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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 星と金髪と落し物
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:a9a6983b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:36
 両親と流れ星を見た翌日。
 塾で忙しいすずかちゃんやヤカマシングス、んでもって最近とみに俺への暴力係数が右肩上がりの高町達と別れた俺は、なんとなく昨日の記憶を頼りに町を散策していた。
 ――――が、結局流れ星が落ちたと思われる場所は発見できなかった。しょんぼり。
 どちらかというと、高町がしていた方が似合いそうな哀愁の表情を漂わせながら、とぼとぼと海鳴の商店街を抜け、帰宅することにした。
 駅前のロータリーへと向かう道すがら、ふと一昨日出会った紳士のおっさんを思い出す。今頃京都で何してるんだろうか、あの不思議なおっさんは。
 しかしアレがすずかちゃんの叔父ってなぁ……俺、失恋フラグじゃね?
 なんていうか、あのおっさんの様子を鑑みるに、すずかちゃんに告白しようものなら「うちの姪or孫に何をする!」的な感じでそのスジな方々に追い回されたり。


――――いやいや落ちつけ俺。そりゃドントなマインドだぜユー。


 すずかちゃんの実家がそんなマダオの集団なわけないじゃないか!
 あれだぞ、すずかちゃんはお嬢様だぞ?
 俺的に学校一可憐で清楚で柔和で観音菩薩なぞそこらへんのフンコロガシ以下にすら思える超絶美少女小学生だぞ!?
 そんな彼女の実家がヤのつく自由業だなんて、はは、まるで漫画みた――――いやまてよ。
 そういえば、大抵やくざがご実家の漫画のヒロインとかって、性格は二極してるような……。

 ①:超乱暴者。言葉遣いもあらあらしく、平気で木刀や釘バット振り回して人を殴り殺しかねないような乱暴者。もしくはそんな人格になる二重人格者。
 ②:その対極で、清楚で可憐。柔和な笑みを崩さず、まるでそのスジの家のものだとは感じさせないほどお嬢様。しかし腹黒。

 うーん、こう考えてみるとなんか、すずかちゃんってば物凄く②の条件に当てはまってしまっているような気が。


――――マィガッ!?


 嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!
 そんな、すずかちゃんの実家がヤクザで腹黒だなんてそんなの嘘だ!
 そんなことがあってたまるもんか! すずかちゃんは正真正銘のお嬢様なんだ! ジャリブリットみたいな粗暴モノとは格が違うんだよっ!
 いや、でも確か昨日、すずかちゃんの話の中に、あの紳士のおっさんがすずかちゃんに対して「将来この地を監督する」とかなんとか言ってた気が……。

 はっ!? それっていわゆる〝シマ〟ってやつなのか!? 縄張りなのか!?

 だめだ、そう考えたらますます、すずかちゃんのご実家がヤのつく自由業の方々になってしまう……っ!
 仮に、そう仮にだ。
 もしすずかちゃんのご実家が、実はドイツからきたマフィア系のちょっとアレな素晴らしき人々だったりして、それでそれで、もし億が一にでも俺がすずかちゃんに告白しようものなら………………。




「やめよう。精神的に死ぬ」



 とりあえず傍にあった電柱に手を当てて項垂れた。ぼくのじんせいおさきまっくらっ!
 


「はぁ……気になるなぁ。けど聞くのは憚られるんだよなぁ……」



 どうしようもなく気まずい話題だ。こっちから吹っ掛けるなんて正気では絶対に無理だな、うん。
 いっそアルコールでも摂取するか?
 素面がだめなら酔えばいいじゃない! とは前世のマイラバーの言だが、案外的を得ているかもしれない。そのせいで俺の初めては食われてしまったんだが。
 


「あぁ、俺ってば女運絶対悪いよな、これ」



 自分で古傷を抉ってしまった激痛に耐えきれず、そばにあった植え込みの近くでうずくまってしまった。あかん、ぼく泣いてまう。
 さめざめと嘘涙を流しながら項垂れ、世の無情さを嘆いていたその時だった。



「……おろ?」



 茂みの奥に、何かが陽光を反射して輝くのが見えた。
 青い――――石? いや、宝石か?
 うぬっ、と一つ唸って手を突っ込み、がさごそと探し出す。
 ややひんやりとした、しかしつるつると表面の滑るソレは、まだ高いところにある太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
 薄ぼんやりと陽炎みたいに揺れている気がするんだが……気のせいか?
 


「にしても、誰だよこんなところに宝石投げ捨てたの。勿体ないなぁ」



 ふーっと息を吹きつけて、表面に付いた砂を取り払う。どうやら投げ捨てられてあまり時間は経っていなかったみたいで、息を吹いてもとれなかった汚れは、服でごしごししたらすぐに取れた。
 色合いはアクアブルー? いやマリンだったか? そんな感じの青い奴で、やや長めの六角形カットの宝石だ。
 


「……売ったらいくらになるかな」



 なんて考えて「いやいや、そんな貧乏くさいこと考えてどうする」と自分の愚行を窘める。紳士を目指すもの、そんなセコイ真似は言語道断。あ、でも中古漁りは全然オッケーだよ? ほら、アンティーク探しとかって貴族とかお偉いさんとかやってるじゃん。あれと一緒一緒。
 まぁ、それはともかくとして、だ。



「ま、流れ星が落ちたところは見つけられなかったけど、代わりとしちゃ上々かな?」



 ふと、すずかちゃんにプレゼントしたらどうかな、なんて考えがよぎる。
 だけど、自分で買った物や創ったものならいざ知らず、こんな植え込みに放り投げられてたような宝石(?)を上げるのは気が引ける。ていうかやっちゃいけないだろ。んなことしたら賽銭箱にゲーセンのメダル入れるようなもんだ。ダメ、絶対。
 というわけで、これは今日の戦利品として家に持ち帰ることにしよう。今度、荒木達に自慢してやろ。
 そう思いながら、俺は上々の機嫌になって、海鳴のバスロータリーへと向かって歩き出したのだった―――――。
 








                           俺はすずかちゃんが好きだ!







 
 

「いやまてよ……そういえば、最近あのジャリヤンキーの機嫌がすこぶる悪かったような――――」



 夕暮れ近くなってきたためか、若干すれ違う人たちの足並みが慌ただしいものになってきた。それを視界の端に流しながら、ふとそんなことが思いつく。
 ふむ、ここらで一つ、この拾いモノで機嫌を取るというのはどうだろう。
 高町の家が経営している喫茶店で買ってきたシュークリーム(計2個三百五十円、友人特別価格なり)をほおばりつつ、そんな妙案が思いついた。
 思い返せば涙と激痛と間接の悲鳴しか聞こえない回想が、俺の脳裏を生々しくよぎっていく。もはや生きるサンドバックのごとく毎度毎度殴られる立場となってしまった不遇の身の上を思い出し、ぶるるっ、と寒気に襲われて震えてしまった。
 おまけに、最近は高町の馬鹿もあの暴力パツキンに影響されたのか、言葉よりも体で話をつけてくることが多くなってきた気がする。ていうか、半年前とは比べ物にならないくらい遠慮なくなってきたような……。



「はぁ……余計なこと言っちゃったよなぁ、アレ」



 去年の冬、その時はまだ大人しくてあまり自分の意見を言わない高町に、俺は「お前影薄すぎ。三沢って呼ぶぞ(ちなみに三沢とは空気人間の隠語である)」って脅してやったことがあった。
 それが恐らくは気転だったのだと思う。それまで結構引っ込み思案で自分から話に割って入るようなことはしなかった高町が、それ以降も俺が何度か「エアーガール」だの「メタンガス」だの「あ、むしろオゾンか」とからかってやったら、なんだかバクテリアが増殖するくらいの勢いで積極的になりだしたのだった。
 その過程で何度も鬼幼女に殴られ蹴られ関節を極められ……とにかく酷い目にしか合ってない気がする。あいつら疫病神だなホント。
 


「むぐむぐっ。でも高町はなぁ……あげてもあまり喜ばなさそう」



 大体そこまで仲がいいわけじゃないしな。餌をあげて手なずけるという作戦も悪くはないが、正直そこまで深刻化しているわけでもないのでスルーしても大丈夫じゃね?
 まだ直接的な被害は頬だけだし。ぐにぐに引っ張られても痛いというよりむず痒いだから、別段気にしてはいない。だって小学生がやることだしな。
 ……となれば、だ。



「あのヤンキーお嬢様しかあるめぇ」



 記憶輩引っ張り出されてきたのは、両手を腰に当てて目を釣り上げ、がるるるっ!と吠えたてる金髪猛獣の姿。あな恐ろしや。



「……うーん、でもあいつら、確か塾とか言ってたからなぁ」



 今から家に行ったとしても、恐らく本人はいないだろうし。悩むところですますよ。
 いっそ塾に乗り込むかなぁ……もしくは終わる時間まで待つ、ってのもアリか。
 ……いやおいばかやめろ。そんなことしたらまるで、俺があのロリベアーに気があるみたいな態度じゃないか。つーか下手をしたらすずかちゃんに誤解されるっ!?



「――――のぅ! それだけは断じてのぅっ!」



 がっくんがっくん頭を振ってシャウトしてしまう。そんな俺を奇異の目で見つめる公衆のみなさんであるが、それよりも脳内で繰り広げられるすずかちゃんの邪気のない毒針攻撃の方が心に痛かった。
 やめて、そんな素晴らしい満面の笑みで「がんばってね本田君。私、応援してるよ!」なんて言うのやめてっ!
 違うのっ! ミーはあんな暴力幼女なんかに興味関心なんてないのっ!
 誤解だ、誤解なんだ!「本田君、アリサちゃんとは特に仲が良かったからね」ちが―うっ!
 もうやめてすずかちゃん! ミーのライフもうゼロよっ!



「……見つかるのだけは絶対にだめだ。もしかしたら、このミッションは前代未聞の超高難易度のモノになるやもしれん」


 
 敗北条件はただ一つ。 
 俺がアリサにこのブツを渡す瞬間を見られてはならない、ただそれだけだ。
 であればどうする?
 ヤツの家に直に手渡しするという手段は使えない。かといって、塾が終わるのを待ち伏せするのはリスクが高すぎる。

 ……まいったなぁ~。

 もはや俺の頭の中では、この〝拾いモノ〟をゴールドデビルに押しつけることで一杯だった。それを曲げるのは、つまり俺の負けということに他ならないとさえ思っている。なんだこの強迫観念は。
 でもなぁ、かといってコレを俺が持ってるってのもなぁ~?



「こんなの持ってても、なんの足しにもならないし」



 親指と人差し指でつまみ上げ、陽光に翳したそれは相変わらずの綺麗さで輝いていた。
 こうやって見ると、結構値打ちのありそうな宝石にも見える。もしかしたら持ち主が探し回ってるかも――――と考えて、だったらあんなところに投げ捨てたりしないだろうことに気付く。
 投げ捨てた理由に関しては考えないようにしておく。変にドロドロした大人の痴情の縺れだったりするかもしれんしな。触らぬ神にたたりなし、だ。
 ちなみに警察に届け出る気は毛頭ない。あんな子供の敵なんぞに塩を送るなど狂気の沙汰ぢゃ。
 ちょーっとゲーセンで遊んでるだけで絡んできやがって……おちおちゲームもしてらんないじゃんかよ。あと夜遅くにプラモ買って帰った時も。なぁにが「ボク、こんな時間にどうしたの?」だ! こちとら中身二十うん歳のバーロー様だぞ!
 ……あー、メンドクセェからもうゲーセンで遊んでから帰ろうかなぁ。主に気晴らし的な意味で。渡すのは別に今すぐじゃなくてもいいんだし。
 


「あ、本田じゃない」
「ほ?」



 欠伸を交えて、ほとんど本気でゲーセンに向かおうかと心が固まりかけていた時、ふと後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 眦に浮かんだ欠伸涙をぬぐいながら振り返り―――――見てはいけないモノを見てしまったショックで俺は空を仰いだ。あー、なんだっけ。なにしよーとしてたんだっけ。



「そーだゲーセンいこ」
「待ちなさいよコラ。ていうか逃げんな」



 がしっ、と肩を掴まれて強制的に振り向かされる。
 逃げる暇もない電光石火。くそ、俺の行動パターンを熟知していやがるっ!

 

「この私を無視しようなんて偉くなったじゃない。またコブラツイスト極めてあげましょうか?」
「ノ―センキューでございやがります暴力お嬢様」
「ったく……それより、一人で何してんのよ、こんなところで」



 パシン、と平手に拳をあてて不敵に笑うソイツ――――アリサ・バニングスに、俺は不機嫌を隠しもせずに断りを告げた。
 そんな俺の態度も織り込み済み、というかいつものことなのでなんとも思わなかったらしい。金髪お嬢様は一つ溜息をつくと、腰に手を当ててわかりきったことをきいてくる。



「決まってるだろ、遊んでるんだ」
「どこがよ。どこからどう見ても暇人じゃないの」



 一刀両断された。なんてやつだ。子供の言葉を信じないなんて、こいつは大人の毒に侵されている。



「……可哀そうに」
「何さも〝僕わかってます〟的な憐みの笑み浮かべてんのよアンタはっ!」
「〝的な〟ではない。憐れんでるんだ」
「余計なお世話よ! っ~~あぁもう! アンタってやつは、こっちが友好的に話しかけてもいっつもそれなんだから!」
「そりゃ今さらだろ。で、どしたんだよお前。今日は塾じゃなかったのか? ていうか月村さんどうした」



 きょろきょろとあたりを見回してみても、あの特徴的な黒髪微ウェーブのロング美少女が見当たらない。それだけで俺の生きる気力が1割を切ってしまった。あぁ死にたい。いやむしろ死ね。すずかちゃんが傍にいない金髪なんて、生きる価値ゼロじゃないか。



「……わっかりやすい態度よねぇ、アンタも」
「あ? なんか言った?」
「別に。すずかなら先に行ってるわ。私は切らしてたノート買いに来たの。結構時間ぎりぎりだから急いでるんだけど、文房具屋がみつからなくて……」
「ノート? んなもんコンビニで買えばいーじゃんか」
「お気に入りのやつがあるのっ! いつも行ってたところが売り切れてて、今こうして探してるんじゃない!」
「あー……なるほどね」



 お気に入りがどーとか正直どうでもいいが、まぁこだわりを持つってのは大事だよな。
 人間誇りや矜持を捨てたらただの生ゴミだ。いまどきの悪人はそんなこともわからないやつらばっかりで反吐が出る。
 まったく、西博士を見習えってんだよ。あのおっさん、自分の美学は最後まで貫いてるぞ?
 他にも自分の志や信念が一貫している人間っていうのは、やってることが悪だろうが善だろうが、人間として正しいと思うんだ、俺ぁ。
 そんなわけで、ちょっとだけ――――そう、ちょっとだけこの幼女お嬢様の手伝いをしてやろーかな―という気になった。



「んじゃ行くか」
「……は?」
「ほら、っさとこいよ。買いに行くんだろ、ノート」
「え、あ、いや待ってよ! アンタ売ってるとこ知ってるの?」
「たぶん」
「たぶん、って……」
「まーまー。あそこ、品ぞろえは豊富だったし。よっぽどドマイナーなモンじゃなけりゃ手に入るだろ。のんびりいこーぜ」
「なら、制限時間三十分よ。それまでに見つかんなかったら、アンタ明日覚えてなさい」
「なにチンタラ歩いてんだよ! オラ走るぞ!!」
「うゎ、ちょっ、急にひっぱるなぁ~!!」



 知るかっ!
 我儘幼女と俺の命どっちがだいじ?! とーぜんぼくのいのちっ!
 ってなわけで問答無用で市中引き回しじゃごらぁああああああ!
 
 
 








 結局、あの後ノートはすぐ見つかって、なんだか全力疾走したのが無駄に感じられてしまった。俺のカロリーを返せ。
 こだわってるらしいからどんなのかと思えば、なんてことはない。表紙と裏に犬のプリントがあしらってある極ふつーのノートだった。俺猫派なんで、って言ったら無言ではたかれた。さらに言えば、ノートが見つかった時もはたかれた。何故だ。



「あーもう、無駄に走ったせいで汗かいちゃったじゃない……」
「おれわるくねーし。急かしたのはおまえだろーが」
「うっさいわねー……だからって全力疾走してまで探せとは言ってないわよ」
「へーへー、どーせ俺がわるいんですよー」
「~~っ、ふんっ!」
「あでっ!」



 いつか俺、こいつに殴り殺されるか蹴り殺されるんじゃなかろーか。
 今度は拳骨で思いっきり後頭部をド突かれて、目の前に星花が散った。
 非難がましく睨みつけるも、あっかんべーをもって敢え無く撃退。ぎゃふん。
 


「誠意の感じられない謝罪は侮辱と同じよ。その辺わかってやってるでしょ、アンタ」
「ぶーぶー、ぼく豚だからわかんなーい」
「~~~しねっ!」
「ふっ、いつまでもやられっぱなしの本田さんじゃないのだよ」
「あ、こら避けるな!」
「これぞ本田流回避術〝シンクロメーター〟!」
「単に手が届かない距離まで逃げてるだけでしょーがっ!」



 そんな風にぎゃーぎゃー騒ぎながら、なんでもこのサワムラー・バニングスの迎えの車があるというので、そこへと向かっている。
 駅前のバスのロータリーにつくと、ひときわ目に付く黒塗りのリムジンがあった。なんていうか、アレだ。映画からそのままトリモチで引っ張り出してきたような、いかにもな車。
 それを目の前にして、俺は改めてこの隣のグレムリンガールが正真正銘のお嬢様なんだと再認識するのだった。



「不思議とお前がこの車以外に乗る姿が想像できないんだよな」
「それ、褒めてるの? けなしてるの?」
「気持ち後者で。事実前者で。フィフティーフィフティーはコーヒー牛乳の黄金律だ」
「……あーもうそうですか。アンタと話してると頭痛くなるわ」
「大丈夫。俺も後頭部とケツが痛くなる」
「嫌味!? 嫌味よねソレ絶対に!?」
「あっはっは~そんなはずありすぎて困るよな!」
「笑ってんじゃねーわよっ!」
「ごふっ!?」



 レバーががら空きでした。
 


「い、いきなりフックはずるいと思うんだ、俺」
「だったら言葉に気をつけなさい。まったく……あ~、それと、付き合ってくれてありがとうね。助かったわ」
「どうチャーハンしまして。今度高町ん家のシュークリーム六個で手を打とう」



 考えとくわ、と後ろ向きに手を振って車へと向かう後姿に、俺はやれやれようやく解放されたよ、という安堵感と共に、何か大切なことを忘れているような気がした。
 はてなんだったっけ……?
 なんかこう、すごい色々悩んでたんだけど、この馬鹿が突然現れたばっかりに有耶無耶になった――――頭を捻りながらポケットに手を入れると、指先に触れる堅い何かに気付く。

 ――――あ。

 そうだった。



「ちょいと待ちなそこのホワイティ・ゴールドベア」
「誰よそれ!?」
「ほれ、ついでに土産だ。これで明日からの俺への暴力係数をゼロにしてくれると俺はすごくとても嬉しい。そして月村さんと今度遊びに行こう」
「……下心がここまで全開だと、いっそすがすがしいわね」



 振り向いたそいつに、ごそごそとポケットから取り出したソレを渡してやった。
 薄ぼんやりと輝いているような気がしなくもないソレ――――さっき植え込みで拾ったあの綺麗な宝石だ。
 もともとコレを渡す手段を考えていたところへ、突然こいつが来たから今の今まですっかり忘れてたぜ。危ない危ない。
 幸い、目標があっちからやってきてくれたので大幅に手間が省けた。それでもゲーセンには行くけどね。



「どうしたのよ、コレ」
「拾った。なんかキレーだけど、拾いモノだしな。捨てられてたっぽいから、本物のお嬢様の元に還元してやろうと」
「泥棒じゃないのっ! 交番に届けなさいよ!」
「え~……? だって植え込みンところに捨てられてたんだぜ? 届けたって無駄だろ」
「でも、もし間違えて落としたんだったら……」
「ないない。泥まみれで投げつけられたように土んところに埋まってたから、きっと憎さ百倍の怨念込めて投げつけたんだろ」
「……アンタ、暗に私のこと呪ってるでしょ」



 あー、なんていうか、今更な話だけどこいつってすごく真面目なんだったっけ。俺と話す時はいつもふざけてばっかりだからそんな気全然しなかったんだけど。
 始業式の翌日、つまりはクラスでの委員や係決めの時、こいつが学級委員長をやろうとしたけど、俺(及び支持者)の断固とした反対に遭って却下されてたのを思い出した。
 そんな真面目ちゃんのことである。少し考えれば、こんな宝石を拾ってガメようとしたら、面倒なことをぐちぐちと言い始めるのは目に見えていたはずだ。残念ながら今回ばかりはそこに気がつかなかったわけだが。


 
「あーもーうっせーな。いいからもらっとけ。そして俺への暴力係数を減らして月村さんを誘って今度遊びに行こう」
「……はぁ。もういいわ。アンタに言ったところで無駄だもんね」
「そうそう。いつもそのぐらい妥協して理解してくれると嬉しいな。主に俺の打撲軽減的な意味で」
「うっさい。アンタはちょっとド突かれるぐらいがちょうどいいのよ」
「おかげであの大人しい高町が最近俺に暴力をふるうようになったぞ。どうしてくれるこのジャリヤンキー」
「自業自得ね。ま、仕方ないからもらってあげるわ。たまには悪いこともしないとね」
「悪女だな、おまえ」
「アンタに言われたくないわよ」



 そういって、お互いにくっくっくと怪しく笑う。
 なんていうか、端から見たら絶対に変な小学生に見えただろう。たかだか九歳の子供達がこんな黒い笑いをしているのをみたら、俺なら間違いなくドン引きする。
 ともあれこれで目的は果たせた。
 危うく無理にリスキーな行動をとって最悪の結果――――つまりすずかちゃんに誤解されるなどという事は避けられたわけだ。ふぅ、よかったよかった。



「ところで、時間は良いのか?」
「そろそろまずいわね――――それじゃ、もらったついでに、気まぐれで良いこと教えてあげる」
「は?」
「週末は市立図書館に行ってみると良いわよ。素敵な出会いが貴方を待ってるかもね?」
「なんだそりゃ。占い師気取りか?」
「信じるか信じないかはアンタ次第よ。じゃ、私はもう行くわ――――鮫島、出して!」



 その一言をきっかけに、黒塗りのリムジンは壮大なスキール音を響かせて走り去っていった。
 最後に残された言葉が、無駄に頭の中で反響している。
 週末の市立図書館……ねぇ?
 まぁ、本を読むのは嫌いじゃないし、場所がわからないわけでもないから別に行ってもかまわないんだが。
 しかし、なんなんだ、素敵な出会いって?
 


「……考えるだけ無駄か」



 どうせあのジャリヤンキーの戯言だろ。
 そう決めつけて、俺はロータリーから踵を返して歩き出した。
 見れば、町の向こうに広がる水平線に、太陽が半分以上も沈んでいた。
 西側が茜色で鮮烈に染め上げられる中、それに追いすがるように東から宵闇の波が押し寄せている。
 そして、その波の中に見えるのは宙で輝く夢幻の星々。まるで海に浮かぶ灯台のように、それらは際限なく光を放ち、眩しい夜空を彩る。
 
 ここ海鳴は、とても静かな街だ。
 
 個人的にとても気に入ってるし、生まれ変わった場所がここで良かった、と今は心底思っている。
 なにより、学校が楽しい。
 前世の小学校もそれなりに楽しかったと思うが、今回はそれ以上に格別だ。
 どいつもこいつも個性的で、毎日接していて飽きがこない。まぁなによりも勉強しなくても高得点とれる、っていうのが“俺TUEEEEE!!”できて楽しいんだけどな。厨二病は高校生まで。ならば、それまで全力で楽しむのが子供の義務というものだろう。
 


「あーあ、結局流れ星は見つからなかったか」



 その過程で得た宝も、あっさりと消えた。
 明日からの俺の身の安全が保証されるわけでもないのに、これじゃまるでUFOキャッチャーに数千円つぎ込んで何もとれなかったのと同じだ。なぜだか色濃い敗北感だけが残ってしまっている。
 プラモも、今は小物の製作だから急ぐ必要もないし、それ以上に、色が塗りたいから今度ザッキーの家に行かないと、実質的に作業が進まない。なんで母さんエアブラシ持ってないんだよ……全部筆塗りとかキチガイだろ。ていうか俺が勝ってきたあの〝夜光の蜃気楼〟を勝手に作った挙句、それが全て筆塗とか未だに信じられん。盾のクローバーとか花模様とか自分で彫ってプラで補填してって、どんな職人だっての。
 とまれ、敗北感が残ったにしても、後悔はしていないのだから、結果としては上々なのかもしれない。
 もしかしたら、明日から本当に暴力幼女の乱暴係数が下がってるかもしれないしな。



「さーてと、ゲーセンで気晴らししてから帰りますか。今日の夕飯何かなぁ~……あ、ハンバーグ食いてぇ」



 てくてくと、残り制限時間1時間ちょい(小学生は、ゲーセンには基本夜六時までしか入れない)なのを確認し、ゲーセンへと向かいながらそんなことを呟く。
 けど、俺はこのとき予想すらできなかった。
 ほとんど宝くじを買ってそれがあたらないかなぁ、くらいの気持ちで考えていたことが、まさか本当に起きるなんて。











 翌日、夜遅くまでプラモの小物作りに邁進していた俺は、眠気でしぱしぱする目をこすりながら、教室のドアをくぐった。



「あら、おはようございます、時彦君」
「あーはよー………………え?」


 なにか今、変な現象が起きたような。
 おかしいな、眠すぎて頭がぼけたか。それとも幻覚か。
 いやいやまて落ち着け。確かに昨晩は気合い注入と称して様々な栄養ドリンクをチャンポンして飲んだが、せいぜい胃が気持ち悪くなって吐き出しただけで、他に副作用はなかったはずだ。腹の調子が良いのは果たして俺がおかしいのかそれともドリンクの効果なのかは考えないことにする。
 でないとすれば、いったい何だ。これは何だ。何なんですか天にましますクソッタレな父上様!?



「あら、どうかされました、時彦君。そんな御口をパクパクされるのは、少々はしたないですわよ?」
「な……っ! なな、なん……っ!」
「“な”?」



 目の前には、どうかされましたか?とか呟きながら小首をかしげる可憐な――――いや、すずかちゃんほどではないにしろ、完全無欠で鮮美透涼然とした、私立聖祥大学付属小学校の白いワンピース型の制服を纏ったお嬢様が立っている。
 すずかちゃんとは違い、小川のごとく流れるさらさらしたストレートの金髪を腰まで伸ばし、今日はかわいらしくも、その内の一部である二束を結い上げ、ツーテールロングの体裁をとっていた。
 そして、いつもはキリッとつり上がっている眦は、今日に限ってすずかちゃんのように柔和に垂れ下がり、まるでその雰囲気に擬音をつけるとすれば“ほわほわ”というのが一番似合いそうなほど牧歌的な雰囲気を醸し出している。
 そこまで確認して、俺は深く――――ふかぁ~~く深呼吸した。
 自分の気持ちを落ち着けるためであり、そしてなおかつ混乱する頭をなんとかなだめすかし、今にも柵を体当たりでぶち破って突っ走りそうな猛牛のような理性を押さえつける。
 そして、激しく高鳴る鼓動(無論すずかちゃんへのソレと同じモノではない。断じてない!)を押さえるように胸に手を置き、ゆっくりと口の中にたまっていたつばを飲み込んだ。
 よし、準備は万端。いくぞ、この元ロリヤンキー。その演技は万全か?



「だ――――」
「?」
「――――誰だおまえーーーーっ!!!」



 相変わらず小首をかしげるソイツ――――アリサ・バニングスとおぼしきソイツに右手の人差し指を突きつけながら、俺は絶叫した。
 奇しくもそれはクラスにいたみんなの代弁でもあったと、この瞬間俺は確信していた。
 誰が信じよう。誰が認められよう。
 傍若無人が猫の皮を被り、鉄拳制裁が座右の銘、逆らうモノは容赦なく踏みつぶし、立ちはだかるモノにはその肉体言語を駆使して話をつける。
 我らがクラスを裏で統べる真の番長。裏学級委員が最強の女王!
 それが俺の知る――――いや、このクラス全員が知る“アリサ・バニングス”だ!
 であるからして、目の前のコレは否! 断じて否!!
 こんな――――こんな清楚なお嬢様口調で、出会いがしらにラリアットもかましてこないヤツを、俺は――――――っ!



「誰って、ふふ。おかしなことをおっしゃいますのね。同級生のアリサ・バニングスですよ、本田時彦君♪」



 アリサ・バニングスだとは、絶対に認めねぇえええええええええええええ!!!!!





















――――――
言い訳
――――――

アリサ、豹変。
主人公、錯乱。
そして世はなべてこともなし。


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