土曜日は、まさに悔恨と生き恥のバーゲンセールだった。
まず、土曜の昼にすずかちゃんからお誘いのメールが来たものの、諸事情により涙をのんで断りのメールを入れた。
その後、俺は〝諸事情〟である母上の拉致により、海鳴から二駅離れたところにあるデパートへと連れて行かれ、生まれて初めて男の尊厳を蹂躙され、かなりマジで泣きそうになったですのことよ。
…………なんでかって?
そりゃおめ、なんでか知らんけど、見た目俺様今女の子ですよ? 間違いなくジュエルシード関連の所為だと思うんですが、原因に心当たりがありません。誰かへるぷみー!
そんなわけで、母上が俺を連れてきたのは、いつもは視界の端に留めるだけの女物の服が山のようにあるお店。
そこで、俺はまるで往年の少女漫画の如く目を輝かせた母上によって、シャツにジーンズとユニセックスな格好から、ヘッドドレスにフリッフリのワンピースに縞ハイニーソとブーツというゴテゴテのゴスロリまで、多種多彩な試着ファッションショーをさせられましたよ。その内何着か本気で買ってしまうあたり、俺は自分の母親が理解できない。
……そーいや、生まれて初めてスカートを履いたが、アレだな。女性方はよくあんなものをお履きになられますのですね。あちょんぶりけ。
同時に、前世で流行っていた〝男の娘〟が味わう「女の子扱いされることへの嫌悪感」というのがちょっぴり理解できた気がする。こりゃマジできついって、いやほんとに。お見事俺様のトラウマベスト3に殿堂入りだぜ!
そんな感じに精神的な意味でのライフポイントを根こそぎ奪われつつ、着せ替え人形タイムという名の拷問時間は帰宅する夕方になるまで続いた。
そして、帰宅後はもちろん楽しい楽しいお風呂タイム。きゃっきゃうふふの親娘水入らずで二人っきりだぜ!…………ってんなわけあるくわぁああああ!!?
ふざけんなよ!? なんでそんなに順応してるんンだよ母上様えぇ畜生!?
性別変わったんだぞ! マイサンもとい男のイコンであるマイ・エレファントがなくなっちまったんだぞ!? なんとも思わねぇんでやがりますか!?
「いいじゃない性別ぐらい。というより、むしろ私もパパも娘が欲しかったからちょうどよかったわー。ほら、次この服」
「…………ハイ」
差し出されたピンクのワンピースを受け取りながら、冷め冷めと涙を流す俺であった。
我が母上のことながら、その心胆には御見それするばかりでございます。
つーか、もうこの母上は俺が〝微妙に未来の前世の記憶持ち〟だと知っても「だからなに?」で済ませるに違いない。それどころか「じゃぁ今後の流行を言ってみなさい。上手く乗れれば、次のフェスで儲けられるでしょ」とか言いかねん。なまじ有名造型師なだけに、ただの大言壮語と切り捨てられないあたり質が悪すぎる。
ともあれ、土曜日は概ねそんな感じで過ぎて行った。いつか絶対に母上が隠した俺の女装(性別は実際女だけど)写真を見つけて焼却処分することを堅く心に誓って、その日は屈辱を飲みながら布団に入った。
そして翌日。
さすがにこのまま明日から学校に通うのは不味いので、髪を切る許可とその費用をもらった俺は、朝飯を食ってちょっとだらだらした後、意気揚々と家を出た。
これで無事に髪を切ることができれば、昨日のように女装させられることはあるまい。数着買ってしまった女物の服が無用の長物になってしまうのは、実にもったいない気がしないでもないが、俺自身はもう二度と着る気がないのでどうでもいい。どうせ母上のお金だし。
ついでに昨日の迷惑料とばかりに、ちょっと多めにもらった費用という名のお小遣いのおかげで、のときばかりはちょっぴり気分が良かった俺様ちゃん。せっかくすずかちゃんから遊びの電話があったのに、それを断るハメになったんだからこの程度はむしろ当然の償いでしょー。へっへっへー。
――――とか調子に乗ったのが間違いだったのかもしれない。現実は無情であった。
心にゆとりもできたし、髪を切った後すずかちゃんと遊ぼうと思って電話したら、なにやらものすごくあわてた様子で「ご、ごめんね! 今日はちょっと用事があって遊べないの」と断られてしまい、無残にも爆死してしまいもうした。
そのため、家を出た時とは真逆のテンションに陥りつつ、とぼとぼと海鳴の商店街にある、いつも世話になってる床屋を探していた次第でございます。
「あー、青い空がにくたらしー」
いつぞやも呟いたかもしれない、そんなくだらないことを呟きながら「はぁ……」とおもいっきり溜息をつく。この状況って、泣きっ面にハチだよね? つーか俺なんかしたっけ?
こんな時に限ってアリサも電話つながんないし、高町は高町で今頃翠屋の手伝いだろ?
たかやんにまーぼもどっか行ってて遊べないみたいだし……くっそー、せっかくの日曜日なのになんだこれ。暇は子供にとって一番の毒なんだぞー!?
……なんて、一人で憤っていても虚しい限りである。
「なんか面白いネタないかなー」
タバコが吸えたらスパーっと吸ってる気分である。
そんな、ちょっぴりやさぐれ気味な感じで歩いていたら、前方に何やら見慣れた後姿を見つけた。
見慣れた金髪をツインテールにして、とぼとぼと、まるで俺とシンクロするかの様に意気消沈と歩いている黒服の女の子。
もしやあの乱暴娘かと身構えるが、しかしあいつはあそこまではっきりとしたツインテールにしてないことを思い出す。ていうか、あの髪型は考えるまでもなくアイツじゃんか。
これは何と言う天恵。逃がすわけにはいかない。
悩むこともなく、俺は極々普通にその背中に向かって声をかけていた。
「おーい、フェイトー!」
「……え?」
くるり。
きょとん?
……ぎょっ!?
だっ!
…………簡潔にいえば、そんな反応が返ってきた。
こちらの振り返ったかと思えば、目を丸くして驚き、次の瞬間脱兎のごとく逃げ出しやがったぞアイツ。
そして気付けばそれを追いかけて走り出す俺様ひこちんいぇい。
「てめぇえええ!? 人様の顔見て逃げやがるとはいい度胸だちくしょぉおおおお!!」
「わ、わわ! なんで追いかけてくるのっ!?」
「鬼ごっこでこの俺様に勝てると思うか!? じょーとーだ! この海鳴のナスティボーイひこちんさまからは逃げられないってことぅぉを、ぉおおお教えてやるぜぇえええええ!」
こちらを振り返るフェイトが若干涙目だった気がするけど全力でスルー。それよか挑まれた喧嘩を買うほうが大事である。
そして始まる、第三回踊る海鳴大鬼ごっこ。
かつての挑戦者二人を捕獲し、見事二連覇したこの俺様に挑戦したその度胸――――ふふん、褒めてやろうじゃねぇの。
だが、貴様は二つの間違いを犯した。
一つ。俺が声をかけたのに、失礼にも挨拶も無しに逃げ出した。挨拶されたらしっかり挨拶を返しましょう。これ、紳士淑女のマナーです。
そしてもう一つは、今の俺様――――即ち、女みたいに髪が伸びてしまった姿を目撃してしまったことだ。
「てめぇを捕まえて口を封じるまで、俺は、てめぇを、追いかけるのを、やめねぇええええ!!」
「ひぃっ………!?」
その日、桜色に顔面を染めながら、海鳴の街中を全力で追いかけっこする二人の少女がいましたとさ。
……どう見ても八つ当たりです。ほんとーにありがとうございました。
俺はすずかちゃんが好きだ!
「ぜぇ……ぜぇ………」
「はぁ……はぁ………」
結局、海鳴臨海公園まで全力で鬼ごっこを続けた俺とフェイトであった。
芝生の上で大の字に寝転がりながら、お互いにぜーぜーとタダより安いものはないとばかりに、酸素を貪って死んでいる。
春のうららかな陽射しと、疲れきった上にだらだらと額を流れる汗、そして汗で額に張り付いた髪が、穏やかな海風に煽られてひらひらと踊る。
「くくっ……あはははは!」
「な、なに、どうしたの?」
一息ついた頃、よっこらしょっと身を起して、俺は唐突に腹を抱えて笑いだした。
突然笑い出した俺にびっくりしたのか、となりでねっ転がったままのフェイトは、若干引き気味なりながら俺を見上げている。
まぁ仕方ないですよねー。いきなり起きたと思ったら大爆笑ですもん。俺でも引くわ。
「いやいや、久々にバカみたいに走ったなーって」
「……?」
「わっかんねーかなー? わっかんねーだろうなー」
再びフェイトの隣に寝っ転がって、俺はバカみたいに晴れてる空を見上げた。
こんな風に何も考えないで走ったのは久しぶりな気がする。
ここ一週間は、なんだかずっと小難しいことを考えっぱなしで、あまりにも小学生らしからぬ濃ゆーい毎日だったからなぁ。
たまにこうしてのびのびするのは、むしろ小学生の義務だと思う。多分、そのあたりのことがフェイトは理解できないんだろう。
それから俺達は無言のまま空を見上げ続け、体が冷えて寒くなってきたな、って頃になってようやく芝生から身を起こした。
服に付いた汚れをパンパン払って、なんとはなしにぶらぶらとそこら辺を散歩する。
その間、何故かお互いにずっと無言だったが、それはフェイトが妙によそよそしい態度を取るのが原因だった。
そして、その理由に見当がつかないために、俺も下手に話題を触れない。
……いや、こんなところまで追っかけてきておいて今さら何だ、って話なんだけれども。
けどさ?
「あのー、フェイトさーん?」
「っ……な、なに?」
これですよ。
話しかける度に、びくっ!とおもいっきり肩を震わせて、恐る恐る俺を見る。
いや、それだけならまだしも、あろうことかこの金髪ょぅι゛ょ、今にも泣きださんばかりの涙目具合でして。まるで叱りつけられた子供というか虐待されまくって対人恐怖症に陥った子犬と言うか……話しかけるのが憚られるほどに怖がられています。
これでどーやってフレンドリーに話しかけろっつーんですかえぇおい!?
つーかこれやばいだろ! 傍から見たら俺が虐待者みたいじゃん!?
「……むしろそれは俺の台詞だと思うのですが、いかがお考えでしょーか」
「え、あぅ、えと……」
「あぁいやいやいや、別に責めてないよ!? 責めてないから……って、あ、ちょ、こら泣くな!」
「ご、ごめん……怒ってるよね………私、こないだっ……えぐっ……ひどいこと………」
「お、おお怒ってなんてないぞ? 全然俺は怒ってないっていうか突然泣かれてパニックになりそうでむしろ泣きそうなのは俺と言うかいやすんませんマジ御免なさい俺が悪かったんで泣かないで―!?」
……泣かしてしまいました。
えぐえぐぐしゅぐしゅ。いつぞやの高町みたいに派手な泣き具合で、フェイトはその場に座り込んでしまった。
無論、ヒコちん様は大慌てですよ。
座り込んでしまった金髪美少女の周りをどたばたおろおろする、短パン長袖のボーイスタイルの女の子(見た目だけ)の図。さて周囲から見たらどんなふうにみえるでしょーか!
「あら……喧嘩かしら」
「こんな昼間からなんて、大変ねぇ」
「しかし可愛い子達だこと。特に金髪の子。お人形さんみたいに綺麗だわ」
「隣で慰めてる子も、男の子みたいな恰好してるけど可愛いわねぇ」
「うふふ、仲良しな友達同士で、好きな子の取り合いでもあったのかしら♪」
なにやら変な誤解をされてるー!? ていうか最後の奥様なにその怖い想像!?
いかん、ここは早々に逃げないとどんどん人目がぁああああ!!
「と、とりあえずこっちこいフェイト! 場所を変えるぞ!!」
よっこいしょ、と無理やり泣きじゃくったままのフェイトをおんぶすると、日曜の昼間と言う事もあって、ぞろぞろと集まりつつある人目を避けるべく、一目散にその場を後にしたのだった。
☆
先の臨海公園からやや離れて、今度は屋台が立ち並ぶ展望ホールの建物の中にやってきた。
自動販売機からココアを二つ買ってきた俺は、先程みたいに泣きじゃくってはいないものの、時折鼻をすすりあげるフェイトにそれを差し出した。
「ほい」
「……え?」
「あったかいヤツだけど、まぁ泣いた後は冷たいのよりあったかい方がいいべ」
「あ、ありが、と……」
「ゆあうぇるかーむ。熱いから気をつけろよ」
フェイトの隣に腰をおろし、ずずずと恐る恐るココアを啜る俺とフェイト。
そのまま無言の時間が過ぎる。
目の前を横切るのは、小さな子供連れの家族か、腕を組み楽しそうに歩くカップル、あるいは互いに罵声を飛ばしケリ飛ばしあい、しかしながら〝喧嘩をするほど仲が良い〟を地で行くようなバカップルだったり、種々様々だった。
それをぼんやりと眺めながら、さてどうしましょーかねーと悩む俺。正直、ノリと勢いだけでここまでやってきてしまったので、今後どうしようかなんて何も考えちゃいない。
「…………」
「…………」
気まずい。
ひっでょーにきまどぅい。
なにがって、この空気が。
何か話しかけなきゃいけないのに、しかし話しかけたら一気に修羅場へフォーリンダウンしそうな、まさに鉄骨渡りで強風にあおられているような心もとなさ。くそぅ、なんだこの罰ゲーム。
そもそも、こないだの夜の街でのこともあってか、物凄く気まずいんだよなぁ。
結局、フェイトから横取りする形でジュエルシード持ってっちゃったし、交換条件で最初に封印した奴一個あげるっていうのも反故にしちゃったから――――うぅ、なんかじくじくとこう、胸を突き刺す罪悪感が。
「あ、あのさ、フェイト」
「……」
「こないだの夜の街のことなんだけど、気にしなくていいぜ?」
「……っ」
びくっと、肩を震わせるフェイト。暫く無言だったが、覚悟を決めたように俺を窺うようにして見ると「…………大丈夫、だったの?」と消え入りそうな声で聞いてきた。
「へ?」
「その、助けたい、って言ってたから……」
もじもじと、なんだか恥ずかしそうながらも聞き返してくるフェイトさん。
確か、俺からは事情の説明をしてなかった気がするんだが、なんで知ってるんだろう?
直接こいつにそんなことを言うのは卑怯な気がしたから何も言わなかったんだけど、高町とやりあった時にでも聞いたのかな。
むー。だったら初めから事情を説明して譲ってもらうべきだったか。失敗失敗。
「もちろん大丈夫だよ。もう文句なしに一件落着してっから安心しろ」
「そっか……」
「いやー大変だったぜー。結構ガチで命がけだったから、目覚めた時に成功したってわかった瞬間、安心感で一杯だったなぁ」
「命がけって……何したの?」
「あぁ、俺の友達がね? ジュエルシードのせいで体入れ替わっちゃってさ――――」
そのまま、こないだの騒動の顛末を1から教えてあげた。
もちろん、街中でフェイトと出会って、その別れ際をすずかちゃんに見られてから、無事ジュエルシードを使って入れ替わった体を元に戻すところまで。
暫く、得意げな俺の話をフェイトは黙って聞いていたが、しかし最後の最後、俺がジュエルシードを使ってすずかちゃんの体を元に戻したところまで話したら、首根っこを掴まれていきなり引き寄せられた。
「な、生身で発動したって……ジュエルシードを!?」
「うげっ!? ちょ、ふぇいとざんぐびがじまっでまず……」
「いくらあの女の子のサポートがあったからって、なんのデバイスの補助も無しに発動するなんて……っ!」
驚いて呆然としてるのか、それとも俺の無謀な行動に呆れてるのか。
どちらにせよ、そろそろ視界が白くなり始めた頃になって、俺はようやくフェイトに離してもらえた。
慌てて酸素を貪り、言い訳もとい弁明するためにフェイトと向き直る。
「えほっ……い、いやいや、だって隣にゃ高町もユーノもいたし、ようはまっすぐ願い事をすりゃいいんだろ? もともとあの時はそのことしか頭になかったし、結果的に上手くいったんだからおっけーおっけー。本田さん、あんま細かいこと気にするのは苦手なのですよ」
「自分の命がかかってるのに、信じられない」
「おう、高町とユーノにも呆れられたゼ」
「……褒めてないよ?」
「知ってるYO!」
「……はぁ」
おもいっきり溜息つかれた!?
これは昨日の着せ替えショー並みの精神的ダメージである。
くそー、やっぱり後先考えなさ過ぎだったかなぁ……おかげで〝こんなメ〟にも遭ってるし、そりゃフェイトが呆れるのも無理ないか。
だけど、あの時はそれ以外に手段がなかったし、色々と切羽詰まってたから仕方ないと言えば仕方ない。
それに、俺は高町とユーノを信頼してたしな。俺になんかあっても、あの二人ならなんとかしてくれるって信じてたから、危険だってわかっててもやれたんだ。決して蛮勇なんかじゃない。そんなこと言ったら、高町とユーノに失礼じゃんか。
……まぁ、結局こんな後遺症が残ってしまってる時点で、マリアナ海溝クラスで反省しなきゃならないんですが。
「でも……」
「ん?」
さすがに無鉄砲すぎた今回の俺の行動に落ち込んでいると、フェイトが突然、俺の手を掴むとひっぱった。
座っていたベンチから引っ張り起こされ、その原因であるフェイトを見ると、なにやら妙に晴れやかな笑顔を浮かべている。
「トキヒコらしくって、安心した」
「……おいこら。どういう意味ですかソレは」
さっきまで、それこそ一週間かけて作り上げた1/350スケール安土城を目の前で叩き壊されたかのように意気消沈してたのがウソみたいに、フェイトは元気を取り戻したようだった。
今までの俺の他愛のない話のおかげなのか、それともフェイト自身の心の強さなのか。あるいはその両方なのかもしれない。
ともあれ、こいつの泣き顔を見なくてよくなったのは大いに歓迎すべきことだ。マイラバーとは別人とはいえ、その瓜二つな顔で泣かれるなんて洒落にならんってーの。
まぁ、こいつのことだ。大方、こないだの夜、俺達の邪魔をしたことを気に病んでたんだろうけど、いらん心配なんだよな、それって。
俺達に俺達の事情があったよーに、こいつにだって事情があるんだ。そのせいでぶつかるのは仕方のないことだし、汚い大人はそうやって他人を蹴落として上へと登る。それを考えれば、あの時のフェイトの行動は何一つ間違ってないし、むしろ無理やり強奪する形になった俺たちのほうが悪役だ。
いやしかし小学生の分際でそんなこと考えちまうのはいかがなものなんだろうか。さすが人生二回目だと考えることが汚いねー。あー大人ってやだやだ。
……なんて、賢しげなことを考えてみたりするのは、やっぱり恥ずかしいからだろう。
俺を引っ張り起こした時の笑顔は、不覚にもトキメイてしまうほど可愛い笑顔だったのだから。……でもすずかちゃんが一番だもんね!
「うん? なに?」
「いんやー、さっきまで洪水みたいに泣いてたやつが手のひら返したなーと思って」
「あぅ……も、もうトキヒコのばか!」
「あでっ!? ちょ、おま、今電気流れたぞ!? ピカチ○ウかお前!」
「なに、それ?」
「おいマジかよ。まさか現代に世界的アイドルモンスターを知らない奴がいるとは思わなかった。よし、じゃぁ貴様には現代の一般常識を教えてやる」
「え……きゃっ」
「よーし、そーと決まればウチに行くぜ! ついでに俺のコレクションも見せてやる!」
「あ、あの、トキヒコ!?」
「うはははー! 苦節9年! ついに俺のコレクションを見せびらかす日が来たんだぜー!」
きょとんと小首をかしげる姿。
目を見開いて驚く姿。
あわあわとどうすればいいかわからずキョドる姿。
そして、にっこりと花開くような笑顔。
フェイトの仕草は、その全てが何度見ても〝アイツ〟とダブる。生き移しだとかクローンだとか、あるいはそっくりそのまま生まれ変わったとか言われても信じてしまいそうなくらい、そっくりだ。
……あぁ、そういえば〝アイツ〟も最初はこんな風に純朴だったよなぁ。何がどうまかり間違ってあんな風に成長しまったのかは、まったくもって理解と想像が及びもつかないのだが。
「あ、そういやお前、電車の乗り方知ってる?」
「し、知ってるよ!」
「おお、世間知らずのお嬢様が秘かにレベルアップを!」
「わ、私世間知らずじゃないよ。ただ、ちょっとこっちの世界に慣れてないだけで……」
「はいはい、世間知らずはみんなそうやって言い訳するんだ。ちなみに、既にその手の言い訳は使われているので俺には利きません。免疫バリヤー」
「あうぅ」
困ったように眉を曲げる姿が、またもや出会ったばかりのマイラバーを思い出させる。
……うん、やっぱほっとけねーっす。
もちろん、俺はすずかちゃんが好きだ。一番好きだ。多分、今ならマイラバーよりもあ……あー、あー、えー、好きだと断言できる。あぁできるとも!
……でもさ。
生まれ変わった世界で〝アイツ〟と瓜二つの女の子に出会って。
何の因果か、こうして手を取って一緒に走り回って。
そして、そんなこいつのために、何かしてやりたいって思ってる俺がいる。
そんな、奇跡みたいなことが重なってしまったら、ちょっとばかし情が移っちまうのも、まぁ仕方ないよね?
そんな誰に対してなのかわからない言い訳を心の中で呟いて、俺はフェイトの手をしっかりと握りしめたのだった。
「ところでトキヒコ」
「なんだー?」
「……トキヒコって、女の子だったの?」
「よし、フェイトそこに正座しろ」
「えぇ!?」
……そういえば、女体化したことの説明を忘れてた。
☆
「てわけでー、連れてきちゃいましたー」
「お、お邪魔、します?」
「あらあらあら!? ちょっと時彦何どうしたのこんな可愛らしい娘さん連れてくるなんて!」
臨海公園を出た俺達は、そのままフェイトと一緒に自宅へとやってきた。
理由? だって、お金を使わないで遊ぶ方法って考えたら、とりあえずうちにくるしかないでしょ? 俺はアリサ達みたいにお金持ちでもなければ、すずかちゃんや高町のように自力で遊ぶ資金をねん出できるような人間でもない、普通のどこにでもいるような小学生だからね☆
……無理があるな。いやまぁそれはいいとしよう。
しかし今日は日曜日です。母上は休日です。つまり家には母上がおるわけでして。
帰宅するなり、フェイトは母上による熱烈な歓迎を受けることになってしまいました。失敗したかなぁ、これ。
「初めまして、時彦の母です。お名前をお伺いしてもいいかしら?」
「え、あ……と、ふぇ、フェイトです。フェイト、テスタロッサ」
「あらまー、外国の子? アリサちゃんに続いて二人目なんて――――アンタ何、外国の女の子ひっかけるの得意なの?」
「なわきゃねーでしょ。ただの偶然だっつーの」
目を女子高生みたいにきらきらさせてべたべたとフェイトに抱きつく母上殿。どうでもいいが歳を考えろ。
母上はフェイトを人形か何かと勘違いしているのだろうか。ともあれあわあわと慌てるばかりでどうしたらいいかわからない、というのがまんまわかるフェイトの手を取って、母上は俺なんていないかのとごとく居間へと戻って行った。
……な、なんだろうこの疎外感。俺息子だよ? 息子よりも見ず知らずの女の子が来たことを喜ぶ母上ってどうなのよ。べ、別にやきもちじゃないもんね!?
そして暫しの事情説明。とはいっても、どこで出会ったとか趣味とか好きな食べ物とかそういうので、どこに住んでるかとか両親はとかそういうプライベートな事は話さなかった。
「あらまぁ大変ねぇ。その歳で従姉さんと二人暮らしなんて、大変じゃない?」
「いえ、その、アルフがしっかりしてるので」
「でも偉いわねぇ。お忙しい御両親に迷惑をかけないようにと言っても、中々できることじゃないわよ?」
「は、はぁ……」
「うちのドラ息子には一生無理ね。一人暮らしなんかさせたら、一週間でゴミ魔殿が出来上がりそう」
「うぉーい母上ー!? それはあまりにも息子のことを軽んじてはいらっしゃりやがりませんでしょーかー!?」
「あんなダメ息子に捕まって迷惑でしょうけれど、我慢して付き合ってあげてね?」
「い、いえ、そんな迷惑だなんて……」
「……そろそろ俺、この酷い扱いに泣いてもいいよね?」
「〝泣きません、勝つまでは〟がアンタのモットーじゃなかったっけ?」
「記憶にございません」
「政治家かアンタは!」
「ぎにゃんっ」
「あ、あはは……」
その後すぐに母上に解放されて、俺とフェイトはリビングでゲームに興じることにした。ちなみに、母上は休日だというのに、何故かフェイトを見て「ティン!ときたわ!」とか言って自室に篭られた。さすが生粋のモデラー。今度は何作るつもりなんだろうか……。
ともあれ、気を使ってくれたってのもあるんだろうなぁ。そもそも、俺が家に女の子を連れてきたことなんて今まで一度もなかったし、いつもすずかちゃん達と遊ぶ時は外かあっちの家だったから。まぁ、横で茶々入れられないぶん全然マシだ。
さて、とは言ったものの、うちにあるゲームと言えばアクションとか格闘ゲームばっかりで、女の子が喜びそうなゲームが無い。
「フェイトってどんなゲームやる? パズル系が得意なら、パソコンのエミュでぷ○ぷ○でもやったほうがいいかなー」
「えと……その、私そういうのよくわからなくて……」
「むむっ。ゲームを知らないと申すか。じゃぁこれとか知らんよね?」
「うーんと……ごめんね。まだこっちの字は読めないんだ」
「あぁ、そっか。まだこっちの字は覚えてないんだ」
「うん。ある程度は覚えたんだけど、まだまだ勉強が足りないから」
「でも言葉はペラペラだよなー」
「少し、魔法を使ってるの」
「汚い、さすが魔法汚い」
「あはは……」
くそう、俺も魔法が使えたらなー。そしたら外国あっちこっちいけるし、就職の時もいい武器になるのに。
……って、小学生が今から就職のこと考えてどーする!?
「どうしたの、急に頭抱えて?」
「いや……なんでもない」
きょとん、とソフトのパッケージを持ったまま小首をかしげるフェイト。
その姿が、ふとマイラバーとそっくりそのままかぶってしまった。
まるでつい昨日のことのように思い出せるのは、やっぱり未練があるからなのかな。結局、まともな別れの言葉も言えずに会えなくなっちゃったし、あの後アイツがどうなったのかは、正直かなり気になってる。
でも、今更それを確認する術なんてなくて、そしてなにより〝ここ〟は〝前〟とは違う世界だ。似てるようで、全く違う。忘れるべきだとは思わないけれど、切り替えはしっかりするべきだと思う。
そう、アイツとフェイトを重ねるのはいけないことだ。何より、二人に失礼だろ。
――――どうかした? 頭が悪いのか? あ、悪いのはもとからかー♪
……どっちかっていうと、失礼なのはフェイトに対してだな。主に人間性的な意味で。
「さって、基本を抑えつつゆるゆるやるかー。今日は試しだから、かたっぱしからやってくぜー!」
「う、うん」
滅茶苦茶緊張してるのか、コントローラを握るフェイトの手は真っ白な肌が余計に白くなっていた。なんかミシミシ言ってるのは気のせいだと思いたい。
ともあれ、そうして世間知らずのお嬢様への近代娯楽講義は始まった。
ちなみに、最初の科目は某堂の64版スマブラです。ドンキーで抱え込みダイビングの恐怖を教えてやンゼ!
☆
「ほーれ、ここがいいのか? ここがええんやろ?」
「あん、やっ! だめっ、そんな激しくしたら!」
「はっはっは! まだまだ! そらもっと激しくいくぜー!」
「やぁ! だめだよトキヒコ! そんな風にしたらっ……」
「ほーれほーれ! 我慢できまい!」
「んん! そんな、ずるいよトキヒコ。そんな風にされたら、私……」
「ふはははー! さぁさぁ近寄ってこれるものなら近寄って――――」
「あ、ホームランバット」
「にぎゃーーー!?」
開始30分後の結論。ホームランバット超強ぇえ。
何故か開始10分でコツをつかんだフェイトによって、俺のゴリラが数え切れないほどお星さまになってしまいました。なんたることか。
「……お前本当に初めてなのか。つーかこれはアレか。初めて詐欺なのか」
「初めてなのは本当だよ? コツを掴めば簡単だもん」
「……こやつも天才の一種だったとは。神よ死ね」
なんで俺の周りはこう、なにかしら年齢不相応な能力を持った人間しかいないのか。
いやクラスメイトの大半は普通だけど、アリサ然りすずかちゃん然り、高町にフェイトと四人もそんな超小学生級がいるとかどんな異常事態だ。
しばらくピカチュ○は見たくもないので、早々にゲームを取り替えた。
次は、なんとびっくり、既にこの世界でも発売していた通称ガンガンNと呼ばれるロボ格ゲー。しかし、これまたものの十数分でコツをつかんだフェイトは、俺の機体をフルボッコにしてくれた。いや正確には互角くらいなんだけど、気分的にはフルボッコです。
「しかし、死神が異常に上手いなお前」
「なんか、武器もそうだしかなりしっくり来るね。少し攻撃が遅いのが気になるけど……」
「おまけにエクシア使うと鬼のように強いフェイトさんに俺は絶望した」
「あ、あはは……」
その次はよーしと気合を入れてスパデラ。ただし対戦系ミニゲーム限定限定で。
かちわりこそ俺が勝ち越したものの、刹那の見切りでは驚愕の全戦全敗。何この子マジ怖い。
「一番遅くても03とかどんだけだよお前」
「集中してれば簡単だよ?」
「いや、そのりくつはおかしい」
「そうかなぁ……」
道理で高町の奴が後手に回るはずだわ。ぶっちゃけた話が後の先が取れるんんだから、高町からしてみれば卑怯極まりない強さだろう。よくこいつ相手にアレだけ戦えたもんだ。
結局、それからパズル系やらIQ試すダンジョン系やら、とにかく俺がもってるゲームの過半数を強行軍でやりたおした。
フェイトも呑み込みが早いから、開始三十分もすると、ほとんどそのゲームの基本を抑えていたので、一つのゲームにかける時間は少なかったが、十分に楽しんでくれたようだった。
「おおう、もう三時半か。ちょっと小腹空いたな」
「そういえば、お昼は鯛焼き一つだったもんね」
「ちょっと待ってろい。今なんか食いもん持ってくる」
「え、い、いいよトキヒコ! そんな、私は大丈夫だから!」
「お前が良くとも俺がダメなんじゃい。変な遠慮するくらいなら、俺のついでってことにでもしとけ」
「うぅ……」
変に遠慮深すぎるんだよな、フェイトの奴。
とりあえず無理やり納得させて、俺はキッチンの戸棚や冷蔵庫を開けてがさがさと物色してみる。
しかしげんじつはざんこくだった。
「ははうえー! ははうえははうえー! 兵糧攻めでござる! 腹が減ったのでストライキがステンディバイなのですよー!」
「もう煩いわねぇ……って、あら、そういえばフェイトちゃん、何も食べてないの?」
「俺よりフェイト!? いやまぁ客人だしもてなさにゃならんのはわかるが、何故だろう。今の言葉に明らかに俺の優先順位が最下層にあると言外に言われたような気が……っ」
「間違ってないから否定しませーん」
「なん……だと……!?」
「あらまぁ、ホントだわ。さっき私が食べたので終わりだったのね。ならちょうどいいわ。時彦、あんた桃子のトコ行って買ってきてよ。ちょうど甘いもの食べたかったし」
「行って帰ってきたら夕飯の時間にならねーか?」
「デザートにすればいいでしょ。ついでにフェイトちゃんにも美味しいもの食べさせてあげなさい。夕飯も一緒に食べるなら準備しておくから」
「わかった。食うかどうかはわからんが、とりあえず聞いてみる」
「じゃ、もうちょっと私は籠ってるわね」
「へーい」
子供には眩しい、五千円札をポンと手渡した後、母上はまた部屋に戻って行った。いくらなんでもハッスルしすぎじゃなかろーか。
まぁこんなのはいつものことなのでたいして気にはしてない。
「おーいフェイト。外に食いに行こうぜ。母上からお小遣い貰ったし」
「いいの?」
「母上のお達しだ。逆らうことは許されぬ」
「ふゎ……ものすごい縦社会なんだね、トキヒコの家って」
「うむ。母上が法律だからな」
遊んでいたゲームを片づけて、さぁて出かけようという段階になってようやく気付いた。
……俺、髪切ってねぇ。
おまけに、今頃高町の奴は高町家式罰則により今頃翠屋でただ働きしてるはずだ。そんなところへ女体化した俺がフェイトを連れていく……?
社会的な意味で死ぬ気か、俺!?
いやいやいや、よく考えろ俺。命を粗末にしてはいけないだろ。命令は〝いのちをだいじに〟だということを忘れちゃいけない。
そもそも俺が女になったことはバレちゃまずいし(主に俺の弱点的な意味で)、なんの準備も無しにいきなりフェイトを連れて行こうものなら、一体どんな厄介な事が起こるかもわからない。
しかし母上はしっかりと〝桃子のとこ〟という、翠屋を指定してきた。これはもはや変更不可能な確定事項。避けて通れぬ地雷原。どうする俺!?
「それにしても、トキヒコのお母さん綺麗だね。だからトキヒコも髪伸ばしてると可愛いのかな?」
「――――って、何真顔でアホなこと言ってるのこの子!?」
「アホって……だって、トキヒコ、そのままでも可愛いよ? ちゃんと服着れば、普通に可愛い女の子に見えるのに」
「嬉しくねぇ!? おま、よりにもよって男の俺を捕まえて女装しろとか――――ん? 待てよ?」
母上じゃないが、ティン!ときたぞ。
どのみち、昨日の時点で俺の男としての尊厳は、瓦割100枚クラスの勢いで粉微塵にされてしまってるんだ。今更気にするほどのプライドなんて、ミミズの涙程しかない。
ためしに「あーあーあー」とちょっと高めの声を出してみる。いわゆる女声というやつだが、さすが第二次性徴期前。これなら誤魔化せるだろう。
……ならば、決まりだ。
「よし、これで行こう」
「トキヒコ?」
「えーと、確か昨日買った服は……あったあった! フェイト、お前コレな!」
「へ? いや、あの、いきなりこれって言われても」
とりあえず、昨日適当にしまっていた女物の服の内、似合いそうだなと思う服をポンポンと手渡していく。
やや大人っぽい、小学生にしてはおしゃまな服だが、しかし元が滅茶苦茶いいフェイトが着れば、それこそ鬼に金棒の魅力となるだろう。ルーズシルエットの白ワンピースに、これまた白のハイニーソ。んで胸元には青い水晶のブローチとボレロ風カーディガン、靴は確か無難な黒のニットブーツがあったな。
「あとコレ。バレッタで髪結い上げて、んでこの帽子しとけ。これでバレないだろ」
「や、だからトキヒコ」
「うーし。じゃぁ俺はユニセックス系で行こうか。デニムのホットパンツにレギンス、あとはー……」
「ねぇ、トキヒコ! わたし、何が何だかよくわからないんだけど……」
「あー、くそどーしよ。ハイニーソにしてもいいんだが、嫌いなんだよなぁ……いっそ素足にサンダルか? お、意外といいんじゃね?」
「……バルディッシュ」
≪Yes,sir.≫
「このキャミにカーディガンいいね。紅ってのがちと派手だが、キャミがロイヤルパープルで派手だしいっか。つーかこの際なんでもいい。とりあえず見栄えがそれっぽくて誤魔化せれば――――」
「トキヒコ? 事情を説明してほしいんだけど?」
「―――――あい、とぅいまてん」
「もう」
喉元に黒い何かを押しつけられまして、ひこちん脂汗だらだらなのよさ。
見れば、いつぞやみたフェイトの愛用の武器――――さっきのガンガンNの死神がもつ武器と似ているソレを握って、フェイトがむーと頬を膨らませていた。いやいや、可愛い顔してなんて物騒なマネしてるんですかあなた。
「どういうこと? いきなり着替えてだなんて」
「い、いやな? 実はかくかくしかじかで……」
フェイトに説明したのは、簡単に以下のように説明した。
今から行く店がお前の不倶戴天の敵もとい友達を自称し続ける馬鹿町がいるところで、ついでに俺は今の姿を見られたくないこと。
もし俺がなんの連絡も無しにお前を連れてけば、下手をすれば厄介な事になりかねないこと。
だから、いっそのこと別人になり済ましてしまうために変装すること。
重要なのはその三点で、とりあえずお互いに着替えながら、そんなことをかなり駆け足で説明した。
説明が終わる頃にはお互いに着替え終わっていて、そしていきなりすぎる俺の説明にフェイトは溜息をついた。
「もう、そういうことなら先に説明してほしかった」
「う、すまん……もしなんの連絡も無しにお前をつれてったら、また面倒な事になるのは目に見えてるからさ。それは、きちんと準備を踏んでからにしたいんだ」
「……私は、別にそういうつもり、ないのに」
「お前がなくても、馬鹿町のやつがその気なの。諦めろ」
「あれ……? トキヒコが言ってるのって、あの白い魔導師の子だよね?」
「そうだけど?」
「タカマチ、じゃなかったっけ?」
「いやいや、〝タ〟じゃなくて〝バ〟ですから。馬鹿町。お前アイツの自己紹介ちゃんと聞いてたの?」
「え? あれ? だってあの時は確かに〝タカマチ〟って……」
「ちっちっち、まったくお前も注意散漫だなぁ。きっとそれは間違いなくお前が聞き間違え――――」
≪Mister. Don't give my lady the lie.≫
「…………トキヒコ?」
「はい、すみませんウソですごめんなさい」
ジャンピング土下座で今日も膝が痛い。
つーかフェイトのデバイスってすげぇ主人思いなのね。優秀な執事様ですこと。レイジングハートはむしろ自力でどうにかしろ、ってタイプっぽいんだが、どうやらこちらのバルディッシュさんは過保護なタイプらしい。……あくまで俺の勝手な印象だけどな。
ともあれ、バルディッシュさんに窘められてしまったので真面目に答える。
「とにかく。高町がいる以上、油断するわけにはいかんのだ。さらに言えば、俺の女体化がバレるわけにもいかんのじゃ」
「そっか……うん、そういうことなら仕方ないよね」
物わかりのいい子供、おにーさん大好きだよ。
というわけで、お着替え続行。
女装で変装大作戦、スタートだぜ!
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弁明もといやっちゃったんだZE☆
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と言うわけでもちょい続きます。
これが終わったら、テンプレのイベントが待ってるんだぜ。
わたくしめが未熟なばかりに、最近とみに文体が乱れまして申し訳ございません。
この作品はかなり気楽に書いているので、あまり文体にこだわらないスタンスだったのが主な原因だと思うのですが、しかし安定しないなぁ。
こんな作品ですが、気がつけば驚愕の18万撲殺件数。あかん、予想外や。
これもひとえに皆様のおかげでございます。これからもどうか、生温く見守りくださいませ。
P.S
らんま2分の1ネタとわかっていただけて感無量です。