(や……やっちゃったー!!?)
現状を把握し、そうなった原因がそれはもう確実に自分にあると理解したさつきは心の中で絶叫した。
もうフェイト達に申し訳ないとかそういういうレベルじゃない。
と、そんな感じにさつきが冷や汗を流していると、
「あ、あれ? さつきちゃん!?」
と可愛らしい声で驚きの声が上がった。
さつきはその声に一瞬「え?」と固まり、
「なのはちゃん!? 何でここにいるの!?」
その声の主――高町なのはへと叫んだ。
「それ言いたいのはなのはだよ! 何でさつきちゃんはフェイトちゃんが張った結界の中にさも当然のように入れちゃってるの!?
なのは達は入るのすっごい苦労してたのに!」
ずるい! とばかりになのはに叫び返されたさつきだったが、彼女としてはそういう問題じゃない。
さつきとしては、なのははもうこの件から手を引いてるものだと思っていたのだから。
急いでその旨を聞こうとしたさつきだったが、その前にアルフに割り込まれてしまった。
「はんっ! アイツはワタシ達と手を結んだのさ!
アイツの強さは分かってんだろう? 今の内に引き返したらどうだい!?」
(ちょっとアルフさん! 今はこれ以上ややこしくしないでー!)
思わず心の中で叫ぶ。このまま話しがズレていくのはどうしても避けたいさつきであった。
「成る程、君たちは僕たちと対こ」
「そんなことはどうでもいいから! 何でなのはちゃんがここにいるの!?」
言葉を遮られたクロノが憮然とした表情になるが、どういう訳かそのまま引く。
対して尋ねられたなのははキョトンとした表情をして、
「何でって、ジュエルシードが発動したみたいだったから……?」
(そういう意味じゃなーい!)
某冬木の虎のように『ガー!』と叫びたくなるのを堪え、更なる追求を行おうとしたさつきだったが、
その時先程は一旦引いたクロノがなのはとさつきの射線を遮るように立ち塞がった。
「なのは、今はとにかくその使い魔の相手をしてくれ。
無理はしなくていいよ。足止めさえしてくれれば十分だ」
「うん、分かった!」
「このっ! 舐めるんじゃないよ!」
そしてそのままなのははクロノの指示通りにアルフと戦闘を始めてしまった。
「あっ……」
さつきは思わず一歩踏み出るが、またもやクロノがその前に立ち塞がった。
「君の相手は僕だ。出来れば黒衣の魔導師とジュエルシードの暴走体の戦いが終わる前にカタを付けたい。
何か聞きたいことがあるなら手短に頼む」
さつきはその台詞にハッとし、一瞬すっかり忘れていたフェイト達の方を振り返る。
自分が圧倒されていた相手だ。どうなって……!?
「……あれ?」
普通に拮抗していた。
パンダの方も相変わらず元気に動き回っているが、フェイトの方にも目立った外傷は無い。
(よかった……
って、あれ? 『何か聞きたいことがあるなら』……って!!)
そのフェイトの様子にホッとしたさつきは、クロノ先程が言った最後の一文を思い出して再度ハッとした。
(この子……分かってる……?)
さつきは予感を確信へと変える為、クロノと対峙した。
「じゃあ聞くけど……なんでなのはちゃんがここにいるの?」
問われるのは再三の問い。
「彼女がそれを望んだんだ」
(っ! やっぱり……!)
そしてその返答でさつきは確信する。この子(クロノ)は自分の言いたいことを全て分かっている。
だが、それならそれで……問題だ。
「何で!? きみたちは正式な組織なんでしょう!?
それなのに本人が望んだだけで女の子をこんな危険な場所に連れてくるの!?」
「その危険の一つが何を……。
まあ、それはともかく、君の言いたいことも分かる。
だが、まあこちらもそれなりに人材不足でね。協力してくれるならそれに越したことは無かったんだ」
大問題だった。
「……っ 管理局っていうのは、そんな……」
「……もう一度言うが、君の言いたいことも分からないでもない。
だが、彼女はその危険を理解した上でなおこの一件から手を引きたくないと言った」
睨み付けてくるさつきを逆に睨み返しながら、クロノは語った。
「自分の周りが危険に晒されるかもしれないのに、自分にそれを何とかできるかもしれない力があって見ているだけなのが嫌なんだろう。
……だが、それだけじゃない。彼女は、君たち……君と、あの黒衣の魔導師の二人のことがほっとけないと言ったんだ」
クロノの言葉に、さつきは心臓が跳ねるのを感じた。
「責任を押し付けるようで悪いが、大人しく投降するか、ジュエルシードのことは諦めるかしてくれると助かる。
その方が、彼女が無茶をするのも減るかもしれない」
あくまで淡々と語るクロノ。
だが、その返答は分かりきっているのだろう。杖を下ろすことも、睨み付けるのもやめることはしない。
そしてそれはさつきも同じ。
「嫌だよ。わたしにだって、優先順位ってものがあるんだから!」
「そうだろうな。そうでなければ、彼女のことを気にかけながらも敵対しているなどという図式が成り立たない」
クロノの言葉の『気にかけながらも』という部分に、さつきが「うっ……」とたじろぐ。
「な、なななんでそんなこと……あ、さっきみたいなこと言っちゃってたら当然かぁ……」
と、それにクロノが呆れたような声で返した。
「いや、元々既になのは達自身で気づいていたんだが」
「――え!?」
「それで更に気合を入れたようだったな、うん」
「そ、そんなぁ……」
さつきはガックリと肩を落とした。
「……さて、」
と、そこでクロノが杖を構えなおす。
「図らずも本人の意思確認もできたことだし」
「………」
クロノの言葉に、さつきは無言で返す。しかしその内では、生命力をエネルギーとしそれを眼球に集中させ……
(悪いけど、今は大人しくしててね。
フェイトちゃん達にこれ以上迷惑かけれないし、早く加勢しに行かないと!)
それに反応し眼が紅く染まる。そしてそのまま魔眼の効力が発動され、それを直視したクロノは……
「それでは、今度こそ君を拘束させてもらおうか」
(え? ちょ!?)
《Stinger Ray》
素早く後ろに下がると共に、その手に持った杖から無数の光弾を射出した。
「このっ! 倒れろォ!!」
《Photon Lanser》
フェイトが叫びながら電撃を纏った魔力弾を打ち出す相手は、例のジュエルシードの暴走体。
彼女達はその家の、かなり広い庭の端の方で細々と激戦を繰り広げていた。そうなった理由としては、暴走体が完全に接近戦主体というところが大きい。
中庭の広い部分はさつきとクロノにフルに使われる形になったのでそれはそれで丁度良かったかも知れない。
だがフェイトの撃った魔法は、暴走体に華麗に避けられてしまう。
さつきの様に持ち前のスピードで逃げるのでは無く、魔力弾の隙間を驚く程の身のこなしで縫うようにすり抜けていく。ズングリした体形からはとても予想できない動きだ。
先ほどからフェイトの攻撃は一向に当たっておらず、それはフェイトの焦りを加速させてゆく。
「くっ!」
フェイトはたまらずに、いくつかの魔力弾を同時発射して面制圧に出ようとする。
しかしその手も既に何度か使っていた。それなのにフェイトが暴走体を仕留め切れない理由は……
「――! また!」
いくつかの魔力弾を同時発射するための下準備、フォトンスフィアの設置のための溜めの間に、暴走体がフェイトの視界から消えてしまうのだ。
別に相手の動きが特別早い訳では無い。さつきや、下手すればブリッツアクションも使わないフェイトよりも遅いだろう。
だが相手の暴走体は、巧みな視線移動とフェイントで隙あらば自分を相手の視覚外に持っていってしまう。
もしフェイトが、ある程度周りを見渡せる程度に暴走体から距離を取り、その面制圧型の攻撃を行えばちゃんと攻撃は当たるだろう。
相手は今のところ近接攻撃しか行っていない。妨害を受ける可能性もほぼ皆無と言える。
勿論フェイトもそれは気づいている。しかし、彼女の心的状況がその選択を完全に拒否していた。
曰く、暴走体から離れたら、その隙に管理局側にジュエルシードを掻っ攫われるかも知れない。
曰く、暴走体から離れたら、暴走体が自分を諦めて他の人と交戦を始めてしまうかも知れない。
そういった不安が、フェイトを暴走体から付かず離れずの距離に縛り付けているのだ。
そして、理由はそれだけでは無い。
『隙だらけだ』
「っ! 痛っ!」
フェイトの視覚から逃れ、背後に滑り込むように周った暴走体の爪が、フェイトの首筋に直撃した。
フェイトが鋭い痛みを感じると共に、首の薄皮が切れ、少量の血が流れる。
そう、暴走体の攻撃は、"フェイトの魔力障壁を殆ど貫くに至ってない"のだ。
最初こそ刃物で切られたと思って冷や汗をかいたが、一度気付いてしまえば、
この"暴走体と接近戦をしていても殆どリスクが無い"という状況が、彼女に乱戦域からの一時離脱という手段を奪っていた。
《Haken form》
「はぁあっ!」
気合と共に、フェイトは高度を下げながら、鎌と化したバルディッシュを背後へと横薙ぎに振るう。
だが、それほど高い位置にいる訳でもないのに、暴走体は確かにフェイトの背後にいるにもかかわらず、それは空振りした。
フェイトの視界の下の方に、空振りしたバルディッシュの下で体を屈めて捻っている暴走体がいた。
(これは、さっきの!!?)
『跳ねろ』
それは、先ほどフェイトも傍から見た光景。その記憶の通り、フェイトの顎に暴走体の蹴りが入り、フェイトを浮かす。
「くっ……うっ……!」
ダメージは少なくとも衝撃は走る。脳を揺さぶられるには至らなかったが、覚悟していなければ舌を噛んでいたかも知れない。
《Blitz Action》
相手の蹴りを耐えると同時、フェイトは高速移動魔法を用いて暴走体の後ろに回りこむ。
その勢いのまま足を狙って薙ぎ払いをかけた。
「はあっ!」
『よっと』
だが、またもや暴走体はそれを跳躍することでかわす。
何度か暴走体に背後を取られているフェイトは、急いで体を前方へと投げ出した。
直後、先ほどまでフェイトのいた所へと着地する暴走体。
「くっ!」
全体的にこちらの方が早い筈なのに、まるで動きを読まれているかの様に避けられる。兎に角戦い方が巧すぎる。
中々進展しない状況に、フェイトの焦りは格段に加速していった。
「うわわわわっ! ちょ、ちょちょちょっとタンマーーー!!」
クロノの光弾をギリ避け、逃げ回りながらさつきは叫ぶ。
(な、何で効かないのってそういえばレイジングハートさんが対応策見つけてましたねそれって誰でも使えるようなものだったんですね何てことしてくれやがったんですかコンチクショー!)
「待ったなんて聞くか! 君のお陰で僕があれからどんな目にあったか!
今度こそは君に勝ち、少しでも汚名を返上してやる! そうだ、負ける訳にはいかんのだぁ!」
「色々混じってるしキャラ変わりすぎだよ! そしてさっきまでの冷静な仕事人みたいな雰囲気はどこいったの!?」
(そりゃあ海に叩き付けちゃったのは悪かったと思ってるけどぉおおお!?)
あの後クロノの身に何があったかなどさつきは知らない。いや、仮に知っていたとしてもつまりこれは八つ当たりだと理解して泣くだけだが。
(こうなったら、待っててねフェイトちゃん! すぐにこの子倒して、そっちの援護に行くから!)
以前一度ほぼノーダメで倒しているという事実が、さつきの心に余裕を生んでいた。生んで、しまった。
さつきの進行方向から地面スレスレに1つの光弾が飛んで来る。
それを見たさつきはジャンプしてそれをかわそうとし――
「……え?」
跳んだところで、その魔力弾が停止した。動く様子すらない。
(――――)
予想外の事態にさつきの思考に一瞬だけ空白が出来、そして次の瞬間には、
「!? あ゛っ――!!」
身動きの取れないさつきの鳩尾に、その魔力弾が突き刺さっていた。
「……くそっ、浅いか」
悔しげに呟かれるクロノの声。吹き飛ばされるさつき。地面に激突し、腹をかかえて悶絶する。
(な、何……で? 今、気づいたら目の前まで攻撃が……!)
困惑するさつき。だが、クロノはそれを待っている程ヌルくはない。
(成る程、今のでもそれなりに十分なダメージは期待出来るみたいだな)
《Stinger Snipe》
思考すると同時に放つ追い討ちの魔力弾。
それは蹲るさつきに向かって一直線に飛んで行き……
「あああああああ!!」
直撃する寸前、さつきががむしゃらに振った腕に吹き飛ばされた。
(くそっ! 相変わらず何てパワーだ! 判断を間違えた)
気合でと言った風に立ち上がり、こちらに接近しようという様子が丸見えな構えをとるさつきに対して、
(……でも)
クロノはさつきが動き出す前に先手を打った。
《Stinger Ray》
さつきの居る方へ向かって、ロクに狙いも付けぬまま魔力弾をばら撒く。
動こうとしていたさつきは、慌ててそれを迎撃した。
その驚異的な動体視力とスペックで、その全てを叩き落していく。
――結果、そこに縫いとめられることになる。
(やっぱりだ)
弾切れを装って、弾幕を止める。と同時に頭上に魔力弾を遅延型で設定。
弾幕が切れた瞬間、クロノの視界からさつきが消える。瞬間、クロノは上空に待機させておいた魔力弾を自身の周囲に降らせる。
「きゃああ!?」
左側から聞こえた悲鳴に、クロノは距離をとりながらチャージ中の杖を向けた。当然そこにはさつきがいる。どうやら先ほどの攻撃は直撃はしなかったらしい。
明らかに危険な光を宿す杖を突きつけられ、迎撃しようと動きが止まるさつき。
そこに、上空から飛来してきた、それぞれ3方向からの魔力弾が直撃した。
「ああああっ!」
更に、その攻撃で怯み、崩れ落ちそうになったところを、
「ブレイズ――」
クロノが貯めていた魔力を解放した。
「――キャノン!」
「――っ!!?」
砲撃級の威力の魔力弾をモロに受け、さつきの体が吹き飛ばされる。
車に跳ねられたかの様に地面に激突したさつきの姿に、思わずと言った風にエイミィからクロノに通信が入った。
「うわぁ……クロノ君、さつきちゃん大丈夫?」
ちなみに、この場所の映像ユーノの手によって常時アースラへと送信中である。
「ああ、初撃の手応えでは、これぐらいならまだ大丈夫な筈だよ。
頼むから、気を失っててくれよ……こっちも手加減は大変なんだ」
相手が魔導師なら、手加減なんて必要ない。バリアジャケットの上から高威力の魔力弾をいくらでも叩き込める。
だが、今回のように相手がバリアジャケットを纏っていなかった場合、魔力弾で傷つきはしなくても地面との激突等で重傷を負わせてしまう可能性がある。
その為クロノはそこら辺に配慮して戦わなければならない訳だが……
「くっ……うう……」
当のさつきは、苦しげな表情を見せ、ふらつきながらも軽々と立ち上がった。
体を動かすことの出来る最低限の力など、彼女の力からすれば微々たるものであるからこその現象だが、
それを見たクロノはゲンナリした顔をする。
(一応試してみるか……)
「バインド!」
クロノの叫びと共にさつきの四肢を拘束する光の輪。
だがしかし、それはクロノには嬉しくない予想通り、
「あああああ!!」
さつきが我武者羅に振った腕によって破壊されてしまった。
腕を振った勢いのままフラフラとふらつく体を支えながら、さつきが疑問の声を口にする。
「どうして……こんなに……簡単に……」
本当に困惑しているのが分かるさつきの声。
自分が何をされたのかはいくら何でも彼女にももう分かる。意識を別のところに逸らしてからの攻撃。所謂フェイントというものだ。
最初の攻撃も、さつきは似たようなものだと推測している。
だが、それを効率よく行う為にはまず相手の動きについて行かなくてはならない。
そしてさつきは、自分の動きにクロノは付いていけない自信があった。
なのに、どうして。
「君、今まで負けたことなんて無かったろ」
「………?」
「この世界のことを調べても、魔法の存在も、魔法生物の存在も確認されなかった。
この世界には、君程の力を持った者を脅かす程の存在はいなかったんだ。
……だから、今まで力押しだけでやってこれた」
「………っ」
クロノの言わんとしていることが何となく理解できて、さつきは唇を噛む。
「君は強すぎたんだ。そのスピードで近づいて、一撃入れるだけで終わるんだから当然と言ったら当然だ。
だから……圧倒的に、戦い方が下手で、弱い」
例えば最初の一撃。さつきは向かってくる弾が見えた瞬間にまだ彼我の距離は開いていたにもかかわらず跳んで避けようとした。
だからさつきの目線に合わせて弾道を修正する余裕ができた。
例えば弾幕の乱射。さつきの身体能力なら最初の数発やりすごした後は射線から逃れれば後はいくらでも動けた筈なのだ。
だがさつきはわざわざ足を止めて、無駄な弾まで落として迎撃していた。
例えばさつきが反撃に転じた時。一直線で、タイミングが掴みやすい。更に回り込む時は必ずと言って良いほど相手の左側だ。
事前に戦闘データからそれを見切っていた為、簡単に出鼻を挫けた。
例えば最後の一撃。何故正面から受け止めようとするのか。相手がわざわざ至近距離でチャージしているのだから、相手がそれを打つ前に殴り飛ばすかその場から離れるべきだったのだ。
結果が、あのザマだ。
「この話は、別に君に限ったことじゃあない。強い力を持った魔法生物は、得てしてそうなりがちな部分がある。
だから極端な話、魔導師でもドラゴンに勝つことは不可能じゃ無いし、そういう基本スペックで劣っている対上級魔法生物用の戦闘訓練もしてきた」
そう、クロノはさつきの身体能力を見て、この事実に気付いた瞬間に、相手を普通の相手と思うのを止めた。
「まさか人間に、対魔法生物相手の立ち回りの応用を使う時がくるとは思わなかったが……
分かっただろう? 今の君では僕には勝てない。これ以上は不毛だ。
諦めて、大人しくアースラまで付いて来てくれないか」
(実際、こっちが一撃もらったらヤバイっていう状況は改善されてないし、ただでさえ手加減がキツすぎる……。
何よりこんなのは趣味じゃないし、僕の戦い方にも合ってない。まだまだ余裕はあるが、魔力消費が激しすぎる。
くそ、ボロボロの状態でもバインドを破壊してくるような力の持ち主とは、分かっていたけどとことん相性が悪いな)
実際のところ、クロノに余裕などあまりない。
弾幕でさつきを拘束したところなど、さつきが上手くやり過ごした場合は即行で空に逃げる気満々だったし、
カウンターが決まったのだって、元の戦闘データを元にデバイスにタイミングを入力しておいたお陰だ。さつきの動きは早すぎてタイミングなんて中々計れるもんじゃない。
相手が目の前にいるのにチャージなんて、足元に転移用の魔法をセットしておかなければ誰がやるものか。
倒すだけならば簡単なのにと内心の冷や汗を押し隠し、余裕の立場を演出する。
だが、今回の相手はそれを受け入れてくれる程諦めのいい相手ではなくて。
一発当てれば。その思いを気力に変えて、さつきは力を振り絞る。
「いやだ――よっ!」
答えると同時、急接近して拳を振りかぶる。
「――っ!」
目の前でクロノが息を呑むのが分かる。
(ヒントをどうもありがとう! 様は考えて戦えばいいんでしょ!?
だったら……まずは!)
「頭!」
と、見せかけて
(胸元!)
相手の頭に向かっていた拳が、イメージ通りの綺麗な軌道を描いて胸元へと向かう。
その動きにさつきは手応えを感じ、
(やった! わたしだってやればこれくら……い?)
盛大にスカった。
クロノに体半歩動かれただけで華麗にかわされた。
(なっ!?)
「実戦でいきなり見よう見まねのフェイントをかますやつがあるか馬鹿!」
しかも盛大に怒られた。馬鹿扱いまでされた。が、さつきにその理由《わけ》が分かる訳も無く。
そのまま何かで盛大に吹き飛ばされるさつき。わき腹の痛みが彼女にダメージを伝える。
戦闘の素人であるさつきが知らないのも無理はないが、フェイントと言うのは、その動作の前と後で"全く違う"動きでなければならないのだ。
よく"流れるようなフェイント"という言葉を耳にするが、あれは直接的な意味では無い。
サッカー等のフェイントでも、体は流れているように見えるが、フェイントの対象であるボールは全く違う軌道を描いているものだ。
その為フェイントには、フェイントする側が一瞬でも静止する必要がある。
最初にクロノがやったフェイントは、魔力弾を静止させた後、相手の視線に沿って移動させる事によってそこら辺のフォローも兼ねている。
先ほどさつきがやった様に、流れで軌道を変えるのでは、それは結局相手の"予想範囲内"の動きになってしまい、相手の虚を突くことはできないのだ。
ついでに言うと、人の体なんて早々イメージ通りになんて動くものでもなく、
本人はちゃんと動いたつもりでも大抵は周りから見たらギクシャクしてたり見当違いの動きをしてたり、
更に体の動きに気を回しているせいで普段よりスピードも切れもなくなり、
つまりは相手からすれば何の脅威でもないただのカモになるのである。先ほどのさつきなどモロにこれであった。
こればかりは練習に練習を重ねて体に慣れさせるしか無い訳で、まぁ甘い考えでいきなりフェイントを実戦投入したさつきに対してクロノが怒ったこともやむなしである。草々
空を舞台にして戦っているのはなのはとアルフ。
なのははクロノの言葉通り、無理な攻めはせずにアルフを縛り付けておくことに専念している。
それでも隙があれば一撃必殺の砲撃魔法を撃ってくるのだから、アルフとしてはやりにくいことこの上ない。
更にアルフをやりにくくしてるのが、
「ああもう鬱陶しいねこれ!」
なのはの周囲を縦横無尽に飛び回ってる魔力弾、プリベント シューターである。
「対さつきちゃん用に考えた対抗策ですもん、そう簡単に突破されては困ります!」
言いながらも数個のディバインシューターを打ち出すなのは。
「そうかい! でもワタシはあの子と違って射撃魔法も使えるんだよ!」
それをかわしながらも、数発の直射型の射撃魔法で応戦するアルフ。
確かにアルフも射撃魔法は使えるがそこまで得意とは言えず、彼女の戦い方のメインはクロスレンジのインファイトだ。
現にアルフの魔力弾はなのはのシールドに軽々と防がれてしまっている。
その為、プリベントシューターはアルフに対しても十分に有効な手段となっている。
彼女達の間では、その後も膠着状態が続いていた。
と、ある時、なのはとアルフの視線の端で、さつきがクロノの反撃を受けて吹き飛ばされた。
「あっ!」
それになのはが肩を竦めて硬直する。
「はあぁあっ!」
アルフはその隙にと、拳を固めてなのはに突っ込んだ。
「あ きゃぁ!」
《Protection》
慌ててシールドを張るも、殆ど間に合わず衝撃で飛ばされるなのは。
直ぐに体勢を立て直す。
一方アルフはと言うと、
「いっつー……」
飛来するシューターへ横から、自分で突っ込んだとは言えやはりダメージは受けたらしく、新たにシューターを展開したなのはを恨めしげに睨んだ。
なのははそれに苦笑いしながらも、その視線はまださつきの方へとチラチラと流れている。
そして、アルフはその裏でフェイトに念話を送っていた。
《フェイト!》
体に無数の切り傷を付けながらも暴走体の隙を何とか探し出そうとしていたフェイトに、アルフからの念話が届いた。
フェイトはそれを離脱の催促だと予想し焦る。
《ま、待ってアルフ! もう少しで封印できるから!》
が、それに勝るとも劣らない焦った声が返って来た。
《そんなこと言ってる場合じゃないよ! ワタシはまだ何とかなるけど、さつきがヤバイよ!》
《え!?》
その言葉にフェイトは慌てて回をに意識を向ける。さつき達を見つけると、さつきは執務官の攻撃を受けたのかダウンしていた。
「さつき!」
《くそっ! あいつには一回勝ったって言ってたけど、やっぱり何か対策でもされちまったのかい……!!》
まずい、とフェイトの焦りが爆発寸前になる。さつきが倒れ、執務官がこちらに来ればジュエルシードを確保することは絶望的だ。
《フェイト、しょうがない。ここはさつきを回収して急いで"あれ"で逃げよう!》
「駄目!」
即答だった。声にまで出して大声で叫んだ。
《フェイト!?》
(ジュエルシードは、ジュエルシードだけは、絶対に!)
「はあああぁあぁぁああ!」
アルフの声を振り切るかのように叫びながら、フェイトは暴走体へと突貫する。
だが感情のままバルディッシュを大振りに振りかぶったフェイトは、その瞬間また暴走体を見失う。
しかしフェイトも、先ほどから既に何度もこの状況を体験している身である。
「後ろぉ!」
叫び、フェイトはバルディッシュを自らの背後へと振るう、その前動作として首を回して背後を見やる。
はたして、暴走体はそこにいた。触れそうなくらいの目と鼻の先に。
『勝負はハッスル――』
まずい、と思った時には遅かった。
『――無性にハッスル!』
「ガっ!」
フェイトの体を襲う、今までよりも格段に強い衝撃とダメージ。
すれ違いざまに、目にもとまらぬ速さで背中に2撃、入れられたことを認識する。
「かっ……ハっ……」
そしてその後に来る激痛。背中の傷が、今の攻撃で開いてしまっていた。
ふらつく体を何とか支えようとしながらも、フェイトはその場に崩れ落ちた。
あとがき
やったー冬休みだメリクリあけおめことよろ舞氏頑張って広告爆撃のせいで一時期理想郷云々かんぬんやったー春休みだ春休み終わったー
さて、長い間更新してなかったもんでこんだけ挨拶が溜まってしまっていた。馬鹿かと --;;
しかし流石に一つは略す訳にはいきませんので抜かしました。
地震、酷かったですね。
僕が心配していた方々はおおむね無事が確認されたのですが、その中にも大きな被害を受けてしまった方もおられますし、何より放射能の問題が現在進行形で……
亡くなられた方々へは、ご冥福をお祈りします。
作者は幸いにも愛知県在住で、何事もなかったかのように過ごさせてもらってます。
さて、では今回の話の後書きに。
い つ か ら こ の S S が さ っ ち ん 最 強 チ ー ト も の だ と 錯 覚 し て い た ?
いや、まぁチートなのは間違いないんですケドね。以前感想掲示板で書いた、「手加減しないとなのは達死ぬ」も嘘じゃないですし
ってか型月で強い部類に入る人達ってパワーの割りに防御点低くないですか? いや、そのパワーがチート級なだけですが;;
なのは組はそこら辺バランスいい感じだと思ってるのですが
ちなみに、後々荒れるとやなので今の内に明言しておきますが、作者はなのは達(A''s後ぐらい)VSサーヴァントは五分五分派です。
くれぐれも感想板での議論はしないでくださいお願いします。
しかし今回、見事に 中 身 が な い !
戦闘シーンとか無理や。専門外や。ただの解説厨のグダグダやんけ……
本当はこのパート終了まで終わらせる筈だったんですけど、そろそろ更新したかったのと生存報告と、
慣れない戦闘シーンの息抜きと、気がついたら1話のノルマ容量超えてたのとで一旦投降することに。
いや、マジでこんだけ待たせといてgdgd続けてすいません…… ホントに
あとクロノの台詞に違和感があるかも知れませんが、日本の警察でも立てこもり犯を自主させるために心にも無いこと言いますよね? あれと同じようなもんだと思って貰えればさほど違和感はないと思います。
あとブランクとスランプが酷い。
ずっと書いてなかったせいでキャライメージが崩れかかっててもう一回なのは見直したりこのSS最初から読み直したりしてたし。
それでも上手くキャラが動いてくれなかったのは戦闘シーンを操作しなきゃいけなかったからだけじゃ絶対ない。
と言う訳で、実は皆様にお願いが。1つ、なんちゃってジュエルシード事件のネタ提供をお願いしたいのです。
このパート終わったらアニメどおりの急展開で持ってく筈だったのですが、今のままやってもグダグダになってしまう気しかせず、そんなのはいやなので……
なので少しでも勘を取り戻したく、提供して頂いたネタの中から一つだけ、この話の後に入れようかと思い立ちました。
感想と一緒に書いて貰えると嬉しいです。後から付け足したい場合は、以前書いた感想を編集してください。
どのネタを選ぶかは、作者の独断と偏見によって決められます^^(ぉ
僕の書き方の性質上、今後の展開が崩れてしまうということにはなりにくいし、そうならないネタを選ぶつもりです。
ネタと言っても、断片的なものでいいです。というか断片的なのがいいです。
今回のだったら『パンダ師匠出して!』、以前のを参考にするなら『ユーノの悩みをジュエルシードが汲み取って、スーパーユーノ誕生』、前回の後書きで書いた、『桃子がジュエルシードを拾って翠屋がアーネンエルベに!』みたいな、こんな感じがいいです。僕も書きやすいです。
あ、出来れば戦闘メインにならない方がいいなぁ……とか(汗
……そもそも誰もネタを提供してくれないかもとか言うのは無しの方向で(待
まぁ、その時はその時で他に案はあったりするのでいいのですが;;
追記:気がついたらとんでもない人たちに挟まれてた。なにこれ怖い