プレシア・テスタロッサは逃げてしまったけれど、フェイトさんはもちろんアースラのクルーでさえもジュエルシードを――『ジュエルシードの実物を見ていない』ので……
「ジュエルシードを捜索中、『次元漂流者』を保護したという形になったわ。」
「……ありがとう。」
「わかりました。」
リンディさんが『次元漂流者のフェイト・テスタロッサ及びその使い魔のアルフ』の保護者になる事で1つの決着をつけてくれました。
「この為、『あなたの母親がジュエルシードを探していたという事実』は無かった事になるから、管理局の力で捜索する事は出来ないという事は頭に入れておいてね?」
「……はい。」
フェイトさんは最初落ち込んでいたそうだけど
「フェイト、管理局に入って偉くなればあの女の情報が入ってくるかもしれないよ?」
アルフさんの言葉で立ち直ったそうです。(リーゼさんたちに「フェイトさんが落ち込むようならこう言えばいいよ。」とあらかじめ教えておくように言っておいたのです。)
「あの子は今、管理局に入る為の学校に入る為の勉強をしているよ。」
「へぇ……」
ロッテさんは翠屋の常連です。
「アースラのクルーを口止めするのは、正直すごく大変だったんだけど、万が一、億が一、ヴォルケンリッターがあの子のリンカーコアを収集すると闇の書を消滅させるのに不都合が生じる可能性があるって2人が言うから、お姉さんは頑張ったんだよ。」
「それはそれは、お疲れさんやったね。」
「それじゃあ、このケーキは私の奢りって事にして上げます!」
アリアさんはフェイトさんの教師役をしているそうです。
「それよりも、闇の書の方はどんな感じだい?」
「うん、なのはちゃんの都合もあるからな。
夏休みに入ったくらいで皆が出てくるようにしてるよ。」
「わかった。 それじゃあ、なのはさんが夏休みに入ったらアースラに行こうか。」
「わかりました。」
「了解や。」
なんで、アリアさんもロッテさんも……
リンディさんもクロノさんもエイミィさんも、私の事を『ちゃん』じゃなくて『さん』づけなんだろう?
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「それを信じろと言われてもな……」
「まあ、気持ちはわかるけどね。」
夏休みが始まった翌日、ヴォルケンリッターの皆さんが闇の書から出てきました。
「あれや、闇の書の蒐集が終わった後、自分らが何してたか憶えてる人はおるか?」
「蒐集が終わった後……?」
はやてちゃんがヴォルケンリッターの皆に決定的な質問をする。
「憶えていないんだろう?」
「皆さんの気持ちはわからないでもないけど……」
もちろん、クロノさんとリンディさんも4人の説得に参加しています。
「なのはさんが闇の書の管制人格を起こしたらそれで話は終わりなんだけどね。」
アルフさん、ぶっちゃけすぎです。
というか、ご主人さまであるフェイトさんと一緒に居なくていいの?
「シグナム、ヴィータ、シャマル。」
「なんだ?」
「なんだよ?」
「なに?」
ザフィーラさん?
「此処が管理局の艦の中で、しかも主が管理局の側に居るのだ。
そのうえ、そこの少女が闇の書の管制人格を起こせば事の真偽がわかるという。」
「む。」
「それはそうだけどよ……」
「はぁ……」
「今は主と――そこの提督の話をきちんと聞いておくのが良いのではないか?」
かっこいい……
「俺はこの少女が管制人格を改ざんしないか見張っておく。」
あ、信頼はしてくれないのか。
「……わかった。」
「しゃーねーなぁ……」
「それじゃあ私は――主が洗脳されていないか調べさせてもらおうかしら。」
……もう、好きにしてください。
それから5時間後、やっと管制人格を呼び出す仕事が終わったので、私は家に帰る事に。
「それじゃあ、後ははやてちゃんが頑張ってね?」
そう、私にできるのは闇の書の管制人格を呼び出す事まで。
闇の書の『バグ』を吐き出させるのははやてちゃんの仕事なのです。
「……うん。」
はやてちゃんは少し不安そうだ。
私も闇の書が消滅するまで一緒にいたかったんだけど……
リンディさんがアルカンシェルを搭載している他の艦にヘルプを要請したから私はアースラにいるわけにはいかないそうです。
地球――第97管理外世界において謎の傀儡兵が多数現れた事と、その傀儡兵たちをすごい魔力砲を撃って破壊した謎の存在『ミスト』の存在は流石に隠せなかったので、私がアースラに居ると色々と面倒な事になっちゃうとかなんとか……
「はやてちゃん。
私、夏休みの宿題をパパっと終わらせておくから――」
「え?」
何を言っているのか分からないという顔のはやてちゃんに、言葉を続ける。
「はやてちゃんも、シグナムさんたちと一緒に暮らす為の手続きを――リンディさんたちに任せられる事は全部任せちゃうくらいのつもりでささっと終わらせてね?」
私の言いたい事わかるよね?
「ぁ…… うん!
ささっと全部終わらせてくるから、夏休み、一緒に、遊ぼうな!」
はやてちゃんは、やっぱり泣き虫だなぁ。
アースラから戻った私はアリサちゃんとすずかちゃんと一緒に勉強会――それぞれの得意な教科を教え合う――をして7月中に宿題を終わらせました。
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バリアジャケットの上からさらに宇宙服という組み合わせで辺境世界の宇宙空間をえっちらおっちらと進む。
『はやてさん、その辺りでいいわ。』
「そう?
なら、ここで吐き出させるわ。」
リンディさんが呼んだアルカンシェル搭載艦(名前がアースラと比べて長くて覚え難い)のブリッジから聞こえた声に従って、私は右手に持っている闇の書――管制人格が上半身を出している――にあらかじめ詠唱しておいた魔法を使う。
『はやて、吐き出させる方向はあっちだからな。』
隣で私と同じようにバリアジャケットと宇宙服を着ているクロノ君が指示を出した。
「了解や。
ほな、GOや!」
私の合図で管制人格がとっても苦しそうな顔でバグを吐き出した!
「おえっ!」……宇宙空間やから声はしないんやけど、たぶんそんな声を出したと思う。
『よし! いくぞデュランダル! 《エターナルコフィン》』
吐き出された『バグ』をクロノ君が凍らせる。
蒐集をしていないので殆ど力を持っていない『バグ』やけど、これで絶対に動けない。
『はやて、艦に戻るぞ!』
「了解や!」
私たちが艦に戻ってブリッジに着いたら、すでにアルカンシェルが『バグ』を消滅させ終わっていた。
「これで、後はあんたと闇の書を消滅させたら終わりなんやね……。」
「ええ。」
『バグ』を消滅させたその日の夜、私は管制人格と最後の……
「本当はあんたも助けたい。」
でも、私にはその力が無い。
「主の気持ちはわかっています。
長い時を生きた主の師匠ですら、私を救う事は出来ないのですから……」
気に病む事は無いと?
「……師匠に言われた通り、私はあんたに名前を付ける事もしない。」
愛着や執着は、闇の書の消滅させる為には……
「それでいいのです。
私はたくさんの世界を滅ぼしながら、長い、長い時を……」
だから、消えてもいいと?
「最後の主が、あなたのような人で良かった。」
そうなんか?
本当に良かったんか?
「私は、あんたの事を忘れへん。
名前もつけないし、会って3日もしないうちに別れるけれど……」
絶対に忘れない。
「……ありがとうございます。」
翌日、何も言わずに別れた。
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「フェイト・テスタロッサです。」
「八神はやてです。」
シグナムたちと一緒に暮らす為に管理局の本局に来たんやけど……
リンディさんとクロノ君に紹介された、本当ならジュエルシードを集めるのをなのはちゃんと競い合う事になっていたというフェイトさんはえらいべっぴんさんやった。
「久しぶりだね。」
「久しぶりやね、アルフさん。
フェイトさんもアルフさんも、手続きが終わるまでよろしうな。」
「うん。 よろしくね!」
「後で後でザフィーラたちも来るんだろ? 今の内に部屋を片付けておこうか。」
4人はエイミィさんと一緒に来るはずなので(私の手続きはリンディさんとクロノさんが、シグナムたち4人の手続きはエイミィさんがしてくれているので)、リンディさんとクロノ君、フェイトさんとアルフさん、そして私の5人で部屋――というよりも家中の片づけをしながら5人を待つ事になった。
「フェイトさんは管理局に入るんやよね?」
「うん。」
「私も管理局に入るつもりなんよ。」
「そうなの?」
「まぁ、私が目指すのは無限書庫の司書やけどね。」
読書が好きならって、師匠が勧めてくれたんやけどな。
「無限書庫?」
師匠曰く、管理局の重要な部署やけど教わった読書魔法があれば楽ができるそうやし?
「そうや。
まぁ、第97管理外世界に戸籍とかしがらみとかあるし……すぐにってわけやないんや。」
「んん?」
「要するに……
私が管理局に入る時はフェイトさんは管理局に関しては先輩なるわけやから、よろしうなって事や。」
「あ、そっか。 私ははやての先輩になるのか。」
……フェイトさんはちょっと天然かもしれん。
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8月も残り半分……
「はやてちゃん……」
アリサちゃんの家から帰る途中、未だに帰ってこない親友を想う。
「夏休みももう終わっちゃうのに……」
少し、泣きそうになる。
「ただいま。」
「おかえり。 遅かったな?」
家に帰るとお兄ちゃんが玄関に居た。
「あれ? 今からお出かけなの?」
「ああ、忍に呼ばれてな。」
「へぇ……」
「それじゃあな。」
「ただいま。」
「おかえり。 もうすぐご飯だから、手を洗ってきなさいね。」
「うん。」
お母さんはお夕飯を作っていた。
「なのは、今日は少し遅かったな?」
「ちょっとね。」
夕焼けを見ながらぼーっとしていたなんて言えない。
「もう少し遅くなるようなら電話しなさい。 迎えに行くから。」
「うん。 わかった。」
……お父さんは少し過保護だと思う。
「最近、何かあったの?」
「え?」
私がお風呂に入っていると、お姉ちゃんが一緒に入ろうと言って入って来た。
「何かあった――っていうより、何もないっていうか……」
「お姉ちゃんに話せない事?」
「……はやてちゃんが、親戚のグレアムおじさんのお家からまだ戻ってこないの。」
はやてちゃんの主治医である石田先生にもそういうふうに説明にしてある。
「はやてちゃん……
ああ、イギリスに行ったって言う友達の事ね。」
「うん……」
夜、どうしても眠れないのでバリアジャケットの認識障害機能を全開にしながらゆらゆらと、時には目も開けられないくらいの速さで、ひたすらに空を飛ぶ。
「はぁ……」
最近使っていなかった魔力を思い切り使った事で少しすっきりしたので自分家の屋根の上で休憩を取る。
「はやてちゃん、早く帰ってこないかなぁ……」
ううん、会いたいのははやてちゃんだけじゃなくて……
今回はあまり話せなかったけど、シグナムさんをお兄ちゃんに会わせてあげたい。
ヴィータちゃんと一緒にアイスクリーム屋さん巡りをしたい。
前回と同じようにシャマルさんにお料理を教えたい。
ザフィーラさんをモフモフしたい。
「会いたいなぁ……」
「私も、会いたかった。」
え?
「はやて……ちゃん?」
「うん。 なのはちゃんのバリアジャケットの認識障害を看破できるのは私だけや。」
「はやてちゃん!」
私ははやてちゃんに飛びついて、はやてちゃんは私を受け止めてくれた。
「ちょっと、予想以上に手続きが面倒でな? 時間かかってもうてん。」
「いい…… ちゃんと、帰ってきてくれたから……」
一度も連絡をくれなかった事だって許しちゃう。
「突然何もいない場所に話しかけたと思ったら、にゃのはがいたのか。」
「管制人格の事だけでもすごいのに……」
「こんなバリアジャケットを纏えるとはな。 ぜひ一度手合わせしたいものだ。」
「……」
シグナムさんには早い内にお兄ちゃんに会ってもらおう。
「みんなも、お帰りなさい。」
「……こう言っては何だが、夜天の書から出たのがアースラの中だったから、帰って来たという気はしないのだがな? まぁ、ただいまと言っておこう。」
夏休みは後2週間くらいしかないけれど、私たちの楽しい夏休みは始まったばかりだ!
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