月曜日。別名、青の憂鬱。
それは始まりの憂鬱と同義であり、世の青年大人の皆さまは「また一週間が始まる……」と煤けた肩を落としながら電車に乗り込む一日。
だがしかし。
小学生の俺に、そんな通例は通用しない!
「おはよーごぜーまーす月村さんっ!」
「お、おはよう本田君。今日はすごい元気だね?」
「応ともさっ! ていうかもう元気にしなきゃやってらんねーっていうかね!」
「え?」
「はっはっはー気にしない気にしない! オラ馬鹿町そこをどけー!」
「うにゃっー!? ちょ、ちょっとほんだくんおさなむぎゅっ」
「こらー! 時彦アンタ、開いてる席あるんだからそっち座りなさいよ!」
「やだぷー」
「こいつ朝から人に喧嘩売ってバカにしてんのかしら……っ!?」
通学バスの中、そんないつものやり取りを交わす俺とすずかちゃん及びその愉快な仲間達。
周りから投げかけられる視線に、どことなく微笑ましい何かを感じるが、すずかちゃんの隣に今日もまた座れたという事実さえあれば、全てが些事である。
そしていつもの朝のように、アリサと二人でくだらない口論をしながらじゃれ合っていると、ふと思い出したようにアリサが言った。
「あ、そうそう。週末の温泉旅行、私達も一緒に行くことになったわよ、なのは」
「わ、ほんとー!? すずかちゃんも一緒にこれるの!?」
「うん。お姉ちゃんも温泉久しぶりだからいいわねー、って。でも、お邪魔じゃないかな……?」
「そんなことないの! 正直、ほんだくんと一緒とか不安で仕方なかったのです」
「おやおやちょいとそこのアホ町さんや。そりゃどういう意味かしらのう。むしろそれは俺の台詞だぞ」
「あ、あほって……今度はあほってゆった!」
「アホにアホと言って何が悪い。やーいバーカアーホほふゎっ!?」
「うーっ! バカとかあほとか言った方がバカであほなんだよ! 友達にそんな酷いこと言っちゃいけないんだから!」
「わはったはらはなへーっ!」
「……え、なに? そこのバカも一緒に来るの?」
「あ、うん。昨日お夕飯一緒に食べてて、おかーさんが誘ってたんだ。ほんだくんのおとーさんとおかーさんだけなら歓迎だったんだけどねー……」
「……高町ん家のなのはさん、最近俺に対する発言が容赦なくなってきたよね?」
「気のせいなの!」
「うぜー! その朗らかで純真そうな笑顔がうぜー!」
「大丈夫よなのは。私とすずかもいるんだから、なのはは一人じゃないわ!」
「うん、うんそうだよねアリサちゃん! ありがとう二人とも!」
「あ、あの、二人とも。私は別に本田君のことは……」
「何言ってるのすずか! このエロガッパは間違いなくお風呂を覗きにくるわ! 油断しちゃいけないんだからね!」
「うぉおおいちょっと待ちやがれそこのバニングスの女ー! 何勝手に人を覗き屋本舗に認定しくさってやがるんですかねー!?」
「なによ、どーせそうするつもりだったんだから変わんないでしょーが!」
「するかー!? そんな墓穴掘りを通り越した自殺行為を誰がするか―!?」
「ふ、二人とも落ち着いて。みんなに迷惑だよー」
昨夜突然決まった温泉旅行。
それは、毎年高町家がこの四月の連休を利用して執り行う家族旅行なのだ。
そして何故か知らんが、その話を昨日の夕食会で聞いた母上が羨み、気を良くした桃子オネーサマが「あらー、それじゃ今年はご一緒しましょうよ!」という謎の気まぐれによって、我が本田家一同もご相伴にあずかるハメになったのである。なんてこったい。
しかも、どうやらこの金髪ガールと月村家の皆様も一緒に来るらしい。なんという大所帯……っ!
いや、すずかちゃんが来るのは全然いいさ。つーかむしろそれだけで今回の温泉旅行は、負の「絶対行きたくねー家でゲームしてー」から正の「この命を燃やし、這いつくばってでもイってやるっ!」という怨念へと切り替わった。
……まぁ、どーしよーもないくらいヤバい問題が一つあるんだが、今は忘れよう。
「とにかく! 時彦、アンタもし女湯を覗こうものなら、十七個に切り刻んでカラスの餌にしてあげるんだからね!」
「だめだよアリサちゃん! それじゃぁ〝押すなよ! 絶対に押しちゃダメだからね!〟っていう前振りになっちゃうの!」
「くっ……!? しまった、これは時彦の巧妙な罠だったんだわ! こうやって私たちに前振りさせて、いざ実行して捕まっても私達に罪をなすりつけるための!」
「え……、そうなの本田君?」
「何故そこで俺に振りますか月村さーん!? つーかそこまで手の込み入ったことするほど暇じゃねーよっ!!?」
「おい時彦うるせー! いちゃつくなら学校着いてからやれよなこのリア充!」
「そーだそーだチ○コもげろバカヒコ!」
「朝のドッジはお前一人対俺達な!」
「俺達の怒りと悲しみを受け止めやがれっ!」
「……りっ、理不尽だっ! 今日の俺はなんか理不尽な不幸に見舞われている……っ!!」
俺達聖祥大付属小学校の通学バスの中は、こんな感じに姦しくも笑いの絶えない、実に楽しい登校風景です。
あぁ、平和って良いなぁ…………俺に対する理不尽な八つ当たりさえなければっ!!
俺はすずかちゃんが好きだ!
「―――――はい、では実習前の注意事項は以上。何か質問は?」
「はーいせんせー!」
「あらあら、元気がいいわね本田君。質問はなぁに?」
「班内で納豆を入れるか入れないかでもめた場合はどうすればいいですか!」
「……えーと」
家庭科室の教壇で、三角巾とエプロン姿の先生が笑顔で硬直する。いや真面目な話なんですって。
班の奴らを見渡せば、マジでその事について口論していたがために、滅茶苦茶真面目に先生の返答を待っている。
「確かに納豆は平安時代からある由緒正しい日本食です! でも、だからといってそれを味噌汁にぶち込んでいいという理論は間違ってる!」
「いいや! うまいものにうまいものを足したらもっとうまくなるのは当たり前だからいいんだよ!」
「ふざけんな! それは料理のできないやつが盛大な失敗をする典型例じゃねぇか! アリサなんか、こないだの実習のカレーの時に〝チョコレートを入れたらもっと美味しくなるに違いないわ〟とか言ってカレーに板チョコ十枚ぶっ込んだんだぞ! あの時の惨劇を忘れたとは言わせないっ!」
「ぐっ……た、確かにあれはひどかった」
「あぁ……思い出すだけでも吐き気が……」
「あんたらまとめて涅槃に叩き込むわよ!?」
「は、はいはいみんな落ち着いて! お味噌汁の具はみんなでよく話し合って決めるように! どうしても決まらないなら先生のところにいらっしゃい。余分に材料を渡してあげるから、こっちで作りましょうね」
月曜日の午後は、家庭科の授業がある。
やることはどこの小学校とも変わらないような内容で、今回みたいな調理実習もあれば、簡単なパッチワーク、あるいはハンカチづくりだったりとそれはそれは微笑ましい授業だ。
そんな今日の実習は、家庭科室での味噌汁づくり。
日本に生き、日本で教育を受ける以上、避けては通れない一つの道である。かくいう俺は、すでにン十年も前にその道を通りすぎているのだが、今日は初心に帰ってみんなと一緒に楽しむつもりである。
約三十人もいるクラスを五班に分け、それぞれの班員が材料を持ち寄って~、というお決まりの前準備があり、それから具の選定と実際の調理における注意事項の説明。それだけでも授業開始から三十分を費やした。
まぁ、三時間もあるから時間にはまだまだ余裕がある。
俺の班には仲のいいヤロウ友達が二人と、そこそこ親しい女の子二人。そして――――
「今日はがんばろうね、本田君」
「超任せてください。もう月村さんのためなら俺、死力を尽くして任務にあたりますんで!」
「あはは、大げさだよー」
「……オイ、誰かあの馬鹿を止めろよ」
「……よせよ。せっかく良い夢見てるんだから。見守ってやろうぜ」
「にしても月村さんも鈍いよねー」
「本田君がちょっと可哀そうかも」
そう、これは一体なんの運命の悪戯か。すずかちゃんが一緒なのである!
そんなすずかちゃんと同じ班なのに、あまつさえ一緒にお料理が出来る……だと……!?
もうこの時点で俺のやる気が天元突破してる。つーかすでに俺の中でこの家庭科の時間は戦場になっている。主にすずかちゃんへの俺アピールするという意味で。
ここでいっちょ家庭的な料理上手な面を見せておけば、
本田君すごーい!→ほかにもいろいろ作れるんだぜ?→ホントに? じゃぁ今度作ってくれる?→もも、もちろんでさぁ……っ!
みたいな展開に!?
やだなにこの完璧な作戦……我ながら自分の才能が恐ろしいわ……っ。
ふっふっふ、まさかここにきて昔の家事スキルが役に立つ日が来ようなどとはな。前世で生きるために仕方なく身に付けたスキルだったが、この日この時のためだったと考えればお釣りがくるんだぜ!
むらむらと、俺の中でのやる気が爆発寸前まで高まる。見ててくれすずかちゃん! これから作る味噌汁、俺は君に捧げるっ!
「えっとー……ホウレンソウってこんな感じに切ればいいの?」
「わ、馬鹿違うって。みじん切りになんてしなくていいよ! それなりに食べやすい大きさに切ってくれればいいんだ。根っこの部分は切り落として捨てるんだぞ」
「ねー本田君、お水ってこのぐらい?」
「ちょっと多い。もらった味噌の量にそれじゃかなり薄味になるから、ちとばかし捨てれ」
「納豆練ったよ! 5パック全部!」
「練りすぎじゃボケ!? つーかおまっ、5パック全部空けたのかよ!?」
「あ、一つ俺食べるー」
「ウチも食べるー!」
「てめぇら仕事しろっ!」
そんな感じで始まった俺たちの家庭科実習。案の定大変なことになっていた。
周囲をうかがってみれば、きゃいきゃいと楽しそうに調理をしているが、案の定楽しみながらも四苦八苦、というお約束に洩れない展開を送っていらっしゃる。
例外と言えば、家でよく手伝いをしている高町とか他数人程度の女の子くらいか。まぁこの歳で料理が超得意とか俺ぐらいなもんだよな、うん。
その点、すずかちゃんは可もなく不可もなく。猫の手で材料を抑えることや包丁の使い方も間違ってないし、多少危なっかしくコトンコトンとニンジンを切っている猫さんプリントのエプロン+三角巾姿は、動画に保存したいほどにラヴリーである。あぁ癒される……!
……と、見惚れてばかりもいられません。逃してなるものかこのアピールチャンス。よーし、おにーちゃんここぞとばかりにがんばっちゃうぞー!
一通り指示を出し終え、次いで自分の担当する鶏肉と出し汁の準備をしておく。
出し汁は既に先生が準備してくれたものを使う。今から出汁なんて取る余裕ないしね。
――――だが、問題は油断している時ほどよくやってくる。
すずかちゃん達がえっちらおっちらと材料を切るのを尻目に、自分で持ってきた鶏肉を取り出した俺は、つい〝いつも〟のように包丁を使いだした。
「――――いぢっ!?」
「……どうかしたの、本田君?」
予想以上に皮が切りにくかったから、というのはただの言い訳だろう。
確かに包丁の切れ味は悪かったし、それを確認しないで使いだした俺が悪い。だが、すずかちゃんには猫の手のことを注意しておきながら、当の自分が全然守っていなかったことが、何よりも滑稽でならなかった。
思わず口を突いて出る悲鳴を出来る限り噛み殺し、慌てて切ってしまった左人差し指を口に含む。
……鉄クセェ。
じわじわと広がる血液独特の味に顔を顰めながら「な、なんでもないよ。ちょっと切っただけ」と苦笑する。きょとんとしていたすずかちゃんが、途端に顔を青くして慌て始めてしまった。
あー、ったくマジかっこわりぃ……。
こんなくだらないことでミスしたことで、すずかちゃんにカッコ悪いところを見せた事実に激しい自己嫌悪を覚える。浮かれすぎだろ俺。包丁持つ時は危ないんだから、気を抜くな、なんて自分でいつも言ってたくせに……。
バツが悪くて、ちゅーちゅーと指を吸いながらどうしたものかを考える。
大人しく先生に告げるべきなんだろうが、まぁ暫く待ってみて、血が止まるかどうか様子を見よう。
しかし、ここに予想外の強敵がいることに、俺は全く気が付いていなかった。
「切ったって……見せて!」
「え、あ、イヤ別にマジで大したことないから。暫くなめてりゃ血も止まるし……」
「だめだよっ。ほら、ちゃんと見せて。意外と傷が深いかもしれないんだから!」
「Ja!」
ぐいっと、慌てて駆け寄ってきたすずかちゃんに、それまで舐めていた指を引っ張られる。
血は相変わらずだくだくと切り口から染み出すと共に、ずきずきと熱に浮かされたような疼痛を訴え続けている。あかん、こりゃ案外深く切ったかも。
ちょうど包丁を引っ張ってる時に切った形だから、切れ味が悪くてもすっぱり逝ってしまったんだろうと思う。見た目以上に傷は深いらしく、流石に放置治療するには無理があるかな。
そんなことを俺が呑気に考えている間、遠慮なく流れる俺の血を見たすずかちゃんは、想像した通り、目を大きく見開いてびっくりしていた。
同じ班の女子もきゃーきゃー言ってるし、それを聞きつけて先生がこっちにやってきているのが眼の端に見える。いや、それよりも目の前で硬直しっぱなしのすずかちゃんですよ。
もしかして、所謂漫画にありがちな〝立ったまま気絶〟とかいうやつだろうか?
眼を見開いて、そしてそのまま機能を停止したアンドロイドのように、ピキーンと硬直しているすずかちゃん。夜の闇みたいな黒紫の前髪に、ゆらゆらと揺れる長い睫毛。いつみても端整な顔立ちは、今や猫さんプリントのエプロン&三角巾の威力も相まってがマジパネェ勢いで可愛いです。眼福眼福。
……なんて、またもや呑気なことを考えていた時でした。
すずかちゃんの表情が一層険しくなり、同時にその瞳の焦点がどこか危うくなったような……?
そんな疑問を覚えた時には、既に事が始まっていた。
「っ…………はむ」
「ほ……ぉおおおおおぉぉ!?」
すずかちゃんに、指を噛まれた。そしてそのままちゅーちゅー指を真っ赤にしていた血を吸われている。
……いや、これはどちらかというと咥えられたのか!?
俺の指を、すずかちゃんが!?
つーかさっきまで咥えていた俺の指を、すずかちゃんの唇が咥えてあまつさえ俺の体液をちゅーちゅー吸って――――煩悩滅ッッッ!!
待て落ち着けこういう時こそビークールになるんだダディ!
情報を整理しろ! 現状を把握し最善を尽くすんだ!
報告! 左人差し指第一間接指腹部における裂傷の止血、未だ完遂ならず! 血小板足りないよ、なにやってんの!
患部を女神に咥えられています! つーかちゅーちゅー吸われてます!
こ、これは……っ!
知っているのですか隊長!?
あぁ。これは古来より伝わる秘術が発祥と言われている、今や民間療法に紛れ込んだ信頼の表現。その名も――――〝間接喜棲〟っ!
か、間接喜棲……!?
そうだ。他人の傷口を、細菌の感染を厭うことなく舐める、或いは毒の混じった血を吸い取ると言った高等医療技術だ! しかも、多くの民間治療の場合、その処置がされるのは本人が患部を舐めたり吸った後であることが多いっ!
つ、つまりそれは……!
あぁ、やる方は覚悟している、すなわち〝貴方なら信頼しているからここまでするのよ!〟という隠されたメッセージだったんだよ!
な、なんだってぇえええええ!?
メーデー! メーデー! 我らが女神の様子が変です! ついでになんか患部がすげぇ気持ちよくて痛みが引いてる気がします!
な、何が起こっているんだ、あの戦場(=患部)で……っ!
以上、混乱の極地でオーバーフロー寸前の時彦君ブレインから、中継でお伝えいたしました。
「……っぷ。はぁ」
それは、一体どれほどの時間だったのか。
ほとんど体感にして永遠に近い程の一瞬が終わり、広大なる小宇宙に漂っていた自我意識が突如として現実に引き戻される。
俺の指を加えていたすずかちゃんは、ある程度出血が収まった頃を見計らってその口から指を離した。
抜ける際に〝ちゅぽっ〟と小気味の良い音と共に、ぬらり、と銀色の細い糸がすずかちゃんの唇と俺の指との間にできていて、心臓破裂するんじゃないかってくらいドッキリした。
「うふふ……」
「――――っ!」
ふにゃっと。すずかちゃんは糸を拭おうともせずに微笑む。
……やべぇ。今本当に呼吸止まった。
「血、止まったみたい。まだちょっとでてるけど、だいじょうぶ?」
すずかちゃんが、その歳にしてはやたらと蠱惑的な笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。
何故だか知らないが、その目で見られた瞬間、俺は背筋を凄まじい身震いが駆け抜けた。
もし気が抜けている状態だったならば、間違いなく腰が抜けていたに違いない。前世の経験と照らし合わせれば、下品な話だが、軽い絶頂に近いような――――ますます変態じみてきたな俺。誰か助けて!
ともかく、そんなイヤな現実から目を背けるように、先程まですずかちゃんの口の中にいた幸せ者の指を見てみると、うっすらと血が滲んでいるだけで、さっきのようにどばどばと血が流れる様子はない。ついでに、あの疼くような痛みもなくなって、どちらかというと治りかけの傷口みたいな、こそばゆいくすぐったさが残っている。
「あ……うぇ? ホントだ。結構深く切ってたと思うんだけど……あぁいやそうじゃなくて、ゴメン、なんかもう、ホント色々と」
「ううん、いいよ、ぜーんぜんへーき。あは♪」
「……ぅん?」
おかしい。いや、何がってすずかちゃんの様子が。
ふらふらと、なんだかすずかちゃんの頭がメトロノームのように小刻みに揺れている。
表情は多幸感に満ちた笑顔そのもので、一体何がそんなに嬉しかったのかわからないくらいだ。
頬は若干上気してるし、心なしか目の焦点も合ってないような……?
まるでアルコールを大量に摂取した幼児みたいな状態に陥っているすずかちゃん。さっきまで普通にしてたのに、これはどういうことでせう?
「あ、あの……月村さん?」
「ふふ。なぁに、ほんだくん?」
「いや、なんかすげーやばそうなんだけど……大丈夫?」
「もぉ、しつれだなー! 私はいたってふつーですっ」
「……既にその言動の時点で普通じゃないのにお気づきでございますかおぜうさま」
「ちょっと時彦! アンタ指切ったって、大丈夫なの!」
「わわわ、すずかちゃん凄い顔真っ赤だよ!?」
「……なんか煩いのがやってきたぞ」
先生がやって来る前に、案の定アリサと高町の奴らが血相を変えてやってきた。
当人よりもパニックになっているバカ二人を安心させるためにも、すでに出血の止まった指を見せてやる。なのに「大げさな話にして困らせるんじゃないわよバカっ!」と思いっきり頭をブッ叩かれた。何故に!?
そして、遅れてやってきたせんせーに、このまま放置するのは不味いから、一端保健室で消毒してきなさいと言われてしまう。
まぁ、後は材料切って鍋にぶち込んで云々だし、難しいことはないだろう。誰かが余計な事さえしなければ。
鶏肉は野郎友達に押し付けるとして、この場は大人しく保健室に行くかな。
……ついでに。
「あ、んじゃせんせー。なんか月村さんも熱あるみたいなんで、一緒に連れてってもいいですか?」
「あら、ホント。月村さん、お顔真っ赤よ?」
手を頬に当てながら、心配そうにすずかちゃんの顔を覗き込むせんせー。
なんだか周囲に野次馬が集まってきて、騒ぎがどんどんでかいことになってるような気が……。
それはそうと、せんせーに心配されたのが不服だったのか、すずかちゃんはまるでリスのように頬を膨らませると、両の拳を胸の前に持ってきてせんせーを見上げた。
「むー、大丈夫れす。わたし、ヤれますっ!」
「いやいやいや、月村さんそんなグルグル回ってる眼で言われても説得力皆無ですから――――って倒れたぁああああ!?」
「す、すずかちゃん!?」
「衛生兵ー! 衛生兵ー!」
メトロノームの振れ幅がでかくなるように、くらくらと揺れていたすずかちゃんがついにブッ倒れた。
危うく机にぶつけそうになったところを慌てて抱きとめた俺は、腕の中で「ふみ~……」と気を失っているすずかちゃんの可愛さに充てられて、鼻の奥にツンと感じたナニかを必死に吸いあげる。
「仕方ないわね。先生、月村さんは私達で保健室に連れて行ってきます」
「……そうね。バニングスさんの班はもう材料は入れ終わった?」
「はい。後は班のみんなに任せても大丈夫だと思います」
「そう。じゃぁ申し訳ないけれど、高町さんと二人で付き添ってあげられるかしら?」
「わかりました」
さすが影の委員長。
アリサの奴は、てきぱきと先生から支持を仰ぎつつ、同時に班のみんなに作業の注意点を伝えてすぐに戻ってきた。
そして、気絶したすずかちゃんを俺に背負わせると、高町と二人で俺の両隣りについて、保健室へと同行する。
道中でさんざんぱらアリサに罵倒されまくったが、そんなことよりもすずかちゃんを背負っているというこの夢のような状況に酔いしれるのに忙しかったので、馬耳東風とばかりにスルーしました。
……うん? あれ? なんで自然に俺がすずかちゃんを背負う事になってるんだ?
いやまぁ、むしろ願ったりかなったりで全然いいんだけど……ま、いっか!
☆
保健室につくと、そこにいた保健の先生に「あら……すずかちゃん、倒れちゃったの?」とさもすずかちゃんが常連みたいな事を言われたのが不思議だったが、特にそれ以上聞かれることもなくベッドを使わせてもらえた。
意外と寝心地の良いベッドの上で、すずかちゃんは真っ赤に顔を上気させたままくーくーと、気持ち良さそうに寝ている。
とりあえず、単純に血を見て興奮しただけだから、大事ないと言う診察結果を聞いた俺とアリサ、高町の三人は揃って安堵のため息を漏らした。
「しっかし、血を見て興奮って……なんか普通とは真逆だな」
「まぁ、絶対にあり得ないわけじゃないでしょ」
「でも、確かにすずかちゃん、血を見るとちょっとのぼせちゃうくらいに顔赤くしちゃうよね」
普通なら、血の気が引いて貧血でぶっ倒れるんだろうけれど――――まぁ、その逆がいてもありえなくはないか。
それに、確かに記憶を掘り起こしてみれば、ちょっとした怪我で滲んだ血を見た時とか、すずかちゃんはあまり血を見ないようにしてたりしてたし、相当苦手だったんだろう。貧血になるにしてものぼせるにしても、普段から苦手そうにしてたのは間違いない。
……そして、そんな苦手なモノを直視させた上、あまつさえ口に含ませてしまった罪悪感で身を切り裂かれそうな気分だ。
ちょっと考えればすぐ思い出せたはずなのに、その場で舞い上がってて全然気付かなかった自分を殴り飛ばしたい。
「そんなに落ち込まなくていいわよ、本田君。人間生きてるんだもの。血を見ないで生きるなんて不可能だし、今回はちょっと巡りあわせが悪かっただけだから、ね?」
「先生……」
「そーよ時彦。まぁ元々怪我したアンタが悪いけど、すずかはそんなアンタを心配したんでしょ。だったら落ち込んでないで、起きた時にしっかり謝ることだけ考えなさい。あと感謝も!」
「う……そう、だよな。むぅ、まさかアリサに諭されるとは」
「とーぜん。私はアンタより何倍も大人ですから」
「……あはーそうですねーすごいすごーい( ´,_ゝ`)プッ」
「あ゛ぁん!? アンタ今笑いやがったわね!? 人がせっかくフォローしてやってんのに……しかも最後にすっさまじく腹立つ笑い方したわねアンタ!」
「うわー……ほんだくんがまたエアーブレイクしてるの」
髪を引っ張られ頬を引っ張られ、怒り狂ったアリサと取っ組み合う俺達を、先生と高町の二人が苦笑しながら眺めていた。
無論、途中で先生が「騒がしくしたら起きちゃうでしょ。喧嘩するな追い出すわよー?」と背筋が震えるような笑みで仲裁に入ってこられたので、すぐさま大人しく俺達は授業に戻ることにした。
「ちょっと、時彦。何でアンタまで一緒に来てんのよ。アンタは残りなさい」
「は? いや、もう怪我は平気だし、戻んないとまずいだろ。何言ってんだお前」
「……ふーん。それじゃアンタ、すずかが起きた時一人にしとく気なわけ?」
「……あ」
むぅ、言われてみれば確かに。いきなり気絶して、起きたら保健室と言う深紅の王状態とか不安すぎるよな。
いや、でもそれこそ先生がやってくれるだろ。確かに俺が残ってすずかちゃんが起きるまで待っていたいけれど、そんなことしてたらそれこそ授業をさぼったことで怒られちまう。
……無論、本心がどちら側であるかなど、わざわざ考えるまでもないんだが。
「先生には私となのはから説明しとくから、アンタは起きた時用の説明係として残んなさいよ。後で味噌汁は持ってきてあげるから」
「そうだよほんだくん。それに、すずかちゃんはほんだくんのために気絶したようなものなんだから、責任を取るのはほんだくんの役目だと思うの」
「……わかった」
ここまで言われちゃ、俺もイヤとは言えない。
……いや、それよりも、わざわざこんな風に想いやってくれてるんだから、ここは素直に甘えるべきなんだろう。あぁちくしょう、ホント良い奴らだよな、こいつら。
思わず緩みかける涙腺を気合で引き締めて、俺はいつものように笑った。
「んじゃま、言われた通りお留守番してますよ。ただし、絶対に納豆の入った味噌汁は持ってくるんじゃねぇぞ。後、アリサの作った奴も」
「っ……ふふふ、あーそう。そりゃ気をつけなくっちゃねぇ? じゃぁ、公平を期すためにも、後でクラスのみんなに希望者を募ってその中から選んでくるわ」
「……あーあ、ほんだくん墓穴掘っちゃった」
「え? なに? ちょっと高町のなのはさんそれどういう――――」
「楽しみねー。私以外にもシュネッケンとかナマコ羊羹とかダイエットドクターペッパーとかいろんな材料持ってきてる子いたし。私の班がふつーに作ったふつーの味の味噌汁がイヤって言うんなら、そう言う系の味噌汁貰ってくるしかないわよねー」
「は!? いやちょっ、ナニその名前だけでも凄まじそうなヤバいチョイスはッ!?」
「……せっかくアリサちゃん、今日は普通の材料で作ってたのに。ほんだくん、地雷を自分から踏みに行ったよね」
「待てぇえええぃ!? 高町、だから貴様は何故そういう大事な事を最後に言うんですかねぇ!?」
「いくわよなのは。こうなったらクラスのみんなに気合入れて〝美味しい味噌汁〟を作るように頼まなくっちゃ」
「アリサさん、アリサさん!? すみませんマジ御免なさり俺が悪かったんでホント勘弁して下さいっ! いや、待って! お願い! 許してーーーーー!!」
だが、俺の必死の土下座等、まるで路傍の石頃の如くスルーしたアリサは、そのまま高笑しながら高町を引きつれて家庭科室へと戻っていくのだった。自分の墓穴掘り属性に心底嫌気がさした一瞬である。
そんな絶望感に包まれながら、あと数十分後に待ちうける自分の暗澹とした未来を想像して、俺はすずかちゃんの眠るベッドの横に設えたパイプ椅子に肩を思いっきり落としながら座った。
再び保健室に戻ってきた俺を訝しがる先生に事情を説明したら、意外にもあっさりとオーケーを出してくれたが、なんか釈然としない。なんでアンタ終始ニヤニヤ笑ってんだよ。まるで初々しい恋愛初期のカップルを見守るような――――はっ!?
まさか、俺がすずかちゃん好きだってことがバレてる!?
いやそんなまさか……バレてるにしたってこんな保健室なんて言うフィールド外まで及んでいるなんて――――ッ!
そこまで考えて、俺は更にヤバいことに気付いた。
下手をしたら、校内中に広がっているんじゃなかろうか、と。
思い返してみれば、通学バスの中でもすずかちゃんとのことでからかわれたりする比率が上がっている気がする。
最初は乗ってる奴らの多くが同じクラスの連中だからと思っていたが、よくよく思い返してみれば、別に俺達のクラスだけじゃないんだ、乗っていた人間は。つまり、そいつらがふとした話の種でばらまいたと考えれば――――っ!?
「いやん。本田君、もうお外を歩けない」
「……あの、大丈夫、君?」
「はい。大丈夫です。大丈夫なんでそのマジで可愛そうなものを見るような白い眼はやめてもらえますか」
割と容赦のない保健教師だな、と俺は心の中で愚痴るにとどめた。ちくしょう!
……とにかく。もはやこうなったら今さらである。周りが気付いていようと、本人様が気付いていらっしゃらないのであればそれでいいのだ、と逆に考えることにした。考えて〝ますますそれってダメな状況じゃね?〟という事に気付いて更に凹んだのは内緒である。
だって、それって所謂――――――――脈なしってことじゃんっ!!
う、うぉおおおおおおお!!
嫌だ! そんなのは嫌だ!!!
せっかく最近順調にフラグが建ってきて、ようやく俺の時代到来!? それともこのまますずかちゃんルート一直線!? なんて調子に乗ってきたのにぃいいいい!!!!
いや、まだだ……まだ終わらんよっ!
今回だってこの後のフォローを完ぺきにやって見せれば、きっと好感度が上がるはずだ!
たとえすずかちゃんにその気がなくても、じっくりと地道に努力を続けていけば、いつかゴールした亀の如く俺にも道が見えるはずっ!
せめてそんな風に頭の中で疑似ADVにでもしなければやってられないほどの不安感が俺を襲う。
いくらすずかちゃんの傍にいられるだけでも嬉しいとはいえ、まるでその好意に気付いてもらえないと言うのも辛いものがあるのだ。我儘と言うことなかれ。これが所謂〝恋〟という奴なのだから。あぁ畜生ホントやっかいな病気ですねぇおい!
「だから本田君? 君、さっきから大丈夫?」
「極めて平常です。ですからその珍獣を見て楽しんでるようなむかつく笑いを止めてくれやがりませんかね?」
「ぷっ……くく。だ、だって貴方、さっきから頭抱えてどったんばったんしたり、突如笑顔になったかと思えば次の瞬間思いっきり落ち込んだり、まるで劇団一人よ?」
「うぐっ……」
つぶさに俺の奇行を観察されていたと知り、思わず赤面してしまう。
最近人前にもかかわらず平気で奇行に走る自分が恐ろしい。女体化したことに原因があるのか、あるいはそもそもそれこそが俺の本質なのかわからんが……間違いなく前者だな、うん。(超自信満々)
「まぁ、好きな子が心配なのはわかるけれどねぇ」
「……バレてます?」
「うふふ。お姉さんを甘く見ちゃだめよ? こう見て、お姉さんは人生経験たっぷりなんだから」
「具体的な数値をお聞きしたいです」
「そうねぇ……ざっと五世紀くらい?」
「あっはっはー! せんせーウケルー!」
「あらそんなに面白い? ふふふ、やぁねぇお世辞が上手なんだからもう」
そんな感じに、すずかちゃんが寝ている間、俺と保険の先生はバカみたいな話をして暇を潰していた。
まぁ中身と言えば、実はこの学園の理事長は昔女装して聖祥大の付属中と付属高を卒業してるとか、誰々先生はここの出身で、昔どんな騒ぎを起こしたとか、他には知り合いに聞いたと言うちょっと昔に津で起きた濃霧の事件の噂とか、そういうなんてことのない話である。つーか理事長何してんの。
自分で人生経験が豊富と言うだけあって、保険の先生は随分と知識が豊富だった。それも、個人的に尊敬できるレベルの人格者で、出会うのが後一年早かったら憧れていたかもしれん。
そんなことを言ったら「あら、でも君女の子でしょ? それじゃ百合の花になっちゃうからお姉さんは遠慮したいなぁ」とか衝撃モノの暴露をされた。
「なな、なんで知ってるんですか!?」
「だって骨格が違うもの。いくら二次性徴前の体つきが変わらないって言っても、男の子と女の子じゃ全然違うのよ?」
「………今の一言で一気に先生の評価が〝マッドドクター〟に変わりました」
「まぁ失礼ね。でも面白いから許してあげる」
そして再び爆笑する俺達。いやー、先生ノリが良くて話しやすいわ。
ついでに、それとなく「俺、実は精神年齢30超えてるんですよ!」とか言ったら「んー、まだまだね。せめてあとプラス百歳はないと話にならないわ」と軽くスルーされた。やべぇなにこの先生滅茶苦茶面白い。
ほとんど時間を忘れるようにして話をすること約一時間。そろそろ実習も終わる頃かなー、という時になって、ベッドの方から低い声が上がった。
「ん……ぅん?」
「お、月村さん気が付いた!?」
まだぼんやりと起きぬけと言う感じに視線が定まっていないが、うっすらと眼を見開いたすずかちゃんは、ぼーっとベッドの横に立つ俺を見ている。
そしてしぱしぱと眼を瞬かせると、急にはっと眼を見開いて布団を眼の下まで引き上げた。
「ほ、本田君!?」
「あら、眠り姫様は御起床あそばされたのかしら? でも残念ねぇ時彦ちゃん。できれば王子様のキスで起こしてあげたかったんじゃない?」
「あっはっはー変な事言うと先生が昼寝してる頃を見計らって理事長にチクリますよ」
「うぐっ……この短い間に、なかなか言うようになったじゃない」
「くっくっく。この本田時彦には人を貶める術が一〇八通りあるぞ」
「それはそれで物凄く嫌な子ね……」
「自分でもそう思いますがウソですから。ウソだからそんなドン引きして信じないでくださいよ!?」
「やぁねぇわかってるわよ。ふふ、そういうところはまだまだ子供ねぇ」
「くそう……なんかこの人に全然勝てる気がしないぞ」
母上にこてんぱんに伸された時並みの敗北感に打ちのめされる俺。まさかこの世に母上に匹敵する人間が桃子さん意外にもいようとは……ッ!
「って、別に先生はどうでもいいんだった」
「……先生、地味にその発言の方が傷付くのだけれど」
「知りませんよ。それよか月村さん、体調はどう? なんか貧血の逆パターンで気絶したみたいだけど」
相変わらず布団をひっかぶったままのすずかちゃんは、一向に顔を出そうとしないでコクコクと首を振るだけだった。
それが「ノープロブレム」という意味のボディランゲージだと理解するが、しかし布団の中に引きこもる理由がわからない。
普段なら「ううん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」みたいな、逆にこっちが恐縮してしまうほど謙遜した返事が返ってくるはずなんだが。
よくよく見れば、すずかちゃんの顔はまだ少し赤い。多少時間が経ったとはいえ、まだのぼせが完全に治っていないのかもしれない。
さっきの雑談の中で、ちょっとばかし聞いた先生の話だと、実は症状的にはさっきも言ったように貧血の反対であるのぼせの状態なのだが、実際にはアルコールの過剰摂取と似たようなものらしい。所謂悪酔い、ってやつだ。
あれは酒の中にあるアルコールを分解した時にできるアセトアルデヒドとかゆー毒素がたまりにたまったせいで引き起こされるものなんだが――――果たして何故にすずかちゃんがそんな状態に?
そして、同時になんか違和感を感じた。
「あの、まだ辛いようだったらもう少し寝てる? なんだったら、荷物俺が持ってくるよ?」
「そうねぇ……本田君、ちょっとお願いできるかしら。悪いんだけれど、さっきのお友達にも御味噌汁の方はキャンセルするよう伝えてもらえる?」
「あー、そうですね。月村さん、今なにか食べれるような気分じゃないでしょ?」
「う、うん……」
「喉渇かない? 今お水を用意してくるわ」
「あ、はい。ありがとう、ございます……」
確かに症状が悪酔いと言うのならば、ちょっとした脱水症状になってるかもしれない。実際、すずかちゃんは喉が渇いているらしく、先生の申し出を断る様子はなかった。
ともあれ、それなら早いとこアリサ達に伝えに行くとしよう。せっかく持ってきてもらったのに食べれない、なんて話になったらさすがに申し訳ないし。
すずかちゃんへの違和感は相変わらず拭えなかったが、俺は後ろ髪惹かれるその疑念を無理やり振り払うようにして「んじゃ、ちょっと行ってくる。荷物は道具箱の中?」と確認を終えて保健室を後にした。
授業中なので、当然のごとく誰もいない廊下を歩きつつ、恐らく家庭科室にもすずかちゃんの荷物はあるだろうから、先に教室で荷物を回収しておくか、あるいはアリサ達に先に味噌汁を持ってこなくていいと伝えてから回収すべきかを悩む。
結局、先にアリサ達に伝言を済ませた方がいいだろうと結論付けた俺は、それまでゆっくり歩いていた脚をかけ足にして家庭科室へと向かいだした。
「―――――あ」
その時、ふと気付く。
どうにも喉に引っ掛かった魚の小骨のように、俺の思考の隅をちらちらとうろついていた違和感の正体がなんだったのか。
俺が指を切る前のすずかちゃん。
気絶する直前、顔を真っ赤にしてフラフラしていたすずかちゃん。
そして、ついさっきベッドの中で俺を見ていたすずかちゃん。
――――――すずかちゃんの眼の色って、何色だったっけ?
結局、家庭科室についてアリサ達に伝言を伝える時になっても、俺はそんなふとした疑問に答えることができなかった――――。
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あとがきろんりねす
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リアルがばたばたで暇がなかったんだぜ……orz
ともあれようやく更新できたので一安心。でもまだまだバタってるので次は来月かも。
月曜日はまだまだ続く。
p.s
例のごとく誤字修正は次回に。
p.s2
前話ですが、プレシアさんのブラインドタッチ=赤○リツコのソレという脳内設定があります。リツコさんSugeeeeee!!!