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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 作戦と演技とヒロイン体質
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:96b828d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:39

 
 気がつけば、既に太陽は西の空にその半身を沈めていた。
 天蓋は群青色が徐々にその勢力を伸ばし、西の空を染める茜色を今にも飲み込みそうなほどに拡大していく。
 そんな二色のせめぎ合い(とはいっても、片方は一方的に追いやられているが)の空の下、相変わらずフェイトの金髪はアリサと同じく、この上ないほどに映えていた。
 ルビーのように赤い双眸が、静かに俺を見つめている。どこか戸惑いながら、しかし勤めてそれを表に出さないように努力しているのが見て取れる、そんな下手なポーカーフェイスが、何故か笑えた。

…………えー、そんなシリアスな雰囲気の中突然ですが、問題です。



 Q:魔法少女が変身した後って、着てた服はどこにいくの?



 古今東西、魔法少女は変身する、というのが常識である。
 杖やらコンパクトやらなにやらを振りかざしてテクマクマヤコンな台詞と共に変身するシーンは、時の少女ならずとも色恋に目覚めたりちょーっとばかし女の子を意識し始めた微エロぃ少年諸君にとって、親の前でも公然とガン見することができた貴重なエロシーンだったことだろう。
 ……何? そんなの俺だけ? 嘘つくなよボーイ。俺にゃぁわかってんだぜ。
 で、だ。
 問題なのはその変身の後。まばゆい光とともにロリロリな、時にはアダルティだったりセーラーだったりな衣装に身を包んだ後のことである。
 明らかにそれまで来ていた服とは違う服に代わっていると言うのに、それまで来ていた服はどこに消えたというのか。
 これは常々、つまり前世の段階から疑問に思っていた事でもあり、特に今世において身近に魔法少女が出てきてしまったことで、その疑問は並々ならぬ好奇心を俺に与えることとなった。
 その答えが今――――明らかになろうとしている事に、俺は気付いていなかった。
 


「あ―――」
「ん?」



 それまで真剣なまなざしで俺を見つめていたフェイトが、ふとその顔を真っ赤にした。
 いや、というより、俺から視線を逸らした拍子に目に入った何かを見て、の反応だ。
 ……ここで迂闊だったのは、俺が極々反射的に同じように視線を移してしまったことだろう。
 確かに、誰かが驚いた時、ついその視線を追ってしまうのはほとんど条件反射と言って良い。むしろ当たり前過ぎて責められる要素なんてないはずだ。
 だが、それはあくまで〝一般的に考えて〟の話であって、すくなくとも魔法少女が世界を終焉に導きかねない物騒極まりないモノを封印した後、なんていう特殊な条件下での話ではない。さらに詳しく言えば、女の子が動物化した原因を排除した後、などというピンポイントでやばい状況は度外視した上での話なのだ。
 そして今は、まさにその特殊な条件下であり、同時にソレは、俺に一生忘れ得ぬ記憶を刻みつけることを意味していた。



「なんだよフェイト、いきなり固まったりし――――」



 俺が言葉を飲み込むのと、あまりもの状況に息をすることさえ忘れたのは、ほとんど同時だったと思う。
 目に飛び込んできたのは、雪のような白さと、その上に微かに被さる菫色だった。
 そして俺の心を埋め尽くす感情は、ただ一つ。



――――ふ、ふつくしい…………ッ!



 それは例えれば、雪の化身。白の姫。幼き女神の使い。
 ほっそりとしたうなじは菫色の髪に隠れるも、子供特有の丸みを帯びた体のラインに、僅かに〝女〟の匂いを感じさせる艶やかさを孕み、恥じらいと言う名のスパイスが極上の美を彩る。
 四月も半ばとなれば、多少暖かくなって来るとは言え、それでも夕方にはそれ相応の冷え込みを見せる。寒い日の風は肌に突き刺さるほどだし、迂闊に薄着で出歩けば翌日風邪をひくなんて珍しくもないくらいだ。そんな春の夕方に素肌を晒そうものならば、寒さで鳥肌を立たせても仕方ないと思うし、その寒さを和らげるために体が無意識に震えてしまうのも無理はないだろう。
 それ故に自身の身体を抱きよせるように腕を回し、少しでも身体を寒さから守ろうと身じろぎする姿は、俺を精神崩壊に導いて余りある破壊力を持っていた。
 だが、それでも腕で隠せる面積には限りがある。両手を胸に、両脚をすり合わせて見たところで、隠せるのはほんの一部なのだ。つまり、ほんの少しだけ俺は天国を垣間見た。桜色の丘と、一筋の花開く前の蕾を。
 俺は、再び訊ねよう。

 

 Q:魔法少女が変身した後って、着てた服はどこにいくの?
 
 A:きっと、メルヒェンなどこかに仕舞われているのさ♪










                           俺はすずかちゃんが好きだ!










「ほ……ほんだ、く……ん?」
「ぁ……ぁが……」



 目と目がばっちり会う。
 その髪と同じ菫色の瞳を微かに震わせて、抱き寄せた腕に力を込める姿を何に例えよう。筆舌に尽くしがたいその美しさは、間違いなく俺を狂わせ、そして酔っぱらわせている。
 つい先ほどまで俺の胸の中で抱かれていたのは誰だったか。
 そして今俺の足元で、目尻に大粒の滴を滲ませて俺を見上げるのは誰か。
 どこか遠い世界に旅立つ意識の中、俺ははっきりとこの脳に刻み込んでいた。
 これほどの衝撃を受けたのはいつ以来だろうか。すずかちゃんの家にお泊りしに行った日―――いや、あの夕暮れの中、唐突にキスされた時に勝るとも劣らない。
 しかし、同時に俺は本能で理解していた。いつまでもこうしてはいけない。本当の紳士であるならば、一刻も早く、刹那を超えてこの状況を変えねばならぬと。
 気がつけば、俺は着ていた上着を引きちぎらんばかりの勢いで脱ぎ捨てて半裸になると、首から嫌な音が聞こえるほど思いっきり右を向いて、脱いだ服をすずかちゃんの方へと差し出した。
 ……そう、すずかちゃんに、である。ついさっきまで俺の胸元にいた、ほんの数秒前まで猫だったはずの、マイラブリーゴッデスすずかちゃんに。
 だって、ぜ、ぜん……いや、生まれたままの姿なんだぞ!? 眼福うんぬん以前に犯罪の匂いがしてくるわっ!!!
 


「ご、ごめっ……これ、これ着て!」
「え、あ……りが、とう」



 現状を把握しきれていないのか、あるいはあまりもの事態に混乱しっぱなしなのか。
 おそらく後者だとは思うが、普段の冷静なすずかちゃんからは想像もつかないような茫然とした返事が返ってきた。
 ただ、それと同時に差し出した上着を受け取ってくれたことから、完全に思考がフリーズしているわけではなさそうなのが救いと言えば救いなのかもしれない。
 ……いや、待てよ?
 猫化が解けたすずかちゃんがこの状態ってことは……。



                 「こっち見たらブッコロスわよ」 
「まさか、アリサと高町のや――――――――――――――――――――――――――あい、まむ」
                 「だめぇっ! こっち見たらでぃばいんばすたーするよ!?」



 行動を起こす前に突如飛んできた、冗談とは思えない、物騒極まりない台詞の御蔭で俺の命は保たれた。つーか高町の奴、最近俺に対して無性にディバインバスターブチ込みたがってるように聞こえるのは気のせいだろうか。気のせいだよな。そう信じたい。
 しかし、となると今の台詞からするに、二人ともすずかちゃんと同じようにマッパなのか。ボーンスタイルなのか。
 ……ぶっちゃけすずかちゃん以外どうでもいいんで、正味な感想「フーン」って感じだな。さっさと服着て欲しいところだが、生憎貸せる服は既にすずかちゃんに渡したので、あいつらに貸す分はない。
 かといって、あのまま放置はあまりにも外道というものだ。どうにかしてやらなきゃ――――と悩んでいたところで、ふと思い出した。



「そいや高町。お前、魔法で服みたいなの着れたよな?」
「……あ! バリアジャケット!」



 普段のドジっぷりの所為で忘れられがちだが、こう見えて高町の奴は思考がスムーズと言うか、直感が良いと言うか……とにかく、すずかちゃんやアリサに並ぶほど頭の回転が速い。
 ホント、もう少しドジな所を改善すれば、それなりに完璧超人(文系科目除く)になれるのになぁ。実に惜しいヤツである。
 


「えと、レイジングハート、バリアジャケットの展開、アリサちゃんとすずかちゃんの分もお願いできる?」
≪No problem.≫
「よかった! それじゃ、セットアップ!」
≪Set up. The barrier jacket is developed.≫



 後ろで眩い桃色の光が迸ったのと同時に、俺の真下にいたすずかちゃんが、いつも高町を包んでいた桃色の光を纏う。
 それは本当に一瞬の出来事で、眼を焼く桃色の光は一秒にも満たなかった。そして、その光が収まった後には、先程の衝撃的な艶姿から一変したすずかちゃんの姿があった。
 ちなみに、見ていいかと聞かなかったのはひとえに俺の自制心が耐えきれなかったからだ、と捕捉しておく。
 


「わ……すごい。普通の服みたいなのに、全然寒くない」
「おおう……マーヴェラス」



 白いワンピースは聖祥大付属をベースにしたもので間違いない。
 しかしながら、高町の纏うそれとは細部が異なっており、よくよく観察すれば、それがどれだけすずかちゃんの個性を露わしているかよくわかると言うものだった。
 本来ならば青く装飾されている手甲と、ワンピースの随所にみられる青いラインが、すずかちゃんの髪の色である菫色にアレンジされている。
 そしてなによりも、その胸元を飾る群青色のリボン。小さすぎず、大きすぎずのそれは、しかし確固とした自己主張をする事で、すずかちゃんのパーソナルカラーを表している。
 全体的に寒色系なのが高町と比べた場合の大きな違いで、杖こそ持っていないが、十分魔法少女的な見た目と言えるだろう。


 あぁ……あぁちくしょうっ! なぜこんな時に限ってお子様ケータイなんぞしか持っていないのかっ!! 


 デジカメなどという高尚な物を、とは言わない。だが、もし普通のガラケーでもいいからこの場に持っていたならば、と心の中で血涙を流して俺は悔しがる。
 昨今、カメラ機能が携帯にデフォルトで搭載されるようになってはいるものの、お子様用ケータイは単純にメールと電話、そしてGPSといった所在位置が割れる機能という最低限の物を残し、その他の無駄な機能は一切合財省く事で脅威の格安お値段となった機種が主流となっている。
 無論、中にはカメラ機能も搭載されている機種だって存在する。だが、ガラケーが無理ならばせめてカメラ機能だけでも!とねだった俺に返ってきた母上の返事は、



『シャッター音消すように改造するようなアンタに、そんなもん持たせられるわけないでしょ』



 という無碍なるものだった。
 確かに……確かに俺は母上の携帯を勝手に改造してシャッター音を消すようにした挙句、後始末の不手際でメモリを全て吹っ飛ばした前科がある。
 だが、それはあくまで純粋なるすずかちゃんへの想い――――いや、ピュア極まりない、しかしながらどうしても表に出す事の出来ない『恥じらい』の現れだっただけだ!
 決してやましい気持ちですずかちゃん本人に隠れて盗撮したいとか、思いのままに麗しき初恋のポートレートを量産したいとか、半端ラブチキンな俺の恋心を慰めるためだとかのためではないッ!!
 例えるなら――――そう!! 今まさにこの瞬間、いや、今も含めたこの一連の流れ! 
 過去の偉人が残した〝一期一会〟という言葉が表すように、その瞬間にしか巡り合えない、人生に置いてたった一度のシャッターチャンスを永久保存したいと言う純然たる願いのみっ!
 あぁ神よ。貴方はそんなにも上げては落とすという鬼畜なイジメが大好きなのか。死んでも恨んでやるぞ畜生。

 ここまで思考する事数秒。
 
 そんな筆舌に尽くしがたい悔しさを心の中で噛みしめている間、俺は当然のごとくすずかちゃんをじーっと凝視していたわけで。
 気がつけば、すずかちゃんを俺を上目づかいに見上げながら、小さな声で困ったように訊ねてくるのであった。 



「あの……どこか変、かな?」
「へ!? あ、いや、むしろその反対であんまりにも可愛いモノだから見惚れて――――」
「……え?」



 ――――って俺は何を口走っておるくゎぁああああ!?
 見ろよ、あんまりにも気持ち悪い事言ったせいですずかちゃんドン引きじゃねぇか!
 思いっきり表情固まってるし、後ろのフェイトなんて口を一文字に引き結んで固まっちまってるよ! 
 後悔先に立たず。後の祭りとはこの事か。
 必死にこの場をどう誤魔化そうか頭を働かせるが、パニックに陥った俺の脳味噌様はむしろ目の前に広がるミロのヴィーナスをも上回る美の化身に心を奪われており、働くと言う前提からして不可能だ。
 そんな傍ら耳に飛び込んでくるのは、アリサと高町の「しっかし便利ねこれ。ちょっとなのは、これ私も使えないかな?」「うーん、どうだろう。アリサちゃんも魔力があればできるかもしれないけど……」「ホント!? よーし、じゃぁ今度アースラ行ったら検査してもらいましょ。もしかしたら私も魔法少女になれちゃったり……!」「にゃ、にゃはは……あ、でもアリサちゃん。昨日の検査の時何も言われなかったよね?」「うぐ……そう言えばそうだったわ。ってことは、やっぱり私には魔力はないのかなぁ」「で、でもでも! もう一度けんさしてもらったほうがいいとおもうの!」「そうね……そうよね! 諦めるのはキチンと検査してもらった後でもいいわよね!」等と言う、実に平和ボケした会話だったりする。お前ら頼むから空気読んでくれよ。
 


「あの………トキヒコ?」
「おーっとそうでしたー! すまんフェイトお前の事すっかり忘れてた!」
「忘れてた……」



 ズガーン、と器用にも肩の後ろに黒い線の垂れ幕を突くってショックを受けているフェイトを見て、面白いと思ってしまったのは俺だけで良い。
 いつまでもすずかちゃんとよくあるラブコメ漫画みたいなこそばゆい雰囲気を楽しみたいのが本音だが、しかしここに来た意味を忘れるわけにはいかない。
 何より、ジュエルシードの発動から時間的にはかなり経ったし、もう次の瞬間にクロちーが表れてもおかしくない。
 ……理由の半分に、すずかちゃんのドン引きしている姿から現実逃避したかった、というのが無かったかと言えば嘘になりますがね!



「それよりフェイト、覚えていないのか!?」
「……何を?」
「おれとおまがいいなずけで、おまえはおれのよめだってことだー」
「……………………はぇ?」



 棒というか平坦読みな俺の突然のカミングアウトに、フェイトは暫くの間何を言われているのかわかっているのかわからない、といった表情から唐突に顔を真っ赤にして目を皿のようにして驚愕した。
 まぁ無理もない。だってそんな事実、〝どこにもありはしない〟んだから。
 しかしここで手を緩める俺ではない。見せてやるぜ、俺の迫真(嗤)の演技!



「そのおれとおまえがなぜてきたいしないといけないんだー」
「え、あの、まってトキヒコ! いきなり、えと、いいなずけって、なにいってるの!?」
「……ねぇなのは。この馬鹿は〝これ〟で本気で演技してるつもりなのかしら」
「ものすごくひどい棒読みなの……」



 外野煩い。んなこたぁ昨日の鬼婆様の前でやらかした日から自覚してるんだよ!
 それよりも、ここにきてようやくフェイトは感情らしい感情を見せてくれたところから、今の演技(嘲)はかなり効果があったようだ。そしてこの反応は、今まさに俺にとって最高に予想通りのリアクションである。



「そんなーわすれてるってことはーやっぱりおまえはあの鬼婆に洗脳されてるのか!?」
「えぇっ!? ま、待ってトキヒコ! せ、洗脳ってなんのこと!?」
「……なんで最後だけ思いっきり素で言ってるのよ」
「きっとほんだくんにしかわからない理由があるんだよ。さっしてあげようアリサちゃん。ね?」
「あの、なのはちゃん。さりげなく、怒ってたりする?」
「あたりまえですっ! だって、ほんだくんとフェイトちゃんが結婚の約束してるだなんて……全っ然つりあわないもん!」


 
 外野がものすげーやかましいです。つーか高町、てめぇ後で覚えてろよ。
 で、まぁなんか後ろで散々な言われようだが……そう、これが今回の俺達の作戦だ。ていうか俺の、か。
 つまり、〝フェイトを俺の許嫁だとして、今のフェイトはあの鬼婆に操られている〟という〝設定〟である。
 こうすれば、仮にフェイトが犯罪者として捕まったとしても、あの鬼婆様に洗脳されていたot命令されていたという言い訳が立って、ある程度の情状酌量は貰えるだろう。
 これが地球人が相手だったなら、戸籍やらなにやらを調べられてすぐにボロが出るだろうが、お生憎と相手は宇宙人もとい異世界人様である。それをするにもある程度の時間がかかるだろうし、そしてそれだけの時間があれば、この事件を終わらせるには十分だと判断した。
 ……ただ、この案を提案した時、みんなに滅茶苦茶懐疑的な視線を投げつけられたのは当たり前だったと言うか、仕方がなかったと言うか。
 高町は「なんでほんだくんなんかとフェイトちゃんが、えーと、いーなづけ?とかになっちゃうの!?」とか頓珍漢な意味を含めた文句を垂れ、「それが嘘だってばれたらどうするのよ」というアリサの反論があり、おまけにすずかちゃんから「なんで本田君がそこまでするの?」と若干責めるような視線で咎められた。
 まぁ、知り合って一週間も経ってない相手に対して、この献身っぷりは異常にしか見えないのは仕方ないよな。
 俺だってフェイトがマイラバーにそっくりでもなけりゃ、ここまで頑張るなんて事はしなかっただろう。すずかちゃんを除けば、本当に例外中の例外だ。
 例えそれがフェイトにとって有難迷惑以外の何物でもなかったとしても――――あいつにとっての幸せが、あの鬼婆様に娘扱いされる事であり、そしてそれが決して叶う事のない願いだと〝わかりきっている〟以上、アイツを見放す事なんて俺にはできない。
 昨日あの鬼婆様と向かいあった時、俺ははっきりわかった。プレシアという母親は、やはりどこにいても自分の娘を愛する事ができない人間なのだ、と。
 前世でのマイラバーがそうだったように、この世界のフェイトもまた、決して自分の母親から愛される事はないんだ。
 それが俺の思い込みや、勝手な思い違いではないとは言い切れない。でも、いつまでも〝もしかしたら〟〝かもしれないから〟〝ここではもしかしたら〟なんて玉虫色な考え方をしていたら、いつか絶対に取り返しのつかないことになる。だったら、俺は例え独りよがりな決断だったとしても、俺が正しいと思ったことを俺自身の責任の基に行動する。それが、今だ。



「思い出してくれフェイト! あの日夜の学校で俺と交わし約束を! 〝ご飯とお菓子と美味しいモノをくれるなら、お嫁さんになってやってもいいぞ!〟とかいう俺を食糧庫としか見てない条件で承諾した約束を!」
「してないよ!?」
「婚約条件具体的過ぎる気がするんだけど。ていうかただの食糧庫扱い?」
「フェイトちゃんはそんな事言わないもん」
「ま、まぁまぁなのはちゃん。でも本田君、急に演技が上手になったね?」
「そういえば……なんかあるわね、あれは」



 即答されてしまった。むぅ、よそういじょーにせんのーがきょーりょくなよーだ。
 とまぁ冗談はさておくにしても、実はさっき言った条件、マイラバーが前世で俺に出してきやがった条件の七割だったりする。あの野郎、食い気だけはどこぞの島国の王様とタメ張れるレベルだったからな……。
 そして後ろでなんだか変なフラグが立ったような気がするが全力でスルーします。
 内心心臓ドキドキものでフェイトを見れば、そこには心底〝君が何を言っているのかわからない〟と言葉にできない驚愕に染まった表情で俺を見つめていた。
 ……正直気持ちはわからんでもない。俺だってすずかちゃん以外にこんなこと言われたら問答無用でけたぐり倒す自信がある。
 ともあれ、ここまですれば当初の予定としては十分だ。大切な事は二つ。フェイトが俺と深い関係にある関係者。フェイトが操られている可能性がある、の二点だからな。それを示唆できた今のやり取りは、作戦としては大成功の部類に入る。
 なにより、 



「妙な結界の所為で手こずったが、なんとか間に合ったな……時空管理局執務官、クロノハラオウンだ! そこの魔導師、武装解除して大人しく投降しろ!」
「ッ……管理局!」



 これ以上は、タイミング的に限界だ。フェイトが心底驚いたように振り仰いだ先には、黒いコートに鋼鉄が良く似合う、ぶっちゃけ俺達と対して身長変わらないのに歳上と言うある意味可愛そうな発育具合のお子様が空に浮いていた。
 言うまでもない、我らが待ちに待ったヒーローもといじくーかんりきょくのエース様、要はクロちーがようやくご到着したわけですよ。
 しっかし、こいつホント主人公属性だな。
 右手に持つ天使の翼の意匠が映える鈍色の杖をフェイトの方へと向け、左手を虚空にかざしてホログラフの警察手帳的なものをかざしている。
 その姿はどう見ても正義の味方なアレだし、格好と言い杖の装飾と言い、こう何かのアニメか何かで主人公がやってそうなイメージそのままだったりする。
 ……べ、別にカッコいいとか俺もやってみたいなぁとか羨ましいとかおもってないんだからねっ!?
 あ、あんなのをカッコいいとかさ、はん! アレだアレ、所謂厨二病ってやつだよ! 俺はもうそんなん卒業してるもんね! 小学生だけど大人だし? そうだよ別にあんなん憧れたりなんてしねーって。はは、は、はははは!
 ……すげぇ羨ましい。俺も超やりてぇ。こう、「動くな、○○だ!」みたいなのって、男なら誰しも一度は憧れるだろう!?
 まぁ、そんなわけで下から妬み光線を出していたら、ふとこちらを見たクロちーが物凄く微妙そうな顔をした。失礼な奴だ。
 


「ちょ、ちょっとほんだくん、クロノ君来ちゃったよ?」
「予定は変わんねぇ。戦闘を始めたらさりげなくクロちーの邪魔するんだ。魔法戦になったらお前だけが頼りだからな」
「う、うん……!」



 クロちーに聞こえないよう、高町と小声で今後の段取りを確認する。
 さっきまでの俺とフェイトの会話が今どんな効果をだしているかわからない以上、ここでフェイトが捕まるのは展開としてはよろしくない。
 そうさせないための札が、高町だ。
 最近はフェイトととも互角にやりあえるようになってきており、専門職のクロちーには敵わなくとも、少なくともフェイトが逃げ切れる時間程度なら稼ぐ事が可能だろう。
 勿論、最初からぶつかる気なんてない。物事には順序があるように、高町がクロちーの邪魔をするのはあくまでも最終手段だ。
 そのためにも、まずは世界平和への第一歩、即ち〝話し合い〟から始めるべきだろう。



「あの、クロノさん! フェイトは友達なんです、誤解しないでください!」
「友達……? しかし、先程彼女は君達からジュエルシードを」
「フェイトはあやつられてるんだー。だからおれたちからじゅえるしー……ぶっ!?」
「もういいからアンタ黙ってなさい」
「クロノさん、フェイトちゃんは事情があるんです! お願いします、もう少しだけ、様子を見て上げてくれませんか!」
「しかしっ」
「あの、クロノくん! さっきのジュエルシードだけど、奪われたんじゃないの! むしろさっきは私達を助けてくれたんだから!」
「……今だフェイトッ。俺達がうやむやにしとくからさっさと逃げろ!」



 俺達の必死の擁護に戸惑った隙を突いて、俺は背後のフェイトに向けて告げる。
 その間にもすずかちゃんに高町、アリサの三人が必死にクロノに向かって説得を試みており、当然〝敵〟を擁護し始めた俺達の突然の行動に戸惑いを隠せないクロちーは、その向けていた杖をどうしたものかと逡巡させている。
 それが大きなチャンスだった。
 前々からわかっていたことだが、アイツのすばしっこさは変態的と言って良い。高町とやりあってるのを何度か見ているが、ぶっちゃけ俺じゃアイツの動きを目で追うので精一杯だ。その行動に反応できている高町は素直にすごいと言って良いだろう。
 ……まぁ、あの戦闘民族鬼ー様の末妹なのだから当然と言っちゃ当然なんだがな。
 ちなみに、以前、高町のレイジングハートの映像でフェイトの動きを見た鬼ー様に話を聞いたところ、「あれぐらいならまだヤれる」と仰っていた。アンタの限界ってどこにあるんでせうか。ていうかホントに同じ人間なのか疑いたくなる人間ばかりだよね、俺の周りの人間って。
 
 で、まぁあれですよ。

 ここまではぶっちゃけ、多少のアクシデントがあったとはいえ、概ね予定通りだったわけだ。
 そう、ここまでは。



「――――ごめん」
「は?……って、ちょぉおおおお!?!」



 気がつけば、俺はフェイトに抱きかかえられて空を飛んでいた。
 一瞬にして10メートル以上も飛び上がり、そのままの勢いで俺――――と俺を抱えるフェイトは、資材置き場を離れていく。
 眼下には突然の事に目を白黒させるみんなが見える。
 高町は言うまでもなく、アリサもすずかちゃんも、そしてクロちーも。全員が全員、何が起きたのかわからない、とでも言いたげな表情で俺とフェイトを見上げていた。
 ……ってそんな冷静に観察してるバヤイじゃねぇって!



「おい、コラフェイト!? 待て待て、俺はお持ち帰りせんでええから!」
「母さんに、言われてるから。ごめんなさい……」
「あの鬼婆様が……? って、そうか! そいや昨日、俺から話を聞き出そうとしてたのを逃げ出したんだっけ!」



 そうだよそうですよ! 
 確か手段を選ばずに吐かせるとかなんとか、そんな物騒なこと言ってたよなあのおばさん!
 まさか昨日の今日で拉致させるとは思ってなかったし、つーかそもそも逃がしてくれたフェイトがわざわざ俺を捕まえに来るなんて想像ができていなかった。
 考えて見れば当然の事で、昨日のあの場は、単に俺が傷つけられそうだったから、その場しのぎで俺を逃がしたに過ぎないんだよな。
 フェイトが俺をあそこに連れて行ったのは、あくまでも俺の身の安全の保証が一応はされていたからだ。それは、昨日俺達を必死に逃がそうとしてくれた行動からも間違いない。
 ……いや、でも待てよ。
 このままもう一度会いに行っても、昨日の様子じゃどの道二の舞になるんじゃねぇのか?
 しかしそんな俺の憂慮を察したのだろう。フェイトは俺を抱える手にぎゅっと力を込めると、絞り出すような声音で告げた。
 


「でも、安心して。トキヒコは、私が絶対に守るから」
「…………守る、ったってなぁ」



 そのまま噛みしめた奥歯を噛み砕きかねないほどの渋面を浮かべて、そう言い切るフェイトに俺は何も言えなくなる。
 こいつがあの鬼婆様に逆らえないのは、よっぽどの事でもない限り無理だってのは身にしみて理解している。現に、こうして鬼婆様の命令で俺を拉致ってるわけだし。
 まぁ、俺としては昨日聞きそびれた話とかいろいろ知りたい事もあるんで、拉致されるのはある意味願ったりかなったりなわけなんだが。
 問題は、まるで予定になかったこの予想外の事態によって取り残されたみんなだ。
 まるで老年のおっさんのような諦観を覚えながら眼下を見れば、必死に追い縋る高町と、なにやら魔法を唱えているクロちーの姿が見える。
 だが、反応が遅れたのはフェイトを相手にしている場合致命的だ。
 当然、常にトップスピードのフェイトを相手に出遅れた高町達の対処が間に合うはずもなく、俺は何かを叫んでいる高町の姿をぼんやりと眺めながら、ここ最近慣れつつある、ここではないどこかへと転移する不思議な感覚に呑みこまれていくのだった。
 



























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いぶりすのちらうら
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やったねすずかちゃん! 時彦ってばまたヒロインしちゃってるよ!
滅茶苦茶更新遅れましたがなんとか更新。
駆け足ですが、フェイト編はこのまま終息へと向かう予定です。
そして次回は幕間。その後時彦VSプレシア。
解決前に、なのはとフェイトのガチバトルくらいはやりたいなぁ……。



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