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No.12479の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのは Verbleib der Gefühle [えせる](2010/09/26 00:40)
[1] プロローグ[えせる](2009/10/06 01:55)
[2] 第一話[えせる](2009/10/08 03:29)
[3] 第二話[えせる](2009/12/16 22:43)
[4] 第三話[えせる](2009/10/23 17:38)
[5] 第四話[えせる](2009/11/03 01:29)
[6] 第五話?[えせる](2009/11/04 22:21)
[7] 第六話[えせる](2009/11/20 00:51)
[8] 第七話[えせる](2009/12/09 20:59)
[9] 第八話[えせる](2009/12/16 22:43)
[10] 第九話 [えせる](2010/07/24 23:48)
[11] 第十話 [えせる](2010/07/24 23:48)
[12] 第十一話[えせる](2010/02/02 03:52)
[13] 第十二話[えせる](2010/02/12 03:24)
[14] 第十三話[えせる](2010/02/25 03:24)
[15] 第十四話[えせる](2010/03/12 03:11)
[16] 第十五話[えせる](2010/03/17 22:13)
[17] 第十六話[えせる](2010/04/24 23:29)
[20] 第十七話[えせる](2010/04/24 00:06)
[22] 第十八話[えせる](2010/05/06 23:37)
[24] 第十九話[えせる](2010/06/10 00:06)
[25] 第二十話[えせる](2010/06/22 00:13)
[26] 第二十一話 『Presepio』 上[えせる](2010/07/26 12:21)
[27] 第二十一話 『Presepio』 下[えせる](2010/07/24 23:48)
[28] 第二十二話 『羽ばたく翼』[えせる](2010/08/06 00:09)
[29] 第二十三話 『想い、つらぬいて』 上[えせる](2010/08/26 02:16)
[30] 第二十三話 『想い、つらぬいて』 下[えせる](2010/08/26 01:47)
[31] 第二十四話 『終わりの始まり』 上[えせる](2010/09/24 23:45)
[33] 第二十四話 『終わりの始まり』 下[えせる](2010/09/26 00:36)
[34] 第二十五話 『Ragnarøk 』 1[えせる](2010/11/18 02:23)
[35] 第二十五話 『Ragnarøk 』 2[えせる](2010/11/18 02:23)
[36] 第二十五話 『Ragnarøk 』 3[えせる](2010/12/11 02:03)
[37] 第二十五話 『Ragnarøk 』 4[えせる](2010/12/21 23:35)
[38] 第二十五話 『Ragnarøk 』 5[えせる](2011/02/23 19:13)
[39] 第二十五話 『Ragnarøk 』 6[えせる](2011/03/16 19:41)
[40] 第二十五話 『Ragnarøk 』 7[えせる](2011/03/26 00:15)
[41] 第二十五話 『Ragnarøk 』 8[えせる](2011/06/27 19:15)
[42] 第二十五話 『Ragnarøk 』 9[えせる](2011/06/27 19:11)
[43] 第二十五話 『Ragnarøk 』 10[えせる](2011/07/16 01:35)
[44] 第二十五話 『Ragnarøk 』 11[えせる](2011/07/23 00:32)
[46] 第二十六話 「長い長い一日」 [えせる](2012/06/13 02:36)
[47] 第二十七話 『Beginn der Luftschlacht』[えせる](2012/06/13 02:41)
[48] 第二十八話 『Märchen――御伽噺――』[えせる](2012/06/21 19:59)
[49] 生存報告代わりの第二十九話 下げ更新中[えせる](2015/01/23 00:01)
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[12479] 第十五話
Name: えせる◆aa27d688 ID:66c509db 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/17 22:13
――エイミィ・リミエッタ突撃します!
うつむき加減で独り歩いている女の子の背中を見つめながら、心の中でどこかの兵隊さんのように念じた。
もう何度も突撃しては散っているけれど、そんなことではくじけてられないんだから!

「な~の~は~ちゃん!」
「……あ、エイミィさん」

びっくりさせるつもりで、そっと近づいて大きな声で名前を呼ぶ。
でも、これくらいの悪戯では、なのはちゃんの心を揺さぶることは出来なかったみたい。
何事もなかったかのように、平然と対応されてしまった。
――むう、第一作戦失敗。続いて第二作戦に移ります。

「クッキー焼いてみたんだけど、良かったら一緒にどうかな? 味見係頼みたいんだけど」
「え、えと、今は執務中なので……」
「うんうん、分かってるよ、だけど、適度に甘いものを取ることは頭の回転を良くするんだよ! 少しだけだからね、付き合って!」
「エ、エイミィさん!」

固辞するなのはちゃんの肩を抱いて、強引に私室に連れ込んだ。
傍から見たら誘拐犯に見えたかもしれない。
なのはちゃんすごく可愛いし。

「はい、そこに座って待っていてね。今お茶を入れるから」
「……はい、ありがとうございます」

なのはちゃんを部屋の中央にあるソファーにエスコートしてから、ティーセットを取り出すために、設置してある棚のほうに向かう。
管制指令なんていう大層な名前の役職についているおかげか、与えられた私室はかなり広くて、給湯設備まで完備されているのでのんびり出来るのだ。
だからこうやって、傷ついて、殻に閉じこもっている少女とゆっくり話すのには最適な場所なのである。
お茶の仕度をしながら、ちらりと視線をなのはちゃんのほうに向けると、おとなしくソファーに座っているのが見えた。
――部屋に連れ込まれてしまったので、あきらめたのかな? うん、思う壺だ。
内心で、作戦の第一段階が成功したことを喜びながら、なのはちゃんの下に戻って、お茶と、クッキーを乗せたお皿を差し出す。
クッキーは我が仕事ながら、形が歪で整っていなく、お皿の上に並べられたその姿は、まるで画用紙に描かれた子供の落書きのようだった。
――むう、何で計算通り行かないんだろう?
あまりにも、言うことを聞いてくれないクッキーたちを見て、複雑な気持ちになってしまう。
――まあ、これも話のネタにはなるかな?
そう考えを切り替えて、気持ちを立て直す。

「はい、形は歪だけど、味は大丈夫だから……うん、きっと」
「え、えと……」
「うん、きっと平気、たぶん平気、ほら遠慮しないで、ね」

クッキーと私の顔を交互に見ているなのはちゃんに向かって、笑顔でお皿を差し出す。
なのはちゃんは、それでもなかなかクッキーに手を伸ばそうとしない。
防御が硬い。
――やっぱり駄目なのかな?
ぎこちなく微笑む姿を見て、弱音を吐きそうになる。
なのはちゃんをこうしてしまった不幸、それから身を守るために被ってしまった拒絶の殻。
それは、なのはちゃんから、なのはちゃんらしさを奪い去ってしまっていた。
だから、今はらしくない作ったような微笑みを貼り付けている。
それをじっと見つめていたら弱音がいつの間にか別の感情に入れ替わっていた。
似合わない、とても似合わない、全然似合わない、まったく似合わない。
なのはちゃんには、眩しいくらいに明るい太陽のような微笑みが似合うんだから。
――うん、くじけてなんかいられない、私はなのはちゃんのお姉さん代わりになるって決めたんだから!
気合が入った。
後は方法。
今まで、いろんなことを試したけれど、あの殻を破る方法は見つからない。
リンディさんやレティ提督なら、何かうまい手段が思いつくかもしれないけれど、まだ経験が浅い私には、そんなこと考え付かない。
――当たって砕けろだ。
だから、全身全霊でぶつかるしかないのだ。
出来る限り一緒にいてあげて、笑ってあげて、時には泣いてあげて。
独りじゃないんだよ、って教えてあげることしかできないんだから。
決意を新たにして、作戦を続行しようと、クッキーを一枚取って口の中に放り込む。

「ほうら、おいしい……って、あれ……むう、前言撤回。大丈夫じゃなかった……」
「え、えと平気ですか、エイミィさん」
「ちょっと平気じゃないかも……」
「わ、お茶飲みますか?」
「ううん、ダメージ受けたのは、舌よりも、心のほうだから、平気、うん、エイミィさんはこれくらいじゃ負けませんよーだ」

クッキーをかじって笑いかけようとしたのだけれど、予想外の味に顔をしかめてしまう。
なんとも情けない失態。
でも、そのおかげで、少しだけなのはちゃんの本来の姿を引っ張り出すことが出来た。
心配そうに覗き込んできた瞳は、本当のなのはちゃんの残滓が浮かんでいるように見えた。
――うん、いける、きっといける!

「……うん、このまま負けたままじゃ、私の気が治まらないの! なのはちゃんもうちょっと付き合って! この前新しいお菓子の作り方覚えたんだ。今から挑戦するから!」

それにどんなに強固な城壁も何度も突撃すれば崩れるはず。
こうなったら、根気比べだ。
これからしばらくは同じ船に乗り続けるのだから、時間はいくらでもある。
そう、心に決めて、まず手始めに、お菓子という名の特攻兵を生み出すために、エプロンに頭を通した。
が、しかし、無粋な邪魔が入る。

『……高町執務官、リミエッタ管制指令、至急ブリーフィングルームへ……』

じっと、二人でスピーカーを見つめる。

「うん、もう、これからってところで!」

思わず、スピーカーに怒鳴りつけてしまった。











「うん、出来すぎてる。こんな教科書みたいに整った状況なんてはじめてみたよ。普通ありえないよね? やっぱり」
「え、エイミィさん、何のことですか?」

ウィンドウに開かれているデータを見つめていたら、疑問をいつの間にかつぶやいてしまっていた。
隣で懸命にパネルを操作していたシャーリーが反応して顔を上げる。
操作に集中していたせいか、完璧には聞き取れなかったらしい。
きょとんとした様子で私を見つめている。
大きな瞳が真ん丸く見開かれていて、小首をかしげているその姿は、どこか小動物チックで思わず抱きしめたくなるくらい可愛かった。

「うん、なんでもないの気にしないで。それより手が止まってるよ。出発前にまとめちゃわないと。時間がないよ」
「え、あ、はい、すいません」

心の奥底から沸いてくる衝動を我慢して、シャーリーに作業に戻るように促す。
シャーリーは慌てたようにウィンドウに視線を戻すと、まだ入力が終わってないデータの量に気がついて慌てて作業に戻っていった。
――本当に素直だなぁ。まだ与えられた仕事に疑問なんて持ったことないんだろうなぁ。
必死でパネルを操作している姿を微笑ましく思いながら考える。
――まあ、こういった面倒なことを考えるのは大人の仕事だよね。下手に不安がらせるのもかわいそうだし。ああ、少しだけリンディさんやレティ提督の苦労が分かってきたかも。
ため息をつきながら、先ほどブリーフィングで渡された指令に目を落とす。
ウィンドウへ目一杯に開かれたそれには、これでもかといわんばかりに詳細なデータが記されていた。
目標、第十七管理外世界宙域の次元海に浮かぶ古代ベルカ時代の中継ステーション。激しい次元流に覆われて入港困難になって遺棄されたと推定される。そこで行われている第一級禁止指定研究プロジェクトFの摘発。研究に関わっている人員の拘束とその証拠の確保。被験体の保護を最優先すること。
予想される妨害戦力は配備が確認されているのはAランク相当の傀儡兵が20、Bランク相当が50.武装魔導師の存在は確認されていないが、研究員達はそれなりの戦闘能力があると予想される。それ以外の自動防衛兵器は確認されていないが、この中継ステーション自体が遺跡と呼べるほど古い建物なので、崩壊には充分注意すること。中継ステーションの詳細は見取り図を添付する。

「……はあ、本当に」
「え、え、なんですか?エイミィさん?」
「うん、シャーリーは気にしないで目の前の仕事に集中! 周りに気を取られすぎだよ」
「は、はい!」

再び漏れてしまったつぶやきに、律儀に反応してきたシャーリーへ軽く注意を促してから、思考に戻る。
――本当に誰が調べたんだろうね? スパイでもいないとわからないよ。これが管理世界に隠されて設置された研究所とかだったんなら、まだ分かるんだけど……ううん、それでも、これだけ調べるには数ヶ月は必要だよね、うん、もしかしたらもっとかかるかも。この人手不足の中で、一体どうやったらそんな長い期間人を張り付かせることが出来るって言うんだろう。それに。
視線をもう一度ウィンドウに戻す。
……激しい次元流に覆われて入港困難になって遺棄されたと推定される。
そこに記載されている、この一文がさらに疑問を拡大させていた。

「……本当にどうやって入ったんだろうね?」

呟きがまた漏れてしまう。
最近、こうやって苦労を背負い込むことが多くなってしまったせいか、ひとり言が増えてしまった。
ちらりと視線を横に向けると、シャーリーは言いつけどおり、自分の作業に集中しているようだった。
よほど面倒なデータを整理しているのか、額には若干汗が浮かんでいる。
――はあ、よかった。何度も邪魔したらかわいそうだもんね。でも……うう、最近ため息も増えてきたし、なんか本当に年を取っちゃったみたいだよ。まだ二十二歳なのに。ああ、でも後数年で曲がり角かぁ、このままだと行き送れになっちゃうよ。……まだ当分先だろうなぁ。あの馬鹿、本当に一生懸命だし。
思い浮かんでくるのは二歳年下の男の子。
今頃は私が残したデータを元に捜査をしている頃だろうか?
――あのデータ役に立っているといいけどなぁ。
色々と強がってはいるものの、この大事なときに傍にいて手伝ってあげられないことが、少し寂しくて、悔しい。
――うん、でも、この任務が成功すればあるいは。
指令に記されているプロジェクトFという言葉。
全ての始まりになったもの。
これのせいで、いろんな歯車が狂いだしたとも言える。
もしこれが解決できたのならば、左遷されてしまったレティ提督の復権が望めるかもしれない。
そうなれば、有力な後ろ盾が戻れば、クロノ君も随分と楽になるはず。
――がんばらないとね……けど、やっぱり、どう考えていても出来すぎているよね?
そこまで考えたところで、思考は最初に戻ってしまう。

「はあ……」
「リミエッタ管制指令、少しよろしいですか?」
「あ、ギャレット君、何?」

ため息をついていると、後ろから声がかけられた。
振り向いてみれば、この船の武装局員のリーダーとなっているギャレット君の姿があった。
ギャレット君とは、アースラにいた頃からの付き合いで、今の管理局の状態では、数少ない信頼できる人だった。

「先ほど、回ってきた指令のデータを見てみたんですが……」
「あ、やっぱりギャレット君もそう思った?」
「はい、出来すぎてますね」
「うん、そうだよね……っと、ここじゃあ邪魔になっちゃうから、あっち行って話そうか?」
「はい」

どうやら、ギャレット君も同じ疑問を抱いているらしい。
同士が増えたことで、思わず喜びの声を上げてしまったが、隣で懸命に作業しているシャーリーのことを思い出して、場所を変えることにする。
どこで話そうかと迷ったけれど、話が話なので、結局私の部屋に案内することにした。
――ついでに、失敗したクッキーも片付けてもらおう。
お茶を入れて、歪なクッキーたちをお皿に整列させてから、ギャレット君に問いかける。

「……どう思う?」
「今の我々の立場からすると、何か罠があってもおかしくはないと思います」
「だよねぇ……」

今この船の乗っているのは、艦長などの一部を除くと、リンディさんやレティ提督の元にいた人たちばかり。
いわば、現行の管理局の体制に疑問を抱いている人の集団ともいえる。
そこに、解決すればレティ提督の復権が望める事件が舞い込んできたんだ。

「私たち、目の前にニンジンぶら下げられたお馬さんのようなものだよね」
「そうですね。そうですね。その上、突き進んだ先はきっと屠殺場でしたってことも考えられます……このクッキーは焼きすぎですね。硬くて歯が欠けそうです」
「そんな、クロノ君みたいなこといわないでいいの! 女の子にもてなくなっちゃうよ……で、どうすればいいと思う?」
「指令は正式なもの、情報は充分、戦力は整っている。拒否は出来ないと思います。それに艦長は……」
「うん、長いものには巻かれろを地でいく人だしね……はあ、八方塞かぁ」
「ええ、でもあの中継ステーションにたどり着けるかどうかは、リミエッタ管制指令次第なんですから、そこら辺で誤魔化せないですかね?っと、ご馳走様でした。」
「あ、ありがとうね。今度はもう少しうまく出来たのごちそうするから……うん、まあ、それも考えたんだけど……」

文句をいいながらも、ちゃんとクッキーを平らげてくれたギャレット君に礼を述べてから、提案を頭の中で検討する。
目標は激しい次元流に囲まれた海に浮かんでいる中継ステーション。
局が使っているような大きな航行艦ではたどり着くことは不可能だし、小さな船では次元流に翻弄されて難破してしまう。
勿論、あんな荒れた次元に対して転送するなんて自殺行為だ。
だからこそ、あの中継ステーションは、存在が確認されていながら、今の今まで手付かずの状態だったのだけれど。

「うーん、あの中で本当に実験が行われているとすると……ね。やっぱり助けなきゃって思うし」

今、あの中継ステーションにいる研究員達がどうやって入り込んだか分からないけれど、私には、あそこまで局員のみんなを送り届ける術がある。
時の庭園に無人の小型船を送り届けた方法。
刻一刻と変わる荒れ狂う次元流の動きを計算して操縦プログラムを組む技術。
今回のは、あのときに比べれば、簡単すぎるくらいだ。

「それにねぇ、なのはちゃんが……」
「ああ、そうですね」

ずっと殻に閉じこもっていた少女が、、プロジェクトFって言う言葉を耳にしたときに浮かべた表情。
それはとても複雑なものだったけれど、なのはちゃんがそれから逃げ出すことだけは想像がつかなかった。

「はあ、結局は、やるしかないんだよね……」
「出来る限り気をつけて、ですかね?」
「うん、まあ、出来ることはそれしかないかな? うん、私も帰りのプログラムを組む必要があるから、小型船に乗り込んで、そこから管制をするけど……前線は任せたよ? 得になのはちゃんには気を配ってあげて、そうしないと壊れちゃいそうだから」
「難しい注文ですが、出来る限りは。クッキーもいただいてしまったことですし」
「うん、高いよ」

笑いあいながら、二人同時にソファーから立ち上がる。

「クロノ君がいなくてももとアースラ組は無敵だってことを、頭が固い上層部に思い知らさせてあげようね!」














『divine buster.』

砲撃が立ちはだかる傀儡兵をなぎ倒す。
やっぱり、前みたいに心を込められないせいか、威力はそんなでもないけれど、それでも魂を持っていない玩具には充分な威力はあったようで、、簡単に砕けて紙ふぶきのように散っていく。

「ふう……」

見える範囲に傀儡兵がいなくなったのでレイジングハートに寄りかかりながら大きく息をつく。
――疲れたな。
まだ砲撃を三度ほどしか打っていないのに、体が重い。
気分が乗らない。
重要な任務だとはわかっているし、出る前にエイミィさんから罠があるかもしれないから気をつけてと忠告ももらっているから、気を張ってがんばらないといけないのだけれど、どうしても集中できない。
最近はずっとそう。
――私何をしているんだろう。
よく分からない。
……本当は分かっている。
やりたいことやらなければならないこと、そして、約束。
よく分かっている。
覚えている、忘れるはずがない。
だから、がんばった。
私の出来る限りのこと、ううん、それ以上のことをやってきたと思う。
それなのに。

『……master』
「うん、ごめんね。レイジングハートのせいじゃないから」

本当はもう魔法なんて使いたくない。
ううん、魔法だけじゃない。
何もしたくない。
私が何かをすると、誰かが不幸になる。

『お手伝いさせて!』

あの言葉が間違いの始まり。
私にユーノ君を助ける力があると思い上がったのが全ての過ち。
私が余計な手を出さなければ、
――もしかしたら、今頃フェイトちゃんはお母さんとピクニックにいけていたかもしれない。
――もしかしたら、今頃はやてちゃんは家族のみんなと食卓を笑顔で囲っていたかもしれない。
――もしかしたら、未熟な私が担当になったせいで救えなかった人々は今頃生きていたかもしれない。
――もしかしたら、ブリーゼは、あの虚数空間に吸い込まれていった世界の人々は……
そして何より、
――私と出会わなければユーノ君は、あんな目に遭わなかったかもしれない。
……私が全部悪いんだ。
全てを捨てようと思った。
逃げ出してしまおうと思った。
どこか、誰も住んでいない世界に行って、ゆっくりと消えていこうと思った。
それなのに、何で私はまだこんなことをしているんだろう。
分からない。
約束を果たすため?
うん、勿論それはある。
困っている人を救いたいため?
その気持ちも変わってない。
だからなのだと思う。
私もよく分からないけど。
本当によく分からない。
何をしても無駄、それどころか逆効果だと分かっているのに、何で私はこうしているんだろう?
心がぐちゃぐちゃでまとまらない。
だから集中できない。
心が込められない。
そんなだから、失敗を繰り返す。
私がミスをしなければ死なないで済んだ人もいるのに……。

「高町執務官!」

横に立っていた武装局員の人が強く私の名前を呼んだ。
振り返れば名前を呼んだのはギャレットさんだった。
昔アースラにいたときにお世話になった人。

「右手から傀儡兵20! 来ます!」
「……はい」

呼吸を整える。

「お願い、レイジングハート」
『all right.』

想いがほとんど詰まっていない光が放つ。
そんなことを十回ほど繰り返した後だろうか。

「……情報通りですと、もうそろそろ傀儡兵は打ち止めのはずですね」
「そうみたいですね……」

あたりに動く人形はなくなっていた。
さすがに息が上がってきた。
レイジングハートに寄りかかりながら息を整えていると、ギャレットさんが寄ってきた。

「ありがとうございます、高町執務官。執務官のおかげでこちらに負傷者は出ておりません」
「……いえ、それより、制圧を急がないと」
「はい、あの角を曲がった先にあるのがメインルームになるはずです。包囲は完了しているので、おそらくそこに立てこもっているはずです。最後の抵抗があるかもしれません。気をつけていきましょう」
「分かりました……」

うなずきを返して、ギャレットさんが指し示したほうに歩き始める。
曲がり角に指しかかると、メインルームの方からまばらに射撃魔法が襲ってきた。
精度も収束も甘い。
おそらく立て篭もっている研究員達が放っているんだろう。
この程度では私のバリアジャケットにほころびを生むことも出来ない。
そう考えて、無視して突撃しようとすると、

「ここは我々が行きますよ」

肩に手をかけられた。

「高町執務官はお疲れでしょう。ここまでずっと頼りっぱなしだったんですから、これくらいは任せてください」
「……えっと」

なんて返したらいいか分からず固まっていると、

「いくぞ!」

突入が開始されてしまった。

「……えと、どうしよう、レイジングハート?」

援護しようにも、私の手持ち魔法だと、こんな狭い場所では味方の人もまとめてなぎ払ってしまう。
困って、何か方法がないかレイジングハートに尋ねてみると、

『Don't worry』

返ってきたのは、どこか投げやりな言葉。

「え、えと……」

その言葉を受けてより一層まごついていると、

「高町執務官、制圧完了しました」

と、メインルームの方から声がかかった。

「え、はい!」

急いで、そちらのほうに向かう。
メインルームの中に入ってみれば、十人ほどの研究員がバインド魔法で拘束されていた。
突入した局員達には怪我は見当たらない。

「……」

落ち着いて考えてみれば当たり前のことだった。
戦いなれていない研究員の人が厳しい訓練を積み重ねてきたギャレットさん達にかなうわけもない。
それに、こうして相手を捕らえるといったことなら、私より何倍もうまいと思う。
もし私が突入していたのなら、施設も壊していたと思うし、必要もなく研究員の人たちを昏倒させてしまっていたはず。
――私は、やっぱり何もしないほうがいいのかな……
思考が、また同じことにとらわれる。
また同じことの繰り返し。

「高町執務官?」
「あ、はい」

再びギャレットさんに名前を呼ばれて、今に帰ってくる。

「これで第一目標は完了しました。えと、次は……」

そして、遺跡に突入する前に聞かされていた作戦の目的を思い出す。
一つは、違法研究をしている研究員達の身柄を押さえること。
そしてもう一つは、

「次は、あっちのゲートの奥にある……実験室です」

違法実験の証拠となる施設の制圧と、おそらくいるであろう被験体の保護。
被験体。
その言葉を思い浮かべると、胸がひどくうずいた。
痛いくらいに締め付けられる。
思い浮かぶのは、二対の赤い瞳。
それはじっと、何も言わずに私を見つめている。

「……ごめんなさい、私がないなければ」

自然と謝罪の言葉が漏れる。

「……今度は平気ですよ。きっと救えます。犠牲は出しません」

その言葉が届いてしまったのだろうか?
気がつけば、ギャレットさんが私を覗き込むように微笑んでいる。
励まそうとしてくれているんだと思う。
その笑顔があまりに温かく、思わず、眼から涙が零れ落ちそうになる。
――私に優しくしてくれる必要なんてないのに。
ギャレットさんは最初の事件の時はアースラにいたし、その後はレティ提督の元にいたから、私の過ちを全部知っているはず、それなのに。
エイミィさんもそうだ。
再び今の船で一緒になってから、何度も何度も私に声をかけてくれる、傍にいてくれる。
私にはそんなことをしてもらう資格なんてないのに。

「……着きましたねね」

零れ落ちそうなものを誤魔化すために、ギャレットさんの方から視線をそらし、前方にある大きな扉を見つめる。
資材の搬入のためだろうか、扉は私の身長の倍以上の大きさで、まるでシェルターのようであった。

「……と、ロックされてますね。それに随分と厚い。これじゃあ、人力では開きそうにない」

扉を調べていたギャレットさんが小さくつぶやく。

「……私がやりましょうか?」

それに答えて、レイジングハートを扉に向けて魔力を集め始める。

「駄目ですよ、確かに高町執務官の砲撃なら壊せるでしょうが、中が無茶苦茶になってしまいます。……取れますか?」

ギャレットはそれを右手で制して、通信ウィンドウを開いた。

『はいは~い』

ウィンドウ一杯に映し出されたのは外で待機しているエイミィさんの笑顔。

「リミエッタ管制指令、お願いできますか?」
『ちょっと待ってね、状況はこちらでもつかんでいるから。すぐ開けちゃうからね』

どうやらハッキングをかけてもらおうとしているみたいだった。
この遺跡に関する詳細な情報は得ているし、もうメインルームは押さえてあるので、エイミィさんの腕ならそんなに時間はかからないと思い、おとなしく待つことにする。
てもちぶたさになったので、あたりを見回していると、

「あれ?」

奇妙な違和感を覚えた。

「高町執務官、何かありましたか?」
「いえ……何でもありません」

突然声を上げたのでギャレットさんが訝しんで声をかけてきたけれど、ほんの一瞬のことだったし、レイジングハートも何の異常を知らせてこないので、気のせいだと思い、首を振って返す。

『……あれ? ん? おかしいな? グリフィス君、シャーリー、そっちはどう?』

そんなやり取りをしていると、通信ウィンドウの中のエイミィさんが素っ頓狂な声を上げる。

「エイミィさん、どうしました?」
『ちょっと、ちょっと待ってね、あれ? あれ? ん?』

ウィンドウからエイミィさんの姿は消えてしまったが、音声だけでも随分とあわてたような感じが伝わってくる。

「エイミィさん?」
『……ん、そか……って、これ! ごめん、なのはちゃん、ギャレット、急いでメインルームに戻って!大変なことになってる!』

そして、再びウィンドウいっぱいに映し出されたエイミィさんの顔。
そこには鬼気迫るって言う言葉がぴったりの表情が浮かんでいた。

「何があったんですか?」

ただごとではないと、すぐに分かったので質問するより前にメインルームに向かって駆け出していた。

『遺跡の魔力炉がメルトダウン起こしかけてる!』
「え! それって……」
『この規模の魔力炉なら、遺跡が全壊するどころか、次元震が起きちゃうよ!』
「……どうすれば止められるんですか?」
『パスワードでロックがかけられていて、こちらからは操作出来ないんだ。直接操作するしかないから、今からそっちに行くね! なのはちゃんたちは、研究員の人たちからパスワードを聞きだしておいて!』
「はい!」

返事と共に体を強化している魔力を強くする。
本当は飛んでしまったほうが速いのだけれど、私の飛び方では色々と壊してしまう。
魔力炉が危ない状態なのに、下手に施設を壊してしまったらどうなってしまうか分からない。
もどかしい思いを抱きながら、必死で足を動かす。
それでも、魔力量に物を言わせた身体強化は武装局員の人たちより強く、私を一足先にメインルームへと運んでくれた。
メインルームの中にいたのは、先ほどと変わらない研究員の人たちと、見張りに残した数人の局員。
局員の人たちは、揺れ始めた遺跡に驚いて、あたりを見回しているが、研究員の人たちは落ち着いている。
何が起こるかはじめから分かっていたようだった。
一通り見回して、一番偉そうな人の方に歩み寄る。

「止めてください」

拘束されて座り込んでいる研究員の人の目をじっと見つめながら、願いを口にする。

「……」

返事はない。

「このままだとあなた達も巻き込まれてしまうんですよ?」
「……」
「……次元震が起きたら周辺世界の人たちにも被害が及んでしまうんです! お願いですから止めてください」

肩をつかんでその瞳を見つめ、懸命に願いを伝える。

「お願いですから!」
「……」
「お願いします……これ以上私は……」
「……御心のままに」

何かに全てをささげたような、悟りきったようにつぶやく研究員。
何の心に従っているか分からないけれど、その言葉は決して私の願いを聞き入れてくれたものではないということだけははっきりと伝わってきた。
何かが吸われたように、全身の力が抜けていく。
膝を突き、手からレイジングハートが零れ落ちる。
――またなの……また私が関わったから……
自責の念が心を圧迫する。

『……なのはさん! 聞こえますか!? グリフィスです! リミエッタ管制指令がそちらに向かいましたが、このままでは間に合いません! 途中でリミエッタ管制指令を拾って撤退してください! これ以上は危険です!』

通信ウィンドウが開いて少年が何かを言っているが、うまく理解できない。
いや、聞こえているし、理解は出来たけれど、受け入れる気になれなかった。
――エイミィさんのことはギャレットさんたちがどうにかしてくれるよね……
メインルームにいた局員も通信を受けて撤退を開始している。
研究員の人たちも一緒に連れて行こうとしているようだけれど、どうやら指示に従う気はないようだった。
人数がこちらより多い以上、無理やり連れて行くにしても全員は不可能だ。
それでも、連れて行けるだけは救おうとしているのか、局員の人が、研究員の人を立ち上がらせようとその肩に手をかけた。
そこで、ほとんど無言だった研究員の人から声が上がる。

「やめてくださいよぉ、痛いじゃないですかぁ。そんなことしなくても立ち上がりますよぉ。それにそんなに慌てなくても平気ですよぉ。ほらぁ、これをはずしてくださぁい。止めてあげますからぁ」

信じられない言葉が聞こえた。
声がした方を振り向いてみれば、一人の研究員の人がよろよろと立ち上がろうとしているところだった。
分厚い眼鏡に、ぼさぼさに伸ばされてまったく整えられていない髪、まるで寝起きのようなその姿。
口元には、ひどくゆがんだ笑みを張り付かせている。
分厚い眼の奥にある瞳は何を考えているか分からない不気味な光を浮かべており、普段ならば決して話しかけようとは思わない。
でも今は、

「本当に止めてくれるんですか!」
「ええ、本当ですよぉ、だからぁ、早くこれをはずしてくださぁいぃ」

そう言って、研究員の人は目線でバインドの方を指し示す。

「貴様! 何を言っている! それでも!」
「私ぃ、やっぱり命が欲しいんですよねぇ。それにここにいるのは腕を買われただけでぇ、私自身はぁ、聖王教徒でもなんでもないですしぃ、それにどうせねぇ」

一番偉そうな研究員の人が慌てたように声を上げるが、ぼさぼさ頭の眼鏡の人は気にしたそぶりをまったく見せない。

「それよりぃ、ほらぁ、早くはずしてくださいよぉ。そうしないととめられないですよぉ」
「高町執務官……」
「……はずしてあげてください。責任は私が持ちます」

不安そうに尋ねてきた局員に指示を出す。
局員の人が不安に思うのも当然だと思う。
こんな怪しい人、執務官という仕事をしてきた私でもめったに出会うことなどない。
でも、今はこの怪しい人に縋るしかない。

「……お願いします。止めてください」
「はぁい、任せてくださいねぇ」

バインドをとかれた怪しい人は、嬉しそうに不気味な笑い声を上げながら、操作パネルのほうに歩み寄る。

「く、く、くぅ、もうがんばって複雑なロックをかけているようですけどぉ、近くでずっと見ていた私には無駄なんですよぉ」

怪しい人は、エイミィさんにも勝るとも劣らない速度でパネルを操作していく。

「ほおら、天才の私にかかればぁ、こんなにかんたぁん」

怪しい眼鏡の人が、パネルを一際強く叩くと、遺跡を覆っていた揺れが止まる。

「……良かった……え? あれ?」

魔力炉の暴走は止まっている。
レイジングハートのセンサーもそう教えてくれている。
それなのに、
――気持ち悪い……
全身に鳥肌が立つ。
吐き気が止まらない。
先ほど一瞬覚えて、すぐに消えた違和感。
それが強くなっている。
まるで、硬い地面を歩いていたのに、突然揺れる船の上に放り出されたような感覚。

「高町執務官!」

遅れていたギャレットさん達が到着したようだ。
うずくまって胸を押さえている私に心配そうに声をかけてくる。

「……いえ、何でも……ギャレットさん、何か感じませんか?」
「ええ。揺れが止まりましたね。リミエッタ管制指令は、まだ到着していないはずですが、いったいどうやったのですか?」

言葉を返してくれたギャレットさんにおかしな様子はない。
レイジングハートも何も異常を訴えてこない。
――きっと気のせい。
割り切ることにする。
実際に揺れは止まっているのだ。

「……この人が止めてくれました。ありがとうございます」
「いひぃひぃ、どういたしましてぇ。それより次は実験室に向かうのでしょうぉ、そちらも私があけて差し上げますよぉ」
「……高町執務官?」

ギャレットさんが眼で何かを訴えてくる。

「でも、実際に魔力炉の暴走を止めてくれましたし……」
「まあ、それは確かに助かりましたが、実験室のほうは、リミエッタ管制指令の到着を待ったほうがよろしいのでは?」
「いひいひ、信用してくださいよぉ。ここで協力すれば罪は軽くなるんでしょぉ」

怪しい眼鏡の人は相変わらず不気味な笑いを浮かべている。
――信用しきるのは危険かな?
外見だけで判断するのはいけないことだけれど、あの笑いを見ていると、思わずそう思ってしまう。
だから、ギャレットさんの進言にうなずきを返した。

「はい、そうしましょう……」

しかし、

『ごめん、なのはちゃん、手を貸して!』

その計画は、待ち人からの通信で捨てることになってしまった。

「何かあったんですか? エイミィさん。魔力炉のほうはもう安定してますけど……」
『うん、それはこっちでも確認した。んだけど、ここ、古い建物だから、暴走によってあっちこっちがたがきちゃったみたい。端から崩壊が始まってる。急いで、応急処置をしないといけないから、結界が使える局員を出来るだけこっちに回してもらっていいかな? あと、そうしてもあんまり長く持たないだろうから、回収急いで!』

よほど急いでいるのだろう、エイミィさんは一方的にまくし立てると通信を切ってしまった。

「……しょうがないよね。ギャレットさん向かってもらっていいですか? こちらは最小限の人数だけでいいです」
「しかし……」
「任せてください。何かあっても多少のことくらいなら、私はビクともしませんから……」

不安そうにこちらを見ているギャレットさんに、笑顔を向ける。
私が関わらないほうがうまくいく。
心からそう思っているから。

「……わかりました。何かあったら呼んでください。すぐに駆けつけますから」

ギャレットさんは、こちらをしばらく見つめた後、そういい残して走り去っていく。
その姿を見送ってから、

「……じゃあ、行きましょうか」

怪しい眼鏡の人の方を振り向いた。
気のせいかその笑みはますます深くなっているように感じられる。

「ええ、行きましょうぉ、行きましょうぉ。急がないといけませんからぁ」

そう言って、私を追い越して歩き始めた怪しい眼鏡の人を慌てて追いかける。

「……そういえば、お名前聞いてませんでしたね。私は高町なのは、管理局執務官をやってます」
「ええ、存じ上げてますよぉ。あなたは有名人ですからねぇ。それに比べて、私は、天才といえどぉ、しがない研究員でしかありませぇん。名乗るなんて恐れおおいですよぉ……」
「え、でも……」
「それよりほらぁ、着きましたよぉ。待っていてくださいねぇ、今すぐあけますからぁ」

怪しい眼鏡の人との二人っきりの行軍は緊張感が強かったせいか、時間の感覚が麻痺していたらしい。
いつの間にか、あの大きな扉の前まで来ていた。

「これもやっぱりぃ、天才の私の手にかかればぁ……ほぉらぁ」

怪しい眼鏡の人がパネルを呼び出して、操作すると、扉は重い音を立てて動き始めた。

「……あ、ああああ!」

扉が開け放たれて、眼に入ってきたのは、暗闇に浮かぶ弱弱しい光。
まるで蛍のようなもの。
それだけ見れば、すごく幻想的で心が奪われてしまうようなものだけれど、魔力で強化されていた私の視覚は、その光の中に浮かぶものまで捉えてしまっていた。
光を放っているのは、ガラスのようなもので出来た円柱。
そして、その中は液体で満たされていて、そこに浮かんでいるのは、

「ああああああ!」

小さな赤子ばかりであった。
記憶が刺激される。
前にも、似たようなものを見たことがあった。
そのときは……
――ネエ、ドウシテ
投げかけられた言葉。
私はあの時何も言葉を返すことが出来なかった。
答えてあげることが出来なかった。
助けてあげることさえ出来ずに、出来たのは、ただ楽にしてあげることだけ。
――じゃあ、今は?
苦しくなる胸を押さえながら、縋るような視線を眼鏡の人に送る。

「……うふふふ、そんな目で見ないで下さいよぉ。平気ですよ。これらはみんな、『ちゃんと』生きてますぅ。普通の人間と同じですよぉ。まあ、記憶転写と能力転写がうまくいかなかった失敗作ですがぁ」
眼鏡の人は、楽しそうに笑いながら続ける。

「でも、こんな失敗作のゴミでも、ちゃんと役に立ったんですよぉ。おかげですばらしいものが出来上がったんですからぁ。ご覧になられますかぁ?」

もともと、私の返事を聞くつもりはないのだろう。
なにやらぶつぶつとつぶやきながら、眼鏡の人は奥へと歩いていってしまう。

「……ま、待ってください!」

慌ててその後を追いかける。
眼鏡の人は、実験室のほとんど中央で立ち止まっていた。
目の前に他のと同じような円柱が立っている。
他のものが全て壁際に並べられているのに対して、この一本だけが中央に置かれていることから、特別なものであるということは説明されなくても理解できた。

「うふふふ、これがぁ、ここの研究所が目指していた結果! 唯一の成功作! 過去の栄華を求め続けていた亡者が手にした鍵! 失われた亡霊!」

眼鏡の人は円柱の前で踊り狂っている。
張り付かせた不気味な笑みと合わせて、凝視していれば発狂してしまいそうなもの。
しかし、私にはそんなことは気にならなかった。
目の前の存在に目を奪われていた。
円柱の中に浮かんでいるのは三歳くらいの女の子。
金色の髪を液体にたなびかさせている。
両の瞳は閉じられていて、その光を窺うことは出来ない。
この場所にいると、この光景を見ているととても気持ちが悪いはずなのに、どうしてか、目を離せないでいた。
直視はどうしてもためらってしまうのだけれど、惹き付けられてしまう。


「うふふふ、目が離せないでしょう。これはそういう存在なのですよぉ。うふふふ、やっぱりすばらしいですねぇ。狂信者どもが必死になるのも分かりますねぇ。しかし、ずっと見ているわけにもいきませぇん。速く取り出しましょうかぁ。これだけは持って帰らないといけないんですからぁ」

眼鏡の人が何か言っているがうまく頭の中に入ってこない。
それほどまでに目を奪われていた。
ぷしゅっと、何かが抜けるような音がすると、円柱に満たされていた液体がみるみると減っていく。
液体が全て排出されると、円柱を覆っていたガラスのようなものが下に引き込まれる。
遮るものがなくなり、目の前には女の子がうずくまっている。
本当なら助け起こさないといけないのだけれど、恐くて触れることが出来ない。
――私に関わると不幸になる。
その思いのせいで、この子に触れられないでいた。
でも、そんな私が抱いていた躊躇は女の子には関係ないものだったらしい。
ゆっくりと体をおこし、犬や猫がやるように体を振るって、まとわりついていた液体を弾き飛ばすと、閉じていた両の瞳をゆっくりと開ける。
そして、私を見つけると、こう言ったのだ。

「……ママ?」

眩しいくらいの笑顔で。
私が助けることが出来なかった友人と、私のせいで犠牲になってしまった友人の色を瞳に浮かべて。










































あとがき
自己最長の31k
これでもうひ弱なもやしっ子とは呼ばせない(´・ω・)
あと、幕間としてその頃の八神家とか入れようとか鬼畜な思っていたのは内緒。


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