だろうが関係なし。さながらサバンナのバッファローの大移動のごとく押しかけた生徒達は、こぞって豹変したパツキン娘を見ようとその周囲を囲んでいる。
 もとよりあのパツキン娘に興味があった輩と、それまで凶悪だった猛獣が突然従順なペットに変わったと言うニュースが珍しくて集まってきた輩、他にもファンクラブやらなにやら考えるだけで頭のリソースが無駄に割かれる種々様々な思惑を持った連中が集まったせいで、教室は半ば混沌と化していた。
 本来、こんな事態は発生した瞬間から、蜘蛛の子を散らすかのごとく早々に解決されているはずなのだが――――残念ながら、今現在俺達のクラスにそれをなしえる傑物はいない。
 なぜか? んなの決まってる。



「アリサちゃん! これ、犬が好きって聞いたから、そういうノート探してみたんだ。よかったら貰ってくれない?」
「あら、ありがとうございます。ですが、悪いですこんなに一杯……」
「アリサちゃん、これ可愛いねー! どこで買ったの?」
「あぁそれですか? 海鳴商店街にいいお店がありまして。恥ずかしながら、ついつい衝動的に買ってしまったんです」
「いいなぁ、私も今度行ってみたーい!」
「あ、私もー!」
「それはいいですね。ぜひとも今度、ご一緒にお伺いしましょう♪」



 その傑物であるパツキンロリータが、あの様だからさ。
 信じられるか……? あいつ、昨日俺を殴り飛ばして鼻息荒げてたバイオレンス・ビザール何だぜ? まるで別人だろ。
 陳腐極まりない表現だが、そうとしか言いようが無いのだからしょうがない。てーか語尾に“♪”がつくとか、アイツ本当に頭大丈夫か……?
 主に集まっているのは女子連中だが、遠巻きに、そしてたまに勇気ある誓いを掲げたバカ(男)が、身の程知らずにもその底知れぬ魔窟へと時折身を投げる姿ももちらほらと見受けられる。あ、一人吐き出された。入る前とは比べ物にならないほどボロ雑巾と化している理由は、わざわざ考えるまでもないだろう。

――――とまぁ、朝からずっとこんな調子だ。

 おかげで昼休みは俺とすずかちゃんと高町という珍しい組み合わせで食べることになって、俺としてはとても落ち着かない一時間を過ごす羽目になった。
 すずかちゃんと話せるチャンス、などと不謹慎な気分になれるはずもなく、あのやかましい金髪がいないせいで主に口を開くのは高町だ。あいつなりに場を盛り上げようとしたのだろうが、いかんせん一人じゃ荷が重い。
 ジョンブルロリータが豹変したことがよほど気にかかっているのか、朝からすずかちゃんの口数は少なく、俺も漫才相手を失ったことと、気になる女の子が真正面に座っているという緊張感の所為で、口が鉛のように重くて開けることができなかった。
 そうなれば、高町が口を閉じたら殆どみんな無言になってしまう。その時の空気といったら、まるでお通夜だ。
 必死に盛り上げようとした高町の努力は認めるが、その必死さがかえって悪化を招いたようにも思う。あの子には今度もっと上手な話術というものを指導した方がいいのかもしれん。
 とまれ、そんなお昼休みとは思えない、まるで座布団が変わった勉強机の椅子に座っているような、非常に据わりの悪い時間を過ごさざるを得なかったわけである。おのれ、ジャリガールめ。
 
――――そして、時は移ろい、放課後になった今。

 冒頭にも述べた通り、教室は混乱極まった、しかし局地的に桃色フィールドが発生するという、どこから手をつければいいのかわからないという有様なのであった。








                           俺はすずかちゃんが好きだ!








「というわけで、緊急対策会議を開きたいと思います」
「えっと、対策って言っても……」
「アリサちゃん、どうしたんだろうね……」



 机を三つ囲んで、「第一回キンパツジャリガールをどうにか元に戻そう作戦会議」と描いてあるスケッチブックを立てかける。ついでに両手を組んでその上に顎を乗せてみた。気分はどこぞの特務機関の司令。しかし問題はありすぎだ。バケツに両足突っ込んで涼んでいる余裕も無いくらいに。
 どうやら、他の連中はパツキンブリッ娘の変化についてなんとも思ってない――――いや、むしろ性格が軟化して万々歳っぽい。だが、正直あのバカの隣で四六時中付き合ってきた俺達としては、喜びよりも困惑と心配という感情の方が先立つ。
 何より気持ち悪いのだ。俺が全力で拒否反応を起こすくらいに。次にヤツから気持ち悪いお嬢様言葉を投げつけられたら、冗談じゃなく蕁麻疹が起きるかもしれない。史上最大のダメージだ。正気に戻ったらその健闘をたたえてやらねばならないだろう。
 そういうわけで、「第一回キンパツジャリガールをどうにか元に戻そう作戦会議」を急遽開催した次第でござる。皆の者出会えぃっ!



「では各々意見を言うように。まず高町――――アレ、どうしたらいい?」
「にゃっ!? え、えーと、えーと――――あ、明日には戻ってるんじゃ、ないか、なぁ……なんて、あは、あはは」
「はい零点。高町落第。今日の放課後みっちり補習な。主に漢字書き取り百字×十種。間違えたら最初からやり直し。もちろん元の漢字見るのダメ」
「ひ、ひどいっ! 横暴だよほんだくん! というか、とりあえず様子を見たほうがいいと思うんだけど……」
「まぁ、聞きました月村さん! 高町さんったら、親友がどうなったっていいって言ってますわよ?」
「あら、それはいけないわ。ダメよなのはちゃん。お友達はもっと大切にしないと」
「す、すずかちゃんがグルになったっ!? アリサちゃん、アリサちゃん帰ってきてー! なのはには、なのはにはとても荷が重すぎるのっ!」
「さて、錯乱した高町は放っておくとして」
「あはは……ごめんね、なのはちゃん」
「酷いよ、二人とも……」



 うにゃー、とか奇妙な鳴き声をあげながら、教室の隅でのの字を書き始めた文系ダメ娘の姿に苦笑する俺達。なんていうか、やっぱり高町はいじりやすいな。似非御嬢化したヤンキーガールのせいで溜まっていたストレスが、今ので若干和らいだ気がする。
 


「さて、高町は役に立たなかったし……」
「ひどっ!? わたし役立たず!?」「落第生シャラップ」「もがっ!?」



 うにゃーうにゃー喚く小動物を、物理的に黙らせる。主に口を手で塞ぐついでにチョークスリーパーもかけて完璧♪
 


「……で、月村さんは――――あー、妙案があったり?」
「うーん、そうだねぇ。とりあえず、何があったか聞いた方がいいんじゃないかな? 心境の変化があったのか、それとも何か悪いものを食べちゃったのか。どちらにしても、まずは話してみないとわからないと思うの」
「それは道理だな。よし、高町聞いて来い」
「ぷはっ! 目の前がまっしろになりかけたよ!? ほんだくんひどいのっ!」
「やかましいわ!」
「うにゃんっ!?」



 若干土気色になっている高町に、気付の意味合いも込めて空手チョップを脳天に落としてやったら静かになった。
 なんだか涙目でこっちを睨んでいる気がするけど、とりあえず無視。



「いいからとっととあの気持ち悪い金髪的な生き物にインタビューしてきてくれ。主にどんな心境の変化があったか、あるいは俺に対する何かの策略なのかについて」
「って、また私っ!? ほんだくん、私の扱いすごくひどいよね? アリサちゃんとすずかちゃんより全然ひどいよね!?」
「あっはっはー、ソンナワケナイダロー」
「棒読みっ! それすっごく棒読みだよほんだく――――にゃっ、ちょ、待ってほんだくんわたしまだ心の準備がっ~!」
「ごーとぅーへぇーる♪」
「うにゃ~~~!?」



 嫌がる高町を無理やり押して、人の壁を掻き分けてお労しく変わり果てた親友の下へと送り届けてやった。
 最後に「後で絶対にお返ししてあげるんだから~!」とかなんとか聞こえた気がするが、まぁいいだろう。
 なんだかんだで高町は打たれ強い子、という認識が俺の中にはある。こう、不良共に殴られ蹴られしても、意識が途切れるまでその足にしがみつくいじめられっ子的なイメージが。
 そのうち不撓不屈の鬼リーダーとなりえる素質を持っていると俺は睨んでいるのだが……そうなったら俺の命がやばそうな気がしてきた。主にキンパツガルーダとコンビを組んだ場合の未来図の所為で。まぁ「この私を誰だと思ってるの?」なんて台詞は、あそこのジョンブルガールが一番似合ってると思うんだけどさ。



「……帰ってきたら飴を与えておくとしよう」
「あはは……酷いことしてるって自覚はあったんだ?」



 もう、仕方ないなぁ、とでも言いたげに苦笑しながらこちらを見るすずかちゃんに、俺は若干ばつが悪くなって頬をかく。
 ていうか、ちょっと洒落にならない罪悪感がちくちくと俺の良心を突っついてくるんですが、これはいったいどうしたらいいんでしょうか恋のキューピッド様。
 
 

「や、別に酷いことしてるつもりはないんだけど……あんまりいじりすぎると拗ねそうだし、何より未来が怖い。かじられそうだ」
「あ、ひっどーい。ダメだよ本田君。なのはちゃん、すっごく繊細なんだから」
「う……ごめんなさい」
「それは、後でなのはちゃんに直接言おうね?」
「……えぇ~?」
「ほ・ん・だ君?」
「あいまむ。全て了解仕りました」
「よろしい♪」



 なんていうか、すずかちゃんにはホント敵わない。去年の秋に比べれば、だいぶまともに話せるようになったとはいえ、未だに話していても照れが残ってしまう。
 おまけにこの笑顔だ。
 ヒマワリのように派手なモノではなく、白百合のようにしっとりと、それでいて可憐ではんなりとした満面の笑みを浮かべ、ちょこんと首をかしげて微笑むその姿は、どこか異国の雰囲気を感じさせる彼女自身の不思議な雰囲気も相まって凄まじいまでの破壊力を秘めている。主に俺の顔を、融解温度まで熱せられた鉄塊のようにするという意味で。
 そんなわけで、例え俺がどんな態度をとっていても、いつもそんな彼女の柔和な笑みとハッとするような鋭い視線を見ると、俺はどうやっても反論することが出来なくなってしまうのであった。
 
――――ようは、彼女を相手に嘘がつけないってことです。

 ふざけていても、軽くそれを看過されて本心を言い当てられてしまうし、照れ隠しなんてしようものなら、後でこっそりと「がんばったね」って耳打ちされる始末。
 無論、そんなことをされた日には耳まで真っ赤になって全力でその場から逃げ出す。恥ずかしいが、こればっかりは俺自身でどうにかできる問題じゃない。
 当然、俺にそんな彼女の笑顔がまともに見れるはずもなく、頬に熱を感じた瞬間すぐさま顔を逸らして、高町を生贄に捧げ/リリース――――もとい放り込んだ騒動の中心へと目を向けた。

 なにも、すずかちゃんとこうして二人っきりで話すのは今日が初めてというわけではない。

 高町やパツキンジョンブルが用事で先に帰ってしまい、一人図書館で残ると言ったすずかちゃんに付き合った時や、同じように暇になった身同士で商店街に繰り出したり、何度か二人きりで過ごした時間は結構ある。
 だが、幾度それらを経験しようと、この無駄に破裂しかねないまでに暴走する心臓を制御することは叶わなかった。
 ドクンドクンと激しく脈を打つ鼓動の音が、耳の奥でやかましいくらいに反響している。教室の喧騒などその音に掻き消され、まるで二人っきりの空間にいるような錯覚まで覚えた。 

――――お、おちつけ、落ち着くんだ俺。

 こういうときは九九を唱えると良い。羊を数えてもいいだろう。できるなら動き回って一箇所にとどまらない、元気のある羊ならばディ・モールト・ベニッシモ!/非情に良い!
 そう、羊が一匹、二匹、あっちに三匹でここに四匹。五匹と六匹はあそこで、ちょっぴり肌の露出が多い羊のコスプレをしたすずかちゃんがコッチを見て手を振って――――って、ストーップ! ストップだストップ!!
 ……待て、待て待て待て俺っ!?
 落ち着け俺。そしてまずは一端、その映像を全て抹消しろ。チリも残さず――――あ、でもちょっともったいな……いやいやいや、ダメだダメだダメだ。こんなの、すずかちゃんへの冒涜に他ならない!
 
 気が付けば鮮烈に思い浮かべていたよこしまな妄想を、ぶんぶんと首を振って振り払い、俺は罪悪感から右頬をおもいっきり抓った。うん、痛い。
 そしてちらりと、今の痴態を見られてはいないかと恐る恐る横目ですずかちゃんを伺ってみると――――なんとも陳腐な言葉だが、やっぱり可愛かった。それ以上の賛辞など、ただの蛇足にしかならないほどに。

 背筋はぴんと伸び、しっかりと手入れがなされているであろう、宵闇の黒髪は緩やかなウェーブを描きながら彼女の背中を包んでいる。
 白いワンピース型の制服を皺無く着こなし、かつきちんと揃えられた足をやや斜めにして膝の上に手を載せたその姿は、まさに少女がかくあるべき、という見本をそのまま体現したかのような理想的な座り方だった。
 だが、その可愛らしい容姿に、今は若干の陰りが付き纏っている。いうまでもなく、親友のキンパツ幼女のことだ。
 性格が豹変したのはまだ許容できる。でも、その過程で何があったのか、何か辛いことがあったんじゃないか。私はそれが心配なの。彼女は昼休みのときにそう言っていた。
 そして、結局これまで何も出来ずにいる自分を悔やみ、彼女は今、その細い柳眉をへの字に曲げ、緩やかにカールしている睫をフルフルと、憂いに満ちた表情と共に風にそよぐ草原のように揺らしている。
 本当は、心底心配なのだろう。その気持ちが痛いくらいに理解できてしまい、俺は彼女よりも全然楽観視している自分に自己嫌悪した。

 正直に言おう。俺は、今回の騒動をそれほど重く見てはいない。

 せいぜい、ライミー・ロリータのやつ、悪戯心を起こしてあんな演技をしてるんだろうとか、どうせそのうち飽きてボロをだすだろーし、待ってりゃいいだろとか、そんな風に考えているくらいだ。
 それが人でなしとか、思いやりが無いとか、ましてや友達甲斐がないというのであれば、そうなのだろう。
 ただ、かといってあのバカが危険な目にあえば心配もするし、これ以上あのふざけた演技が長引くようであれば、力ずくでも元の性格に戻ってもらおうと考えてはいる。何より、すずかちゃんが心配しているのだから。
 


「こいつばっかりは、どーにかしないとな」
「うん? 何か言った、本田君?」
「いんにゃ? 本田さんなーんも言ってませんよ?」
「あ、何か隠してる。もう、いつも何かあるとそうやって隠すんだから」
「いやいや、そんなこと無いって。ていうか近いっ! ご尊顔がとっても近うございます月村おぜうさまっ!!」
「本田君、ときどきそうやって遠いところを見てるよね? ……あ、もしかして今回の件について――――実は、何か知ってるとか?」



 「んー?」とか言いながら顔を覗き込むの反則! 反則です月村さんっ!
 慌てて顔を逸らして直撃こそを回避できたものの、僅かに被弾しただけでこのダメージかっ……!
 あな恐ろしきはその可憐さよ。今ならばその可愛さだけで世界を征服できるに違いない。可愛いは正義。可愛いは絶対。そして可愛いは無敗なのだから。
 しかしどれほどそんな「すずかちゃん最強説」を頭の中で絶叫しようと、ようやく収まっていた心拍数が瞬時にリミットブレイクしたことは覆せない。
 バクバクと恐ろしいほどの速度で脈打つ鼓動に焦りながら、俺は必死に情けなく、一生懸命弁明した。
 

 
「めめめ、滅相もないっ! だって、昨日の夕方会ったときは全然いつも通りで、俺もアイツがあそこまで様変わりしてるって気づいたのは今朝だし!」
「あ、それは私も昨日聞いたよ。ノート一緒に探してあげたんだってね?」
「う……」



 まさか、アイツ俺があの宝石あげたことまでしゃべってないよな……?
 予想外のピンチが訪れたことに、知らずと冷や汗が背筋を流れ落ちた。
 万が一その話が耳に入っていようものなら、俺は今から全力ですずかちゃんに言い訳をしなければならない。
 瞬時に頭の中で18通りもの言い訳を思い浮かべ、そのうち最適なプランを取捨選択し、これと思える非常に無難なモノを拾い出す。
 ……だが、どうやらそんな俺の危惧は杞憂だったようだ。
  


「いつも喧嘩してるのに、そういう時は仲いいんだね」
「え……あれ? 他には何もきいてないの?」
「他に? ううん、一緒にノート探したっていう話と、今週の週末、市立図書館行ってみるといいよって話だけかな?」
「……や、やってくれたなあぁあああパツキンライミィイイイイイイ!!??!」



 ここに来てようやく、昨晩あのライミー・オークが残した言葉の意味が繋がった。
 まさかそんな風に気を回されるたとは――――っていうかちょっと待て。
 ていうことはアレか?
 もしかして本田さんの秘密、あのゴールドヘアードライミーにバレバレ!? 赤裸々白書のすっぱ抜き!?
 


「あ……あぁあぁ…………!」
「ど、どうしたの、本田君?」
「殺してくれ。いっそひと思いに殺せぇえええええええええ!!」
「本田君、だめだよ! 気をしっかり持って!」
「う、うぉおおおお!!! ちくしょう、ちくしょぉおおおおおおおおう!!!」
「どうしたの本田君!? なのはちゃん! アリサちゃん! 本田君が、本田君を止めてーっ!」


 
 すずかちゃんの制止の声すら振り切って、俺は赤熱どころか白熱し始めた顔と羞恥心に耐えきれず、教室の床に額をガンガン打ち付ける。
 終わった。俺の第二の人生が終わった。
 よりにもよって一番バレてはいけない相手にバレてしまった……っ!
 そして何度床に額を打ち付けた頃だろうか。
 土下座の姿勢で額だけ床にひっつけるように突っ伏したまま、俺はじんじんと痛む額の痛みを心地よく感じながら、少しずつ意識が薄れていくのを感じた。

―――どれもこれもあのクソヤンキーの所為だ。

 だが、薄れゆく意識の中でも、あのジャリジョンブルに対する恨みだけは忘れない。
 わざわざ俺様が賄賂を渡したというのに、まさかそれを俺に切り替えしてくるとは――――恐るべしバニングス家が長女。
 つまりこれはアレか。あのお嬢様態度は、俺に対して絶対従属を誓えという密かな暗号文なのか。
 ……くそう、昨日の夕方までは、そんな素振り一つ見せていなかったから見事に騙されたっ!!



「な、何してるのほんだくん!?」
「いけないっ! 時彦君しっかり! 誰か、ハンカチを!」
「はは……刻が……かゆ―――――うま……………」
「本田君、だめだよしっかりして!」
「せんせー! 本田君が頭から血を流して気絶しましたー!」
「本田ー! ばかやろう! てめぇ今ここで死んだらどうすんだよっ!」
「立て、立つんだひこちーん!!」



 なんか、周囲が騒然としだした気がするけど、もはや心のタガが外れてしまった俺には何も感じられなかった。
 ただただ、これより先に待ち受けているであろうゴールドオークによる精神的ないびりを思うだけで、ワタクシめの儚きバラは散り散りに引きちぎられてしまいます。
 あぁ、恋心は秘めてこそ美しいとは誰が言ったか。願わくば、今朝より――――いや、昨晩より今までの出来事が全て嘘でありますことを……。











 目が覚めると、なにやら頭が重かった。もとい痛かった。
 ずきずきと痛む額を抑えながら、はてなにがあったっけ、と思考をぐるんぐるん、ありったけの努力を注ぎこんでまわしてみる。
 確か、気づいてはいけない事実に気付いてお先が真っ暗になり、いっそこの世全てが夢であったら、という願いを込めて土下座頭突きを敢行したのだったか。
 


「あら、ようやく目が覚めましたか?」
「……はは、冗談きついぜ。夢の中で夢を見るなんて」



 ファッキンゴッドは死にたまふれ。
 今一番夢であってほしいという夢が未だに現実だとは。乾いた笑いが止まらないぜ。



「お生憎ですけれど、これはれっきとした現実です。夢ではありませんよ?」
「…………………おはようございました、アリサおぜうさま」
「はい、おはようございます。お加減はいかがですか?」



 ベッドの隣を見れば、悪夢の具現者がいた。
 にっこりと、ついぞこの半年の付き合いにおいても見たことがない、実に〝お嬢様らしい笑顔〟を浮かべた俺の天敵――――アリサ・バニングス。
 何を考えているのか、見慣れることのできないその笑顔からは、ヤツの真意を欠片たりとも窺うことはできない。
 ただ、どこかすずかちゃんを彷彿とさせる柔和な笑みを浮かべ、その膝の上に読みかけであろう文庫本を乗せている姿は、不覚にも可愛いと思えてしまう何かがあった。
 反対側に首を向け、窓の外を見てみればまだ日が高い。恐らく、放課後になってから一時間も経っていないだろう。
 改めて部屋の内装を見渡してみれば、意外でも何でもなく、良く見慣れた保健室のベッドの上だった。
 遊んでる時にすりむいたりなんだりで世話になることが多いから、ここには良く来る。その都度保健の先生に「アンタまた来たの? もう自分でできるでしょ」と投げやりに放っておかれるようになってしまったのは、俺が常連になってしまったという証なのだろうか。美人だからちょっと嬉しい。
 ともあれ、どれくらい気絶していたかはわからないけど、これならまだ全然遊びに行く余裕あるな、なんて考えているあたり、相当小学生化しているなぁと自虐したくなった。いや気に入らないわけじゃないんだが、二十歳代の頃には考えられなかった精神状態だから、ちょっとおかしく感じるんだよな。
 それはそうと、さっきから発情したメス猫のようにやかましく痛みを訴え続けている部位がある。それが鬱陶しくて、思わず顔を顰めてしまった。



「……額がジンジン痛みますな。これがニャーニャーというんだったらまだ可愛げもあるんだが」
「〝猫の額ほど〟にかけての洒落ですか? 面白くありません、3点ですね。そもそも、あれだけ床に額を叩きつければ当然でしょう。いきなり土下座して頭突きを始めるなんて……すずかなんて隣で泣きながら動転していたんですよ? 後できちんと謝罪してくださいね」
「うわ、そりゃやばい……後で土下座しておこう」
「おやめなさいったら」
「あだっ」
「まったく……相変わらず意地の悪いことをおっしゃいますね、貴方は」



 すぱぁん!と心地いい音が響くのと、俺の頭が何かではたかれるのはほとんど同時だったと思う。ていうかちょっと待てコノヤロウ?!



「ハリセン!? え、いやまてどこから取り出したんですかソレっ!?」
「突っ込みには必須のアイテム、ととある本から薫陶を頂きまして」
「薫陶なんて難しい言葉良く知ってるな。お前本当に小学生か」
「あら失礼な。それをおっしゃるなら、時彦君こそ」
「アタイ天才だから。いやもうみんな腰を抜かすくらいに天災だから。将来の夢はダンディーな紳士かマッドでドリルでマッチョな博士です。MDMです」
「はいはい。それだけ元気があるようでしたら、もう大丈夫ですね」



 ふぅ、と見慣れた溜息をつきながら立ちあがったエセお嬢様は、俺に向かって一瞬だけ流し眼で一瞥をくれると、そのまま立ち去っていく。
 何故か、その背中だけは昨日のジャリベアーと変わりがなく、もしかして今までの言葉遣いとか態度は、ヤツが本気を出して演技しているんじゃないのか、と心底疑ってしまえるほどのものだった。
 一人うーん、と唸りながら悩むが、ぶっちゃけその真偽はわからない。
 本当にヤツが心変わりしてしまったのか、それとも本気でみんなをだまそうとか、あるいはからかおうと思って演技しているのか。
 どっちみち、その尻尾をつかむ――――つまりヤツがぼろを出さない限り、俺達にはどうしようもないことでもあるんだけど……。
 そして保健室のドアに手をかけたところで、ゴールドヘアードベア―はこちらに振り向くと、なんてことのない忘れ物を届けるような態度でこういった。 



「あぁ、もうすぐご両親がお見えになるそうですよ? 酷く頭をぶつけたのですから、病院に行って検査するのは確定ですね」
「―――なん……だと……っ!?」
「それと、すずかには後でしっかり謝っておくこと」



 クスクス笑いながら「それでは、お大事に♪」などと残して去りゆくパツ金詐欺娘。
 さ、最後の最後にとんでもないお土産を残していきやがった……っ!
 すずかちゃんに謝るのは当然として、問題は両親が来る、ってことだ。
 両親が来るというのは、すなわち母のことだろう。
 親父は仕事が忙しくてこれるはずがないし、そうなれば仕事場でフリータイムで働いている母上がいらっしゃるのは自明の理……っ。
 そして、もし母上が今のこの俺の惨状を見たならば、恐らくもへったくれもなく山が啼き海が慄き地が震え、俺のグラスハートは粉砕骨折必死っ!
 いかん、逃げなくては……っ!
 主に俺の魂の安寧のために――――――「時彦! アンタ頭ぶつけたって本当!?」――――遅かった……。
 がららっ!と、ドアが壊れるのではないかと言うくらい激しく開いて現れたのは、言うまでもなく我が母上。それに紛れて、単純に聞くならば息子が心配で慌てて駆けつけた理想的な母親だろう。
 だがしかし、その真の意味を知る俺にとっては、暗澹たるものがこの胸に降り積もるような絶望感に等しい台詞だった。
 恐る恐るそちらを見れば、恐らく〝作業場〟からそのまま慌ててきたのだろう。着の身着のままやってきた母上がいらっしゃった。
 汚れてもいいようにきている臙脂色のつなぎ姿で、ざんばらにまとめた髪もいとわず息を切らすその姿は、我が母上ながらも女としてどうなのだろう、というくらいにヤバい。
 つなぎなんかは、あちこち変な色に染まって汚れているし、恐らく作業中にミスったのか頬に赤い染料が付いている。あーもう、子供が心配なのはわかるが、もう少し自分の身を顧みてほしいわ、うん。なんて現実逃避をしてみるが、血走った眼でこちらに詰め寄る母上の言葉には逆らうことはできなかった。
 


「はい……母上。自分で自分の頭を、大地に向かって激しく叩きつけることで、この世に生まれ出たことを感謝しておりました」
「っ……ぁほかぁあああ!!」
「ぎゃんっ!!」 



 我が母上の拳骨は北斗が岩山なんちゃらという奥義に匹敵するくらいの威力があるのではないか、と俺は常々推測している。
 しかしげに恐るべきは、頭をしこたま叩きつけて気絶したという息子の頭に、躊躇なく怒りのチョップを振り降ろす我が母上よ。なんの戸惑いもないとはこれいかに。



「い、いたいでおじゃる」
「当り前でしょう! もうホントにこのバカ息子はっ! 幼稚園の頃はもうこれ本当に私の子供かしら?ってくらいに頭良かったのに、小学校に入った途端こんなバカな子になるなんて――――あれ? でもそれで成績落ちてないアンタってやっぱり頭いいのかしら?」
「褒めたいのかけなしたいのかどっちなのでせうか母上殿!?」
「まいいわ。とにかく病院行くわよ。変にぶつけたせいで頭になにかあったら大変なんだから」
「いや、恐らくこの痛みの半分以上は今の母上のチョップのせいかと存じ上げますがいかがでございましょう」
「やかましい。ただでさえ私の大切な作業時間削ってるんだからちゃっちゃと動きなさい。なんだったら、アンタのコレクション、全部私色に染め上げてもいいんだけど?」
「粉骨砕身、疾風迅雷の勢いで準備させていただきますっ!」
「ほら、アンタの鞄。来る途中、可愛らしい黒髪の女の子が準備しててくれたから、後で感謝しておきなさい」



 はぁ、といつもの溜息をつきながら、ぽいっと鞄を投げつけられた。
 何なくキャッチして中身を見てみると――――あれ、なんか荷物増えてる? 置き勉してる教科書とかがいつの間にか増えていて、気持ち普段よりも2割増で重い。
 ていうか〝可愛らし〟くて〝黒髪〟な女の……子っ!?



「そ、それってもしや腰まで長くてちょっとウェーブかかってる絶世の美少女でございやがりますか!?」
「そうでございやがりますよこのバカ息子。ていうか何、アンタ惚れてんの、あの子に?」
「どきーんっ!? そ、そそそ、そーんなことあるわけねーじゃねーんですかー? あーんま馬鹿なこと言ってると小じわと染みがシャーレの上で培養される大腸菌のように爆発的に増殖すんぞチクショウ!?」
「……あー、やっぱりアンタはそういう子だったわよね。なんで小学生が大腸菌だのシャーレで培養だのを知ってるのかは今さらすぎるから突っ込まないけど、その態度はアンタ、バレバレよ?」
「―――――なん……だと……!?」



 本日二度目の驚愕入りましたーっ!
 そして、母上のその言葉は俺のグラスハートに罅を入れるどころか、粉砕機にかけられたプラスチックランナーの如く粉々に砕いてくれやがりましたー!



「なによアンタ、もしかして今まで気づいてなかったの? うわーはずかしー♪ もしかしなくとも、アンタの恋心クラスのみんなに筒抜けねー?」
「の…………のぉおおおおおおおおおお!?!!」




 目の前が真っ暗になり、同時に脳裏から様々な自分の過去の姿がよみがえる。
 あぁ……そう言えば、今まで誤魔化せてたと思ってたあれやこれや全て、今みたいな反応だったっけー……あはは、あは…………。
 それでも世界は止まることなく回り続けていた。未来はすでに始まり、止まることを知らずに時計の針を推し進める。その中で私の絶望だけが足を止め、ひたすらにその足跡を振り返るのだ。何故もみ消さなかった。何故あちらの方へ歩かなかったと際限なく呟きながら。
 (訳:気が付いたら病院にいて、検査のために仰々しい機械に括りつけられていました。その間僕は過去の自分の行いを悔やんで悔やんで悔やみまくって、結局開き直ることにしました)
 ……………合掌。











「あーちくしょう。あの呑気な夕日が憎い」



 検査の結果もオールグリーン、極めて健康体(頭部のたんこぶ及び擦過症を除く)であると太鼓判を押された俺は、とりあえず軟膏だけを受け取って病院を後にしていた。
 ちなみに母上は先にタクシーで作業場へとリターンしている。なんでもインスピ湧いたから早くそれを形にして残しておきたいんだとか何とか。
 ともあれうるさい輩もいなくなって、ようやく訪れた俺の心の平穏と言ったところだろうか。何よりも、本日のお仕置きが保健室でのチョップだけだったというのが奇跡に等しい。
 万が一、インスピ湧いて集中し始めた頃に呼び出そうものなら、折檻コース満漢全席、一週間缶詰食事とかザラだからな。あぁ恐ろしいぜ女は。
 あと、惜しむらくはこの額にまかれた仰々しい包帯か。まぁ、変に入院するはめにならなかっただけマシと言うものだろう。
 自分で言うのもなんだが、割と全力で自分の頭かち割るつもりで頭突きかましてたからなぁ……よく擦過症とたんこぶだけですんだもんだ。えらいぞ俺の石頭。
 これならどんな不良が相手でも必殺の〝ド魂〟を叩きこめるな。ウス、俺、がんばるっす。



「あ、ほんだくんいたー!」
「おろ、高町じゃん。それにす――――月村さん?」
「しばらくぶり。頭、大丈夫だったの?」



 病院から出た俺は、二人の友人に暮れゆく茜色に照らされた、病院の入り口前で出迎えられた。
 話しを聞くに、ついさっき到着したらしい。高町なんかは「もうあちこち探しちゃったよー」と意外に耽美な柳眉を曲げながらげっそりとぼやいている。
 ていうか、すずかちゃんのセリフ、聞き様によっては結構酷い言いようかもしれない――――が、それも、ディモールト・イイっ! なにより彼女に〝心配された〟! その事実だけでもグレィト!
 ……いやまぁ、実際あんなことやらかしゃ、誰だって「こいつ頭大丈夫か?」って疑いたくもなる。俺だったら疑うもん。そしてわかっておりますとも、今後すずかちゃんの前で土下座はタブー。多分、次やったら絶対に嫌われる。そんなことになったら俺の生存意義が失われてしまうので、そのアクションはバッドエンドルート直行です。
 ともあれ、元気な姿を見せることはやぶさかではない。



「おー、本田さんがこの程度でおしゃかになるなんて甘甘もドロ甘。いやむしろチョロすぎて甘いからチョロ甘ですよ!」
「……まぁ、そんなことだろうとは思ってたの」
「本当に大丈夫? その……かなり激しかったから……」
「ぶっ―――!」



 まるで脳天を打ち抜かれたような衝撃でした。
 


「ほ、本田君?」
「――――だめ、月村さんそれはいけないっ! いいかい、男の子に向かって〝激しかったから……〟とかもじもじしながら言うと、とてもすごく大変な問題が起きます! 主に俺が!」
「え……えっと?」
「まぁつまりは本田さんはガチで丈夫なので問題ないというわけです。だから別に激しくなんてないのです。あぁチクショウ、俺ってば汚れてるなぁ……」



 しかし直後に自身の汚さを思い知って地面に突っ伏した。
 中身元二十うん歳の身としてはしょうがないのだが、しかし相手が純情可憐の化身である少女の場合、自分の汚れ具合がダイレクトに帰ってくるためダメージがハンパない。まるでリフレクションに二倍効果つけられたみたいだ。



「……って、あれ? 高町、そのハムスターどうしたの?」
「ハムスターじゃないの、フェレットなのっ!」



 いい加減、跪きっぱなしも芸がないのでぽんぽん埃を払って立ち上がった俺は、ちょこんと肩の上に乗っている妙な動物の存在に気がついた。
 狐を連想させる色合いと、遠目から見てもわかる艶のいい毛並み、BB弾くらいだが吸い込まれそうな翡翠色の瞳はひときわその愛嬌を際立てている。
 後ろ足で器用に立ち上がったソレは、パチクリと瞬きをしながら俺を見つめていた。なんだこら、人間様に喧嘩売ってんのかばかやろう!?
 しかし人間様がわざわざこんなげっ歯類に牙をむくのも大人げない。ここは一つ、動物の先輩として威厳を見せつけるように鼻で笑ってやった。
 


「なんだ、動物飼えないから悔しい、って昔言ってたのに」
「お母さんが特別に許してくれたの! えへへー、いいでしょー♪」
「まだ根に持ってたのか、あのこと……」
「あたりまえだよっ! ほんだくん、ここぞとばかりに私のこといじめるんだもん!」
「嫉妬深いと臍周りが黒くなるんだぜ。一週間後、そこには臍の周りが真黒になった高町の姿が……っ!」
「な、ならないよ! それに私、別にシットなんてしてないの!」
「ほー、へー? どうだかー? こないだ四字熟語のテストで負けたからってすげぇ悔しがってたじゃんか。ぷぷぷ……〝全力全壊〟とか、お前しか思いつかないセンスだよ。というか、よく〝壊〟って漢字知ってたな?」
「も、もぉ~~っ! すずかちゃーん、ほんだくんがいじめる~!」
「あはは、よしよし。本田君? あんまりからかっちゃだめ、って言ったじゃない」
「すみません。調子に乗りました」
「私の時とすごく反応が違うよ!? うう…………は、早くアリサちゃんを元に戻さないと、私がダウンしちゃいそうなの」
「どんまい高町。まぁ明日があるだろ、多分」
「ほんだくんのせいだもん! 少しでも申し訳ないと思うんだったら意地悪しないでよー!」
「それはそれ、これはこれ。大人の事情によりカットでお送りします」
「……う……ぅう…………うにゃーーーっ!」
「な、なのはちゃん落ち着いて!」
「なの次郎殿がご乱心召された!? 皆のモノ、にげませいー!」



 警戒心むき出しの猫の如くがなり始めた高町の魔の手から離れるべく、俺は迷いなく走り出した。
 それによって距離を離されたせいで俺を捕まえるのを諦めたのか、その無念をぶつけるようにすずかちゃんに高町が抱きつくのを尻目に、俺は50メートルほど先の駐車場入り口のあたり――ここは病院の入り口からも近いので、人通りが多い――で立ち止まって息を整える。
 あーびっくりした。ちょっとからかいすぎたか?
 まぁ、どちらにしろこれ以上下手に近づいてかまれては堪らないからな。どうせここらへんで待ってれば、落ち着いた高町を連れてすずかちゃんも追い付いてくるだろう。
 本音? もちろん、すずかちゃんと顔を合わせるのが気まずいからにきまってるじゃーないですかー♪
 …………あーもう、本当にどうしましょう?
 今日はすずかちゃんに変に迷惑かけっぱなしだ。だからこそ、ここは素直に謝罪と感謝を述べるべきなんだろうけど――――しかしここにきてくだらない〝男の子〟の羞恥心がそれを邪魔してくれている。
 あれだ、思春期によくありがちな〝あやまるの、カッコワルイ〟的な。



「……アホですか俺っ!」
「そうですね、ソレに関しては私も同意見です」
「ってなんか出たぁああああ!?」
「ごきげんよう、時彦君? いえ、どちらかといえば、しばらくぶり、かしら?」



 どこから現れた、もしくはいつからそこにいたのか、気がつくと隣にゴールドベアー(豹変版)が立っていた。
 聖祥大付属の白いワンピース型の制服を皺なく着こなし、膝の前で両手で鞄を持ちながら背筋をぴんと伸ばして立つその横姿は、いつも見慣れているそれでありながら、やはり雰囲気とその口調は俺の記憶のソレとは全然違っていた。
 特に、口調からは普段感じるとげとげしさが全然ない。気持ち悪いくらいに。まるで腕のあるミロのヴィーナスみたいだ。
 


「……なんでここにいるんでせうか」
「すずかとなのはの二人と一緒にお見舞いに来たのですけれど……ちょっと眩暈がしてしまって。車の中で少し休んでいたんです」
「貧血か? 普段からほうれんそう食べないからそうなるんだぞ。好き嫌いいくない」
「してません。どちらかというと私、草食嗜好なんですけれど?」
「……だめだ、やっぱりお前じゃ調子が出ねぇ」



 何故か無茶苦茶疲れた。この短い会話だけで、一日分の体力をごっそり持ってかれた感じがする。
 


「人の顔を見て顔をしかめるのは、あまりよろしくない態度だと思うんですけれど」
「今のお前じゃしょうがない、って言ってんだ。……ったく、いきなりその〝お嬢様〟っぷりはどうしたってんだよ。何があったんだお前」
「何って……私は別にいつも通りですけれど? むしろ、時彦君こそどうしたのですか? 普段より元気がないようですし」
「……素で言ってんのか、それ。だとしたらマジで重症だぞ、お前」
「まぁ! 相変わらず失礼な物言い。いつも言っておりますけれど、レディーに対する気遣いが足りていませんよ?」
「どこでそんな変な物言い覚えたんだよ、ホントに。あーくそ、滅茶苦茶疲れる……」



 こめかみのあたりがずきずきと痛みだしたのは、きっと頭突きだけが理由ではないだろう。
 そうやって俺が目の前の金髪お嬢様のせいで頭を痛めていると、ぐすぐすと鼻をすすりながら目尻に大粒の涙をため込んだ高町と、それをなだめるように頭を撫でるすずかちゃんが追いついてきた。まるで手のかかる妹の面倒をみる姉のようで、しかし様になっているその姿に俺は納得する。
 ていうか、やっぱりこの四人の中だと、高町が一番妹っぽいよな。家でどうしてるのかは知らんが、手がかかる妹、って感じで思わず――――いじめてあげたくなる。
 


「――――ほんだくんのばかぁああ~!」
「あらあら……大丈夫ですか、なのは?」
「アリサちゃん聞いてよ! ほんだくんったらひどいの!」
「心外な。俺ほど優しくて頼りになるお兄さんはいないぞ。さぁ、お兄さんの胸に飛び込んでおいで! 全力で避けるけど!」
「ぜったいいやっ! アリサちゃん、早くこの人なんとかしてぇ~……ぐすっ……」
「あぁ、泣かないでなのは。きっと時彦君も悪気は―――えぇと、その、まぁ多少と言うか、それなりにというか……」
「おおありだよっ! うぅ、ごめんねアリサちゃん。いつもこんな苦痛の中で耐えていたんだよね……なのは、今日一日でアリサちゃんの苦労を思い知ったの……ほんだくんは悪魔です……」
「酷い言い草だな、お前ら」
「本田君、自業自得だよ?」
「はがぅぁっ!?」



 すずかちゃんの、かいしん の いちげき!
 はぁ、と呆れに呆れたように溜息をつくすずかちゃんの言葉と態度に、俺は本気で目の前が真っ暗になった。
 いや確かに、今日はマッド・ブロンドの豹変の所為でストレスがたまりまくったおかげで、それを高町で発散しているのは自覚している。それにかなりやりすぎたことも。
 とはいえ、すずかちゃんに溜息をつかれてしまうほどだとは自分でも気付かなかった。いかん、相当疲れているらしい。
 これ以上すずかちゃんの中にある俺の心象を下げないためにも、今日は早く帰って寝てしまった方がよさそうだ。明日のことなんか考えない。若さは振り返らないことだって、ばっちゃが言ってた!



「……俺、今日はすごい疲れたよ。早く帰って寝るわ」
「あ、少々お待ちを、時彦君」
「んぁ、なんですかもう。本田さんは疲れて頭が痛いのです。じんじんするのです」
「それは貴方が床に頭突きしたからでしょう。自業自得です。とにかく、お話がありますので、少しお時間をいただきます。よろしいですね?」
「……ちょうどいい、俺も貴様に話がある」



 なんとも強引だが、その強引さがちょっぴりいつも通りのこいつらしい態度で、俺は少しだけ安心した。どうやら、本質はいつもどおりらしい。
 それに、すっかり忘れていたが、そう言えばこいつには俺のトップシークレットがバレにバレているはずだった。ここで話があるというのならばちょうどいい。しっかり釘をさしておくことにしよう。
 ……べ、別にパツロリの静かな剣幕に圧されたわけじゃないんだからねっ!



「そうなの? 別に、私は待っててもいいんだけど……」
「私もだいじょうぶだけど……でも、そろそろ帰らないとお母さんが心配するかも」
「鮫島に送らせます。それに、少し長くなってしまうかもしれませんので……ね、時彦君?」



 急にこっちに話題を振るなゴールド・ベア―。そう言いたいのをぐっとこらえて「いんじゃね?」とぞんざいに返す。
 なんていうか、照れとか狼狽とかそんな以前に、こいつと話してると歯車が噛み合わねぇ。
 あれだ、キャッチボールをしているとして、普段は変な方向に投げまくるから警戒して待っているのに、今日に限って直球ど真ん中に投げまくってこられる感じ。
 肩すかしを連続で食らいすぎて、本当にこのまま直球が続くのか、あるいは突然いつも通りの変速珠が飛んでくるのかとびくびくしている、みたいな。
 そして俺がそんな風にやきもきしている間にも、宿敵バニングマはすずかちゃんと高町に話をつけたらしい。二人は少し心配そうに妖怪アリサギに挨拶を残し、バニングス家の車へと乗り込んだ。
 すずかちゃんにはちゃんと「本田君、また明日ね」と言ってもらえたけど、高町の野郎は「ほんだくん、べーっ……だ!」とかやってきやがった。
 ふ……ふん! お子様な奴め! 別に悔しくねーもんねー!
 


「……なのはにアレだけ敵意剥かれるなんて、一体何をしたんですか、時彦君」
「つい、過剰な愛情を注いでしまったようだ……ふ、罪作りな男だぜ」
「では、向こうにちょうど喫茶店がありますので、そこでよろしいですか?」
「全力スルーですかそうですか。好きにするがいーですよえーどうぞご自由に」
「ほら、行きましょう」



 半ば投げやりな俺の態度もなんのその。まるで「想定の範囲内です」とでも言いたげなくらいに涼しい顔をして、金髪の幼女の顔をした死神は歩き出した。
 しぶしぶその後ろから付いていく俺。
 病院から出て五分ほど歩いただろうか。
 海鳴の中心からやや外れているとはいえ、総合病院ということもあるのか、周辺には色々と店が多い。
 文房具屋にコンビニに本屋。あと不動産とかなんとかごちゃごちゃと。
 それなりに区画整理されているから雑然とした感じはしないが、人通りが少ないから物寂しさを感じる。
 そして、その喫茶店はそんな道を行った曲がり角、ちょうど大通りに面した所に存在した。
 全体的に白い装飾。
 店内は広くスペースをとってあり、全体的に涼しい色合いで統一されている。



「〝C.Cubic〟……ね」
「どうかしましたか?」
「いんや? どっかでみたことあるなー、って思っただけ」
「以前来たことがあるわけではないのですか?」
「当たり前じゃん。自慢じゃないが、喫茶店なんぞ高町の家以外にいったこともない」
「……本当に自慢になりませんね」
「えへん」



 なんか溜息つかれた。なんやねん一体。
 店内に入り、可愛らしいチビな(小学生の俺が言うのもなんだが)女性の店員さんに案内されて、俺達は窓際の席に案内された。
 最初バニングマと俺を見てびっくりしていたみたいだけど、意外としっかりしたバニングマの態度を見て考えを改めたのか、特に何も言われることなく案内されてしまった。ていうか、普通こんなあからさまに小学生な二人組がやってきたら怪しく思わないか? この町は小学生に寛大すぎる。いや、むしろ大人びた小学生が多いのかな、これ。
 お互いにホットのキャラメルミルクを頼むと、形容しがたいくらいに気まずい沈黙が二人の間に降り積もった。
 ヤツは礼儀正しく椅子に座ったまま、ジーッと窓の外を眺めている。
 いつもならばそこに頬杖をついて、とう修飾語が入るんだが、現在お嬢様モードなためかそんなお行儀の悪い作法は一切する気配がない。もはや何度目かもわからないが、一体コイツどうしたってんだ、マジで。
 一方、俺はちびちびとコップを傾けて水を飲みつつ、時折氷を含んでかみ砕いたりして暇を潰していた。
 話ってなんだろーいやていうかまずどうやってこいつに口止めしようーもし脅されたらどうしよう―などと益体もない考えが浮かんでは消えていく。
 結局、それはぐるぐるとメビウスの輪のように途切れることなく頭の中で繰り返され、それが止まったのはキャラメルミルクが届いて、ヤツが口を開いてからだった。



「一つ、お伺いしたいのですけれど」
「……あにさ」


 
 この時になって、パツキンジョンビーは俺へと顔を向けた。
 同時に、俺は思わずドキリと鼓動を跳ね上げる。
 こちらを見つめる視線は真剣そのもの。まるで鷹の眼光のように鋭いまなざしを向けられ、これが冗談や茶化しを交えてはならない真剣なものであるというのを無理やりに納得させられる。
 なるほど、大企業の娘というだけはあるな。常々他の奴らとは一線を画してしっかりしてる、とは思ってたけど、ここまでとは予想外だった。



「今日の私は、そんなに変でしたか?」
「……わかってて聞いてんの、それ?」
「質問に質問で返さないでください」
「……いや、そりゃ、なぁ? ていうか、なんでそれを俺に聞くんだよ。月村さんとか高町に聞けばいいじゃんか」



 質問の意図がわからなかった。
 それを聞きたいならば、むしろ長年の親友に聞いた方がいいだろうに。
 というか、そもそも気付いていたんならさっさと演技を辞めればいいだけだと思う。もしくは、本気でイメチェンしたくてこんなことをやっているのかもしれないが、十中八九、親友二人は「いつものアリサちゃんが一番だよ」と返すだろう。そのぐらいは、この馬鹿でもわかっているはずだ。
 だからこそ、意図が読めない。
 アリサは、少しだけ悩んだ素振りをすると、静かにカップを傾けた。
 ほんのりと甘い香りが二人の間を漂う。まるで、食虫花に誘われた虫のようだ、と俺はくだらないことを考えた。



「だって……私は、こうだったとしか、覚えていないのです」
「……はぁ?」



 とぎれとぎれのその告白に、俺は思わず耳を疑った。
 待て待て、一体何を言い出すんだこいつは。
 


「ですから、私にとっては、今の私がいつも通りの私なのです。皆さんの言う〝乱暴で言葉遣いが荒い〟という態度だったなんて、信じられません……」
「……マジなのか、それ」



 さすがに、この状況でこいつが嘘をついているとは思わない。
 俯いて、微かにその肩を震わせているのが全て演技だというのならば、こいつは将来ハリウッドの大スターになれるだろう。
 ここまでくれば、俺とていつものようにふざけるわけにもいかない。
 いくら子供っぽくなったとはいえ、これでも人生経験はこいつらの二倍――――いや、三倍はあるのだ。メリハリをつける場面くらいはわきまえている。
 
 

「はい。私は、自分でも今の自分を〝いつも通り〟だと思っていますし、何より皆さんの言う〝昨日までの私〟ということの方が信じられません」
「――――ファッキンゴッド死にたもうれ」


 
 カップをひっくり返さなかったことを、俺は褒められるべきだろう。
 大げさ?
 大仰?
 わざとらしい?
 ノンノンノン。これマジで。ときちゃん本気。
 冗談じゃない、とばかりに俺は額を覆う。本当にやってくれたぜ。アレか、俺は前世でそんなに悪いことをしましたか。えぇ神様よ?

 ・たった一日だけで性格が豹変した。
 ・しかも、それが今までずっと〝普通〟であったという認識。
 ・周囲は変化したと思っているのに、本人は変化していない。

 ……こんな頓珍漢な事態、普通の人が聞いたら臍で茶が湧くくらいくだらない話に聞こえるだろう。
 だが、お生憎なことに俺は〝普通〟ではない。もうひとつおまけで、俺にはこの〝楽しい現象〟に一つだけ、心当たりがある。



「なぁ、アリサ」
「まぁ、今日初めて名前を呼んでくださいましたね。もう、いつも名前で呼んでくださるのに、今日になって突然酷い呼び方ばかりするんですもの……」
「待て待て、おい一寸待てそこのバニングマ。今なんつったコノヤロウ」
「もう、またそんな酷い呼び方。私、いい加減拗ねますよ?」
「いいから答えろ! つまり何か、昨日までの俺は、お前のことを〝名前で呼んでた〟ってことか!?」
「え、ええ……当り前です! だって、その、時彦君は私の―――――」



 なぁ、知ってるか?
 世界、ってのは一つの木からあちこちに、無限に枝を別れさせて分岐している。文字通り、無限に世界は存在する、っていう解釈があるんだ。
 これがいわゆる〝多世界解釈〟というものであり、そこには〝重なりあい〟という考え方が存在する。
 暴論してしまえば、全ての事象には〝ありえたこと〟と〝なかったこと〟が同時に存在している、ということ考えだ。自分がその現象のどちらに属しているかは、実際にその結果が出るまでは分からない、というやつである。

 ――――ちょっと回りくどいな。

 俺も男だ。もっと単刀直入に、シンプルに言おう。
 
 つまり、今俺の目の前にいる金髪の(見た目は文句なしの美少女)お嬢様は。
 


「――――許嫁なのですから」
   
 
 
 俺と同じ、別世界の人間だ。
 
 ディア、ファッキンシット、名も知らぬ偉大なる神様へ。
 俺は貴方が大嫌いだ。でも頼むからすずかちゃんとの初恋だけは、散らさないでくださいお願いします。










 





















――――――――――――――――――――――――――――――――――
アリサ、実はトリッパー。

今回は迷走しました。ノリで書くからこうなる。
ついでにチラ裏からいどうしますた。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02644681930542