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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 愛とフラグと哀
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:a9a6983b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:40
 

 本田、高町両家を交えて行われた夕食会は、つつがなく終わりを迎えた。
 本田家の面々はしきりに桃子の準備した料理とお土産に持たせてくれた翠屋謹製の洋菓子とに感謝を告げ、既に帰宅している。
 今や大切な友人であり、同じ子育てに苦労する本田家の奥様と久しぶりに楽しい時間を過ごせたことから、シンクで洗い物をする桃子の表情はご機嫌でいっぱいだった。
 長男と長女は、現在道場でいつもの鍛錬をしており、末娘のなのはは明日から学校と言う事で早めに就寝している。もちろん、お風呂に歯磨き、そして宿題と明日の時間割の準備もばっちりだ。
 


「よし、っと」



 最後に一枚を布巾で拭い、飛沫で汚れたシンクを布巾で拭った桃子は、満足気に笑み浮かべた。
 鼻歌を歌いながら、冷蔵庫の中に作り置きしていたココアを取り出し、よく振ってからマグカップに注ぐ。
 氷を入れるような邪道な真似はしない。欲を言えばアイスマグを使いたかったが、生憎それは先の夕食後のデザート時に使い切ってしまっていた。
 そのままリビングのソファに腰掛けると、「はー、今日も一日疲れたわー」と、言葉とは裏腹な笑みを浮かべて一息をつく。
 旦那の士郎達は、恐らくあと30分以上は戻ってこないだろう。戻ってきても、シャワーやらなにやらで、寝るまではあと一時間以上ある。
 店に関する仕事は既に終わっているので、後は寝るだけだ。無論、士郎を残して寝てしまうような真似は、するつもりがない。
 そうやって暇を持て余しながら、たまにはこうやって何も考えずにぼーっとしてるのもいいわね、と内心で考えつつも、脳裏では先の夕食時の光景を思いかえす桃子。まさか今度は息子に女装をさせるとは、相変わらず斜め上方向に突飛な発想をする友人を思い出して、図らずも苦笑が漏れてしまった。
 去年、末っ娘のなのはと大喧嘩をやらかした少年の母は、なんとも不思議な人物である。
 先週の〝朝帰り〟で息子が巻き込まれたにもかかわらず、「本人が責任を持てるならなにしよーがおっけー、がうちのモットーよ」と放任主義なんだか育児放棄なんだかよくわからない台詞をのたまい、しかしながら息子に向ける愛情は、桃子が然りとわかるほどの深いものだ。
 事情を聞いた自分ですら驚愕した話だと言うのに、事情も知らず結果だけを聞かされた本田家の奥様はなんと豪胆な傑物か、と思わずにはいられない。
 普段は模型雑誌の専属モデラーというのをやっているらしく、他にも結構色々な副業に手を広げているらしい。旦那は旦那で有名な某エレクトロニクス会社の課長で、時折長い海外出張をしているんだとか。
 主婦でありながら仕事を持ち、さらには旦那がよく出張するという身の上が自分と重なったためでもあるのだろう。最初、なのはと大喧嘩をやらかした息子の親ときて、どんなダメな親なのだろうかと思ったが、腹を割って話し合うと意外や意外、思いのほか意気投合してしまって、今では店の造形物をもらったりお菓子を差し入れたりといった、お互いに気の置けない仲にまで発展してしまっていた。

 そしてなによりも、一番印象深いのはその息子だろう。

 なのはと同学年の男の子だが、長男の恭也に妙に気に入られていたり、所作がどことなく浮世離れしているような、しかし年相応の悪戯小僧の邪気っぽさを併せ持つ、実に不思議な少年だ。
 どうやら同じクラスの月村家の妹さんに惚れているらしいが、今のところその恋が実りそうな話は聞いていない。実は、その恋路の結果がどうなるか、密かに楽しみにしていたりする。
 最初は、てっきりなのはに惚れているのかと思ったのだが、どうやら今日の夕食時におけるなのはとのじゃれあいを見ている限り、その線は限りなくゼロのようであった。というより、じゃれ合ってる双子という感じである。思わず、その時のなのはのムキになって反発する姿を思い出して、桃子はまたしても噴き出してしまった。

 

「ほんと、女の子の恰好がよく似合ってたわねぇ」


 
 クスクス笑いながら独り言をもらしてしまうのは、あまりにも少年の恰好が似合いすぎていたからに他ならない。
 母親の趣味が入っていたに違いない女の子向けの服を、二次性徴前の中性的な印象と元より端整な顔立ち故に、見事なまでに違和感なく着こなしていたのだ。
 終始その格好で振舞っていたのだが、やや男勝りな性格の女の子、という認識で改めてみてみると――――うん、やっぱり違和感が無い。
 なのはとは違って黒髪だし、顔も似てないが、雰囲気を見ていた限りでは、本当に双子のように見えてしまう。 
 もし、なのはに双子がいたならば、あんな感じだったのかもしれないわね……。



「……言えないわよね、そんなこと」



 それはなのは本人に、ではない。士郎にだ。
 恐らく、知っているのは士郎と一握りの知り合いだけだろう。恭也と美由希には、「かもしれない」とだけ曖昧に説明してあったし、なのはを生んだ後は「残念、一人っ子だったわ」とおどけるようにして誤魔化した。
 当然、〝その事〟をなのはは知らない。
 きっと、知ったらなのはは悲しむだろう。もしかしたら〝いたかもしれない〟双子の存在を聞いたら、あの優しくてしっかりした少女は、間違いなく悲しんでしまう。
 教えることを悪いとは思わない。だが、不必要に悲しませてしまうことを、今言う必要もない。でも、逆にそれは〝あの子〟の存在を完全になかったことにしていまうのではないだろうか。それは、はたして母親として正しいのだろうか?
 桃子は、なのはが生まれてから今日まで、数え切れないほど繰り返してきたその自問自答に、思わず宙を仰いで溜息をついた。
 


「……考えても仕方ないんだけれども」



 〝今〟に不満などない。むしろ幸せすぎて怖いくらいだ。
 夫の士郎が一時期瀕死の重体に陥って回復し、内気で我儘一つ言わなかったなのはも、今では年相応に明るく、それなりに我儘を言う可愛い末っ娘として成長している。
 店に至っては順風満帆すぎて文句のつけどころがない。これ以上なにかを望むのは、罰が当たるというものだ。
 ……でも、今日の光景を見てしまってから、その想いが頭を離れない。
 もしかしたら、ここに〝もう一人の我が子がいたかもしれない〟ことを、想像してやまないのだ。
 その子はなのはとそっくりで、ちょっと無愛想かもしれない。でも、なのはと似てとても頑固で、一度こうと決めたら絶対に引きさがらない。だから、なのはと意見が食い違ったりすると、よくとっくみあいみたいな喧嘩をやらかしてしまう困った娘。あぁ、きっとそんな子だろう。根っこはそっくりな癖に、外面が正反対の二人。なんて微笑ましいのかしら。
 


「……なんてね」



 どうしようもない想像だ。これは、自分の胸の内にしまっておこう。苦笑と共にそう決める。
 残りのココアを飲み下した桃子は、「よしっ!」と気合を入れるように立ち上がると、マグカップに水を注いでシンクに置き、そろそろ道場から戻って来るだろう旦那と子供達のために、お風呂の用意をすることにした。
 ……それは、もしかしたらただの逃避だったのかもしれない。けれども、桃子にはそうする以外に、この胸の中で渦巻く悲しみをどうにかする手段が思い浮かばなかったのだった。


 








「次元空間内の次元断層、沈静化を確認」
「艦座標軸、固定完了」
「緊急航行モードより次元空間航行モードへ移行、全システム異常無し」
「目標次元座標設定完了。予定では〇二〇〇で目標次元世界近郊次空間へと到着します」
「了解。当艦は別名あるまで現状維持。各員はシフトに従って休憩をとること」



 白亜の機械城。あるいは、白の裁判所。
 一目見ればそのような感想を抱いてしまうほど広大な空間の中で、複数の人間が忙しげに端末を叩きながらインカム越しに指示を飛ばしあっている。
 時空管理局本拠所属、巡航L級8番艦〝アースラ〟のブリッジは、ようやく安定した艦の航行に、誰もが安堵のため息を漏らしていた。
 その頂上とも言うべき席、艦長席に座って一際大きなため息をついたのは、アースラをまとめ上げる艦長、リンディ・ハラオウンその人だった。
 腰まで届く緑髪に、優しい眦。それでいてピンと張りつめた凛々しさを纏う妙齢の女性は、そのままウィンドウを操作して一息をつく。
 そこへ、背部の扉がスライドして開き、一人の女性が、手に両手にマグカップを持ってやってきた。右手のマグを差し出しながら、チャーミングな笑みと共に労いの言葉をかける。
 


「お疲れ様です、艦長」
「あら、お疲れ様エイミィ。でも、それはむしろスタッフのみんなへ言うべきだわ。私は何もしてないもの」



 短く「ありがとう」とお礼を言いつつ両手でマグを受け取ると、リンディは苦笑しながら艦橋で仕事をするスタッフ達を見やる。
 リンディがそう自嘲してしまうのは、久々の修羅場とはいえ艦に多少なりとも被害を出してしまったからだった。ここ連日、平和な航行が続いてしまったためというのはただの言い訳だ。リンディは、そんなたるんでいる自分の精神を叱咤する。
 そんなリンディの内心がわかるだけに、アースラ通信主任であるエイミィは苦笑しながら「何言ってるんですか、もう」と返すしかない。
 艦長が酷く謙遜――――あるいは自分を低く見過ぎる質だということは、艦内の人間ならば誰もが知っていることだ。
 


「そんなことありませんよ。艦長の的確な指示があったから、みんな落ち着いて乗り越えられたんですから。……まぁでも、今回は本当にギリギリでしたね」
「そうねぇ……私も久しぶりに肝を冷やしたもの。まさか五次元障壁型次元断層が立て続けに三回も起きるなんて」
「しかも最初のヤツは、危うく虚数空間に呑まれかけましたから」
「運良く生き残れたから良かったけれども、大分時間を取られてしまったわ」
「みんないい経験になったと思います。実際、その後の断層は見事に乗り切ったじゃないですか」
「ふふ、みんなが元より優秀だからよ」



 五次元障壁型次元断層――――早い話が、自分達の存在している軸世界から外れてしまう〝脇道〟に通じる隙間のことである。
 次元空間という広大な海を往く次元航行艦乗りにとって、それは所謂海で巻き込まれる大渦に等しい。
 僅かな隙間にもかかわらず、それは質量を無視して何もかもを吸いこんでしまう引力を持ち、抵抗しなければあっという間に引きこまれてミンチになってしまう恐ろしい断層だ。
 それが発生する原理は詳しくわかっていないものの、もしその空間を通ることが出来れば、理論上ではいわゆる〝並行世界〟にたどり着けるらしいが――――未だそれに成功した事例は一つとして聞いたことがない。
 そもそも、その断層では理不尽なまでの重力異常が発生しているのだ。宇宙空間におけるブラックホールが可愛いと思えるほどのそれは、常にランダムに重力方向が変動し、さらにはその重力係数もランダムで様々な値に変動している。引きこまれたが最後、あっという間に文字通りのミンチにされてボン!が関の山というのが通説である。
 その恐ろしさを知らない次元航行艦スタッフではない。滅多に起きることではないが、しかし決して対処法を忘れてはならない〝艦乗り〟の常識だ。

 アースラは現在、世にも珍しい断層三連続という危機を乗り切って、本局から発令された任務を全うするべく、とある次元世界へと向かっている。
 約一週間前(おそらくタイムラグ的に考えて二週間かそれ以上前)に発生したロストロギア輸送船事故の折、管理外次元世界へと漂流してしまった人間の救助が、今回の任務である。
 依頼主はかの有名な遺跡発掘一族の〝スクライア一族〟で、今回漂流してしまったのは、中でも最年少で現場指揮を務めていた実に有能な少年らしい。加えて、彼が責任者となって輸送していたロストロギアも件の管理外次元世界に漂着したらしく、その回収も並行して命令されている。
 
 

「それにしても変ですよねぇ……ロストロギアが管理外世界に落ちたっていうのに、情報が伝わるのが遅すぎます」
「……なにかしらの妨害があった、と考えるのが妥当かしら」
「目的は時間稼ぎでしょうか。でも、それにしては適当にも程がある気が……」
「あるいは、それすらもブラフか。自分の足取りを消すという観点でなら、十分な時間だわ」
「――――案外、間違ってないかもしれませんよ」
 
 

 艦長と通信主任の会話に割って入るように、艦橋艦長席の入り口から現れたのは、片手に電子ノートを抱えた一人の少年だった。
 黒一色の服に、物々しい籠手。そしてざんばらに切りそろえられた漆黒の髪と端整な顔立ちの中に、静かな情熱を宿した黒い双眸がある。
 


「おかえりー、クロノ君」
「あらクロノ。なにかわかったの?」
「えぇ、ちょっと面白い事が」



 クロノ・ハラオウン。管理局本局、次元航行艦アースラ所属執務官に最年少で就任したその少年は、アースラ艦長がリンディの、実の息子でもある。
 同時に、自身が魔導師ランクAAA+の高ランク魔導師であり、アースラの〝切り札〟たる実力を持つ少年だ。
 やや無愛想な面持ちだが、それは職務に忠実で仕事一辺倒の真面目君だからに他ならず、もうちょっと肩の力を抜けばいいのに、というのはアースラ艦長及び通信主任並びに全女性アースラスタッフの言である。大人のお姉さま方にモテモテであることに気付かない朴念仁に天誅を!というのは男性側の怨念である。



「輸送船の事故が起こった現場周辺における魔力濃度を調べてみたんですが、どうも奇妙な点がみつかったんです」
「奇妙?」
「エイミィ、通常空間から次元空間への移動時における、両次元間魔力濃度平衡の法則は知ってるな?」
「そりゃもちろん。てゆーかクロノ君、君はおねーさんをなんだと思ってるんだね?」
「……まぁ知ってるなら話が早くなる。記録だと、事故現場周辺の魔力濃度だけ、事故後数時間の間、かなりの濃度の上昇を見せていたんです」
「こらー! おねーさんの言葉を無視するなー!」



 クロノにバカにされたのがよっぽど腹に据えかねるのか、エイミィはこめかみに青筋を浮かべながらクロノの頭をがしがしとかきまわすと言う報復に出た。
 それを微笑ましげにリンディが見守り、ある程度二人のやりとりが収まったところを見計らって、クロノの言葉の先を促す。



「濃度が高くなりっぱなし……数時間も下がらないで?」
「ええ。ただの事故――――つまり、輸送船のエンジンが爆発したにしても、上昇幅が明らかに大きすぎます。事故と片付けるには不自然なくらいに」
「……なるほど」
「加えて、周辺濃度の上昇に合わせて、近辺の通常空間の魔力濃度変動の測定結果も洗ってみたんですが、やはりどこも変動は起きていませんでした」
「てことは――――!」
「同じ次元空間からの干渉があった、と見るべきね」
「ええ……間違いありません。今回のロストロギア輸送船事故は、誰かが故意に狙って〝襲撃〟したものです」
「なるほど……だから情報が伝わるのが遅れたのね。きっと、今回の中途半端な偽装工作も、どの次元座標からの干渉だったのかを誤魔化すため……」
「……一気に、話がきな臭くなってきたね」




 そもそも、通常空間から次元空間への侵入を行った際には、普通両次元間の均衡をとるために魔力濃度の平衡現象が起きる。これは、いわば異なる濃度の液体が、互いに安定状態に移行したいがために外界と内界の濃度を等しくする、生物の浸透圧調整に近い現象で、次元空間同士の間では起こり得ない現象だ。逆に言えば、次元空間内での〝魔力濃度が上昇しっぱなし〟という現象は、その内部――――次元空間内のみでなにかしらの魔力的作用が起きたということを意味する。人間の血管内で、なんらかの作用により一か所だけ濃度が急上昇するのと同じ理屈と考えればいい。周囲が同濃度である中、いずれかの箇所で局所的に濃度が変わってもある程度であれば平気なのと同じことだ。
 また、魔力濃度の上昇については、ロストロギアの輸送船に搭載されていたエンジンが魔力炉型エンジンであったにしても、爆発事故程度で上昇したにしては、濃度の上昇値が異常に過ぎたのである。クロノが疑問に思ったのは、まさにその点だった。
 翻って考えると、それはつまり内部において、誰かが高位力の魔法を発動した、あるいはそれに準ずる行為をしたことを意味する。もしそれが意図的な襲撃であったならば――――自ずと、三人の間に緊張が走った。
 ただの事故ならばいい。時限漂流者の保護や、輸送中に今回のような事故に巻き込まれて管理外世界へ流れ着いてしまったロストロギアの回収任務は今まで何度もやってきた。
 だが、事に何らかの思惑が関わってきているとなると、話が違う。
 下手をすれば、ロストロギアを用いた大規模次元犯罪になりかねないうえ、最悪ロストロギアの悪用によって次元世界が滅ぶという最悪の事態も想定される。どうにも、当初の想像から外れた大事の事件になりそうな予感が、三人の胸に宿っていた。



「まだどこから襲撃があったのかはわかりませんが、事故当初、明らかな大魔力の流れを観測しています。それも、次元空間から次元空間への、空間跳躍攻撃魔法です」
「……まぁ」
「うわぁ、なにそれ。本局でも空間跳躍攻撃魔法なんて、使える人間そうそういないよ?」
「全盛期のグレアム提督なら、平気でやっちゃうんだけれどねぇ~」
「……マジですか」
「あら、知らないの? 提督、若い頃は相当大暴れしてたのよー」
「……あー、で、ですね。とりあえず調査の方は続行しますが、今回の事件、背後に少なくともAAAランクの魔導師が関わっているのは間違いありません。いや、次元跳躍攻撃魔法なんて使ってるくらいだから、間違いなくオーバーSは堅いですね。十二分に警戒しなければなりません」
「そう、ありがとうクロノ執務官。引き続き調査をお願いするわ。何かわかったらすぐに連絡を」
「はい」



 クロノは短く返事をすると、現時点でのまとめである報告書がはいった電子ノートをリンディに渡し、惚れ惚れするような敬礼を残しって艦橋より去って行った。
 その後姿を見送りながら、エイミィはすこし不満そうに唇を尖らせる。



「艦長、クロノ君ってば仕事熱心すぎると思いません?」
「そうねぇ……でも、正面から休めといって、休むような子じゃないのは貴方もよく知ってるでしょう?」
「お母さんがこれだ……ダメですよ艦長。息子のことはもっとしっかり構ってあげないと。でないと、反抗期苦労しますよー?」
「残念。私の自慢の息子は、もう反抗期を通り越してるのでした♪」
「うぐっ……そう言えばそうだった」



 同じ士官学校をでたからわかる、エイミィただ一人の納得であった。
 ともあれ、息子の過労ぶりはリンディも懸念している事項の一つである。父の背中を目指して頑張っているのは分かるが、もう少し肩の力を抜いてもいいと思うのだけれども……。



「それにしても、ここのところ事件が立て続けですね。今回の輸送船事故もですけど、同じ管理外世界で起きた三回もの次元振、おまけにさっきまでの次元断層に、今度は輸送船〝襲撃説〟ですよ。うわー、今回、実はかなりハードスケジュール?」
「そうねぇ……まぁ、悩んでも仕方ないわよ。わたし達は、今できることをせい一杯やっていくしかないし、そうしていれば結果は自ずと付いてくるわ」
「艦長が言うと、説得力が数倍増しますねぇ」
「あら、おだてたって何も出ないわよ?」
「できれば、今度本局に帰ったら一週間の有給がほしいです」
「却下。本局に帰ったら、事後処理で二週間は缶詰ね。残念だわぁ~」
「あうぅ……報告書の量が比例倍数的に溜まっていく…………」
「とりあえず、無理はしないでね、エイミィ」
「わかってます。ていうか、それはむしろ私の台詞ですよ、リンディ提督」



 気がつけば、かなり長い休憩になってしまっていた。
 エイミィは一言「それじゃ、エイミィ・リミエッタ通信主任、仕事に戻ります!」としっかり敬礼を残し、リンディのいる艦橋から去って行った。
 圧縮空気と合金扉の自動ロックの音を聞きながら、リンディは想いを馳せる。
 確かに、今回の航海は随分とアクシデントが多いような気がする。
 ロストロギア輸送船の事故から始まり、その犠牲者と行方不明者の調査、さらにはその行方不明者が漂流したと思われる管理外世界から発せられた三回もの大規模次元振。正直、黙って見過ごせるような軽い出来事ではない。



「……さて、一体何が待っているのかしらね?」



 決して小さくない期待と不安、そして疑問を隠しきれないように、そう小さく呟くリンディの顔は、まさに数え切れないほどの修羅場をくぐり抜けた歴戦の将のソレであった。
 


 

  





 
  
 そこに空はなかった。
 あるのは水に混ぜ合わせた絵の具のような、マーブル模様の形容しがたい気味の悪い天蓋。偽物の青空。
 しかし、その〝庭園〟に降り注ぐ陽光は確かな暖かさを持っており、それ故に咲き誇る花々は瑞々しい活気を伴っている。
 まるで古城のような、壮麗な建物だった。
 鋭く天を突く尖塔、あちこちにしつらえられた優雅な彫刻、時代の逆行すら感じる美術的建築技術が随所にちりばめられ、ともすれば本当に時間逆行したかのような錯覚を味わう。
 そして、そんな絢爛荘厳の古き城のとある広間では、外の荘厳さとは裏腹の陰湿な空気の中、一人の少女が中空へ縛りあげられていた。



「……あぁ、本当にがっかりだわ、フェイト」



 呟くのは、妙齢の女性。
 腰まで届く漆黒の長髪に、紫色のルージュが引かれた妖艶な唇。豊満かつ痩身の肢体は、歳を経た老衰ではなく、経験を重ねた嬌艶さを溢れさせている。
 だが、その雰囲気は陰鬱そのもの。表情の随処に酷く疲れたような暗さを表し、その右手には黒く艶やかな鞭を持って、眼前に縛り上げられた一人の少女を憎々しげに睨みつけている。
 彼女こそが、時が時であれば歴史に名を残したであろう大賢者。ただ一人の娘のために生涯を投げ打ち、ただ一人の娘がために生きる悲愴の母。
 プレシア・テスタロッサは、目の前の〝出来そこない〟に酷く憤っていた。



「こんなにも時間をかけて、たったの五つだなんて。酷いわ……酷過ぎるわ、フェイト。貴方はお母さんが嫌いなの?」
「そんな、ちが――――うぁっ!」
「お黙りッ!」



 空気を割く音と共に、少女の苦悶の声が響いては消えゆく。
 魔力の糸によって縛り上げられた少女――――フェイトの白い素肌に、蚯蚓腫れのような赤い筋が走る。
 だが、それは一つではない。いくつもいくつも、数えればそれだけで顔を背けたくなるような数の痕が、体中あちこち、服を切り裂く程の勢いで刻まれていた。
 それでも、宙吊りにされた少女は涙を流さない。
 なぜならば、悪いのは自分だから。自分が悪いことをしているのに、泣いてしまうのは間違っているから。
 恐ろしいまでにいじらしく、何より健気な愛情を以て、フェイトは母に報いろうとする。だが、悲しいことに母はそれを理解しようとは到底思っていなかった。
 一方通行の愛情。ただ愛されたいがために、全てを受け入れるフェイトは、ただ母を悲しませてしまったことに、ひたすら申し訳なく思う。



「それでは全然足りないわ……最低でもあと五つ。それでも予定していた成功率の三分の一にもならないの。言っている意味、わかるわね?」



 幽鬼のような底冷えのする声音で、プレシアは鞭を弄びながら、傷だらけの〝出来損ない〟を眺める。いや、睨みつけている。
 そのおよそ実の娘に対する態度とは思えない憎しみを全身で受け止めながら、フェイトは弱弱しく「……はい」と応えるしかない。



「次は、お母さんを喜ばせて頂戴。もし、また私を失望させるようであれば――――いらないわ」



 なにが、とはっきりと明言せずに、プレシアはフェイトの拘束を解いた。
 同時に、プレシアの言葉を聞いたフェイトの目が大きく見開かれる。解放され、地面に下ろされながら、フェイトはその台詞の奥に隠れた真意に思い至り、胸を引き裂かれるかのような焦燥と悲しみを覚えた。
 プレシアはそのまま話すことはもう何もないとばかりに背を翻し、広間にしつらえてあった玉座に腰を下ろす。すらりとした美しい脚を組み、頬杖をつきながら片手でポップアップディスプレイを目にもとまらない速さで操作する姿は、最早フェイトの存在など思考の片隅にもないようだった。
 
 これで、かつてのフェイトだったならば意気消沈したまま広間を出て行ったことだろう。
 失敗すれば絶縁、いや捨てられると明言されてしまった以上、どうあっても失敗することは許されないと言う強迫観念と、もとより備えていた責任感により、自身の体など顧みることなく無茶をするために、すぐにでも海鳴へと向かってジュエルシードの捜索をするはずだ。
 ……だが、フェイトはよろよろとその場から立ち上がると、中々その場を去ろうとしない。
 何かを思い悩んだような表情を浮かべ、しきりに顔をあげては俯かせると言う所作を繰り返す。
 視界の端にとどまり続ける不快な〝モノ〟にそろそろ嫌気がさしたプレシアは、ついにソレを追い出すべく口を開こうとして――――フェイトが尋ねた。



「一つ、質問が、あります」
「……なにかしら」



 珍しいこともあるものだ、とプレシアは内心で言ちる。
 今まで、自分の言葉に従順を示したことはあれど、自分から質問をしてきたことなどほとんどなかったというのに。
 その変化に多少の興味を――あるいは無意識の期待を――抱きながら、プレシアはソレを睨み据えたまま先を促した。



「……ジュエルシードを使った後、後遺症がでることは、ありますか?」
「……なんですって?」



 その時の驚きを、どう表現したらいいのだろう。
 プレシアの聡明な頭脳は、今この瞬間ソレが発した台詞の持つ重大さに、数秒とおかずにたどり着いた。
 驚愕に声が震える。後遺症? アレを使った後に? いや待て、その前に前提条件はなんだ? 封印か? それとも本当に文字通りに〝使った後〟なのか?



「詳しく話しなさい」



 ソレへの嫌悪よりも、その瞬間プレシアの中では学者として、話題への好奇心の方が勝った。
 話を聞けば、どうやら現地で知り合った少年がジュエルシードを生身で発動したらしい。それも、魔法素養も何もない、ただの一般人が、だ。
 それでいて、結果的にジュエルシードの発動と制御に成功。その時傍にいたらしい友人の魔導師―――これが恐らくフェイトの邪魔をしている魔導師だろう、とプレシアは確信している―――により即座に封印したとのこと。そしてあろうことか、見事に願望を叶えて文字通り〝発動に成功〟させたのだという。
 だが、その少年に後日副作用が現れ、性別転換が起きてしまったというのがフェイトの話だった。
 


「(…………ウソでしょう)」



 その話を聞き終えて、プレシアは全身を襲う興奮の波を抑えることが出来なかった。
 なぜならば、プレシアにとってそれは望んでやまない、まさに究極の理想とも言うべき〝サンプル〟だったからである。
 今すぐにでも計画を修正し、改めて練り直さないといけない。もし仮にこの話と今自身が立てた仮説に間違いがないのであれば、長年待ち望んでいた〝悲願〟の成就に、より近付けることになる。
 図らずして転がり込んできた吉報に、プレシアは思わず笑み浮かべていた。
 フェイトはソレを見て、何故今の話で嬉しく思うのだろう、と純粋な疑問を浮かべる。聞いたのは、後遺症があるかどうかなのに。
 できるならば、その後遺症を治す方法がないかも聞きたかった。トキヒコが困っているのはわかりきっていることだし、それをどうにかして上げられれば、きっとトキヒコは喜んでくれるはずだから。なによりも、トキヒコを助けると言う目的であるならば、あの白い魔導師の子とも戦わずに済むかもしれない。
 それは、フェイトにとって夢のような話だった。
 だが、プレシアはそんなフェイトの夢を早々に打ち砕く。
 ポップアップウィンドウを操る手は、先よりも激しく細かく、そして縦横無尽に加速していた。
 そして、プレシアはフェイトにとって想像だにしていなかった命令を下す。



「フェイト、その子を連れてきなさい。ジュエルシードの回収は、後回しでも構わないわ」
「……え?」
「もう忙しいの。わかったなら出ていって頂戴」

 
 
 驚きに目を見開くフェイトに一瞥もくれることなく、そのままプレシアは作業に没頭していく。
 頬杖を解き、両手を使ってせわしなく複数のポップアップウィンドウを操作する姿は、口をはさむ余地がないほど、フェイトのことを思考の慮外へと負いだしているに違いなかった。
 質問にも答えてもらえず、さらには想像もしていなかった命令を与えられ、フェイトはただただ、自分が引き起こした恐ろしい未来を自覚して、足を震わせながら広間を出ていく。
 


「ふぇ、フェイト!? どうしたんだい、顔が真っ青じゃないか!」
「……」
「それに体中酷い怪我……っ、あんのクソババァ! またフェイトを―――!」



 広間の外で待機していたアルフの心配の声すら、今のフェイトには届かない。
 その胸中で渦巻くのは、ただひたすらの後悔と、心に強く残る少年への謝罪だった。
 絶対に巻き込みたくなかったのに―――――こんなつもりじゃなかったのに。私はただ、トキヒコを助けたかっただけなのに。
 


「ひぐっ……ぇうっ……!」
「フェイト? どうしたのさ、フェイト! あぁ、ダメだよ、泣きやんでおくれよ」



 使い魔のアルフが、その弱弱しく今にも折れそうなご主人さまを抱きとめる。
 その背中に手をまわして、フェイトはただただ泣きじゃくった。
 どうして自分はいつもこうなのだろうか。
 よかれと思ってやったことは、全て相手に迷惑をかける。喜ばせてあげたいと思って頑張っても、いつも失敗ばかりして不快にさせてしまう。
 あぁ、なんて自分は罪深い人間なんだろう。
 母を満足させることもできず、友人すらも危険に巻き込んで。一体自分は何のために生きているんだろうか。
 こんな自分じゃ、きっといつかあの白い魔導師の子にも酷いことをしてしまうに違いない。自分を、初めて〝友達〟と呼んでくれた、あの眩しい笑顔の少女に、絶対に酷いことをしてしまう。
 そんな自分が許せなくて、でもほかにどうしたらいいのかわからない〝役立たず〟としての自分が情けなくて。
 胸を引き裂くような悲しみに、フェイトは只管に涙を零し続ける。
 そして、そんな主人の悲しさが伝わってくる使い魔は、どう言葉をかけたらいいのかわからないまま、ただじっと、その小さな御主人の体を抱きしめ続けるのだった――――。




























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あとがきのようなもの
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恒例のいんたーみっしょん。
今回はかなり大切なお話ばかり。
……あれ? すずかちゃんでてこないよ?
で、出てくるもん! 次に出てくるもん! 日曜日何やってたかも含めて出てくるもん!
しかしほんだきゅんに拉致フラグが立ちました。


p.s
当SSでは、リンディさんTueeeeeee!どころかリンディ様Yaveeeeeeeeee!!!!!レベルに昇格してあります。
いつかそのチートっぷりをお披露目する時が―――――こないな、うん。

p.s2
誤字脱字の修正は週末にさせていただきます。あちょんぶりけ。


1007240127:Ver1.1 微修正。


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