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No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
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[12606] 最終話
Name: デモア◆45e06a21 ID:95f9b2a6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2021/10/29 11:51
『庭園崩壊終了、全て虚数空間に吸収されました』

『次元震停止します、断層発生はありません』

『第三前速で離脱、巡航航路に戻ります』

「さて、では申し開きを聞こうかしら?」

アースラへ無事全員帰還しある程度落ち着いた後、リンディの放った言葉がそれだった。
ちなみにその向かいにいるのはバツの悪そうな顔をしたアルフである。

「いや、だってさ、アイツ結局ジュエルシード使って無い訳だし、
 さっきのことはこっちが巻き込んじゃったみたいなもんだし、プレシアに騙されてたわけだし、
 最後の方は協力してくれてたみたいだったし……」

リンディの方をチラチラと伺いながら歯切れの悪い言葉を重ねるアルフだったが、リンディは無言のまま。
それに耐えられなくなったアルフが遂にあー! と叫んで開き直った。

「フェイトを救ってくれたあんたらには確かにすごく感謝してるけど、
 わざわざあの娘を捕まらせるために連れて来るなんて、アタシにゃ出来なかったんだよ!」

「だからって弓塚さつきを海鳴のどっかに飛ばしてきたって、正気かお前!?」

たまらず突っ込みを入れるクロノ。リンディはふぅ、とため息を一つ。

「分かったわ、いいでしょう。
 とりあえずアルフさんとフェイトさんはこの事件の重要参考人ですから、誰か護送室へ案内して」

「って艦長!?」

まさかのお咎めなしにクロノが思わず声を上げる。
アルフも虚をつかれたような顔をしたが、フェイトが局員についていくのを見て慌ててそれについて行った。
一方で連れて行かれるフェイトに思わず手を伸ばしかけたなのはだったが、こちらはこちらでフェイトに視線でたしなめられていた。

「あの、それで、さつきちゃんのことはどういった扱いになるのでしょうか」

2人の姿が見えなくなったところで、なのはがそう切り出す。
しかしリンディはなのはのその言葉に眉を潜めた。

「……『どういった扱い』? なのはさん、彼女……いえ、あれは人間ではないのよ」

「「っ!?」」

その、付き合いが短いと言ってもおおよそリンディらしからぬあんまりな内容の発言になのはとユーノは驚愕する。
クロノも思わずと言った風で身を乗り出した。

「母さ……艦長! それは「クロノ」っ」

クロノの抗議の声を遮り、リンディは事務的な口調で話を続ける。

「今回の事件。ジュエルシード事件は首謀者プレシア・テスタロッサの死亡確認によって終結。死体の回収は出来ず。
 尚、事件中に現地動物1体が巻き込まれ、事件終結地、時の庭園においてそれを一時的に保護。即日無事、現地へ送り届けた。
 ――上へ報告する今回の事件の大まかな概要は、こんなものでいいと思うのだけれど、どうかしら? 疑問点はある?」

それまで感情の読めない表情と口調だったのが、リンディは最後の部分を言う時だけいつもの柔和なそれに戻っていた。

「……え? そ、それって、え?」

「艦長……」

その言葉の意味を理解し、結果混乱するなのはと、疲れたような呆れたような声を上げて額に手を当て天を仰ぎ見るクロノ。

「さて、事件も一先ずは終結したことですし、色々と準備をしなければね」

そう言うとリンディは部屋を出ておもむろにどこかへ行こうとする。
なのははその背に慌てて頭を下げた。

「あ、あの! ありがとうございます!」

リンディが部屋を出ていくと、皆の間に弛緩した空気が流れだす。
長かった事件も、これで一段落だ。

「あ、それで、フェイトちゃんは?」

なのはとしては、傍にいてあげたり話をしたりしたいのだろう。
それを読み取ったクロノが、しかし申し訳なさそうに言葉を返す。

「彼女はこの事件の重要参考人だからね、申し訳ないが、暫く隔離になるよ」

「そんな」

「今回の事件は、一歩間違えれば次元断層さえ引き起こしかねなかった、重大な事件なんだ。
 時空管理局としては、関係者の処遇には慎重にならざるを得ない。それは分かるね」

思わず声を上げたなのはだが、クロノにやんわりと窘められてしまう。
周りの事情を気にすることには慣れているなのはだ。勿論、そこら辺の事情は察せてしまう。

「……うん」

気落ちした風ななのはに、エイミィが補足する。

「とりあえず、ずっとこのままってことは無いから、もうちょっと待って」

「はい……。
 でも、フェイトちゃんこれからどうなるの?」

それに頷き、だがなのはが更に気になったのはフェイトの今後。
悪いことをして捕まった彼女が、これからどういった扱いになるのか。

「事情があったとは言え、彼女が次元干渉犯罪の一旦を担っていたのは、紛れも無い事実だ。
 重罪だからね、数百年以上の幽閉が普通なんだが」

あまりに重い処遇に、なのはは今度こそ思わず叫んでしまう。

「そんな!」

「なんだが!」

「っ!?」

が、身を乗り出した彼女をクロノが強い口調で押し止めた。
そして続く言葉は、幾分かやわらかいもので。

「状況が特殊だし、彼女が自らの意思で次元犯罪に加担していなかったこともハッキリしている。
 あとは偉い人たちにその事実をどう理解させるかなんだけど、その辺にはちょっと自信がある。心配しなくていいよ」

「クロノ君……」

「何も知らされず、ただ母親の願いを叶えるために一生懸命なだけだった子を罪に問うほど、時空管理局は冷徹な集団じゃないから」

普段の無愛想なものとはかけ離れた、優しげな言葉。
そこでなのははふと気付く。

「クロノ君って、もしかしてすごく優しい?」

「なっ!?
 し、執務官として当然の発言だ、私情は別に入ってない!」

キョドってしまったのが運の尽き、その隣にいるエイミィがそんな隙を逃す筈もなく、クロノはその後またもや散々弄られることとなるのだった。







その日の夕食の時の話。
リンディ、エイミィ、クロノでテーブルを囲っているところ、何かを考えていたようだったクロノがリンディに切り出した。

「艦長」

「ん? 何かしらクロノ執務官?」

「いえ、先程の話なのですが、あのような報告、記録映像を見られたら一発なのではと。
 記録映像はフェイトの裁判にも使われます。
 映像を弄るにしても限度がありますし、どうしても違和感が……」

心配げなクロノの指摘に、だがリンディは軽い調子で返す。

「んー、そうね、多分大丈夫じゃないかしら」

「何故です?」

その様子から何らかの確信があると察したクロノが尋ねた。
しかしリンディはここに来て真剣な表情になる。

「……そうね、言っておいた方がいいわよね。
 実はねクロノ、今回の事件、ジュエルシードがこの世界に落ちた時点で、ユーノ君は管理局に既にその旨を報告していたのよ」

ここからどう話の流れが繋がるのかは分からなくても、分かることがクロノにはあった。

「……ちょっと待って下さい。それはおかしい」

「ええ、私もそう思ったわ。でもたしかに届出は出されている。
 それで本局の方に問い合わせてみたら、何て返って来たと思う?」

「――書類の受け渡しに不備があったとか……」

「それならまだ良かったわ。報告はきちんと上に行っていたの。
 それで、どうして調査に乗り出さなかったのかって尋ねたら、『それよりも優先する事柄が多数存在した為……』とかいう返事が返って来たのよ」

あまりの事にクロノは思わず叫んだ。

「ちょっと待てくれ、そんな馬鹿な! 現場の近くには、遊行艦であるアースラが、僕達がいた筈でしょう!」

「ええ、結局のところ、上はろくに調べもせずに、大したことないと割り切ってこの件を丸投げしていたのよ。
 ユーノ君が率先して動いてくれていなければ、どうなってた事やら……」

クロノは言葉を失って頭を抱える。
しかし、これで何故リンディがこれ程までに楽観視しているのかが分かった。

「という訳で、上がこんなことしでかしたんですもの。多少映像に不備があってもそこまで深く調べられることは無いと思うわ」

確かに、不明なところを無闇につっついてそこら辺の話が矢面に上がってしまうことは向こうも避けたいだろう。
とそこでリンディは「それに、」とエイミィにウィンクを1つ。
バトンを受け取ったエイミィはニヤリと笑って顔を上げたクロノに言い放った。

「幸い、どっかの誰かさんが映像記録に不備があっても仕方ない事件を引き起こしてくれたしねー」

クロノはグゥの音も出なかった。

「あ、でも、本当によかったんですか? さつきちゃんを見逃しちゃって。
 確かにもう次元犯罪は起こさない……というより、起こしようはありませんけど」

と、事のついでにとエイミィも疑問に思ってたことを口にした。
クロノもそこは気になっていたのか、縮こまっていた体を戻してリンディに視線を送る。

「あのねエイミィ、私は別に、同情とか自己満足だけで彼女を見逃すことにした訳じゃないのよ」

「? 何か問題でも?」

「勿論、彼女を哀れに思う気持ちが無いと言えば嘘になるけど……」

言いながら、リンディはパネルを呼び出して操作する。
するとモニターが現れてとある映像が映し出された。

『そう……わたしは吸血鬼。
 人の血を……命を、奪わないと生きていけない化け物』

『こんな、人の命を奪わなきゃ生きていけないような体になんてなりたくなかった!
 たとえあの世界を犠牲にすることになっても、それでも可能性に賭けたかった!
 それでもわたしは……人間に戻りたかった!』

「さて、この台詞から吸血鬼って、どんな生き物だと推測できるかしら?」

リンディがジェスチャーでクロノに話を振る。クロノは多少眉を潜めながら答えた。

「……人の血を吸わなければ生きていけず、通常は命を奪うことになる。
 それと、元は人間だった、でしょうか?」

「一応あれから一般的に認識されてる吸血鬼の特徴についても調べたんだけどねー。
 ある程度共通するのだけでも人の血を吸って、不老不死で、太陽とニンニクが苦手で、って、やっぱりかなり曖昧なんだよね。
 しかもさつきちゃん太陽の下普通に歩いてたし。これも信憑性薄いなー」

苦々しげに言ったクロノの言葉を、エイミィが頭の後ろに両手を置いて天を仰ぎながら補足する。
2人の言葉に、リンディはうん、と頷くと話を続けた。

「それでも、今まで見てきた彼女の特徴と、この台詞、そしてなのはさん達の世界の認識を纏めてみると大まかなことは分かるわ。
 その中で重要なのは死ににくい体であることと、人ではとても太刀打ちできない存在であること、
 そして、先程エイミィが上げてくれた2点ね」

そこでリンディは再びクロノを指し示す。

「さてクロノ、もう一つ聞くわね。
 とある世界の、驚愕の真実が発見されました。
 何とその世界には人喰いの化け物がいて、人々はその存在を知らされないままに一方的に捕食される立場にあるようです。
 あなたならどういう感情を抱く?」

「……その世界の人たちを助けてあげなければと……思います」

話の流れが掴めたクロノが、更に苦々しげに答えた。

「そうね。
 私達はさつきさんという存在を知っているわ。前情報が何も無かったから、彼女を人間として見ていたから、吸血鬼とは私達と同じような感情を持つ存在だと知ってる。
 でも、この情報から彼女に触れた人達は? 吸血鬼を"人喰いの化け物"としか見れないでしょうね」

「なるほどー。
 確かにもしその情報が一般に流出したら、『第97管理外世界の人たちを救え!』
 みたいなデモや活動団体が出て来てもおかしくはありませんね」

「一般に流出しなくても、管理局内でも何かしら動こうとする人は少なくないでしょうね。
 正義感に溢れてる人、多いから」

「仮にそうなってしまったら、地球に住む吸血鬼達は根こそぎ排除されてしまうことになる……。
 母さんはそれを回避しようと」

と、クロノが自分の中に出た結論を言おうとするが、

「えっとね、少し違うわ」

「?」

どうやら違ったらしい。これにはエイミィも首を傾げる。
そんな2人に、リンディは更に解説を続ける。

「おかしいとは思わない? 吸血鬼は人の血を吸って命を奪う。更に何らかの方法で人間は吸血鬼になってしまう。
 それなのに、何故地球では"吸血鬼は架空の存在としか認識されていない"のかしら」

「えっと、それは……。
 吸血鬼の人たちが自分たちの存在を隠してる……とか? 吸血鬼としての掟~みたいな感じで。
 あーでも、人間から吸血鬼になっちゃうのかー。少し無理があるかな」

「可能性としてなくはないけれど、それだけってことはまず無い筈ね。
 自分たちの存在を隠すということは、そこには理由が必要だから。
 それにエイミィも見た通り、吸血鬼の力は普通の人間では歯が立たない程凄まじい。
 全部が全部とは限らないけど、元は人間らしいですし、彼らの思考が私達とそう変わらないのなら後先考えずにその力を振りかざすような者も勿論いるでしょう。
 そんな者が1人でも出たら、ただ"吸血鬼"というだけの纏まりではもう隠し切ることは不可能な筈よ」

ということは、とクロノはリンディの言いたいことを今度こそ完璧に理解した。

「つまり……吸血鬼達と対立し、その存在の証拠を消している別の勢力が存在すると?」

「最低でも1つは……ね。もしかしたらなのはさん達の世界には、吸血鬼以外にも、架空の存在となっているけれど本当は実在している生物がいるのかも知れない。
 一部の吸血鬼達がそういう組織を作り上げてる可能性もあるわね。
 そしてそれなのに表の世界では平和そのもの、それらの存在の影も形も見当たらないとなれば……それらの勢力は上手く拮抗しているということになるわ。
 そしてそんな中に時空管理局なんていう新しい勢力が横から入り込んだら……どうなると思う?」

「……正直想像したくもないな」

拮抗ではなく、吸血鬼達が一方的に抑えられているという可能性もないこともないが、それはさつきの在り様が否定している。
ただ吸血鬼を駆逐するだけなら、地球の人々に隠れてでも十分に可能だったろう。
だがそんな情勢がある中に時空管理局が割り込んだりしたら、いたずらに地球を混乱させるだけだ。下手すれば第97管理外世界は破滅の一途を辿ってしまう。
そう考えたリンディは、さつきの――吸血鬼の存在を隠すことにしたのだ。

少し沈黙が降りたところで、食堂の扉が開いた。
そこから入って来たのは食事のプレートを手にしたなのはとユーノの2人組み。
クロノが近づいて来た2人に声をかける。

「ああ、帰る準備は済んだのかい?」

「うん」

「お家の方にも、明日帰ると私の方から連絡を入れておいたわ」

「ありがとうございます」

リンディの言葉に礼を言い、なのはとユーノは彼らの隣に並ぶように座る。
と、なのはがリンディ達に尋ねる。

「あの、それで、リンディさん達はいつまでこっちにいるんですか?」

「んー、次元震とか起きちゃってるから、事件解決しました帰る準備できましたんじゃさようならーっていう訳にはいかないから、
 数日はこっちにいるけど……あっ、フェイトちゃん」

エイミィがその質問に答えて、意図に気付いた。
そうなのだ。フェイトは今隔離中。先程、ずっとこのままって事はないと言っていたがその前にリンディ達が帰ってしまう可能性があった。
エイミィが考えてみると、なるほど確かに微妙なところだ。

「……まぁ、そこら辺は何とかなるようにしてみましょう。
 私達が帰っても、一応連絡はつけられるから、その方法も教えておくわね」

「あっ、ありがとうございます。お願いします」

リンディの言葉になのはが頭を下げる。

「結局、何だったんだろうね、今回の事件」

浮かない顔をしながら、エイミィがぼやいた。クロノがそれに聞き返す。

「何が?」

「女の子を取り戻したかったお母さんに、お母さんの愛情を欲した女の子に、人間に戻りたかった女の子。
 私が言うのもなんだけどさ、皆すごく頑張って、それで誰も何も手に入れれなくて。
 なんていうか、さ」

それの邪魔をする自分たちの行動に疑問を覚えたとか、そういう話ではない。
ただ、やるせなかった。

「……ロストロギアの関わる事件は、いつもこうだろ。
 強い力は、人の欲望を引き付ける。汚い欲望も、そうじゃない欲望も。
 皆、こんな筈じゃなかった現実に抗ってただけなんだ。僕も、分かるんだ」

「――うん、何かごめんね」

暗くなってしまった雰囲気にエイミィが謝罪し、クロノも幾分か表情を和らげてなのはの方を見る。

「いいさ。それに、何も悪いことばかりじゃない」

「?」

なのははその視線に首を傾げる。
が、クロノはそれには応えずなのはの箸が全く動いていないことを指摘した。

「ああ、すまない、気にせず食べてくれ」

クロノの言葉に、ま、いっかと食事を開始するなのは達。
そして次になのは達に話しかけたのはリンディだった。

「あと、さつきさんのことなのだけれど……
 あ、食べながら聞いてくれていいのよ」

話の内容に思わず再度スプーンを止めようとしたなのはを、リンディが止める。

「なのはさんが今後さつきさんに関して何をするにしても、
 ああ言った手前、私達は時空管理局としては手助けをすることは出来ないわ。
 ごめんなさいね」

「いえ、いいんです。
 あの娘とのことは、私の問題ですから」

まぁ確かに、さつきは本来なら非魔法関係者で、それとなのはとの間柄なんてものはリンディ達には何の関係もないと言えばない。
だがそれでは納得できない者もそこにはいた。

「……なのは、それなら僕もこっちに残るよ。
 うちの部族は遺跡を探して流浪してる人ばっかりだから、急いで帰る必要もないし。
 勿論、なのはが良ければだけど」

「本当!? でも、いいの?」

ユーノの言葉に、なのはは彼と別れなくていいとなり嬉しそうな反応をするが、直ぐに不安そうな顔になり伺いを立ててくる。
相手の事を気にしすぎるなのはらしい反応ではある。

「うん、元々僕が巻き込んじゃったんだし、最後まで責任は取るよ」

そんななのはに、ユーノは再度宣言する。
嬉しそうにするなのはだったが、そこでリンディが声を上げた。

「あら、でも困ったわね。
 ユーノ君がいれば、フェイトさんの裁判も随分と簡単になるのだけれど」

そんな事を言われては、なのはの取る反応は1つしかなく。

「ユーノ君……」

「うぅ…………。
 分かりました。そちらに行きます……」

そんな縋るような目でそんな風に言われたら、ユーノも折れる以外ない訳で。
しぶしぶとリンディ達に付いて行くことを決めたユーノであった。
だがリンディも、彼らのことを考えていない訳ではなかったようだ。

「そうだ、フェイトさんの裁判が一段落したら、久しぶりに長期の休暇を取って皆で地球へ遊びに来ましょうか。
 時空管理局としてではなく、個人として。勿論ユーノ君も一緒に。出来ることならフェイトさんも」

その意味を理解し、パッと表情を明るくするなのはとユーノ。
すると腕組みをしたクロノが視線を彷徨わせながら一言。

「まぁ……いいんじゃないでしょうか」

まぁそんな分かりやすい反応をして彼女が反応しない筈もなく、

「嬉しいなら、素直にそう言えばいいのになー。
 クロノ君てば、照れ屋さん!」

「照れてないー!」

「久しぶりの家族旅行ね。張り切っちゃおうかしら」

「母さん!」

「え、家族って……お母さん!?」

最後に色々と騒がしくなった、なのはのアースラでの最終日の夕食だった。










その夜、アースラの寝室でなのははベッドに座って外を眺めていた。

事件は終結したが、気になるあの娘達のことはまだ殆ど終わってなくて。
フェイトに関しては今は何もすることが出来ずにもどかしく、さつきに至っては進展はしても好転は全くしている気がしない。

「はぁ、これじゃアリサちゃんにはったおされちゃうなぁ」

つい昨日友達を3人紹介するかもと言っておいてこれである。
いやなのはとてあれは自分の願望が流れ出したものだと分かってはいるが、それにしてもだ。
しかもよくよく考えたら事件が終わったらユーノとは別れなければならないしフェイトは連れて行かれてしまうのだからどっちにしろ無理ではないか。

「ねぇユーノ君」

「なんだい?」

「リンディさんの話だと、ビデオレターとかも送れるっぽいんだけど、お別れしちゃってる間いいかな?
 アリサちゃん達にも紹介したいし。ユーノ君のこと」

なのはの提案に、ユーノは少し悩む。
ビデオレター……女の子ならいいのかも知れないが、男の子としては中々に気恥ずかしいものがある。相手が女の子だというならなおさら。
まぁ、それでも返事は決まっているのだが。

「うーん、ビデオレターか……。
 ちょっと恥ずかしいけど、うん、いいよ」

「ありがとう! 絶対送るから待っててね!」

「……でもさ、なのは」

「?」

「僕よりもそのことを伝えたい子が、他にいるんじゃない?」

「――うん、ありがとうユーノ君」







それから、数日の時が過ぎて。
その間に、事件解決に貢献したなのは達が表彰されたり色々したのだが、それは置いておく。
早朝、なのはがまだ毛布に包まっていると、彼女の携帯電話が鳴り出した。

「ん……」

もぞもぞと動き、携帯を止めるなのは。だが少しして、再び携帯が鳴り出す。
少し苦労して携帯を開くと、そこには『着信中 時空管理局』の文字が。

「ふああっ!?」

眠気など一瞬で吹き飛んだ。なのはは飛び起きて急いで通話ボタンを押す。

「はい、なのはです!」

『ああ、クロノだ。フェイトの処遇が決まったから連絡を入れさせてもらったよ』

「へ、本当!?」

『ああ、さっき正式に決まった。
 フェイトの身柄はこれから本局に移動、それから、事情聴取と裁判が行われる』

「うん」

『フェイトは多分……いや、ほぼ確実に無罪になるよ。大丈夫』

『クロノ君あれからずーっと証拠集めしててくれたからね』

『エイミィ、そういう余計なことは言わなくていい!』

「ありがとうクロノ君!」

『っ! ん、んん! 聴取と裁判、その他諸々は結構時間がかかるんだ。
 で、その前に少しだけど面会の許可が出た。
 君の事だ、どうせ直ぐに会いたいと言うんだろ。日時は今日これからでいいか?』

「うん、うんうん! 直ぐ行く!」

『そうか。フェイトの方も君に会いたいと言っている。
 場所は以前君を送り届けたところでいいな』

「うん!」

いきなりの朗報に、なのはは急いで服を着替える。

「なのはどうした? こんな朝早くに」

いきなり騒がしくなった二階と、ドタドタと階段を駆け下りる音にリビングから士郎の声がかかった。

「用事が出来たのー! ちょっと出かけてくる!」

「あらそう、いってらっしゃい」

「いってきまーす!」

返ってきた桃子の声に返事をし、恭也と美由希が稽古をしている庭を抜ける。

「お、何だなのは早いな」

「一緒に稽古でもする?」

「ごめんまた今度! 少し出かけてくるね!」

「そっか、いってらっしゃい」

稽古の手を止めて声をかけてきた2人にも返事を済ませ、なのはは目的地へと駆け出した。
約束の場所は、海にかかる橋の上。










なのはとフェイト、橋の上で2人並んで立っている2人の視線は、だが両者とも海へ向かっていた。
軽く緊張した空気が流れる中、最初に切り出したのはなのはだった。

「あはは、何だか一杯話したいことあったのに……、
 変だね、フェイトちゃんの顔見たら……忘れちゃった」

なのはが切り出すと、釣られるようにフェイトの口からも言葉が出てくる。

「私は……訊きたいことがあって」

「へ?」

「君が言ってくれた言葉、友達になりたいって。
 あの時ははねのけちゃったけど、あれまだ……」

「うん、うん! 勿論だよ!」

躊躇いがちに出て来た言葉に、歓喜の声を上げるなのは。
フェイトの方も少しばかり肩の力が抜けるが、その視線は今だ海を向いたままで。

「私、今、目的が無いんだ。胸の奥にポッカリと穴が開いてるみたいだ」

「フェイトちゃん……?」

「伝えたいことは確かに伝えた。結局それは無駄だった……ううん、無駄じゃなかったかも知れないけど、そんなのもう誰にも分からない。
 今まで母さんの為に生きてきて、今それが無くなって、私自信から湧き出た望みも叶えて。
 私自身の想い……新しいそれを見つけることが、本当の自分を始めるということなら。
 私はこれから、それを頑張ろうと思う」

フェイトがなのはに向き直る。だが、その力強い言葉とは裏腹にフェイトの瞳は不安で揺れていた。

「私にできるなら、私でいいならって。
 私も、君と友達になりたい。ううん、なって欲しい。私でいいなら。
 ……だけど私、どうしていいか分からない。
 だから教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれるのか」

フェイトは縮こまり、視線も再び海の方を向いてしまう。その弱々しい様子と、精一杯前に進もうと頑張りながらも不安で一杯な言葉になのははかけるべき言葉を迷い……

「………。

 簡単だよ、友達になるの、すごく簡単」

出て来た言葉は、なのは自身も驚く程明るくて、柔らかかった。

「ぇ、」

「名前を呼んで。
 初めはそれだけでいいの。君とか貴女とか、そういうのじゃなくて、ちゃんと相手の目をみて、ハッキリ相手の名前を呼ぶの。
 ――私、高町なのは。なのはだよ」

再び告げられた名前、勇気を振り絞り、フェイトはそれを口にする。

「……なのは?」

「うん、そう!」

「……なのは」

「うん!」

「なのは」

「うん!」

戸惑いと躊躇いから予行演習のような呼びかけを経て、遂にフェイトはしっかりとなのはの名前を呼んだ。
確かに一歩、大きく踏み出したフェイトをなのはは涙を浮かべ、その手を両手で包み込んで祝福する。

「ありがとう、なのは」

「うん……!」

「君の手はあたたかいね、なのは。ありがとう、君のお陰で、新しい自分を始められそうだ」

「フェイトちゃん!」

耐え切れず、フェイトにしがみつくかのように抱きつくなのは。
なぜなら彼女達には、これからすぐに別れの時が来てしまうのだから。

「ありがとう、なのは。私は今から少し長い旅に出るけど、きっとまた会える。
 そうしたら、また君の名前を呼んでもいい?」

「うん、うん……!」

「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ」

「――!」

なのははハッとしてフェイトの顔を見つめる。何かを言おうとするが、言葉が見つからない。

「だから、なのはも私を呼んで。
 なのはに困ったことがあったら、今度はきっと、私がなのはを助けるから」

その代わり、フェイトの言葉にただただ頷いて、なのははその胸に顔を埋めた。

少しだけ時間が経ち、なのはが落ち着くとお互い身を離して照れ笑いをする。
そしてフェイトは、もう一つの用件を切り出した。

「もう一つ、頼みたいことがあったんだ」

「?」

「さつきのこと」

「!」

ここで出てくるとは思っていなかった話題に、なのははいきなりなことにドキリとする。

「なのはが気にかけてるって聞いたから。
 あの子、いい子だよ。でも、ずっと独りだった」

なのはの驚きに答えるようにフェイトが続ける。その顔に少しばかりの影を落として、伝える。

「私達は一時期協力関係で仲間だった。名前も呼び合ったけど、多分友達にはなれてなかったと思う。
 彼女が他の誰かと一緒にいるところを、私は見たことがない」

さつきはフェイトと真っ直ぐ向き合うことはしなかったし、フェイトもさつきとはただ効率面で協力をしていただけの認識だった。
さつきの方からフェイトに呼びかけ、触れ合うことはあってもそれは表面的なもので、決してお互いの内側に入ることはなかった。
でも、それでも察せることはある。

「あの子とも、友達になってあげて欲しいんだ。
 あの子、望んで一人になってるわけじゃないみたいだったから」

フェイトの言葉に、なのはは僅かに沈黙する。
何かまずいことを言ってしまったかと不安顔になるフェイトに、なのはは言った。

「……フェイトちゃんもだよ」

「……ぇ?」

「私だけじゃなくて、フェイトちゃんも一緒に友達になるの。
 名前は呼び合ったんでしょ? なら、後は簡単だよ」

「……うん」

なれるかな、と湧き出た不安は押しつぶして、フェイトは頷いた。
フェイトの首肯を受け取ったなのはも、自分の気持ちを伝える。

「私もあの娘と友達になる。
 だから約束だよ? またこの世界に」

「うん、絶対戻ってくる。君の名前を呼びに。
 そして、あの娘と友達になるために」

「うん!」



こうして、なのはとフェイト、始めての『お話』は終わりを告げた。



フェイトを救ってくれてありがとうと、涙を流しながら礼を言うアルフ。
協力感謝すると、いつも通り無愛想を装って、だけど最後にしっかりまたなと言ったクロノ。
今まで本当にありがとうと、礼と共にレイジングハートをなのはに託し、また今度と再会を誓ったユーノ。
その他リンディやエイミィと言った、アースラの人たちとの別れ。

そしてフェイトとは、お互いの髪のリボンを別れと再会の約束の印に交換して。

なのはは、日常へとその身を戻して行った。
だけど今までとは明らかに違う、その日常。1つの出会いを終え、だけどもう1人気になる娘はいて。





受け取ったのは不屈の心、手にしたのは魔法の力。
出会いと別れ、ほんとうのはじまり。
出会いと別れ、おわりにはしない。
2人の少女との、出会いと別れ、始まりと、始まりへ続く物語の、これは終わり。










あとがき

今日のNG:
フェイト「なのはの手の平って……小さくって……すべすべで……暖かくて…………やわらかあああああい!」


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