第二十三話 状況進展
【Side リンディ】
あのジュエルシード事件から、約4ヶ月。
今、アースラは地球に向かっていた。
その理由は、巡回ルートであること。
そして・・・・・・
「くそっ!」
クロノが自分の席で、悔しそうな声を上げる。
既に、何度この声を上げたのか分からない。
「・・・・・クロノ君・・・・・不機嫌ですね・・・・・・」
エイミィが、クロノを見ながら呟く。
「・・・・・・仕方ないわ・・・・・・クルーザー提督の処分があれじゃ・・・・・・ユウ君に合わせる顔が無いのよ・・・・・・」
私は、エイミィの言葉にそう答える。
「そうですね・・・・・あれだけのハッキリとした証拠があって、尚且つ、クロノ君が必死になって調べ上げたクルーザー提督の不正行為の資料を公表したにも関わらず、数年の懲役・・・・・・しかも、執行猶予も付いて、その間に今まで以上の働きを見せれば、懲役も免除、もしくは減刑ですからね・・・・・・・・・・私もこれには納得いきませんよ!」
エイミィが珍しく不機嫌な声で言った。
「本当に・・・・・ユウ君の言った通りになったわね・・・・・・・・」
私は俯きながら呟く。
「あの子に言われたんですよね? 罪に問う事は出来ても、大した罰にはならないって・・・・」
「ええ・・・・そうよ・・・・・・・言われた時は私も信じられなかったし、そんなことがあるなんて疑いもしてなかったわ・・・・・・いえ、恐らくそんなことがあっても、それは、公平な審議の結果だと思い込んでいたでしょうね・・・・・・・今回は、その対象がユウ君の気持ちを良く知った上での事だったから、今までとは違った視点で見ることが出来たんだわ・・・・・」
私は、ユウ君の言っていた通りになったことに、ため息を吐く。
その時、
「間も無く、第97管理外世界、現地名称地球に到着します」
そう報告が来た。
すると、クロノが席を立つ。
「・・・・・では艦長、僕は予定通り休暇を取ります」
「ええ。許可します」
クロノは転送ポートへと歩いていく。
だが、その足取りは重く感じる。
それも仕方ないと思った。
「・・・・・じゃあ、行ってきます。母さん」
「いってらっしゃい。ユウ君によろしくね」
「・・・・・・はい」
クロノは若干俯き気味に返事をして、転送されていった。
【Side Out】
なのは達と守護騎士達の対決から早2ヶ月。
現在は、9月の中旬。
闇の書のページは550ページを越えた。
やはり、なのは達の加入は大きく、戦いにも余裕が出てきている。
で、今日の俺はと言えば、
「いらっしゃいませ」
翠屋の手伝いをしています。
理由は、無理しすぎと言われ、ほぼ強制的に蒐集を休まされたのだ。
まあ、最近は余裕も出てきているし、何よりあいつ等も強くなってるから問題は無いので、こうやって久しぶりに翠屋を手伝っているのだ。
その時、再び店の入り口が開く。
「いらっしゃいませ」
俺は、営業スマイルを浮かべて挨拶する。
が、来店した客を見て、俺は驚く。
「やあ、久しぶりだな」
私服姿のクロノ・ハラオウンがそこにいた。
クロノは、俺と話がしたいという事だったので、俺は士郎さんと桃子さんに許可をとって、店の一角の席で向かい合っていた。
因みに、認識阻害の結界も忘れない。
クロノは、俺と向き合うと、いきなり頭を下げた。
「すまない!」
いきなりの謝罪に俺は驚いた。
「い、いきなりなんだよ?」
俺は問いかける。
「クルーザー提督の事だ」
クロノの言葉で、俺は理解した。
「あ~・・・・なるほど。その様子だと、やっぱり重い罪にはならなかったようだな」
俺は確認するように問いかける。
「ああ。クルーザー提督に出された判決は、懲役数年。その上、執行猶予が付いて、その間の貢献度によっては、減刑・・・・・・場合によっては懲役の免除も有り得る・・・・・・・クルーザー提督の過去の不正も出来る限り調べて公表したんだが、それが限界だった・・・・・・・・すまない!僕の力不足だった!あれだけ大口を叩いておきながらこの程度とは!本当に済まない!!」
クロノは、テーブルに擦り付けるように頭を下げる。
「そこまで気にするなよ。元々そうなるだろうと思ってた事だし・・・・」
「だが!それでは僕の気が済まない・・・・!」
「でも、クロノが頑張ってくれたからこそ、執行猶予が付いたとはいえ、懲役が掛かるほどの有罪になったんだろう?」
正直、俺はそこまでの罪になるとは思ってなかった。
それが、執行猶予があるとはいえ、懲役になる程の罪と判断されたのだから、クロノがどれだけ頑張ってくれたのかが良く分かる。
「・・・・・・・なら、せめて僕に出来る事があったら言ってくれ!出来る限り協力する!」
クロノは、真剣な表情で言ってくる。
「協力するって言われてもな・・・・・・・・・・・・」
俺はそう呟いたが、とある事を思いつく。
「じゃあ、早速で悪いんだけど・・・・・・・」
俺は、クロノに説明を開始した。
【Side ユーノ】
僕は今、時空管理局の本局に来ていた。
理由は、無限書庫で闇の書の情報の裏づけをして欲しいとの、ユウからの要請だ。
ユウは、偶々来たクロノのつてで、無限書庫の利用を承諾してもらったらしい。
僕は、クロノに案内されて無限書庫へと入った。
その途端、目を奪われた。
目の前に広がるのは、見渡す限りの本、本、本。
あらゆる情報がここに集まっているらしいから、この光景は頷けるとしても、これの殆どが整理されて無いというから気が滅入る。
まあ、だからユウは僕に頼んだんだろうけど・・・・・・・
捜索や調査は、スクライア一族の十八番だ。
つまり、この無限書庫から、闇の書の情報を発掘して欲しいと、ユウは言っているのだろう。
この光景を見て、発掘と表現した僕は間違って無いと思う。
「ここが無限書庫だ。知っていると思うが、ここはあらゆる世界の情報が集う場所。しかし、その殆どが整理されていない。ここから目的の情報を探し当てるのは至難だ。君達が何を調べようとしているのかは知らないし、聞かない約束だ。手伝いの人員も断られたしね。だけど、無理だけはしないでくれよ。気軽に休憩室も使ってくれてかまわない。話は通しておく」
「十分だよ。ありがとう」
クロノの言葉に頷いてお礼を言う。
「それじゃあ、僕はこれで」
「うん」
クロノは無限書庫を出て行く。
僕は、無限書庫に向き直ると、
「さてと・・・・それじゃあ頑張ろう!」
気を入れなおし、探索魔法を発動させた。
【Side Out】
ユーノを無限書庫に行かせて数日。
俺達は、荒野の無人世界で蒐集をしていたのだが・・・・・・・
ヴィータが不機嫌だ。
蒐集対象の生物達にも、やや八つ当たり気味に攻撃している。
因みに、ユーノを無限書庫に行かせた当日には、当然の如く詰め寄られた。
曰く、何故ユーノを管理局に行かせたのか?という質問攻め。
俺は、俺の持っていた闇の書の情報の裏付けのためと言って、そのつてはクロノと教えた所、なのはやフェイトたちは安心した。
しかし、ヴィータはどうしても納得しなかった。
・・・・・これって、やっぱりだよな?
前々から、ヴィータはユーノの前では様子がおかしかったり、顔を赤くする事があったからもしかしてと思ってたけど・・・・・
ヴィータ、ユーノに惚れてるよな?
多分、自覚はして無いだろうけど、間違いないだろう。
アニメとは違うとは思ってたけど、これは全く予想してなかった変化だ。
まあ、恋愛は個人の自由だし、俺が如何こういう事じゃない。
ともかく、言いたい事は、ヴィータの我慢が限界に来たという事だ。
「ああ!!もー我慢できねえ!おい!ユウ!」
ヴィータが叫ぶ。
「テメーは前から色んな事を知ってるけどよ! それの証拠が何処にもねえって言うのはどういう事だ!? テメー本当は管理局の回し者じゃねえだろうな!?」
まあ、確かにヴィータがそう言いたくなる気持ちも分からんでもない。
俺の持ってる情報は、前世の記憶の情報であり、証拠なんか何処にもあるわけが無い。
「ん~・・・・・俺が持ってる情報については、前から言っている通り、『知ってる』からとしか言いようが無い。管理局は嫌いだから、回し者じゃないって事だけは確かだぞ」
とりあえず、前世やアニメ云々言っても、ふざけてるとしか思われないのでこう言っておく。
「フザけんな!だったらせめてテメーが管理局が嫌いな理由を言え!!」
ヴィータの叫びに、
「それは私も聞きたいな」
シグナムが便乗した。
俺がシグナムを見ると、
「あ、いや。今更ユウを疑うわけではないが、ユウの過去に何があったのか、いささか興味があってな・・・・・」
何故かシグナムは少し焦ったような素振りでそう続けた。
「あ、実は私も気になってました」
シャマルも軽く手を挙げながら言った。
「あ、あのっ・・・・!」
なのはが守護騎士達を止めようとしていたので、俺は手でなのはを制す。
「いや、話すよ。わだかまりは無いほうがいいしな」
俺はそう言って、ブレイズとアイシクルに例の映像を流すように促した。
で、何でこうなってるんだ?
「えっぐ・・・・ひっぐ・・・・・やっぱり可哀想だよ~~・・・・・・」
俺の左腕に泣きながら抱きつくなのは。
「ううっ・・・・・ぐすっ・・・・・・ユウっ・・・・・!」
同じく俺の右腕に泣きながら抱きつくフェイト。
美少女2人に、泣きながら抱き付かれています。
俺は、助けを求めるように守護騎士達に視線を向けるが、
「あっ・・・・・いや・・・・・・何ていうか・・・・・その、悪ィ・・・・・」
ヴィータは、バツが悪そうに謝罪を口にしながら顔を逸らし、
「ユウに・・・・・このような過去が・・・・・・・」
シグナムは、何か思う事があったのか、物思いに耽っている。
「ぐすっ・・・・・御免なさいユウ君・・・・・気軽に聞いていいことじゃなかったわ」
シャマルは涙を滲ませながら謝り、
「こんなことが・・・・・」
「ああ。アタシもこれを見たときはハラワタが煮えくり返ったね」
狼形態のザフィーラの呟きに、同じく狼形態のアルフが同意を示し、
「・・・・・・・・・・・」
クライドさんは無言。
元管理局員として、色々思うところがあるのだろう。
桜も、何処か暗い雰囲気だし、今の俺の状況を何とかしてくれそうな人物は居なかった。
ともかく、この状況は、なのはとフェイトの2人が落ち着くまで続いた。
時は流れ、10月に入った。
闇の書のページは600ページを越え、ユーノも無限書庫での調査を終え、報告に戻ってきている。
「それで、僕が無限書庫で闇の書について調べた結果だけど・・・・・・・結果から言って、ユウの言っていた通りだよ」
ユーノの言葉に、全員が息を飲んだ。
「無限書庫で調べたデータでも、闇の書が完成すると、無差別破壊以外に使われた記録が無い。そして、正式名称も古い資料によれば“夜天の魔道書”。本来の目的は、各地の偉大な魔導師の技術を蒐集して、研究するために作られた、主と共に旅する魔道書。破壊の力を振るうようになったのは、歴代の持ち主の誰かが、プログラムを改変したからだと思う・・・・・って、これはユウも言ってたよね。その改変の所為で、旅をする機能と、破損したデータを自動修復する機能が暴走しているんだ。それが、転生機能と無限再生。そして、闇の書が、真の主と認識した人間でないと、システムへの管理者権限を使用できない。つまり、プログラムの停止や改変が出来ないんだ。無理に外部からの使用を操作しようとすれば、主を吸収して転生しちゃうシステムも入ってる。だから、管理局では、闇の書の破壊や永久封印は不可能って言われてるぐらいなんだ。僕が調べてわかったことはこのぐらいかな?」
ユーノが言葉を切ると、ヴィータが口を開く。
「あのよう・・・・・ユーノを疑うわけじゃねえんだけど、その情報は信用できるのか?結局は管理局が集めた情報だろ?」
ヴィータはそう問いかける。
「ああ。それは信用できると思うよ」
そう言ったのはユーノだった。
「実際に無限書庫を利用してわかった事だけど、噂通り殆ど整理されてなかったんだ。そんな状態で、1つ残らず闇の書の情報だけを改変するのは難しいと思うよ」
「そっか・・・・・」
ユーノの言葉に、ヴィータは若干気落ちした雰囲気を見せる。
いや、ヴィータだけではない。
シグナムやシャマル、ザフィーラも暗い雰囲気を漂わせている。
主の為にと完成させてきた闇の書が、結果的に主の命を奪う事に繋がっていたのだ。
守護騎士達の中では、信じていた者に裏切られた気分なのだろう。
「大丈夫だよ」
ユーノがヴィータにそう声をかけた。
「え?」
ヴィータが顔を上げる。
「ユウが何とかしてくれる」
ってコラ!
人任せかよ!?
「今までの付き合いで分かると思うけど、ユウってば凄い後ろ向きの性格をしてるんだ。だから、出来ない事を出来るなんて言う見栄を張ったりしない。だから、ユウが何とか出来ると言ったら、本当に出来るってことだよ。だから大丈夫。はやてはきっと助かるよ」
ユーノはそう言ってヴィータに微笑みかける。
あ、ユーノの微笑みを見たヴィータの顔が真っ赤だ。
っていうか、ユーノの奴は気付いてるのか?
すると、ヴィータは照れた顔をユーノに見せないようにするかのごとく俺の方を向き、
「おい!ユウ!ユーノがここまで言ってるんだ!アタシもテメーの事を信頼してやる!だから・・・・・だからゼッテーにはやてを助けろよ!いいな!?」
そう叫んだ。
「まあ、助けられるかどうかのキモははやて自身だけど・・・・・はやてが運命に打ち勝ったのなら、後は俺が片付ける」
俺はそう応えた。
「今の言葉、忘れんなよ!」
ヴィータはそれで満足したのか、そう言って踵を返す。
闇の書のページ、残り約60ページ。
決戦の時は近い。
あとがき
結構やりたい放題やった二十三話の完成。
相当時間が進みました。
ここまで急いだ理由は2つ。
1つはネタが無かった事。
もう1つは、あのままグダグダやってると、更新が止まりそうな気がしたからです。
今回は短めですが、次回から、闇の書の最終決戦へと入ります。
さて、皆様が満足できるものを書けるだろうか?
ともかく次も頑張ります。