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No.12479の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのは Verbleib der Gefühle [えせる](2010/09/26 00:40)
[1] プロローグ[えせる](2009/10/06 01:55)
[2] 第一話[えせる](2009/10/08 03:29)
[3] 第二話[えせる](2009/12/16 22:43)
[4] 第三話[えせる](2009/10/23 17:38)
[5] 第四話[えせる](2009/11/03 01:29)
[6] 第五話?[えせる](2009/11/04 22:21)
[7] 第六話[えせる](2009/11/20 00:51)
[8] 第七話[えせる](2009/12/09 20:59)
[9] 第八話[えせる](2009/12/16 22:43)
[10] 第九話 [えせる](2010/07/24 23:48)
[11] 第十話 [えせる](2010/07/24 23:48)
[12] 第十一話[えせる](2010/02/02 03:52)
[13] 第十二話[えせる](2010/02/12 03:24)
[14] 第十三話[えせる](2010/02/25 03:24)
[15] 第十四話[えせる](2010/03/12 03:11)
[16] 第十五話[えせる](2010/03/17 22:13)
[17] 第十六話[えせる](2010/04/24 23:29)
[20] 第十七話[えせる](2010/04/24 00:06)
[22] 第十八話[えせる](2010/05/06 23:37)
[24] 第十九話[えせる](2010/06/10 00:06)
[25] 第二十話[えせる](2010/06/22 00:13)
[26] 第二十一話 『Presepio』 上[えせる](2010/07/26 12:21)
[27] 第二十一話 『Presepio』 下[えせる](2010/07/24 23:48)
[28] 第二十二話 『羽ばたく翼』[えせる](2010/08/06 00:09)
[29] 第二十三話 『想い、つらぬいて』 上[えせる](2010/08/26 02:16)
[30] 第二十三話 『想い、つらぬいて』 下[えせる](2010/08/26 01:47)
[31] 第二十四話 『終わりの始まり』 上[えせる](2010/09/24 23:45)
[33] 第二十四話 『終わりの始まり』 下[えせる](2010/09/26 00:36)
[34] 第二十五話 『Ragnarøk 』 1[えせる](2010/11/18 02:23)
[35] 第二十五話 『Ragnarøk 』 2[えせる](2010/11/18 02:23)
[36] 第二十五話 『Ragnarøk 』 3[えせる](2010/12/11 02:03)
[37] 第二十五話 『Ragnarøk 』 4[えせる](2010/12/21 23:35)
[38] 第二十五話 『Ragnarøk 』 5[えせる](2011/02/23 19:13)
[39] 第二十五話 『Ragnarøk 』 6[えせる](2011/03/16 19:41)
[40] 第二十五話 『Ragnarøk 』 7[えせる](2011/03/26 00:15)
[41] 第二十五話 『Ragnarøk 』 8[えせる](2011/06/27 19:15)
[42] 第二十五話 『Ragnarøk 』 9[えせる](2011/06/27 19:11)
[43] 第二十五話 『Ragnarøk 』 10[えせる](2011/07/16 01:35)
[44] 第二十五話 『Ragnarøk 』 11[えせる](2011/07/23 00:32)
[46] 第二十六話 「長い長い一日」 [えせる](2012/06/13 02:36)
[47] 第二十七話 『Beginn der Luftschlacht』[えせる](2012/06/13 02:41)
[48] 第二十八話 『Märchen――御伽噺――』[えせる](2012/06/21 19:59)
[49] 生存報告代わりの第二十九話 下げ更新中[えせる](2015/01/23 00:01)
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[12479] 第二十話
Name: えせる◆aa27d688 ID:66c509db 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/22 00:13
曰く、

『誰もいなくなった深夜、日付が変わるときのみ現れる』
『見たものは二十歳までに見たことを忘れないと呪われて死ぬ』
『幽霊は緑色の光を纏っていた』
『魔導師がいたわけじゃないのに魔法の力を感じた』
『見たものは皆命を吸われて帰ってきていない』

など、集められた噂は十をこえる。

「……見たものが皆死んでいるなら、噂はいったいどこから出ているって言うんだ」

馬鹿馬鹿しくなって、読み終わった報告書を投げ捨てる。
短時間でまとめられた割にはかなりの厚みを持っている報告書の束は乾いた音を立てて、机の上に散乱する。

「集めるのに苦労したのに……クロノ君、乱暴だよ」

短時間で噂という霞のようなものをかき集めてきた幼馴染がすねるように言う。

「……しかし、なんか変な気分」

下から向けられる視線。
それはどこか困っているかのように感じられた。

「……何が?」
「うーん、この状態」
「だから、何が、だ?」
「いや、だから、この状態」

何がいいたいのかよく理解できなかったので、あたりを見回して状況を確認してみる。
ここは本局の一室、管制司令であるエイミィに与えられた個室だ。
エイミィは、いまや僕より階級が上。
だから、呼びつけるわけにもいかないので、僕のほうが足を運んでいる。

――うん、何もおかしいことはないな。
続いて部屋の状況を確認する。
おいてあるのは執務を行うために机と、ソファーなどの簡単な応接セット。
部屋の大きさは、それがぎりぎり収まるぐらいでこじんまりしているといってもいいかもしれない。
机の上に目をやると、整理されていないのか、機能的なのかよく分からない状態になっており、エイミィの性格がよくうかがえる。
一通り視線をさまよわせると、座ったままこちらを見上げているエイミィと眼が合った。

――ああ、なるほど。
そこでやっと、幼馴染が何を困っているのか、何に違和感を感じているのか察しがついた。
エイミィは執務机の椅子に座っている、この部屋にはほかに座る場所はソファーしかない。
だから、僕は、机の前に立って噂をまとめた報告書を読んでいた。
片方は座り、片方は立ったまま報告書を読む。
当たり前のこの状況、自分がすんなりと受け入れられたことを、エイミィはまだ受け入れることが出来ないのだろう。

――本当に、そういうところがあるのは昔から知っていたけれど……はあ、もっとしゃんとしろ、君は優秀なんだぞ? もっともっと上に上がっていく資質をもっているんだから。
昔の関係から未だに脱却できずにいる幼馴染に対して心の中でため息をつく。

「……本当に何がだ、いえ、何がです?」

状況は理解した。
だから、慣れて欲しい気持ち半分、からかいの気持ち半分で言葉遣いまで正しい形に直す。

「……クロノ君、分かっていてやってるでしょう?」
「いえ、何のことでしょうか?」

向けられる視線に込められた感情は困惑から、呆れに変わる。
いわゆる、ジト目だ。
しばらく、直立不動のまま、その視線を受け続ける。

「はあ、もういいよ……とりあえずあっちで話そうか」

エイミィはソファーを指差しながら立ち上がる。
その声は随分と疲れているように感じられた。

――ちょっとやりすぎたかな?
エイミィが感じている違和感は少し考えれば僕にも分かる。
自分だって、エイミィには無条件で助けてもらえる、補佐してもらえると思い込んでいる節があったりするのだから。
今回の件だってそうだ。
これは僕の思いつきで行動しているだけであって、局からの命令でもなんでもない。
それなのに、この件に関わりがあったとはいえ、待機命令を受けているエイミィや他の局員に協力してもらっているのは、その思い込みがあったゆえだ。

――僕ももう少しちゃんと意識を切り替えないといけないな……
ソファーに移動するエイミィの背中を見ながらそんなことを考えていると、幼馴染は突然振り返り、一際不機嫌そうな顔を向けてきた。

「……クロノ君、今変なことを考えなかった?」
「……何のことだ?」

とっさのことだったので、言葉遣いがいつも通りに戻ってしまう。

「まあ、クロノ君だからしょうがないし、局に属している以上避け得ないことだけど、今後、二人っきり、もしくは親しい人だけの時にやったら本気で怒るから」
「……」

その言葉に込められたあまりの迫力に思わず頷いてしまう。

「どう立場が変わろうと、クロノ君はクロノ君、私は私なんだから」
「……ああ、わかった」
「それに、他のみんなのこともそう。クロノ君の頼みだったら立場を超えて聞いてくれるよ」
「……」
「クロノ君だってもう、本当は分かってるよね? 叔父様にだって言われてるでしょ?」
「……旗印か……ふう」

上を見上げて嘆息する。
いまさらいっても仕方がないことだけれど、とんでもないものに祭り上げられてしまったな、と。
正直な話、僕よりそれにふさわしい人はいくらでもいると思う。
ゲンヤさんだってそうだし、レティ提督だってそうだ。
僕はただ、自分が正しいと思うことをしたかっただけ、幼い頃から夢見ていた正義、その象徴である管理局を正したかっただけ。
そのために行動していただけだというのに。
いうなれば、自分勝手な、身勝手な行動をしていただけだ。
だから、旗印なんていう役目は僕にふさわしくない、そう思う。

「違うよ、クロノ君」

天井を見上げたまま、動きを止めていた僕に、エイミィが否定の言葉を投げかけてくる。
声につられて彼女と目を合わせてみれば、そこには僕の考えていることなんて全部お見通しだと言わんばかりの表情を浮かんでいた。

「クロノ君、違うよ。順序が逆。皆がクロノ君の頼みを聞いてくれるのは旗印だからとか、そういうことはあんまり関係ないよ。皆がクロノ君の話を聞いてくれるのは、クロノ君がやってきたことを知っているから。クロノ君が目指していることの正しさを、そのために流してきた血と汗の量を分かっているから、だよ。皆、それを分かっているから、叔父様はクロノ君を旗印に選んだんだし、皆それに対して反対しなかったんだよ」
「……」
「だから、クロノ君は、クロノ君が正しいと信じる道を進んでいけばいいんだ。そうすれば、自然と皆着いてくる。うん、私が保証するよ」
「……僕が選んだ道が間違っていたらどうするんだ? 人間誰だって間違えることはあるだろう」
「うーん、まあ、そうだね。クロノ君時々うじうじと女々しく悩むときもあるし……」
「君は、何を言っているんだ……」
「まあ、そうだね。もしクロノ君が間違えるようなことがあったら……」
「あったら?」
「皆でひっぱたいてあげるよ。そっちじゃないってね!」

自信満々に言い切るエイミィ。
それを見て思わず言葉を忘れてしまう。

「……」
「何? クロノ君」
「馬鹿だな、君は……」
「何よ、せっかく、私が保証してあげているのに」
「いや、そう怒らないでくれ、ほめ言葉なんだから」

むくれる幼馴染を宥めるために感謝の意を込めて笑みを向ける。
そして改めて決意する。
せめて、この愛すべき幼馴染の信頼だけは裏切らない、そういう選択をしていこうと。

「エイミィ、君には感謝しているよ」
「えっ!?」

エイミィは僕の言葉に驚いたような表情を浮かべる。

「……」
「……」

そして、妙な沈黙が舞い降りた。
しばらく、そうして黙ったままお互いを見詰め合っていたまま固まる。

「何をやっているんだ、僕らは。話を元に戻そう」
「うん、そうだね」

随分長いこと固まっていたけれど、やっとのことで、この部屋に来た目的を思いだし執務机の上に放り出されていた報告書を手に取り、ソファーに腰掛ける。

「これ、関係あるとおもうか?」
「うーん、ないとは思うんだけど、でも時期が合いすぎているし、都合がよすぎるんだよね」
「そうだな……」

無限書庫は場所が場所だけにそういった噂の宝庫でもあった。
この時代になっても、技術がいくら進んでもそういった噂を根絶することが出来ない。
だから、初めて、耳にしたときは、そういったものの類かと思っていた。
自分達の仲間ならそういった噂程度で怖気づいたりはしないだろうとも思っていた。
だから、実際にそれを目にしたと局員から報告を受けたときは耳を疑ったものだ。
そして何より、

「はあ、うちの子たちがそれを目にした後、すぐに、必要としている資料が見つかるって言うのも、なんだかね……」
「ああ、まったくもって不可解だ」

エイミィが口にしたように、幽霊騒ぎがもたらしたものは、僕たちによって都合が良すぎた。
幽霊の影――影、という云い方はおかしいか――を目にすると探していた資料が見付かるというジンクスが、噂と共に流れているのだ。
……ジンクスに乗じて、何者かが僕たちに誤った資料を与えているのではないか。
つい、そんな風に疑ってしまっても仕方がないだろう。
だから、エイミィに頼んで噂を集めてもらったのだけれど、怪しいと断じる証拠は何も見当たらない。
幽霊騒ぎ自体が充分怪しすぎるのだが、誰かが故意に流した噂ではないようだ。
無限書庫からの自然発生。
そう見るしかなかった。

「まさか、本当に幽霊だったりね」
「そんな馬鹿なことがあるか」

エイミィは本気で幽霊の噂を信じてしまいそうになっているようだ。
両腕でおのれを抱くようにして、僕に縋るような視線を向けてくる。
それに対して一喝を返して、再び手に持っている報告書に視線を落とす。

『幽霊は緑色の光を纏っていた』

先ほど、目にしてからどうしても気になる一文。

「……まさかな」

あと時病室の前で自分が投げかけた言葉。
植物状態で指一本も動かせない彼に届くはずなどない。
それに届いていたとしても、一体何が出来るというのだ。
だから切り捨てる。

「そんなわけがあるはずないか……エイミィ、この件はとりあえず置いておこう。どちらにしてもあまり時間がないんだ。だから、もうひとつの件はどうなっている?」
「ええと、うん、ごめんね、そっちはやっぱり連絡が取れない。どの世界にいるかまではわかったんだけど、そこはまだ設備が整っていない未開の世界だから通信が届かなくて、一応近くの中継ポートにいる知り合いに頼んではあるけれど、どうなるかはまだ」
「そうか……」
「うん、だから、これが『正しいもの』か、どうか調べるのにまだ時間かかっちゃうと思うけど、どうしよう?」

そう言って、エイミィは今までの探索で見つけることが出来たデータをまとめたものをウィンドウに表示する。
幽霊騒ぎのおかげで、見つけることが出来たいくつかの資料。
それにはすべてスクライアの署名がされていた。
遺跡発掘を生業としている部族、スクライア。
その歴史は管理局の設立よりずっと古い。
だから、ロストロギア関連の資料にその名前が出てくることはなんら不思議ではない。
だが、見つかる資料全てにというのはおかしすぎる。
何者かの作為を感じずにいられない。
だから、確認のためにスクライアの長老と連絡を取りたかったのだが。

「仕方がない、ここに書かれている内容だけでも、先に検討をしておこう」
「うん、そうだね……でも、すごいね、ロストロギアって、こんなことまで出来たんだ」
「まあ、それが出来るからこそ、ロストロギアと呼ばわれるわけだからね」
「でも、すごいね、これに書いてあることが本当だとすると、クロノ君の予想がどんぴしゃだね」
「書いてあることが本当だったらね……」

エイミィはウィンドウに向けていた視線をこちらに向け、浮かれたように言う。
それは、弟分である僕の予想が正しかったことがうれしかったのか、それとももうあきらめかけていた高町を救う道が開けたことを喜んでいるのかはっきりしなかったが、どちらにせよ、そう結論付けるのはまだ早い。だから、落ち着くように言い聞かせる。
そして僕も、一緒に資料を吟味するためにエイミィの前に浮かんでいるウィンドウに視線を向ける。
ロストロギア『Door Reise』。
ミッドの言葉に直すと、『旅の扉』
その名前と、あの時聞こえたアナウンスのようなものの内容から、きっと古代の人々の移動手段か何かだろうと思っていたが、実際は予想以上のものであった。

「……まさか効果範囲が世界丸ごとひとつだとはね」

何度資料を読んでもその馬鹿げた能力にため息しか出てこない。
このロストロギアは、設置された世界にあるあらゆるものを、同じロストロギアが設置された世界に転移させることが出来る。
いわば大規模な転送ポートだともいえるが、それが設置された世界ならば、どこにいても起動でき、さらに設置された世界のどこにでも転移できるというのはいくらなんでも、馬鹿げていると思う。
起動させるのに、専用の起動キーみたいなものを所持してないといけなかったようだが、それは『市民』であれば比較的簡単にもらうことが出来たらしい。
そして、その開放的な機能とは対照的に、主、副、予備の三系統からなる管制システムは厳重な作りになっていたようだ。
アイケイシアを飲み込んだものは暴走して壊れかかっていたために、これが満足に働かなかったようだが、あの遺跡にあったものは違う。
アナウンスは何度も流れ、その役目を全うしようとしていたことがうかがわれる。
そして、最後に耳にしたアナウンス。

「最終的にどうしても暴走が止められなかった場合は、効果範囲内にいるすべての知性生命体を、同じロストロギアがある場所のいずれかに緊急転移させるか……」
「うん、それが本当だったとすると、なのはちゃんたちは無事って言うことだよね」
「ああ……しかし、どこに、ということを特定するのは難しいな」

喜びの声を上げたエイミィをチラッと見たあと、視線を再びウィンドウに戻す。
このロストロギアが設置された場所、それは、この資料に記載されているだけでも数十にも及ぶ。
過去の戦乱や、災害で滅びた世界もたくさんあるが、それでもまだ数は多いし、それに管理局の活動範囲を越えた、遠くにある世界も多く記載されているのだ。
そういった世界に飛ばされてでもいたら、正直手の打ちようがない。

「……手詰まりだな。今の段階ではこれ以上調べようがない」
「うん、でもあきらめるのは早いよ……まだ皆無限書庫の探索は続けてくれているし、それに……あ、そう、あの子の言葉!」
「『あっち』か……」

時間はあまり残されていない。
だからこそ、エイミィは今ある情報で何とか手がかりでもつかみたいのだろう、必死で、頭をひねらせている。
それによって出た言葉が、それだった。

『あっち』

状況が気になるのか、今も、クイントさんに連れられてきているエリオが時々まるで夢見るようにつむぐ言葉。
あんな強い光を見紛うはずがないとも言っていた。
この不可解な状況で、色々と不可解な謎を抱えているエリオの言葉は、きっと、エイミィの心に深く刻み込まれていたのだろう。
それに関しては僕も同じだった。
けれど、何の確証もないその言葉だけでは動くわけにもいかないし、それに、

「『あっち』……か」

何度も何度も、指で指し示されたので、覚えてしまった方向を眺める。

「エイミィ、こちらの方向にある世界は……」
「うん、そうなんだよね……」

発掘された資料には、そちらの方向にロストロギアが設置された世界がいくつかあることが記されていた。
しかし、そのどれもが過去数百年の間に戦乱もしくは次元災害で虚数空間に沈んでしまっていた。
だから、『あっち』には、何もない、少なくとも高町たちが飛ばされた可能性はないはず。

「ああ、だから、もう一度探索からやし直そ……」
「あ、違う!!!」

もう、ここで話し合っても進展はない、そう結論付けて、探索に戻ることを提案しようとしたときに、幼馴染が鼓膜が破れると錯覚するほどの大声を上げた。

「……っつ、うるさいぞ、エイミィなんだ、突然」
「違う、違うよ、クロノ君、あった、突然移ってきたんだよ」
「……何を言っているんだ、君は」
「クロノ君、少し前、聞いたことがない? ほら、大騒ぎになったよね。突然世界が移動してきたって」
「ああ、そういえば、そうだったな、結局原因が不明だったな……まさか?」
「うん、そのまさか、この資料にも記載されていて、『あっち』でもあるよ!」

一年ほど前、僕が入院していて身動きが取れなかったとき、大々的にニュースになっていた。
何もなかったはずの次元空間に突如として現れた世界。
急いで探索部隊が組織されその世界に送り込まれたものの、疑問は膨らむばかりだった。
そこは予想通り消えた観測指定世界ではあったものの、何故世界が移動したのか、という疑問に対する答えは終ぞ得ることはできなかった。
原因不明、そう結論付けることしか出来なかったその出来事は、いつの間にか人々の記憶から薄れ、今の今まで僕もすっかりと忘れ去っていた。

「……出来すぎているな」
「うん、でも、この際、別に何者の思惑が絡んでいようといいよ。なのはちゃんは生きている。私達は助けることが出来る。だったら何でもいいよ!」
「……ああ、そうだな。でも、どうする?」

命を助けることが出来るのなら、何でもいい。
ある意味、それは間違っていない、そのために自分達は存在しているといってもいいのだから。
それに、誰の思惑が絡んでいようと、この際気にしなくてもいいだろう。
管理世界のどんな力をもってしても、世界そのものを転移させることなんて出来はしない。
あのスカリエッティでも無理だろう。
人の力では無理なこと、だから、出来すぎている、その考えは思考の外に捨てる。
その代わり、湧き上がってきたのはまた別の問題。
どうやって、その世界にいくか、である。
突然転移してきた世界、そしていつまた転移するか分からない世界。
だから、今その世界には一部を除いて渡航が禁止されている。
はじめは、高町が飛ばされた可能性がある世界が判明したら、まだ何隻か残っている、自分達の顔が利く艦に様子を見てもらいに言ってもらおうと思っていた。
しかし、こうも明確に禁止命令が出ている場所に行ってもらうことを頼むことなんて出来ない。
だから、また別の方法を探さないといけなかった。

「エイミィ、その世界に渡ることを許可されている一部とは?」
「ええとね、当然だけど、管理局の観測チーム、後は一部民間の……うんと、なんだろ」

僕の質問に答えるため、エイミィがそのことに関するデータを検索しているときに、呼び出し音が鳴り響く。

「え、はい、リミエッタです。ええ、私に外部から通信ですか? ええ、わかりました、相手はなんて名乗ってます? え! はい! すぐに出ます!」
「……どうした? エイミィ、誰からだ?」

オペレーターからの連絡に応答していたエイミィが突然、大きな声を上げる。
疑問に思い、何事かと尋ねた僕も、答えを聞いて、一瞬言葉を失った。

「……本当に、出来すぎているな」

その答え、通信を送ってきた相手は、スクライアと名乗っていたのだから。


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