第二十一話 守護騎士達の思い。
【Side なのは】
シグナムさん達との模擬戦から一週間。
ユウ君は、毎日夜遅くまで蒐集に行っています。
そのせいで睡眠不足があるようで、授業中にうたた寝してます。
そんなユウ君を見ている事しか出来ないのが悔しくてたまりません。
きっと、フェイトちゃんも同じ気持ちです。
でも、魔力を蒐集されてしまったので、今の私達にはどうする事も出来ません。
そんな思いを持ったまま、今日も学校が終わりました。
ユウ君は、何時も直接はやてちゃんの家に向かってます。
因みに闇の書のことも、お父さんやお母さん達には説明済みです。
当然口止めはしてありますが・・・・・
その時に、お母さんとお父さん、お兄ちゃん、プレシアさんに説教を受けてたのは、当然だと思うの。
その日、リニスさんからデバイスの修理が終わったとの連絡があり、私と桜お姉ちゃん、フェイトちゃんはリニスさんのところにデバイスを受け取りに行きました。
「はい。とりあえず、3つとも修理は完了しました」
そう言って、リニスさんは、デバイスを差し出してきます。
「ありがとうございます」
私達は、それを受け取って、お礼を言いました。
「感謝はユウにしといてくださいね。デバイス達の修理に使った部品代は、ユウが財産から出してくれたモノですから」
そのリニスさんの言葉を聞いて、私達は驚きます。
「ユウは、本当にあなた達の事を心配してくれてるんですよ。その証拠に、今渡した3つのデバイスには、ある機能が追加されています」
「ある機能?」
リニスさんの言葉に、フェイトちゃんが首を傾げます。
「あなた達が守護騎士に負けた理由は、大きく2つあります。それが何か分かりますか?」
リニスさんは、そう質問してきます。
「え、え~っと・・・・・・」
私は、あの時は必死でそんなことは何も考えていませんでした。
でも、
「主に武器の差と、経験の差ね」
桜お姉ちゃんが、あっさりと答えました。
「正解です。守護騎士達は、長い年月を戦い続けてきた、百戦錬磨の達人達です。その経験は簡単に覆せる物ではないでしょう。そして、もう1つ、彼女達の使う魔法は、ベルカ式と呼ばれる物です」
「ベルカ式?」
「はい。私達の使う魔法は、ミッド式と呼ばれ、主に中遠距離を中心に、オールラウンダーに戦うものです。しかし、ベルカ式は、遠距離や広範囲攻撃をある程度度外視して、対人戦闘に特化した魔法です。そして、そのベルカ式の一番の特徴は、カートリッジシステムと呼ばれる機能です。儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に爆発的な破壊力を得るものです」
その話を聞いて、私はヴィータちゃんのデバイスが、薬莢のようなものを排出した所を思い出しました。
その直後の攻撃で、プロテクションを破られて私は負けたの。
「もしかしてあれが・・・・・・」
私は思わず呟きます。
「そのカートリッジシステムを、あなた達のデバイスに組み込みました」
「「えっ?」」
リニスさんの言葉に、私とフェイトちゃんが驚きの声を漏らしました。
「これもユウの要請です。あなた達には、必ず必要になるものだから、だそうです」
「ユウ君・・・・・・」
ユウ君、ちゃんと私達のこと、考えてくれてるんだ。
「ですが、プレシアはカートリッジシステムを組み込むことは、最後まで渋っていましたけど・・・・・」
リニスさんはそう呟きます。
「え、どうして・・・・?」
フェイトちゃんが疑問の声を漏らしました。
「カートリッジシステムは、身体への負担が大きいのです。使い始めは平気かもしれませんが、負担が蓄積されて、数年後には大きな事故へ繋がる可能性もあるのです。あなた達のような、身体が出来ていない子供は特に」
私達は、その話を真剣に聞いています。
「ですから、今回の闇の書の件が片付いたら、しっかりと検査を受けてもらいますからね!」
リニスさんは、真剣な顔でそう言いました。
「「「はい!」」」
私達は、しっかりと頷きます。
それじゃあ、早速・・・・・
「待ちなさい」
「にゃ・・・・・?」
私が動き出そうとした所を、桜お姉ちゃんに首根っこを掴まれて止められます。
「どうせなのはの事だから、守護騎士にリベンジしに行くつもりだったんでしょ?ついでにフェイトも」
「え・・・・・」
「う・・・・・」
見事に図星でした。
「アンタ達は・・・・・」
桜お姉ちゃんは呆れたように呟きます。
「アンタ達は、さっきのリニスの話、ちゃんと聞いてた?確かに武器のハンデは無くなったのかもしれないけど、まだ経験の差があるわよ。しかも自分のデバイスの性能も確かめずに。このまま行っても、デバイスの性能に振り回されて、この前の二の舞になるのがオチよ」
桜お姉ちゃんの言葉に、私達はシュンとなります。
「・・・・・・というわけで、1ヶ月間みっちり修行するわよ!」
桜お姉ちゃんの思いがけない言葉に、私とフェイトちゃんは思わず顔を上げました。
「私だって納得してるわけじゃないのよ。みんなでユウを見返してやりましょ!」
桜お姉ちゃんの言葉に、
「「うん!」」
私とフェイトちゃんは頷いた。
【Side Out】
【Side シグナム】
蒐集を開始して、一週間ほどが経過した。
現在の闇の書のページは、約80ページ。
その内の約60ページは高町姉妹とテスタロッサのものだが・・・・・・
3人を蒐集した時は、驚いた。
未熟だが、潜在能力は高そうだ。
成長した暁には再戦したいものだ。
蒐集そのものは、今のところ特に問題は無い。
まあ、我々が蒐集する生物を1匹仕留めている間に、ユウが5匹ほど仕留めていて驚いたのは記憶に新しい。
しかし、戦う時のユウの顔は辛そうに見える。
戦う事自体が怖いのか、それとも相手を傷つける事が怖いのか・・・・・・・
アイツの心は、正直言って戦士のものではない。
最高の戦士の資質を持っていながら、戦士に向かぬ心の持ち主。
だが、そんな心の持ち主でありながら、我らが不意打ちなどで危険な目に遭うと、一目散に飛んできてその状況を打破する。
ユウは、仲間が傷つく事を嫌がって・・・・・いや、恐れていると言っていい。
ユウの過去に何かあったのだろうか?
私を負かした男だからか、何故か気になる。
機会があれば、聞いてみるか・・・・・・・・
【Side Out】
【Side ヴィータ】
アイツの第一印象は、怪しい奴だった。
はやての近くに居る魔導師。
しかも、あたし達全員を手玉に取るほどの実力。
おまけに、闇の書のことも詳しすぎる。
管理局の回し者だって、疑わない方が無理だ。
アイツの言っていた闇の書の真実を全部信じた訳じゃないけど、蒐集することに変わりなかったから、とりあえず様子見にしておく。
でも、この一週間のアイツの様子を見て、少なくとも悪い奴じゃないという事はわかった。
何よりも、はやてが信頼してるし。
でも、はやてがアイツの事を好きって聞いたときには驚いた。
アタシには良く分からない感情だけど、はやてがアイツの事を話すときには、とても嬉しそうな表情をしている。
そういえば、アイツと戦った時に吹っ飛ばされたアタシを治療してくれた奴・・・・・・
たしか、ユーノって言ってたっけ?
そいつに助けてくれた時の礼をまだ言ってなかった。
はやても、「助けてくれた相手には、ちゃんとお礼を言わなあかんよ」って言ってたしな。
でも・・・・・・なんて言うか、アイツにやられて気絶してたアタシが目を覚ました時、ユーノはいきなり「大丈夫だった?」って笑顔を向けてきた。
なんかしらねえけど、思わず顔が熱くなった。
それ以来、ユーノの顔を見るたびに何でか顔が熱くなる。
そのせいで、礼を言おうと思っても上手く言えない。
今までこんな事なかったのに・・・・・・
如何しちまったんだろ、アタシ・・・・・・
【Side Out】
【Side シャマル】
蒐集が始まって一週間。
ユウ君の発案で、管理局に気付かれないように、蒐集した生物は治療し、ユウ君が魔力を与えて直ぐに回復させるようにしている。
確かにそれなら直接蒐集の現場を見られない限り、管理局に気付かれる可能性は低いだろうけど、ヴィータちゃんは、「めんどくせー」ってグチを言いながらやってる。
私も最初はユウ君も管理局に見つからない為だけにやってると思っていた。
でも、それは違った。
私もユウ君と一緒に蒐集した生物の治療を行なってる時に気付いた。
ユウ君は、回復させた生物達に、「大丈夫か?」とか「いきなり襲ってゴメンな」と、謝りながら治療している。
そして、生物達が元気になって自然に戻っていくと、ユウ君は、それを優しく微笑みながら見送る。
本当に嬉しそうに・・・・・・・
それを見て、私は彼が本当に優しい人なのだと分かった。
ユウ君が生物達を回復させるのは、管理局に見つからない為とかそんなのじゃない。
単純に、生物達が心配だからだ。
確かに蒐集そのものでは限界以上に魔力を搾り取らなければ命に関わる事は無い。
けど、自然界は弱肉強食。
蒐集によって弱った所を外敵に襲われたら一溜まりも無い。
私は、何となく「優しいのね」と呟いたら、「単なる偽善だよ」と彼は言った。
確かに見る人が見ればユウ君のやっている事は単なる偽善なのかもしれない。
でも私は、傷つけた生物達を放っておくよりも、自分で傷つけた生物達を助けて善人振るよりも、自分の行なった罪を認めて、受け止めるユウ君の姿は、とても立派に思えた。
私は、そんなユウ君を見て、自然と微笑む。
その時心に生まれた感情に、私はまだ気付いていなかった。
【Side Out】
【Side ザフィーラ】
蒐集を始めた我々。
だが、ユウの実力はやはり群を抜いている。
我らの将であるシグナムや、突撃隊長とも言えるヴィータも当然ベルカの騎士の中では突出した実力を持っているが、ユウの前では霞んでしまう。
戦いの技術だけで言えば、ユウはまだまだ荒削りで隙も多い。
だが、身体強化によるパワーとスピードは、その隙を埋めても有り余るほどの力を持っている。
それは全て、ユウの持つ莫大な魔力による賜物だろう。
例え、完成された闇の書の主ですら、彼に敵うかどうか・・・・・・・
正直、彼を蒐集すれば、闇の書のページが全て埋まるだろうと思う。
彼ほどの者なら、その位は気付いているだろう。
しかし、何か理由があるのか、彼はそれを言い出さない。
そうでなければ、主の命の危機とあらば、自分から蒐集してくれと言い出すだろう。
彼はそういう男だ。
まあ、何を考えているのかは分からないが、心配することは無いだろう。
主はユウを信頼している。
ならば守護獣である我が彼を信じなくて如何する。
だが、主云々は抜きにしても、彼は信用できる。
何となく、そんな気がする。
【Side Out】
【Side クライド】
私は気になっていた。
利村 ユウ。
本名は、ユウ・リムルート。
リムルート・・・・・・それは、生前の友人と同じファミリーネーム。
気になった私は、彼と2人きりになったときに尋ねた。
「ユウ君、君の父親は、レイジ・リムルートかい?」
私の質問に、
「え? ええ、そうですけど・・・・・父さんとは知り合いだったんですか?」
少し驚いた顔をしてそう聞いてきた。
「ああ。彼とは友人同士だったんだ。母親は・・・・・・」
私がそう呟くと、
「リーラって聞いたことあります?」
母親であろう名前を口にしたので、その名前を思い出す。
「リーラ・・・・・・・そういえば、リンディの友人にいたな・・・・・・そうか・・・・・彼女が母親か」
「はぁ?・・・・・・知らなかったんですか?」
ユウ君は、ちょっと呆気に取られたような表情で問いかけてくる。
「ああ。私が生きていた時には、レイジに恋人が居るという話は聞いていなかったからな」
ユウ君はそれを聞くと、
「・・・・・ってことは、クライドさんが闇の書に吸収されたのが11年前・・・・・・・・クロノは当時3歳で俺とは5歳差だから俺が生まれる2年前・・・・・・・・つーことは出会って1年程度で・・・・・・ヘタすりゃ出会って即行で結婚したってことか・・・・・・・・」
なにやらブツブツと呟いている。
「所で、レイジは元気にしてるかい?」
私は、気軽に尋ねてみる。
「・・・・・・・・・・」
その途端、ユウ君の表情が重くなった。
「すみません・・・・・両親は、もう・・・・・・・」
その言葉で悟った私は、
「すまない・・・・・軽率過ぎた・・・・・・」
頭を下げて謝罪をする。
「いえ・・・・・友人であれば、気にするのは当然ですから・・・・・」
彼はそう言って、無理に笑顔を作る。
「・・・・・今度、2人の墓前に挨拶しに行ってもいいかな?」
私はそう尋ねる。
「はい、そうしていただければ、2人もきっと喜んでくれます」
ユウ君もそれに頷いた。
・・・・・・その為にも、闇の書の問題を早く解決させなければな。
私は、その決意を胸に、気持ちを切り替えるのだった。
あとがき
結構やりたい放題な二十一話の完成。
多少短いですがすみません。
ネタが思いつかなかった。
やっぱり自分はこういうイベントとイベントの合間の話が苦手です。
盛り上がる所と盛り上がらない所の差が激しいと言いますか・・・・・・・
書いててテンションが上がりません。
バトルとかなら、結構ノリノリで書くんですけど・・・・・・・
とりあえず、ユウがシャマルフラグを立て、シグナムにも若干立てました。
ユーノもヴィータフラグを立てましたね。
如何するか迷った挙げ句、ユーノのお相手はヴィータで行こうと思います。
さて、なのは達の修行ですが・・・・・・結果は次回をお楽しみに。
では、次も頑張ります。