一方なのは達が事件のことを知ったその日のさつきはというと。
路地裏の某廃ビルで、毛布に包まっていたさつきは目を開け、しかしそのまま気だるげに寝返りを打った。
もう太陽は既に高く昇り、遅い起床となったさつきはやけに疲れた体に寝起きの頭で昨夜の出来事を思い出す。
復元呪詛の発動には体の設計図たる遺伝子情報が不可欠だが、使われるのはそれとは別の普通のエネルギーなのだ。
遺伝子情報は設計図にしか過ぎない。怪我の大きさなど関係ないのである。
これが死徒の体であればそのエネルギーは遺伝子情報と同じく吸血によって得られる生命力が使われるのだが、今は人間の体のため生命力を持ってかれると体力の方も辛くなる。
さつきはこれのお陰で食事等でも死徒としての能力用のエネルギーを補給できていたため、少し前までならエネルギーよりも先に遺伝子情報の方が尽きていたのだが、
今のさつきはついこないだ割と結構な量を吸血してしまったので遺伝子情報の方にはまだ余裕があった。
にもかかわらず極限状態になったらエネルギー補給のため吸血衝動が起こってしまうのだから困ったものだ。
少々脱線したがつまるところ今のさつきの状態は……
(ご飯食べて、ゆっくり休んで、適度に体を動かさないと死にそう……。
血も流しすぎちゃったからそれもあいまってダルイし……)
こんな感じで割とグロッキーという訳である。
ノソノソと体を動かしてご飯の準備に動き出そうとしながら、さつきは自身の左腕へと目を向けた。
体の状態は既に万全だ。これだけの時間が経過しており体を動かすだけのエネルギーが残っているということは、それは体は完全に復元し終わっているということに他ならない。
本当に復元呪詛というものは便利だ。今回のような怪我でなくとも体の倦怠感と引き換えに細やかな痛みの原因まで治ってくれるのだから。
しかしこれがもし片腕を無くしていたりしたらさつきは本当に干からびていたかも知れない。いやそれは流石に体の方がセーブをかけるか。
あの後、現場から逃げながらも早急に腕を傷口に押し付けてくっつけたのは正解だったと、さつきは何だかとっても眠いんだ状態の体を無理矢理立ち上がらせ動かしながら安堵した。
これ以上辛い状態なんて御免被る。
とてもじゃないが料理などする気も起きる筈がなく、さつきはそのまま食べられる食材を適当に口に運びながらグデーとする。
怪我の状態だけなら以前砲撃に吹っ飛ばされたりプレシアにドテッ腹を撃ち抜かれた時の方が重傷だったが、あの時はまだ割と早急にエネルギー補給が行われていたためここまで辛くはなかった。
(少ししたら翠屋に行こうかなぁ……ああでもあそこまで行くのも面倒臭いや……)
すっかりお気に入り&割と常連となった喫茶店に思いを馳せながら、しかし体を動かす労力を思い睥睨して諦めた。
どれもこれもあの人攫い集団のせいだ! とさつきは憤るも、それも無駄に疲れるので早急にやめにする。
それにもう"あっち"と関わるのは御免だ。自分はこれから許される限り普通の人生を送っていくのである。
しかしとは言ってもやはりそちらのことは考えてしまう。
まずさつきが一番気になるのは、結局彼らは何だったのかということだ。
魔導師という存在であることはほぼ間違いないだろう。だが何故この世界にそんなのがまだ居るのか。
あの時は色々焦っていたためよくよく考えもせずに否定したが、やはり一番ありそうなのは時空管理局の人間だろうか。
あの事件はさつきの考えていたより大事で、その事後処理に今の今まで追われていて、だからさつきも今はまだ放置されていて、
その過程で子供の誘拐紛いのことも必要で、目撃者を殺すことも厭わない程に秘匿しなければならない……
(うん、無理がある)
仮に彼らが管理局の人間だとして、昨日遭遇した事態にそれっぽい理由を付けていくが、考えている最中にも突っ込みどころには困らなかった。
まずあの事件が終わって(終わったと思う)から早3週間だ。3週間かけて終わらない後片付けとか一体どんなものだ。
それにさつきは、言っては何だがあの事件において結構な重要人物だった筈であると自分でも自覚している。
あの事件に関わっていた管理局員ならば、さつきと相対した時点で恐らく何らかのそれっぽいリアクションをするだろう。
子供の誘拐紛いのことはまあいい。事件や魔法を目撃してしまった人の記憶をどうのこうのとか、ジュエルシードの影響を受けてしまった子の身体検査とか想像できることは割と色々ある。
しかしそこまでして隠したいことならばわざわざ夜の街を駆け回る必要など無い筈だ。彼らには転送装置があった筈なのだから。
結論、彼らは管理局の人間ではまず無い。とさつきが締めくくろうとしたところで、1つの考えが彼女の脳裏を過ぎった。
(ま、まさか、時空管理局のダークサイド……!)
お話の物語の中で良くある、司法組織等の巨大組織ではお決まりの闇の部分。
裏で違法だったり非人道的だったりな研究をしていたり、それの実験体に異世界の子供が丁度良かったり、表に気付かれる訳にはいかないから装置も使えず真相を知った者に対しては口封じも厭わない……!
などとさつきはノリのままにその想像を膨らませてみたものの、ふと「あれ?」となった。
(とか冗談で考えてみたけど、ちょっと現実的にしてみると割と無いこともないかも……)
例えば、下っ端の局員や傭兵(居るかどうかは知らないが)みたいなのが、撤退する世界からその前にと人攫いを慣行し、別世界で売り捌くとか……。
(……止そう)
さつきの心情的にはあの攫われてしまった子供を仮にも見捨てているようなものなのだ。
そういう方向への思考は心に暗い影を落とすだけだった。さつきは急いでそれらの思考を打ち止め切り捨てた。
とは言え即座に全くの別事へと思いを馳せる訳にもいかない。
自分の日常の近辺において危険人物達が現れたのだから、それについて思考を巡らすことは身の安全の為にも避けては通れない道だった。
しかし……
(うーん……)
しばし思考を巡らし、さつきは結論づけた。
(うんまぁ、向こうが口封じに私を探してるっていうのも多分無いだろうしもう遭遇しちゃうことは無いと思うけど、暫くは夜に出歩くの止めといた方がいいかなぁ。)
さつきの考えでは、一度完全に取り逃がしてしまっているのなら、そいつを口封じするよりもさっさと逃げてしまうだろうと思ったのだ。そもそもあの傷ならまず死んだと思われているだろうし。
それに無差別な人攫いなんてことを短期間のうちに同じような地区で行うことはあまり考えられない。
ただ矢張り不安というものは感じてしまうもので、さつきは今後の夜間の外出を控えることを決めた。
それにしても、新しいことを始めようとした当日にあの仕打ちからのこの決断とはと、食事を続けながら遠い目をするさつき。
(何というか、ツイてないなぁ……)
とりあえず、少し休んだら外出して体を動かそうとさつきは決めた。そうしないと気分も重くなるばかりだ。
結局その日は翠屋にも寄り、桃子とのおしゃべりにも興じたことで精神的な回復も見込めた。
日は翌日に進み、場所は月村邸。
月村忍は頭を悩ませていた。頭痛が痛いとはこういうことだろう。
なのはの元に現れた吸血鬼について尋ねる少女、それはなのはがすずかの友達だから探りを入れられたのだろうという結論に達したのだが、どうやらそうではなかったらしい。
なのはから吸血鬼という単語が出た時、忍は本当に驚いた。
遂にすずかが話すことが出来たのかという期待と、なのははそれをわざわざ自分の居る前で、恭也にバラそうとネタにするなどあり得ないと分かってはいても、確かめざるを得なかった。
そもそも恭也は夜の一族についてかなりのことを知っているのであの場においては問題なかったのだが、もしなのはがすずかが夜の一族であることを人にバラしたり話のネタにして笑うような娘であったなら、いくら恭也の妹でも許すつもりはなかった。
すずかがそれについて本気で悩んでいるのを知っているため、当然だ。
結局忍のその心配は案の定空振りだったわけで、恭也からも気持ちは分かるが訊き方がストレート過ぎだと窘められてしまった。
確かに少し冷静でなかったにしても、あそこですずかの名前を出してしまったのは明らかに失敗だったと忍も反省している。
まぁその事は今は置いておこう。忍の頭痛の原因はそれじゃない。
ノエルが、吸血鬼について尋ねて周る人物を目撃した。大声を上げるとか拡声器を使うとかビラをばら撒くとか、そんな風ではなく見た限り無差別に1人1人聞いて周っていたそうだ。
見つけられたのは運が良かったのだろう。町の中で特定の1人を、周囲に目立つ行動を取ってるでもなくその行動を見咎められたというのはちょっとした奇跡ではなかろうか。
まぁこの一件で夜の一族のことが明るみになるなんてことも、そもそも吸血鬼についての噂話が横行するというレベルの事態もまず無いだろう。
尋ねられた者達が噂話として広めるかも知れないが、そんな変人に絡まれたなどというあまり気分のいいとは言えない出来事を率先して言いふらすような者はそこまで居ないだろう。
せいぜいが友人同士のぼやき合いで持ち出して笑い話に使われる程度だ。噂話となるにしてもそれは変人の方でありまかり間違っても吸血鬼の方ではない。
(……違う、問題はそこじゃなくて)
忍はその話の頭の痛くなる部分にいやいやながら思考を向けた。
それは、その人物がなのはの言った人物とは似ても似つかないということだった。
合っているのは性別とロングヘアーだったということくらいだろうか。髪の色も年齢も、背丈さえもかなり異なっているらしい。
先程特定の1人をと言ったが、これが奇跡でも何でもない可能性があった。というかほぼ確定していた。
(1人じゃ、ないのね……)
ノエルが嘘を付くはずがないし、記憶違いなどもっとあり得ない。一方なのはの方の証言も、その証言通りの人物に心当たりがあるためこっちも正しいのだろう。
となると最低でも2人。いや恐らくはもっと、無差別に『吸血鬼』について尋ねまわってる者がいる。
そうでなければ自分の周りの人間がそう連続で遭遇するものか。相手が特定の場所に根を張っていて皆が日常的にそこを通るのならまだしもだ。
(一体、何がしたいのよ……)
そして結局、これが分からない。
自分達のことを探りたいにしても向こうは夜の一族の家系である月村家の場所を特定している筈である。
関係者かどうかを判断するためなら、『吸血鬼』ではなく『夜の一族』と言うだろう。
更に言うと、どうやら向こうは『吸血鬼』とはどういう生物なのか、根本的なところを尋ねているらしい。
そんなもの分かる訳がないだろう。そもそもが架空の生物とされてるし、様々な伝承や作品が飛び交い過ぎてて人類皆共通しているイメージといえば血を飲んで夜行性で日の光が苦手程度のものだ。
知らない方がおかしい常識的な知識なのに人によって持つイメージが違うという、そんなレベルで曖昧で常識的なことを尋ねて周っているのだ。
例え夜の一族の関係者が捕まったとしても「何だこいつ」で終わるし、一般人でもそうだろうから夜の一族の存在を世に暴露しようとしている訳でもない。そもそも尋ねているのは向こう側だ。
ならもう本当にただの変人なんじゃないかというと、そうも言ってられないのである。
何しろその片方は以前月村家に進入したと思われる少女である。ただの変人として切って捨てるなどできなかった。
更にもう1つあるのだが、ノエルの遭遇した方を彼女が隠し撮りしようとしたところ、その気配に気が付いたのか勢いよく振り向いて身構えたというのだ。
それだけではなく後ろを尾行していたところまんまと逃げられた上に尾行し返されたらしい。こちらも意地でも撒いてきたとやり切った顔で報告されたがそういう問題じゃない。
明らかに只者ではない。
(遂に流血沙汰にまでなってしまっている。私達の関係なら何とかしなくちゃいけないのに……)
何をしたいのか本当に分からない。
先が見えないならまだしもまるで先が迷路になっているのが見えてしまっているような状況に、忍は疲れた頭を休めるために背もたれに全体重を預けた。
彼女の懸念は、実はもう1つあるのだ。
それは昨日、忍が現場から帰宅した後のことであった。
すずかが、忍に事件の情報をねだったのだ。
あの事件に何かあると勘ぐられたことは、まぁ驚くようなことではない。
しかし、今まで夜の一族の関係に近づこうとしなかったあの娘に一体何があったというのか。
すずかが自分の体のことについてとても悩み、夜の一族という概念そのものに良くない感情を持ってきたことは知っている。
なのは達に打ち明けることで乗り越えたという訳でもない。
すずかも茶髪でツインテールの女の子に何か言われたのかと聞けば、すずかはそんな子自体に心当たりが無いという。
結局「すずかはまだ関わらなくていいこと」とやんわりと押し止めたが、
一体、この事件はすずかに夜の一族と向き合わせるだけの何があるというのか。
思い悩む忍の元へ、ノエルがやってきた。
「忍様、恭也様が参られました」
早急に呼び出した彼が駆けつけてくれたと聞いて、忍の心がほぐれる。
顔も緊張も若干柔らかくなり、立ち上がって自ら出迎えに行く。
これから話し合うことは、『吸血鬼』について尋ねまわっている者達への対応と、現状把握、そしてすずかへの対応。
特に謎の人物達に対する行動は、恭也に相談せずに動くことはできない。もう一度探し出して何らかのアクションを起こすにしても周辺を探るにしても、まず彼と相談してからだ。
いざという時、一番に頼ることになってしまうのは彼の力なのだから。
その頃、すずかは八神宅でお世話になっていた。
2人でソファーに並んではやてに愚痴を聞いてもらっている最中である。
「そんな感じで、結局何にも教えて貰えなくて……」
「はー、何や大変やなぁ」
2人の間には1匹の犬が寝そべっている。青い毛並みに白い毛先の雄の大型犬だ。その体躯ははやてやすずかよりも大きい。名前はザフィーラというそうだ。
犬を飼うことになったということは、すずかは事前に聞いていた。というより報告されたのはつい昨日の出来事だ。
すずかはそれを喜んだ。家の中でずっと一人ぼっちだったはやてだが、一緒に住んでくれる動物ができれば寂しさも和らぐだろうから。
実際に会ってみて、この大きさならその効果も大きくまた安心感も強いとすずかは感じた。はやてにとってとても良いことだと思った。
ザフィーラの背を撫でてその温もりを感じながら、すずかは昨日の出来事をはやてに話していた。
とは言っても流石に微に入り細を穿って説明などしていない。昨日の覚悟と決意による心の疲れと、何も教えて貰えなかった鬱憤を少しばかり吐き出させてもらっただけである。
はやての方もそれは分かっているので、何の詳しい事情も分かっていない自分の無駄なアドバイスとかはしない。
「でもなぁ、それなら完全に和解するにはまだ時間かかりそうやってことなん?」
「わ、和解って、そんな険悪な関係じゃないよ……。
でも、それは分からないかな。私がこうやって手を出そうとしている間に、なのはちゃん達の間だけで解決しちゃうかも知れないし。
実を言うとね、一体何がどうなってるのか、私は全然分かってないんだ。でも……」
その時見せたすずかの顔に、はやては嘆息したくなるのを抑える。
先程から何度か、すずかの話の中で言葉が途中で途切れてこんな表情を見せる時がある。それは悲しんでいるような、何かを覚悟しているような、そんな顔。
(罪な娘らやねぇ、なのはちゃんも、アリサちゃんも)
はやては思わず苦笑い。
「あー、それにしてもこんな時にみんな何処行っとるんやろ。折角すずかちゃんが来てくれはったのに」
「みんなって、一緒に住むことになったっていう親戚の人のこと?」
犬を飼うということ意外にも、すずかはもう1つ一緒に報告を受けていた。
それが、遠い親戚の人が訪ねてきてくれて無期限で一緒に住んでくれることになったということ。ザフィーラもその親戚が連れてきたのか、記念に買ってもらったかのどっちかなのだろう。
一気に家族が増えたことによる興奮と喜びは電話越しにも伝わってきて、あの時はすずかもつられて嬉しくなった。
それを思い出してすずかの顔にも自然と笑顔が零れる。ザフィーラの背中を撫でていた手が頭の方に伸び、その額をくしゃくしゃと撫で回した。
ザフィーラの目が気持ちよさげに細められるが、すずかは「あれ?」といった感じに少しキョトンとする。
「うん。3人とも今丁度どっか行ってしもーてん」
「親戚っていうと、グレアムおじさんの?」
グレアムおじさんというのは、はやてのこれまた遠い親戚であり現保護者である。
仕事の都合で海外に居るが、彼がはやての親が残した遺産の管理等を一手に引き受けてくれている。お陰ではやてはそっち関係のことは何も気にすることなく暮らせている。
「ううん、そっちとは別口や。ああでも、保障するけど絶対におかしな人達やあらへんで?」
「おかしな……? うん」
どうやらはやての言いたい事はすずかに伝わっていないようだった。
そもそもがまだ9歳、こんな境遇の為そういう方面へも知識のあるはやてはまだしもすずかには"そういう"人達が居るという発想事態が無いのだろう。
はやては自分の余計な失態を悟り笑って誤魔化した。
「とにかく、次来た時は全員しっかりと紹介させてもらうでな」
「うん、楽しみにしてるね。私達と同じくらいの女の子も居るんでしょ?」
「せやで! 皆で遊ぶのが今から楽しみやわ」
はやての言葉に笑顔で同意し、すずかはザフィーラの頭を撫でていた手を今度は顎下に持って行った。
ザフィーラは若干顎を持ち上げ、目を細める。その様子にすずかはふふっと笑い、手を背中の方へ戻した。
「賢い子だね、この子」
「せやろせやろ! でも、何で?」
ペットを褒められてご満悦のはやてだが、どこからその感想が出てきたのかを問いかける。
「だってこの子、私が頭撫でたり喉撫でたりした時ね、
あまり喜んでないのに、嫌がる様子どころか気持ちよさそうにしてくれてたんだよ」
「へー、そんなこと分かるんか」
「うん、触ってる感じとか仕草とかで何となくね。はやてちゃんもその内分かるようになるよ。
ごめんねーザフィーラちゃん、アリサちゃんならもっと上手にやれると思うんだけど」
「プッ……!!」
何が可笑しかったのか、いきなりはやてが吹き出した。
もう爆笑といった様子で顔を背けて必死に笑いを堪えながらソファーをバンバン叩いている。すずかは何かおかしなことを言ったかと目を丸くしていた。
「――ゲホッ、ケホッ……ふぅ、」
「えっと……? 何かおかしなこと言ったかな?」
「ああ、ううんすまんなぁそういうんじゃないんよ。ただちょっとな」
はやてが落ち着いたところを見計らってすずかが訪ねると、はやてはそう言って謝ったが顔はそれから暫くも笑ったまんまだった。
「でもそっか。アリサちゃん家ってワンちゃんいっぱい居るんだっけ」
「うん、だから今度集まる時はアリサちゃんの家にしようか。ザフィーラちゃんも連れて行けば、多分向こうでお友達も出来るだろうし」
「そやな、そう……あー、」
と、はやてはそこで数瞬詰まり視線をザフィーラの方へと暫し向ける。
何か躊躇うような理由があるのかとすずかが様子を伺っていると、はやては数瞬のうちにうんと頷いた。
「うん、そうさせてもらうわ。アリサちゃんがよければやけど」
「うん、大丈夫なの?」
「え、ああ。少しだけ不安なことがあったんやけどな、ちょっと考えてみたら何でもなかったわ。
でもそっちもええんか? 今アリサちゃんとなのはちゃんって……」
と、そこではやては一つの懸念を示す。
ついさっきまでそこら辺関係のゴタゴタの話を聞いていたばかりなのだから。
しかしそう返されたすずかは悩む様子もなくうんと返した。
「だからそういう喧嘩してるとかじゃないの。
お互いにお互いが大好きで、仲良しだから。だからちょっとすれ違っちゃってるだけで、2人ともお互いにそれも分かってるのに。
だから仲良しのまんまだよ。そのことが関係してくるとどうすればいいのか分からなくて、ちょっとギクシャクしちゃうだけで」
そして、その『どうすればいいか』は、相手のためを想ってのことであるのだ。
「………」
「――どうしたの?」
少し驚いたような顔で沈黙してしまったはやてに、すずかが不思議そうに訪ねる。
そんな無自覚なすずかの様子に、はやては柔らかな笑みを浮かべた。
「……ううん。ええなぁ、と思ってな」
◆◆◆◆◆
6月5日の夜、某所。例の四人組がまた集っていた。
「どうやら厄介なことになったな」
「ああ、情報の隠蔽が完璧な訳じゃねぇ。逆に情報を氾濫させて本物がどれか分からなくしてやがるぜこれは。
しかもそれだけじゃねぇ。吸血鬼って奴は人を襲う、それで襲われた方が殺されるにしても殺されてねぇにしても、ここまで架空の存在だと思われてるってことは」
「何か別の勢力があるわね。シグナム、今日つけられたっていうけど」
金髪の女性が、ピンクの髪の女性に確認する。
「ああ、私の尾行を撒いたのを見るとかなりの腕の者だ。矢張りシャマルのサポートを待つべきだった。
だが恐らくはそちらの別勢力の方だろう。大方吸血鬼に関して調べている我々を警戒したと見ていい。
吸血鬼は夜にしか活動できないようだからな」
「いくら偽情報をばら撒こうが、ミスリードするには限度がある。
その情報だけは、真実とみていいだろうな」
「しかしこれは仮定だが、恐らく吸血鬼という奴らは絶対数が少ない。
この世界は、そういう"空気"が薄い」
「ああ、それは私も感じた。あんな奴と日常的に会う可能性のある世界なら、いくら情報が隠蔽されてるにしてもこの空気は綺麗過ぎる。
少なくとも最初私達が危惧してたくらい大量に居るという訳じゃなさそうだな。下手するとこないだの奴一匹始末すりゃもう当分は会うこともねぇかも知れねぇ」
「この世界の情報を集めてみたけれど、やっぱり彼女の死体は見つかってないそうよ。
吸血鬼が噂通りの存在なら、腕を落としただけでは死なないでしょうね」
「吸血鬼の数が多そうなら、夜分だけ主の周囲を固めていれば良かったが、ここまで少なそうとなるとこちらから1匹でも狩っておきたいな。
十分に有効な可能性がある以上、こちらから打って出た方がいいと思うが」
「俺は賛成だ。露見している脅威を放っておく理由も無い」
「私も賛成だ。次は確実に仕留める」
「後々吸血鬼と戦うことになった時、その手の内を知っておいた方がいいわ。
即座に倒すことを優先するよりも、出来るだけ情報を引き出して倒しましょう」
「よし、ではこれから夜間は特に主の守りを固め、残りの者で奴を探すぞ。
存在すると見られるもう一つの勢力だが……」
「それに関してはあちらからのアプローチを待つしか無いだろう。シグナムの顔は見られているが、こちらには何の情報もない。
主に直接危害を加えようとしてくれば、俺が必ず盾となる」
「そうだな。主に危害を加えないのであれば捨て置けばいい。
主に害成すモノである可能性があれば切り捨てる、それだけだ」
◆◆◆◆◆
あとがき
書き溜めておいたのさ!\デデーン/
あ、次話はまだ書けてません。
食事による生命力の回復、これ公式でもやってます。ZEROでウェイバー君がやってました。