私は転移する。時の庭園に。海鳴沖に。
「フェイト……これはキミの意思か? プレシアの命令か?」
私はそう問いかける。
何故ガルディが気付けなかったのか。そんなことは、今はどうでもいい。対策は後でも取れる。
今のフェイトの魔力・体調・技術、どれをとってもこの状況をクリアするのには充分だ。プレシアの捜索中止命令がまだ届かず、独断で行動しているのだとしたら、まだ理解できる。それならばプレシアを介してフェイトを説得することもできるし、管理局にもごまかしはきく。
だが、プレシアの命令で……プレシアがジュエルシードを諦めていなかった場合、それは最悪だ。私は信用されておらず、プレシアはアルハザードへ旅立とうとしているのと同義だ。
「母さんが、今日、まだ足りないって」
意識が飛びそうになった。
アースラ艦内では、蜂の巣をつついたような騒ぎだった。
「システムの殆どがダウンしました!」
「なんでメインモニターだけ生きてるのー!?」
「生命維持系統も生きています! 転送ポートも!」
あからさま過ぎだ。これは人為的なものであると、リンディは気づいていた。
誰かを向こうに送りたい。その誰かは、いわずもがな。
「なのはさんとユーノさん……エルテさんを呼んで」
「は!」
「呼んだか?」
その隣に、突然現れる。誰もその登場に気づける余裕はなく、システムダウンで監視カメラも動いていない、更にその場の全員の視界の外になった場所、そして瞬間に、エルテはいたのだ。
「いつの間に?」
「観測されない限り、そこには何が存在するか判らない。箱の中の猫は生きているか死んでいるか、あるいは存在しているかしていないか。観測するまで判らない。量子力学のお話だ。詳細はシュレディンガーの猫で調べるといい」
あくびしながら、神経を逆撫でするようにやる気のなさを演じながら。
「これは、どういうことかしら?」
「少なくとも、普通に発生するトラブルではないな」
「あなたは関係ない、そう言うの?」
「完璧にイレギュラーだ。全く……エイダ、そこにいるんだろう?」
少女は相棒の名前を呼ぶ。確信と呆れと、喜びを込めて。
『おはようございます。戦闘行動を開始します』
しっかりジェフティのコックピットをメインモニタに表示しているあたり、芸が細かい。オペレータのコンソールも同様で、もう何もできない状況だ。
「乗っ取ったの!? このアースラを!」
「リンディ提督。セリフが違う。『動けェェェェェェェェ!』と叫ばないと」
『認証失敗。おはようございます。戦闘行動を開始します』
「え? う、動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
戸惑いながら恥じらいながら、なかなか可愛らしい声で叫ぶ。エルテはそれを密かに記録するようにエイダに命じていたりする。
『当艦はバトルシップ・アースラです。操作説明を行いますか』
「……要らないわ。アースラのことは、私が一番知っている」
「それよりエイダ。状況は?」
『最悪のケースCです。対象Pからの次元跳躍攻撃の可能性から、全周警戒を実施しています。現在の対象Fの能力なら、あの状況を無傷でクリアできるでしょう』
「そんなはずはないわ。彼女の魔力量では……」
「本当の魔法を教えてやろう、フロイライン。どうせフェイトが自爆するまで傍観するつもりなのだろう?」
「っ……」
少女は嘲笑い、微笑し、美女は言葉を詰まらせる。
「エイダ、アースラのシステムを復帰。最優先命令だ。シナリオは狂ったんだ、もう、できることはない」
『不本意ですが』
全てが元に戻る。
「全システム、オールグリーンです!」
「優秀なデバイスね」
「相棒だ。私のデバイスはアヴェンジャーだ」
少しむっとしているらしいが、その無表情は歪まない。
「何かあったんですか!」
「フェイトちゃん!」
メインモニタが映すのは、荒れ狂う海に舞う黒衣の少女。
時の庭園を走る。プレシアを探して。
『私』がばれる覚悟で、兵力を次々に投入する。
「Clear!」
「No sign of Precia.Move on」
無意味なCoD4ごっこをしているのも、落ち着くための独り言、一人芝居のようなものだ。正直にいえば、私は混乱している。
「……プレシア」
ある一室で、プレシアを見つけた。その傍らには、アリシアのインキュベータ。
「遅かったわね」
私が来るのは予想の範囲内だったようだ。
「なぜ、こんなことを」
「時間がないの。魂も見つからない。必要なエネルギーも足りない……生贄も、作れない」
「私が……協力するといっただろう。何故待てない」
「…………」
優しく、微笑まれてしまった。何故だ。何故……いや、現実を見ろ。
「諦めた、のか?」
「…………」
「生贄か」
「……そうよ。私は、狂ったつもりだった。アリシアと同じ形を作っては捨てて作っては捨てて。でも、あなたのおかげで正気に戻れたの。いえ、狂ってなかったと気づいてしまったの」
「私が全てを用意する、そう言ったはずだ。使い捨てのヒトガタ魔力炉、そう思えばいい。そう書いてあっただろう!」
証拠と言わんばかりに、何人か、私が何人か姿を現す。しかし、プレシアは微笑んだまま。
「滑稽よねぇ……今更、良心の呵責に耐えられなくなるなんて」
「私はヒトではない! 偶然人の形をしている、ただの魔力炉つきの戦略兵器だ! 良心など1mmも傷つかん! 傷つく必要があるわけがない!」
「そんなに優しい子が、そんなものじゃないくらい……私にだって判るわ……」
「っ……成程。フェイトを被害者にする、そういう訳か」
「今日もあんなに鞭でぶったのに、それでも、あの子、私を『母さん』って呼ぶの。どうしたら嫌われることができるかしら……」
その顔は笑顔だが、必死で何かを堪えている。
ああ成程。ガルディが見逃したのは、もう大丈夫だと、アルフと二人だけで見送ったからか。恐らく、その足で海へ。
「どんなに悪役に徹しても、たとえ『大嫌いだ』と直接言っても、恐らくプレシアを嫌うことはないだろう。あの子は、そういう子だ」
「あはははははは、困ったわねぇ……これじゃぁ……」
狂ったように笑うが、私は知っている。もうプレシアは、狂うことすらできない。フェイトも愛しているが故に。だから、今、笑って泣いているのをごまかそうとしている。
「全ての女性には、幸せになる権利があるそうだ。プレシアも、だ」
「私はその権利を捨てたのよ? あははっ」
諦めてなるものか、諦めて……
ふと、笑い声が消えたことに気づく。
「ありがとう、エルテ」
その一言は、完璧な拒絶の意思が込められていた。もう、これ以上は無駄だ。
「……最後に、一つ」
「何かしら?」
「手向けだ。手伝う」
説得は、もう、無駄だ。
だが、諦めて、諦めてなるものか。
茶番を演じても、これだけは達してやる。
原作のプレシアも、もしかしたら『こう』だったのかもしれない。描写がないだけで。
フェイトに何も知らせなかったのも、虐待していたのも、そのおかげで、刑は軽くなったという記憶がある。
だとしたら、幸せになる権利はなくても、幸せになる義務がある。私が押し付ける。
それが何年後になるかは知らん。知ったこっちゃない。
それよりも問題は、魔改造されたフェイトやなのは達、そしてプレシアの命だった。もう、こうなったら原作通りにシナリオを書き換える。違うのは最後の方だけだ。
後は、プレシアの演技にかかっている。
荒れ狂う海で、二つの光は縦横無尽に暴れまわる。フェイトとアルフの光。
私はそれをただ傍観するだけ。
漁夫の利を狙う、ジャッカル。
「I'm thinker……は違うな。なんか合う歌はないか」
『シャンデリアはどうですか』
「覚えてない」
『Liberi Fataliなどは?』
「運命の子供達……か」
魔女からの、母親からの、子供達への願いと激励。
『Excitate vos……』
エイダが唄いだす。迷っている私の背を、押すように。私もそれに続く。
このシナリオでは、子供達は、誰も嘘を焼き尽くせない。誰も闇を照らせない。誰も真実を見つけられない。
だが、叶うことなら真実を、最も幸福な未来に導いてやりたい。
狂ってしまったシナリオを書き直そう。正しく在る必要なんてない。
私は魔女。正しく悪である魔女。関与はしても介入はしなかった、己が手を下すことを嫌った、卑怯な魔女。
それでも、私は暗躍するしかない。私が望んだのだから。
海の中で唄いながら、ジュエルシードを更に、更に魔力を与え、もっと、もっと暴走させる。今のフェイトの手に余るくらいに。紅のジュエルシードもばらまいて、次元震が起こらないように気をつけて。
なのはが来るように仕向けて。ユーノもついてくるよう仕向けて。
それでも苦戦するように、もっと、もっと。
さあ、頑張れ、私のかわいい教え子たちよ。
《あとがき》
今回は短いです。
あとはラストミッションとアフターの2話になる予定。
どうしてもプレシアさんが悪者に見えないのは、イデア・クレイマーのせいです。たぶん。
アルティミシアもかわいそうな人って感じで、なるべく苦しまないように低レベルで瞬殺しています(FF8は27周目)。
騎士さえいればプレシアは……って混ざってんじゃねぇ。
エイダについての補足を。
エイダのハードは量子コンピュータです。アースラのはノイマン系コンピュータだと思われます。インテリジェントデバイスも同様で、完全に『人格』を構成できているとは思えないので『疑似人格』ということに。
この物語の設定だと、ミッドでは物理がかなり遅れているので、その発展である量子力学(厳密には違う気がしますが)は手もつけられていないということになるからです。量子コンピュータが人格を再現できるかどうかは判りませんが、この話では完璧に再現できるということにしています。ロストロギア扱い。
ノイマン型コンピュータと量子コンピュータは、絶対的に能力が違います。『たかがデバイス』の能力ではないのです。だからアースラを制圧できたというわけです。
魔法でどうにかできるんだ! といわれたら終わりですが。ヴォルケンリッターとかは『古代ベルカの技術は世界一チィィィィ!』ということで。古代ベルカの技術はかなりロストされていたはずだから、これで言い訳はできる! リィン2号も1号の復元だったはず、なので。
トンデモ設定にお付き合いくださってありがとうございました。
PV伸びないのはタイトルのせいです。たぶん。
どっかのサイトでタイトルで敬遠してたみたいな感想がありましたので。
タイトル変えようにも、私にはセンスはないのですよ。もともとギャグを書くつもりのタイトルでしたので。
破壊少女ではないなー。タイトルに偽りあり。
募集しようかな。
アルトが非戦闘員のせいで空気に。
もっと日常パートで大活躍するはずが、そっちのプロットが行方不明で。
描かれてませんが、エルテの心の支えとして健在ですよ。忘れたわけじゃありません、断じて。
感想くれー!
気付けない悪いところが修正できないじゃないですかー(超他力本願)!
いつの間にか7万PVいっていてフイタ。この前まで4万いってなかったのに(いつだよ!)……
Jan.9.2009
歌詞はまずいらしいので削りました。