某年4月26日 午後8時頃
とあるマンションの一室、オレンジ色の狼の背中を撫でながらその食事(ドッグフード)に付き合っている少女がいた。
フェイト・テスタロッサとその使い魔、アルフである。
「フェイトぉ~、ワタシはもう大丈夫だからさ、あんたもご飯食べなよ」
「さっき、少しだけどもう食べたよ」
非難の色を含めた自分の言葉に対して優しく返してくる少女に、アルフはため息を吐く。どうせ本当に少しだけしか食べてないに決まっている。
「ただでさえ探索魔法は体力を消耗するっていうのに、フェイトってばろくに食事も取らないし休まないし、フェイトだって軽くない傷を負ってるんだよ?」
背中を撫でる手を鼻先でどかし、アルフはフェイトを真正面から見つめて言い聞かせた。
アルフが言っているのは、暗い部屋の中、証明が当たってハッキリと晒されているフェイトの背中の無数の傷跡。
すり傷でも切り傷でもないそれは、何か細いもので何度も何度も叩かれたようなもの。ジュエルシードとの戦闘中に負ったものでは無く、それ以前に受け、未だ癒えない傷。
だが、フェイトはそんなアルフの労わりの言葉を聴いても、そこを動こうとせずまたアルフの背を撫で始める。
「今はアルフの方が重症でしょ?」
出てきたのは、相変わらずヒトのことを気遣う言葉。
「だから、ワタシはもう大丈夫だって。こんなやつのことなんかに構ってる時間があるんなら、フェイトは休んどきなよ」
「この間、私とまともに連携も取れなかったのに『大丈夫』?」
再度押す言葉に、返って来たのは意地悪な言及。
「うぐ……」
流石に一瞬黙るアルフ。
その隙に、フェイトは言葉を続ける。
「大丈夫だよ。私、強いから」
「そういう問題じゃ……」
アルフはまだ難色を示すが、フェイトはここで最後の札を切った。
「それに、次のジュエルシードの場所も大体の位置は特定できてるから。
この後すぐに回収しに行くから、どっちみち意味なし。なら、私は1人でいるよりアルフと一緒にいる方がいいな」
「………」
卑怯だ。アルフは心の中でボヤく。そして、せめてもの精一杯の抵抗をするも……
「ねぇ、それってワタシも着いてって……」
「駄目。今のアルフの状態じゃあ邪魔になっちゃうだけだよ」
フェイトの無自覚な、悪気の一欠けらもない、ただ単にアルフを心配してるだけの筈の一撃に、粉々に粉砕された。
数分後、
「じゃあ、行って来るよ。母さんが待ってるんだ」
主人の後姿を、心配そうなオレンジ色の狼の瞳が見送った。
その少し後。
「はーあ、今日も見つからない……」
ビルの間の裏路地をうろつきながらため息を付く少女。最近めっきり出番の無かった弓塚さつきである。
その間彼女が一体何をしていたかと言うと、外を出歩く訳にはいかない平日の昼間は魔術の修行をしたり古本屋で買った本を読んだり、休日は町を散策しながらあわよくばジュエルシードを見つけれないかとキョロキョロしたり公園でのんびりと和んだり、
夜になるとジュエルシードを探しに出るのは平日でも休日でも変わらず行ったりしていた。
本来するべき勉強も一緒に遊ぶ友達もないとなるとやることは限られてくる。確かにさつきは3週間ずっと1人で裏路地生活をしていたこともあるがあの時は生き延びるために必死だったこともあり、孤独に打ち震えることはあってもその生活に疑問を抱く暇など無かった。
しかし今はこと生きることに関して言えば十分余裕がある為、自然、今の自分の生活に「わたし、これでいいの……?」と寂しさと共に疑問と焦りを感じていたりしていた。
そんな中ついこの間休日の昼間に、女の子らしく久々にデパートまで足を運んだりした所、カセットコンロという画期的なアイテムを発見し即座に購入。フライパンや鍋、料理の本も購入し、スーパーで大量の食材を調達、ここ最近は平日の暇な時間を料理の練習に費やす等、以前に比べれば少しは充実した時間を送ってはいたのだった。だが……
「もしかして、もう終わっちゃってたりしないよね……?」
彼女が最後にジュエルシードに関わってから早2週間弱。
自分の知らぬ間に残りの10個以上のジュエルシードが全て回収されてしまったのではないかと、普通に考えたらありえない不安に駆られてしまうのも無理は無い。
「あれ?」
と、そんなさつきが途方にくれて星空を見上げると、何やら少し離れたビルの屋上に人影らしきものを発見する。
目を凝らしてよく見てみると、黒いマントと金髪が夜風にたなびいており、その手に握る杖が月光を反射していた。
「あれって……フェイトちゃん?」
確信すると共に、さつきはそちらへと駆け出した。
「大体この辺りだと思うんだけど、大まかな位置しか分からない……」
夜の闇の中、ビルの立ち並ぶ街中の、何の変哲も無い1つのビルの屋上に、フェイトが漆黒のマントをなびかせながら佇んでいた。
やがて何やら決心した様な表情になると、彼女はバルディッシュを振り上げる。それと共に、彼女の足元に展開される魔法陣と、杖に集まる魔力。
「で、それをどうするつもり?」
「!?」
それを掲げた瞬間いきなり背後からかけられた声に、フェイトは反射的に振り返った。
そこにいたのは、ごく普通の服装でスカートをなびかせ、手を後ろ手に組み、茶髪の二房の髪を揺らしながら笑顔で佇む1人の少女。
「あなたは……っ!」
フェイトが見間違えるはずも無い。以前、アルフをボロボロにした張本人。そしてジュエルシードの探索者の1人。
以前の戦闘で、この少女が白い魔導師の仲間である可能性は低いとフェイトは判断していた。もし仲間なら、応援に駆けつけた筈だ。
「どうしてここに」
いきなり現れた"敵"に向かって、バルディッシュを構えるフェイト。
「お散歩してたらあなたを見かけたから。
あなたこそ、さっきは何をやろうとしてたの?」
(散歩中にみかけた?)
ここはビルの屋上。どう考えても散歩中に見つけられる場所じゃないし、空を飛んでる間に見つかったとしても来るのが早すぎる。
フェイトは少女のふざけた答えに憮然としながらも、
「この辺り一面に魔力波を打ち込んで、ジュエルシードを強制発動させようとしていただけだ」
訊かれた質問に律儀に答えたってちょっと待て。
「……………」
さつきも格好はそのまま顔は驚きの表情をしている。フェイトは先日なのはの馬鹿正直さに驚いていたがこちらも大概だ。
「……えっと、それってこの辺りにジュエルシードがあるってこと?」
「? そうじゃなければ何故……あ」
ことここに至って漸く自分の失態に気付くフェイト。しかし明らかにもう遅い。
(……天然さん? 見たところまだ9歳ぐらいだししょうがない……のかなぁ?)
呆れながらも、さつきは思う。これはチャンスだ。
(発動前のジュエルシード、やっと見付けた。
これを逃したら次のチャンスはいつになるか分からない。絶対に手に入れなきゃ)
その為には……
「じゃあ、悪いんだけど、少しの間、眠ってて貰える?」
「っ!?」
その言葉に身構えた瞬間、フェイトの視線の先からさつきが消えた。
《ユーノ君、ここら辺……なんだよね?》
《うん、ゴミゴミしてて詳しい場所の判別まではできないけど、この近くからジュエルシードの反応があった……と思う》
建物や街灯の明りで明るい街中を歩いているのは、肩にユーノを乗せたなのは。
《思うって、ユーノ君……》
《うぅ、ごめん。ハッキリとはまだ……でも、闇雲に探し回るよりはいいと思う》
どうもその反応というのもまだ確証が持てる程でも無く、あるかも知れない、程度らしい。
《そうだね》
しかし、それでも確かに有益な情報に変わりはない。なのはは相槌を打った。
と、
「あれ?」
その時、なのはの視界の端で、何かが目を引いた。
周囲にも同じようなことが起こった人がチラホラいたのか、何人かがそちらへと目を向ける。
《どうしたのなのは?》
「あ、また」
《!》
今度はユーノも気付いた。ビルの屋上で、何かが瞬間的に光った。しかも何やら雷が走ったようなエフェクトまであったような気がする。
極めつけに、何やらジジ……ジジジ……という音まで聞こえた。
なのはは空を見る。星空が美しい。うん、雷では無い。漏電にしては派手な気がする。
自然現象とは思えない。
原因には2つ程心当たりがあるが、片方は何にも感じなかったし、もう片方は理由が分からない。
《ユーノ君、ジュエルシードの反応、あった?》
《ううん、何にも感じなかったよ》
《って事は、あれ……》
《うん、多分……》
と、その時そこを凝視していたなのは達の瞳に紅いマントのような物が翻ったのが見えた。
それで確信する。
「フェイトちゃん!」
いきなり叫んだなのはに、道行く人が振り返るが構わない。なのはは急いでそちらへと走り出した。
《ユーノ君、結界お願い!》
《任せて!》
なのはの肩からユーノが飛び降り、その足元に魔法陣が浮かび上がる。
周りが結界で覆われたのを見ると、なのはは胸元のレイジングハートを掲げて、叫んだ。
「レイジングハート、セーット、アーップ!」
目の前から少女が消えた。そして自分の視線の端を何かが過ぎた気がした。
「ゴメンね」
それを認識した途端、フェイトは弾かれた様に動いた。急いでそちらと逆の方へと体を投げ出す。
次の瞬間、フェイトの頭の側を何かが通り過ぎて行った。そのままだったら頭の後ろに直撃していたであろうそれは、先程まで対峙していた少女の拳。その先には、初撃をかわされて驚いている少女。
(見失った!? 私が!!?)
フェイトは戦慄する。彼女の拳の威力は、アルフがその身をもって証明している。1撃でも貰ったらアウトだ。
それなのに、本来高速戦闘を主としているフェイトが見失うスピードを見せ付けられた。フェイトの背に冷たい汗が流れる。
スピードだけは勝っているつもりだったのに、とんだ致命的な誤算だ。更に殴る時に何故か相手が謝っていたのが余裕そうで腹立たしかった。
しかし、それでも彼女は今の一撃である事に気付く。
(今の拳、アルフを壊した時程の威力は無かった。躊躇ってる?)
それならそれで好都合。もしかしたら1撃くらいなら何とかなるかも知れないとフェイトは考えるが、どちらかと言うとそちらよりも拳のスピードが落ちている事の方が重要だろう。
そういうことを考えている間に、フェイトの視界から少女がまた消える。
今度は意表を突かれることも無く、視界の端にチラと動くものを確認した瞬間、そちらに全神経を集中、
《Blitts Action》
飛んできた拳に当たらない様に少女の背後に高速移動、そのまま手に持つ戦斧を振るった。
「え、嘘!」
さつきは自分の拳が再びかわされた事に驚きの声を上げ、背後に回ったフェイトを目で追い、
「きゃっ!」
間髪入れずに振るわれた戦斧に慌てて飛び退いた。空を切るバルディッシュ。
だが、フェイトはそこから更に攻撃の手を加える。
《Photon Lancer》
「だめぇっ!」
屋上に足が着いた途端、向かってくる複数の魔力弾に対してそれはどうかというような悲鳴を上げ大慌てで逃げるさつき。電撃を纏った攻撃の厄介さはもう既に味わっている為、叩いたりはしたくないのだろう。
更に、
《Scythe Slash》
相手に休ませる間も無くサイズフォームとなったバルディッシュでフェイトは切りかかる。
だが、さつきは既に十分体制は立て直しており、その鎌の一撃を飛び退いて避けると、即座にフェイトの脇に回って拳を振るった。フェイトは今度も反応しきれてない様に見える。
だがそれでも、
「くっ!」
「……嘘、何で?」
さつきの拳は咄嗟に盾にするかの様に出されたバルディッシュに受け止められていた。
しかしそれでもさつきの拳はバルディッシュの上からでもフェイトを吹き飛ばす。
フェイトは吹き飛ばされながらも、危なげ無く着地した。
だが防御されてダメージが殆ど無い事が分かっていたさつきは、拳を振り切った直後から次の行動を開始している。
腕を横に伸ばし、そのままフェイトに向かって視認も難しい速度で突っ込む。その動きは所謂ラリアットと呼ばれるもの。
しかし、
「――!」
「―――――うそ」
フェイトは着地と同時に身を屈め、その一撃を回避した。
(もう、なんて往生際の悪い!)
さつきは体を反転させ、そのままの勢いで背後にいるであろうフェイトを殴ろうとするが……
(……あれ?)
不意に感じた既視感(デジャヴ)。次いで蘇る記憶――翻るナイフ――。
「――!!」
悪寒が体を駆け巡り、腕を無理やり引き戻し体を思いっきり後ろに蹴る。
「なっ!?」
驚愕の声は、フェイトの物。彼女は体を屈めた後、そのままの体制で体ごと回転しながら背後にバルディッシュを振るっていた。
彼女の目には、相手がこちらへと振り返ろうとしているのが写っていた。このまま行けばお互いがぶつかり合うようにして直撃。故に、その攻撃は既に必中。
そう思っていたフェイトだったが、相手はどういう訳かいきなり動きを止め、後方へと移動した。
結果、空ぶるバルディッシュ。空を切る刃。しゃがんでいる状態で咄嗟にバランスをとれる筈も無く、体制を崩すフェイト。
(マズイ!)
へたり込むような格好になり、戦慄するも、もう遅い。
さつきはその様子をしっかりと見ていた。
(あ、危なかったー。でも、チャンス!)
自分の体を掠めた攻撃に冷や汗を流しながらも、屋上に着地すると同時に、地面を蹴る。一瞬でフェイトは目の前に。体の後ろから回す様に、さつきは拳を振り上げ、
「ゴメン!」
そのままの勢いで振り下ろし、回避不能な一撃を、
「っ!!」
――スカッ
「…………へっ?」
思わず目を瞑ったフェイトに直撃……させれなかった。
さつきからしてみれば、フェイトがいきなり消えた。
「うわぁ!?」
結果、さつきの体はスカした拳の勢いのまま前方に投げ出され、そのままゴロゴロと転がり、ビルの屋上から裏路地側に落っこちる。
「何でーーー!!?」
少女の叫び声が、夜の街に響いた。
思わず目を閉じたフェイトは、次の瞬間には軽く混乱していた。
まず、覚悟していた痛みや衝撃が無い。もうどう転がっても攻撃を喰らう筈だったのに、だ。
次に、いきなり回りに結界が張られた。
せめてこの二つが起こった時間に少しでも差があれば、まだこの二つの事象を順々に理解することが出来ただろう。しかし、それが同時に起こったせいで頭が軽くパンクしてしまったのだった。
とは言っても少し時間が経てば流石に落ち着き、冷静な思考が出来るようになる。
その結果先程まで戦っていた少女は結界の外に弾き出されたのだろうという結論に至った。
そして次に、その原因の結界が張られたのは何故か、と考え始めたところで、
「フェイトちゃん!」
答えが向こうからやって来た。
「フェイトちゃん!」
ビルの屋上まで飛んで登り、そこに金髪の少女の姿を発見したなのははとりあえず叫んでみた。
「…………」
「うぅ……」
次の瞬間には無言で睨まれてたじろいだ。
何も言わずにデバイスを構えるフェイトに、なのはもレイジングハートを構えながらも懸命に呼びかける。
「こないだは、自己紹介できなかったけど、
私なのは。高町なのは。私立聖祥大附属小学校三年生」
いきなり出てきてのこの言葉に、フェイトは眉を顰める。
「それで?」
「え、それでって……」
「ジュエルシードを取り戻しにでも来たの?」
既にいつでも攻撃出来る体制のフェイト。なのはは慌てた。
「え!? そ、そうじゃない……訳でもないけど、その前n」「じゃあ、また賭けて。お互いの持つジュエルシードを一つずつ」
正に問答無用。
「ちょ、ちょっと待って!」
なのはが慌てて制止を呼びかけるが、フェイトは完全に無視してなのはに突っ込んだ。
《Scythe Slash》
「はあっ!」
「っ!」
《Flier Fin》
そのまま切りかかるフェイトに対し、なのはは飛行魔法でそこから逃げる。
そして即座に、
《Divine Shooter》
「シュート!」
打ち出される魔力弾。
《Defensor》
バルディッシュがの先に魔力が集まり、魔力の盾が生成される。なのはのシューターはそれに阻まれるが、
「っ!?」
その予想外の威力にフェイトは多少吹き飛ばされる。
しかし、それはただ単に後退させられただけ。フェイトはすぐさまなのはへと突っ込んだ。
フェイトが高速で翻弄し、その鎌をなのはに叩きつけ、魔力弾を撃つ。
対するなのははそれを何とか受け止め、必死に動き回って耐える。少しの間それが続いた。
《Blitz Action》
フェイトが高速移動魔法を使用、なのはの背後に回り込み、バルディッシュを振るう。
《Flash Move》
しかしなのはもそう何度も相手に翻弄されてばかりでは無い。即座に高速移動魔法を使用、逆にフェイトの背後を取った。
それと同時にまたもや魔力弾を打ち込む。
《Divine Shooter》
「シュート!」
フェイトは今度は防ごうとはせず、持ち前の機動力でそれをかわした。
しかし、
「!?」
かわした筈の魔力弾が弧を描いて戻ってきた。それの意味することはただ一つ。
(誘導型!)
しかも、
「シュート!」
なのはが追加で魔力弾を放った、その数2つ。
フェイトは更に上へと上昇することでその軌道上から逃れる。
しかしなのはの魔力弾振り切れない。フェイトは更に複雑な起動を描いて魔力弾を振り切ろうとした。
しかしその魔力弾は機敏に弧を描いて、ある物はあろうことかほぼ直角に曲がってフェイトを追った。
(まさか、あの威力でこの精度!!?)
フェイトが驚くのも無理は無い。何故なら先程フェイトがこれを受けた時、防御したから良かったもののその威力は1発で並みの魔導師ならノックダウンされてもおかしくは無いものだったからだ。
フェイトは今までの戦いを思い出す。全てにおいて上をいかれた金髪の少年、とてつもないパワーで押された茶髪の少女、そして、今の魔力弾。
ある程度場数を踏んで自分はそこそこだと思ってはいたのだが……
(もしかして……私、攻撃力低すぎる?)
全く持ってそんなことは無い。相手が全員が全員規格外すぎるだけである。
そもそもこのディバインシューターはなのはが対フェイト用に編み出した魔法で、その誘導性能はフェイトの機動力に対して自身の機動力でも対抗できるようにと特に力を入れた故のものだ。
攻撃力に関しては完全に馬鹿魔力によるものである。
しかし落ち込んでいても魔力弾は待ってくれない。振り切れないのならとフェイトは逆に魔力弾に突っ込み、
「はあっ!」
その機動性を惜しみなく発揮して三閃、その鎌の軌道は見事三つのシューターを捉え、破壊した。
ふう、と一息つくフェイト。一連の動きでお互いのとはそれなりに離れいる。と、その時、
「フェイトちゃん!」
なのはが再び、フェイトに呼びかけた。
さつきは急いで裏路地を走っていた。今現在彼女がいるのは結界の中。
あの後、地面に向かって落下した彼女はビルとビル間で壁キックして落下の勢いを殺し、何とか何事も無く着地、
持ち前の感覚で何が起こったのかを察し、どうしたものかと途方に暮れながらもとりあえずと感知できる結界の境目まで急行、
何やら空間のズレみたいなものがあるのが分かったので、試しにそこに体を滑り込ませるようにしたらそのまま結界の中に入れた為大急ぎで先程の場所に向かおうとして今に至る。
「って、あれは……」
裏路地から建物の屋上へと登ったさつきは、遠目に2人の少女の姿を確認した。
「なのはちゃんも来ちゃった……」
ガッカリするさつき。相手が増えたのもそうだが、前回の事でさつきは彼女に対して多少気まずいものがあった。
更に言うと、やはりと言うか何と言うか彼女達と直接戦うのは抵抗がある。
先程だってさつきはフェイト相手にずっと気が引けながら拳を振るっていた。
(だって、二人とも小学生低、中学年ぐらいの女の子なのんだよ!? 普通なら少し転んだくらいで涙目になっちゃったり、お母さんとかお父さんに甘えてたりする年頃なんだよ!? なんでそんな女の子を殴ろうとしなきゃいけないの……)
何でと言われてもそれは相手側からすれば何を勝手なな台詞だが、分かっていてもそう思わずにはいられないそこまで鬼畜になりきれないさつきであった。
とは言えスピードは緩めない。あっという間に縮む距離。どうやら二人は戦っているようで、これは好都合と再度裏路地に退避する。
(今の内にわたしはジュエルシードを探させてもらっちゃおう)
何もわざわざ二人の前に出る必要は無い。と言うよりこれが一番理想的な構図では無かろうか。
とは言えいきなりなのは達からそこまで離れる訳にはいかない。この近くで発動でもした場合、確実に出遅れる事になる。そうは言っても結局は行き当たりばったりで探すしか無いのだが。
とさつきがそこまで思案した時、
「フェイトちゃん!」
さつきの耳に、なのはの叫びが聞こえてきた。
「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ何も変わらないって言ってたけど、だけど、話さないと、言葉にしないと伝わらないこともきっとあるよ!
ぶつかり合ったり、競い合ったりすることになるのは、それは仕方のないことかも知れないけど、
だけど、何も分からないままぶつかり合うのは、私、嫌だ!」
次いで聞こえてきた言葉に、さつきは嘆息する。
彼女は自分にも、あのような真摯な姿勢でぶつかって来てくれていたのだろう。第三者の視点として見ることで嫌というほどそれが分かる。
「私がジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探し物だから。
ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、ユーノ君はそれを元通りに集め直さないといけないから。
私は、そのお手伝いで……だけど!
お手伝いをするようになったのは偶然だったけど、今は自分の意思で、ジュエルシードを集めてる。
自分の暮らしている街や、自分の周りの人たちに危険が降りかかったら嫌だから。
これが、私の理由!」
次いで放たれるのは、自身にも向けられた言葉。相手に向き合ってもらう為に、まずは自分から話す。
自分はこれには答えられなかった。彼女は、フェイトちゃんはどうだろうか。とさつきは足を進めながら、ジュエルシードを捜しながらも耳をそばだてる。
「私は……私は、母さんに頼まれたから。
母さんが、ジュエルシードが必要だって。取ってきて欲しいって言うから、それで集めてる。それだけ」
確かに、これは言っても意味の無い理由だろう。そんな事を言ったところでジュエルシードを譲ってもらえる訳が無いし、別段何が変わるでも無い。
さつきもそう思い、なのはに同情の念を送った。彼女はただ純粋で、真っ直ぐなだけ。どう見ても彼女は間違ってなんかいない。
でも現実が、その理不尽さがそれを無意味なものへ、実現不可能なものへと変えてしまっている。
だが、
「違う、そうじゃない」
新たに聞こえてきたなのはの言葉は、
「そうじゃないよ」
落胆しても、力を失ってもいなかった。
「私が聞きたいのは、そういうのじゃないよ」
あとがき
よし、今度は1ヶ月経たずに更新できた。それでいいのかという突っ込みは無しの方向で(待
折角とらハ板デビューの話なのに短くて申し訳ありませんが、今日からちょっと学校の部活の大会で遠出するのと、題名の件でここで一区切り。分かる人には次の話の題名も分かるでしょう。
しかし前回更新してから今まで、何ともおもしろ迷惑なことが現在進行形で理想郷で勃発してますね。紅い人的な意味で。
見てる分には面白いですけど流石にもうどうにかして欲しいレベル。駄目だこいつ早く何とかしないとと何度言ったことか。
そしてそれ以上の悲劇がコンプによって、正確にはViVidによって作者に訪れました。
前回のところでアインハルトさんが覇王流、旋衝破によって魔力弾を受け止めて投げ返すという業を披露、この時点で何か嫌な予感がしてた。
今月号、拳でなのはさんの砲撃弾き返しましたよええ。もうやめてアインハルトさん、僕が悩みに悩んで考えたさっちんの概念付加設定の存在意義をそんな簡単にぶち壊さないで orz
はあ、そしてリアルの方ではレポートが8枚ぐらい溜まってる。ヤバイそろそろ消費しないとリアルで死ねる。
しっかし、この作者はホント変なところでどーしよーも無いミスをしてるから困る。
今回の話を書いてる途中で思い出したある事、第10話書いてるときになのはの戦う理由に「あれ? なのはってこんな高慢な理由で戦ってたかな?」と違和感を覚えてたのの答が。
急いで修正。遅すぎるわ。
心のどこかにそういう思いはあったのでしょうけどそれが最優先じゃない筈。てかそれが最優先だったらなのははどこか嫌なやつになってた。
どーしよーもない所で致命的なミスをする男、それがデモア。マジで笑えねぇ……
そして今回から始めた各話の題名付け、自分にネーミングセンス無いのを本当に自覚してもうやだ。でも今回のネタの為にこれからも続けます(オマ