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No.15556の一覧
[0] 【俺はすずかちゃんが好きだ!】(リリなの×オリ主)【第一部完】[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[1] 風鈴とダンディと流れ星[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[2] 星と金髪と落し物[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[3] 御嬢と病院と非常事態[[ysk]a](2012/04/23 07:36)
[4] 魔法と夜と裏話[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[5] プールとサボりとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[6] プールと意地と人外[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[7] 屋敷とアリサとネタバレ[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
[8] 屋敷と魔法少女と後日談[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[9] 怪談と妖怪と二人っきり[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[10] 妖怪と金髪と瓜二つ[[ysk]a](2012/04/23 07:42)
[11] 閑話と休日と少女達[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[12] 金髪二号とハンバーガーと疑惑[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[13] 誤解と欠席と作戦会議[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[14] 月村邸とお見舞いとアクシデント[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[15] 月村邸と封印と現状維持[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[16] 意思と石と意地[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[17] 日常とご褒美と置き土産[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[18] 涙と心配と羞恥[[ysk]a](2012/04/23 07:41)
[19] 休日と女装とケーキ[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[20] 休日と友達と約束[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[21] 愛とフラグと哀[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[22] 日常と不注意と保健室[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[23] 再会とお見舞いと秘密[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[24] 城と訪問と対面 前篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[25] 城と訪問と対面 後篇[[ysk]a](2012/04/23 07:40)
[26] 疑念と決意と母心[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[27] 管理局と現状整理と双子姉妹[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[28] 作戦とドジと再会[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[29] 作戦と演技とヒロイン体質[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[30] 任務と先走りと覚悟[[ysk]a](2013/10/21 04:07)
[31] 魔女と僕と質疑応答[[ysk]a](2012/04/23 07:39)
[32] フェイトとシルフィとともだち[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[33] 後悔と終結と光[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[34] 事後と温泉旅行と告白[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[35] 後日談:クロノとエイミィの息抜き模様[[ysk]a](2012/04/23 07:38)
[36] 後日談:ジュエルシードの奇妙な奇跡。そして――――。[[ysk]a](2012/04/23 07:37)
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[15556] 日常とご褒美と置き土産
Name: [ysk]a◆6b484afb ID:a9a6983b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/23 07:41

 鞄を肩にひっかけ、まだ飲み込み切れていなかったパンを牛乳で無理やり押し流す。
 「ごっそさん!」と短く告げた俺は、ばたばたと慌ただしく玄関へと走り、急いで靴をはく。



「行ってきまーす!」
「月村さん達に迷惑かけるんじゃないわよ!」
「わーってるよ!」



 家を飛び出したのは、午前7時30分。時間ギリギリだった。
 もはや待ち合わせ場所と言っても過言ではないスクールバスの停留所まで、全力で走る。
 新芽が芽吹き、桜がまだまだ元気に咲き誇ってる並木道の下を走ると、春の朝独特の、優しく冷たい空気が胸にしみる。
 風を肩で切り、息を切らしてたどりバス停に着くと、そこには既に発射寸前のバスが待っていた。



「おはよーございます!」
「はい、おはよう」



 運転手さんにいつもどおりに挨拶をして、俺は走り出す勢いそのままに、バスの中へと転がり込んだ。
 きょろきょろとあたりを見回して、〝あいつら〟の姿を探す。特徴的な金髪に、ツインテールの茶髪、あと――――夜みたいな黒い髪。



「あ、ほんだくん! こっちこっち!」
「お、いた! はよろーん!」



 ぶんぶんと、席に座ったまま背伸びをしてこちらに手を振る目当ての少女。高町だ。
 こちらも手を振り返して、とたとたとその席へと向かう。
 


「遅いわよ、バカ。もう少しで出発するところだったんだから。
「あっはっは、わりぃわりぃ。寝坊した!」



 二人掛けの椅子で、高町の隣に座る金髪の少女、アリサが俺を睨みつけるようにして言う。見る人が見れば、まぁ喧嘩売ってるようにしか見えない辛辣な歓迎だが、これはいつものことで、こいつなりの挨拶だと言う事をよく知っている。なので、俺は適当に流しながら笑ってごまかした。
 溜息をついて「昨日休んでたくせに」と唇を尖らせてアリサが不満を垂れるが、すかさず隣に座っていた高町がフォローに入る。まぁ、昨日は昨日で学校を休んだのをこれ幸いとばかりに、溜まってたプラモとかガレキを仕上げてたんだけどな。おかげで夜更かししたら意味ないって? しゃーんなろー!
 そんないつもの朝の挨拶。
 くだらなくも、でもはっきりと一日が始まったというスイッチの入るそれは、しかしまだ不完全だ。
 あと一人。
 一番大切で、一番楽しみな、最後の挨拶。
 高町とアリサが座る席の前、連なる二人掛けの席の奥の方に、俺は視線を向けた。
 その窓際には、一人の少女が座っている。
 すっと走る細い眉。優しく垂れた丸い瞳。さっき並木道で見た桜の花びらよりも柔らかい、桃色の唇と頬。どれもが可愛らしく、全てを合わせれば胸を締め付ける程に愛らしい、黒髪の少女。
 ぼーっと見つめる俺と目が合うと、その少女はちょこんと首をかしげながら挨拶をくれた。 



「おはよう、本田君」
「お、おおう。お、おはよっ!」
「ふふ、よかったね、無事に間に合って」
「俺様の脚力一千馬力ですから!」



 くすくすと、その少女は愛い愛いしく微笑む。
 月村すずか。俺にとって世界で一番大切で、命をかけてまで助けた、大好きな女の子。
 顔が熱い。走ってきたからという理由だけでは説明がつかないほど顔が火照り、その隣に座る俺の体の節々が、がくがくと緊張で震えている。
 鞄を手にする指は、まるで極寒の吹雪の中にいる遭難者のように震え、そんなに柔らかくないシートに座り込んだ瞬間、全身から力が抜けるようにして俺はシートにもたれかかる。
 空いた窓から、ふわっと風が入ってきた。ソレに乗って、すずかちゃんの方から、甘く優しい香りが鼻腔をくすぐる。
 決して強くない、しかし一度嗅いだら忘れることなんてできないくらい優しくて柔らかい香りは、春の日差しのようだった。
 ぴーっとブザーが鳴り、バスのドアが閉まる。
 ゆっくりとバスが発車しだすと、途端に後ろの高町とアリサから声がかかる。



「ねぇねぇ、昨日はアンタ、学校サボってなにしてたの?」
「まったりごろごろ、シエスタオールデイロング」
「しえすた?」
「なのはちゃん、〝シエスタ〟っていうのはね、スペイン語で〝お昼寝〟って意味なんだよ」
「そっか! さすがすずかちゃん、物知りだね!」
「……あっきれた。アンタそのまま豚にでもなっちゃえば?」
「なってもいいが、俺は空を飛ぶぜ?」
「あ、それって〝紅の豚〟のこと? 本田君、見たことあるんだ」
「わたしも見たことあるよー! でも、宅急便の方が好きかなぁ」
「バカねぇ。一番面白いのはラピュタでしょ。空から落ちてきた女の子との大冒険なんて、とってもエキサイティングじゃない!」
「……俺は前から常々思ってたんだが、アリサって将来ドーラになりそうだよな。体格的な意味で」
「ドーラって誰だっけ?」
「ほら、あの空賊の」
「あぁ、あの人か……って、なンですってぇ!? アンタ私のこと一体どんな目で見てんのよ!?」
「なんだ、嫌なのか?」
「えー、ドーラおばさんかっこいいからわたしは好きだよー?」
「私も。凛々しくてかっこいいよね。昔の写真、すごい可愛かったし」
「だよなー! 俺もドーラおばちゃんすげぇ好きだぜ!」
「……何この怒るに怒れない、微妙な空気は」
「ふははは! まんまとはまりおったな将来ドーラ娘! こうなった以上、貴様の怒りの矛先は無理やりにでも治めねば悪者確定! ざまーみやがれっ!」
「ぐっ……相変わらず卑怯な真似を!」
「貴様如きに負ける俺様ではないわー! なーっはっはっは!」



 ぎゃーぎゃーわいわい。
 いつも通りのバスの中。
 いつも通りのやりとり。
 そして、いつも通りの面子。
 俺は今、この世界に生まれて本当によかったと思っている。

 入れ替わったすずかちゃんと忍さんの体が元に戻って二日目。
 私立聖祥大付属小学校へと向かうバスの中に、ようやくいつもの日常が帰ってきた。
 










                           俺はすずかちゃんが好きだ!










 すずかちゃんの体を元に戻した翌日、事件関係者全員が、その日は月村邸で爆睡していた。
 俺んちへの連絡とか、高町達の家への連絡は、どうやらメイドのノエルさんやファリンさんがやっておいてくれたらしく、その日帰宅しても、おそれていた程の雷は落ちなかった。高町の奴はこっぴどく怒られたらしいけど。
 結局昼まで寝更けて、昼食までごちそうになったあと帰宅したんだけど、あんなに頑張ったんだからこのぐらいいいよね?
 そういうわけで、昨日は一日中寝る&趣味に没頭という、まるで日曜日のような一日を過ごすことが出来た。
 ……本音を言えば、もっとすずかちゃんの家にいたかったんだけどさ。
 まぁ病み上がりってのもあったし、なにより俺自身が〝あんなこと〟を、いくら寝ているとは言え、本人の前でぶちまけてしまったが故に、そこにいるのが恥ずかしくてしかたなかったため、やむなく帰宅することにしたのだった。
 今日の朝、すずかちゃんの姿を確認するまでは結構不安だったんだけど、どうやら無事になんの障害もなく復活できたようなので安堵することしきりですよ。
 
 ……とまぁ、そんなこんながあって、ようやくいつもの日常が戻ってきたわけです。
 ふいー、一時はどうなるかと思ったんだぜ。



「なんだか、私が目を離している間にすごいことになってたのね」
「もう大変だったんだよー? 本田君が発動させたジュエルシードを封印するだけで私気絶しちゃったし」
「本当に、二人とも私のためにありがとう」
「全然気にしなくていいって! こんなん苦労の内にも入んないさー!」



 一人だけハイテンションなのは気にしない方向で。みんなが笑ってればそれでざっつおーらいだもんな!
 そして学校が終わり、今日はみんな暇な木曜日なので、放課後四人そろって翠屋にやってきた。
 小学生の身で喫茶店とか、どんだけブルジョワジーなんだと思わずにはいられないが、〝桃子さんの優しさプライスレス〟という不思議な現象によって、何故かシュークリーム一個とドリンク一杯は無料という優遇をさせてもらっている。おまけに料金30%引きだってさ! 持つべきものは友達だね!
 将来、バイトが出来るようになったら本気でここで働きたいなぁ、と思う今日この頃なのだが、はたしてその時までにバイトの枠があるのかどうか。
 いや、それよりも、高町の奴がここのフロアチーフになったりとかしてたら嫌すぎる。高町の下で働くとか怖くてイヤだぞ俺。



「むむ、ほんだくんが何か失礼な事かんがえてるみたいです」
「人の思考を読むなよ!?」
「あー、やっぱりー!」
「図星だったんかい」
「ずぶっと指された星なのだ!」
「……それは開き直りでしょうが」
「あ、そうそう。なのはちゃん、こないだ話してた新しいアンプ、届いたよ」
「ほんとー!? どうどう、やっぱりすごいの!?」



 危うく苛められるところだったが、すずかちゃんの咄嗟の話題転換によって難を逃れることが出来た。マジですずかちゃん俺の女神すぎる。
 ほっと一息をついてレモンスカッシュを一口。ぬぁ~、なんか今日は妙に美味く感じますなぁ~。
 ……隣から聞こえてくる謎の呪文については、敢えて聞こえない方向でスルーする。



「……まーた機械オタ娘達が世界作っちゃったわ。ほんと、こればっかりは私もついていけないわね」
「安心しろ、俺もだ」



 しかし、先のすずかちゃんの話題転換は、見事に俺とアリサを締め出す形になっていた。
 ゲンナリとした顔でコーヒーフロートを啜るアリサと、それに相槌を返す俺。隣のすずかちゃんとアリサの隣の高町は、何が楽しいのかしきりに音域がどうのとかドライバーがどうのとか言ってる。はっきり言って何言ってるかさっぱりだ。
 ……そう、実はこの二人の少女、見かけによらず機械好きなのである。
 高町の奴は、この歳で既にデジカメマスター+AV機器弄り好きというトンデモ趣味で、自室には現環境における〝ハイスペック〟のデスクトップと、いかにも高そうなオーディオやスピーカー、そしてかなりゴツイデジカメが置かれている。ちなみに〝ハイスペック〟の〝ハイ〟は、〝HIGH〟じゃない。〝廃人〟という意味での〝ハイ〟だ。
 初めて高町のパソコン見せてもらった時は度肝を抜かされましたよ。パソコンのスペック自体はあんまり詳しいわけじゃないのでこれと言えないけれど、とりあえず某有名MMORPGのLと、市販ゲームのCを同時起動してもぬるぬる動く、とだけ言っておく。あ、ちなみにCの方は俺の趣味で、他にもBとかも持ってる。マッスルスーツ着て無双とか、海底都市で大冒険とかロマンたっぷりだよな!
 そしてすずかちゃんの方も負けず劣らずの機械好きで、趣味はロボット作り。おまけに最近はプログラミングまで覚え始めているらしく、ついこないだの冬休みでは、自作の簡単なラジコンロボットを見せてもらった。開いた口がふさがらなかったのは言うまでもない。その内本気でロボットを作るんじゃないかと気が気でならないんですが。
 なんでも元は忍さんの趣味だったらしいのだが、傍で見ているうちに自分の趣味にもなってしまったとのこと。あなおそろしきは門前の小僧ならぬ小娘なり。



「でもまぁ、高町の撮る写真綺麗だしな。悪いことじゃァない」
「あぁ、あれね。なんかパソコンで処理してるらしいわよ?」
「……なん……だと?」
「ねぇなのは、こないだの冬休みの写真、アンタが撮った奴あるじゃない? あれ、パソコンで編集したって言ってたわよね?」
「え? うん。写真屋さんで簡単な加工しただけだけよー」
「ほらね?」
「マジかよ」
「あ、ちなみにこのメニュー、私が写真撮ったんだよ!」
「「「えぇええ!?」」」



 さすがにこれには、俺達三人もびっくりである。今まで全然知らんかった。 



「お前、機械と写真になると途端に鬼になるな」
「えへへ、なんだか知らないうちに得意になっちゃってて」
「それはそれで恐ろしい才能だ」
「そのうち写真撮るために世界中を旅してそうね」
「あ、それ楽しそう。いいなぁ、世界旅行。私も一回は行ってみたい」
「いや、月村さんもアリサも、その気になればいけるんじゃないの?」
「うちはそんな無駄な出費できるようなお金持ちじゃないわよ」
「私の家も、家が大きいだけでそんな余裕はないかなぁ」
「ていうかほんだくん、二人に対する認識が漫画のお金持ちだね。現実にそんなことあるわけないのに」
「ぬぐぐ……高町にバカにされた。あの馬鹿町に!」
「ま、またバカって言った! もー、次そんなこと言ったら本当にディバインシューターするからね!?」
「アリサ! 助けてくれ! 高町のヤツが最近魔法という暴力で俺をしいたげようとするんだ!!」
「バーカ、自業自得でしょ」



 とにかくかしましい俺達である。
 まぁ、放課後のお茶会はこんなもんであって、他にすることと言えば公園でのんびりしたり、市街地で適当にぶらぶらしたりと、そこらにいる小学生とやってることは変わらない。
 あとはやっぱり高町の家かアリサん家でゲームとかだろうか。アリサん家だと、広さを利用して色々と運動系の遊びが出来るから楽しい。すずかちゃん家は、ようやく行き始めたばかりだしね。
 


「あ、そだ。今度さ、バドミントンやろうぜ。高町が高町式訓練法でどれだけ運動音痴が治ったか試してみたい」
「なにそれ、またわたしをイジめるつもりなの!?」
「またとは人聞きの悪い。なぁアリサ?」
「そうよなのは。私達は単純にバドミントンを楽しみたいだけだもの」
「なー?」「ねー?」
「ウ、ウソくさい! 二人ともすっごくウソっぽいの!」
「「そんなわけないじゃない(か)」」にこにこ満面の笑みを浮かべる俺とアリサ。
「すずかちゃ~ん! 二人がわたしをいじめるー!」
「あ、あはは……本田君もアリサちゃんも、あまりなのはちゃんをイジメちゃだめだよ?」
「「いじめてませーん」」
「もう」



 ふえーんと泣きだす高町。ぱたぱたと席を移動してまですずかちゃんに抱きつくあたり、結構本気で泣いてるっぽかった。
 ソレを見て俺達三人は顔を見合わせて苦笑する。高町いじりのことは毎度のことで、こうして泣きだすのをすずかちゃんが慰めるのも、またいつものことだった。

 翠屋の一角で、俺達は日が暮れるまでずっとしゃべり続けていた。
 途中、美由希さんが「お姉さんからの奢りだよ♪」とケーキと紅茶を差し入れてもらったり、何故か鬼ー様に「うちの剣術、教わってみる気はないか?」とかなり本気で勧誘され、それを泣きそうなくらい必死に断る俺の姿があったり、そして夕方になった帰り、高町を送るついでにその家の前まで着くと、窓からユーノが出迎えにやってきて、さりげなーくすずかちゃんの隣を歩いている俺を見た後「今日はお楽しみでしたね?」的な事を耳打ちされて握りつぶしてやったり。概ね平和な一日が過ぎて行った。ていうかユーノの奴、ちゃっかりと俺のカミングアウト聞いてやがったなんて……っ!
 そして高町の奴が家に入っていき、アリサにも迎えの車がやってきた。
 そのまますずかちゃんも一緒に帰るらしく、俺とはここでお別れ。かなり名残惜しいが、明日も会えるんだから我慢我慢。
 いつもはここまで後ろ髪を引かれないんだけど、きっとここ数日まともに一緒に帰れなかったからかなぁ?
 内心でそんなことを考えながら、俺は車へと乗り込もうとするすずかちゃんとアリサに手を振った。



「気をつけて帰んなさいよ」
「また明日ね、本田君」
「おう。そんじゃ、また明日なー」



 いつも通りの挨拶。いつも通りの別れ。そう、これが俺達の〝日常〟だ。
 それがようやく戻ってきたことと、久々の〝日常〟の別れに、俺はとても寂しい気持ちになる。
 挨拶を終えて、後は二人が車に乗って帰るだけという段階になったが、なんだか二人の様子がおかしい。
 どうしたのかと心配になるが、なにやらアリサがしきりに小声で何かを言いつつ、肘ですずかちゃんを小突き回している。それに対してすずかちゃんは顔を真っ赤にして「む、無理だよ!」と断っていた。一体何させようとしてんだアリサの奴。
 アリサに対する呆れを隠そうともせず、俺は深く溜息をついて注意する。



「おい、アリサ。月村さん困らせんなって。話があるならお前が言えばいいだろ」
「違うわよバカ。アタシが言っても意味ないの。これは、ちゃんとすずかが言わなきゃ」
「も、もうアリサちゃん!」



 夕暮れの茜空のせい――――というわけではなさそうだ。まるでリンゴのような真っ赤な頬と、若干潤んだ涙目は、直視するに余りある可愛さである。あ、やべ鼻血でそう。
 慌てて顔を逸らすも、脳裏に焼けついた芸術/アートはそうそう簡単に消えるものではない。いやむしろどっちかというとコレは永久保存するべきじゃね? くそう、脳の中の映像をプリントアウトできないことが、これほど悔しいのもまた久しぶりだ……っ!
 


「うぅ……わ、わかったよぅ」
「そうそう。素直が一番よ」



 そうやって、俺が一人理性との対話をしていた頃、二人の間でも決着がついたらしい。だがそっちを見れない。油断すれば、すぐにでも鼻血が垂れそうだから。そんなのすずかちゃんに見せられるわけないでしょ!?
 


「あ、あの、本田君?」
「ふぁい!? なんでしょ!?」


 
 ちょっと鼻を押さえてるので篭り気味の返事になってしまった。
 恥ずかしさがこみあげてくるが、しかしそれ以上に好きな子の前で鼻血を流すなどというよろしくない未来を回避するために、必死に今の体勢を維持し続ける。なんか奥の方でアリサの奴がくすくす笑っているのが癪だ。
 


「今回、その――――本田君、すごく頑張ってくれたでしょ? それで、その、ちゃんとしたお礼、まだだったから……」
「へ? い、いいよ! お礼なら昨日言ったじゃんか。それで十分だし、俺は全然気にしてないからさ!」
「すずかがお礼するって言ってるんだから、大人しく受け取りなさいよー、この天の邪鬼~♪」
「てめぇは黙ってろアリサ!?」



 くそう、人事だと思って完全に楽しんでやがるなアリサのヤツ……っ!
 しかし、そんなくだらない応酬を交わそうが時は流れるものであり、すずかちゃんの話は続いていた。



「その、アリサちゃんがね? ここでしっかりお礼言って、感謝しなさいって」
「感謝って……そんな大げさな」
「ううん、アリサちゃんの言う通りだと思う。私、きっとあのままだったら大変な事になってた。お姉ちゃんだからアレは耐えられる病気で、今の私にはまだ無理だって言ってたし、私もすごく苦しかったの。だから、昨日目が覚めて、体が元に戻ったのがわかった時は思わず泣いちゃうくらい、嬉しかったんだ」
「……そ、そっか」



 俺としては、するべきことをしただけなので、そこまで大げさに感謝されると、逆に滅茶苦茶恥ずかしい。
 別にすずかちゃんに感謝されたくてやったわけじゃ――――ないとは言い切れないけれど、しかし恩着せがましくするつもりでやったつもりはない。あくまで俺がすずかちゃんのことを好きだから、好きな子を助けたいからやっただけのことだ。
 でも、それを感謝してくれるっていうのは、素直にうれしい。だって、頑張ってよかったって思えるし、何より好きな子に〝ありがとう〟って言われるのは、何よりもうれしいじゃないか。
 途端に照れくさくなって、俺はそれを誤魔化すように鼻頭を人差し指でぽりぽりと掻く。鼻血はなんとか止まったみたいだけど、今度は恥ずかし過ぎてまともにすずかちゃんの顔が見れそうにないな。
 


「だから――――ありがとう、本田君」
「いやー、そんな感謝されたら本田君感激しすぎて気絶しちゃ、」
 
 

――――柔らかい感触。ふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂い。



 言葉が途切れた。いや、時すらもが止まった気がする。天使が頬を撫で、そのまますぐに離れて行った。
 相変わらず後ろの方でアリサの馬鹿が「ひゅーひゅー♪」とか囃したてているのが鮮明に聞こえ、しかしそれ以上に、今俺の頬を襲った未知の感覚が全神経を駆け巡っている。
 脳髄が痺れ、一瞬何が起きたのかわからなかった。
 首の骨が折れるんじゃないか、ってくらいに勢いよく振り返ると、視界いっぱいにすずかちゃんの顔が飛び込んでくる。
 夜色の瞳、綺麗な鼻梁、細い眉。可愛らしい睫毛がフルフルと揺れ、その静謐な瞳は今にも泣きださんばかりに潤んでいる。
 リンゴのように赤い頬と、茜色に染まりながらも、その鮮やかさを失わない桃色の唇が笑みを湛えていた。
 ぼんっ!
 顔から湯気のような爆発が起きた気がした。



「―――――え?」
「そ、それじゃぁね本田君! また明日!」
「ばいばーい時彦! 良い夢を♪」
「―――――――――――はい!?」



 飛び込むようにしてすずかちゃんが車の中に入り、それにアリサの奴が悪戯っぽい笑みを浮かべて続く。
 黒塗りのドアがバタンと閉まり、そのまま間も置かないで車は走り出した。
 そのまま道路の向こうを曲がって車が見えなくなってようやく、俺の脚は力の入れ方を忘れたようにその場に崩れ落ちた。
 どさりと尻餅をついて、右の頬を軽く抑えてみる。
 柔らかい風が吹いて、俺の〝髪〟を揺らした。
 妙に視界を邪魔する前髪を掻きあげて、呆然と俺は今起きたことを確認するように、呟いた。



「…………キス、された」



 当然、ほっぺだ。アリサからみれば、挨拶程度の軽いもの。欧米人やらが映画とかでしょっちゅうやってみせてる、アレ。
 だが、キスはキスである。直の接触である。つーかむしろ初めてのちぅである。



―――――キスされたっ!!?



 途端、体の奥底から、今にも弾け飛ばんばかりの喜びがあふれだす。
 ともすればそのまま飛びあがれるんじゃないかってくらいの興奮がわき上がり、俺はそれを隠すこともなく「ぃいいいいいいやっほおおおおおう!!!」とその場で飛び跳ねながら叫んだ。
 ガッツポーズをして「YES! YESYESYES!」などとバカみたいに喜んで、また「うっはぁああああああ!!」とか言葉にならない喜びを叫ぶ。
 よかった、命かけてホントによかった……っ!!
 今ばかりは感謝する! 本気で心の底から感謝する!
 神様ありがとう! 今までさんざんクソとか死ねとか言ったけど、実はこのご褒美を用意してたからなんだよね!? マジごめんなさい! 
 心の中でありったけの感謝を捧げつつ、やっほう♪とバカみたいに喜びながら、俺は帰路に就いた。











 少しばかり時間をかけ手帰宅した頃には、キスをされたことによる興奮も大分落ち着き、多少上機嫌に鼻歌を歌う程度までテンションも下がっていた。いやーでも今日は幸せだ。このままもう飯食って風呂入って寝ちまおう。
 そして俺、布団に入ったら、夕方のことを何度も思い返して寝るんだ……!
 なーんてね!
 やっほい夜が楽しみだぜー♪
 



――――なんて、呑気なことを考えていた時期が、僕にもありました……。




「ただいまー」
「あら、おかえり。今日は早かった………のね?」



 玄関の廊下を通ってリビングにたどり着くと、そこには既に母上がいた。
 冬は炬燵になるテーブルの上に図面を広げて、なにやら設計図を描いているっぽい。見た感じ、来月用のフルクラッチモノのようだ。
 そして、俺の帰宅に反応した母上が俺へと振り返り、気色悪いくらい楽しそうな笑みを浮かべていたその顔を、突如として凍らせた。
 何があったのかわからんが、息子が帰ってきたというのに失礼な反応だな。 



「まねー。てか腹へったよ。今日のめしなにー?」
「と、とき、ときき、ときひこ?」
「あんだよー、腹へったからはやくめしー!」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ちなさいアンタ!」
 


 ずっこけかねないほど大慌てで、母上が俺へと駆け寄って来る。
 そのまま物凄い形相で俺を見下ろしながら、俺の両肩を掴んで来た。どうでもいいが顔近すぎ&物凄い形相で滅茶苦茶怖いんですが母上。



「な、なんだよいきなり。ちゃんと今からシャワー浴びんだしいいだろ?」
「ち、ちがっ! そうじゃなくてアンタ髪っ! その髪どうしたのっ!?!」
「髪?」



 はて? なんかついてるのか?
 今日は春風が強かったし、帰り道で葉っぱか花びらでも飛んできてくっついていても可笑しくはない。現に今日は学校でも何人かそういうヤツを見たしな。
 しかし、それが母上の凄まじい形相の原因とは思えないんだが。
 小首をかしげつつ、わしゃわしゃとゴミを払うつもりで髪を掻きまわしてみる。
 ……特にゴミはないみたいだが。



「なんだよ、なんか変なモンついてる?」
「ついてるって、いやもうコレそんな次元じゃないわよ。いいからアンタ鏡! 鏡見てきなさい!!」
「はぁ?」



 いいから早く!とケツを引っ叩かれながら、しぶしぶと浴室へと向かう俺。むろん、途中「なんだってんだよったく」とぶちぶち文句を零しております。
 せっかくの良い気分が台無しだ。これはもっと迅速に布団の中へとダイブインするべきだな。
 今夜は早めの就寝と洒落こもう。そう心に決めて、俺は制服を脱いで下着姿になった。
 鏡? んなもん見るわけないだろ。  
 そしてシャツを脱いでパンツだけになり(トランクス派です)、呑気に鼻歌を歌ってそのゴムに手をかけて引きずりおろした――――その時だった。



「え゛――――――?」



 なかった。
 何がって――――――――――――〝ナニ〟が。
 今度ばかりは、夕方のように時が止まることはない。そのまま途端にパニックに陥る。
 なんで、なくなってんの?
 


「ま、まてまてまてまて!!」



 そのまま下を覗き、トランクスの中を覗き、制服を放り込んだ洗濯機の中を覗き込み、しかし当然ながらどこにも見当たらない〝ナニ〟に、俺は泣きそうになる。



「おいおい、うそだろちくしょう…………っ」



 突然のワケワカメな事態にほとんど気を失いそうになりながら、俺はまたしても視界をうろちょろする〝髪〟を掻き上げつつ、天井を仰いだ。
 そこで、ふと気付く。
 ……俺、こんなに前髪長かったっけ?
 いやいや、そんなはずはない。俺の髪型はいつもスパイキーショートだし、間違っても前髪が視界にかかることなんて〝ありえない〟んだ。
 俺は慌てて洗面台の鏡をのぞき込み、そして絶句した。



「な――――っ!?」



 みんなは、鏡を覗き込む時どういう気持ちで覗き込むだろうか?
 無意識か? それとも自分の今の髪型か? はたまた自分の記憶の中にある〝自分の顔〟か?
 じゃぁもしも鏡を覗き込んだ時、そこに映っていたのが見たことのない人間だったら、どう思う?
 そこには確かに自分しかいないのに、けど鏡に映っているのは、自分が予想していた姿とは全く違うモノ。そんなものが見えたら、一体どんな気分になると思う?
 正解は――――――。



「なんじゃこりゃぁあああああぁぁぁぁああああ!?!!!」



 混乱だ。
 絶叫が響き渡る。鏡に両手を突き、そこに映る紛う事なき〝自分の姿〟に衝撃を受けた。
 鏡の向こうでは、前髪を眉にかかるからかからないかまで伸ばし、もみあげと襟足も肩甲骨あたりまで伸ばしている〝少女〟が、大口を開けて絶句している。
 ほんのわずかとはいえ、それでも多少男の子と差が表れ始めたやや丸みを帯びた体つきに、適度に日焼けした健康的な肌、そして特徴的な象徴が見当たらない真っ平らなソコ。
 そこに映っているのはここ九年間で見慣れた〝本田時彦〟という少年ではない。
 そこには、限りなく〝本田時彦〟に近い、しかし決定的に〝本田時彦〟と違う、全くの別人の――――――――――〝女の子〟がいた。



























―――――――――
あとがきのようなチラ裏

ジュエルシードの呪い、恐るべし。
今回はいわゆる後日談的な話でさらっと。
次回からまたどたばたするのかな?

ちなみにこの呪いは特に意味ありません。ないはず。多分。めいびー。例によって保証できませんのであしからず。

 
*ただ今のジュエルシード争奪模様

なのはside:フェイトside=7:3

【内訳】
≪なのはside≫
・ユーノの初期所持で1
・動物病院襲撃の時の発現体退治で1
・神社での犬憑依体退治で1
・アリサの(本田が拾った)で1
・学校の怪談解決で1
・忍が確保したモノで1
・美由希が強奪、時彦が使ったモノで1


≪フェイトside≫
・カリビアンベイでの横取りで1
・すずかの叔父様から奪取で1(実は一戦交えております)
・ごみ処理場で確保で1(すずかと忍の体入れ替わり週の火曜日)

ようやく半分近く。いつプレシアさんでてくるんでしょうね、この作品。 


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