その日の私、高町なのはの朝は、たまたま休みを取れて遊びに来ていたユーノくんと、一緒に朝ご飯を食べることから始まりました。
それから私は仕事があるのでヴィヴィオをユーノくんに任せて仕事に行きます。
「行ってくるねヴィヴィオ、ユーノくん」
私は玄関まで見送りに来てくれた二人に振り向きます。
「いってらっしゃいなのは」
「なのはママいってらっしゃい!」
二人に見送られて私は家を出て仕事場に向かいました。
それがユーノくんとの最後の会話になるとは知らずに……。
急ぐ。急ぐ。ただ急ぐ。
飛行魔法を限界まで使って飛ぶ。その目的地は病院。仕事の途中で入ってきた報告を強く嘘だと願いながら。
病院に降り立ち、すぐティアナが待っていた。彼女は私を見ると悲しそうに、そして申し訳なさそうな表情になる。
お願い、ティアナ。そんな顔しないで。だって、そんな顔をするってことは……
彼女はこっちですと言って案内する場所は病室じゃなかった。手術室。そこに赴くまでの廊下は冷たく、まるでこれからの運命を暗示するよう。そしてその部屋はランプが付いて使用中だとわかる。その前の椅子にはフェイトちゃん。
フェイトちゃんは私に気づくと泣きそうな顔でごめんね。ごめんね間に合わなかった。と謝ってきた。フェイトちゃんは謝る必要なんてないのに。
そして、ランプが消えると、中から真っ赤に染まった医者が出てきた。そして、たった一言。残念ですが……。そう言った。
霊安室。そこで私は彼と再び対面した。今朝、何気ないことで笑い合った相手。幼馴染であり魔法のお師匠様であり、たぶん……一番仲の良かった異性。
ユーノくん……
その身体はもう冷たい。当然だ。だって、もうユーノくんは……
「いや……」
認めたくない。でも目の前に突きつけられたのが真実。そう、ユーノくんは、
「いやァァァァァァァ!!」
死んでしまったのだから。
死因は全身の切り傷による出血多量。病院に担ぎ込まれた時にはすでに手遅れだったらしい。
犯人は聖王教会の過激派のテロ組織。聖王教会からも異端視されている連中で、その目的は……ヴィヴィオ。復活した聖王として祭り上げるつもりであったと思われている。
そして、ヴィヴィオを浚うため押しかけてきた二人は邪魔なユーノくんを排除してヴィヴィオを手に入れようとしたが、Aランクの魔道師であるユーノくんに手間取りその間に駆け付けた捜査官たちによって一人が逮捕。下手人である一人は逃亡の身。
そう、逃亡……まだ捕まっていない。
一方のヴィヴィオは駆け付けた捜査官たちに保護されている。私が面会に行った時にはショックで何もしゃべれない状態で、表情も虚ろ。あんなに元気だったのに大切な娘がこうなってしまったことは非常に悲しい。
私は上司から与えられた臨時の休暇の間、出来うる限りヴィヴィオと一緒にいてあげた。
だけど……
「ここ……だね」
私はある古びた倉庫の前にいた。
私が独自に調べたところ、今過激派の実行部隊がここに潜伏していることが分かっている。
私はレイジングハートを握りしめる。ここにユーノくんをあんな目に合わせた人が……
『……マスター』
レイジングハートは心配そうに問いかけてくる。大丈夫と私は答える。
「いくよレイジングハート」
今から私がするのは最低の行動。ユーノくんも決して喜ばないこと。だけど、
『……了解しましたマイマスター』
若干遅れてレイジングハートは答えてくれた。
ありがとうレイジングハート。小さく、聞こえないくらい小さく大切なパートナーに呟いた。
突然の襲撃に実行部隊は驚愕し恐怖した。
襲撃者はたったの一人。だが、そのたった一人は一騎当千と名高い管理局のエースオブエース、高町なのは。
そしてその戦いは戦闘などではなかった。一方的な虐殺である。
使用される魔法は噂に聞く桜色の光を放たず、暴徒鎮圧用の非殺傷設定ですらなかった。血のように紅く染まった魔力光を放つその魔法全てには必殺の意志が籠められていた。
「くそ! ちくしょう!」
男は悪態をつきながら次々と仲間が倒される中で逃走を図った。
彼とて非公式ながらAAランクだったが、相手はそんな自分でも手には負えないと理解できる相手。それ以外に手はなかった。
すでに聖王奪取という重要任務を失敗してしまった彼にはもう後がなく、この襲撃で組織からも見放されるであろうと考え、逃亡生活を覚悟していた。
だが、逃げる彼の前に壁を壊して立ちふさがったのは、マガジンが取り付けられた杖を握りその純白の衣を返り血で真っ赤に染めた女性だった。
そして彼を見た彼女はただ一言呟いた。
「見つけた」
そう、この男こそが彼女から大切なものを奪った存在だった。
男は恐怖した。そこにいたのは美しい見た目とは全く違うどす黒い何かを纏う地獄の悪鬼。
彼女は静かにその杖の先端を突きつけた。ひっと小さく悲鳴を上げる男。
男は這い蹲るように頭を下げた。
「お、俺が悪かった! た、頼む! 自首するからゆ、許してくれ!!」
ひたすら頭を下げる男に、だけども彼女は僅かに首を傾げ、
「許す?」
不思議そうに問い返した。
「あ、ああ! 組織についてもなんでも話すから! なあ!?」
男は顔を上げる。だが、その表情は固まった。目の前に立つ彼女に表情はない。だが、その無表情こそ彼女の滾る怒りと憎しみを表現するのにふさわしかった。
「私からユーノくんを奪っておきながら? 許して? すごく勝手だよね」
彼女はそう言って、予備のカートリッジを交換する。
そして……地獄の閻魔のような声でただ一言、
「絶対許さない」
判決を下した。
まずはバスターで逃げられないよう足を撃ち抜きました。
片足がちぎれてもう一方の足が曲がります。絶叫が上がり、男が身もだえます。
そして、身動きが効かなくなったところでストライクフレームで、ユーノくんがされたように体中を切り刻みます。
痛みにもだえながらまだ許しを請う男。まだそんなこと言ってるの? でも、あなたはユーノくんにそうしたんだよ?
だから許さない。そして、絶対にすぐに殺したりしない。ゆっくりと時間をかけて私からユーノくんを奪ったことを後悔させてあげる。
フェイト・T・ハラオウンは全力で現場に向かっていた。その速度たるや彼女の手にしがみついている補佐であるティアナすらも意識を手放しかけるほど。
彼女たちが急ぐ理由は、彼女たちの調査によって、テロリストの隠れ家と目星を付けたエリアの様子を伺っていた捜査官からの定時報告が突然切れたこと。
さらに悪い報告は続く。彼女の端末への不正アクセス、同時に消えた親友、定時報告が切れた捜査官の「たかま」までの言葉。
そして……そのエリアで観測されたS+ランクの魔力反応。
ここから想定される事態はもしかしたら起こるんではないかと危惧していたことでもあった。だけどそんなことあるわけがないと信じていたことであった。
だが願いは届かず、その危惧は正しく、現場は彼女にとって最も起きてほしくなかった事態となっていた。
フェイトたちが降り立った場所には廃工場はなく、瓦礫の山が広がり、そしてかつては人間だったものは物言わぬ屍となって転がっていた。
そして、その中心に虚ろな笑顔で笑い続ける親友の姿をフェイトは見てしまったのだ。
「あっ、フェイトちゃん遅かったね? みーんな終わっちゃったよ」
そう言って振り向いた彼女はどこまでも深い奈落のような瞳でワラッテいた。
その後、高町なのはは教導隊から除名。彼女は管理局を去り、養女ヴィヴィオと共に第97管理外世界『地球』へ渡る。
なお、ヴィヴィオを管理外世界に連れて行くことには聖王教会から強い反発があったものの、現在の心理的なダメージとそれによる魔法への拒否反応から魔法のない管理外世界での生活が望ましいという結論に至る。
この決定にはクロノ提督と騎士カリムの発言も大きかったという。
フェイトとはやては親友の様子を心配し、幾度か地球に赴くのだが、それでも彼女たちは親友の心に未だ燻る狂気の炎に気づくことはできなかった。
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思いつきで作りました。
ものすごく暗いスタートです。そして、すでに引き返せない領域に来てしまったなのはさん
次回、彼女が見つけた一つの答えです。
おかしな所がありましたらびしばしお願いいたします。