<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[15556] 休日と友達と約束
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:a9a6983b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:40



「すみませーん、デザートの注文したいんですけどー」
「はい、お待たせしました。御注文をどうぞ?」 
「ウチ、ココアとティラミス、あとピーチタルトで! シルはどうする?」
「えっと……私もココアで。あと、このドゥーブルフロマージュを」
「一個でいいの?」
「だって、そんな悪いよ」
「いいから気にしないで頼んじゃいなって。あ、ウチミルフィーユ食べたいから一緒に食べよ」
「トコがそれでいいなら……」
「おっけー、それじゃミルフィーユも追加で。いじょーでお願いしまーす」
「かしこまりました。少々お待ちくださいねー♪」



 注文を取り終わった美由希さんが、テーブルの上の食器を持って去っていくのを見届けながら、俺は内心で超ガッツポーズを取っていた。
 その嬉しさがにじみ出ていたのか、対面のフェイトが呆れたように溜息をつく。



「…………ククク、ワレの正体に気付かぬとは。まだまだひよっこよの、美由希さん」
「……入った時はびくびくしてたのに」
「こーもあっさりいくとむしろ楽しくなってきたんだよ。いかん、女装ハマるかも」
「え……」
「ウソだよ!? ちょっとしたお茶目をマジに取らないで!?」
「でも……トキヒコだし」
「なにその〝あいつだしなぁ〟みたいな認識。俺様かなりショッキングなんですが。そして今は俺はトコね? あーゆーおけ?」
「トキ……トコはもうちょっと自分の特殊さを自覚したほうがいいと思うよ?」
「シルはもっと積極的に他人とかかわるべきだと思うよ?」
「……いきなり話をシリアスな方に捻じ曲げたね」
「逃げるためですから」
「まったくもう」



 俺がトコ、フェイトがシルとなった女装で変装大作戦は、むしろこちらが罠なんじゃないかと疑いたくなるくらい、上手くいっていた。
 てっきり妙なところで鋭い美由希さんのことだからばれるかなぁと半信半疑だったのだが、いやーまさに案ずるより産むがやすしってね。
 まぁ、代わりにいつものお得意様サービスが受けられないのは残念だが、別に俺の金じゃないからいいや。母上の金でスイーツが美味い。ざまーみさらせはーっはっはっは!



「にしても、犯罪的な可愛さだな、お前」
「へっ!? い、いきなり何言ってるのトコ!」
「いやー、服を選んだ俺が言うのもなんだけどさ」



 今俺達が据わっているのはテラスのテーブル席で、ちょっと小さめなために頭を横にずらせば簡単に対面に座るフェイトの全身が見れる。まぁ、そもそも二人掛け用だし、そんなでかいテーブルでもないから当然なんだけど。
 もちろん、俺としてはリスクを減らしたいのでボックス席を希望したのだが、生憎混んでる時間帯だったためボックス席は満席。カウンター席も同様で、外のテラス席しかなかったので現状と相成っている。
 それはさておき、今はフェイトの格好だ。
 まだ夕暮れ前、日が暮れ始めたばかりということもあって、結構日差しは強い。パラソルがなかったら、長時間居続けるにはちょっとしんどいくらいだ。
 変装をより完璧にするためと言うのもあったが、何よりもそんな陽射しの中を、真っ白な肌をしたフェイトをそのまま歩かせることが憚られたというのが、フェイトに帽子を渡した理由だったんだが、ここにきてその選択は予想以上の副次効果を生み出している。
 フェイトは今、白いルーズワンピースに、白のハイニーソ。淡い水色のカーディガンにブローチという姿に、いつものツインテールではなく、バレッタで一つにまとめて肩から胸に流し、クリーム色の、青い蝶細工があしらわれた鍔広帽子を被っている。普段が黒一色だから、それに反抗する感じで正反対の色をチョイスしてみたんだが、コレヤバいな。
 シンプルながらも、その類稀なる容姿と普段の儚い雰囲気のおかげで、まさにどこかの御令嬢と言った風体だ。ただでさえ美少女なのに、なおさら少女趣味な可愛い服を着たりしたら鬼に金棒だろう。想像していた以上の可愛さっぷりに、さすがの俺もどっきどきですよ。
 


「道行く人たちも、なんだか気になるお年頃のようだし」
「え、うそ」



 ばっ、と街道になっているすぐ隣を振り向いて目を見開くと、すぐさま顔を元に戻し、今度は顔をリンゴのように真っ赤にして俯いてしまった。どうやら視線がばっちりと合ってしまった人がいたらしい。そら恥ずかしいわ。
 ともあれ、こんな変装をしていても注目されてしまうのは、やはり素材が良すぎるからだろう。きっとすずかちゃんでも同じことになってるに違いない。
 


「お待たせしました。ティラミスにピーチタルト、そしてこちらがフロマージュとミルフィーユになります。御注文の品は以上でよろしいでしょうか?」
「はーい。ありがとうございまーす」
「ふふ、ごゆっくりー♪」



 待ちに待ったデザートタイムである。
 三時過ぎという時間に加え、ここまで歩いてきた軽い疲労も手伝って、お腹は結構減り減りなのだ。
 フェイトはそんなに食べないとのことで、ピザセット一人前で十分足りてしまった。どの道夕飯があるし、あまり食い過ぎるのもあれだからな。
 しかしデザートは別です。特に桃子さんの作るデザートは値段と質の等価関係をぶち壊してあまりあるので、食えるならばたくさん食いたい。ていうかここまで頼んで母上からもらったお金の半分くらいしか使ってないんだよね。
 


「わ……美味しい」
「でしょー? 値段の割に、味が高級店に劣らないからねー。商店街ん中じゃ、超人気なんだよここ」
「うん、わかる気がする。さっきのピザもすごくおいしかったし」
「惜しむらくは、フードのメニューがちょっと少ないことかなぁ。ま、季節で変わってくから、そこまで不満じゃないけど」



 美味しいデザートも食べれて満足満足。
 俺が一人でこんなに食ったら母上に折檻されるだろうが、今日はフェイトがいる。さっきの様子じゃ、いたくフェイトのことを気に入ってたみたいだから、この程度ならむしろ「もっと美味しいもの食べさせてあげなさい!」と怒られかねん。金銭的な問題でこれが限界だからソレはないと思うけど。
 まぁそのぐらいフェイトは気に入られてた、っぽいんだよね。無類の可愛い物好きな母上なんだから間違いない。
 あ、でも写真撮影だけは自重させよう。さすがに余所様の娘さんを勝手に写真撮るのはいかんだろて。



「……あの子も、ここで働いてるんだね」
「おー、さっき見たろ? 主にレジやってるみたいだけど、時々ショーケースの中のスイーツの補充とかもしてるみたいだな」
「うん。さっき、一生懸命シュークリーム運んでた」
「ちょーっと危なっかしいから、まだまだホールは任せてもらえないのかも。まぁ小学生がホールやるのはさすがに無理あると思うし」
「注文とったり、お料理運んだり、だっけ。……私には、難しいかな」
「うちらは身長の問題もあるし仕方ねーよ。そういうのはもっと大人になってからだって」
「そっか」
「ま、しばらくの間は、高町のやつここで手伝いしてるだろうから、暇を見つけて会ってやれ。すげぇ喜ぶと思うぜ?」
「…………うん」



 だめだこりゃ。フェイトの気のない返事を聞いて、俺はそう確信した。
 理由はわからないけど、多分まだアイツに会う勇気が持てないんだろうな、とあたりをつけてみる。
 まぁ、元々親しい間柄どころか敵対関係にあったのに、いきなり会ってみろなんて無茶もいいところだしな。
 大喧嘩やらかした赤の他人に、翌日に笑顔で話し掛けてみろ、って言われるのと同じ話だ。俺だったら絶対無理。
 ココアを一口飲みながら、ちょこちょことケーキを突っつくフェイトは、それでもちょっとばかり悩んでいるみたいだった。
 悩むのはいい。まだ会うのは難しいかもしれないけど、そうやって悩み続けて、いつか会おうっていう結論が出せるなら、それでいいさ。
 焦って結論を出しても、あんまいいことないし。急がば回れとは、昔の人はよく言ったもんだ。
 …………なんて、油断してたせいだろうか。



「……あれ? フェイトちゃん?」
「「―――!?」」



 ぎぎぎ、と錆びついたブリキ人形のようにその声の方へと振り返ってみれば、ちょこんと小首をかしげてこちらを見る、とてもとても小さな翠屋の店員様の姿が。
 …………何故にばれたーーーーーーーー!?!!?



「わぁ、やっぱりフェイトちゃんだ! ひどいよ、来てたなら言ってくれればいいのにー!」
「あ、あの……って、わわわ」
「すっごい可愛い服だね! フェイトちゃん可愛いから、まるでおとぎばなしのお姫さまみたいだよ!」



 まさに喜色満面。なんていうかもうこれ以上ないくらい嬉しげな様子で、イノシシのごとくフェイトに詰め寄ったそいつ――――高町は、ぶんぶんとフェイトの両手を取って喜びを露わにした。
 一方、フェイトは茫然としたままされるがまま。なんと答えればいいのか、あるいはどうしてバレてしまったのか考えているのだろう。俺も同じである。
 


「あれ? そっちの子は?」
「えっ!? あ、あの、その子は……」
「フェイトちゃんのお友達? だとしたら、フェイトちゃんって近くに住んでるの!? うわー、ねね、こんど遊びに行ってもいい!?」
「あ、あの、えと」
「その時はアリサちゃんとすずかちゃんも誘って良いかな? あ、アリサちゃんとすずかちゃんは私の友達で、二人ともすっごくいい子なの! フェイトちゃんもきっと仲良くなれるよ!」
「そ、そう。……って、そうじゃなくて」
「あれ、フロマージュ好きなんだ……ということは、まだデザートの途中? よかったー、わたしも今から休憩だから、よかったら一緒に食べようよ。なんならおかーさんにお願いしてシュークリームも貰ってきちゃ――――」
「落ち着け馬鹿町」
「はにゅっ!?」



 興奮して周りが見えなくなっているのか、混乱の極みに陥って目を回しかねないほどパニクってるフェイトに気付かない高町の頭に、俺の空手チョップが叩き下ろされた。
 情けない声を洩らしながら、涙目でこちらを振り向く高町。物凄く恨めしそうな表情が、しかし徐々に困惑へと染まっていく。



「何するのほんだくん! 痛いじゃ――――あれ?」
「条件反射かよ!? 頭にチョップされたら無条件で俺なのか!?」
「え?」
「あ゛……」



 空気が凍る。
 やっちまった。思わずノリで――――いやいや誘われるようにして突っ込みを入れてしまった。



「…………う~ん?」
「っ~………!」



 じーっと、俺の顔を覗き込んでくる高町から、必死に顔を逸らして素知らぬふりをする俺。実際は流れる汗滝のごとしですよ。
 目を細め、俺の全てを暴きたてようと頭のてっぺんからつま先の先まで舐めるように見てくる高町。
 こう、なんつーの?
 菱形の目の中央に小さな丸がある、あのギョロッとした感じの。アレだよアレ、うさ○ちゃんみたいな! 
 ……冷静に考えたら超怖いな、今の高町。
 対して、必死になって目が合わないように顔を逸らす俺。当り前だ。悪あがきだろうがなんだろうが、俺は最後まで諦めない!
 しかし世の中何事も限界と言うものがあるわけでして。
 じーっ。さっ。
 じとーっ。ささっ。
 じじーっ。さささっ。
 「あ!」ぴこーん!
 


 ……オワタ。
 ぽん、と高町が手を叩いた。
 その先の台詞が予想できてしまい、俺はあちゃーと思わず額を抑えてしまう。
 しかたない、こうなれば大人しくゲロるしかないか――――。



「ほんだくん、女の子の格好すごく似合うね?」
「って、そっちかぁぁぁああああ!?」











 というわけで。
 もはやバレてしまったものは仕方ない、といった開き直りの精神で、ここに来た敬意を簡単に説明してやる。もちろん、俺の女体化については黙っておいた。今話してもややこしいことになるだけだし、ノリで女装したのは間違いじゃないからな。
 

 
「なるほどー、そういうことだったんだね」
「……なんでそんなあっさりと受け入れられるのか不思議で仕方ないんだが」
「にゃははー♪」
「うぜぇ」
「ふきゃっ!? ま、また叩いた! 次叩いたら怒るんだからね!?」
「おーやってみろこの馬鹿町。エルフ示現流の弟子であるこの俺様に勝てると思うなよ?」
「えー、またほんだくん変な漫画にハマってるのー? ていうか、それはいくらなんでもださい気が……」
「ださいとか言うなよ!? 妖刀ざっくり丸の恐ろしさを知らないからそんなこと言えるんだ!」
「ざっくり……うわぁ、名前だけ聞くとすごく痛そう」
「ふふふ……貴様は全エルフ示現流の人間を敵に回したのだ。夜はつむじに気をつけるんだな。妖刀ざっくり丸が貴様のつむじを狙っている!」
「ふぇ、フェイトちゃんどうしよう! わたしほんだくんに狙われちゃう!」
「あ、あはは……」



 苦笑いするしかないフェイトに、高町は半泣きになりながら抱きついた。
 俺達の据わっていた席に、まるで当り前とばかりにちゃっかりと座っているのはいいとして、だ。
 ……何故に当り前のように俺の正体まで、桃子さん以下高町ファミリーにバレバレなのでしょうか。
 つーか美由希さん気付いてたのかよ!? なら突っ込んでよ! あやうく超赤っ恥かくところ――――いやもうかいたからいいのか。そーだよなー、既にバレてんだから今更恥の上塗りしよーが関係ないもんな!
 ……あれ?



「急に頭抱えてどうしたの、ほんだくん?」
「……ちょっとな。人生って、ままならないな、って」
「うにゃ? どーゆーこと?」
「いや、いいんだ。高町のお嬢ちゃんにはまだまだ早い話題だったかな、はは」
「むー……へんなの! ねー、フェイトちゃん?」
「え? あ、う、うん?」

 
 
 ともあれ、高町の奴は念願のフェイトとの対話ができて酷く満足の御様子である。
 フェイトも、戸惑ってはいるけれど、まんざらでもなさそうだ。
 正直、もうちょっとギスギスするかなぁと心配してたんだが、杞憂だったみたいで安心安心。
 しかし、不思議なものだ。「本当なら、お互いにジュエルシードをめぐって骨肉を抉り、復讐と復讐をぶつけ合って血潮を飛び散らせるような凄惨な戦いを繰り広げていた二人が……」「「してないよ!?」」……あれ?



「声に出てるよほんだくん! というか、わたしたちそんな危ないことしてませんっ!」
「そうだよトキヒコ! それに、それだとほとんど殺し合い……!」
「え? ちがったっけ? お前らの戦いっぷり見てると、まるでどこぞのロボットアニメを思い出すんだが」



 こう、もとは味方同士だったのに、とあるきっかけで敵同士になって、ガチバトルするっていう展開。
 高町の重火力と、フェイトの高機動を見てると自然とそんな印象を持ってしまうのです。分かる人にはわかるはず。
 少なくとも、フェイトは一度覚悟を決めた後、かなり本気で高町のこと潰しにかかってたし、あながち間違いではないと思うんだよな。
 しかしながら、どうにも高町とフェイトの二人には不満だったらしく、二人して仲良く俺のことをじとーっと睨んできました。
 


「そ、そういえば! 月村さんとアリサのやつはどーした! なんか月村さんは用事があるとか言ってたけど」
「むむ、なんだかろこつに話題を逸らされた気がするんだけど……」
「木の精だ」
「もう、いつもそうやって誤魔化すんだから」
「いいから教えろよ。特に月村さんから何か聞いてる? 今日電話したら、なんか用事あるって言ってたんだけど」
「すずかちゃんが? うーん……わたしも何も聞いてないよ?」
「そかー」



 やっぱり、急な用事か何かだったんだろうか。残念だなぁ……。
 まぁ、実際に会えるとなっても、こないだの〝事件〟が未だに脳裏にくっきりはっきりと残っているので、恥ずかしくて顔合わせるどころじゃないんだけどさ!
 ていうか、冷静に考えてみたら、俺まだ女装中なんだよね。
 もしこんな状態ですずかちゃんに会おうものならば……。

 本田君、女の子だったの?→違うよ俺男だよ!→男の子なのに女装してるの?→いや、これには深い事情が……!→本田君が変態だったなんて……ごめんなさい!
 
 ……俺死亡のお告げが聞こえてきた。
 今の状態で会うのは絶対に避けよう。何としてでも避けよう。つまりは現状維持でいこう、うん。
 


「アリサちゃんは、お父さんと一緒にお出かけだって」
「あ、アリサはどうでもいいや」
「……時々、ほんだくんってアリサちゃんに優しくないよね」
「そんなことないよーほんとだよー」
「あー! ウソだ! ソレぜーったいにウソ!」
「フェイトは信じるよな! 俺のこと信じてくれるよな!? あんな馬鹿町みたいに俺のことを心の底から疑ったりしないよな!?」
「え……? あ、えと、私は……」
「ダメだよフェイトちゃん! ほんだくんは平気な顔してウソ吐く、ウソ吐き村の村人なんだから!」
「ウソ吐き村……? そんなのがあるの?」
「フェイト! そいつの戯言に耳を貸すな!」



 結局、そのまま俺達三人は、翠屋で延々と雑談してました。
 ……なーんか忘れてる気がするんだよなぁ。なんだっけか?
 








 春といえど、太陽の帰宅時間は未だに早い。
 さすがに五時を回ると太陽も「わしゃ疲れた」とばかりに帰宅準備をしだし、気がつけば西の空が綺麗な紫色へと塗り替わっていた。
 その間、美由希さんや恭也さん、あと士郎さんもやってきては話し掛けていき、それに対して俺は滅茶苦茶恥ずかしい思いをしながら「趣味じゃないんです! 今日は仕方なくてこんな恰好してるんです!」と必死な言い訳をする羽目になった。おのれタカマチ、貴様のせいでまたしても俺のイメージが壊れてしまった!
 ともあれ、その度に差し入れと称したお菓子とドリンクのお代わりをさせてくれたので(無論ドリンクはサービス、お菓子は特別に4割引きという、赤字覚悟の良心である。今度土下座するしかない)、必ずしも迷惑だったと言えないのが苦しいところか。いやしかしなぁ……まさか女装少年と勘違いされるのはいち男の子としてどうなんだろうか……。
 嵐が過ぎ去った後、深く男の子とは何かを考えざるを得なかった。
 


「さーてと……そろそろ帰るかなぁ。夕飯の時間だし」
「えー、もう帰っちゃうの?」
「バッカおめ、良い子は既に帰宅の時間だぞ? 夕焼け小焼けがモノ悲しく皆を帰宅させているのがわからんのか。俺様ちゃんは近隣で有名な超良い子なので早く帰らねばならんのだ」
「にゃはは♪ ほんだくんが良い子だったらわたしはもーっと良いこにゃにゃにゃ!?」
「ほほーう? 俺様を悪く言うのはどの口かなぁ?」
「にゃうーー! ひゃにゃひへょーー!」
「ま、まぁまぁトキヒコ。私も、トキヒコが良い子っていうのはちょっと無理がある気が……」
「フェイト、お前もか!?」



 最後の最後で酷い裏切りを見た気がする。
 この短時間で、高町とフェイトは随分距離が縮まったようだった。
 相変わらず、フェイトはまだまだ遠慮している気が抜けないが、それでも最初のころに比べれば、少しばかり積極的に話しかけるようになってきたし、こうして俺と高町との茶々にも合いの手を差し込んでくる階数が増えている。いいことだ。
 まぁ、大抵が高町の味方なのはどういうことなんだろうと首を捻らざるをえないんだが。それは置いておこう。
 


「あ、そうだ! ねぇほんだくん、だったら今日はわたしのウチでお夕飯一緒に食べようよ」
「高町ん家で?」
「うん! フェイトちゃんもいるし、ちょうどいいと思うの!」
「……んー、まぁ俺は別にかまわんけど……フェイト、お前はどうよ?」
「……えぇと」

  

 俺はというと、高町の家で夕飯を御馳走になるのは今までにも結構あったことだから構わない。だが、フェイトはそんな話を振られた途端、眉根を寄せて俯いてしまった。
 ……やっぱり、早すぎるよな。
 いくらこいつの性根が実は、バカみたいなお人よしだとしても、今まで争っていた相手といきなり食卓を囲む、ってのはしんどいだろう。それは無論、居心地が悪いとか敵同士なのにとか、そういう話ではなく、もっと単純な話――――つまり、迷惑をかけた相手に、遠慮してしまっている、ということだ。
 高町が敵だからではなく、自分の目的のために迷惑をかけてしまった相手として、フェイトは遠慮してるんだ。そして、高町はそんなことをまったく気にしていない。
 まぁ、フェイトがそれに気付いたにしても、頑固なフェイトのことだ。どの道、今日のところは一緒に夕飯を食べるのは諦めるしかないだろうな。



「ごめんね。今日は、ちょっと無理かな」
「えー! そんなぁ、せっかく会えたのに……」



 予想通り、心底申し訳なさそうにその耽美な眉をハの字にして、フェイトは高町の誘いを断った。無論、不服な高町はその返答に納得できずに食ってかかる。
 けど、それから約十分もの間、高町の奴は熱心にフェイトを夕飯に誘っていたが、結局フェイトは終始困ったような表情を浮かべるだけで、決して首を縦に振ることはなかった。
 太陽が沈み、暗い群青の群れが空を覆い尽くした頃、俺達はしょんぼりする高町を慰めながら、会計を済ませて翠屋を出た。
 ちなみに、退店間際に美由希さんに捕まって「可愛かったよー♪」と耳打ちをされた。ちくしょう、気付いてて黙ってたとかきたない! さすが美由希さんきたない!
 ついでに高町のかーちゃんである桃子さん(おばさんと呼ぶと何故か旦那さんが殺気を放つ)に夕飯を御馳走になってもいいという許可を頂き、ついでにうちらの両親も誘って高町本田両家を交えた夕食会に発展することになったのはどうでもいいことである。

 フェイトは電車で移動するらしいので、俺達は海鳴駅まで見送ることにした。
 改札前でフェイトが切符を買う傍ら、高町がしきりにどこら辺に住んでるのかとか今度いつ会えるのかとかいろいろと邪魔している。それを俺は離れたところから眺めつつ、はて遠見市か、と聞こえてきた単語からフェイトの住んでるという場所を想像していた。
 初めて会った時、かなりのお金を持っていたから、その推測は間違っていないだろう。どうやってお金を用意したのかは謎なんだけどさ。
 とにかく、遠見市である。海鳴の近隣にあるオフィス街で、ちょっと外れたところに住宅街が多い市街地だったはずだ。
 ここ海鳴よりも高層ビルが多く、地方都市にしてはかなり発達している方で、交通量も多く人通りもここの倍以上はある。なにより、道行く人たちのほとんどがスーツ姿なのが印象深い。
 ただ、完全なオフィス街かと言うとそうでもなく、ショッピングモールや百貨店と言ったお店が多く立ち並び、どことなく前世で数えるほど行ったことがある東京の銀座に似た雰囲気があったようなきがしないでもなくもないような……?
 まぁとにかくそんなところだ――――ていうかそんなところに住んでるのかよ。ボンボンのお嬢様じゃねぇかソレ。
 もし想像通りにフェイトがどこぞのお嬢様だったりしたら、俺の周りのお嬢様率が異常な事になるな。前世からみたらゆうに三倍とか頭おかしいんじゃないのか、ってレベルだ。
 まぁ、通ってる学園がそもそもお金持ちが多い学園だしあたりまえっちゃあたりまえなんだが。その時点で普通よりもお嬢様お坊ちゃまと知り合う可能性は高いのはわかるけど、しかし友人の過半数がお嬢様というのもどうなんだろうか。見ようによってはハーレムでうっはうは? いいえ、僕はすずかちゃんが大好きです。他はいりません。それ以前にアリサも高町も友達としてはいいんだが、恋人とかになるとちょっとなぁ……。いや失礼だとは思うよ? 思うけど、なんていうかすげぇ苦労しそう。特に高町。がんばれユーノ。俺は草葉の陰で思い出した時に応援するよ。
 そんなことを考えていたら、もうフェイトが改札の前までやってきていた。
 高町がフェイトの手を取ってぶんぶん勢い良く振りながら握手しており、道行く人々が「なにあの子達可愛い!」とでも言いたげな、とても温かい視線を投げかけながら通り過ぎていく。
 ……あぁ、できればここから逃げ出したい。なんだってこんな女装とかしてるんだろ俺。死ねばいいのに。
 


「それじゃ、また今度ね!」
「う、うん……」
「次は、絶対にお夕飯一緒に食べようね! わたし、楽しみにしてるから!」
「……ありがとう。私も、楽しみにしてる」
「――――っうん!」



 向日葵のような笑顔、とはこのことだろうか。
 はんなり微笑みながら返されたフェイトの言葉に、高町は猫のようにツインテールを逆立たせながら思いっきり首を縦に振った。
 そんな大げさな反応に、すぐにフェイトは微笑みを苦笑に変えて、今度はこちらを見やる。
 


「トキヒコも、その……今日はありがとう」
「いーって。つーか何もしてねーし。むしろ振り回しただけだろ」
「でも……私、楽しかった」
「……そか。よかったな」
「……うんっ」



 今度ははっきりと、しかし先程よりももっと明るい笑顔だった。
 


「あ、そうだフェイトちゃん」
「なに?」
「これ、忘れてたから」



 高町がごそごそとポケットから取り出したのは、封印済みのジュエルシードだった。
 恐らくは、俺達がすずかちゃんを元に戻した時に使ったジュエルシードだろう。淡く内部に浮かびあがっている数字に見覚えがある。
 そして、突然そんなものを差し出されたフェイトは、目を白黒させながらいきなりキョドり始めた。



「え、あ、ええ!? えと、どういう、ことなの……かな?」
「あー、やっぱりフェイトちゃん忘れてたんだ。ほら、この間の夜、約束したじゃない。〝わたし達のを一個あげるから、それと交換して〟って」
「……え?」



 フェイトもあの時の会話を思い出したのか、今度は鳩が豆鉄砲を食らったような表情で固まった。
 まぁ、まさかあんな口約束でしかないような話を持ち出されるとは思いもよらなかっただろう。
 高町曰く、これを渡すことはユーノと相談して決めたらしい。ユーノにはかなり反対されたとのことだが、そこは頑固の高町。無茶で無謀と窘められようと、意地を通すが高町流とばかりに半ば強引に納得させたようだった。
 対して、突然の申し出にフェイトはどう反応すればいいのか本気でわからないらしい。
 そりゃそうだろ。今まで喧嘩というか敵対しながら取り合ってたものを、いきなりポンと渡されたんだ。無理やり手のひらに握らされたそれを、ぼんやりと見つめながらぽやーとしている姿を、高町はすごく楽しそうににこにこ笑いながら見つめていた。



「なんで……」
「なんでって……友達なんだから、約束を破っちゃだめでしょ?」
「……とも、だち?」
「うん。だって、フェイトちゃんはほんだくんの友達で、わたしもほんだくんの友達。それなら、フェイトちゃんとわたしも友達だよっ!」



 いや、そのりくつはおかしい――――と突っ込みたい気持ちでいっぱいになったが、ここは空気を呼んでぐっと我慢する。
 どの道、この高町節にケチをつけたところで無駄な事だし、この理論はこの理論で面白いからいいんだけどさ。
 なによりも――――言われた本人が、涙ぐむくらい嬉しがってるんだから、むしろ高町の台詞を全肯定してやってもいいくらいだ。
 


「あり……ありがと……っ」
「ううん、お礼を言うのはわたし達だよ。あの時、フェイトちゃんが見逃してくれたおかげで、大切な友達を助けられたから。だから、これはわたし達の感謝の意味もこめてあるんだ。本当に――――ありがとう、フェイトちゃん」
「っ……うん! うん!」



 二人の少女が、駅の改札前でひしっと抱き合う。
 フェイトは感情のダムが決壊したのか、とめどなく溢れる感情の奔流に振り回されるように、嗚咽を噛み殺していた。
 そんなフェイトをあやすように抱きしめる高町は、時折その背中をさすりながら、ぎゅっと力を入れて抱きしめ返す。静かに、ゆっくりと。その綺麗な金髪を撫でながら、高町はフェイトという異人の少女を、心の底から抱きとめていた。

 その光景に嫉妬しなかったか、と言われればウソになる。
 なぜならば、今まさに目の前で繰り広げられる光景は、かつて俺とマイラバーとの間であった出来事の再現に他ならないのだから。
 大分色褪せた記憶の向こう、しかし決して忘れることのできない、魂に刻み込まれた記憶が俺の心を揺さぶる。
 


――――あぁ、もう、本当に会えないんだな。
 
 

 前世で、誰よりも大切だった人。
 そして、誰よりも愛していた人。
 その大切な〝家族〟に、もう二度と会えないのだとわかったのは、いつだったか。
 頭で何度理解していても、こうしてふとした機会に、抉るような胸の痛みと共に何度も納得しなおしてしまう。それは俺が女々しいからなのか、それとも未練がましいからなのか。どちらにせよ、俺はこれから一生、どうあってもマイラバーのことを忘れることはできないだろう。
 だからこそ。
 俺は、出来る限りのことをしてあげたい。
 ただの偶然と片付けるにはあまりにも似すぎているその容姿は、俺にそんな感懐を抱かせる理由として、十分に過ぎる。
 ……これは、間違いなく俺の偽善であり、ただの傍迷惑な他者投影だ。決して褒められるようなことじゃない。
 でも、同時に俺は確信している。
 仮に――――そう、仮に、俺がフェイトを赤の他人と割り切って動いていて、今の俺の傍らに〝アイツ〟が立っていたならば。
 間違いなく、俺は酷い目にあう。そりゃもう筆舌に尽くしがたいアレコレのせいで。
 それに、だ。
 もし本当にフェイトを赤の他人と切り捨てたら、すずかちゃんに嫌われちまうだろうしな。
 打算的? 大いに結構。人間多少狡っからい位でちょうどいいんだ。ソレに俺、中身はきたない大人ですから。今更体面なんて気にしませんよ。あ、すずかちゃんの前だけは例外ね。見栄張るよ! 超見栄張っちゃうよ! そのせいで何回か墓穴掘ったけどな!
 とにかく、今後ともフェイトに対する〝お節介〟を止める気はない。フェイトの上司(?)には悪いが、遠慮なくフェイトをこっち側に引き込んでやるとしよう。
 


「――――ったく、世話が焼けるぜ」



 誰にともなく呟いた言葉は、夜の雑踏にかき消されるように消えていく。
 そして、そろそろ周囲に集まりだした野次馬の視線に耐えられなくなった俺は、二人に「おいそこのジャリガール共、そろそろ終わりにして下さりやがりませんと、俺が恥ずかしくなって泣き出すぞ」と声をかけながら、近づいて行くのだった――――。
 





 
 


 

 

 










 



―――――――――――――――――――――――――――――
あとがきっぽいなにか
―――――――――――――――――――――――――――――

翠屋の設定をちょびっと変えてます。
店内の内装は特におおきな変更はありませんが、店の商店街側の外にテラス席ができている設定です。二人席3に四人席2の小さなスペースですが。
本編中では蛇足なのでここにて補足。
まぁこのぐらい誤差誤差。

さて、そろそろアースラ組がこないとまずいよね。


1007240128:Ver1.1 微修正


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028285026550293