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No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
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[12606] 第17話
Name: デモア◆45e06a21 ID:79c5cfea 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/02 11:09
「さつき!」

さつきがジュエルシードの発動した方へ一直線に進んでいると、空からフェイトがアルフを伴って降りてきた。

「フェイトちゃん!」

「さつき、悪いけどあんたの言ってたパンダってやつの捜索は一旦止めるよ」

三人で並ぶように駆けながら、狼形態のアルフが早々に切り出した。今後戦闘になることを考えて魔力消費を抑えているのだろう。

「うん、分かってる。何よりもまずはジュエルシードだもんね」

「うん、それでさっきまでアルフと相談してたんだけど、今度は多分管理局も動くと思うんだ。それで……」







~同時刻 高町家~

「ユーノ君!」

「うん、ジュエルシードだ。
 管理局の方は向こうで感知してる筈だから、僕たちは先に現場に向かっておこう。
 そのうちに向こうから指示が来る筈だ」

「うん!」







~同時刻 アースラ~

「エ、エイミィ大丈夫かい……?」

徹夜で目の下に隈ができながらもパネルを弄ってるエイミィに、クロノは恐る恐る声をかけた。

「……………」

帰ってきたのは無言の圧力。周りの局員からもプレッシャーを感じる。
鋭い訳でも怖い訳でもない眼光に、何故かクロノは冷や汗が止まらなかった。

と、間が良いのか悪いのか、その時制御室の扉が開いて一人の女性が入ってきた。この船の艦長、リンディである。

「あら、アースラの切り札、(プログラム)クラッシャーのクロノ執務官ではありませんか」

……どうやら後者だったようだ。ちなみに括弧の中も何故か聞こえる素敵仕様である。
というより実の母親にまでこの言われようである。普通に泣ける。

「……艦長、わざとではなくとも様々なプログラムを壊してしまったことは認めます。
 ですができればそのような二つ名を付けるのは止めていただきたいのですが」

「まぁさすがに二つ名は冗談だとしても、艦内でかなり噂になってるわよ。
 あらゆる魔法プログラムを一瞬にして破壊する切り札(笑)だって」

「………」

やってしまったことがことなのでもう黙るしかないらしい。

「大体、貴方がアースラの重要なプログラムを相当数破壊してくれたお陰で、今のアースラは機能停止も同然、
 大半の主要な機能が使えないせいで今事件が起こってもマトモな対処なんてできない。
 こんな状態で噂にならないほうがおかしいわよ」

「……すいませんでした。しかし僕としてもあれは予想外で、
 そもそもあんなことであのような事態に陥るなんて想像もできないことで」

リンディが話す度に重くなっていく周りからの圧力。
クロノはそれに耐えられずにこういう場合に一番やってはいけないこと――即ち自己弁護に走ってしまった。

「クーローノーくーん?」

「…………っ!!!?」

クロノが気づいた時にはもう遅い。クロノはエイミィに首の後ろをガッチリと掴まれてしまった。

「艦長、全然反省の色がみられないこの切り札君を少しばかりお借りしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、少しばかりなんて遠慮しなくとも、好きなだけどうぞ」

「ありがとうございます」

「か、か…………」

クロノが何か言おうとしたが、途中で言葉を切った。切らざるを得なかった。そろそろ色んなところからのプレッシャーで圧死しそうだ。
無論その圧力は母親からも放たれている訳で、何を言っても無駄だと悟ったのだった。
…………まあ、この後彼が物理的に死ぬ可能性は全くもって低くないことは確かだろう。


要するに、彼らは全く地球での出来事を把握することができない状態にあったのだった。







アースラが色んな意味で魔窟と化していた頃。

空と屋根の上を駆けること数十秒、さつき達の視線の先に目的地が見えてきた。

「あの家の辺りだったよね?」

「ああ、確かにそうだった筈だよ!」

「よかった、まだ管理局は来てないみたい。それじゃアルフ、さつき、予定どおり行こう。
 ……さつき、お願いね」

「うん、まっかしといて!」

それぞれが言葉を交わしながら、その家の庭に降り立つ。フェイトとアルフは固まって庭の隅に、さつきはその庭のど真ん中に。
地に足が着くと同時、フェイトとアルフの足元に魔方陣が浮かんだ。
フェイトはバルディッシュを体の前で握り締めて、アルフは四肢を大きく開いて構える。

そして二人はまるで計ったかのように同じタイミングで叫んだ。

「「封時結界、展開!!」」

直後、二人分の魔力と制御能力で作られた結界がその一帯の空間を包み込んだ。しかも今回の結界には外部からの侵入を拒む機能まである。
さつきの様に世界と結界のスキマをスリ抜けられるような規格外でもない限り、結界を解析ないし破壊ないししない限り外から中には入れない。
そう、これがフェイト達の策。管理局とまともにぶつかり合ったら幾ら何でも勝てる訳が無い。
そう考えたフェイト達は、フェイトとアルフが二人がかりで何とかして管理局を足止めし、その間にさつきが暴走体を無力化、即座にフェイトが封印して一気に離脱という手を採ることにしたのだ。
一人では簡単に突破されてしまうであろう結界でも、二人がかりならば、更には使用する魔力は同じで息もピッタリな主と使い魔のタッグである。それなりに時間は稼げるだろうと踏んでいた。

結界の展開が完了すると同時に、さつきは肩の力を抜いた。なんと言ってもこれまで2度、結界には爪弾きにされて酷い目に合っているのだ。
思わず身構えてしまった体から力を抜く。結界主のフェイト達がさつきを中に取り込むように結界を張ったとはいえ、不安が残るのは仕方ないだろう。

一連の作業が終わったさつき達は、その視線をやたら目につくある一点に向けた。
なんと言っても木造の扉の向こう側に白い巨体があるのだ。嫌でも目につく。
こちらに背を向けているその巨体はヒトガタをしていて、胴体は白く、腕と足は真っ黒、頭の上の方にある耳も黒色で……

(って、もしかしなくてもあれって……)

「なあフェイト、あれってさつきが言ってた『パンダ』ってやつじゃないかい?」

「確かに外見的特徴は同じだね。さつき?」

さつきが微妙な心持になっていると、同じ結論に至ったアルフとフェイトから疑惑の視線が送られてきた。

「……うん、多分。っていうか絶対そうだよあれ……」

背中にあたる部分に黒い模様(?)でやたらと達筆に『七ッ夜』と書かれているが、その姿は恐らく間違いなくパンダであろう。

「よかったじゃないかさつき、一石二鳥ってこういう事をいうんだねぇ」

「って言うことは、やっぱり……?」

「うん、あれからジュエルシードの魔力を感じる。あれが今回の暴走体で間違いないよ」

その言葉に更に微妙な面持ちになるさつき。何故だろう、素直に喜べない。
と、そんな事をしている内にパンダがさつき達に気がついた。パンダはゆっくりと庭の方へ向き直る。
その目の周りは黒く縁取られており、もうパンダで間違い無い。更にその額にはいっそ違和感すら覚える程に綺麗で孤立した黒い★マークが……

「ダイモーン!?」

思わず叫んださつきを責めてはいけない。

「「?」」

無論、セーラー服を着て悪と戦う自分から美少女と言っちゃうお姫様のことなど知らないフェイトとアルフは首を傾げたが。

パンダは緩慢な動作で道場から庭へ出ると、一番手近な相手――さつきと向き合う。

『逃げるなら……いや、もう遅いか』

そしてそう嘯いた……って、

(……えぇ!?)

「フェ、フェイト、あいつ喋ったよ! まさかあいつ元はワタシと同じ他の魔導師の使い魔なんじゃ」

一気に警戒レベルを引き上げるアルフ。

「落ち着いてアルフ、何もおかしくなんか無いよ。
 この世界にはね、『オウム』って言う人の言葉を真似する動物がいるんだ。勿論真似するだけで意味なんて分かってないらしいんだけどね。
 たぶん、あの『パンダ』も『オウム』の一種なんだよ」

次の瞬間には驚くさつきを他所にフェイトがとんでもないことをのたまった。

「な、成る程、さっすがフェイト! よく勉強してるねぇ」

「そ、そんなこと無いよ……」

さつきが絶句しているのを良いことに好き放題言い始めるフェイト達。顔を赤くして恥ずかしがるフェイトには悪いが、そんな学説は古今東西世界中のどこを探してもありはしない。

そして当のさつきは……

(パンダが喋った!? しかも何で遠野君ヴォイス!!?)

とりあえずテンパッていた。パンダの発した声が何故かよりにもよって思い人と一致していたというのもポイントが高い。
これが普通の状況なら感動でも感激でもはたまた哀愁を感じたりもしたのだろうが、そのお相手はパンダである。
……どう反応しろと言うのだ。

とは言え相手は既に戦闘体制、そっちの都合など知ったこっちゃ無いとばかりに襲い掛かろうと動いた。
その動きにさつきは意識を引き戻され、そして、

「――えっ!?」

驚愕の声は、さつきの物。
何と言っても、パンダが向かって来るような動きをした次の瞬間に、その姿を見失ったのだから。
動きが早い、とかそういうのでは無い。さつきの動体視力は、一瞬で相手の背後に回れるフェイトのスピードすらも捉えることが出来るのだ。

と、言うことは。

(消えた!?)

ちゃうわ。

「ぅわあ!?」

自身の視界の下に白と黒の何かを確認したさつきは、急いで上半身をのけ逸らしながら後ろに下がった。
瞬間、胸元を掠めるパンダの腕。
実のところ、パンダはずっとさつきの視界の中にいた。こいつが行ったのは、身を地面を滑らせるようにして急接近する"真正面からのフェイント"。
行う動作は突っ込むという同じ動作でも、相手の意識の範囲外の行動を取ることで、相手の意識から自分の存在を隠すという技術である。

勿論、そう簡単にできることでは無いしどのみちそれなりのスピードが無くてはならない。
……間違ってもパンダがやっていい動きじゃ無かった。

(何このパンダすごく早い!?)

見失ったという錯覚を抜きにしても、そのパンダの動きはやたらと素早かった。
一撃目をかわしても、即座に次の一撃が飛んで来る。
裏拳気味に振られた右腕を回避されたと見るや、その勢いそのままに左腕を突き出して来る。更に踏み込んでいた足を思いっきり伸ばしながらというオプション付きだ。
上半身をのけぞらし、更には後ろに下がったばかりのさつきに、自身の腰辺りに放たれたその一撃を避ける術は無い。

……普通なら、だが。

「ひゃあ!?」

情けない叫び声を上げながらもさつきが取った行動は、自身の左足を軸にしての回避運動だった。
さつきの驚異的な筋力によって成し遂げられたその回避運動は、しかし当然のことながらその体のバランスを崩すことになる。
上半身から倒れこむさつき。だが忘れてはならない。彼女の腕力はコンクリの壁さえ軽く粉砕する。片腕で少女1人の体重を支えることすら造作も無い。
結果さつきは、普通なら倒れこんで死に体になるところを片腕で自分の体を支えてコントロールすることでパンダの魔の手から逃れた。
……だが、そんな不自然な動きが素早く行える訳も無く。

「わわっ!」

無事に足から着地することに成功したさつきは、そのまま急いで身を屈める。さつきの頭上を、パンダの回し蹴りが掠めた。
幾らなんでもこれはたまったもんじゃ無い。さつきは一旦仕切りなおす事を望み、パンダの足が頭上を通過すると同時に背後へと跳躍した。
……完全に相手の間合いに捕まっていたのに、一息でその空間から脱出できるというのは、本人は気付いていないが接近主体の者達にとっては完全にチートだ。

だが、この相手にそれは通用しなかったようだ。
地面に着地する直前、というより結構その前からさつきの視線は自身が着地する場所に向けられてしまっていた。
戦闘する者としてはあり得ないが、ついこの間まで一介の女子高生だったさつきにそんな事を言うのは野暮だろう。
しかし今回はそれが完全に裏目に出た。

着地し、さつきが離れた位置にいる筈のパンダの方へ視線を戻した時、さつきの視界のどこにもパンダの姿は無かった。

「……え?」

「さつき、上!」『隙だらけだ』

焦りを含んだフェイトの声と、同時に聞こえたパンダの台詞。
それらの意味を理解するよりも早くさつきの後頭部、首の辺りに強い衝撃が走った。

「ガっ……!」

前方に向かってたたらを踏むさつき。だがさつきの感覚がこのままではマズイと警報を鳴らし、その状態で何とか体を後ろに向ける。
そこには、スタッと足から綺麗に着地したパンダの姿が。どの様な動きをしたのか知らないが、先程自分は頭上から攻撃されたらしいとさつきは理解する。
しかし理解したところでどうにかなる訳でも無く。
着地したモーションで硬直すること無く動き出したパンダに、未だふらついているさつきが対処できる訳も無く。

「さつきっ!」

「マズイ!」

どこからかフェイトとアルフの焦った声が響いた。
次の瞬間、着地した姿勢から足を伸ばし腰を回し腕を突き出し、
流れるように体全てを使い威力を強められ放たれたパンダの右拳が、さつきの右肩口を強打した。

――バスッ

「っとっとっと」

さつきはその拳の威力にバランスを崩して後退する……だけ。

「……あれ?」

「………」

「………」

「………」

さつきが疑問の声を上げ、パンダ、フェイト、アルフが沈黙する。
数瞬後、アルフが声を上げた。

「威力低っ」

その言葉と共に、静止した時が再び動き出した。
まず、拳を繰り出した体勢のまま固まっていたパンダが姿勢を正し、右手を体の前に持って来てじっと見始めた。
さつきの視線も自然とそこに注がれ、更にフェイトが自分の推論を述べる。

「それに、あの音、何かクッションでもあったみたいな……」

その台詞がさつきの耳に入ると共に、彼女は納得する。
彼女の視線の先にあるパンダの手はまるでぬいぐるみのように丸っこく、更にそれを覆うように生えているモフモフ感抜群であろう……毛が。

何はともあれ、

「よ、よーし! さっきの動きにはビックリしちゃったけど、威力がこれぐらいなら何の問題も無いよ!」

そうなのだ。いくら動きが素早く時々付いて行けなくなっても、その攻撃で殆どダメージを食らわないならジリ貧で倒せるのだ。
折角とんでもない格闘技術があっても、相手にダメージを与える手段が無ければどうにもならない。その手の形状からして武器を持つことも出来ないだろう。言うなれば今回の相手は灯油の入ってないストーブと言ったところだろうか。

――いやでもまあ、

と、しばらく自分の拳を見ていたパンダがその腕を体の前に構えると、

――電気ストーブですが何か?

その先から普通では有り得ない、ナイフ程の大きさと鋭利さを持つ爪がそれぞれ3つずつ飛び出して来た。

「そういうオチいらないよー!!」

さつきは思わず叫んだ。全力で叫んだ。







「ユーノ君、まだなの!?」

結界の外側、人目につかない場所で、なのはが目を閉じて何事かをしているユーノに呼びかける。

「なのは、アースラの方で何かあったみたいだ。
 僕が連絡するまでジュエルシードの発動にすら気付いてなかったらしい。
 直ぐに増援を呼ぶけど、発動から時間が経ってることも考えて僕達で先に色々やってて欲しいって」

それを聞いたなのはの顔が輝いた。かなり我慢の限界だったらしい。管理局の不備に不満を抱くことすら意識の外のようだ。

「うん分かった。で、どうするの?」

「この結界には、外からの侵入を拒む機能がある。だからまずはこの結界を破壊しよう。
 それには――封時結界、展開!」

ユーノが叫ぶと共に彼の足元に魔方陣が現れ、既に張られている結界を囲うように新たな結界が張られた。

「よし、後はこの結界を破壊した後、ジュエルシードが既に封印されていたら彼女達の足止め、まだ戦闘中だったらその妨害と足止めをしてくれって」

「え? ジュエルシードはそのままにしちゃうの?」

「次元干渉さえ起こらなければ、ジュエルシードの対応は後からでも何とかなるからね。それより早い内に彼女達を捕まえちゃった方が今後楽になるって」

確かに今フェイト以下不確定要素を取り除くことができれば、これからの動きは確実にやりやすいものになるだろう。
なのはも子供心ながらそれに納得し、いつの間にかセットアップさせていたレイジングハートを勢いよく結界に向けて突き出した。

「よーっしそれじゃあ、まずは全力でふっ飛ばせばいいんだね?」

「うん、手加減無用でやっちゃって」

なんとも雄雄しい純白の魔法少女に、何ともなしに背中を押してしまうフェレット。彼らに突っ込みを入れる人間は、残念ながらこの場には居なかった。

「りょーかい! 行くよ、レイジングハート!」

《OK my mastar. Divine Baster》

「シュート!」

《Shoot》







(ちょ、ちょっとちょっとちょっとちょっと、これって本当にまずいって!)

いきなり手の先から凶悪なまでの爪を生やしたパンダを前に、さつきは冷や汗を押さえきれずにいた。
その理由は、今までの状況で既にパンダの手にあの爪が生えていればどうなっていたかを考えれば分かる。
一撃目は首が飛んでいた。上空からの奇襲ではどうなっていたかなど考えたくも無いし、最後の一撃も恐らくは右腕が使えなくなっていただろう。
あとどれも例外なく確実に痛い。

しかもさつきは未だにパンダの動きに付いていけてない。これは不味い。
フェイトもその事が分かっているらしく、少々焦った声で叫んだ。

「さつき、私も一緒に」

しかし、最後まで言い切る前に、その声は止まった。いや、止められた。
フェイトとアルフ、二人がかりで維持していた結界を襲った振動によって。

「っ! 遂に来た……!!」

悔しそうな顔でフェイトが呻く。しかも予想通りだが嬉しくないことに、手応えからして、フェイトかアルフ、どちらか一人が結界の維持から手を離せば数刻もせずに突破されてしまいそうな衝撃だ。

「さつき……!」

不安そうな顔でさつきをに視線を送るフェイト。それに対するさつきは何とか引きつった笑みを浮かべて言った。

「だ、だいじょうぶだいじょうぶ…………たぶん」

「そこは大丈夫って言ってよ!?」

こんなやり取りをしていても本人達は必死なのである。

(と、とにかく、向こうに先に動かれちゃったら反応できないんだから、こっちから突っ込んでゴリ押しで……!)

そう考えたさつきは、相手に動かれる前にととりあえず全力でパンダに間合いを詰めに動いた。目的地はパンダの右側。
一瞬でその距離を縮め、目が追いついていないパンダの側面を殴りつける。
元のパンダが怪我をしてしまうかとか考える余裕は無い。やらなければ殺られる。いやマジで。

「……!!」

だがその拳はパンダにクリーンヒットはしなかった。
完全に追いついていなかった筈のパンダが直前で反応し、その左腕でガードしたからだ。

「嘘っ! また!?」

驚きで拳が一瞬止まりそうになった。勢いのまま拳を振りぬくが、さつきは内心冷や汗ものだ。
今までとは違う、命の危険を感じるレベルの戦いの中だからこそ、こういう現象への恐怖心は大きくなる。

(完全に反応できてなかったよね? 最近こういうの多くないかな? もしかしてわたしの方に問題があるの!?)

そして吹き飛ばされたパンダはというと、ガードしたのが良かったのか空中で華麗に体を捻って見事な着地を決めていた。
……大事なことなので何度も言うが、間違ってもパンダがしていい動きじゃない。
しかも、さつきは普通なら余裕で腕が破壊されるぐらいの威力で殴ったのに、見た感じパンダの腕は普通に殴られた程度のダメージしか受けていないっぽい。かなり頑丈にできているようだ。

そして、さつきには攻撃をガードされたことで迷いが生まれてしまっていた。
今度突っ込んでもまた意味がないんじゃないかとか、今度は反撃されちゃうかもだとかいう考えが浮かんでしまったのだ。
その引け腰な姿勢は、相手に絶好のカウンターの機会を与えてしまう。

さつきが気づいた時には、パンダは目の前。腕はまたもや首に向かって振り抜かれる直前。

「ひゃっ!!?」

さつきは咄嗟に後ろに下がることもできず、その場にしゃがみ込むようにしてナイフを避けようとする。

『――蹴り穿つ』

次の瞬間、さつきの下がる頭に合わせるように放たれたパンダの蹴りが、さつきを吹き飛ばした。

「……っ! ……ぁ……!?」

下から突き上げるように放たれた蹴りに自分から飛び込んで行ったさつきは、自分が何をされたのか分からないまま宙を舞う。
そのまま何もできずに背中から地面に叩きつけられた。

「っあ……い……たい」

片手で顔を覆い、もう片方の腕は地面を押さえて背中の痛みに堪える。
実際、特殊な体のお陰でダメージはそれほどないのだが、顔面と背中を強打された痛みは女の子であるさつきの意識を拘束するには十分だった。
そしてそれは傍から見れば、深刻なダメージを負って身動きが取れないかのようにも見える。

「さつき!」

「ちょ……アンタ大丈夫かい!?」

それを見たフェイトとアルフが叫んだ。だが彼女達は、自分達が動けば管理局員がこの場に来てしまうという状況のせいで動けない。
フェイト達の胸に焦燥が広がってゆく。

だが結果的にそのさつきの状態はいい方向に転がった。
同じように勘違いしたのか、パンダがゆっくりとさつきへと歩を進めたからだ。

だがそれは体制も立てられないまま追撃を入れられることを防いだだけにすぎず、そもさつきが意識を周りに向けなおさないと意味が無い。
幸いにして、フェイト達の叫びはさつきに届いていた。彼女はその声で我に返り、心の中で悶えつづけながらも涙目で周囲に視線を向けた。
そして自分へと近づいてくるパンダを認識する。しかし……

(どうすればいいの? 正面から戦ったら負ける、先制しても見切られる、どうすれば……
 ごめんフェイトちゃん、アルフさん。あれだけ大きな口たたいておいて、こんなんで……)

一瞬にして、そのような思考が流てしまう。しかもそれが気の迷いではなく現実なのだからタチが悪い。
そのまま(遠野君だったら、こんな状況でも助けてくれたかなぁ……)なんて方向へと流れて行ったのはどうかと思うが。

「どうしたのさアンタ! ワタシはアンタにゃ手も足も出ずにやられてんだ! そんな奴に負けたら承知しないよ!」

さつきがパンダの姿を認めてから上記の思考へ至るまでほんの一瞬。次の瞬間に聞こえて来たアルフの声に、さつきは内心苦笑する。

(無茶言わないでよアルフさん……だってこの子、むちゃくちゃ強いし速いんだよ)

同時に、頭の片隅で『そんなこともあったなぁ……』と無意識のうちに記憶を引っ張りだし……

(――ん?)

ちょっと待て。
――――今、記憶片隅の中にこの状況を抜け出す方法が出て来なかったか?

(…………わ)

あまりのことにさつきの体が一瞬ピクリと震え、

「忘れてたーーーーー!!!」

そう叫びながら飛び起きた。
予想外の元気さといきなりの奇行に固まるフェイトとアルフ、そしてパンダ。
いやパンダは次の瞬間には動こうとしたのだが……

「止まってくれる?」

さつきのその言葉と共にその動きを止めてしまった。

(何で忘れてたんだろう……馬鹿だわたし)

パンダの視線は、さつきの目に固定されている。
対するさつきの目は、魔力を通され、紅色に輝いていた。――魅了の魔眼である。

(最近めっきり使ってなかったから、存在自体わすれてたよ……)

あははーと頭をポリポリ掻くさつき。そんなさつきの様子に、フェイト達も何となく事態を理解したらしい。

「えーっと、さつき、大丈夫なの?」

「うん、この通りげんきげんき!」

尋ねたフェイトは帰ってきた答えにホット胸を撫で下ろす。

「で、そいつはもう大丈夫なのかい!? 早くしないと局のやつらが来ちまうよ!!」

さつきが大丈夫だと分かった瞬間、アルフが叫んだ。確かにここは急がなければいけない場面だ。

「あ、まだちょっと待って!」

魅了は、相手の意識を麻痺させ、自分の意識を送り込むことで相手を動かす術だ。
強力なものや別の魔術と並列で仕様して別の効果を持たせる等しない限り、これは本体に十分な刺激を与えれば解けてしまう。

ここは急がなければならない場面だ。だからこそ、確実な手段を取るべきだ。
さつきはそう思い、とりあえず行動不能になるくらいまでボコっておこうと考えたのだ。

「それじゃ、」

さつきはパンダの目の前まで行き、

(……………ちょっと、待って)

そこでふと思った。

――現在の状況
――今、彼女の目の前にはパンダがいる。
――そのパンダの声は遠野志貴の声の声と瓜二つである。
――そのパンダは彼女の魅了にかかった状態で、彼女の思い通りに操れる。

これは。

(……もしかして、チャンス?)

――――つまりはそういうことだった。

(目を瞑っちゃえば外見は気にならないし、遠野くんの声を聞けることなんてこの先あるか分からないし、
 今なら遠野くんの声で『好きだ』とかいやいやそこまでいかなくても『ずっと君だけを見てた』とか『もう離さない』とか言わ……言ってくれるしうんこれ最後のチャンスかも知れないないもんね
 という訳でとりあえずまずは軽く『結っk)

「さつき!? まだなのかい!!?」

いい感じに暴走していたさつきの思考をアルフが引き戻した。

その声にハッとするさつき。
頭を数回振り、数瞬の間悶々としていたが、やがてうんと頷くと深呼吸して、

「じゃあまず『抱かs

―――ドッカーーン!

遂に結界が破られた。
結界を破った桜色と水色の魔力光は丁度さつきとパンダの間に直撃し、両者を反対方向へと吹っ飛ばした。

「きゃあっ!?」

『うっ!? くっ!』

「チィ、遂に破られちまったかい!」

「今更引けないよ、早くジュエルシードを確保しないと!!」

さつきは地面を滑るように吹き飛ばされ、
パンダは吹き飛んだ瞬間に魅了の呪縛が解けたのか体制を制御して足から着地し、
アルフは悔しげに呻り、
フェイトは焦りを含んだ声を発してパンダへと肉薄して行った。



その様子を見て動き出したのは上空に佇む2つの人影。


「フェイトちゃん!」

白い影――なのはがフェイトの方へと向かおうとしたのを見て、

「行かせるかい! あの娘の邪魔はさせないよ!?」

アルフがその間へ割って入った。


「痛ったぁ……」

さつきが手をついて起き上がると、

「それはすまなかったな。何分こちらからではそちらの位置関係は把握できなかったものだからね」

黒い影――左手をギプスで固定し、残った右腕で杖を構えるクロノ・ハラオウンがその前に降り立った。

「君達をここで拘束する。投降すれば、弁護の機会が君達にはある」















あとがき

いやはや、遅くなってすいませんでした;;
この間ちょっとやっちまって停寮とか体育祭とか色々あったとか弁明もできない程間を空けてしまって申し訳ありません。
あ、今は停寮解除されてるんでそこそこ時間ありんす。
今回の話は主に序盤のアースラ場面で手間取ってました。てかあれだけで他のシーンの合計の何倍も時間喰ってました。ぶっちゃけあれ無ければあと1ヶ月早かったです(それでも遅いという突っ込みは無しの方向で(オイ
いやね、オチが思い浮かばなかったんですよ。それも最後まで
結局オチも何もない普通に普通な感じになってしまった。諦めって肝心だね。。

さて、今回の主役(笑)のパンダ師匠、ジュエルシードの暴走体ということをお忘れなく;;
本人か本人でないかは置いといて(←)、理性なんてほとんど無く、会話が成立してる気がするのも気のせいです。あれは泣き声なんです。

えー、で、今回のなんちゃってジュエルシード事件、実は他にも色々と案はありました。
桃子が拾って翠屋アーネンエルベ化とか、麻雀やろうず! とか……もう一つあったんだけど忘れてしまった;;
もしかしたら書くかも。アーネンエルベはネタが思いつかなくて+設定的に無理がでてきて諦めた系ですが;;


さて、前述したアースラシーンに悩んでいた間ですが、その間に日本鬼子に嵌ってしまった。日本人すげぇ。マジでアニメ化してくれ。
他にもひびちかラジオはちゃっかり聞いてたり。クイズで志貴の能力は? ってので素で間違えたのには笑わせてもらった。

それではまた次回ー。ああ、明日は中間テストだ……


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