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No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
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[12606] Garden 第2話
Name: デモア◆45e06a21 ID:65d0f123 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/20 12:58
「ただいま、アリサちゃん、すずかちゃん」

そう言って、あの子は私たちのとこに帰ってきてくれた。
その言葉には嘘も偽りも見あたらなくて、やっと約束通り本当に帰ってきてくれたんだと喜んだ。

それからは以前のような日常が戻ってきた……とはいかなかった。
長い間あの子がかかわってきた何かは、やっぱりあの子に少なからず何かを残してきたようだ。
あの子は確かに帰ってきてくれた。
いつの間にかどっかに行っちゃいそうな、そんな感じはなくなったし、上の空になって私達のことが目に入ってないなんてこともなくなった。
でも、偶に遠い目をすることがあるのだ。それが穏やかなものな時もある。だが、それが何やら悲しげな、何かを後悔しているかのような時がある。
あの子がそんな思いをしているのを感じる度、悲しいような、わけもなく不安なようなそんな気持ちが胸をざわめかせる。何も知らないから、なおさら。もどかしい。
その不安が間違っていないとすれば、それはきっと、例のことで上手くいかなかったことがあったのだろうということになる。

その予感は、なのはが帰ってきてから二週間程経った頃に告げられたなのはからの言葉によって確信に変わる。
新しい友達を2人紹介したいというその言葉。
私とすずかに向かって放たれたその言葉は、私たちが密かに楽しみにしていたものであり、それとは少しだけ、内容が違った。

元々3人紹介できるかもと言っていたなのは。1人減った人数。
そのことについて言及したら、まだ諦めていないという。そこで今度こそ手伝えるかと息巻いたが、その反応は……







「ねぇすずか、私、また焦ったのかな」

「そんなこと無いと思うよ? 少なくともなのはちゃんの反応からいって、そういう感じじゃないと思う」

アリサとすずかは、おそろいで行ってるヴァイオリンの教室でその日の下校時のことについて話していた。

「そうなのよねぇ……なーんか妙に様子変だったし、本人も戸惑ってる感じで」

「うん、最近明るかったのにね、どうしちゃったんだろう」

そこでアリサは少し考えこむも、少し躊躇うと意を決してすずかに問いかけた。

「……ねぇすずか、あんたも私たちに隠し事あるわよね?」

「えっ! ぁっ……、うん……」

アリサのいきなりの言葉にすずかは一瞬だけ声を上げるも、即座に納得したのか観念したのか尻すぼみになって応える。

「ああいいのよ。ずっと前から気づいてたから。
 でさ、そういう視点から見て、どんな時にあんな風になるか分かるかしら?」

「……アリサちゃんは、何か隠し事とか、無いの?」

「うーん、ちょっと分からないのよね。
 聞かれないことをわざわざ言うことはないけど、わざわざ隠し事をするってことも、趣味じゃないっていうか……」

「そっか、羨ましいな……」

アリサの返答におもわず零れたすずかの小さな呟きは、しかししっかりとアリサの耳に届いていた。

「………」

何も言えず、聞かなかったふりをして沈黙を保ったアリサに、すずかはこたえを返す。

「うんとね、自分に自信が無くなった時とか……あんな感じになるかも」

「……なのはらしくもない」

「うん……」

アリサの憮然とした顔に、少し笑みを零しながらすずかも同意した。

「本当のことは分からないけど、もし本当に、何かに悩んでるとかじゃなくて、自分自身が信じられなくなってるとかなら私たちにも手伝えることはあるよ。
 そういうことって乗り越えることはなのはちゃん本人にしか出来ないけど、だからこそ今度は支えてあげることができると思う」

「そうね、今私たちがここでとやかく言っててもしょうがない、か。
 いいわ、分かった。なのはが私達を関わらせれないって言うなら、それ以外で出来ることをしてやろうじゃない。
 ――あとすずか、あんたの隠し事のことだけど」

来たか、とすずかは体を硬くさせ、恐怖心を抱きながらも諦めたように頷く。

「……うん」

「いつか話せる時が来るといいわね」

だがアリサから放たれたのは、そんなそっけない、しかし温かい言葉だった。

「――うん」







人は誰しも他人には言えない隠し事があるものだ。しかしすずかのそれは一般的なそれとはかなり毛色が違った。
暴露してしまうと、それはすずか本人の話ではなく、月村家という"家"の問題であった。
月村家は、夜の一族と呼ばれる家系なのだ。俗っぽく言うと吸血鬼の家柄なのである。
とは言ってもそれはさつきの世界の吸血鬼――死徒とはかなり異なる。
あくまで人間の延長線上であり、普通の人間より身体能力や治癒能力が高かったり、寿命が長かったり、頭が良かったり、あと容姿が美しかったりするぐらいだ。
ただその代わりに体が生成する栄養価のバランスが悪く、人の血を飲まなければ体調管理ができないのである。

それだけと言えばそれだけなのだが、それでもそれは普通とは十分すぎる程の違いだった。
人間は自分達とは違う者を排斥する。同じ人間でさえ、国が違えばそれだけで人は差別し遠ざける。生活に浸透してきて色々と慣れられた現代でさえも完全に無いとは言えないのが現状である。
なら、これだけ人と異なるところがあり、あまつさえ血を飲むという夜の一族のことが明るみに出たらどうなるか。

だから夜の一族は皆、そのことを隠し通して生きてきた。
本当に気を許した相手にのみその秘密を打ち明け、それでも秘密を知った者に対しては制約を設け、外へと漏れないように。

これは裏を返せば、この秘密を打ち明けられない相手は本当には信用していないということになってしまう。
すずかはずっとそれが心苦しかったのだ。なのは達にこのことを打ち明けたかった。そんなことは無いと、自分と彼女達は親友だと。
だが怖いのだ。どうしても恐怖心が現れてしまう。このことを打ち明けた結果が、拒絶かも知れないと思うと。

(……いつか、話せる時が)

すずかはアリサの言葉を心の中で反芻する。
やっぱり、バレてた。隠し事をしていたことも、それを打ち明けたいとずっと悩んでいたことも。

(来ると、いいな……)

その勇気が、湧くときが。









月村家の大きすぎる中庭を通り抜け、屋敷の玄関に辿り着いたなのはと恭也はチャイムを押す。

ピンポーン。

ガチャ。

一泊置いて、待機していたとしか思えないタイミングで扉が開いた。

「恭也様、なのはお嬢様、いらっしゃいませ」

「ああ、お邪魔するよ」

「こんにちはー」

中から出て来て挨拶をしたのは、月村家メイド長のノエル。ほとんど巻き戻しのようないつも通りのやり取りだ。
恭也の方はなのはにあやかって忍に会いに来たのだった。お熱いことである。

「いらっしゃいなのはちゃん」

「お先にお邪魔してるわよ」

なのはがすずかの待つ部屋に赴くと、アリサは既に来訪していた。それぞれがなのはに呼びかける。
そしてそこには、見知らぬ少女も一人。

「こん……はぇ?」

無意識的に挨拶を返そうとしたなのはは、その予期せぬ3人目に思わず声を上げてしまう。

「はじめまして、八神はやて言います」

独特の、どこか大阪弁っぽい感じのイントネーションで椅子に座ったまま頭を下げるその少女は、自らを八神はやてと名乗った。
肩のところで切りそろえた茶髪の、額のところをヘアピンで止めている、すずか程ではないがどちらかと言えば大人しそうな印象を受ける娘だ。年の頃も皆と同じくらいだろう。
彼女が座る椅子の隣には車椅子が見受けられる。彼女のものだろうか。

「あっ、こちらこそはじめまして。高町なのはで……す?」

「うん知ってる。すずかちゃんからよー話聞いとるよ」

自分の友達の名前が出たことで、なのはの視線がすずかの方へ流れる。
その視線を受けて、すずかが説明を開始した。

「ふふっ、なのはちゃんが新しい友達を紹介してくれるって言うから、私もと思って。
 サプライズゲスト」

「あんたが色々とゴタゴタしてた時に知り合ったのよ」

補足とばかりに、アリサが紅茶の入ったカップを傾けながら片目だけを開けてなのはを見やる。
しかしそうと分かれば速いこと。
元々すずかとアリサ対象のイベントだったせいで彼女達しか居ないものと思いこんでいたために素っ頓狂な反応をしてしまったが、このなのはのこと、直ぐに砕けた空気で話しはじめた。

「そうだったんだ。よろしくね、はやてちゃん」

「こちらこそよろしくなー、なのはちゃん」

その後はひとしきり、例えばはやてはすずかと同じで本が好きで、その関係で仲良くなったとか、
すずかから話を聞いていたなのは達にもいつか会いたいと思っていた等の談笑を交えて、話題はなのはの持ってきた荷物に移る。

「それでなのは、それが?」

「うん、フェイトちゃんとユーノ君からのビデオレター」

「ふふっ、ユーノ君、かぁ」

「あんたもかわいそうなことしたわねぇ」

「ははっ、にゃはは……」

すずかとアリサからの反応に、なのはは引きつった笑いを浮かべる。
ただ一人事情の飲み込めていないはやてが首を傾げた。

「ん? どゆこと?」

「あのね、ついこないだまでなのはちゃんが迷子のフェレットを預かってたんだけど、その子のことをユーノ君って呼んでたの」

「そのフェレットが偶々そのユーノって言葉に反応したからそうしたらしいんだけど、何とその名前、元の飼い主の名前だったらしくて」

「にゃはは……本当の飼い主さん達まだ名前付けてなかったから、ユーノ君も自分の名前がユーノだって認識しちゃって」

「あー、色々と紛らわしいけど把握したわ」

すずか、アリサ、なのはの順に説明していって、はやてが理解したといった風に首を振る。
これが、なのはが周りの人間に説明したユーノの名前の不思議の真相である。偽名とか使おうにもこれからずっと付き合っていくんだし、いつボロが出るか知れなかった。
フェレットの方を呼び間違えるならまだしも人間の方を呼び間違えるのはいくら何でも不自然だろう。
偽名をなのはからすればニックネームにするという手も無い訳ではなかったが、その場限りの関係で終わらす気がないのならちゃんと本名を紹介したいというのがなのは達の心情だった。
ならば多少無理があっても理由をこじつけちゃおうという流れになったのだ。

アリサが身を乗り出して言う。

「それ見たら返信用のビデオレター撮るから、ちゃんと内容考えときなさいよー」

「アリサちゃん、幾らなんでもそれは無茶だよ、一人一人別々に取る訳じゃないんだからさ、内容は皆で相談して決めなきゃ」

気持ちの先走ってる感のあるアリサに、思わずすずかが諌めるが、余計なお世話だったらしい。

「それくらい分かってるわよ! すずかと私とはやては自己紹介考えとかないといけないでしょ!」

「え、それわたし聞いてへんよ。というかええん? そんな新参のわたしまで」

若干慌てたように言うはやてに、アリサが呆れた風に返す。

「何言ってんのよ、そんなの良いに決まってるじゃない。
 それに新参とか言ったって、向こうからすれば私達もはやても同じ初対面よ、ね、なのは?」

勝手に返事を返した後に確認を取っているが、これは信頼の証である。分かっているのだ、なのはの返事なんて。

「うん、はやてちゃんも一緒に入りなよ。フェイトちゃん達もきっと喜ぶよ」

「私も、参加してくれないと呼ばせてもらった意味がないかなぁ」

「皆、ありがとな。あー、それならそれでもっとおめかしして来ればよかったわ」

じゃあ早速、となのは達は大型テレビの設置されている部屋へと移動を開始する。
いち早く席を立ったすずかがはやての隣に行き、席から降りるのを手伝っていた。

「ありがとうすずかちゃん」

矢張り隣に置いてあった車椅子ははやてのものだったようで、すずかの助力でそれに座ったはやてはなのは達に照れくさそうに笑った。

「どうも生まれつきっぽくてな、あんよが動かんのよ」

なんと言っていいのか分からないなのは達に、はやては慌てて両手を突き出してぶんぶんする。

「ああ、あかんあかん、そんな顔してもらいたくて話した訳やないで」

同情されるのは何かが違う、その気持ちは知っているなのはは即座に笑顔に戻りはやてに近づいていく。

「じゃあ私後ろから押すね」

「あ、駄目だよなのはちゃん。これは私の仕事」

と、なのはが後ろに来る前にすずかが出発してしまった。
その様子にはやてが照れ笑いする。

「ははっ、何か照れ臭いなぁ」

「でもやっぱり色々と不便でしょ。困ったことあったら遠慮なく言いなさいよね」

「ありがとう。でも確かに不便やけど、悪いことばかりやないで。
 何を隠そうすずかちゃんと仲良くなれたのもこれのお陰やしな」

すずかの先導に続いて歩くなのはとアリサに、はやてが話し始める。
なのは達は ん? と雰囲気で続きを要求した。

「あのな、こないだ何やら物凄く大きな木みたいなのが現れる事件あったやん?」

なのはがギクッと反応する。

「あれで図書館の方にも被害が出てな、建物が壊れたりはしなかったものの耐久力が著しく落ちたらしくて。
 改装ついでに蔵書の整理で廃棄本の無料配布するゆーもんでこれは行かなかん思て出向いたったんよ」

「私も同じ。前から図書館でよく見かける娘で同じ年くらいだったからずっと気になってて。
 で、図書館行ったらはやてちゃんが机の上に並べられてる本に手が届かなくて困ってて」

「そこで颯爽と現れて話しかけてくれたのが、すずかちゃんやったいう訳や。
 わたしの方もずっと前から気になっとったんよ。何やら本の趣味もかぶっとるようやったし。
 お陰様で狙っとった本が半分こになってしもたわ」

そう言って笑い合うはやてとすずか。2人はすっかり仲良しになっていることが良くわかる。そんな話をしているうちに目的の部屋へたどり着いていた。







3人がいつもテレビゲームをする時に座るソファーに、今日は4人で座る。4人から机を挟んで鎮座している大型テレビには既にDVDが挿入してあり、再生の時を待っていた。
フェイト達をアリサ達に紹介するこの日を楽しみにしていたなのはは早くもうずうずしており、アリサ達も新しい友達の登場に期待を隠せないでいた。……しかしなのはは忘れていた。重大な事実を、1つ。

なのはがDVDを再生すると、テレビに2つの椅子に座った金髪長髪の少女と、それより少し薄い金髪をした男の子が映し出された。
先日既に自分用のを見たなのはだったが、矢張りその姿に懐かしさと嬉しさを感じ、顔が自然とほころぶ。

『え、えーっと、こんにちは。フェイト・テスタロッサです』

そして自分の友人の反応を確かめるようになのはの視線が両側へと向けられる。
すずかはなのはの期待通りの、とてもキラキラした顔で新しい友達を見ていた。

『僕はユーノ・スクライアって言います。うちのフェレットがご迷惑をおかけしたようで、ありがとうございました』

次にアリサの方を見て、なのはの顔が怪訝なものに変わる。
アリサはどこか遠い所を見るかのような、それでいて少し難しいような、そんな表情でテレビに映っている映像を見ていた。
そしてアリサの目の焦点がふと合うと、その表情が一瞬固まり、そして――

――ゴトッ

部屋に、そんな音が響いた。
普段ならまた月村家のドジっ子メイド、ファリンがどこかに足をぶつけでもしたのかとでも思うところだが、
その音は比較的近くからでこの部屋に彼女は居ないし、更にその音と共に目の前の机が揺れたとなればその原因は明らかである。

自然とその部屋に居た全員の視線が音源に向けられた。
アリサ自身も我に帰り、必死に何かあった? みたいな顔をしたがそれはドツボである。
本人も気付いてるとしか思えない粗相、それを誤魔化す時点で何かあったのは明白である。意識の外の出来事であるならば普通に謝ってそれで終わりだ。

『…………………………』

ビデオから流れてくる音声も、今はアリサの耳まで届いてなかった。それほどまでにアリサは慌てて……いや、急いで思考をめぐらせていた。
アリサはフェイトという少女の外見にどこか見覚えがあった。
どこかで似たような顔を見た気がするとかそのようなものではなく、かと言って直ぐにパッと出てくる程日常的でもなく、しかし確かに強烈に記憶に残っている姿だった。
だから自然とどこで見たのかと思考を巡らし、そして、思い出した。

――温泉宿。

一瞬のうちに、アリサの脳内で様々な思考が流れる。
いきなり周囲の風景が変わって、なのはが空を飛んで、金髪の少女が光り輝く大鎌をふりかざしながらまるで魔法のような攻撃をしてきた夢。なのはの命を刈り取ろうとした少女の前に立ちふさがった自分。
あれは夢だった筈では。いやしかし、それにしても似すぎではないか。あのような夢を見たというのは中々に恥ずかしいものであったし、それ以降に印象に強く残る嬉しいことがあったのでよく覚えていた。
なのはの方のゴタゴタが片付いて、そして紹介された"友達"。その"事情"の大詰めの時に言われた、これが終わったら、友達を紹介出来るかもという言葉。
そういえばあの時、夢の中のフェレットである方のユーノはしゃべっていた。そしてそのフェレットと同じ名前のなのはの友達の少年。
それらから思わず連想してしまうとある考え。
いやまさか、あり得ない、冷静になって考えてみなさい、そもそもあれは夢だった筈。いやでも、本当に夢だったのか。

なのはは何故隠し事をしていた? 私達に心配をかけさせたくないからだ。
いやしかし、だからと言ってまさかなのはの"事情"というものはあんな命の危険すらもあるようなことをずっとやっていたというのか――!

めまぐるしい思考の中、アリサは無意識のうちになのはの顔を凝視してしまっていた。
もしここでなのはがずっとキョトンとしていたり、アリサに呼びかけたりしていたならば、アリサは我に帰って頭の中の思考をまさか何を馬鹿なことをと一笑に付して打ち消しただろう。
だがアリサは見てしまった。怪訝な顔でアリサを見ていたなのはが、数瞬の後に、しまったという表情に変化したのを。


―――――。

――あ、駄目だ。
――今ここに居ると、また怒ってしまう。


自分で分かる程、アリサは自分がやけに冷静になっていくのを感じた。そして自分が爆発寸前だとも。
普段のアリサなら、即座に遠慮なくなのはに真偽を確かめただろう。掴みかかって怒鳴り散らして問いただすとかにはならず、恐らく今と同じような状態のまま静かになのはに確認の問いを投げかけたはずだ。
だが今ははやてがいた。何だかんだ言ってアリサもこれがはやてとの初対面なのだ。
初めて会ったその日に夢の内容がどうとか魔法みたいなのがどうとかフェレットが人間がどうとか、そういう話をし出すおかしな娘だなんて誰だって思われたくない。
こういう変なところにまで思考が周るほど変に冷静だったアリサは、いっそ爆発してしまえばどれだけ楽だっただろうと考えながら静かに立ち上がった。

「ごめん、ビデオレター作るの、今回は私いいわ。
 私抜きで撮って」

「え、でも」

「ごめん、……どんな顔をすればいいのか、分かんないから」

皆から顔を背けながら、すずかの言葉にもそれだけを言ってアリサはそそくさと部屋横切り扉を開いた。
顔を背ける瞬間、なのはが罪悪感に満ちた顔で手を伸ばそうとしていたのが見えて、アリサの感情は弾けそうになっていた。

「何で、あんたが謝ろうとしてんのよ……」







「ごめんね、はやてちゃん」

「ううんええよ。すずかちゃんが謝るようなことやないし」

アリサのあの雰囲気に後を追うのもはばかられた少女達は結局3人だけでビデオレターを見たが、流石にアリサ抜きで返事を作るわけにもいかず、そちらはまたの機会にということになった。

「でもええんか? アリサちゃん、よーわからんけどあれが普段の様子じゃないってのは分かるで。
 部屋出てく時に何や言っとった気ぃするけど、よー聞こえへんかったし」

「うん、でも家を出るまでファリンが付いて行ったらしいし、執事の鮫島さんとも合流して普通に挨拶して帰って行ったって話だから」

「執事!? はー、流石すずかちゃんのお友達やわ、住む世界が違うなー」

そこで2人はなのはの方を見る。なのははアリサが出て行ってからこっち、ずっと泣きそうな顔で沈んでいた。心当たりがあるのは明白だった。
確かにアリサが怒り出す理由はすずかにもある程度の心当たりはあるが、しかしアリサがあそこまで取り乱すとなると、ちょっとすずかには予想が付かない。
なのはは携帯を開いて固まっていた。開かれたメール欄には『ごめんね』の文字。後は送信するだけのそれを送り出せないでいる。
結局そのまま携帯を閉じてしまったなのはは、すずか達の方を向いて笑顔を作った。

「何かごめんね、こんな空気にしちゃって。でもアリサちゃんは何も悪くないから、ほんと、なのはのせいなの。ごめんなさい」

「そんな、気にしてないよ。何か私に手伝えること、ある?」

「何やったら、わたしも協力するで。ビデオレター、早く撮りたいしなぁ」

すずか達の気遣いに、だがなのはは首を横に振って答える。

「ううん、ごめんね。でも、なのはが何とかするよ。
 多分、私じゃないと意味ないから」

それでもすずか達は、なのはの沈んだままの顔に不安を消すことはできなかった。







そうしてなのはが帰って、すずかがはやてを家まで送り届ける。

「本当にごめんね、折角来てくれたのに、嫌な思いさせちゃって」

「もう、何度も謝ると価値が下がるで。わたしは皆と話せて楽しかったし、新しい友達候補も紹介してもらえた。それだけでもいっぱいいっぱいや。
 ずっと一人やったからな、十分すぎるぐらい、楽しかったし、嬉しかったで」

その言葉にすずかは寂しげな笑顔を作った。この家にははやて以外の人間は居ない。ペットも居ない。
足が不自由で、病院通いの少女が一人で暮らしているだけだ。

「またいつでも遊ぼう。今度は皆でゲームやろうよ、いつもはそうやって遊んでるんだ」

「ええなぁ! でもその前に、きちんとビデオレター撮らんとな」

「うん、アリサちゃん、本当は凄く優しい娘だから。またそのうち集まれると思う」

そうしてその日はすずかとはやては分かれた。







しかしすずかの予想に反して、ビデオレターを撮れる日は中々来なかった。
アリサの態度がキツイとかではない、むしろアリサは普段と同じようにふるまっている。
あの事があった次の日には二人に対して謝っていたし、普段と同じように笑い、なのはにもすずかにも接している。
しかしそれ故、なのはは話を切り出すことが出来ずにいた。とっかかりも掴めなければ、一体どこから話せばいいのか、弁明すればいいのか、謝ればいいのかも分からない。
更に言うと、アリサは態度こそ普段通りに戻っていたが、ビデオレターの話を切り出すと自分抜きで作っての一点張りなのだ。
すずかが理由を聞いても頑なに話さないし、結局そのまま日時だけが過ぎてしまい一先ずなのはだけでプライベートな返事のを1つ作って送ってしまうことになってしまった。

アリサにしても、どうすればいいのか分からないというのが現状だった。
後になって改めて、夢の中の話がどうとかなのはは命がけの戦いをしていたのかとか、そんなこと切り出せるわけもなかった。
大体自分だって突拍子もない考えだと自覚している。だがそれでも強く頭の中に残ってしまっているのだ。
それに例え切り出したとして、それで何になるのか。もしそれが真実だとして、なのはのその"事情"はもう既に終わっているのだ。今更問い詰めたところで無駄になのはを困らせるだけである。
自分達に打ち明けられなかったのだって、そんな命がけのことを打ち明けて無駄に心配させてしまうのを嫌ったからだ。
もし本当にそんなことをやっていたのなら、自分達に出来る事なんて本当に何もなかった、ただの足手まといだったということを、アリサは理解していた。

(どんだけ無力なのよ、私は!)

一人、学校の廊下の壁を拳で横殴りに叩く。叩いた部分に痛みが走り、ジンジンする。

(痛い……)

ああ、自分はこんなにも無力なのだと、そう確認してしまったかのようでアリサの中の憤りが増大する。
ビデオレターになど、出れる訳なかった。
もしその考えの通りだとしたら、あの少女はあの時自分も攻撃した少女で、なのはを傷つけようと武器を振っていた。紆余曲折あってなのはと友達になったとしても、その内容を知らなければ心を許せるわけがない。
ユーノはなのはの仲間だった。アリサがどれだけ渇望しても立てなかった、なのはの隣に、ずっと立っていた。
どんな風に接せばいいのか、言葉をかければいいのかなど、分かるはずもなかった。

そしてアリサが何よりも辛いことが、これが自分の勝手な妄想で、自分はそれに振り回されているだけであるという可能性が一番高いということを分かっていることだった。
誰が現実であのようなことが起こっていたなどと本気で考えるものか。だがしかし、頭から離れないのだ。あの時なのはが見せた、やらかしてしまったとでもいうような表情《かお》が。
まさか隠し事をする気持ちをこんなに早く知ることになろうとは。

(もう、どうすればいいのよ……)



そして事態は、別の方向からの動きを見せることになる。










あとがき

夜の一族の設定は、こんな感じで行きます。さすがにとらハの設定そのままは厳しすぎましたご理解ください。

あ、A's観に行きましたー。いやー無印書いてた頃は「これA's編に劇場版ネタ入れるの間に合っちゃうんじゃねHAHHAHHA!」って冗談で笑ってましたわHAHHAHHA……ははは……


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