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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 管理局と現状整理と双子姉妹
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:96b828d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:39
――――――か、こーん。



 高らかに響き渡る、添水の鳴き声。
 静かに舞い散る桜吹雪の中、ともすれば雅楽でも聞こえてきそうな和風空間の中、一人の女性が微笑んだ。



「ようこそ、時空管理局本局次元航行部所属艦船、L級8番艦〝アースラ〟へ。私が艦長のリンディ・ハラオウンです」



 そう挨拶をくれたのは、柔和な微笑みが似合う緑髪の女性だった。
 白いぴっちりとしたスーツの上から青い制服を羽織り、見ているものの腰を砕きそうな柔らかい微笑みを浮かべる姿は、まさに菩薩の如し。
 なにかのSF映画に出てくるような宇宙船のブリッジであったならば、さぞや絵になったことであろう。
 ……そう、宇宙船のブリッジとかそんな、SF色たっぷりな空間であったならばな!
 
 周囲を見渡してみれば、一面眩しい程の真っ白な部屋。
 しかしながら、その中央付近には目を疑うような桜の木が立ち、その木陰の位置に俺達が座っている赤布を敷いた、大人が十人近く座れそうな台座がある。挙句の果てには、その台座の傍らに――どんな構造か知らんが――日本庭園にバリバリ現役で存在する、ししおどし様が鎮座ましましておられるのだ。
 そんな、どこぞの日本庭園まっしぐらな風景が広がるここが、宇宙船の中だと言われて誰が信じられようか。


――――ぶっちゃけよう。俺ですら信じられん。



「なんで日本庭園!? しかも明らかに室内に桜の木だとぅ!? ちゅーかあのししおどしはどこから水汲んでるんですか!?」
「あらあら、ふふ。その様子だと、傷の具合は大丈夫そうね」
「御蔭さまで超平気っす! それよりマジでなんなんだここぉおおーーー!!?」
「うっさい!」
「あべっ」



 あまりにも非常識すぎる空間に絶叫する俺を、アリサがどこからともなく取りだしたハリセンでしばき倒してきた。うむ、実に予想通りの良い突っ込みである。おかげで幾分か落ち着きを取り戻す事が出来た。
 そんな俺とアリサのやり取りを苦笑いで眺めるみなさん。特に、リンディと名乗った女性の傍らに正座している真っ黒な少年の視線が氷のように冷たいんですがどうしませう。
 


「す、すみません。このバカったらもうホント礼儀ってものと無縁で……」
「あらあら、いいのよ気にしなくて。大変な目に遭ったのにも関わらず、元気なようで何よりですもの」



 そしてなんでお前は俺の母親かのような弁明をしてらっしゃるんでしょうかねアリサさん?
 無論、心の中での俺の呟きなど全力でスルーなのだが。



「えと……本当に申し訳ありません。私、アリサ・バニングスって言います」
「ご丁寧にどうも。よろしくね、アリサさん」
「はい!……っていうかほら、なのはにすずかも! きちんと挨拶しなさいよ!」
「ふぇ!? え、えと―――た、高町なのは、9歳です! 私立聖祥大付属小学校の三年生です!」
「初めまして、月村すずかです」
「みんなとは同じ学校のクラスメイトで……あ、この隣のバカは本田時彦です。バカなことしかしないんで基本的に無視して下さると助かります」
「俺だけ酷い扱い!?」
「はい、初めまして。ふふ、みなさん仲がいいのねぇ♪」



 あらあらまぁまぁと言わんばかりに、蕩けるような微笑みを浮かべるリンディさん。……あれ、この雰囲気どっかで見たぞ?
 そんな俺の疑念など余所に、というより俺と言う存在そのものを置き去りにして話は進んでいく。
 ちなみに、今ちらっとリンディさんが自分の急須に角砂糖十個近くをぶっこんだのは見なかったことにしておく。きっとあれは、緑色をした紅茶かなにかなんだろう。抹茶なんかじゃない。断じてない。あってたまるか。



「大したものは用意できませんけれど、とりあえずお飲物とお茶菓子を用意しました。遠慮せずに食べて頂戴ね」
「あ、はい! すみません、ありがとうございます」
「ふふ、そんなに肩に力を入れなくても大丈夫よ。もっと楽にしてくれて構いませんわ」



 リンディさんの言葉に、アリサとなのはは困ったように顔を見合わせる。恐らく、言われた通り肩の力を抜くべきかどうか迷っているのだろう。
 一方、我が女神ことすずかちゃんは、実に超然としていた。
 アリサもアリサでこういう場に慣れているのがわかるが、すずかちゃんはある意味で別格である。リンディさんの言葉を受けてもまるで動じていないし、ここに招かれるまでの間、ずっと表情を硬くして周囲を観察しているようだった。
 ……さすが俺の女神! その歳不相応な冷静さが頼もしいと同時に痺れるっ、憧れるぅっ!
 まぁ、端的な話、見ず知らずの異星人の方々に出会ってすぐ本音をさらけ出せるかと言うと、俺も微妙なところなんですけどね。
 特に――――、



「艦長。彼らは客人であると同時に重要参考人です。その事を忘れないでください」



 この、いかにも委員長系のむっつりヤロウのせいでな!
 リンディさんの隣に正座している、全身黒ずくめの少年、名をクロノ・ハラオウンと言う。
 なんでも、リンディさんと同じようにこの宇宙船所属の執務官(?)とやららしく、先の家庭訪問からの帰り、俺達をここまで連行してきたのも彼だった。
 黙ってると少女のように端整な顔立ちではあるが、しかしそれはむすっとした常時不機嫌そうな顔で常時そげぶ。おまけに全身から発せられる〝エリート系〟の雰囲気が相まって、まさに〝堅物〟とうい言葉がふさわしい印象を覚えてしまう。それに加えて、こやつの態度が俺達に対してとても友好的なモノとは思えないのが、俺がこの人に友好的感情を覚えられない最大の理由だった。
 ……いや、いじったらすげぇ面白そうなんだけどね?
 


「もう、ダメよクロノ執務官。彼女達は現地での協力者でもあるって、ユーノ君が言っていたでしょう? いわば私達にとっての客人なのだから、そのあたりをきちんと気遣ってあげないと」
「規則ですから」



 つん、と味もそっけもなく良い捨てるクロノ執務官殿。
 事実、態度も言葉遣いも〝堅物〟にふさわしいソレである。まさに典型的な面白味の〝お〟の字もないヤツだ。
 アリサもそれなりに委員長気質で煩いところがあるが、それでもこれに比べたら全然気が利く方だろう。
 正直、仲良くなれるか自信がない。こう、少年漫画によくある良識派なポジションの友人みたいな感じがしてどうも馴染めん。
 ……悪い奴じゃ、なさそうなんだけどな。
 ま、別に無理に友達になる必要はないだろうし、気にする必要はないか。
 


「もう。ごめんなさいね、みなさん。クロノったら、少し融通が利かないところがあって……」
「艦長!」
「はいはい」



 それにしても、ふと思ったんだがこの二人、名前が一緒だよな?
 もしかして……姉弟?
 いや、リンディさんはどう見繕っても二十代半ば前後だし、こっちのチビスケもといクロノとやらは、少なくとも俺らよりタメか歳上、それでも中学生ではないくらいだろう。
 だとすれば、ギリギリ親子ということもあり得なくはないが――――そうそう何件も例外である高町家のような事例があってたまるものか。きっと、姉弟かなにかなんだろう。
 ちなみに、桃子さんの若々しさは海鳴七つの謎の一つとして数えられていたりする。主に喫茶翠屋の常連様方での間で。(美由希さん談)
 しかし、一端気になるとそれを止めるのは非常に難しい。俺の性分が〝気が済むまでとことんやりこむ〟というものでもあるせいか、こう、喉の奥に魚の小骨がひっかかったような苛立ちが残ってしまうのだった。
 ……別に聞いちゃいけない質問ってわけでもないだろうしな。名前が同じ、っていうのはみんなも気になってるだろうし。
 うんうん、別に問題ないない。
 そんな風に自分への自己弁護と予防線をしっかり張った俺は、相も変わらず何が楽しいのか、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべているリンディさんへと思いきって尋ねることにした。



「あの、つかぬ事をお伺いしますが……」
「はい、なにかしら?」
「お二人は……姉弟、だったりしちゃったりするんでしょーか?」
「ぶっ―――!?」
「……あらまぁ」



 何故か隣のクロスケが、飲んでいたお茶を勢いよく噴き出していた。
 リンディさんはリンディさんで、片手を頬に当てて「あらあら、そう見えちゃう?」と、ただでさえ楽しそうなのに、さらに嬉しそうに頬を緩めて見せた。
 ……はて。俺はナニかおかしいことでも聞いたのだろうか?
 そう思って隣のアリサ達を見るも、みんなして首を横に振り振り。つまり「私たちにもわかんない」だ。
 そんな風に呆気に取られていると、咽ていたクロスケが、トントンと胸を叩きつつ、吹き零したお茶を布巾で拭いながら言った。



「姉弟ではない! 僕と艦長は――――」
「そうだ、今度一緒にお買い物行きましょうかクロノ。〝おねーさん〟は、久々にクラナガンのガーデンホールあたりに行ってみたいのだけれど♪」
「艦長も悪乗りしないでください! そもそも、艦長は母さんでしょう!」
「……なん……だと……ッ!?」



 顔を真っ赤にして怒鳴り散らすようにしてカミングアウトされるハラオウン家族の真実!
 あいた口がふさがらないとは、まさにこの事。アリサや高町は言うに及ばず、すずかちゃんですらも目をまん丸にして驚いていた。いや、誰だって驚くって。なんだよ外見年齢二十代前半で子持ちのおかーさまって。どこの桃子さんだ。



「やぁねぇクロノったら。別に家族なのには変わりないのだからいいじゃない」
「そういう問題じゃありません。ていうか、そろそろ彼らにも事情を説明しないと」
「もう。そんな所だけお父さんそっくりに育っちゃって。ダメよ、若い頃から規則規則って硬い事ばっかり言ってちゃ」
「艦長が緩すぎるんです!」



 そして繰り広げられるハラオウン親子のショートコント。
 ……あれ、おかしいな?
 俺、確かどこかでこれと似たようなやり取りを見たような気が……気のせいだな、うん。そうに違いない。夫婦そろって大学生になり済まそうとして息子に怒られてたどこぞの喫茶店のオーナー夫婦のことなんて気のせいだ。
 そんな感じに、暫くの間なんとも緊張感を欠くようなハラオウン親子のショートコントでほっこりさせてもらった次第である。
 


「……こほん。余計な脱線があったが、話を戻そう」
「あ、はい」



 澄まし顔のクロノなんちゃら君ではあるが、母親様のリンディさんに散々いじりからかわれたせいで頬が若干赤くなってるあたり、なんていうか憎めないキャラだな、と思ってしまう。ていうかやっぱりいじられキャラなんだな。ひこちん、覚えた。
 同時に、それまで漂っていた和やかな雰囲気は、いつの間にか雲散霧消していた。 
 リンディさんは相変わらずにこにこと人が良さそうに微笑んではいるが、しかしそれは、いわゆる〝食えない〟類の大人の笑みだ。隣に座るクロちーは言うまでもなく仏頂面だ。さすがにこれからは、場の雰囲気をぶち壊すような冗談を言えるような状況ではなくなったことを理解する。
 それとなく視線を横にずらしてみれば、すずかちゃん達も同じように神妙な表情で二人の話に聞き入っていた。

 


「まずは、救援要請があったにも関わらず、こうして到着する事が遅れてしまい申し訳なかった」
「道中、予想外のトラブルが立て続けに起こってしまったの。本当に申し訳ないわ」
「ともあれ、遺失物捜索依頼は本局からきちんと受けている。ソレに関して、まずは現地の人間にもかかわらず、古代遺失物/ロストロギアの捜索に当たってくれたことは、感謝する」
「いえ、そんな! わたし達はただ、ユーノ君のお手伝いをしただけですから!」
「高町なのは、だったか。主に封印を担当してくれたと聞いている。初めて魔法に触れたにもかかわらず、それだけできれば上出来さ」
「え、えと……にゃはは」
「すげぇ……高町が褒められてる」
「むっ、ほんだくん、それどーゆー意味かな?!」
「アンタは一々変な茶々入れないのっ」
「ごふっ!?」



 高町が手放しで褒められるところなど、学校ではついぞ見たことがなかっただけに素直な感想を言ったつもりが、怒れるパツ金ゴリラの逆鱗に触れてしまったらしい。実にキレのいい、正座状態からのレバーブローが決まり、俺はそれまでの激痛も合わせて割と本気で涙目になった。
 教訓。しばらくお口にチャックします。



「あの、それで話と言うのは……」
「あぁ、そうだったな」



 しかし、そんな俺の決断も一瞬の儚い夢でした。
 俺とアリサのショートコントを華麗にスルーしてみせたのは、それまでむすっ、と珍しくも黙りこくっていたすずかちゃんだった。
 高町やアリサもそれなりに綺麗な姿勢ではあるが、しかしすずかちゃんのそれは別格だ。
 綺麗に伸びた背筋。きゅっとひかれた口元に、これ以上ないくらいに美しい配置の手と足。なにかの御手本と称することすらおこがましいまでに、その正座は美しかった。あぁやばい、できればこの姿を写真に収めたい……永遠のメモリーにっ、俺の脳内だけではない、ナニか形に残る記録として……ッ!
 そんな風に俺が頭の中で純情極まりない恋情を募らせている間にも、すずかちゃんはクロちーに劣らぬ真剣な表情で、ハラオウン親子を見つめる。
 一瞬、何でそんなに警戒しているんだろう、と不思議に思うが、しかしその疑問は、それまで無様な姿を見せてしまったのを仕切りなおすためなのか、一気に湯呑に入っていた飲み物を飲み干した後、世間話でもするかのようにクロちーがサラリと言ってのけた発言によって、すぽーんとホームランされてしまった。



「話と言うのは他でもない。このままでは、君達の世界が消滅するかもしれない、ということだ」
「「――――な、なんだってぇええええええ!!?」」


 
  異質な日本庭園風の空間の中に、俺とアリサのM○Rな絶叫が響き渡ったのだった。











                           俺はすずかちゃんが好きだ!










 宇宙船と言えば、男のロマンである。
 SFの類には大抵出てくるし、今となってはハリウッド映画で宇宙船関連がでてこないSF映画の方が少ないくらいだ。アニメや漫画、ゲームでは言わずもがな。特に某五つの星の物語の戦艦なんかは、見てるだけでよだれが出てくる。
 そんな俺の些細な趣味は置いとくとして。
 もしも将来、宇宙船なるものが建造されて星の海を漂う事となったとしよう。そして自分はそこに乗り込んでいる。
 そんな状況に逢った時、まず俺だったら何をするか、というと―――。



「くそう……まさか初手からその行動プランを潰されるとは。予想外すぎる……ッ!」



 目の前には、まるで鎧戸のようなシャッターが降り切った壁、もとい窓。
 本来ならば、どこぞの展望台のように外が見通せるはずのソレは、今はとある理由によって厳重に蓋をされてしまっているのだった。
 宇宙船に乗ったら普通、窓から星の海を眺めるのが常道だろーが!
 んでもって感動に浸りながら「……星の海だ」なんて呟くのがオツってもんでしょーねぇ!?
 ガガーリンだって窓から地球見て感動したんだぞ!?
 ちくしょう、その感動を俺に味あわせないだなんて、こんなの横暴だいっ!



「だからって子供みたいに地団太踏むのやめなよ、時彦」
「うっせー! お前に俺の気持ちがわかってたまるかこの裏切り者系ボクっ娘が!」
「人が気にしてる事をホント平気で抉るよね君は!?」



 隣に立っているのは、見た目だけでいえばショートヘアの美少女に見えなくもない野郎だった。
 アリサ並みにサラサラ流れるパツ金。宝石のようにきれいなエメラルドの瞳。そして、どこか民族的な雰囲気を醸し出している衣装を纏っており、ぱっと見はどこかの部族からやってきた少年だ。
 ……何を隠そう、この美少女じみた美少年、実はユーノだったりする。あのフェレットの。
 あのお城から逃げ出す時に使った魔法が負担となって疲労困憊に陥っていたユーノは、俺達が艦長と話している間に医務室で休んでいたらしい。そして、つい今しがたこうして再会した次第なのだが……。



「てっきり……てっきり俺は、古き良き魔法少女のマスコットアニマルかと思っていたのに……いたのにっ! よりにもよって野郎かよ! 俺の夢を返せ!」
「何でそんな理不尽な理由で逆切れされなきゃならないのさ!?」
「やかましゃぁ! しかも女と間違えても可笑しくないイケメンだと? 貴様なぞいっそチ○コがもげてしまえばいいんだッ!」
「なんてこというんだよ! それに、そもそもマスコットアニマルって……」
「いや普通誰でもそう思うって。まぁ、俺は高町にゃさらっさら興味ないんでどうでもいいんだけどさ」
「どうでもいいならなんで…………はぁ、相変わらず君と話してると、根こそぎ気力を削り取られる」
「やだなー、そんな褒められたら俺っち調子にのっちゃうぜ? 天狗になっちゃうぜ?」
「毎度のことだけど、褒めてないから」



 ここ数週間を経て、俺とユーノの関係がどう発展したかと言えば、まさに今の会話に集約されると言って良い。
 歯に衣着せぬやり取りと言うか、お互いに正直過ぎると言うか。
 お互い、周りに女子ばっかりという肩身の狭い思いをしているためでもあるかもしれない。そんなマイノリティ同士なら、自然とつるむことも多くなるってもので。いや俺は今秘かに女体化してるんでアレなんだがな。
 まぁ、そんな感じなものだから、自ずと会話の流れも決まった方向へと流れるのだった。



「しっかし、次元世界のお巡りさん、ねぇ~」
「管理局の次元航行部は特に、次元災害や犯罪に対するプロだからね。任せておいて問題はないよ」
「ふーん……にしても、やけにあっさり諦めるな。あんだけ自分の責任だ、って言い張ってたのに」
「勿論、今でもそれは変わってないよ。ただ、これ以上僕が意地を張り続けてみんなを危険に巻き込むわけにはいかないだろ」
「……次元断層、ね」
「それも三回も、だ。普通に考えたら、これは世界崩壊の予兆と取られてもおかしくないレベルだよ」



 お互い、ビニールなのかプラスチックなのか、材質がいまいちわからない欄干に上半身ごとぐてーっと乗りかかる。
 いまいち俺にはピンとこない話だが、なんでも、俺達が今まで集め回っていたジュエルシードさん――――実は見た目以上にとんでもないことを裏の方でやらかしてくれちゃっていたらしい。

 宇宙がなんなのか、という定義はめんどくさいので省くにしても、この広大で雄大で広さを想像することすら馬鹿馬鹿しい宇宙の中に、一つ面白いモノがある。ブラックホールだ。

 超新星爆発と呼ばれる星の死の後、あるいは超重力により大きな質量やガス雲が中心部に引きこまれるなどすることで生まれる現象の一つで、誰もが知っているように、それはあらゆるものを選択の余地なく吸い込んでいく。
 そして、先程ヘンテコ極まりない和風ちっくな部屋でクロちーに聞かされた次元断層、あるいは次元震と呼ばれる現象は、危険度に関して言うならば、このブラックホールが子供の悪戯レベルで片づけられるほど洒落にならん〝災害〟なのだという。
 詳しい話を聞いてて思ったのは、よくもまぁアンタらはそんな危険極まりないモンを前にして〝止めてやらぁ!〟という気になるな、という感心と呆れの半々だった。

 だってアレだぜ?

 ブラックホールは放置してても、ぶっちゃけ近づかなきゃなんともない。せいぜいが近くにあるものを片っ端から吸い込む大食漢ってだけだ。
 ソレに比べて次元震とやらは、近づく近づかない云々以前に、それが発生するだけで世界が〝崩壊〟しかねない、文字通りの〝終焉のラッパ〟なのだ。

 ブラックホールは、ただ吸い込むだけ。
 次元震は、世界そのものに罅を入れる。

 ……こうしてシンプルに並べてみるだけでも、危険度の度合いがまるで違う。
 っていうか罅かよ!? 地震とかそういうのじゃなくて罅いれるのかよっ!?
 単純に考えても、世界と言う器に罅を入れるってのがどれだけすさまじいことか、俺の脳味噌様でも簡単に理解できる。そして、罅を入れられた容器がたどる末路も、だ。
 ただ、次元〝震〟という名前が付いているだけに、その規模にも大小があるらしく、不幸中の幸いで俺達の世界で起きていたと思われる三回の次元震は、やや中規模ながらも世界崩壊を導く程のものではなかったらしい。
 それでも、次元震は次元震だ。仮に、また俺達の世界でそれが起こった場合、次も無事であると言う保証はどこにもないわけである。
 そしてこれが一番重要なんだが……。



「一度目は、アリサが別世界のアリサと入れ替わった時」
「二度目は、月村さん姉妹が入れ替わった時」
「そして三度目が――――」
「もう一度、月村さん姉妹を元に戻した時、だね」
「……はぁ。俺、なーんとなく嫌なことに気付いたぞ」
「奇遇だね、僕もだよ」



 つまり、だ。今挙げた三件に共通する事。
 ジュエルシードの事件?
 いやそんなんはわかりきってるんだ。俺らの周りで非常識な事なんてそれしかなかったんだし。
 重要なのは、何故その三件と次元震とやらが被ってしまっているのか、ってこと。別に他の事件でもいいんじゃねぇの?っていう疑問。
 例えばプールでの出来事。あるいは学校での怪談。他にも何件かジュエルシードが発動しているはずなのに、何故タイミング的にはさっき挙げた事件だったのか。
 


「いずれも、〝誰かと誰かが入れ替わった〟事件だね」
「より正確に言えば、〝別世界の同じ人間と入れ替わった〟だな」
「そう考えれば、次元震が起きたのも納得がいく。なにせ別世界との隔たりを無理矢理こじ開けたようなものなんだから」
「あぁ……考えてみりゃ、とんでもねぇ話だ」



 ユーノの言葉に、俺は心底気だるく頷いて見せる。厄介極まりない事に、それが今後起こり得ないという保証はどこにもないのだ。
 ただ、気だるい理由は別にある。
 ……多分ユーノも他のみんなも気づいてないんだろうが、最後の三度目は、間違いなく俺が原因だ。
 なんでか?
 決まってる。



――――その三度目の後に性別入れ替わってんだよ、今の俺はっ!!



 ちくしょう、なんだこれ! なんだこれ!!
 アレか、神様ってやつはそんなに俺をいじめるのが楽しいってか。世界を滅ぼし掛けた災害を引き起こした原因の一つとか、かなり洒落にならないジョークだぞおい!?
 うぁああ……しかも、ただでさえややこしい事になってんのに、ここにきて〝未解決〟の案件が残ってるなんて言えるはずないじゃんか……!
 あの時、発動したジュエルシードは高町が間違いなく封印してただろうし、元に戻ろうにも、〝次元震〟などという危険極まりない現象が起きると聞かされた以上、まさかもう一回同じこと(未封印のジュエルシードを使ったアレ)をするなんて危ない真似できん。
 仮にやらせてもらったとして、それで世界が滅んじゃったら笑い話どころの騒ぎじゃない。「性別戻そうとしたら、世界が崩壊しちゃいました♪」とかブラック通り越してダークだろぉがオイ……ッ!



「どうかした、時彦? なんか、汗すごいよ?」
「う、うぇぁ!? い、いやいや、なな、なんでもないでごんしたりちゃったりですますよ!?」
「……いや、全然大丈夫そうに見えないんだけど」
「せ、せせせからしかぁっ!」



 じとー、っと。粘着質な感じにじとじとーっとユーノに睨まれる俺。
 いかん、お子様生活が長すぎた所為で、前世お得意のポーカーフェイスができなくなっている……だと!?
 このままでは俺の秘密が……マイサンが次元埋葬されてしまったことがばれてしまう……!
 だがしかし、このまま黙っているわけには…………それとも、ここは逆の発想でいっそのこと、さっさと打ち明けてジュエルシード使って治してもらうか?
 ……いぃやいやいやいや!!
 何言ってやがる。んなアホなこと出来るはずがないでしょ!?
 仮にそんなことやらかして、運悪く「てへっ♪ 性別直したら世界が崩壊しちゃった♪」なんてことになろうものなら、もはや土下座で済むレベルじゃないのだ。いかな俺様といえど、自分の性別と世界の命運を天秤にかけるようなクソ度胸とずうずうしさは持ち合わせていない。
 ……やっぱり、ここは黙っとこう、うん!



「まぁ、聞いても無駄だろうけどね。君はいっつも大切な事は秘密にするし」
「あ、あっはっはっは! なーんだよくわかってんじゃねーか! なに心配すんな大したことじゃねーしそんな気にする程の事でもないかんよ!」
「……いきなりテンション高くなったのが物凄く怪しいんだけど」
「そ、それより! 月村さん達ずいぶん遅いな! 身体検査ってこんなに時間がかかるもんなのか?」



 相変わらず疑わし気に俺を見据えるユーノから、必死に話題を逸らすべく苦し紛れの話題変更を試みる。
 運が良いと言うのはアレだが、今現在すずかちゃん達女子組は、艦長様のお話が終わった後、今までジュエルシードと関わった事で何か身体的に異常がないか、といった諸々の理由のために検査を受けている。話題変更の種としては願ってもない話題だ。
 あぁ、こんな状況においても俺に救いの手を差し伸べてくれるすずかちゃんマジ天使!
 ちなみに、俺とユーノはというと、ユーノは先程医務室で昏倒している間に既に済ませ、俺は女子組が終わってから、という話になっている。
 本当は意地でも断るべきなんだろうけど、それじゃみんなに怪しまれちゃうからな。それに、俺の体が女だっていう件については〝自分はこう見えて女なんです〟ってことで押し通す&〝あまり性別について言われるの、好きじゃないので……〟のダブルコンボ作戦で、この宇宙船の人達に黙っててもらえば大丈夫だろう。
 楽観的と言えば楽観的だが、まぁどうせ彼等とは今回限りの付き合いだ。今この瞬間だけ死ぬ気で誤魔化せば大丈夫だろ。



「多分、なのはの方が検査に時間かかってるんだと思う。魔法が無い世界の現地人でありながら、Aランク相当の魔力を持ってるし、今までの戦闘で受けた体の方の影響とか、色々検査しておかないといけないからね。月村さんやアリサも、ジュエルシードの影響を直に受けてたから、きちんと見ておかないと」
「なるほどね…………あ、ちょっと聞きたいんだけど、その魔力のランクってのは何段階なわけ?」
「概ねF~Sの間だよ。ただ、Aのランクだけ、A~AAAの三段階に細かく分けられてるんだ。付け加えて言うなら、ランクも純粋な魔力のランクと、魔導師としてのランクの二種類がある。なのはは多分……魔導師ランクもAランクくらいじゃないかな」
「なんだ、それって強いってことなのか?」
「あのフェイトって子、僕から見ても間違いなく魔導師ランクはAオーバーだった。そして、なのははそんな彼女と互角に戦えていた、って言えばわかる?」
「なるほど。すげぇよくわかる」



 ド素人の俺でも、フェイトの奴がクソ強いってのはよくわかるしな。
 しかし高町でAか……鬼ー様だったら果たしてどの程度なのやら、怖いもの見たさな興味は尽きない。絶対に聞いたりしないけどな!



「ちなみに、Aランク以上の魔導師は管理局でも数が少ないんだ。きっと、あの艦長からしてみれば、なのはは数万……いや、数十万や百万人に一人の逸材だね」
「……え、何それ。もしかしなくとも、それって高町のバカが魔法の分野に関してならば超天才って意味?」
「そういうこと。なのはは、まぎれもなく魔法の天才だよ」



 まぁ……薄々とわかってはいたことだった。
 最近、高町の奴はアリサ達のアドバイスもあって、どうも実家の方で簡単な稽古を付けてもらい始めたらしいが、それを考えたってフェイトに肉薄できるレベルにまで強くなっているのにはびっくりしたものだ。
 ここ数週間、アイツってばギリギリの勉強時間以外、全てを魔法の練習に費やしてたみたいだしなぁ。なんとなくだけど、前よりかは体育でのドジも少なくなった気がする。
 相変わらず漢字とか社会とかはダメダメなんだが、理数系は何時も通りに完璧で、体育もそこそこできるようになってきたとなれば、ヤツの努力を認めないわけにもいかないか。

 一方で、フェイトの方も気がかりと言えば気がかりだ。
 俺達と同い年にもかかわらず、アイツは言うまでもなく闘う事が得意に見えた。いや、得意と言うよりか〝慣れてる〟って感じか。
 アレは間違いなく〝そういうこと〟を訓練してきた動きで、高町のようなどこかに感じられるぎこちなさや戸惑いといった迷いが何もない。
 どう考えたって一朝一夕に身につくようなもんでもないし、そしてソレをやらせたのが誰であるかなんて考えるまでもない。つーか状況的に明らかだろ。ホント、フェイトの奴もあんなの親に持って不憫極まりねぇよな。シルフィもだけどさ。
 そうやってフェイトとちょっぴりだけマイラバーの事を考え出したら、どうしても最後に見たフェイトの姿が脳内でアホみたいな勢いでフラッシュバックを繰り返した。
 さらに言えば、その姿は俺の記憶の奥にある、マイラバーの最後の姿とも重なる。
 結局今こうしておっ死んで転生なんていう愉快な経験をしている以上、その後のアイツがどうなったかは俺に知る術がない。だからこそ、この世界でも同じようなことをやらかしたフェイトの奴が、心配でたまらないのかもしれないな。
 


「……大丈夫かな、フェイトの奴」



 思わず口を吐いて出たその言葉は、でも確かに今の俺の本音でもあった。
 姿形が似てるだけでここまで入れ込むのはどうなんだろう、と思わなくもないが、しかしソレは悩むだけ無駄なんじゃないかなとも思う。
 人間、誰もかれもが悟りの境地に至れるもんでも無し、特に自分にとって大切な人の姿をした誰かがいたならば、無意識にでもその人に優しくしたり、出来る限り力になってやりたい、って思うもんだろう。
 それに、今回はアイツに迷惑かける形になっちゃったからなぁ……狼のねーちゃん、すげーキレてたし。



「どうだろう……あの使い魔の様子を見る限りじゃ、親子間の関係は随分悪そうだったからね……」
「……最悪だよ。俺の知ってる限りじゃな」
「え? 何か言った?」
「んにゃ。俺もよくわからん、ってだけ」
「そっか」



 どう考えたって、あの鬼婆がフェイトに優しくしてるなんてあり得るはずがない。
 仮にこの世界のフェイトと〝前世〟のシルフィが同じ立ち位置だとして、あの大広間で見た鬼婆のフェイトに対する扱いを見た限りじゃ、二人の親子関係はおおよそ似たり寄ったりに違いないからだ。なにより、俺の中であの婆がフェイトに――――シルフィに優しくする絵面が想像できない。それくらい、〝前世〟ではシルフィとあの婆様の親子関係は冷え込んでいた。
 ……でも、ここでそんなことを気にしても、どうにもならないのも事実なんだよな。
 心配な事は心配だが、かといって俺に何が出来る?
 冷静に考えてみればみるほど、自分の無力さ加減に苛立ちが募るばかりだ。
 まさか前世の時みたいに、あいつを無理矢理連れて駆け落ちなんて無理だし、あの鬼おばばを説得するなんて夢物語もいいところ。
 一人の友人として、なにより個人的なエゴで、アイツをあんな状況から助け出してやりたいことには変わりない。だが、その手段が俺にはどうしても思いつかなかった。
 シルフィの時も、それはスマートな解決手段とは言えるものじゃなかったし――――なんせ駆け落ちじみた同棲だったからな。とてもじゃないが、褒められたやり方じゃぁなかった。それでも、お互い最後まで幸せに過ごせたんだから、まぁ幸運だったと言えば幸運だったのだろう。
 だが、それをこの世界でフェイトに強要するのはどうなんだろう?
 果たしてそれは、本当にアイツの心を救う事になるのか?
 少なくともあの時、シルフィは若干悲しそうに笑いながらも〝救われた〟と言ってくれた。大嫌いな母から逃げ出させてくれて、こうして自分を連れ出してくれてありがとうと言ってくれた。
 ……今回、またそれと同じ事ができるのか、俺は?
 何より、その時俺はシルフィが好きだった。誰よりも。何よりも。だからこそできた無茶だったし、後悔もなかった。
 でも今は違う。今の俺は、はっきり言ってしまえばすずかちゃんの方が好きだ。
 シルフィが大切な人間だと言う事には変わりはない。だが何故だろう。悲しい事に、すずかちゃんとどっちが好きかと言われてしまえば、俺は大いに悩んだ後、それでもすずかちゃんを選ぶと言う確信がある。
 勿論、それは今この状況下で、という前提条件があってこそ成り立つ話だ。
 仮にシルフィとすずかちゃん、両者がこの世界に生きていたとして、そのどちらを選ぶ?なんて聞かれたら、俺はたとえアリサの奴に殺劇十連コンボを叩きこまれようが結論を出せないままだろう。えばって言う事じゃないけどさ。
 ともかく、今の俺は大いに悩みまくってるわけです。超絶コダック状態なわけです。いけね、知恵熱でそう……。
 どうしても恋愛感情と一緒くたにして物事を考えてしまうのは、この少年ボディのせいなのだろうか。それとも俺の性格的な問題なのか。どちらにしても、大人のようなドライな考え方が出来ないのはゆゆしき問題だよな……前世だったらもっとこう、シビアな考え方ができてたと思うんだが。

 それからも、俺はずっと頭の中でフェイトをどう助けるか、そして助けるにしてもその手段をどうするか、そもそもフェイトとすずかちゃんどちらが大切なのか。いやすずかちゃんが一番なのは代わりのない結論なんだけど、しかしならばなんでこんなにも今フェイトの事がきにかかるんだとか、そんな堂々巡りな疑問をぐるぐるさせながら、ユーノと一緒になってぼんやりしていた。

 ――――結局、クロちーが検査の番だと俺を呼びに来ても、結論は出ることが無かった。











 結果だけを言うならば、検査における性別バレはどうにかなった。やはり〝ボク、実は女の子なんですけどそれに触れられるの嫌いなんです!〟作戦は偉大だった、とだけ言っておこう。
 本音?
 無論のこと〝お人好しとかマジチョロい〟にきまってるじゃないか!
 ……………………若干の罪悪感を感じておりますので少々お待ち下さい。
 あぁ、そう言えばなんか、検査が終わってから〝君にも微かに魔力反応がある〟とかなんとか言われてたような……間違いなくジュエルシードの呪いの所為です。本当にありがとうございました。無論、その場では必死に誤魔化し通したけどな!

 俺達全員の検査が終わった後、俺達は簡単な今後の予定を説明されてから各々の家へと帰宅させられた。
 まぁ、早い話が「こんな危ない事は以後私達に任せてください」という話である。
 勿論、それに納得がいく俺達ではない。特に、高町なんかは声にこそ出さなかったものの、視線で猛反対していたくらいだし、俺も俺でさすがにここまで来て全てを他者に丸投げと言うのは気分的によろしくないことだったので、思わず某弁護士の如く「異議あり!」と申し立てをした次第である。
 おかげで「それじゃ、みなさんのご協力については、また明日改めて話し合いましょう」という結論の先延ばしに成功。明日の放課後にもう一度あの宇宙船にいけることになったとさ。やっほい!
 そんなわけで、あれからみんなと解散した俺は、まだちりちりと痛む体をぐるぐるとほぐしつつ、家へと向かう帰路についていた。
 まだねーちゃんに噛まれた首筋がひりひりするし、あちこち打ちつけた所は打撲した時のような鈍い痛みを訴えている。一番わかりやすく例えるなら、友達と大げんかやらかした翌日みたいな感じだ。あぁくそぅ、この鈍痛が鬱陶しいったらないんだぜ……。



「痛つ……くっそー、さすがにお伽噺の魔法みたいに全回復とはいかねぇか」



 とぼとぼ、一人さびしく家路に着く中、首筋の噛み傷をさする。穴こそふさがったものの、妙にそこにだけ痛みが残っているのがなんとも奇妙だ。
 これがゲームとかだったら、魔法一発で体力満タンまで完治したんだろうなぁ。ま、世の中そんな甘くないってことでしょう。
 ともあれ、ようやく激動の一日も終わりだ。
 視線を上げて空を見れば、西の空が綺麗なオレンジ色に染まっていた。
 感覚的には、一週間くらいは寝ないで過ごした感じがする。
 ……ホントに色々あったもんだ。
 まず、すずかちゃんの血酔い(?)から始まって、学校早退からのフェイトとの再会、すずかちゃんの御見舞に風雲テスタロッサ城ときて、最後に異星人の宇宙船と、まさにイベント目白押しな一日だった。軽く一週間分の激動を体験したと言っても良いね。
 前世でもそれなりに色んな事に巻き込まれたものだが、しかし今世は群を抜いている。何が原因なのかは知らんが、よくよくトラブルエンカウンターな体質が継承されたものだ。ていうかむしろクラスアップしてる感がしなくもない。
 ただ、これがどこぞのそげぶなお方だったら「不幸だ!」と頭を抱えてしまうのかもしれないが、俺からしてみればむしろ幸福と呼んでいい状況にあると思う。
 なにせ、前世で一通り一般的な人生と言うものは歩んできたものだから、それを今世でもう一度繰り返せと言うのは……ねぇ?
 さすがに同じゲームの内容をまったく同じようにプレイしなおせ、と言われたら誰だって苦痛に思うだろ。それがさして名作と呼べるようなゲームでもなく、一度クリアしたらそれで飽きてしまうような中身であれば、なおさらのことだ。不謹慎と思われるかもしれないが、二回も人生をやってるとそういう考え方をしてしまうんだ。
 そう言う意味で、今世の慌ただしい毎日はそれなりに楽しいと言える。
 ……さすがに今回のような、命に関わる事件ばかりが続くのは考えものだけどな。
 ま、なにはともあれ、ジュエルシードも残り半分ちょい。
 21個中6個は高町が確保済み。そして恐らく、フェイトは5個くらい集めているはずだ。
 残り10個がどこにあるかが問題だが、この調子だとあと一週間もかからないで集め終わってしまいそうな気もする。単純に時空管理局という専門家が現れたことだし、今までのような運よく見つけては封印、みたいな行き当たりばったりなことにはなりにくいはずだ。
 それに、そろそろテレビとかでも「突然頻発する謎の怪奇現象、海鳴に何が!?」とかいった見出しで特集が組まれ始めてるからなぁ。誤魔化すにしても無理が出てき始めたと思うし。
 ふと思ったんだが、そこら辺が今まであまり騒がれてなかったのは、もしや何かしらの情報操作があったってことなんだろうか?
 …………なんか背筋が嫌な感じに冷たくなったので、深く考えるのはよそう、うん。
 
 ともあれ、長かったジュエルシード事件も、もう終焉へと向かっていることが、素人の俺の肌でも感じ取れた。
 フェイトとあの婆の事は相変わらず気にはなるが、恐らく黙っていても向こうから俺にアクションをかけてくるはず。それがフェイトの意志にしろ婆の意志にしろ、少なくともあと一回――――チャンスがあるはずだ。
 大切なのは、そのたった一度のチャンスで、フェイトを助けられるかどうか。いや、それまでにどうしたら〝フェイトを助ける〟ことになるのかを、見つけること。
 


「……あぁ~、考えてみれば、ものすげぇ厄介事に首突っ込んじまったなぁ」



 それが迷惑だ、というわけじゃないが、大変なのは事実なので思わず愚痴っぽい独り言を零してしまう。
 なまじ、今回一番の大ボスが俺の一番苦手なプレシアという人間なのが問題だ。前世から苦手な人間が相手って、これもう嫌がらせを通り越して試練の域なんだけど――――、
 


「ぁわっ」
「……っと!」



 などと、益体もない考えごとをしながら歩いたせいだろうか。
 ちょうど十字路を曲がろうとしたところで、突然現れた何かとぶつかりかけてしまう。
 慌てて回避したのでぶつかることはなかったが、ちょっとびっくりした表紙に転びかけるが、そこは根性!
 崩れた姿勢を直してぶつかった相手を見れば、



「ご、ごめんなさい! お怪我はありませんか?」



 そこにはくりくりした大きな瞳と、バッテン型の髪留めが特徴的なショートボブが可愛い、俺と同い年くらいの少女が〝車椅子〟に座り、眉をハの字に曲げて申し訳なさそうに俺を見上げていた
 膝には暖かそうな膝掛けと、買い物帰りなのか、お約束的なフランスパンを覗かせたパンパンになった紙袋を抱え持っている。…………洒落じゃないよ?
 そんなくだらない思考から、彼女が車椅子で移動していると言う事実に、思わず思考が同情のベクトルへと傾きかけた。
 明らかに、見た目は俺と同い年か、それ以下だ。どう考えても中学生ということはないだろう。よっぽど特異な例外でもなければ、だが。
 そんな幼い身で 車椅子の行動を強いられていると言うのは、どれほど不便なことだろう。俺も一ヶ月くらい、ちょっとした理由で松葉杖にお世話になっていた時期があったが、松葉杖であのメンドくささだ。車椅子ともなれば、それこそ、その面倒くささは比べ物にならないに違いない。
 ただ、彼女がどういう理由で車椅子を使っているのかは知らないから、これ以上邪推するのは失礼ってもんか。
 いやそれ以前にまずは謝らないと。不注意だったのは間違いないし、この場合はむしろ俺が謝らないといけない立場だろう。
 なにより、じろじろ見るのも失礼かと思い、すぐに謝って立ち去ろうとしたのですがね。



「いえ、こっちこそ。よそ見しててすみ――――」
「この塵芥めが。うぬの目は何処に付いている!」
「――――ま?」


 
 何故か、車椅子の少女の後ろにいた、もう一人の少女にエライ剣幕で怒られてしまいました。
 …………ていうか、え、なに。今俺、塵芥とか言われた?
 険しい表情で俺を睨みつけているその少女は、恐らく、車椅子を押していたのだろう。両手は車椅子の取っ手に添えられており、取っ手に取りつけられたフックには、これまたパンパンに膨らんだ買い物帰りと思しきビニール袋がぶら下がっている。
 そして何より驚いたのは、その少女の顔立ちだった。
 ぱっと見だけでも、彼女が車椅子に座る少女と瓜二つだとわかるくらいそっくりで、違うのはせいぜいその髪の色程度でしかない。
 車椅子の少女が栗のような茶髪であるのに対し、車椅子を押す口の悪い少女は、毛先が黒く染まった銀髪という、ちょっぴりパンダちっくな髪だった。
 えーと…………もしかしなくとも、双子さんだったりするんだろうか?
 その割には、色んな意味でお互いに物凄い差があるように思うんですが。



「ぁわわ、ちょ、ちょー待ちぃおねぇ! 今のは明らかにおねぇが調子乗ってスピード出したからやろ!」
「ふん、知らぬわそんな些末な事。我は闇統べる王。その王たる我が何故自身の為すことに制約を課せられなければならん。王が為す事は全て正しく、であるからして我の為す事に何ら非は存在しない」
「うわぁい………」



 そして、〝おねぇ〟と呼ばれた双子の姉らしき少女は、滅茶苦茶〝アレ〟でアイタタタタな少女でした。
 つーか一人称〝我〟かよ! その歳で既に厨二病ですかよ! レベルが高すぎて俺にはついていけねぇええええええ!!!
 想像の斜め上をぶっ飛んでいく双子の少女達は、しかしあまりものインパクトの強さに呆然とする俺を放置して白熱したトークを繰り広げ始める。



「せやからいつも言うてるやろ! ここは天下の公道、おねぇの持ちモノでもなければ、そもそもからしておねぇは王でもなんでもない普通の女の子ですぅ! 一般常識と交通ルールは守りましょうって、何回言えばわかるんや!」
「碌に歩けもしない小虫がよく吠える。いや、吠えると言うよりは鳴く、だな。やれやれ、そんな小虫の面倒を見ている我の寛容さときたら、それこそまさに宇宙広し、闇深しといえども、史上空前と言って良い器の大きさであろう」
「……相変わらずの自画自賛っぷりやね。ていうか、その小虫ゆーの止めてって言うてるやろ! 私の名前言ってみぃ!」
「なんだ、小虫」
「ちゃうわーーー! は・や・て! 我儘放題傍若無人で常識知らずなおねぇを健気にフォローする可愛い妹、スーパープリティーシスターはやてちゃんですぅ!」



 ……すまん、訂正。やっぱり妹の方もそれはそれで〝アチャー〟なお方でした。



「……ふっ」
「あ、今鼻で笑たな? 思いっきり鼻で笑い飛ばしたやろ!? くっそー、そんなら今夜は、アスパラガスとピーマンをたっくさん使った煮っ転がしや。ついでにナスの酢漬けも加えたる!」
「なにっ……!? くっ、この小虫め、小癪な真似を!」
「…………」



 突然、第三者を完全に置いてけぼりにして始まった目の前のコントに、本田時彦さんは驚愕を禁じ得ません。体感的には時が止まった気分。
 喧喧囂囂、ぎゃーちくぱーちくと、完全に俺の存在を忘れて何やら口論を始めた双子の姉妹は、果たして俺と言う存在を認識して下さっているんでせうか。
 ……いや、しっかし見れば見るほど似ている二人だなぁ。一卵性にしたってここまでそっくりなものなんだろうか?
 今まで双子というものを生で見た事がない(マイラバーも双子だが、ヤツはちょっと例外)ので、秘かにヒコちん感動なう。
 かといって、いつまでもこのコントに付き合ってあげられるほど、俺はお人好しじゃありません。本音は早く帰って寝たいのです。滅茶苦茶疲れてあいむべりーたいあーど、なのです。
 てわけでソロソロ、抜き足差し足、こっそーりと「そ、それじゃ俺はこれで~……」とその場を立ち去ろうとした―――――のだが。



「待て、そこな塵芥」



 ばっちり目敏く見とがめられました。おうまいがっ!



「我と小虫に不敬を働いておきながら、よもやタダで返してもらえる等と思うておるま―――「はやてちゃーん、バックあたーっく!」―――ごふっ!?」



 しかし、どうやら妹さんはこの我様より遥かに常識人だったらしく、そんな不条理難癖をつけくる姉に、車椅子を器用に後退させてバックステップアタックを敢行しつつ、無理矢理その口を黙らせてしまった。
 ……な、なかなかにアクティビティなお方のご様子で。



「こーら、おねぇ? あまり人様を困らせるんやない。今回は私らかて悪いんやから」
「あー、いや、ぶつかったのは俺も悪かったし、それはホントに謝るよ。ゴメン。ただ、今少し急いでるからさ、もう行っても良いかな?」
「いえいえ! こちらこそホントにもうすみません。うちのおねぇが我儘なばっかりに……」
「あっはっはー、妹思いな面白いおねーさんじゃん。俺ぁアリだと思うね」
「ほんまですか? いやー、おねぇもそう言われて本望だと思いますわ」
「待て小虫、我は面白がられる事が本望などでは決して―――「さいれーんと!」―――うごっ!?」
「……えー、と。それじゃ、これからはお互いに交差点は気をつける、ってことで」
「あははー、そですねー」
「おう。そんじゃ」
「ええい、だから待てと言って―――「ろーりんばーっく!」―――ぬぅ、三度も同じ手を食らうと思うてか!」
「あかん、止められた! くぅ、こうなったらここは私が抑えます! せやから、おにーさんは今のうちに……ッ!」
「妹ちゃん……!」



 三度俺の逃走を阻もうとする唯我独尊銀髪我様の魔の手から、俺を救おうと身を呈する妹ちゃん!
 俺は……俺は今、その献身に死ぬほど感動しているッッ!!



「だが、そんなことをしたら君は!」
「ええんや……私にできるんはこれくらいやもん。おにーさんのためなら、この命なんて惜しくない!」
「ええい、邪魔をするな小虫! 貴様の狼藉はそこの虚け者を片づけてからじっくりと問い詰めてくれる!」
「はよ行って! 私がおねぇを抑えきれる今のうちに!」
「すまねぇ……すまねぇ妹ちゃん!」



 そして俺は走りだす。
 振り返る事はしない。絶対に振りかえったりしてはいけない。
 何故ならば、俺の逃走は彼女の犠牲あってこそのものだから。振り返ると言う事は、その犠牲を無駄にしてしまうということだから……ッ!
 俺は涙を飲んで走りだした。全力で、一目散に、割と大人げないくらいに本気で失礼な勢いで。
 途中、背後から「あ、こら塵芥~~! うぬは次見かけたら、火刑磔刑極刑のフルコーラスだからなぁああああ!!!」とか物凄く物騒な台詞が聞こえたが、それを無視してしゃにむに走った!



―――妹ちゃん…………俺は、君の笑顔を忘れないよ…………ッ!


 
 あふれ出る涙をこらえて、俺は妹ちゃんの優しい笑顔を脳裏に描きながら、心の中で固く近いながら帰宅するのであった。

 


 こうして、俺の長い激動の一日が終わる。
 すずかちゃんの容体の急変から始まった、このイベント目白押しであった一日は、嫌が応にも事の終わりが近づいている事を示唆しているように感じられた。
 そして、帰り際に出会ったあのヘンテコ双子姉妹。
 俺はこの時、ついぞ想像することなんてできなかった。
 このヘンテコ双子姉妹との出会いが、まさか今回の事件をよりややこしくさせてしまう原因であったなどとは。
 誰にも……そう、ユーノやなのはどころか、あのクロちー達ですらも、想像することなんてできなかったんだ―――――。
























――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ひらきなおったいぶりす
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 たいへんだった……スランプ大変だったよ! 
 でも頑張って書きました! ごめんなさいっ!
 ようやく、ここからジュエルシード編もといフェイト編終了まで下り坂と相成りました。
 正直、そのツナギの話である今回をどうしたものか非常に悩んでいたのですが、ご覧の有り様となってしまっております。もはや言い訳はすまい。
 
 さて、最後にでてきた例のあの方なんですが、本当は出すつもりなかったんだ、てへり。
 でも、感想の方で「ヤツはまだかー!」みたいなお言葉がございましたので、気が付いたらこんなことに、てへりてへり。
  
 迷走も加速しております〝俺はすずかちゃんが好きだ!〟
 どうか、ここまでお付き合いくださったモノ好きな皆様、今後ともゆるゆるーっとお付き合いくだされば僥倖です。かしこ。



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