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No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
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[12606] 第6話
Name: デモア◆45e06a21 ID:cba2534f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/16 20:43
朝。とても良い天気である。太陽は既に昇り切っていて、小鳥達も賑やかに鳴いている。

「う~ん……」

そんな中、ベッドの中で可愛らしいうなり声をあげる少女、高町なのはと、その上に乗っかっているフェレットのユーノ。

「なのは、朝だよ、そろそろ起きなきゃ」

「ん~、今日は日曜だし、もう少しお寝坊させて~」

なのははユーノの呼びかけに、まだ半分眠ってる風に答える。
しかし、もういくらなんでも起きなければいけない時間だ。ユーノは根気良く呼びかけた。

「なのは! ねぇ、起きないのねぇなのは!
 なのは! お~いなのは! なのはってばぁ……」

と、漸くなのはは起きる気になったのか、ベッドに仰向けになり、掛け布団を腕でどける。すると、その上に乗っていたユーノは必然、そこから転げ落ち、更に上から掛け布団に押しつぶされた。

「うぅ~わぁ ぐぅ……」

それを知ってか知らずか、なのははそちらに反応を示さずに自分の胸元にかかるレイジングハートを掲げた。

《Confirmation》

すると、レイジングハートが今まで集めた分のジュエルシードを映し出す。
今現在回収し終わったのは、シリアル13、16、17、20、21の5つ。魔法と出会って一週間の成果とすれば、まずまずだろう。
だが、なのははそれらが消えた瞬間、疲れたようなため息を吐いた。

「なのは、今日は取り合えずゆっくり休んどいた方がいいよ。
 特に昨日は一段とハードだったんだから」

そのため息を聞き取ったユーノが、なのはに諭す。

「うーん、でも……」

だが、根が優しい、優しすぎるなのはは、そこに躊躇いを見せる。
だが、ここはユーノも引く訳にはいかない。何と言っても、これは自分が巻き込んだことなのだ。なのは結構無理をして頑張ってくれているのは分かっている。分かっているからこそ、ここは引けない。
それに、なのはが躊躇っている理由のもう一つ、気にしているあの娘のことだって、ハッキリ言って今は経過を待つしか無いのだ。

「今日はお休み。もう5つも集めて貰ったんだから。少しは休まないと持たないよ。
 あの娘の事だって、急いだところで何も変わらないよ?

 それに今日は約束があるんでしょう?」

「うぅん……そうだね」

ユーノにそこまで言われ、なのはは少し明るい声で返す。
優しく、友達思いとは言え、やはりまだ女の子。人の為に疲れた体を動かすのに、抵抗が無いというのは嘘になるだろう。自分の時間だって欲しいのだ。

「じゃあ……今日はちょっとだけ、ジュエルシード探し休憩ってことで」

「うん」

納得してくれたなのはに、何故かユーノの方がほっとしていた。






さて、その少し後、そことはまた違う場所、駅前に続く通りを弓塚さつきは歩いていた。その顔は期待に満ちている。

目的はとある喫茶店。正確には、その喫茶店にある極上のシュークリームである。

昨日のことは残念だったけどジュエルシードはまだあるっぽいし、うだうだしてても仕方無い! とばかりに、さつきは折角の休日を楽しむことにした(ちなみに、あまり早く出すぎて不審に思われるといけないので、廃ビルを掃除したり生活に必要なものをピックアップしたりして時間をつぶしていた)。

そして、その手始めに選んだのが以前罪悪感といたたまれなさでゆっくりと味わうことの出来なかった、それなのにそれでもとてつもなく美味しかったシュークリームであった。

と、そこで通りかかった公園で、子供達がサッカーをやっていた。
いやもう、これがかわいい。小学校低学年ぐらいの子達が、元気いっぱいにボールを追いかけて回しているのだ。色々と和む。
どうやら結構きちんとした試合らしく、選手達は皆ユニフォームを着ており、両チームにはマネージャーと監督らしき人達もいた。

(?)

さつきは片方の監督の一人の後ろ姿にどこかで見たことがあるような気がした。だがぱっと出て来なかったので、別にいいやと試合の方へ視線を戻す。
すると、丁度気になった監督の方のチームのゴールへ、ボールが飛んで行った。
これは入ると思われたその時、キーパーの男の子が横っ飛びで見事そのボールを掴んでいた。顔は土で汚れたが、かなりかっこいい。

「おー!」

さつきは思わず拍手した。やはりこういうものは見ていても楽しい。

いやはや、いい物が見れたと、前半戦が終わったところでさつきはその場から立ち去ろうとする。が、

「……は?」

あるものを見て、動きが止まった。

(いやいや、あなたたち何歳よ?)

さつきの視線の先、そこでは先程ゴールを守った少年がマネージャーの少女からタオルを受け取っていた。それだけならまだいい。
問題は、その二人が発する雰囲気だ。
女の子の、しかも三年間も片思いをくすぶらせ続けていたさつきは分かる。あの少女、男の子に気がある。しかもさつきの勘が正しいなら、その逆もしかり、だ。
更に言うとその二人、明らかにデキてる。

(な、何てうらやましい……って、あなたたちどー見ても小学生低~中学年でしょ。
 早い! 早すぎるって!! その歳ならまだお遊びレベルでしょ!? 何なのその雰囲気は!? ガチですよね!? どー見てもガチですよね!!?)

もう何だかとんでもなく悔しくなったさつきは、腕で目を隠しながらそこから足早で立ち去った。





「ん?」

友達との約束――自分の父親、高町志郎がコーチ兼オーナーをしているサッカーチーム、翠屋JFCの試合の応援――のため、月村すずか、アリサ・バングニスと共に公園に来ていた高町なのはは、
視界の隅を何やら気になる人影が通りかかった気がしてそちらに目を向けたが……

《どうしたの、なのは?》

もうそこには誰もいなかった。

《ううん。なんでもない》

そうユーノに返し、なのはは始まった後半戦に視線を戻した。




なのはが意識を試合に戻したのを確認し、ユーノも再び試合に視線を向ける。
だが、その頭の片隅では、常に例の少女の事を考えていた。

(ハッキリ言って、今の状態で彼女とぶつかり合うのは得策じゃ無いな……
 彼女の戦闘能力は凄まじい。あのパワー、スピード、直接なのはを潰しに来られてたら多分確実に負けてた。

 それをしなかったのは……やっぱり、油断してたのか……なのはが9歳の女の子だったから抵抗があったのか……
 後者の場合、そんなに悪い子じゃ無いだろうって事になるんだけど……

 そもそも、目的がハッキリしないことが一番の問題だ。ジュエルシードを手に入れることが目的だろうけど、それは最終的な目的の為の過程でしか無い。
 元々この世界には魔法が無いんだから、もしかしたらジュエルシードなんて使わなくても別の魔法を使えば叶う願いだってことを知らない可能性もある。
 何とかして目的を聞き出せれば、交渉を持ち込んだりも出来るんだけどなぁ……)

はあ、とユーノは心の中で溜息を吐き、更に頭の痛くなる事に思考を移した。

(それに、何だってレイジングハートから彼女と初めて会った日のデータが全て消去されてるんだ……しかも僕名義で)

そう。あの後、なのはがダウンしてしまった後、レイジングハートがダウンしてしまったマスターの代わりに、ユーノに質問して来たのだ。

《Who is she?(彼女は誰ですか?)》

と。
自分のマスター達は知っていて、自分が知らない彼女を疑問に思ったレイジングハートが自分から質問しなければ、その事実はいつまで立っても闇の中だっただろう。
幸い、暗示に対するプロテクトのデータは記録では無い所に保管されていたので無事だったが、この現象はどう考えても説明が付かない。
様々な要因に頭を悩ませながら、ユーノは平和な一時を楽しんでいた。





「う~、こうなったら自棄食いしてやる~」

翠屋に着いたさつきは、扉を押し開ける。カランコロンという音に誘われて、奥からこの間の従業員の女性が出てきた。

「あらいらっしゃい。今日もお一人?」

どうやら向こうもさつきのことを覚えていたらしい。

「はい。ここのシュークリームがとても美味しかったので、また来ちゃいました」

「まあ、嬉しい。さ、こっちへどうぞ」

さつきは案内されたカウンター席に着くと、差し出されたメニューを断った。

「今日はシュークリームを食べに来ただけですので、メニューは要りません」

さつきがそう言うと、女性は本当に嬉しそうに微笑んだ。

「まあ、うちのシュークリームを食べるためだけに来てくれたの? 嬉しいわね。
 ……あっ、それじゃあ、少し時間掛かってもいい? 出来たて食べたくない?」

その女性のまさかの提案に、さつきは驚く。

「えっ、もしかしてあのシュークリーム、貴女が作ってるんですか?」

「ふふ。そうよ」

これにはビックリ。てっきり一介の従業員かと思っていたのに、まさかそんな人だったとは。
それに、その提案は大歓迎だ。さつきには、時間など山ほどあるのだから。

「お願いします! いくらでも食べます!」






(……しまった。この展開は予想して無かった)

さつきはシュークリームにかぶりつきながら、はてさてどうしようかと悩んでいた。
ちなみにシュークリームはやはり絶品だった。シューの焼き加減、食感、香り、クリームの程よい甘さ、その味、一つ一つだけでも素晴らしいのに、それらが絶妙にマッチしている。
別に評論家でもないさつきからしてこの感想なのだ。やみつきになりそうだった。

まあ、それはそれとして。
気を緩めれば頬が緩み、口を滑らせそうになるのを押さえ、さつきは考える。
原因は、カウンターの向こう側で、両肘を付いた手の上に頬を乗せてこちらを眺めている女性。

どうやら今は他に客もおらず暇らしく、ちょっとした世間話でもしないかということらしい。
それに一も二もなく頷いた自分を、その直後呪った。これからされる会話を直ぐさま予想出来なかった自分が恨めしい。
前回自分はこっちに引っ越して来たと言った。なら、話は自然とどうして引っ越して来たのか、何処から来たのか、学校は何処か、両親はどんな人か等へ進んで行くだろう。
ハッキリ言って、さつきにはそんなに上手く嘘を付くスキルは、無い。

いざとなったらまた暗示でも使うか……と考えるさつきであったが、話は彼女の想像もしなかった方向へ進む。

と、女性が口を開く。

「そう言えば、まだお名前聞いてなかったわね。私は高町桃子、ここ、喫茶『翠屋』のパティシエールをやっているわ」

(? あれ?)

さつきは今の言葉に若干違和感を覚えたが、何だったのかは分からなかった。
さつきは昨日もこの"高町"という性を聞いていたのだが、既になのはの名前は知っていたためそこまで記憶に残っていなかったのだ。
若干釈然としないものを抱えたまま、さつきは返す。

「あ、はい。わたしは弓塚さつきって言います」

「さつきさん……良い名前ね。しっかりしてるけど、何歳?」

桃子のその問いに、さつきは少しドキリとするが、橙子の言葉を思い出して、いまの肉体年齢を言った。

「えっと、9歳です」

「まあ、うちの一番下の子と同じ」

(? あれ?)

さつきは今の言葉に若干違和感w……

(って、はぁぁ!!?)

「お子さんいるんですか!!?」

(しかも最低でも2人で下が9歳!!?)

さつきは目の前の女性をまじまじと見る。
若々しい。若々しすぎる。

(だめだ。20代半ばにしか見えない)

さつきが驚いてる最中、桃子はいたってニコやかに口を開いた。

「ええ、3人」

その言葉に、さつきは椅子からずり落ちた。

「あら、大丈夫?」

それに驚いた桃子が身を乗り出して来るが、さつきの驚きはそんなものじゃ無かった。

(そっかー公園のあれもこっちの世界じゃ普通のことなんだそうなんだ。
 この世界の人は多分10歳前半でもう子供作っちゃうんだ確かにもうその頃になると出来なくも無い筈だしそうだそうなんだそうに違いない)

「あ、あハハハハハハハ……」

何やらとてつもなく間違った知識を得そうになっていたさつきだった。







落ち着いたさつきは改めて話を聞き、別にそういうことじゃ無いことを知った。
ついでに目の前の女性が年齢の割に若々しすぎることも、3人中2人が養子であることも知った。

そのときのさつきは、もう驚く気力も無かったという。


「あれ? じゃあこの間仲良さそうにしてた男の人って……」

そこでさつきは以前この店に来たときの事を思い出す。確かあの時、明らかに桃色空間を作っていたこれまた若い相手がいたはずだが……

(ま、まさか不倫相手!?)

さつきがその可能性に行き着いたと同時に、桃子から答えが出された。

「え? ああ、士郎さんね。彼はここのマスターで、私の夫。
 今は公園で彼が監督しているサッカーチームの試合に行ってる筈よ」

(あ、そうなんだ。それならなっt……)

その答えにホッと安心したさつk

(って、ちょっと待った!)

「あ、あのー、桃子さん、彼の年齢、教えて貰っても?」

「? ええ、37だけど?」

またもやずり落ちそうになる体をようやく立て直し、駄菓子菓子、体に力など入らずそのまま机に突っ伏すさつき。

(い、色々とおかしいこの家族……)

桃子の「さつきさん? さつきさーん?」という声を遠くに聞きながら、さつきは脱力した体に力を込める気も起きなかった。





それから数分後、再起動したさつきと今度は本当にたわいもない世間話(主に引っ越して来た(と思われている)さつきに桃子がこの町のことを話していた)をした後、昼前になってきたので桃子が店の仕事をし始めないといけなくなったためお開きに。
さつきはもうとっくにシュークリームは食べ終えていたのでそのまま町に繰り出すことにした。

「じゃあ桃子さん、お勘定お願いします」

「はいはい」

その時桃子が提示した金額は明らかに安かったが、折角の厚意をフイにするのは失礼かと思いそのまま受け取った。




外に出たさつきは、さーて次は何処行こうかなー等と考えながら、ふと胸の奥にわき起こって来た寂しさに苦笑する。

(やっぱり、何だかんだ言って人とのふれあいっていいもんだよね……
 ……あーもう辛気くさい! こんな機会これからいくらでも有るんだからっ!)

そう考え、彼女は寂しさを胸の奥に押し戻した。そう、"押し戻した"。今まで通りに。
消えた訳では無い寂しさは、確実に蓄積されていく。彼女自身も知らぬ間に……

ゲーセンでも探そっかなー、等と考えながら、さつきは翠屋を後にした。




高町桃子は、忙しくなり始めるであろう(特にとある"予約"の為)今からに備えて準備しながら、先程会話していた少女――さつきのことを考えていた。

(さっきはさつきさんの雰囲気に流されて全然気にして無かったけど……
 彼女、大人び過ぎてるのよね……雰囲気とか……会話の内容とか……)

先程さつきが驚いた時の会話内容は、どれも"ある知識"が無いと驚けないところだろう。
いや、周りとの違いに驚くことは出来るだろうが、あの驚きようはそんなものじゃ無い。

(一体何処であんな知識付けて来たのかしら、9歳の女の子が。
 全く、最近の子供は早熟で困るわ……まさか、なのはもそうじゃ無いわよね?)

桃子の思考は、店に客が入ってきたことによって中断された。




そして、こちらはなのは組。
丁度今試合は終わり、結果は2-0で翠屋JFCの快勝だ。特に翠屋JFCの失点が0だったのには、キーパーの活躍がとても大きい。

「「「「「うおおおおぉぉぉぉおぉ!」」」」」

「「やったー!」」

周りから翠屋JFCのメンバーの声が聞こえる。相手チームは、がっくりと肩を落としたり苦笑したりしているが、そこにドロドロした暗いものは無い。
スポーツというものは、特にこの世代は、勝っても負けてもすっきり爽やかに終われるものだ。

相手チームとの挨拶も終わり、みんな監督の前に集まった。
監督である高町士郎が、みんなに聞こえるように声を張り上げる。

「おーし! みんな良く頑張ったー! 良い出来だったぞ、練習通りだ!」

「「「はい!」」」(←もっと多いけど割愛

メンバーの元気な声にニッコリ笑い、士郎は雰囲気を崩して更に叫ぶ。

「んじゃ、勝ったお祝いに、飯でも食うか!」

「「「いえーーーーー!!」」」(←更に多いけd(ry



そんなこんなで翠屋JFCメンバーを引き連れた士郎と、それに便乗させてもらったなのは達がやって来たのは当然のことながら喫茶『翠屋』。

そう、もう分かっている人も多いだろうがこの高町なのは、父親を喫茶『翠屋』のマスター、高町士郎と、母親を喫茶『翠屋』のパティシェール、高町桃子に持つ三人兄弟の末っ子なのである。

翠屋JFCのメンバーは中で食べ放題の食事で食事中、なのは達は軽食の後外のカフェテラスでおやつのケーキと紅茶を前にして座っている。
そしてその丸机の真ん中には……若干諦めた様な顔をしているユーノが。

「……きゅ……」

見ると、少しばかり顔が引きつっている。

「それにしても、改めて見ると何かこの子フェレットとはちょっと違わない?」

「うっ」「きゅっ」

アリサの言葉に、小さく呻くなのは&ユーノ。

「そう言えばそうかな? 動物病院の院長先生も、変わった子だねって言ってたし」

「にゅ~」「きゅ……」

続くすずかの言葉に、唸るなのは&ユーノ。

「あーえっと、まあちょっと変わったフェレットってことで……んほらユーノくん、お手っ!」

「きゅっ!」

そして、何とか誤魔化そうと焦って無理のあり過ぎる行動に出るなのは&ユーノ。つーかユーノ、何でそんなに気合い入れるんだ。

「ぅわーーぁ!」

「うわぁ、可愛い……」

そしてそれにまんまと釣られるアリサ&すずか。もう知らん。ユーノも既に完全にあきらめ顔。

「んんーん、賢い賢ーい」

そう言って頭を撫でるアリサ、それに便乗して撫で始めるすずか、それに引きつった笑みを浮かべながらされるがままになっているユーノ。

《ごめんねユーノくん》

某ちび○子(←伏せ字になってない)の様な口調で謝るなのは。

《だ、大丈夫……》

これまた引きつった声で返すユーノ。一種のカオス空間がそこにはあった。


カランコロン

『翠屋』の扉が開き、翠屋JFCのメンバーが店から出てきた。
メンバー達は翠屋の前で整列する。

「「「ごちそうさまでしたー! ありがとうございましたー!」」」(←もっとo(ry

その前に、店から出てきた士郎が立つ。

「みんな、今日はすっげーいい出来だったぞ! 来週からまたしっっかり練習頑張って、次の大会でも、この調子で勝とうな!」

「「「はい!」」」(←もっt(ry

「じゃ、みんな解散! 気をつけて帰るんだぞー」

「「「ありがとうございましたー!!」」」((ry

バラバラに散ってゆくチームメンバー達。周りから

「じゃーなー」「またなー」

等聞こえて来る中、一人だけ自分の鞄のポケットを漁っている男の子が居た。
先程の試合で大活躍だった、キーパーだった少年だ。

と、捜し物が見つかったのか、その少年は何かをポケットからつまみ出した。
それは……紛れもなく、ジュエルシードの一つ。

数秒間、その綺麗な輝きを見つめていた少年は、

「ふふっ」

笑って、それを自身のジャージのポケットに仕舞った。


(!?)

「あっ…………」

なのはは、今一瞬視界の端に映った光景に反応した。なのはの目の前を、キーパーだった男の子が歩いている。なのはは、その男の子を目で追いかける。
なのはは、少年が何かをポケットに入れる瞬間を見た気がした。それが青い輝きを放つ何かで、ジュエルシード程の大きさだった様な……気がした。

確信が持てず、どうしようか迷って動けないでいるなのは。

「お疲れ様~」

「お疲れ様」

その視線の先で、その男の子は後ろから追いかけてきた女の子と合流して歩いて行ってしまった。

(気のせい……だよね……)

そう結論付けるなのはだったが、やはり不安は拭えず、その表情は暗い。

「はー、面白かったー。
 はいなのは!」

と、いきなり自分の名前を呼ばれ、なのはは慌てた。

「へっ?」

と意識を自分を呼んだ張本人、アリサに向けると……

「きゅ、ぅ、ききゅぅう~~」

そこでは、弄られすぎて目を回したユーノが差し出されていた。

「さて、じゃあ、私たちは解散?」

言いながら、アリサは自分のバスケットを抱える。

「うん、そうだね~」

すずかも鞄を取り出した。

「そっか、今日はみんな午後から用があるんだよね」

「ぅふ、お姉ちゃんとお出かけ」

「パパとお買い物!」

なのはの言葉に、すずか、アリサの順に嬉しそうに答える。

「いいね、月曜日にお話聞かせてね」

そんな二人に、なのははユーノを肩に乗せながら羨ましそうに言った。

「おっ、みんなも解散か?」

「? あっ、お父さん!」

と、そんな中いきなり聞こえてきた声に一瞬戸惑うが、すぐにその声の主が判明し、なのはは嬉しそうに呼びかける。

「今日はお誘い頂いて、ありがとうございました」

「試合、かっこよかったです」

「あぁ。すずかちゃんもアリサちゃんも、ありがとなー応援してくれてー。
 帰るんなら、送ってこうか?」

アリサが礼儀よくお礼を言い、すずかが褒めた。
士郎がそれにお礼を言い、ふと提案するが、

「っぁ、いえ、迎えに来て貰いますので……」

「同じくですー」

こう言われては仕方がない。

「そっか。なのはは、どうするんだ?」

士郎は今度はなのはに向き直り、たずねる。

「んー、お家に帰って、のんびりするー」

「そおか。父さんも家に戻って、ひとっ風呂浴びて、お仕事再開だ。一緒に帰るか?」

士郎はなのはのその言葉に苦笑しながらも、一つ提案をした。

「うん!」

それに元気に応えるなのはであった。


「「じゃーねー!」」

「また明日ー!」

お互いに遠ざかる友人に手を振り、分かれるなのは達。
そんななのは達を微笑ましそうに眺めていた士郎が、ふと気付いた様になのはに訪ねた。

「なのは、また少し背伸びたか?」

「むっ、お父さん、こないだも同じ事聞いたよ。そんなに早く伸びないよー!」

だが、その言葉になのはは呆れてしまう。

「ふふっ、そーか。ははっ」

実に微笑ましい光景が、そこにはあった。





二人で仲良く歩く少年と少女、少年のポケットの中で、ジュエルシードが一瞬だけ、強く輝いた。




帰ってきたなのはは、自分の部屋に戻ると、即ベッドの上に倒れ込んだ。

「はふ」

と、そこでユーノが注意する。

「なのは、寝るなら着替えてからじゃなきゃ」

「んー」

ユーノのその言葉に反応し、ノロノロと起き上がるなのは。
そしてそのまま――――服を脱ぎだした。

「ひぁっ!」

それに慌てたのがユーノ。大急ぎで後ろを向く。その背筋はピンと伸びていた。
そんなユーノも気にもせず、なのはは下着姿になるとその上から近くにあった寝間着を着ていく。

「ユーノくんも一休みしといた方が良いよ~」

「ははぃぃ」

「なのはは晩ご飯までお休みなさ~い」

そう言うと、なのははそのまま倒れ込んだ。
少しして、もう問題無いと確信したユーノは振り向く。そして枕に顔を埋めるなのはを見て、心配そうな顔をした。

(僕がもっとしっかりしてれば……)

慣れない魔法、自発的では無く、突発的に用意されるそれを使わなければならない状況、それに加えて昨日のイレギュラー出現による魔法の連続使用……
いや、例え昨日、あの弓塚さつきと名乗る少女が現れなくても、恐らくなのははもういっぱいいっぱいだっただろう。

(僕が、もっと……)

ユーノは表情を真剣なものに変え、なのはの机の上に登った。その脇には、なのはに借りて貰った吸血鬼に関する本の数々……
何故かは分からないが、何故かユーノは吸血鬼(それ)に関する知識を得ることが今しなければならない事だと思った。

因みに、その本の題名だが、吸血鬼のお○ごと、ヴァンパ○ア・ガーディアン、ヴァ○パイア特捜隊、ドラゴンラージャ、ヴァンパイ○騎士、ロザ○オとヴァンパイア、ダンス イン ○ ヴァンパイアバンド、
FORTUNE ARTE○IAL、ゼロの○い魔外伝 タバサの冒険、とある魔○の禁書目録 2巻、ネ○ま!? 、○.gray_man、 etc...(*注.全て小説。この世界には有るんです!




高町邸でユーノが本の内容に頭を抱えている頃、翠屋JFCのキーパーの少年と、マネージャーの少女は未だに帰路の途中に居た。
マンション等が立ち並ぶビル街のど真ん中で二人で横断歩道の信号が赤から青に変わるのを待っている所だ。

自然と、少女の方から言葉が漏れる。

「今日の、凄かったね」

「いや、そんなこと無いよ。ほら、うちはディフェンスが良いからね」

「でも、格好良かったぁ」

そんなやり取りに、赤面する少年。それを少女は嬉しそうに見ている。
と、ふと少年が声を上げた。

「あ、そうだ」

「え?」

少年はジャージのポケットをゴソゴソと探り、目的の物を取り出した。

「はい、これ」

「わあ、綺麗……」

少年の開いた掌の上には、蒼色に光るとても綺麗な石。

「ただの石だとは思うんだけど、綺麗だったから」

「ぅわぁ……」

少女が嬉しそうな顔をするのを見て、満面の笑顔になる少年。
そして少女が、少年の掌の上に自分の手を置いた、その瞬間…………………………


「え!?」「ぅわあ!?」



…………………………蒼い宝石、ジュエルシードは発動した。


自分たちの持っていた石が急に強い光を放ったと思ったら、いきなり地響きがして、自分達の周りを黄色い光が包み込んで、
周りからは常識外れの巨大な木の根が生えて、周りを破壊しながら自分たちを持ち上げて、自分たちはお互いに抱き合って…………少年と少女が意識を保っていたのはここまでで、全てが終わった後には、その事すらも忘れていた。




強い魔力の発現――ジュエルシードの発動を感知して、なのはは目を覚ました。
起き上がると、ユーノに呼びかけられる。

「なのは!」

「気付いた!?」

言うまでもないだろう。なのはは急いで床に落ちていた服に着がえた。


自分の娘がドタドタと階段を駆け下りて来る音に、風呂に入っていた士郎は声を何とも無しに呼びかける。

「何だ-、なのはー、一緒に入るかー!?」

「ごめんお父さん、また今度ー、ちょっとお出かけして来まーす!」

「そっか、行ってらっしゃい」

少し残念そうに、士郎は呟いた。



なのははジュエルシードの発動を感じた近くのマンションに着くと、その屋上に登った。

「レイジングハート、お願い!」

《Stand by, Ready.》

なのはの体がバリアジャケットに包まれる。
準備の整ったなのはが眼下を覗くと……

「あぁっ!」

いや、覗くまでも無かった。そこには既に、明らかにジュエルシードの起こしたものであろう現象が目に見えていた。

「酷い……」

なのはの視界に映るのは、巨大な木々。そこら中にあるマンションやビルより尚巨大な、異常に大きな木々であった。
その木の幹が、根が、道を破壊し、車を吹き飛ばし、ビルを破壊しながら成長を遂げていた。
木の巨大さが幸いしたのか、木と木の間にはかなりの差があり、被害を免れた物件もそれなりに有るが、それでも酷い有様だ。

「多分、人間が発動させちゃったんだ。強い思いを持った者が、願いを持って発動させた時、ジュエルシードは、一番強い力を発揮するから」

「ぁっ!」

その時、なのはの脳裏に蘇る記憶。今日、翠屋の前で、男の子がジュエルシードらしき物をポケットに入れていた……

(やっぱり、あの時の子が持ってたんだ。私、気付いてた筈なのに……、こんな事になる前に、止められたかも知れないのに……」

途中から、心の中の声が口から出ていた。
別にそうじゃ無いかも知れない。やっぱりそれはなのはの勘違いで、それとは全く関係の無い、別のジュエルシードが発動しただけという可能性も、無いわけでは無い。

「なのは……」

だが、そんな事言える雰囲気では無かった。ユーノが口に出来たのは、ただただ、なのはの名前を呼ぶ事だけ。
先程、自分がしっかりしなければと思った所なのに、それから直ぐに失敗の連続、ユーノは自分の無力さに腹が立った。

沈黙が、辺りを包み込む。

が、突然レイジングハートが輝きだす。なのはの魔力光――桜色に。
それの意味する所を理解して、ユーノが声を上げる。

「なのは?」

「ユーノくん、こういう時は、どうしたら良いの?」

「え?」

ユーノが見上げた先には、何かを決意した顔の、なのは。

「あっ」

「ユーノくん!」

「ああ、うん。
 封印するには、接近しないとダメだ。まずは元となってる部分を見つけないと。
 ……でもこれだけ広がっちゃうと、どうやって探したらいいか……」

悩む様な声を上げるユーノに、なのははただ、確認する。

「元を見つければいいんだね?」

「え?」

ユーノの声を尻目に、なのははレイジングハートを前方に構える。
だが………

《……………》

「レイジングハート?」

いつもなら直ぐに応えてくれる筈のレイジングハートが、応えてくれない。

《Must not do it.(いけません。)》

「どうして!?」

予想外の返答に、なのはが叫ぶ。

《Even for free, the body of the master is a limit now.(ただでさえ、今のマスターの体は限界です。)
 If you use the Area search that the big burden in such a state, you will fall down on the way.(その様な状態で負担が大きな広域探索を使ったら、その途中でマスターが倒れてしまいます。)》

「……っ!」

レイジングハートの言葉に、ユーノは歯噛みする。なのはに既に、自分も使えない様な広域探索の魔法を使う資質が有るという事実にも驚きだが、ユーノは、レイジングハートの言葉が恐らくは真実であることを理解出来てしまった。
魔力は問題では無い。むしろ彼女の魔力は有り余っている。だが、今問題なのは魔法を扱う時に直接体に掛かる負担だ。こればかりはどうにもならない。
だが、それになのはが納得する筈も無く。

「大丈夫だよそれくらい! レイジングハート!」

《……………》

必死に呼びかけるが、レイジングハートは沈黙を保つ。

「ユーノくん!」

なのははユーノに助けを求めるが、

「なのは、元となったジュエルシードを地道に探していこう。今はそれしか……」

「っ! ユーノくん!!」

ユーノのその返答に、なのはは絶叫に近い声を上げた。
今の彼女の心の中は、(こうなったのは自分のせいだ、早く何とかしなければ)という脅迫観念じみたものに支配されている。
ユーノはそんななのはを痛ましそうに見つめ、自分の無力さを再び痛感していると……

「基点が分かればいいんだね!?」

救世主の声が聞こえてきた。





さつきは、翠屋を出た後そこら辺をうろうろしていた。省きすぎだと言うかも知れないが、本当にそんな感じなのだから仕方がない。
ゲーセンなんて突発的に探した所でそうそう簡単に見つかる訳も無く、しかも思ってみれば今の自分の体型(9歳児)でゲーセン等に居ると色々と問題があると思い直し、
かと言ってする事も何も無いのでぶらぶらと公園のベンチで寛いだり、通りがかった古本屋で立ち読みしたり、コンビニで良策っぽい週刊誌に目を付けたり、お腹が空いたらファミレスに入ったりしていた。

「ん-、何か、無駄に時間があるってのも問題だよねー」

ぼやきながら、まあ、追っ手を警戒しながら裏路地を這い回るよりいいけどと苦笑する。

(でもまあ、本当に暇だよ。前は、休日と言えば学校の宿題をやったり、家でごろごろしながら遠野君のことを考えてたり、遠野君に会えないかなー、何て思いながら街に出たりしていたけど……)

自分で考えながらブルーになっていった。ちなみに彼女、女友達と一緒に遊びに行ったり等はしていない。
彼女はクラスのアイドル的な存在だったが、それは彼女が志貴に良く見られたいと頑張っている内に自然とそうなっていっていただけで、そういう付き合いで獲得したものでは無いのだ。
いつも笑顔で明かったのも志貴に振り向いてもらうため、常に周りに気を配ってたのも志貴に好印象を持ってもらうため、根が良い娘なのも手伝って、彼女が自然にクラスのアイドルになっていくのに、そんなに時間はかからなかった。

(遠野くん……)

さつきの瞳は、既に遠い所を見ていた。ふと現実に帰り、はぁ、と溜息を吐く。
すると瞬間、高密度の魔力が解放されたのを感じた。

「っ!!」

(これは、ジュエルシード!)

吸血鬼化していくこの体を、元に戻せる可能性、あの日常、家族と過ごし、友達の輪に入り、何より先程まで思い描いていた志貴と、再び会う事の出来る可能性。その手がかりに、さつきは感知した方を急いで振り向いて、

「え……………」

瞬間、言葉を失った。
さつきの目に映るのは、巨大な木々。少し離れた場所にあるビルの、その上を越してもまだ成長を続ける、幾本もの巨大な木。地面も、気付かない方が可笑しい程に揺れている。

「これは、木を依り代に暴走した……?」

見た目でそう判断しそうになったが、さつきの"とある感覚"が、必死に違和感を訴えていた。
これは……

(世界が、異常を感じてる……? じゃあ、まさかこれって結界!?)

さつきは自身の持つ"とある物"のお陰で、世界の異常に異常なまでに敏感なのだ。そしてその感覚は、目の前の木が一種の結界だということを訴えていた。
そして、その感覚は正しい。あの木々は、『ずっと二人で一緒に居たい』という"二人分"の思いを元に発動した、"二人だけの世界"を護る結界なのである。

(ちょっと信じられないけど、これが結界なら、その一部を壊せば……)

驚くのも数瞬、さつきは人気の無い通りを選んで駆けだした。程なく、木の根元の一つにたどり着く。周りには、痛々しい破壊の跡。

(酷い……)

この分だと、死者が出ても可笑しく無いだろう。少なくとも、重傷者ゼロなんて事は無い筈だ。
さつきは、胸にわき上がる憤りを発散する為に拳を腰溜めに構え、思いっきり、手加減無しで目の前の根っこを突き上げた。

―――――瞬間、街が震えた。

「え、きゃっ!」

自分の拳の破壊力が巻き起こした惨事に、驚いて体勢を崩すさつき。
彼女の放った拳の威力は、木の根を伝い、地中に浸透し、繋がっている木を振るわせ、他の根にも伝達させ……結果的に、そこら一帯に局地的な地震を発生させたのだ。
何やら遠くから、ガラスの割れる様な音と、人の悲鳴が聞こえた様な気がする。

(……………)

さつきはあんまり気にしない(現実逃避する)事にして、自分の行動の成果を確認した。
だが……

「嘘……」

そこにあったのは、僅か罅が入っただけだったという事実。木の根っこ丸ごと吹っ飛ばすつもりだったのに、と目を丸くする。罅はそれこそ木の根の大半に及んでいるが、それでもこれは予想外だ。
だが、

「まあ、結界なら、これぐらいの罅が入れば後は自然に解けるよね」

そう、それが普通の結界なら、一カ所が壊れればそこから連鎖的に壊れて、結果結界全体が消滅する。
そう、それが"普通の結界"なら。

「っ嘘!?」

さつきの目の前で、それは一瞬にして修復されてしまった。
基点から魔力が流れ出たと思ったら、それは一瞬で木の根を通して到達、これまた一瞬で木の根は元通り。

「これは……基点をどうにかしないとダメっぽいね……」

さつきは頭を抱えた。まさかジュエルシードの力がこれほどまでとは。いや、むしろ"願いを叶える宝石"なのだからこれぐらいの事は出来て当然か。と、自らの見通しの甘さを呪った。

さつきの頭の中に、甘い声が響く。それは、『基点は分かっているのだから、そこに向かってジュエルシードを回収すればいい』というもの。
だが、それだとこの木々はそのままだろう。この木は結界の一種、なら、基点を破壊ないし封印すれば、この木々は消える。
だが、さつきにジュエルシードの封印は出来ない。破壊など、何が起こるか分からない。

『別に、この世界は自分の世界じゃ無い。全てが上手く行けば、この世界とはおさらばしちゃうんだから、別にどうという事は無い。困ってるのも元々赤の他人だし。
 それに、こっちでジュエルシードに色々やって、上手くいったりいかなかったりっていう結論が出てからなのはに渡せばそれでいいじゃん』

またもや甘い誘惑がさつきの頭の中に響く。それだと木々はしばらくそのまま、木の根などに邪魔されて救出作業等が困難を極める事になってしまうだろう。

だが、それは本当に甘い誘惑で……

(………)

さつきの頭の中に、向こうの世界で、橙子たちに会う前の三週間の記憶が蘇る。毎日裏路地を彷徨い、日に当たる事も出来ず、人々からは恐れられ、廃ビルや、裏路地の隅で寝た日々……

(みんな……)

家族や友人の顔がちらつく。あの暖かい空間に、もう一度自分も入りたい……

(遠野君……)

志貴の顔が浮かんでは消えてゆく。その顔は、本当に優しそうで、お人好しそうで……いや、実際にとても優しくて、お人好しで…………

(っ! ………………………………………)

数秒、沈黙が訪れる。さつきは俯いていて、周りからその表情は探れない。

やがて、俯いていた顔を上げると、思いっきり叫んだ。

「あーもう! もしかしたら最後のチャンスかも知れないのにー!!」

まあ、普通に考えて"願いを叶える魔法の石"なんてものがそう10個も20個もある訳が無いのだから、"普通に考えれば"これが最後のチャンスになっても可笑しくは無いだろう。
実際は、21個も有るのだが。

叫んださつきは、幾分かすっきりした顔で前を向いた。

「まあ、ここまで首突っ込んどいて後は帰ってゴロゴロしてるってのも後味悪いし、とことん付き合ってあげようじゃない」

その顔には、名残惜しさはあっても迷いは無かった。

兎に角、自分一人では何も出来ないのだ。となれば、まずやることは一つ。
さつきは、手近なビルの屋上までいつもの方法で飛び上がり、そこから更に思いっきり跳躍して辺りを見渡した。

「…………………………いた!」

探しものを見つけたさつきは、人々の視線が集中しているであろう木々の上を避けてビルとビルの間を飛び移り、探していた人物――高町なのはのいるビルの屋上へと向かう。
だが、ここに近づいて行くと共に、何やら揉めているようなのが見て取れた。

(こんな時に何やってるのよ)

思いながらも、足は止めない。
そこにたどり着く直前、なのは達の会話がさつきの耳に届いた。

「…………ん!」

「なのは、元となったジュエルシードを地道に探していこう。今はそれしか……」

「っ! ユーノくん!!」

そう言うことか。さつきは確信し、

「基点が分かればいいんだね!?」

言葉と共に、降り立った。




聞き覚えのある声に、なのはとユーノは後ろを振り返った。
そこには、

「貴女は……」

「さつき……ちゃん?」

昨日自分たちとジュエルシードを取り合った、弓塚さつきがいた。
その事実に、自然と警戒してしまう二人だったが。

「ああいや、今回のジュエルシードはあなたたちにあげる。
 わたしじゃこれはどうにも出来ないし、流石にこれをほっとく訳にはいかないし……ね」

その様子を見たさつきが、急いで弁明する。
自分の言った事に気まずそうに視線を逸らして頬を書くさつきに、なのはとユーノは首を傾げるが、取り敢えずの警戒は解く。思えば、向こうからわざわざ目の前に姿を現すメリットも無いのだ。

そして、先程の言葉……なのはは期待と共に、言葉を発した。

「もしかして、ジュエルシードの位置が分かるの!?」

「うん」

なのはのその言葉に、さつきは何ともなしに頷く。なのはは直ぐに食いついた。

「教えて! 何処にあるの!?」

必死ななのはに、若干後ずさりながら、さつきは違和感の中心――自分の向いている方角を指さす。
なのはは急いでそちらを見て、さつきの指の延長線上に自分の体を割り込ませ、その延長線沿いにレイジングハートを構えた。

「方向さえ分かれば……後は!」

「ここからじゃ無理だよ! 近くに行かなきゃ! それに……」

先走ろうとするなのはを、ユーノが諫める。更に言うとユーノは、さつきの言葉を信用出来ていなかった。

「出来るよ! 大丈夫!」

だが、そんなユーノなど露知らず、なのはは先を進めようとする。

「そうだよね……レイジングハート……」

だが、何とも無しに話しかけたレイジングハートに、

《It is impossible.(無理です。)》

即答で否定されてしまった。

「………………………………………」

まさか否定されるとは思っていなかったなのはは、そこで固まってしまう。

「……え? 何で!? ここからでも届かせられるでしょ!!?」

《The reason is the same some time ago.(先程と同じ理由です。)
 Please mind a little one's body.(もう少しご自分の体を省みて下さい。)》

「そうだよなのは。それに、どうしてこの世界の住人である筈のさつきさんが、ジュエルシードの位置なんて特定できたのかも分からないし」

レイジングハートに続き、ユーノにまで押さえられてしまった。なのはは、悔しそうに俯く。
そこでユーノは、さつきに視線を向けた。その視線の意味を理解したさつきは、何とも無しに答える。

「わたしって、こういうのに少しばかり敏感なの。だから分かっちゃうんだよね」

だが、それでもユーノは納得しない。

「『こういうこと』? 魔法技術の無いこの世界で「ユーノくん?」っ!」

反論しようとしたユーノの言葉を、さつきが遮った。

「先入観って、いけないと思うよ」

「!? ? !!?」

さつきの言葉に混乱するユーノに対し、さつきは心の中で(嫌な性格になったなー)と苦笑していた。
そして、黙ってしまったユーノに変わり、なのはに話しかける。

「ねえなのはちゃん、近づければ何とかなるの?」

「うん……」

それになのはは元気の無い声で返すが、

「じゃあ、私が連れてってあげる。」

「え!?」

さつきのその声に、なのはは再び顔を上げた。と、もう既にさつきは目の前に居て、それに驚くと同時に体を浮遊感が襲って……

「え? え!?」

次の瞬間、なのははさつきに抱えられて空中へダイブしていた。なのはがされているのは、所謂"お姫様抱っこ"というやつだ。
いきなり飛び降りられたなのは&ユーノはというと……

「ほ、ほえぇぇぇ~~!」「きゅ~~!」

お互いに叫んでいた。少しの浮遊感の後、さつきが降り立ったのは木の枝の一つ。そこからその上を猛スピードで駆けて行く。
わざわざそんなことをするのは、人の目があるからだろう。少なくともこれなら、下からは見えない。

だが、浮遊感が消えたことでなのは&ユーノが落ち着いたかと言えば……

「は、早い早い早すぎるーー!」「きゅ~~!」

なのははさつきに、ユーノはなのはに必死でしがみついていた。気分はさながらジェットコースターだ。
と、そこでさつきは思いついた。

「ね、ジュエルシードって全部でいくつあるの?」

「へ?」

突然の質問になのはは戸惑った声を上げるが、

「答えないんなら、この話は無かった事に……」

「21個! 21個です!!」

さつきの言葉に、必死になって答えてきた。
その、想像以上に大きな数字に驚くと同時に、なのはの様子にさつきは何とも申し訳無い気分にされるが、質問は続ける。

「それで、なのはちゃんたちは今まで何個集めたの?」

「5個!」

「ありがと。ほら、着いたよ」

「っ!」

なのははお姫様抱っこの状態から木の枝に降ろされると、ふらふらしながらもなんとか立っていた。というか、余計体力を使った気がするのは気のせいだろうか?
ユーノなんか思いっきり目を回している。先程の会話に彼が割り込んでこなかった訳である。

「これって……」

「この子達は……」

なのはとさつきが前を見ると、そこには繭の様な物に包まれた少年と少女。二人は抱き合って、気を失っている様だ。
なのははそれを見て、自分の想像が確信に変わり、
さつきはそれを見て、この結界の意味を理解した。

理解した……のだが。

(……違う)

さつきの中に、何かがわき起こって来た。

(こんなのは、違う)

それは、純然たる、憤り。

(この子達は、こんなのを望んでたんじゃ無い)

ずっと、自分のが実らなかったためであろうか。

(こんな、この子達の気持ちを弄ぶような……っ!)

さつきは今朝の事を思い出す。あの時のこの子達は、本当に幸せそうだった。そんな幸せに、こんな方法で茶々を入れたジュエルシードに対して、八つ当たりだと分かっていてもなお怒りがわき起こる。

「消して……」

「え?」

唐突にさつきの口からこぼれた言葉に、なのはが疑問の声を上げる。

「早く、消して。こんなの……」

「………」

決して大きな声じゃ無い。だがなのはは、その言葉に言い表せない感情(想い)を感じた。
そして、さつきの瞳を見たなのはは、そこに何を感じ取ったのか、無言でレイジングハートを構える。

《sealling mode》

レイジングハートが封印形態を取り、

「リリカル マジカル!」

なのはが呪文を唱える。

「ジュエルシード、シリアル10、封印!」

そして、辺りは光に包まれた。


木々が消えた直後の道の隅。そこに二人の人影があった。いや、性格には二人と一匹の。

「ありがとなのはちゃん、あれを何とかしてくれて。じゃあね」

「待って!」

早々に姿を眩まそうとするさつきを、なのはが呼び止めた。

「どうして、あなたはジュエルシードを欲しがるの? 今日の見たでしょ? これはこれだけ危険なんだよ。
 さつきちゃんの願いなら、もしかしたら、他の方法でも……」

「それは無理だよ」

背を向けたまま言うさつきに、なのはは尚も食い下がる。

「だからどうして!? 理由を教えてよ……」

「秘密って言ったでしょ。それにねなのはちゃん、今回はたまたま協力したけど、今度ジュエルシード見つけたらその時は必ずもらいに行くから。
 わたしはジュエルシードが欲しい。あなたもジュエルシードを集めてる。なら、わたし達は所謂敵同士ってやつ。話し合いの必要はないし、それだけでいいよ」

固い声で、まるで拒絶するかの様にそれだけ言うと、さつきはなのはの止める声も聞かずに姿を眩ました。




「色んな人に、迷惑かけちゃったね……」

「え?」

家への帰り道。なのはは凸凹になった道路を歩きながら、ポツリと呟いた。
あの後程なく目を覚ましたユーノは、なのはの呟きに反論する。

「何言ってんだ。なのはは、ちゃんとやってくれてるよ!」

暗い顔をしているなのはに、ユーノはなのはの肩から声を掛ける。直接声を届けられるため、ユーノは周りに人がいないことに感謝した。

「私、気付いてたんだ、あの子が持ってるの。でも、気のせいだって思っちゃった」

なのはの独白。なのはの足は止まり、その場に座り込んでしまう。

「なのは。……お願い、悲しい顔しないで。元々は僕が原因で……。
 なのははそれを手伝ってくれてるだけなんだから。」

こんな事しか言えない自分に、ユーノは今日何度目か知れない憤りを感じた。本当に、自分が無力で、無力で……

「なのは! なのはは、ちゃんとやってくれてる!」

今だって、こんな事しか言えない。

「今日の事だって、さつきちゃんが居なかったら、どうなっていたか……」

「………」

なのはの言葉に、何も返せなくなるユーノ。暫く、無言の時間が続いた。




―――――自分のせいで、誰かに迷惑がかかるのは、とても辛い。

     なのははそう思い、ユーノの手伝いを始めた。

     しかし、これからは。

     自分なりの精一杯じゃ無く、本物の全力で、

     ユーノの手伝いでは無く、自分の意志で、

     ジュエルシード集めをしよう。―――――――――――――――


なのははその日から、そう胸に誓った。

                         (もう絶対、こんな事にならない様に……)







―――――夕暮れの道、そこをお互いに肩を貸し合いながら歩いてゆく少年と少女を、とある少女が、後ろから静かに見守っていた。










あとがき

ようやっと更新出来ました! 第6話! なのはの見せ場とクライマックスを全部掻っ攫っていったさっちんに乾杯!(爆
いやー、アニメでジュエルシードが封印されたと同時に木々が消えるっての、
すっごい違和感あったので自分なりに納得出来る理由を付けてみたら、何か妙にマッチした流れに出来そうだったもんで採用したんですが……いやぁ、思いついて良かった。
はあ、はやくなのはに『さっちん』って呼ばせたい……

そしてやっと文章量増えた! 亀なのは相変わらずだけど!!(銃声
何といつもの2倍! 今までで一番多かった第0話_cよりも長いです!! やっぱり一話分丸々書くと長いですねー。

さて、一昨日から春休みに入ったうちの学校ですが、実は今まで僕寮生活で(土日しかパソコン触れなかったのそれが原因)、遂に寮から追い出されてしまったので、荷物の整理とかで忙しいんですよ。つー訳で、長々と待たせた末に申し訳ありませんが、次の話、3~4日で更新とかは無理っぽいです。
それに何かこの話よりも長くなりそうだし……だってフェイト出るし。もしかしたら1週間越すかも。いや、もしかしたら2話に分けるかも知れません。そーすれば大丈夫……いや、何だかんだ言って結構時間無かったりするからなぁ……

あ、そー言えば、the movie 1st、見に行きましたよー^^
いやあ、感動した!! アニメでは見れなかったプレシアの過去が有ったのが何よりも良い!! 泣いた!! バトルシーンも熱い!!! SLB格好いいよSLB

そしてなのは! 一つ突っ込みたい!!

……あの、非殺傷設定使ってますよね? 何か砲撃で手すりとかビルそのものとか吹っ飛んでるんですが……;;;


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