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No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
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[12606] 第11話
Name: デモア◆45e06a21 ID:2ff3a52c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/10 02:38
あの、ユーノがなのはの元に戻ってきて、なのはとアリサ達が出会った後、アリサがなのはに謝ったり、なのはが二人に謝ったり、お互いに恐縮し合ったり、
約1名が微笑ましそうに見守っていたり、色々と収集のつかなさそうになっていた3人を恭也と美由希が宥めに入ったり、と本当に色々な事があった。

その結果、なのは達の間の空気はいつの間にか喧嘩する前の物に戻っていた。
――――表面上は。

アリサもすずかも、勿論その他恭也達もなのはの悩みが未だに続いていることには気付いてはいる。
それどころか実はアリサ、すずか、その他高町家の面々(美由希除く)は、なのはの様子が迷ってる感じは無くなったくせに悩みの方が大きくなっている様に感じていてすらいた。
その時は心配げな様子を見せるだけで誰も触れなかったが、その勘は当たらずとも遠からずと言ったところだろうか。

そんな、なのはの周りで色々な変化が起こったそれが、昨日のこと。

「お?」

まだ朝の早い時間。朝の鍛錬の為自宅の道場へと足を運んだ恭也は、道場の扉を開けたところで疑問の声を上げた。

「どうしたの恭ちゃん? あら?」

その後ろに付いて来た美由希も、また同じような反応を示す。二人の視線の先には、

「にゃはは。おはよう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

末っ子であるなのはが、道場の片隅で正座をしていた。

「どうしたんだなのは? こんな朝早くに」

「うん……ちょっと、目が覚めちゃって」

恭也の問いに、まるで今考えたと言わんばかりの様子で答えるなのは。

「ふーん」

だが二人ともあえて突っ込みはしなかった。二人はそのまま道場の木刀掛けの所まで歩いて行く。
そんな二人になのはは確認をする。

「あの……」

「ん?」「なーになのは?」

「お兄ちゃんたちの練習、おじゃまじゃなかったら、見ててもいい?」

「まあ……」

「いいが……見ててそんなに面白いもんでもないぞ?」

返ってきたのは当然ながらも肯定。なのははそれに頷き、それきり黙り込む。

「………」「………」

恭也と美由希は二人して視線を交わすと肩を竦め、お互いに小木刀を2本ずつ持ち鍛錬に入った。


恭也が手本を見せ、美由希がその模倣をする。
これが剣道等の練習であれば――剣道の基本はその掛け声だ。実戦で直接約に立つ様に思える竹刀の振り方や足運び等は、実は二の次だ。
掛け声が満足に出なければ決して良い動きは出来ず、その練習も殆ど意味を成さない。下手に竹刀の振り方を知っていても声の出ない者よりも、声の出ている素人の方が強いことなどザラだ。
――また色々と騒がしかったりするのだが、彼らのやっている物はそういう類の物では無い。
掛け声は吐息であり、踏み込みは鋭く、静かに。
その為、そこは朝の日差しと吐息と木刀の風切り音が支配する、何ともピンと張り付いた静けさを醸し出す空間となっている。

そんな中なのはは、彼らの稽古を見、しかしその実自分の胸中との整理を付けていた。
今のこの道場の空気は、思考をよりクリアに、冷静に自分の内と語り合うのに最適なものだ。
学校や自室ではずっともやもやして要領を得なかった思考が、雑念を取り払われて自分の本当の気持ちを伝えてくれる。



――だが、結局それでも答えは出なかった。


「お兄ちゃん」

稽古が終わった後、道場を後にしようとする恭也をなのはは呼び止めた。一緒にいた美由希も振り返る。

「ん? 何だなのは?」

「あの……ね、少し、訊きたいことがあるんだけど……いい、かな?」

なのはの言葉に恭也と美由希は思わず一瞬目を合わせる。

「じゃあ、私は先に戻ってるから」

が、特に気にする風でも無く美由希はそのまま道場から出て行った。

「ん、で、どうしたなのは?」

取り敢えずとなのはの前に座る恭也。なのはもそれに続いて正座し、先程ずっと考え続けていた問いを口にする。

「うん……あの、ね。
 『正しい』って、どういうことなのかな……? って。
 どういうことが『正しいこと』で、一体どういうことが『間違ってること』なのかなって」

なのはの問いに、恭也は思わず俯いて口元に手をやった。
そのまま少しの間考え込む。

(……難しいな……いや、難しすぎる……
 これは、軽い気持ちで返答したらまずいな。まさかこんな質問をされるとは……)

しばらく間を置いて、恭也は慎重に言葉を選んで返した。

「そうだな……『正しい』ってのは、人それぞれで違うものだ。ある人には『正しいこと』でも、他の人にとっては『間違ってる』ということもある。
 そりゃあ、一般常識的な正しさってのはあるが、時にはそれでさえも人種や状況によって変わってくるからな」

恭也の言葉に、なのはは頷く。

「人は共通の『正しさ』を得るために、お互い話合ったりして衝突を避けるわけだが……
 それが結局噛み合わなくて、みんな争ったりするんだよな」

最後の方の思わず言ったと言うようなほとんどぼやきに近い言葉に、なのはは思わず顔を曇らせる。

「自分の"正しさ"が相手の"正しさ"とは限らない、だから自分の意見を無闇に相手に押し付けることはあんまり褒められたことじゃ無いんだが……」

それを目聡く見つけた恭也が、何ともなしを装って尋ねた。

「もしかして、誰かと言い争いでもしたのか?」

「え? う、ううん、そうじゃないんだけど……」

恭也の問いに、どこか慌てた様に返すなのは。その内心では大きなため息を付いていた。

(はあー、むしろ言い争いに持って行くのに困ってるんだよ……)

「ふーん、そうか」

なのはの返答を聞いた恭也は深く追求はせず、一旦身を引く。
するとまたなのはが口を開いた。

「あのね……、何が正しいかっていうのは、人によって違うんだよね?」

「ん、まあ、必ずしもそうとは限らないが……」

「じゃあ、お兄ちゃんから見てそれが"正しい"と思うかどうかを聞きたいことがあるんだけど……」

中々深い話になりそうだ。と思いながらも、恭也は頷く。

「ああ、何だ?」

「あのね、誰かが他の誰かに迷惑がかかるからって消えちゃうのは、"正しい"と思う?」

その質問に、思わず眉を跳ね上げる恭也。聞きようによってはかなり重い質問だ。

これは厳密に言えばなのはの第一の疑問では無い。
今の彼女の1番の疑問は、最初に訊いた『『正しい』とは何なのか』である。
これは彼女がその疑問に行き着く鍵となった疑問に過ぎない。

この疑問の大元は、勿論先日の偽ユーノの消滅である。
あの後、なのはは胸中に何かもやもやした物がある様な気持ちになっていた。
思い悩むのは、偽ユーノの境遇とその取った行動。

偽ユーノの自分が消える事への言い分は、要約すると『自分が居ると周りに迷惑がかかるから』と言うもの。
成る程確かに、それは周りから見たら"正しい"行動だろう。
だが、なのははそうは割り切れなかった。
彼は自分から望んで生まれて来た訳では無い。彼からすれば勝手に生み出されたのだ。
それなのに周りの都合で消えなければならなかった。
しかも、なのはは聡いが故に、偽ユーノが自分で自分自身を封印した理由が、自分に負担をかけない為であると気付いてしまっていた。
故に彼女は、自分の不甲斐なさのせいで彼に自殺を強いてしまったという風な胸中に陥っていたのだ。


自分で自分の存在を消す、怖くは無かったのだろうか――――怖くない訳が無い
苦しくは無かったのだろうか――――ジュエルシードを封印する時、暴走体はいつも苦しんでいる。多分彼も苦しかっただろう
理不尽だと、叫びたくは無かったのだろうか――――考えれば考える程に理不尽すぎる

――――――それなのに、私は見ていることしかしなかった


ユーノはまだ良かった。彼は初めから偽ユーノを"ジュエルシードの暴走体"として見ていたからだ。
だが、なのはは初めから彼と"一人の人間として"接していたのだ。それが、より彼女が彼に感情移入する後押しとなっていた。
唯一救いなのは、彼女のそれが後悔や苦悩まで行かず、感情移入で留まっていることだろう。

彼のあの行動は、本当に正しかったのだろうか。もっと他に、やりようがあったのでは無いか。
そう思った時、なのはの脳裏にとある少女の言葉が蘇った。

『でもね、正しいだけじゃどうにもならないこともあるんだよ。
 こっちにだって、話せないのには話せないなりの理由があるの。傍から見た正論を振りかざしても、意味は無いよ』

なのははその言葉にハッとした。言われた時は納得できなかったその言葉の意味が、少しだけ理解出来た気がした。
もしも、自分が偽ユーノを消し去りたく無い、生かしておいてあげたいと決意し、主張し、第三者から危険だから消せと言われた時、自分も
《傍から見た正論を振りかざしても、意味は無い》
という気持ちになるのではないだろうか。そう気付いた。

そこで出てきたのが、最初の『"正しい"とは一体どういうことなのか』という疑問であった。

「そうだな……状況にもよるが、それは、消えようとしているやつが、自分自身の事を思慮に入れず、
 ただ周りに迷惑をかけたくないという理由で消えようとしているということでいいか?」

直接質問に答える前に出てきた恭也からの疑問に、なのはは頷く。

「そいつが消えること意外に、周りに迷惑をかけなくする方法は無いと考えていいか?」

再度、尋ねられ、なのははそれにも頷く。

「ふん、そうだな……。そうか、それで最初の『何が正しいのか』という質問か。
 そうだな。迷惑の規模にもよるが、そいつが消える事で周りが迷惑しなくなるというのなら、たしかにそれは『周りから見て正しいこと』かも知れないな。
 ましてやそいつが自分から『消える』って言ってるのなら、もうそうするのが一番なのかも知れない」

恭也の言葉に、顔を暗くするなのは。
しかし、「だが、」と恭也は続けた。

「俺はそんなの納得しない。そいつが周りの事情に流される形で消えると言うのなら、それは俺からしたら『間違ってる』。
 もし俺の前にそんな事言うやつが出てきたら、ぶん殴ってでも止めてやる」

そう言った恭也の視線の先には、呆けたような表情をしたなのは。
彼女の瞳には、スッキリした表情で笑っている恭也が写っていた。

「周りの"正しさ"なんてどうでもいいと言っている訳じゃ無いが、相手の言い分を聞いて、それでも自分の中の"正しさ"が変わらないんだったら、
 自分が間違ってると思えないんだったら、それは変えなくていい。変えちゃいけない。少なくとも、俺はそう思うな」

中には相手の話を聞こうともしないで自分の主張を押し通そうとするやつもいるが、なのはがそんな子ではないことは分かっている。
恭也の言葉に、呆然とした表情から見る見る内に明るくなっていくなのはの表情《かお》。
暫くして、彼女は恭也に笑顔でお礼を言い、駆けるように道場から出て行った。

「ふぅ、まさか9歳の妹にこんな事言うとは思わなかったな」

一人になった道場で、恭也はそんな事をぼやいていた。
――自分の言葉となのはの思考が、微妙に変な方向にズレてしまっていたことにも気付かずに。





「お帰り恭ちゃん」

なのはとの会話に色々と思うところのあった恭也が、少し経って道場から帰ると、早速美由希にお出迎えされた。
そればかりか、父である士郎や母の桃子までこちらに注意を向けているのが気配で分かる。

「ああ、ただいま。なのはは?」

ある程度予想していた事態だったので、恭也は戸惑うことなく美由希にまず尋ねた。

「さっきユーノの散歩に行ったよ。 ね、で、どうだっだの?」

その質問に答えると同時、気になって仕方がなかったのだろう。早速美由希が切り出した。
だが、恭也はそれにため息を付くと、美由希達の期待とは別の言葉を放つ。

「何でも無かった」

「ふーん、そっか……って、納得するとでも思った? 何でもなかった訳無いでしょ恭ちゃん! あのなのはが、誰かに相談をしたんだよ!?
 これは進展? それともそれだけ問題が大きかったって事!? 私はあの子の姉なの、秘密を独り占めになんてさせないんだから!」

「ああ、だから、お前が期待してるようなことは何も無かったんだ」

詰め寄る美由希に何でもない風に言った恭也の言葉に、一瞬美由希が固まり、

「…………恭ちゃん、まさか、遂になのはにまで手を……」

居間の方でガタンという音が鳴ったのは気のせいでは無い。

「待て、一体どういう思考でそういう結論になった。って言うか『まで』って何だ!?」

「幻のなのはルートがまさかこんなところに!?」

「何の話だ!!?」

「だって、別に私そういう想像してた訳じゃないのに恭ちゃんいきなり弁明しだすから」

「そういう意味じゃない、断じて違う! そしていきなりそんな話になったってことはお前絶対そういう想像してただろ。
 そして何故『まで』なんて言葉が出てきたか後でゆっくり聞かせろ」

声を荒げない様にしながらも必死に否定する恭也。再度はぁ、とため息を付いて、きちんと説明しだす。

「俺は相談なんかされなかった。されたのは"質問"だけ、"質問"どまりだった」

「……というと……」

「俺たちは巻き込まない。最終的な答えは自分だけでちゃんと見つけるって、無意識のうちに行動で示されてたなあれは」

「そっか……」

肩を落とす美由希。居間の方からも、ホッとした様な、落胆した様な雰囲気が流れて来る。
何に対してホッとしたのかはあまり考えないようにしながら、恭也は肩を落とした美由希の頭にポン、と手を置いた。

「?」

「そう気を落とすな。なのはが歩み寄って……頼ってくれるようになるのを、じっくり待ってればいいさ」

「……うん、そうだね」

少し寂しげに笑いながら、美由希は頷いた。









そんなことがあってから数日後、ユーノ脱走事件からほぼ1週間後、高町家全員、アリサ、すずか&忍、それとノエルとファリンは休日を含めた連休を利用して温泉旅行へ行くことになった。
今はみんな二台に分かれて車で山の道を移動中だ。
実は大人組で前々から予定は立てていたのだが、なのは達の空気が気まずいものになっていたため言い出せなかったらしい。
その事を知ったなのはとアリサは揃って苦笑していた。

あれからのなのはとアリサ達との関係だが、前述した通り、彼女達はなのはの悩みがまだ未解決なのを知っている。
実際、この間アリサがあれから様子の変わってないなのはに

『まだ解決してないの?』

と訊いた時、

『うん……まだ、ちょっとね……』

という答えが返って来た。
仲直りした時の、悩みが大きくなったような感じは翌日学校で合った時には無くなっていた為あんまり気にしてはいなかったが、それでもなのはが悩んでいるのに変わりは無く、やはり気になるのだ。
とは言っても以前のように嘘をついてまで隠そうともせず、
更に先日のゴタゴタのこともあり、その事でなのはに対するアリサの態度がキツくなることは無くなっている。
だが、その代わりになのはの悩みを実感する度に本当に悔しそうな様子をする(本人は隠しているつもり)ので、逆になのはは以前にも増して罪悪感を感じており、どっちもどっちだったりする。





《なのは》

車に揺られている中、なのはの元へユーノから念話が入った。

《何? ユーノくん》

《この旅行ぐらいは、ジュエルシードの事も訓練の事も、あの娘達の事も忘れて、しっかり休むんだよ。
 特にここ数日は、新しいジュエルシードこそ見つからなかったけど、訓練続きだったんだから》

《うん、分かってる》

そこで成されたのは、数日前もした会話。ジュエルシードと関わってこの方、なのはは心も体も休まる時が殆ど無かった。
それを心配したユーノが、この時だけでもと特に釘を刺していたのだ。
なのはもそんなユーノの気遣いは純粋に嬉しく思っているのに加え、
まあ実はなのはの方も、折角先週から色々と決意したり意気込んでいたりしていたのに、ジュエルシードについても少女達についてもそれ以降ずっと音沙汰も無し、
当初は燃えていた心も今や硝える心、どうにも不完全燃焼を続けていたたのだ。

その為、どうせならもういっそこの旅行2日間の間は、年相応にお子様らしく全てを忘れて目一杯遊んでしまおうという心積もりであった。







さて、そんなこんなで昼前温泉にたどり着いた一行。
荷物を部屋に運び昼食を食べたら、即行で温泉に入ろうという話になった。
当然反対する者などおらず、早速温泉へと向かって皆旅の疲れを癒したりしようとしていたのだが、
約一名が結構大変なことになっていた。
ユーノである。

《ユーノ君、温泉入ったことある?》

《あ、う゛、その……公衆浴場なら入ったことあるけど……》

なのはの問いに、キョドりながらも何とか返答するユーノ。

《えへへへ~、温泉は良いよ~》

《ほ、ほ……、ほんと?》

なのはの言葉に、キョドりながらも何とか相槌を打つユーノ。

《な、なのは……ぼ、僕はやっぱり、》

《へ?》

《だぁああぁぁあ!》

念話で聞き返すと同時に振り返ったなのはに、大慌てで視線を逸らそうとするユーノ。
しかし悲しいかな男の性、叫び声を上げたまま視線はそのまま固定されてしまっていた。

もう誰でも分かるだろう。この淫zy……フェレット、今現在女湯の更衣室にいる。

先程まで自分が乗せられた衣服入れの壁の方を必死こいて向いていたのだが、やはり誘惑に負けてチラリと振り向いてしまった結果がさっきのやり取りである。

《やっぱり恭也さんや士郎さんと男湯の方へ……》

ユーノは言いながらもその場にフラフラと倒れこむ。

《えー、いいじゃない。一緒に入ろうよー》

《うー、あ゛ー、うぅ゛……》

なのはの無垢な言葉と声音に、ユーノは精魂尽き果てたのか満足しきったのか、痙攣して呻くことしか出来なかった。
なのはよ、ユーノが本当は人間だったと言うことを忘れてはいないか?




「うわーあ、ファンタスティック!」

「すごーい、広ーい!」

「すごいねー」

「本当ですー」

「うわぁー」

と、まあこんな風に他に誰もいないことを良いことに風呂場で上からアリサ、すずか、忍、ファリン、なのはの順ではしゃいでいる中、ユーノはなのはの胸に抱かれていた。

「きゅ……」

全員タオルを体に巻いていたのが唯一の救いか或いはその逆か……
まあ、彼の精神状態についての言及はこのくらいにしておこう。
……いや、彼にはまだ災難が待っていた。

「お姉ちゃん、背中流してあげるね」

「ありがとう、すずか」

と、まあこんな感じにすずかが忍に提案したり、

「じゃあ、私も」

「ありがと」

なのはもそれに乗って美由希に背中流しを持ちかけたりと姉妹コンビがその仲の良さを見せ付けていると、

「きゅ!?」

突然横から伸びてきた手によって、なのはの腕の中からユーノが攫われた。

「え?」「ん?」

「ふっふーん、じゃ、あんたは私が洗ってあげるね」

そう言ったのは攫ったユーノを胸元で抱きしめて仁王立ちしているアリサ。
その腕の中でユーノはもう色々とどうにかしようとキューキューともがいていた。

「うははは、心配無いわよ、私洗うの上手いんだからっ!」

まあ、確かにアリサの家は犬だらけで、動物の世話はお手の物だろうが、ユーノが暴れている原因とは根本的にかけ離れている。

「ふふっ」

そんな二人の様子を見て、いつの間にか移動していたなのはは美由希の背中を流しながら笑っていた。







所変わってここは旅館の中庭の川の畔。
山の中にポツンとあるのに加え、けっこう――いや、かなりいい旅館なのも手伝って、庭と呼べる場所はかなりの広さとクオリティを誇っていた。周囲には林まである。

「はぁ、良いわね、こういう休日は」

「ああ、そうだな」

そこに佇む一組の男女。なのはの両親の士郎と桃子である。

「お店も少しは、若い子達に任せておけるようになったし」

「子供達も……まあ、実に元気だし」

「それに……あなたも」

川の静かな流れを眺めながら、リラックスした様子で会話する二人。
その中で、ごくごく自然に紡がれた言葉。

「っ……」

だが、そこには一体どれだけの想いが込められていたのか。士郎が桃子へと振り返ると、そこにあったのは悪戯好きそうな微笑み。
その顔を見て、士郎はホッとする。

「ああ、そうだな」

「ふふっ」

士郎の言葉に、本当に嬉しそうに微笑む桃子。

「結構、時間かかったもんな……」

「うん……」

会話に、重たい空気が流れ始める。

「まあ……もう桃子や子供達に心配をかけることは無いさ。
 俺は、これからはずっと、翠屋の店長だからな」

「うん……ありがとう、あなた」

安心した様に言い、傍らの士郎に寄り添う桃子。そんな桃子の肩に手を回す士郎。
邪魔する者のいない川の畔で、お互いの温もりを確かめ合うように佇む。





なのは達がまだ温泉に入っている頃、男湯から先に上がっていた恭也は浴衣姿で部屋の日の当たる場所で椅子に座って寛いでいた。

「どうぞ」

そんな彼の前に置かれる、湯飲みが一つ。ノエルの注いだ緑茶だ。ちなみに彼女も浴衣姿。

「ありがとう」

お礼を言い、テーブルに置かれたそれを手に取る恭也。次いで、

「しかし、ノエルも今日は仕事じゃないんだし、のんびりしていいんだぞ」

と、どこか呆れた様に言う。

「はい、のんびりさせていただいてますよ」

満面の笑みで答えているが、それでも彼女は忍や恭也の身の回りの事をテキパキとやってしまうのだろうという予感を、恭也は感じた。





湯船から上がって、ドアの方へと向かう人影が2つ。なのはとすずかである。

「じゃあ、お姉ちゃん、忍さん、お先でーす」

「はーい」

「なのはちゃん達と一緒に、旅館の中とか探検してくるね」

「うん、また後でね」

元気に手を振るなのはと、どこかぼうっとした感じなすずかに、それぞれの妹に返事を返す姉達。
ちなみに全員頬をほんのりと染めていたり上気させていたりと、うん、まあ、特定の者達には本当にご馳走様ですな状況な訳で……

「さ、行くわよユーノ」

美由希に抱きかかえられていたユーノを掻っ攫って行ったのは、またしてもアリサ。右手で首根っこを掴み、左手をわきわきと動かしているのに意味はあるのだろうか。
ユーノ? とっくに昇天済みである。



なのは達は浴衣に着替え、一通り宿の中を見て回った所で娯楽室を見つけた。
そしてそこにはさも当然の様に温泉宿の定番である……

「おー! やっぱ折角温泉に来たんだからこれよねー」

「アリサちゃん、やる?」

「モッチろん!」

「じゃあ、わたし受付でラケットと球貰ってくるね」

「よっろしくー」「ありがとうすずかちゃん」

そう、卓球である。
その後、少女達による熱いバトルが繰り広げられた。……ほぼ一方的な。





と、まあこんな感じで各々のんびりとしている中、実は少し前から結構気が気じゃなかった者が1匹……いや、1人いた。
ユーノである。

(この近くにジュエルシード反応……すぐに発動しそうな様子は無いけど、危ないな。
 でも、発動してないんだったら今の内に僕が拾ってきてしてしまえばいい。
 今日はなのはには休んでいて貰いたいし、ここは……)

普段だったら……いや、1週間前だったら気付かなかったであろうその反応。実は彼も1週間前の出来事では色々と思う所があり、あれからかなり気合を入れていたのだ。
それだけなら良いのだが、常時ある程度の探査魔法の展開を行っておくという結構無茶なことをやらかしていたりする。
今回はそれが良い方向に傾いたが、彼自身気付いていないがその実彼の疲労はなのはを上回っていてもおかしく無い。

ユーノは期を見てなのはに念話を送る。

《なのは》

《何? ユーノ君》

なのはの視線の先では、アリサがすずかの強力な打球を何とか打ち返そうと頑張っている。
段々ムキになっていく様が微笑ましい。ちなみになのははいの一番にバテていた。

《僕はちょっとそこら辺を散歩して来るよ。外の方に小川とか林とかあったし》

《うん、分かった。お夕飯までには帰って来てね》

《うん、了解》

なのはの肩から降り、ドアの隙間からスルリと外へ出る。
そのまま廊下を抜けて、中庭に出る。
張っている探索魔法の精度を強め、集中する。

――しばらくした後、ユーノの頭上に影が差した。





フェイト・テスタロッサは焦っていた。
何にかと言うと、そのどれもがジュエルシード関係なのだが、実は3つ程ある。
1つ目、この世界に来てから1週間も経っているのにジュエルシードを2つしか見つけれて無いこと(しかも一つは確保出来なかった)。だが、これはまだいい。
2つ目、予想外に予想以上の強敵が現れたこと。これが大きい。なんて言っても、手加減無しの勝負で完全に負けたのだ。出来る限りジュエルシードの取り合いはしたくない。
そして、つい先程生まれた最後の焦り……まだ発動していないジュエルシードを見つけたので喜び勇んで取りに来たら、その強敵の仲間が現れたこと。

彼女達はまだジュエルシードに気付いてない様子だったが、いつ気付いて回収に来るか分からない。更に自分の存在に気付かれたら、この間の強敵まで増援に来かねない。
フェイト自身まだジュエルシードの詳しい正確な位置を割り出せてない状況で、これは彼女にとって精神的にも現実的にも相当キツい状況だった。

しかしだからと言って今彼女に出来ることは限られている。よってフェイトは今、その限られた事――一刻も早くジュエルシードの位置を特定する為に全力で探査魔法を走らせていた。
と、そんな時

―――バサッバササササササササ……

左程離れていない場所で、鳥が一斉に飛び立った。思わずそちらに注意を向けるフェイト。と、次の瞬間。

「!?」

一瞬だけ見えた、見慣れた光。
それは自分の使い魔の魔法、バリアブレイク使用時の光景と同じ物。次いで、そこから展開される辺りを取り囲む封時結界。

《アルフ!?》

急いで己の使い魔に念話を送るフェイト。返事はすぐに返ってきた。

《ごめんフェイト。仕留め損ねた》

さも当然のように帰ってきたその返答に、フェイトは激昂する。

《何をやってるの!? 部屋で大人しくしてなきゃ駄目でしょ!》

念話で厳しい口調で叫びながらも、すぐさまそちらへと駆けつけるべく文字通り飛んで行くフェイト。
アルフはまだ本調子では無い。と言うより、まだ体を休めていないといけない状態だ。
今回の目的地が温泉宿だと知り、どうせジュエルシードの正確な位置の割り出しには時間がかかるからとリハビリを兼ねて連れて来ていたのだ。
着いて直ぐ一緒に温泉へ入り、それからは部屋でゆっくりしているようにと告げておいた筈だった。

《だって、フェイトの言ってた白い魔導師の使い魔っぽいやつが探索魔法を使ってたもんだからさ》

《っ……そう、そっちも気付いたんだ。
 そこにいるのは使い魔だけ? 茶髪の女の子や、白い魔導師の女の子、金髪の男の子とかは居ない?》

先程光が見えた所に着いたフェイトは、アルフは何処にいるのかと視線を彷徨わせる。

《ああ、だから奇襲で仕留めちゃおうと思ったんだけ、どっ!》

次の瞬間、近くで巻き起こるシールドと何かがぶつかり合う光と衝撃。フェイトはすぐさまそちらへと向かう。
茂を抜けた先でフェイトが見たのは、突進を受け止められてバックステップでこちらへと距離を取る自分の

使い魔と、その突進を止めていたシールドを消したフェレットの姿。
間違いなく、白い魔導師の使い魔だ。

「ごめんよーフェイト」

「しょうがないからいいよ、アルフ。今はとりあえず……」

《Scythe form》

「はぁああぁぁぁああ!」

兎に角、応援を呼ばれる、又は来る前に倒す、可能ならば捕縛するしか無いと、フェイトはフェレットに突っ込んだ。







(くそっ! 甘かった!)

新たに現れた魔導師の攻撃をシールドで防ぎながら、ユーノは自分に向かって悪態をついていた。
発動前のジュエルシードだからと油断したのがいけなかった。自分以外に見つけた者がいる可能性を忘れていたのだ。

《ユーノ君! 何処!?》

《なのは! こっち!》

探索魔法を使用していた中、直前で気付いた使い魔の攻撃。
それをシールドで防ぎ、その後逃走しながらユーノはなのはに応援を呼んでいた。
流石に誰かと戦闘を行って勝利し、ジュエルシードも確保出来るなどと考えるほど彼は甘くは無かった。
いや、以前の彼ならもしかしたら出来る限りなのはに悟られずに事を終わらせようとしていたかも知れない。
しかし、先週の出来事のお陰で彼のそういう考えは無くなっていた。そんな事しても、なのはは喜ばない。

先週ユーノが得た物は、そう判断できるだけの理解と信頼だった。

《ごめん出来るだけ早く来て! あの金髪の娘も来た!》

焦りを含んだ声でユーノが言う。
実際先程までは使い魔の動きがどこかぎこちなかったこともあり結構余裕だったのだが(バリアブレイクとか言うシールド破壊用の魔法を使われた時はかなり焦ったが)、
今は明らかに格上の魔導師の攻撃を受けている。自分の防御はそう易々と抜かれるとは思わないが、それでもキツイものはキツイユーノであった。

「っ!」

一方、以前にも同じ攻撃を防がれたことのある少女はそこで一旦飛び退く。
おそらく力押しでは壊せないと分かっているのだろう。
と、それと同時になのはからユーノに念話が来た。

《ユーノ君、私の方へ向けてシールド張って! "すぐに一直線に行くから"!》

《へ? なのは?》

何か嫌ーな予感がして冷や汗を流すユーノ。
彼の目の前には突撃態勢を取ったままの相手の使い魔がいるのだが、どうにも体が上手く動かないのかその場で固まっていた。
だが、それでも目の前に攻撃態勢の敵がいるのに、ユーノの本能とも言うべき警報は別の方を警告していた。
あるいは、不調だったことは使い魔の彼女にとって幸運だったのかも知れない。

《ディバイーン》

《ちょ、ちょっと待ってなのは!》

念話でも聞こえてきたなのはの掛け声に、ユーノは本当に命の危険を感じてそちらへと慌ててシールドを張る。
その行動に相手の魔導師達がいかぶしげな顔をするが、そんなのに構ってる余裕は彼には無い。

《バスター!》

次の瞬間、桜色の魔力砲が"間の木々を薙ぎ倒して"ユーノの真横を通り抜けた。それどころかその先の木々まで薙ぎ倒しながらまだ突き進んでいる。
どう見ても殺傷設定です本当にありがとうございました。

「「「………………………………………」」」

唖然とする一同。もしフェイト入れ違いにアルフが突っ込んでいたら文字通り吹っ飛ばされていただろう。
その間に、破壊されて出来た道から白い魔導師が現れた。
当然、その正体は見紛うこと無きなのはである。

―――――魔砲少女リリカルなのは 出番の渇いた吸血鬼 始まります。

((ちょっと待っ!))

おや、空耳がシンクロして聞こえた気がする……

閑話休題

砂煙の中から現れたなのははレイジングハートを油断無く構えて目の前の金髪の魔導師を見据えるが、正直周りからは完全に浮いていた。彼女の行動が一番正しい筈なのに、何故だろうか。

「な、なのは! 危ないじゃないか!」

そんななのはに正気に戻ったユーノが叫ぶ。

「え? だって、これが一番早かったんだもん」

「当たったらどうするつもりだったのさ!?」

「ユーノ君だったらシールドで軽く防げるでしょ?」

「「「…………………………」」」

ユーノのことを過大評価しているのか、自分の砲撃の威力が分かっていないのか……
恐らくは後者だろう。

だが、そんな二人のやり取りを見て正気に戻ったのはフェイトとその使い魔。
この二人ならまだ何とかなると思ったのか、フェイトは今度はなのはに向かって一気に距離を詰め、その鎌を振り下ろした。

「はあっ!」

「きゃっ!」《protection》

なのはは咄嗟のことに悲鳴を上げながらも、レイジングハートのプロテクションが間に合いその攻撃を受け止める。
フェイトは鎌を押し込んでそのシールドを破壊しようとするものの、なのはの守りも硬い。
フェイトは今度もまた破壊は無理と判断し、一旦離れようと判断する。が、次の瞬間、

「っ!?」

――ヒュイン

直前で察知し急いで飛び退いた彼女の眼前を、桜色の魔力弾が通り過ぎて行った。
驚愕するフェイトの目に映るのは、目の前の白い魔導師の周囲を高速で旋回する、見るからに速度重視の4つの魔力弾。
これこそが、対さつき用になのはとユーノが編み出した戦法の一つ――プリベント シューター――である。



―――事の始まりは、偽ユーノの件があった次の日の朝。
いつもなら散歩と言う名のジュエルシード探しに出かけているなのは達だったが、今回は違った。
なのは達のいる場所は、高台にある空き地。この早い時間にこんな場所に来る人間なんてそういない。
つまりは、隠れて何かをするにはうってつけの場所ということだ。

「なのは、あの子と……さつきって娘と戦うって、本当かい?」

「……私、やっぱりあの子のこと……もう1人の娘もだけど、やっぱりさつきちゃんのことが気になるの」

なのははユーノの問いには答えず、1人語り出す。

「すごく強くて、今はぶつかり合っちゃってるけど、本当はすっごく優しくて……」

思い出す、ぶつかり合った時の記憶、拒絶された時の記憶、彼女の優しさを感じた時の記憶。

「そして、いつも明るいんだ」

しかし、その言葉を紡ぐなのはの顔は暗かった。

「だけど、それは嘘なんだ。自分に嘘をついてまで、明るく振舞ってる。
 昨日、ほんの一瞬だけ、あの娘の本音が見えたの。
 何かから怯えている様で……震えてて……寂しそうで……泣きそうだった」

――『やめて……お願い……聞きたく無い……』

「……………」

その場面を見ていないユーノは、何も言わずただ沈黙を貫く。

「きっと、嘘をついてないと壊れちゃうんだ。だから、自分を騙してる。
 でも、……ううん、だからこそ、私は知りたい。何でそんなに悲しそうなのか……寂しそうなのか……。
 きっと、ジュエルシードを集めてる理由も、その理由を言えない訳も、それに関係してるんだと思う」

所詮憶測と、ただの勘だと言ってしまえばそれまでだ。だが、あれ程強い思いを内に秘めている者がジュエルシードを欲する理由なんて、なのはにはそれしか考えられなかった。

「あの娘、ジュエルシードが欲しい理由を言えない理由があるって言ってた。
 言っても、何も変わらないと思うからとか、そういう訳じゃ無くて、ちゃんと理由があるって……
 多分あの娘、その理由を言っちゃうと自分にとって何か悪いことが起きちゃうって思ってるんだ。
 でも、」

と、そこでなのはの目に強い光が宿る。

「やっぱり私はその理由を知りたい。そんな事も知らないで、なにも分からないままでぶつかり合うのだけは嫌だ。
 言えないって事は、どういう形であれ、私が信用されて無いってこと。
 でも、今のお互い争ってる状況で、信頼や信用を勝ち取るのは難しい。……なら」

なのははユーノの目を真っ直ぐに見る。
ユーノのも視線を逸らさずに見つめ返す。

「戦って、勝って、対等な立場に見てもらう。あの娘に近づく為に今の私に出来ることは、それしか無いから。
 だからお願いユーノ君、私に教えて、魔法の上手な使い方!」



そうして、なのはの特訓が始まった。
……のだが。


「やっぱり、なのはの魔力量はすごいね。防御魔法は僕の方が上の筈なのに、魔力の量だけで僕の防御に追いついてきてる」

「えーっと、ユーノ君? 前にも言ったけど、それって私が力任せっていうことなのかな?」

「え? い、いや、そういう意味じゃなよ!」

「ふーん、でも、シールドばっかり練習しても戦えないんじゃぁ……」

「うん、そうなんだけど……さつきって娘のスピードと攻撃の威力を考えると、防御をしっかりしておかないと直ぐにやられることになると思うから」

「そっか……そうだよね。ジュエルシードから生まれたユーノ君の作った結界を殴っただけで壊しちゃうんだもんね」

「そうなんだy……ってえぇ!?
 な、なのは、それって本当?」

「うん、あっちのユーノ君もすっごい驚いてた」

「……この練習、止めようか」

「え!? 何で!?」

「普通に考えてよなのは! ジュエルシードの暴走体が作り上げた結界以上の強度のシールドを、僕達が作れる訳無いでしょ!?」

「あ……」

「……高速移動魔法でも覚えようか」

「うん……」

防御魔法の Lv. UP 、断念。


《flash move》

「ふうっ、ふうっ、ふうっ……」

「なのは……」

「何……ユーノ君?」

「体力無さすぎ」

「うぐっ」

「まあ、それを抜きにしても、やっぱりいきなり高速移動魔法の連続使用は難しいね。
 出来て単発で何度か、それになのはの体力の無さと反射神経とあの娘のスピードを考えると……」

「………」

「やっぱり効率が悪いと思うんだけど……」

「うぅ……ごめん、ユーノ君」

高速移動魔法の使用訓練、断念。


「でも、それじゃあどうしよう?」

「うーん、攻撃は最大の防御! って感じでシューター連続で打ち続ければ……
 だめかなぁ……昨日もあっちのユーノ君の魔力弾全部叩き落してたもんね……」

「!? 魔力弾を叩き落した!!? まさかとは思うけど素手で?」

「うん。そうだけど……」

「どこまで規格外なんだ……
 でも、わざわざ叩き落したってことは耐久力は普通と同じくらいと考えていいのか? それが救いか……」

「? あれ? じゃあさユーノ君、こんなのってどう?」

「? どんなのだい?」

「えーっとねぇ…………」

「それは……なんともなのはらしいと言うか……
 普通はそんなこと出来ないけど、なのはの制御能力があれば……うん、もしかしたら悪くないかも」

「よーし、じゃあ早速試してみよ!」



――と、まあこんな感じで生み出されたのがこれ、シューターを自分の周りに旋回させて攻撃と防御を一緒にやっちゃおう! という何ともなのはらしいと言えばなのはらしい戦法である。
……結局、空に飛んで空爆しちゃえば良いんじゃね? という事になのは達が気付くことは無かった。

今なのはの周りを回り続ける魔力弾の数は4つ。これが今の彼女の限界。
今現在なのはが展開することの出来るプリベント シューターは最大で8つである。
しかしこの魔法はあくまで防御専用。魔力弾を制御しながらも自身が自在に動けなければ意味が無い。
魔力弾の制御に意識を割きすぎて自分が動けなくなっては本末転倒なのだ。
故に、これがなのはがほぼ無意識下で、シューターを旋回という行動パターンの元動かすことの出来る限界量。
しかも、飛行魔法等の簡単な魔法を使用する時を除き別の魔法を使おうとすると一旦解除しなければならない等、他にも欠点のあるまだまだ未熟な防御だ。

「なのは! そっちの娘をお願い、僕はその間に、ジュエルシードを探して……」

「させると思ってんのかい!?」

なのはに呼びかけるユーノに、アルフが跳びかかった。
しかしそれはユーノのシールドに防がれる。それだけで無く、

「君1人なら倒せないまでも何とかなる!」

ユーノの足元に浮かぶ魔法陣。その中にいるアルフは今現在行われている魔法がどのような物かを察し、

「まずっ!」「アルフ!?」

フェイトも叫ぶが、もう遅かった。
次の瞬間、ユーノとアルフはその場から消えていた。

「強制転移魔法……アルフ……」

フェイトは未だ本調子でないアルフを心配し、しかしすぐに思考を切り替え目の前の魔導師に向き直る。

「ユーノ君……」

対するなのはもユーノの事を気にかけていたが、彼の気持ちを汲んで漆黒の少女と対峙する。



「あなたは、どうしてジュエルシードを集めようとしているの?」

問いかけるのは、なのは。しかし、この状況で昨日やられたもう1人が来ると詰むことが分かっており焦っているフェイトは、それに取り合おうともしない。

《photon lancer》

「フォトンランサー、ファイア!」

「あっ!」

《protection》

いきなりの魔力弾の攻撃に、シューターを展開していたことで半分安心してしまっていたなのはは反応出来ない。しかしレイジングハートが張ったプロテクションが間に合う。
魔力弾とシールドがぶつかり合い、光と衝撃でなのはが一瞬怯んだ。
そう、これがこの魔法のもう一つの欠点。元々対さつき用に考案したこの魔法、恐らく打撃攻撃しか無いであろう対彼女用の魔法だからこそ、射撃型の攻撃の対策が全くと言っていいほど無いのだ。
そして、欠点はまだある。

「はあっ!」

「!?」

怯んだ一瞬の間にいつの間にか背後に回られていた事に、悪寒を走らせるなのは。
急いで振り向くも、もう相手の鎌は振られる直前。シールドは間に合わない。
そして、これが最後の欠点。確かに、打撃系の攻撃を防ぐ為のプリベント シューターだが、長い獲物で攻撃されてはシューターは相手の体に当たらない。
シューターが獲物に当たってくれる事を祈るという、かなり博打な覚悟をしなければならなくなるのだ。
そしてなのはのこの魔法はまだ未熟な為、隙間と隙はいくらでもある。
しかも今回フェイトは絶妙なタイミングでシューターが抜ける場所を見抜いていた。これは当たる。

だが、一応なのは側にも対応策はあった。

《Release》

フェイトの攻撃が当たると思われた直前、レイジングハートが魔力弾の制御を一斉に放棄した。
元より自分の周囲を旋回させるというプログラムの元、碌に制御などしていなかったのだが、そのプログラムさえ放棄したのだ。
結果、シューターは今まで旋回していた速度のまま、遠心力によって一斉にバラけた。上手く行くかも分からない、文字通り最後の賭けだ。

だが、今回は運はなのはに見方した。運良く魔力弾の1つがフェイトに向かってすっ飛んで行ったのだ。

「っ!?」

《Flier fin Flash move》

バルディッシュを振るうと共に、急いで体を捻ってそれを回避するフェイト。その結果、なのはその鎌を紙一重で空に避ける事に成功する。

「話を、聞いてってばぁ!」

上昇しながら、叫ぶなのは。

「時間稼ぎのつもりなら、無駄だ!」

《Photon Lancer》

「連撃……ファイア!」

しかし、帰ってきたのは無数の雷の刃。

「っ!」

《Round Shield》

なのはは咄嗟に右手を出し、シールドを張る。なのはの軌道力では避けることなど不可能だ。
シールド越しの魔力弾の衝撃に耐えながら、なのはは尚も叫ぶ。

「そんなのじゃないよ! もしかしたら、話し合いでどうにかなるかも知れない!」

だが、次の瞬間にはフェイトはなのはの隣にいた。

「!?」《Protection》

振り下ろして来るバルディッシュに先程まで使用していたシールドは間に合わず、レイジングハートがオートでプロテクションを張る。
対象を弾き飛ばす性質を持つバリアに、しかしフェイトはバルディッシュを押さえつけてなのはを逃がさない。

「私は、ロストロギアの欠片を……ジュエルシード集めないといけない。
 そして、あなたも同じ目的なら、私達はジュエルシードを賭けて戦う敵同士ってことになる」

「だから、そういうことを簡単に決め付けないために、話し合いって必要なんだと思う!
 お兄ちゃんもそう言ってた!」

「話し合うだけじゃ……言葉だけじゃきっと何も変わらない。
 伝わらない!」

「っきゃあ!」

最後の叫びと共に力強く振り下ろされた戦斧に、遂になのはが吹き飛ばされる。

《Photon Lancer get set》

「ファイア!」

《Fire》

それに追い討ちをかけるように放たれたフェイトの魔力弾。
このままだと直撃、そしてそのまま勝負が着くだろう。
が、迫り来る魔力弾を見つめるなのはの目に光が宿った。
その原因は、直前に発せられた少女の悲しい言葉か、はたまたその瞳に宿る感情を見てしまったが故か……

――言い返したい。伝えたい。私の言葉を、あの娘に……!

その為には、ここで倒れる訳には行かない。そう思っても、やはり魔力弾は回避不能で……
――次の瞬間、光が弾けた。









川の畔を駆ける少女が、1人いた。

(なのは……)

長い金髪、

(なのは、どこ……)

まだ幼い、しかしいつもは強気な顔立ちには、今は不安げな様子が見て取れる。

(なのは……!)

そう、アリサ・バニングスである。
彼女は卓球の休憩中にいきなり様子がおかしくなり慌てて出て行ったなのはの後を追ってここまで来たのである。

彼女はすずかの家であった事件依頼、なのはの行動に敏感になっていた。
それがああも慌てた様子でいきなり出て行ったら、それは後もつけたくなるというものだ。それに、彼女がなのはに対して不安を覚える原因は、実はそれだけではない。



あの事件の夜、アリサは1人、晩御飯も食べずに部屋に閉じ篭っていた。
胸中に渦巻いているのは、自分に対する憤りと、ただ深い後悔の念。

――何故、あそこでなのはに着いて行かなかったのだろう。
――――何故、もっと素直になれなかったのだろう。


――――――何故、なのはに八つ当たりなんてしてしまったのだろう。

行き場の無い後悔の思考は、いずれ方向性を求めて、その解を欲するようになっていった。

――八つ当たり、そうだ八つ当たりだ。私は私自身に怒ってた筈だったんだ。
  だったら何で、どうしてなのはに怒ったの? 私は私だけに怒りを感じてればよかったのに。
  何で? どうして? その怒りや不安を、誰かにぶつけたかっ……不安……? ――

そこで、彼女の思考は道を見出す。一旦気付けば、後は簡単だった。

――そうだ。私は不安だったんだ。だからその不安を誰かにぶつけたかった。その時一番ぶつけ易かったのがなのはだった。
  何が不安だった? そんなの、私が怒ってた"本当の理由"だ。
  なのはが、時々とても遠い目をして、なんか、そのままどっか遠い所に行っちゃって、もう自分達の所に帰って来なくなってしまうような、そんな予感が時々あったから……。
  ははっ、何だ。最初っから、全部八つ当たりだったんだ。
  最初になのはに怒ったのも、私の不甲斐なさに怒ったのも、あの時なのはを突っぱねちゃったのも、全部その不安をごまかすための八つ当たりだったんだ――

なのはがどっか行っちゃいそうで、それが不安で、その結果が、なのは自身への八つ当たり……?
その結果が…………"あれ"?


――――馬鹿だ、私。大馬鹿だ…………!!



故に彼女は、なのはを追う。今度は見失わないように。彼女がどこかへ行ってしまわないように。

……しかしなのはの姿はどこにも無い。そんなに時間をおかずに出てきた筈なのに、一体どういうことだろうか。
彼女の不安が、どんどん大きくなり、積もってゆく。

(なのは……、なのは……! なのは……!!)

彼女はとうとう一つの橋のところまでたどり着いた。そしてここで一つの奇跡が起こる。
この場所、彼女から2歩も離れていない場所に、つい先程まで一つの蒼い宝石があったのだ。
その名称は、ジュエルシード。
今はユーノの張った結界の中に取り込まれている。

だが、強い思い《ねがい》は世界をも超えることがあると言う。だとすれば、親友を純粋に思う強い願いにとって、結界の内と外の差など、有って無いようなものではないのか。
結果、ジュエルシードは彼女の思い《ねがい》に反応し、辺りを光で包み込んだ――





なのはは自分へと迫り来る魔力弾を避けられぬと悟り、目を閉じた。
次の瞬間、真っ白に染まる視界。しかし、彼女の予想と異なり衝撃が無い。
しかも、何やら見知った感覚に包まれている感じがする。目を開けてみると、周りは真っ白な空間。明らかに先程までいた場所とは違う。そして……

(この感覚……ジュエルシード!?)

悟ると同時、なのはの中に何かが流れて来た。
それは、無理やり表現しようとするならば、彼女の親友――アリサの感情のような物。
それを受け止めて、なのははこの現象が何なのかを察し、そして――愕然とした。

――自分はいつの間に、親友をこんなにも苦しめていたのだろう。

そして、その空間は唐突に終わりを告げる。
どこか呆然としたような感じで降り立ったのは、川の畔。目の前には、彼女の親友、アリサ・バニングス。

周りの風景からして、まだ結界の中。恐らく、ジュエルシードはアリサを結界の内に、なのはを空間移動させることで二人を合わせたのだろう。

「なの……は……?」

「アリサちゃん……」

いきなりの事で戸惑っているのか、どこか呆然としたような感じで問いかけるアリサ。
だが、それもなのはが暗い顔で彼女の名前を呟くと、一気に正気に戻り詰め寄る。

「なのは、どこ行ってたのよ、探したのよ! それにどうしたのその格好! よく見ると何か汚れてるし、あんた一体何やってたのよ!?」

「あ、え、う、うーん……と……」

気まずさとどう説明すればいいか分からないのとで、言いよどむなのは。
アリサはあたふたとしているなのはを憮然とした表情で見つめてる。

《Thunder smashar》

しかし、そんな二人の空気を引き裂く無情な機械音が響いた。間違いようの無い、バルディッシュの声。

「え!?」

なのはの失敗は、空間転移なんて行った為にここがさっきまでの場所から離れた場所であると錯覚してしまったことだ。
実際は、この場所は先程の場所から五十数メートルしか離れていなかったのだ。慌てて振り返るも、もう砲撃は放たれていた。防御も回避も間に合わない。プロテクションじゃ防ぎ切れない。

「なのは!」

その時、なのはの前に絶妙なタイミングでユーノが転移して来た。
ユーノが魔力障壁を張り、金色の砲撃を受け切る。
だが、それが晴れた先には既に砲撃主の姿は無かった。

「え!?」

なのはが疑問の声を上げると同時に、彼女の隣に現れる漆黒の魔導師。振り下ろされようとする戦斧。

「させない!」

それに対して動いたのはまたしてもユーノ。なのは、アリサ、そして彼自身を囲むかのように足元に浮かび上がる一つの魔法陣。展開されるのは結界型の魔力障壁。
それが漆黒の戦斧を受け止めていた。


「くっ、相変わらず硬い……」

フェイトは悔しげに呟き、その結界から距離を取った。
あの結界を壊すのは彼女には相当骨が折れる。――そう、彼女には。

(あの子の後ろにいる金髪の子、あの子からジュエルシードの気配を感じる。
 見たところ民間人。暴走は今は収まってるみたいだから、相手の戦力に変わりはない。これまで相手をして分かった。あの子は魔力が大きいだけの素人。
 あの魔導師の子達を潰した後で、十分にジュエルシードの方も回収出来る)

と、なるとやることは一つ。時間稼ぎ。先程までならそんな考えは持たなかっただろうが、彼女はとある違和感に気付いていた。

(戦闘が始まってからそれなりに時間が経つのに、増援がやってこない。
 もしかしたら、私を倒したあの魔導師は彼女側の人間じゃあ無いのかも)

ただの憶測でしか無いし、正直に答えてもらえるとも思えないが、それでも訊く価値はある。
と、フェイトがそこまで考えた時相手側でなにやら一悶着があったらしいのが見てとれた。

「ゆ、ユーノ!? 今あんた喋んなかった!?
 それにこれ何よ! さっきの何よ!? もーどーなってんのよー!!」

「きゅーーーーー!!」

「ア、アリサちゃん落ち着いて……」

……ユーノがアリサにブン回されていた。

「ねえ、」

それら全てをスルーして、フェイトは白い魔導師に尋ねる。

「え? 何?」

それに反応したのはなのはのみ。ユーノはまだブン回されている。

「この間私を倒した金髪の魔導師……彼は来ないの?」

その言葉を聴いたなのはの顔に影が差す。

「うん……あの子は、もう、いなくなっちゃったから……」

「……そう」

思いっきり普通に答えられて、逆に目を見開くフェイト。
様子からしてブラフでは無さそうだと判断する。一体何があったのかは知らないが、彼女にとっては好都合だった。

これでフェイトの方針は決定した。視界の端で待っていたそれが来たのを確認し、白い魔導師へとバルディッシュを向けて話しかける。

「……賭けて。それぞれのジュエルシードを、一つずつ」

なのはがそれに言い返そうとした時、

「あ」

アリサが何やら声を上げた。
まだ障壁に守られていたこともあり、なのははそちらに思わず目を向ける。フェイトの目には最初から写っていた。
アリサの手の平から、何かがすっぽ抜けて空を跳んでいた。それは、見るからに美しい蒼い宝石。
地面に落ちたそれをアリサが手に取る。それで漸くユーノはアリサの拘束から逃れることの出来た。

「何これ? こんなのいつの間に……」

「ジュエルシード!」

叫んだのは誰だったろうか。
次の瞬間、茂みから飛び出すオレンジ色の髪をした1人の女性。その頭に犬耳があったりお尻からオレンジ色の尻尾が出ていたりと、その正体がアルフであると想像するのは難しく無い。

「バリアー ブレイクゥッ!」

叫びながら突き出された拳が障壁にぶつかると同時に、障壁にヒビが入る。数瞬後、障壁は砕け散った。

「きゃあっ!」

「なのは、彼女とジュエルシードを!」

「もう何何何なのよー!」

「アリサちゃん、こっち!」

慌てるなのは達。フェイトは白い魔導師とジュエルシードを持つ少女がアルフと使い魔から離れるのを見て、

《Arc Saver》

「はあっ!」

少女達の間を狙ってアークセイバーを打ち込んだ。

「「きゃあっ!」」

ブーメランの様に飛翔する刃は見事アリサとその手を引くなのはの間へと吸い込まれ、なのは達は手を離して切り離される。

「はっ!」

「っ!」

次いで、白い魔導師へと一気に距離を詰めたフェイトは彼女に向かってバルディッシュを横薙ぎに振るう。
なのははこれをしゃがむことで何とかかわす。そしてその瞬間を狙って一旦空へと逃げようとした。あわよくばフェイトとアリサを離れさせるつもりなのかも知れない。
しかし、

《Photon Lancer Fire》

「え!? 《Protection》きゃあっ!!」

"なのはの頭上から"、金色に光る複数の魔力弾が打ち出された。魔力弾の遠隔発生という高等技術である。
レイジングハートが咄嗟にプロテクションを張り、何とか受け止めるもののその防御も破られ、なのはは地に叩きつけられる。
フェイトとて容赦はしない。相手の動きが取れない今のうちに決着を着けようと、サイズフォームのバルディッシュを振りかぶり、

「っ!」

思わず目を閉じた白い魔導師に向かって、振り下ろした。



「……?」

しかし、なのははまたもやいつまで経っても来ない衝撃に目を開ける。と、そこには

「えっ!?」

首筋ギリギリで止まっている刃があった。

「ど、どうして……」

"アリサの"首筋ギリギリで。
アリサが、なのはとを庇うように彼女とフェイトの間に割って入っていた。

「何だか分からないけど、アンタ達はこれが欲しいんでしょ! こんなのあげるから、さっさと帰って!」

叫んで差し出された手の上にあるのは、紛れもなくジュエルシード。

「………」

だが、それでもフェイトは刃を引かない。
すると、

《Put out》

レイジングハートがジュエルシードを排出した。

「レイジングハート……」

なのははレイジングハートの名前を呼ぶが、止める気配は無い。
それを見たフェイトは、ようやくバルディッシュを引いた。

《Divice form》

2つのジュエルシードが、バルディッシュに吸い込まれる。

《Capture》

「行くよアルフ」

それを確認したフェイトがアルフに声をかける。
ユーノと膠着状態になっていた彼女はアッサリと彼を振り切り、フェイトの横に並んだ。

「さっすが私のご主人様」

二人はそのまま立ち去ろうとする。それを、

「待って!」

なのはが呼び止めた。

「名前……あなたの名前は!?」

「フェイト、フェイト・テスタロッサ」

「フェイト、ちゃん……」

なのはは答えられた名前を、確かめるように呟き、

「わ、わたs「それと、」っ」

今度は自分の名前を告げようとした所を、フェイトに割り込まれた。

「その子、早く連れて帰ってあげて」

「へ?」

なのはの疑問の声と共に、倒れこむアリサ。

「え? あ、アリサちゃん!?」

「きゅーーー」

緊張の糸が途切れたのか遂に頭がパンクしたのか、アリサは目を回していた。
なのはの慌てる声を背に、フェイトは今度こそそこから立ち去った。





数分後、

「うーん……」

「あ、アリサちゃん起きた?」

「え?」

アリサが目を覚ますと、そこには親友のなのはの顔。次いで、フラッシュバックする記憶。

「!! なのは、あんた大丈夫!? あいつは!? あの特大凶器持った……」

「? 何の話? それよりもアリサちゃん、いくらお昼ご飯食べて、温泉入って、その後運動したからって、

こんなところでお昼寝しちゃ風邪引いちゃうよ?」

いつものアリサなら、なのはの違和感に気付いたであろう。だが、今のアリサはとにかく気が動転していた。

「…………夢……?」

呆然と呟くアリサ。その視線が、今度はなのはの肩に乗るユーノに注がれる。
だが、そのフェレットは喋るどころか「きゅ?」とただ一鳴きするのみ。

(そっか、夢だったんだ……。そりゃそうよね。
 いくら何でもあんなことが現実に起こる訳無いもの。晴れの日に雷が鳴ったり私達ぐらいの女の子があんなもの振り回したり挙句の果てには小動物が喋ったり……。
 あー、改めて考えると突っ込みどころしか無いわ……)

「どうしたのアリサちゃん。もしかして、まだ眠ってる?」

「っっ! そんな訳無いでしょ! さっさと帰るわよなのは!」

なのはの言葉に顔を真っ赤にして叫ぶアリサ。そのままずかずかと歩き出す。
…………なのはの手をしっかりと握って。

「……アリサちゃん」

アリサに引かれながら、なのはは彼女に話しかける。

「何よ」

「私、いかないよ、どこにも」

「っ!?」

なのはの言葉に、アリサの足がピタリと止まる。

「友達だもん。どこにも行かないよ。私は最後はちゃんと、アリサちゃんと、すずかちゃんの所に帰ってくるから」

「…………」

「アリサちゃん?」

背を向けたまま無言のアリサに、なのはは心配そうに声をかける。と、

「なに言ってんのよ! そんなの当たり前でしょ!」

アリサはそれだけ言って、一度も振り返らずにまたズカズカと歩き出してしまった。
その手に引かれるなのはは、嬉しそうに笑っていた。



――――お話を聞きたい娘が、もう1人増えました。
    今のままじゃ、また何も聞けずに終わっちゃうかも知れないけど。
    それでも私は、あの娘達のことを知りたい。ずっとこのままは嫌だから。
    アリサちゃんを悲しませちゃってたけど、私はそのことからは逃げ出したくない。
    道を間違えないように、自分らしさを、見失わないように……










あとがき
ねんがんの とうこうを かんりょうしたぞ!

痛い痛い。石を投げないで。
いやぁ、まことに申し訳ない。何か月1投稿が定着してきてしまっているデモアです。
中間試験で始まる前も終わった後も色んな意味で死んでたからってこれは酷い。今度はもうちょい早くできるように頑張ります。……つーか第0話の時の話半分も考えてなかったのに1日で書き上げてた勢いはどうしたよ。
いや、うん。どうしてかは分かるんだよね。主に戦闘シーンで時間取ってたんだよね。
フェイトみたいに超スピード+実力差があると即行で簡単に決着が着いてしまって話し合いが全く出来ないという罠。偽ユーノ事件が無ければまだどうにかなったのに、まさかあれがこんなところで尾を引くとは思いませんでした……
しかも最後テンプレにも程がある件。そして原作のなのはの語りが大人すぎてマジで難しい件。

他にも前話で、書かなきゃ駄文になる! って思ってたところがあったのに忘れててマジで焦ったり。
いや、さっちんが取り乱したところですけどね。あーいうキャラの感情がいきなり変わる場面って1文入れてやらないとこっちが戸惑うって言うか……
もう直したけど。

そして今回もさっちんが空気どころか出番ナッシング(銃声
本当はこの話2話に分ける予定だったんですが、PV100000超えたので明言していた通り次の投稿で表へ出すので
次からさっちんが活躍しだすのでいくらなんでもそこまでは行きたかったので頑張って1話にしました。
何で今まで活躍が無かったのかって?
よろしい、説明してさしあげよう! あ、やめてお願い殴らないで僕に弁解させてお願いします。

えー、今作みたく介入させたキャラが精神年齢大人(ほぼ大人)な場合、積極的になのは達に絡ませると

「なにこいつ大人気ねぇ」

ってことになるんですよ。他作品の作者様は色んな工夫してそういうのを無くしてるんですが。
以下例を挙げると、

・介入キャラを複数用意する
・相手方にも介入キャラを用意する
・次元震のところで介入させて、組織である管理局が出て来る時期から始める
・即行でフェイトの味方になって、プレシアを表に出す

等などがありますね。他作者様がたはこれを分かってやってるのかそれとも本能的に察しているのか……
そしてこのどれもを行わなかった作者。完全に自業自得。

そしてこれ書いてて分かったもう一つのこと。何故A'sからの介入が多いのか。単純に人気だからだと思ってたんですが、これが思わぬ新事実発覚。
あっちの方が楽なんですよ。何たって場所と時間が指定されている絶対に起こさなきゃいけないイベントほとんど無いから。

しかしここ最近チラ裏に良作品が突然出没しますね。表よりもチェック回数多くなってる件について。

と、まあここまでグダグダ書いてきましたが、何かさっきも書いた気がしますがお知らせ一つ。
PV遂に100000超えたので、次の投稿と共にとらは板に移動します。こんな作品を読んでくださっている皆様方、本当にありがとうございます。


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