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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 城と訪問と対面 後篇
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:96b828d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:40


 〝前世〟における俺の人生が、万人から見て幸せなものだったと言えるかというと、ちょっと難しい。
 ただ、最後の死に様はどうであれ、その人生自体は、俺自身とても幸せなものだったと思っているし、なにより生涯をかけて愛してもいいと思えた女性に出会えたのは、恐らく〝人間〟という枠組みだけでなく、〝生きるモノ〟として贅沢極まりない幸福であったのは確かだ。
 で、そんな自慢たっぷりなマイラバーなんだが…………正直な話、万人から見て彼女が好ましい人物、あるいは人格的に評価されるような良識ある人間だったか、というと――――あー、その、まぁなんだ。人それぞれだよね、みたいな? 
 大学から帰って来る途中、公園が騒がしいので見てみると、マイラバーの奴が学校帰りの小学生とベーゴマで遊んでたり。
 遊園地に遊びに行けば、着ぐるみの中の人を引きずりだそうとしたり。
 信号が赤から青になかなか変わらなければ「ボクの道を邪魔するのか!」とか叫びながら信号機をショートさせたり。
 電車のドアが目の前でしまれば「おのれ世界め! またしてもボクの道を塞ごうとしているようだがそうはさせない!」といって無理やりこじ開けて電車の発進を止めたり。
 あ、あと、飯を作ってやれば作ってやったで、やれ「オムライスが食べたい! ケチャップで狼描いた奴で!」だの「何故ハンバーグにニンジンを付けるんだ!」だのまるっきりガキそのものだ。
 …………つーか、思い返してみると俺に対してやらかした所業といい世間様にかけた迷惑といい、常識と言う言葉に真正面から喧嘩を売ってるようにしか思えないな。よく俺はそんな問題児と暮らしてこれたもんだと、今さらながら自分を褒めずにはいられない。ふーはは!

 ……いかん。時々、わけもわからずアホなことをしてしまうのは、間違いなくアイツの影響だ。くそう……昔はもっとクールで物静かなナイスミドルだったのに。あ、ちげナイスガイだ。

 と、ともかく!
 そんな〝アホの子〟と一言で片づけていいようなマイラバーなのだが、アイツ自身が特殊なように、その出会いもちょっとばかし、世間様から見ると特殊なものに分類されそうなものだった

 当時、俺は寂れた孤児院から寮付きの高校に給費生として入学し、大学も給費生プラス奨学金という赤貧学生まっしぐらな方法で進学しており、ついでに御多分に洩れることなく家賃月二万八千という格安ボロアパートで独り暮らしをしていた。
 大学が終わればほぼ毎日バイトに直行し、帰宅したら課題やら何やら片づけ、少しテレビ見るなりネット漁るなりして就寝。以下ループなので省略。
 そんな、他人から見れば楽しみもへったくれもないようなルーチンワークの日々だったが、俺にしてみれば毎日が必死だった。早く社会人になって安定した収入を得て人心地つきたい。頭にあるのはそんなことばっかりで、他の事に興味関心を持つような余裕なんてなかった。
 だからか、周囲の人――――まぁ、バイトの知り合いや大学の友人達にはそろって〝怖い人〟という印象を持たれていたらしい。そりゃぁ、生きるのに必死な人間て言うのはいつも切羽詰まってるしな。常日頃ピリピリした雰囲気をしてれば、誰だって怖がるもんだろう。
 それはともかく。
 そんな周囲の人々に〝マッド・デーモン〟だのなんだの陰口を叩かれていたある日のこと、いつものように特筆することもない日課を終えて、寒風に身を震わせながらとぼとぼと帰宅している途中だった。
 ファミレスのバイトというのは、主に金土日の週末がクソ忙しい。そして、丁度その日は前日が世の給料日な金曜日と言うダブルパンチの重なった日で、お店にとってはハッピーデイ、バイトにとってはブルーデイな一日だったわけだ。
 おまけに、急な風邪で本来出るはずだったバイトの一人がこれなくなり、ヘルプの子が来てくれるまで普段より一人少ない状態でお店を回したもんだから大変も大変。その日は久しぶりにへとへとになっていて、帰ったらシャワー浴びて速攻寝ようそうしよう。どうせ明日は夕方からだしいいよね、と頭の中で些細な幸せを楽しみにしていた。
 そして、欠伸を噛み殺しながら近所の公園を通り過ぎようとした時、ふと足を止めてしまったのである。
 理由は、今でもよく思い出せない。ただ、なんとなく寂しいような、悲しいような、ちょっと気にかけてやらないといけないような―――それが一体何に対してだったのか、当時の自分でもよくわからない理由だったと思う。
 心底疲れきっていてだるい事この上なかったはずなのに、俺はそのまま公園の中に入ると、そのままぐるりと一周散歩することにした。
 11月というう季節的にはもう完全に冬に突入した深夜。息を吐けば白く溶けていくし、手を出しておけばあっという間に冷たくなってかじかむような、身も凍る寒い夜。
 そんなクソ寒い日に散歩して帰ろうかとか、今にして思えばホントに何を考えてたんだろうな。当時は頭のねじがダース単位で吹っ飛んでたとしか思えない。
 そして本当にそのままぐるりと公園を一周し、入口近くのブランコへと近づいた時だった。



―――ギーィ……ギィ。ギーィ……ギィ。



 錆びついた金属がこすれる音。モノ悲しく響き、それでも止まることを知らずに規則的に揺れる金属音が、まるでトンカチで胸を叩かれたような衝撃となって俺を襲った。
 こんなところで無駄に税金使うなよ、と場違いな八つ当たりをしたくなる公園の外灯の下。
 揺ら揺らと影が前後に揺らめき、その度にブランコの錆びついた金属音が虚しく空へと消えていく。
 長い、青いツインテールを揺らしながら、一人の少女がつまらなさそうにブランコを漕いでいた。
 寒さで赤くなった、すっと通った鼻梁。同じく寒さで少し青くなった、ややへの字に曲がった口元。ずずっと時折鼻をすすりあげては、ぐしぐしと赤くなった目元をこするその姿は、まるで家出をしてきた少女そのもので。
 たまらず、俺はその隣のブランコに腰掛けて、声をかけていた。



「ブランコ、楽しいか?」
「同情するなら家をくれ。そして君を糧にボクは飛ぶ!」
「…………」



 けど、帰ってきたのはなんか凄まじい言葉だった。つーか痛い子だった。
 そもそも金じゃなくて家かよ。そして飛ぶんですか。いわゆるアイキャンフライって奴ですね――――って何故か本当にブランコから飛んだぁああ!?
 そのままブランコから飛んだ謎の美少女は、空中で花丸満点な前方抱え込み宙返りで着地すると、何故か「ふん。どうだ!」なぞとドヤ顔で俺の方に振り向いてきたのである。
 あまりにも超展開すぎる流れに二の句が継げず、加えてこの何を考えているのかわからない少女の奇行に、俺は只管絶句した。
 
 これが、マイラバーことシルフィ・ベルリネッタとの出会い。
 
 実の母に捨てられた家無き子。俺と同じ、誰からも必要とされない寂しがり屋。そして、ちょっぴり…………あー、いや、滅茶苦茶アホで、常識知らずのアホで、何かあると「ボクは飛ぶ」とかいうちょっとアレな痛い系超絶美(微)少女のアホ。
 そんなどうしようもないくらい残念な美少女との出会いは、やっぱりどうしようもなく残念で、そしてどうしようもなく普通から程遠い出会いから始まったのだった。











 以上回想おしまい。〝ドキっ☆ ひこちんの何故何マイラバー伝説!〟のプロローグだったわけですがいかがでしたでしょうか。俺的には黒歴史過ぎてちょっと辛い。
 まぁ、なんで急にそんな回想に走ったのかと言うと、絶賛目の前にまします黒衣の魔女様のせいだったりするんですけどね。



「それで、貴方は私に何が聞きたいのかしら?」



 冷たい瞳だ。〝相変わらず〟過ぎて吐き気がするほどに冷静で、相手が小学生の小僧だろうと容赦がない。キャープレシアさん濡れるー!
 ……んなくだらないこと考えてる場合じゃないって。モノの見事にこっちの考え見透かされてますがな。



「やー、大したことじゃないンスけどぉ~」



 ともあれ、どうしたものか。
 一番気になる〝現在の御歳はおいくつでございましょう?〟は地雷極まりないし、かといって直球に〝シルフィどこっすか?〟と聞くのhダメ。絶対。
 そもそも、この世界か゛前世〟との平行世界だというのなら、この世界におけるシルフィがフェイトであると言うのが、この人自身の〝フェイトに対する態度〟ですぐわかる。ただ、フェイトの性格がシルフィと似ても似つかないせいで確証にまでは至れないのがアレっちゃぁアレだ。下手したら他人の空似というオチかもしれない。
 ……しかし、となると聞きたいことなんてあと一つしかないんだよな。



「フェイトから聞いたんですけど、なんでまたジュエルシードを集めてるんすか?」
「……それが聞きたい事なのかしら?」



 すっ、と。お義母さんならぬプレシアさんの怜悧な目が細まる。
 まるで剃刀を首元に突きつけられたような圧迫感と、下手な事を口にできないという緊張感で、知らず知らず握りしめた拳がじんわりと汗で濡れてくるのがわかった。
 それでも、俺は聞かなければならないんだ。でなければ、この人と〝取引〟のしようがない。
 俺を呼んだ理由が、以前に生身でジュエルシードを発動して無事だった―――呪いの事は置いておくとして―――からで、知りたいのはその時の話だということはわかっているが、では゛何故そんなことを知りたいのか〟という話になると、まるで深海の世界を調べようとするかの如く理由が不透明になる。
 この人を相手(仮にお義母さんと同一の存在と仮定した場合だが)にするならば、話し合いという状況に置いて一つでも不鮮明な点を残したまま話を続けるのは、自分で灯油をかぶってライターを点火しようとする事に等しい。
 少しでも憂いをなくすため、ひいてはすずかちゃんとその友人たちの身の安全のためにも、ここははっきりとさせておかなきゃならない、重要事項の一つなのだ。



「や、やっぱり世界征服とか狙ってるんですか! だったら絶対に話さないぞ! ちきゅうのへいわはぼくがまもるんだー!」
「…………………」


 
 ただまぁ、まともに聞いても答えてくれるとは思っていなかったので、とりあえず思いつきで誤魔化しっぽい台詞を叫んでみたら、寒い風がホールを吹き抜けた。
 力の限り拳を振り上げて、どこぞの熱血少年アニメの主人公の如く気合を入れて演じてみたが、どう考えても逆効果でしかなかったらしい。
 く、くそう、俺の読みが間違ったか!?
 ここは小学生っぽく誤魔化してなんとか場を流そうと考えたんだが、やはり上手くは行かないかっ!
 よーしならばヒコちんプランBだ! プランB、なんだそりゃ! んなもんねぇよ! ……ッてぅおい!?
 以上脳内ミニドラマより中継でお伝えしました。
 ………・そうでもしなきゃ、この気まずい空気の中間がもたないんですよ! あぁちくしょう、マジで5分くらい過去にさかのぼってやり直したい!



「……はぁ」
「なんか溜息吐かれたー!?」



 世界が変わっても〝前世〟の初対面の時とまるっきり同じ反応をされるのは一体どういうことなんだろうね。おにーさんちょっと悲しくなってきたよ。



「何かと思えば……残念だけど、貴方の期待には応えて上げられないわ」
「それはありがとうございます! でもその滅茶苦茶憐れみのこもった白い目で見るのは止めてほしいなぁ!」



 あっはっはー!と、とりあえずヤケクソになって大声で笑ってみた。自体の改善には至らなかった。無念!



「それで、坊やの質問だけど………私がジュエルシードを集めているのは、私の研究に必要だからよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「むむ、てことはその研究が世界せ――――」
「違うわ。そんなくだらないことのために費やす時間なんて、一分一秒たりとも存在しない」



 どうしても世界征服を狙う悪の大魔女に仕立て上げたかったのに、ことごとくフラグを潰されてボク涙目。
 ついでに言うと、さっきから俺を睨みつける魔女様の視線が恐ろしく冷たくてちびりそうです。
 さて、こっからどうやって話を引き延ばしてうやむやにしようか。
 ぶっちゃけた話、最初っからこのオバサンにジュエルシード関連の話をする気なぞナッシングである。
 
 理由そのいち。〝前世〟とそっくりな時点で気にくわねぇ。つーか大嫌い。
 理由そのに。この人にジュエルシード使わせたら、なんか嫌な――――いやとんでもなくヤバい事が起こりそうな予感がする。
 理由そのさん。単なる俺個人の感情による嫌がらせがしたい。

 以上。実に個人的で我儘な話だが、この人相手にはこのぐらいでちょうどいいのだ。まぁ正確には別人なんだけどね。でも雰囲気といい態度といいモノ言いといい、あらゆる点でそっくりなので全然別人と思えないコレ不思議。
 つーわけで、そろそろふざけるのは終わりにして、本音トークと行きましょうかね。
 実際、この人の真意がわからない以上、下手に情報を与えて碌な目に遭うなんて絶対にゴメンである。



「おふざけはここまでよ。そろそろ真面目に答えるつもりはないのかしら?」
「あちゃー……もしかしなくとも、バレバレっすか」
「子供の割に頭は回るようね。これ以上私に手間を取らせるようなら、私にも考えがあるのだけれど……?」
「うわー、幼児虐待とかマジ大人げねー」
「そう……なら仕方ないわね。坊やがいけないのよ?」
「――――って、なんか死亡フラグ立ってるぅーーー!?」



 ちりり、とうなじあたりが総毛だった瞬間、俺はほとんど条件反射でその場から横っ跳びに飛んで転がっていた。
 ゴロゴロと無様に床を転げまわると共に、耳をつんざくような轟音とホール全体を軋ませるような振動が響き渡る。
 恐る恐るとさっきまで立っていた場所を見てみれば、なるほど。一歩間違えれば俺、間違いなく死亡フラグを握って笑うハメになっていたかもしれん。大理石のようにぴっかぴかだった石の床っていうかタイルが、木端微塵に弾け飛んでいる。ありえたかもしれない未来の俺像に、さすがに俺は冗談ではすまされない恐怖を覚えた。
 同時に、ここ最近魔法やら何やら、物騒な事に巻き込まれまくってた御蔭――――と喜びたくは無いが、しかし一命を取り留めたことに果てしない安堵を覚える。
 爆発するかのように心臓が高鳴り、耳の奥で激しく脈打つのが聞こえる。頭がカッカと熱くなり、今にも意味不明な叫びを口走りそうになるのを我慢しながら、間違いなく今の一撃の原因であろうその人を睨みつけた。
 玉座(?)から立ち上がり、魔女のチャームポイントもといトレードマークであるメカメカしい杖を掲げたプレシアおばさんは、その周囲に紫の雷を纏わせて傲然と俺を見下していた。
 その立ち位置といい態度といい、なんとなく某カリスマ吸血鬼さんを思い出したので、とりあえず場を和ませるために言ってみよう。



「い、いきなりなにをするだぁあああ! 許さん!」
「いつまでその態度が続くか…………おいたが過ぎるのも考えものよ、坊や」
「すみませんマジごめんなさいだから丸焼だけは勘弁してつかぁさいッ!」



 光の速度で土下座して謝罪ターン。超失敗しちゃった、てへっ☆
 しかしながら、この黒い魔女様はそんな俺のお茶目なジョークを英国淑女張りにスルーしてくれるような度量を持っているわけではないらしい。表情一つ変えることなく、さらに激しい雷光を杖だけでなく自分の周囲に纏わせた黒い魔女様は、底冷えするような低い声で俺に最後通告を投げかける。
 無論、俺がそれに逆らえるはずもない。いや、逆らうにしたってタイミングが悪すぎる。
 ここでいつものノリで「だが断る!」などと言おうものなら、次の瞬間、間違いなく〝本田時彦の燻製〟が出来上がることだろう。
 ……第二回目の人生でそんなバッドエンドだけは絶対に嫌である。ていうか、俺まだすずかちゃんに告白してねーしっ!
 そうだ!
 俺、無事に家に帰れたら、すずかちゃんに告白しよう。なんかもう、高町に関わった時点で明日とも知れぬ命に叩き落とされた気しかしないので、早いうちに未練を断って――――って何縁起の悪い事考えてるかぁあああ!?
 いかん、冷静になれ本田時彦。
 まずはこのひっでょーにまっどぅい状況を停滞させ、少しでも逃げる時間を延ばすんだ!
 いや、ていうか今気付いたんだけど、真面目に会話すればいいんだよね? よしそうときまれば話は早い!



「あー! そう、そうですそうだ! 聞きたい事あります! めっちゃ聞きたい事あります! ソレ聞いたら真面目に答えますんで!」
「…………」
「シルフィ! シルフィっていう名前に聞き覚えは!? ていうか、フェイトとそっくりだけどかなりアホで自分の事ボクとか言ってる残念系美少女のシルフィさんをご存じじゃぁありませんでしょうか!!?」
「……………シルフィ?」



 それまで激しく稲光を見せつけてくれていたプレシアオバサマは、ぴくりと片方の眉をひくつかせた。
 その反応に思わず内心で『釣れた? もしかして釣れちゃった!?』と九死に一生を得た気分で喜ぶ俺。
 しかし、世の中そんなに甘くありませんでした。



「うおぅっちゃぁ!?」



 耳をつんざくような轟音一響。
 突然のフラッシュに目を瞑った瞬間、すぐ真横の床のタイルが炭化しながら弾け飛んだ。
 ………背筋に氷のように冷たい汗が垂れ落ちる。
 ぞぞぞ、と鳥肌と言う鳥肌が恐怖で粟立ち、強制的に呑みこまれる唾が嫌に喉に絡みついた。
 嫌な予感が、さっきからざくざくと俺の体全体を突き刺している。
 できるならばこのまま逃げたい。一目散に、さっさと身を翻して全速前進DA!とばかりに逃げ出したい。
 だが、そんなことをしようものならば、それこそ俺の末路がこのタイル君になってしまうのは明白で、だからこそ俺は、まるで錆びついたブリキ人形のような動きで、横の炭化したタイルから魔女のオバサマへと視線を向けるしかなかった。



「残念だわ、坊や。本当は穏便な話し合いで済ませたかったのだけれど」
「……け、けれど?」



 絶対零度の視線とは、まさにコレだろう。
 感情の読めない暗い瞳。
 理性の中に狂気を孕んだ恐ろしい言葉。
 優しげで、それでいてナニが縮まる程の恐怖を感じさせる溜息。
 プレシア・ベルリネッタではないが、それとなんら変わることのない、むしろそれよりも遥かに凄まじい狂気を湛えた女性――――プレシア・テスタロッサが、俺を睨み据えていた。



「正直になれる薬をプレゼントするしか、ないようね」
「自白剤エンドとは新しい!!」



 玉座の魔女が杖を振りかぶるや否や、俺はその場から全力で横に跳んだ。
 再び轟音。爆発。
 さっきのような〝威嚇〟ではなく、本気で当てて行動不能にしようという意図がありありと伝わって来る一撃だった。
 せめて高町が使ってた輪っかみたいな魔法で捕まえてくれるならまだしも、ダメージを与えて昏倒させようってあたり、子供だからといって容赦する気が端からゼロである。



「あら、逃げたら余計痛いわよ?」
「逃げなきゃ殺す気だろアンタ!!?」



 「さぁ、どうかしら?」等と実に当てにならない返事を耳にするが、しかしそんなことを気にしてなどいられなかった。
 頭を抱えながら伏せていた状態から、爆発が収まったとわかるや否や、鬼ー様お墨付きのスタートダッシュで身を起こしながら駆けだす。
 目指すは先程入ってきたでっかい扉! 
 魔法でロックされてるとかだったらもうどうしようもないが、今視界にある出口はあそこだけだ。なんとしてでもここから逃げ出さないと、牢屋に監禁されての自白剤プレイと言う新境地を体験させられる羽目になる。残念ながら俺はドMではないのでそんなプレイお断りです!
 そしてあと少しで扉にたどり着くというところで――――、



「ぷぎゃっ!?」
「悪いけれど、逃げ道は塞がせてもらったわ。下手に騒がれても面倒だもの」



 何故か顔面から全力で見えない壁にぶつかって盛大にこけた。
 目の前で火花が散り、したたかにぶつけた鼻がジンジンと痛む。ツンと血の匂いがしたことから鼻血が出ているのかもしれないが、ぶっちゃけそれ以上にぶつかった痛みの方がやばすぎてそれどころじゃなかった。
 そして、じったんばったんと鼻の痛みを誤魔化すかの如くのたうちまわっている俺に向かって、例の黒い魔女様は一片の良心も存在しない、実に悪人全開な台詞をのたまっていらっしゃる。
 まずい、やっぱりマイラバーに関する話題は地雷だったか……!
 なんとか痛みを我慢して立ち上がり、再び扉に向かって駆けだそうとするが、目の前にマジで見えない壁があって進む事が出来ない。さながら透明な強化ガラスを目の前にした猿の如く、俺は必死にその壁をブッ叩いてみるが、当然のことながらびくともしなかった。
 その間にも、黒い魔女様は玉座から降りてゆっくりとこちらへと近づいてくる。
 カツン、カツンとヒールが石のタイルを叩く甲高い音が響き渡り、俺への牽制なのか、杖の周りに相変わらずな紫電を纏わせる様が実に悪の大魔女っぽくて痺れる。そう遠くない未来にマジで痺れそうなのが果てしなく不安だが。
  

 
「最初はジュエルシードについて話を聞くだけのつもりだったのだけれど……今は、それよりも聞かなければならない事が出来たわ」



 その癖してまったくもって話を聞くという態度ではないのはいかがなものだろうか、という突っ込みはしちゃいけないのだろう。
 とりあえず鼻を拭ってみたら、見事に拭った手の甲にべったりと血がこびりついた。だらだらと鼻から口にかけて流れてるもんだから気持ち悪いことこの上ない。その上、ビジュアル的にもかなりよろしくないイケメン状態(笑)になっているに違いないと考えると、軽く鬱になった。
 そんな感じに「あちゃー」と内心困りつつ、ここからどうやって逃げ出そうかと必死に頭を回転させる。無論、黒魔女様の言葉なんて聞いちゃいない。
 しかし、黒魔女様も俺に話を聞いてもらうつもりはないのだろう。半ば独り言のように話を続けながら、ゆったりとしたスピードで歩み寄って来ていた。



「答えなさい。なぜ貴方が〝あの子〟の事を知っているのかしら?」
「……ってこたぁ、あの馬鹿、やっぱりこの世界にもいたんだな」
「どうやら〝口から出まかせ〟というわけでもないようね…………」
「のぉおおおうっ!? もしかして俺、今滅茶苦茶いらんこと口走ったぁーー!?」



 なんかまたしても自分で自分の首を絞めるような事やらかしてる気がぁああああ!
 どうしよう、まさかのひこちん絶体絶命の大ピンチ!?
 もしかしなくともここでBADENDですか!? 
 好きな子に告白もできないまま、知らずと立ててしまった死亡フラグを握ってゴールしなきゃならないとかそういうルートなんでしょうか!



「大丈夫よ。殺しはしないわ」
「それって暗に生き殺し宣言してるのと同じっすよね!? ていうか待って! そんな乱暴な方法じゃなくても、ボク素直に洗いざらい吐きますから! シルフィとの関係もアイツの悪行も全部話すんでどうか命だけは―――――!」



 鼻先に杖を突き付けられ、今まさに紫色の雷に打ち抜かれんとした、その時だった。
 


『でぃばいいぃいいいん…………………ばすたぁあああーーーーー!』



 城が崩壊するンじゃないかと言うほどの衝撃と、とても見慣れた桃色の閃光が俺の真横を貫く。
 重厚極まりない扉とそれを支える柱と壁を丸ごとふっ飛ばし、さらには広間の天井すらも軽く抉っては爆砕したその一撃は、今まさに俺の命を摘み取ろうとしていた魔女様をも警戒させる威力を誇っていたらしい。咄嗟に杖を下げ、重力を感じさせない動きでとんでもない距離を後退した魔女様は、今の砲撃のせいで濛々と立ち込める砂煙の向こうを睨みつけていた。
 ……っていうか、今のってもしかしなくても!



「本田君、大丈夫!?」「大丈夫ほんだくん!?」「時彦、無事なら返事しなさい!」
「つ、月村さんにみんな!」



 そう、現れたのは何を隠そう、すずかちゃんとその仲間達、そして無言のまま駆け寄る険しい表情をしたフェイトと使い魔のねーちゃんだった。
 どうやら俺の想像通り、今の一撃は高町の魔法だったらしい。既にいつもの制服ではなく、それに限りなく似た魔法少女の衣装を纏っている。
 無論、手にはメカメカしい魔法少女の象徴を握りしめ――――そして俺の顔を見て顔を思いっきり引きつらせた。



「うわっ、ほんだくん鼻血すごいよ!?」
「ぶっ……あ、あはは! なにそれ時彦! だっさー!」
「人の顔見て笑うなよ!? 俺、今の今まで滅茶苦茶怖い目にあってたんだから仕方ないだろ!」
「あの、本田君……これ」
「つ、月村さん……ッ! こんな時にもかかわらずいつも通りの優しさをくれる月村さんにぼかぁ胸いっぱいですっ!」
「そ、そんな大げさだよ」



 照れ照れと頬を赤くするすずかちゃんからハンカチを受け取り、遠慮なくそれで鼻血を拭って抑えつつ、俺は心の中で未だに俺の顔を指差しながら爆笑しているアリサに復讐することを堅く誓った。アリサゆるすまじ。
 ただ、そんないつものほんわかタイムも束の間の幸せ。事態はまるで解決しておらず、ただ単純に高町の不意打ちによって多少の時間稼ぎが行われたにすぎない。
 真に重要なのは、ここからどうやってこの城を脱出し、俺達の地元へ帰還するかと言う事だ。
 そもそもこの城にやってきたのはフェイトの魔法だし、どう考えても、地元に帰るためにはフェイトに送ってもらわなければならないだろう。
 しかし、フェイトはあの黒魔女様の娘だ。つまり、この状況ではむしろフェイトは敵側に回ってしまうと考えるのが妥当であり――――しかし、意外にもフェイトは実の母親に向かって敵意を隠しもせず、逆に批難の色を込めて見つめていた。



「……フェイト、何故その白い魔導師の子がここにいるのかしら?」
「……母さん。どうしてこんな……ッ!」
「答えなさい。私はその男の子を連れてきなさいと言ったはずよ。何故無関係な人間を連れてきたの?」



 すがすがしいほどに会話が成立していない親娘である。まぁ、シルフィだってそうだったし、こっちでもこんなもんだろ、と納得している俺がいるのは秘密だ。
 ともかく、今のうちに逃げ出さなきゃ。
 そう思ってなんとか立ち上がろうと脚に力を入れるが、まるで生まれたての小鹿の如くガクガクと震えてしまい、立つことすらままならない。
 やべぇ……もしかして、腰が抜けてる?
 さーっと、顔から血の気が失せるのがわかった。まさかこんな土壇場でお荷物とか、俺ってどんだけダメ人間なの!?



「……まぁいいわ。そのあたりは後で聞きましょう。それよりもフェイト、母さんからのお願いよ。その後ろにいる坊やを捕まえなさい」
「捕まえるって……私は、話を聞くだけって言われたから!」
「事情が変わったの。その坊やに話してもらわないといけない、大事な用件ができたわ」
「そんな……っ! 私はそんなつもりで彼を連れてきたわけじゃありません!」



 フェイトの主張なんて、端から聞くつもりもないだろう魔女様。だというのに、必死に食い下がるフェイトを見ていると、とても申し訳ない気持ちになる。
 そして何よりも、こんなヤバい修羅場にすずかちゃん達を巻き込んでしまった事こそが、俺は申し訳なくて仕方なかった。
 なんですずかちゃんの家に寄ってから、なんて考えたんだろうか。あのままユーノと二人で行けばよかったのに、らしくないことを考えたばっかりにこんなメに――――って、あれ? ユーノのやつ、どこいった?
 フェイトと魔女様が睨みあい、その隣に使い魔のねーちゃんが立つ後ろで、俺含む地球組のメンバーは事の成り行きを見守っていた。
 そんな中、きょろきょろとあたりを見回してみれば、いつも高町の肩あたりにいるユーノの姿が見えない。てっきり無茶をやらかした俺に対する罵声の一つや二つが飛んでくるかと思ってたんだが……そうか、ナニか物足りないと思ったらアイツがいないのか。



「おい、高町。ユーノはどうした?」
「ユーノくん? えと、実は……」
「なのは、そんな呑気に話してる場合じゃないわよ!」
「伏せてみんな!」
「――――ッ!?」
≪Protection.≫


 稲妻と稲妻がぶつかりあい、凄まじい爆風が吹き荒れた。
 咄嗟に高町が魔法のバリアみたいなものを張ってくれたおかげで俺らは吹っ飛ばずに済んだものの、その向こう側にいたはずのフェイトはいつの間にか消え失せ、代わりに煙を突き破るようにして使い魔のねーちゃんが飛び出してくる。
 そして突如淡い光にその全身が包まれたかと思うと、次の瞬間には立派な赤毛のでっかい犬に変身していた…………って、変身!?
 


「ちょ、なにこれなんなの!? 一体何が起きたのさ!?」
「チビ二人、さっさと背中に乗りな! あと、えーと……なのはだっけ? あのイタチに連絡取れ!」
「え、え?」
「いいから早く!」
「「「は、はい!」」」
「……あのー、ちょっと状況がわからないんで是非とも説明をぷりー………ずぅうううううううう?!!」

 

 せんせー。礼儀正しく挙手して質問したのに、気が付いたらでっかい犬に首根っこ咥えられましたー。そしてそのまま全力で逃走を始めたんですがどういうことですかー。



「ていうか痛ぁーーーッ!? ちょ、歯! 歯が肌に食い込んで微妙になんと誤魔化していいかわからない歯型がぁあああ!」
「ふっはい! じはははふんは!」
「何言ってるか分かんねーけどとりあえず静かにしますんで喋らないでぇえええ! 歯が、歯が食いこんで痛いっす!! つーか体がっ、走る度にべっ、床にぶつかってエライことになっだぁっ!!」



 傍から見たらなんと珍妙奇天烈な一行だろう。
 背中に二人の少女を乗せたでっかい犬様が、その口に鼻血ダラダラ首からも血をちょっぴり垂れ流しながら咥えられ、全速力で城の中を駆け抜けていく。
 ……ていうかこれ、俺が咥えられる理由なくね?
 なんで俺も背中にのっけてくれなかったの?
 あ、そうか。俺腰抜けてたから立てなかったもんなぁ、あっはっは――――って笑いごっちゃねぇってマジ痛いですって!?
 四足歩行動物が走れば、そりゃもちろん地面を蹴り上げるわけです。その度にずっしんずっしん揺れるわけです。でもってその度に歯が首に食い込むんです。そして凄まじい勢いなので俺の膝やら体やら着地の度に思いっきり床にぶつかってるわけでして……洒落になんないくらい痛いんですがー!!
 


「あ、いた、ユーノくん!」
「なのは!――――ていうか時彦が食べられてる!?」
「こんな不味いの誰が食べるかっ!」



 城を抜け、さっき俺達がフェイトに連れられて魔法で転移してきた草原までやってきた俺達は、見慣れたミントグリーンの魔方陣を広げ、その中央でぼへーっと突っ立っている(命名、イタチのう○こ座り)ユーノを見つけた。
 先行していた高町はそのまま魔方陣の外縁に着地し、一方で使い魔のねーちゃんは咥えていた俺を着地様にぺっと投げ飛ばしながら着地する。
 その勢いでごろごろと草原の上を転がった俺は、そのままユーノの上に覆いかぶさる形で倒れ込んだ。さ、最後まで人をモノ扱いですか使い魔のねーちゃん……!



「ちょっ、時彦重い……ッ!」
「ぃっててて……少年への扱いが乱暴すぎるあのねーちゃんに言ってくれ」



 なんとか全身打撲したように痛む体を引きずり起こし、ひとまず押し潰していたユーノを引っ張り出す。
 しかし、体力がもったのはそこまでだった。そのまま力が抜けた俺は、草原の上にどさりと仰向けに転がってしまう。あーくそ、もう力が入らん。
 首筋がじくじくと痛いし、なにより魔女様にいたぶられた以上に走ってる時に床にたたきつけられまくった痛みの方がでかすぎて動きたくない。動くだけで全身にミシミシというかムチムチというか、ともかく動くのすら億劫になるくらいの激痛が走るのである。これ、普通の小学生だったら絶対泣きわめいてるぞ。泣かない俺超えらい。えろくないよ。えらいんだよ。



「だ、大丈夫本田君!?」
「いてーっす。超いてーっす。ねーちゃんマジ乱暴」
「フェイトの頼みじゃなかったら誰がアンタみたいなバカを助けるか! アタシゃ謝らないよ!」



 慌ててすずかちゃんが駆け寄ってきて、俺の顔を覗きこみながら心配してくれた。その女神菩薩の如き優しさに俺は目頭が熱くなるのを抑えられない。
 せめて、今日はすずかちゃんのこの優しさに甘えるくらいは許されてもいいと思うんだ、うん。そもそもなんで俺だけこんな酷い目に遭わにゃならんのだ。マジあの羞恥心皆無なコスプレ魔女様覚えてらっしゃい。いつかきっと仕返ししてやるんだから!
 


「それよりイタチ! 術式の構築は!」
「既に済んでる。それより、君の主人の子は……」
「アンタらを逃がせって言って、今あのクソババァの足止めしてるに決まってるだろ! 座標指定はアタシがやるから、さっさと魔方陣に入りな!」



 再び人間フォームに変身したねーちゃんが、犬歯をむき出しにしながら円の外にいた高町とアリサを中へと押し込んでいく。
 事情がわからない俺達は、ただ只管に目を白黒させるしかなかった。
 わかるのは、俺がすずかちゃんに介抱されながら、高町にユーノの居場所を聞いている間に、何故かフェイトとあの魔女様とでバトルが始まった、ってこと。そして、その最中でこのねーちゃんが突然俺達をひっ捕まえて、あの城から逃走を図ったと言う事実だけだ。
 それがフェイトの指示だと言うのなら、まさに今ねーちゃんが言ったようにフェイトはあの魔女様の足止めをしているわけで……って無茶だろ!?
 実力云々はともかく、フェイトにあのババァを攻撃できるはずがない。いや、逆らえるはずがない。
 少なくともシルフィがそうだったんだから、平行世界のこの世界ならフェイトだってその御多分には漏れないはずだ。それなのに、それに逆らってるだって……っ? 
 例えるなら、会社の廊下で社長が通ろうとするのを木端職員が通せんぼするようなもんだぞソレ!



「足止めって、そんなことしたらアイツ、後で凄まじい折檻されるってわかってて!?」
「そうだよ! アンタらを助けるために、私の大切な大切なご主人様は身を投げてるんだ! わかったらとっととここから出てけ!」
「っ私、助けに――――!」
「ふざけんじゃあないよッ!」



 話を聞いた高町の奴が、今まさにその靴に桃色の羽を付けて飛び出そうとした瞬間、使い魔のねーちゃんが凄まじい形相で高町の手を掴み、狼のようなとんでもない声量で怒鳴り散らした。
 あまりにも凄まじい迫力に、その場にいた全員が思わず肩を震わせて体を堅くする。
 犬歯をむき出しにし、その見事な赤毛を逆立たせて高町を睨みつける様は、まさに狼そのものだ。
 下手な事を口走れば、そのまま噛みちぎられる。そんな必死さを感じると同時に、このねーちゃんがフェイトの事をとてつもなく大切に思っている事がひしひしと伝わって来る。
 そして捕まえていた高町をそのまま俺達の方へ放り投げると、どこぞの弁慶さんの如く仁王立ちして俺達を睨み据えてきた。
 


「フェイトはアンタらを逃がせって言ったんだ。助けてくれなんて一言も頼んじゃいない。それはアタシのご主人様の誇りだ。それを汚すっていうんなら、アンタらを叩きのめしてでもここから追い出してやる……!」
「でも、フェイトちゃんは何も悪くないのに!」
「知ってるさ! そんなの、使い魔のアタシがよーく知ってるよ! でもね、そのいらない苦労をフェイトにお仕着せてるのはアンタ達なんだよ! アンタ達さえいなければ、フェイトはこんな苦労しなくてもよかったんだ!」
「そんな…………」
「アルフさん……」



 使い魔のねーちゃんの言葉が、比喩なしに俺の心に――――いや、俺達全員の心にぐっさりと突き刺さった。
 確かに、フェイト達からしてみれば俺達はフェイトにいらん苦労をかけさせてばっかりのお邪魔虫にしか見えないだろう。事実、今まさにフェイトは俺達を庇って、本来なら被んなくてもいいような辛い目にあってるわけだし、そして自分の大切な人が、そんな貧乏くじを引く羽目になった原因そのものである俺達を逃がさなければならないねーちゃんの心境は、察して余りあるものがあった。
 ……ならば、俺達にできることなんて一つしかない。
 相変わらず、全身をしたたかに打ちつけた所為でまともに動きそうもない体だが、それでも歯を食いしばって上半身を起こす。
 慌ててすずかちゃんが支えてくれたが、それでも完全に座る形になるまではかなりの激痛が走った。
 そしてどうにかして上半身を起こし、不格好ながらも座る形にまで体勢を持ってきた俺は、なおも食い下がろうとする高町を制した。



「高町、ここは大人しく帰ろう」
「ほんだくん、何言ってるの!?」
「……そうだよなのは。ここはいったん戻ろう。悔しいけど、時彦の言うとおりだ」
「ユーノくん、どうして!」
「いいえ、私も時彦の意見に賛成よ。ここはいったん帰るべきだわ」
「アリサちゃんまで!?」
「……なのはちゃん。気持ちはわかるけど、いったん帰ろう。アルフさんのためにも、そしてフェイトちゃんのためにも」
「すずかちゃん…………」



 頭の回転が早いアリサは当然としても、すずかちゃんまでもが俺とユーノの言わんとしていることに気付いてくれるとは思わなかった。
 いや、むしろすずかちゃんだからこそ当然なのかな。ここに来る前、フェイトと二人っきりでナニかを話し合ったらしいし……きっと、その事もあって、今フェイトが抱いているであろう思いに、正確に気付く事が出来たのかもしれない。
 無論、だからと言って高町の奴が納得できるはずもない。あいつにとって、もはやフェイトは俺達に並ぶほどに大切な友人で、今すぐにでも助けてあげたいと思っているはずだ。
 俺達だってその気持ちは痛いほどわかるし、そして同じぐらいアイツを助けたいと思っている。
 でも、だからこそ尚更、俺達は今この場から離れなきゃならないんだ。フェイトの覚悟を。フェイトの思いやりに応えるのであれば。
 フェイトにとっての勝利条件は、俺達を無事に地元へ送り返すこと。もし、ここで俺達がフェイトを助けに向かうような事があれば、逆に尚更アイツをピンチにしかねない。なにせ、高町とユーノを除けば、ここにいるのは極々普通の小学生しかいないんだから。
 ほんのちょっとの間だったが、それでもあのババァの実力がフェイトや高町を遥かに超えているのは肌で感じ取れた。オーラが違うし、何より気迫も、肌を焼くような威圧感もレベルが違う。
 ……小学生らしくないとは思うが、ここ最近の超常現象に加えて、いつぞやの鬼ー様による〝特訓〟の所為でそういったことには敏感になったからなぁ。
 そう言った理由から、俺達がフェイトを助けに向かうのは、逆にフェイトを困らせる結果にしか結び付かない。だからこそ、使い魔のねーちゃんは必死に俺達をつっ帰そうとしているんだろう。
 ……だが、だからと言ってやられっぱなしで終わるのは癪に障る。ていうか許せねぇ。
 


「とにかく、いったん戻る。けど、ただ戻るだけじゃねぇ。戻って、体勢を立て直して――――改めてカチコミに来るぞ」
「……ほんだくん、それって」
「このまんま借りを借りっぱなしでいられるか。つーかそもそも俺、聞きたいことなんも聞けてねーし。なんか理不尽にいたぶられただけだし! この恨みはン倍にしてでもあのババァ様につっかえしてやらんと気が済まん!」
「……はぁ。まったくこのバカは」
「でも、私は悪くないと思うな、その意見」
「…………ちょっと時彦。すずかが不良になりかけてんじゃない。どうしてくれんのよ」
「ちょーまてコノヤロウ!? なんでそこで俺の所為になるんだ!?」
「ふ、不良って…………」



 アリサのあんまりな言いように、すずかちゃんが滅茶苦茶ショックを受けていた。
 ……いや、俺も実は内心で滅茶苦茶驚いてるんだけどね。
 ともあれ、俺の意見に反対する人間は、今この場にいないようだ。
 高町は言うまでもないし、ユーノは全面的になのはの意見優先。アリサも口ではぶつぶつ言いながらも乗り気で、すずかちゃんもやる気満々。となれば、これからの俺達の行動指針も決まったもんだ。



「あー……レイジングハート、ここの座標の記録、お願い」
≪All right.≫
「私達、きっと――――きっと戻ってきますから! フェイトちゃんを助けに、絶対に戻ってきますから!」
「ま、助けられたようなもんだし……借りの作りっぱなしは、私の性に合わないもの。仕方ないわね」
「もう、アリサちゃんってば、すぐそうやって照れ隠しするんだから」
「仕方ないよ月村さん。こいつ基本ツンデレだし」
「誰がツンデレかーーーっ!」
「アンタ達……お礼は言わないよ。アタシはなんも頼んでないんだからね」



 使い魔のねーちゃんが、不敵な笑顔を浮かべながらそんなことを言う。
 無論、俺達はその言葉の裏に込められた気持ちを察して、一斉に頷いた。
 それからすぐ、使い魔のねーちゃんがなにやら滅茶苦茶長い意味のわからない呪文を紡ぎ上げ、それに呼応するかのように足元の魔方陣が輝きだす。
 ここに来る時、フェイトがやったのと同じ現象だ。徐々に世界が霞み始め、体が浮くような不思議な感じが全身を包み込む。
 そして、完全に重力を感じ取れなくなるその一瞬前、詠唱を終えた使い魔のねーちゃんが俺達を見つめながら、短く呟いた。



「―――――ありがとう」



 その小さな声は、間違いなく俺を含むみんなの耳に届いていて――――だから俺は、完全にねーちゃんの姿が見えなくなる前にサムズアップをして見せたのだった。 





☆ 




 ……まぁ、そんな風にやりなれてないかっこつけをしたのが悪かったんでしょうかね?



「ほ……ぁだーーっ!?」
「よっ」
「わとと……っ」
「にゃっ!?」



 すっかり忘れてた。この転移魔法って、転移した後に若干浮いてから着地するってことを。
 本来なら軽く尻餅をつく程度の高さだったにもかかわらず、その事を失念していたせいで無様に尾てい骨から落下した俺は、全身打撲の痛みに加えてピンポイントすぎる激痛に、思わず悲鳴を上げながら目尻を濡らした。
 あぐぅ………この痛みは久しく忘れていたんだぜ……。



「ほ、本田君大丈夫?」
「今、おもいっきり〝ゴッ!〟って音が……」
「天罰よ天罰。人のことツンデレ呼ばわりした天誅ね」
「罰なのか誅なのかどっちだよ。つーかツンデレ言うだけでこの激痛はかなり割に合わないんですが」



 一瞬、全身打撲の痛みすら凌駕する痛みにのたうち回った挙句、うつ伏せになって死に体なった俺に、文字通り死体に鞭打つ所業をやってのけるアリサ様マジパネェっす。
 それに比べて、まるで新妻の如く甲斐甲斐しい優しさを与えてくれるすずかちゃんの女神っぷりときたらもう……っ!
 よくよく考えたら、こうやって大好きな女の子に心配してもらってるだけで滅茶苦茶役得だよね。ポジティブすぎる気がするけどいいや。あぁ……本田君ぶち幸せ……!
 だが、どーにも今日は世界の創造者と言うか管理者と言うかご都合主義の権化とも言うべきマッキーナ様は、俺が少しでも幸せを味わうのを許せないらしい。
 じんじん痛む尾てい骨付近をすずかちゃんが撫で摩ってくれる幸せに酔いしれ、まだ精通もしてないのに続々とした気持ちよさを感じていたその時だった。……え? 変態だって? ちがっ、ばっかおめマジでやべぇんだって! すずかちゃんの手ってばまるでゴッデスハンドなんだよこれホントに!



「あー……取り込み中悪いんだが」
「んぉ?」
「?」
「え?」
「にゃ?」
「あぁっ!?」



 突如降ってわいたかのようなエクスキューズミー。
 慌ててみんなが声のした方へと振り返ると―――――。



「時空管理局本局、巡航L級8番艦所属執務官、クロノ・ハラオウンだ。今の〝転移〟を含めて色々と話を聞かせてほしいんだが――――ひとまず、艦まで同行願おう」



 黒い、刺々しいコスプレした少年が立っていたのでした。

















 
 


 

 

 










 



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
にゃにゃにゃー
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっとクロノん登場。

しかしそれよりも、今回は酷い乱文なってしまい申し訳ありませんorz
書きたいこと色々あったけど、あれいらないこれいらないと削りまくってたらこんな滅茶苦茶に……未熟っ

ともあれ、補足事項は次回の幕間で。ちょっと長くなりそうかな?

しかし今回すずかちゃん影薄すぎる……。やりたかったことやれなかったからだなんて言えない……ッ!
出番をカットしたからだなんて絶対に言えない……ッ!


p.s
フェイトが何故ここまで時彦に執着するかについては、後々に。

p.s
>>ベルリネッタ
元ネタは512BBです。ていうかそれしかわk(ry




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