温泉。
楽しみにも程がある。砲撃を死ぬほど疲れるまで撃たせる約束は、次の週までお預けになったというのに。
アルトの話だ。大山鳴動するほどに大はしゃぎして、何故か屋敷を走り回っていた。
そして、今は疲れ切って車の中で寝ている。
「……不敏だ。こんなことならもっと、もっと、共に外へ遊びに行くべきだった」
前日にはしゃぎすぎて当日寝坊する、あるいは寝こけてしまうのは、いつものことだ。アルトは、起きたままイベントを完遂したことは一度もない。遅れたり途中で寝たり。無駄だと思いながら投与した睡眠薬も、何故かかなり遅れて効いて、イベントの日の朝から眠りこけるという、完璧に裏目に出る始末。どのタイミングでやってもそうなるから不思議だ。
「過保護すぎた。私は過保護すぎた。せめて今日くらいは、今日くらいは楽しませてやらなければ……」
「なに暗くなってんのよ!」
「アリサ。すでに仕掛けは完全に仕込んであるのだ。フフ……暗いのではない。これは決意だ。絆地獄だ」
「嫌な予感しかしないわよ」
「フフフ、温泉か。覚悟するがいい。ハンナ」
「私も仕掛け人だ」
「すずか、帰ろう」
「え? なんで?」
「そこはかとなくケニー・ロギンスの名曲が流れてる気がしてならないわ。ラッセル・ケイスの名言も」
「け、けにー?」
「ティーフブラウに感染して、つぐみワクチンを打たないくらい危険……」
何故知っている。かなり古い映画……でもないか。トップ○ンはともかく、インデペン○ンスディは結構新しかったような。というか、アルトのは寝言か? エロゲではないにしても……
「……たいていの物語だと、ここで帰ると死亡フラグだな」
「くっ……受けて立つわ。すずか、生き残るわよ。海鳴温泉は今、円卓に変貌したわ」
アリサが家を継いだら、航空産業が飛躍的に発展するな。是非コフィンシステムを開発してほしいものだ。
「冗談は程々にしよう。ああ、アルトはかわいいな……」
「おねえちゃん……し ぬ が よ い」
「寝言もかわいい」
「あ、あれ?」
「ものすごい物騒な寝言が聞こえた気がするんだけど!?」
「大佐の名言だ。言葉通りの意味は無いから安心しろ」
わいわいやっている中、なのははあまり会話に参加しない。恐らくは、私というイレギュラーが原因だろう。やれやれだ。
《なのは。鬱鬱しい顔をするな》
《にゃ? エルテちゃん?》
《笑っているつもりだろうが、眼にハイライトがないぞ》
《はいらいと? なにそれ?》
《眼が死んでいる。せっかくの楽しい温泉が、それ以前になのはの可愛い顔が台無しだ。抱きしめてキスして押し倒すぞ。今度は問答無用で唇も貞操も奪う》
《ていそー?》
《……今思い出した。なのはは言語け――――げふん、国語が残念な子だったな》
《とてもバカにされている気がするの。それに、キスは嫌いじゃないの。お父さんもお母さんとよくしてるし……》
《……世間一般における羞恥心というか常識も欠落しているようだ。いいか、戦闘民族でエロゲの主人公あるいはヒロイン補正がかかっている高町家の常識を普通と思ったらダメだと思う。生体生物兵器の私が言えるものではないが。ああ、私が男だったらどれほど……》
《エルテちゃんが男の子でもお友達だよ?》
《その時点で何かおかしいことに気づかないか。やれやれ》
この娘に男女の機微を教えるのは骨が折れそうだ。私としては、ユーノとくっついてくれればそれでいいのだが。
数日前、ユーノが私を訪ねてきた。私の正体を探りに。話をしに。
「キミは、何者なんだ?」
単刀直入に聞かれた。なかなかに度胸のある少年だ。
「……私が許可したこと以外を、なのはに伝えないことが条件だ」
「わかった」
即答された。ユーノは信用できるが、いかんせん付き合いが短い。信頼できるかは、まだ判断できない。
「簡単に言えば、人造魔導師だ」
「そんな……いや、やっぱりそうだったのか」
思い当たる節があったのだろう。
「出身はこの世界ではない。今はもう誰もいない、汚染され、捨てられた名もなき星。私はガイアと名付けたが。私が開発されていた施設は、恐らくその汚染の原因となった戦争で襲撃され、施設ごと凍結されていた。研究成果たる私達が破壊されなかったのは不思議だが」
あの時、研究者の何人がコンソールに取りついたまま死んでいた。ログを見てみたが、襲撃と同時に凍結が開始され、制圧も技術回収も破壊工作もできるような時間がなかったようだ。施設も、恐らく地表貫通兵器の歯が立たないほど固かった。
「じゃあ、キミは……」
「扱いとしては、ロストロギアだな。意思を持ち、その気になれば単体で星を砕き、次元震すら起こせる。実際に何度かある目的のために小規模な次元震を起こした。管理局からすれば、脅威以外の何者でもない」
「馬鹿な! そんな存在が今までずっと隠れられるはずが……」
「ガイアで、誰もいないはずの世界で百年以上凍結されて、十数年前にやっと出ることができてしまった。訓練はずっとガイアで行い、私の周囲ならば魔力反応の殆どが高出力ジャミングでごまかせる。現になのはもユーノも私の存在に気付かなかっただろう」
ジャミングを解除して、本来の魔力を漏らす。本当はデバイスすら必要とせずに全てを破壊できるのだ。効率が悪いなら、出力で補って余りある威力を。
「…………」
「だが、私は敵ではない。味方にもなれないが、そんな二元論は無意味だ。確かにジュエルシードはいくつか回収している。それをある目的のために使おうともしている」
「使う!? あれは危険なものなんだ!」
ユーノが激高する。危険なもの、そんなことは百も承知。
「ジュエルシード。高密度魔力結晶体。さて、これはなんだ」
ユーノの怒りは無視して、ポケットの中身、『それ』を取り出しユーノに見せる。
「ジュエルシード? いや、違う……」
「ガイアの私を開発していた研究所、今はルーデル機関と呼んでいる。そこで一通り解析してみた。その結果から精密にコピーしたジュエルシードだ。私の魔力の影響で紅いがな」
「コピーだって?」
「本来はただのエネルギー結晶体のジュエルシードだが、不安定なのが問題だ。本当は専用のケースに入れてゆっくりコンスタントに放出する動力だったのが丸裸では当然だ。制御棒のない原子炉みたいなものだ」
「だったらそれは? 封印どころか何もされてないように見えるけど……」
「私がケースの代わりをしている。適度に回復に指向性を持たせた魔力をゆっくり放出している。これが最も無害だ」
「あの魔力を制御できる? どうやって?」
「次元震も自由に制御できる私だぞ。この程度、造作もない」
「でたらめだね……」
「そのでたらめな躯を造ったのがルーデル機関の前身だ。当然だ」
そこに、ノックもなしに私が入ってくる。手にはティーセットの乗ったトレイ。その後に続いて茶菓子を持った私が続く。
「驚かないんだな」
「アルトと学校に行ってるはずのキミがここにいるから、なんとなく予想はできてた」
メイド服を着ていてもメイドではないので、紅茶をいれたりはせず、そのまま部屋を出る。
「それで、そんな力と戦力を持ちながら、何が目的なんだ?」
紅茶をいれる手が止まる。
「……とある不幸な人たちの幸せ」
なんてことがあった。
私の目的を言い換えればそうなるが、その言葉になにやら感じるものがあったのか、ここ数日で結構なつかれた。
「ユーノ」
呼ぶと、女性陣にもみくちゃにされているユーノが器用にその手をすり抜けてこっちに来た。アルトの頭が私の膝に乗っているので、それをハンナに預けて私の膝に誘う。
「あー、なんで逃げるのー」
「構いすぎるからだ」
などの文句を適当にあしらい、念話で話し掛ける。
《災難だな》
《ありがとう。助かったよ》
こういった状況では、私はユーノの避難所になる。ユーノが猫だったらこうはいかなかっただろう。
なのはは、全くこちらに興味を示していない。
海鳴温泉に到着した。
やはりすずかとアリサはワンセットなようで、一緒に行動している。それについていくアルトとなのは。まだ半分眠っているアルトを、なのはが引きずっている形だ。
「わぁ~」
アリサとすずかが池の鯉を見ていた。チャンス。
ぽちゃんと、あるものを池に投げ込む。
「ん? 何か落ちた?」
「さあ?」
そこに、ほの暗い水の底から、誰かが浮上する。ざばぁ、っと。
「!」
「!」
「あなたが落としたのは、この黄金柏葉剣付ダイアモンド騎士鉄十字章ですか? それともダイアモンド騎士鉄十字章ですか? それとも騎士鉄十字章ですか?」
主にアメリカ合衆国の静岡に生息する下水の鉄パイプの女神が降臨した。今この場には子供しかいない。フフフ、助けを求めても無意味だ。そのデコイは子供にしか見えない設定なのだよ。
「何も私たちは落としていません」
「なんて素直な子なのでしょう。正直処分に困っていたので全部あげます」
ざばぁ、と。女神さまが消えた後には勲章が三つ、置いてあった。
「こ、これは」
「知っているの、エルテちゃん?」
「伝説の黄金柏葉剣付ダイアモンド騎士鉄十字勲章。ルーデル閣下の為につくられ、ルーデル閣下しか受章したことがない破壊神の証。それにこれはダイアモンド騎士鉄十字章。恐らくはハルトマンのものだ。そしてこれは騎士鉄十字章。シュライネンか?」
などと馬鹿をする。ああ、楽しい。『俺』だったころでは、多分なんの感慨もなく、ただ温泉に入って豪華な飯を食いました、その程度の感想しかなかっただろう。宿題の感想文も、ドライで短くて、何故か怒られた。思ったことを正直に書いたというのに。だが今は、少し、世界に色が見える。
「やっぱりアンタの仕業だったのね!」
「私は勲章を投げ込んだだけだ。噂通りだったということか」
アリサがバーニングしている。ああ、かわいいな。この反応が楽しい。嬉しい。無論、本気で怒っている訳ではないのは知っている。
「あはは、車の中で言ってたのはこれのことだったんだね」
素直に笑ってくれるすずか。この笑顔には癒される。どうすれば、そんな風に笑うことができるのだろう。うらやましくて愛おしい。
「ほら、なのはにはこれをやろう。僚機を失わなかった、伝説のファイターの勲章だ。多分偽物だろうが、それでもお守りにはなるだろう」
ハルトマンのダイヤモンド騎士鉄十字章を渡す。散りばめられたダイヤも全て本物だが、これは本物に限りなく近いイミテーション。
「にゃっ、あ、ありがとう……?」
「いずれ、この意味が判るといいな。今はアホの子だが」
「ひ、ひどいの!」
涙目で文句を言ってくるなのはだが、そもそもからかっているので口の悪さはネイキッドだ。攻撃力20倍、エネルギー切れはなし。
「悔しければ、理系科目以外で私に勝つことだ。フフフ……」
「全教科満点の超人に勝てるわけないじゃない!」
「ふむ。ならば……アルトに勝てたらでどうだ。それならバカにはしない。おまけにルーデル家特製のシチューを食わせてやろう」
「ルーデル家特製シチュー……あの伝説の!?」
「すずか、知ってるの?」
「あの桃子さんが唯一敗北宣言をしたという、唯一の料理。本当においしいよ、あれは」
素材の状態、気温に湿度などから最適な調理法を確立する。素材が最悪な場合は、魔法による探査と回復を応用してどうにか食えるレヴェルまで引き上げる。だから、異常にうまい。はず。
これはチートではない。繰り返す実験からはじき出された計算式、それがこのシチューのマジック。『俺』が暇な時にひたすら続けた研究の成果。
「おねえちゃんの料理……ウマー……」
「なんですずかは食べたことがあるのよ?」
「アリサとすずかとなのはが遊びに来た日だ。アリサが遊びつかれて寝た後に、な」
第二次ルーデル屋敷襲撃事件。バカみたいに強い魔導師のなのはは結界にごまかされないので、一緒に来た二人も屋敷に到達できたが、帰る際に迎えの車が迷走してしまったのだ。なのはは既に自力で帰ったが、日も暮れて、ならばいっそ泊まってしまえばいいという結論に達し、ルーデル屋敷襲撃は急遽お泊まり会になったのだ。仕掛け満載の洋館ではしゃぎまわった結果、体力の差でアリサが眠りこけてしまったのだ。飯も食わず。
「なんで起こさなかったのよ!」
「起こしたら般若の形相でバーニングされた。あれは本気だった」
「あはは……」
実はさほど気にしてない私の反応を思い出してか、すずかが苦笑いする。起こそうと思えば起こせたが。
「くううううううぅぅぅぅぅぅ……」
「くぎゅうううぅぅぅぅぅぅぅ……」
「まねするなー!」
「フフフ……」
からかって一番面白いのはアリサだ。これは間違いない。
「おーい、終わったぞー」
「ふむ。行こうか」
なのはに預けた、未だねぼけているアルトを背に負い、旅館の入り口に向かう。
「ありがとう」
「ん、どういたしましてなの」
なのはは敵と味方の二元論でものを考えない。友達であれば、恐らく無条件で信じてくれる。だがその限度を越え、私が間違っていることをしていると思えば、たぶん殴ってでも止めるだろうが、私はそう簡単に止まらない。『俺』は、たとえ友であろうとそれを最大限に利用し、障害になる時はどんなに親しい者でも排除していた。今はその覚悟が鈍っているが……大丈夫。嫌われ者は慣れている。
「そろそろ起こしてやらないとな」
アルトは軽い。非力ななのはが引きずることができるくらいには。面白いことに、『空飛ぶ重戦車』タイプの私と違って、アルトは『機動は神、装甲は紙』な空戦タイプだ。ブースター付A-10神とメビウスラプター。私がなのは、アルトはフェイトに似た感じだ。性能は、ロストロギアだけに比べものにならないが。
ああ、性能なんて、本当に工業製品みたいだ。細胞というマテリアルを組み上げて造る、私というAIを搭載したヒトガタ。センチュリアを構成する要素で、実験体で、兵器。
「どうしたの?」
なのはが聞いてきた。見ると、心配そうな顔で私を見ている。
「どうもしないが……どうした」
「んー、とっても辛そうな顔をしていたの」
この勘の良さは、戦闘民族の血か。
「実は、アルトを起こすのが辛くてな。やっと寝たのに、だが起こさなければと思うとな」
私はウソツキだ。だが、その鉄面皮から『何か』を感じ取ったなのは。
「気にするな。行こう」
温泉には、シュタインベルガーは向かない。温度が高く、ヴァインは劣化してしまう。やはり風呂で飲むなら日本酒、男山に限る。
「お酒、ダメなの」
「私は飲んでないぞ。ヴァインならともかく、15%の男山は酒だ。ハンナの専門だ」
「美女と美少女を肴に温泉で飲む酒はまた格別だな。この世界に生まれてよかった」
「そんな大げさな」
「アルト、沈むな」
「すごい冷静だね……」
「起きるかと思ったんだが。眠ったままだから面白いように浮く」
仰向けで湯船にぷかぷか浮くアルト。ときたまブクブクと沈むが、さすがに危ないので私が頭をホールドしている。
「うみゅ? おねえちゃん?」
「やっと起きた。どうだ、温泉は?」
「もう温泉? ドジこいたーッ!」
「それだけ元気があればいいか」
「くすん」
もしかしたら、エイダのオタ化はアルトのせいかもしれない。カノーネンフォーゲルはエイダとリンクしていたりするのだ。
「おねえちゃんおねえちゃん、あれやって」
「あれ……むう」
かわいいアルトのためならば、あれをやるのもやぶさかではない。一度湯から上がる。それから息を整えて、湯に足を入れる。
「え?」
「それ、どうなってるの?」
ぱしゃんと水面を足の裏が叩く。
「見よ! これが波紋の呼吸法!」
と、声を出した瞬間に湯の中に落ちる。
「波紋の練りが甘いわね」
「できないくせに生意気な」
「本当に波紋なのかな……」
「トリックはあるが教えない」
「え? おねえちゃん、あれトリックだったの? 本物の波紋だと思ってたのに」
「そのトリックを暴けないなら、波紋を使っているのと変わらない。要は『不思議な結果がそこにあること』が重要なのだ。言い方は妙だが、魔法も奇術もネタが判らなければ同じだということだ」
さっきから私をじーっと見ている、ユーノとなのはに念話を送る。
《魔法じゃない》
《嘘なの。飛行魔法を使ったでしょ》
《いや、なのは。魔法じゃないよ。魔力反応は無かった。ジャミングがあるから判りづらかったけど》
《奇妙なことであふれている世の中の、奇妙なものの一つだ》
そして、頭をひねるなのはを会話からシャットアウトする。
《さて、ユーノ。申し開きがあれば聞こう》
《ぬ!?》
フェレット状態だから判らないが、恐らく顔は赤いだろう。心頭滅却していたのかどうかは知らないが、意識しないようにはしていたのだろう。それを掘り起こし、ひたすらからかってやる。
《まままままままま前くらい隠してよ!》
《ほう、私の躯がそこまで魅力的だとは知らなかったな。抱きしめてやろうか、淫獣》
《い、いんっ……》
今度は青くなっているのだろう。絶句が全てを物語る。
《悠々たる哉天壤、遼々たる哉古今、五尺の小躯を以て比大をはからんとす……》
何故知っている。というか、辞世の句を詠むな。現実から逃げたいのは判るが。
《笑いもしない、可愛げもない不気味な少女よりか、なのはがいいのは判るがな》
《そ、そ、そんなことは……》
《ん? 私がいいか。やめておけ、私は攻略対象ではない》
《何の話だよ……》
《どうせなのはに惚れでもしたろう》
《ななななぜそれを!?》
離れた、視界の外でばしゃばしゃと水音がする。アリサたちが戯れている音ではない。
《なのはは異常なまでの鈍感だし、かなり恋愛に関する常識も欠落している。明確な意思を持って、『それを教えてやる!』くらいの気概でやらないと、多分落とせない。そうだな、なるべく離れるな。疎遠になったらおまえの場合致命的だ》
《……なるほど》
少年の恋愛相談も程々にして、今を楽しむことに専念する。アルトが眼を離した隙にまた寝てブクブク沈んだり、ユーノが哀れにもアリサに全身を洗われたり、なぜかなのはが男山を飲んで倒れたり。平和だった。
森の中を散策する。浴衣ではなく、いつもの黒服。森を歩くのだから森林迷彩やギリースーツを着たいのだが、これはただの散歩。まだ日も暮れていないし、黒では偽装効果はあまり望めないのだが。
記憶では、フェイトがこの森にいる。魔力反応が希薄なサーチャーに、ステルスとジャミングをかけて飛ばしているから、いずれは見つけることができるだろうが。
《つくづく思う。私は、こんなことに向いていないと》
[[強襲、殲滅、制圧がランナーの特性ですから、それは仕方ないのですが]]
《苦手、なのに一応できるし、その一応でプロも余裕で超えられるからタチが悪い》
[[ランナーを簡単に表現するなら、航空支配戦闘機です]]
世界最強の猛禽類。不本意だ。
[[魔力反応を感知。フェイト・テスタロッサと一致]]
《気づかれてないか。よし、デコイ》
[[ロード。誰にしますか?]]
《……サヤ・ハミルトン》
[[了解。サヤ・ハミルトン、Imitate]]
私の姿が消え、それに覆い被さるように幻影が現れる。
「あれ? ねえねえ!」
性格を全力で歪める。別人を演じる。声を芳野美樹ヴォイスに変えて。
《非常に不本意です》
「……?」
樹の上の少女。私の声に反応はするが、気付かれていないとでも思っているのか。認識阻害結界を信頼しすぎている。世の中には、希少だがそんなのを看破する人類が存在するというのに。
「樹の上のキミだよー!」
「え?」
やっと、自分が見られていることに気付いた。その驚いている隙に、しゃかしゃかと樹に登る。フェイトのいる枝、そこにぶらさがってくるりと、鉄棒の要領で枝に立つ。
「おおっと」
「わ、わ」
枝がしなり、私はバランスを崩して、落ちかける。
「っと。やあ」
「えっと、あの……」
「なんでこんなところに?」
「えと……探しものをしてて」
「そうなんだ。よし、手伝ってあげる」
ひょいと、飛び降りて全力疾走。割と重力を無視して、駆けだした私を見て、フェイトは呆然としていた。普通に飛び降りて、無事な高さではない。それこそ魔法を使わないと無事ではすまない。だが、魔力反応は一切存在しない。
そして、フェイトが発したサーチャーには、私は映らない。肉眼では見えるのに。
フフフ、私が楽しませるのは、全ての子供たち。恐怖を楽しむがいい。
[[悪趣味です]]
《私のストレス解消と、少しだけの悪戯心》
[[違います。先程のキャラクターです]]
《芳野美樹ヴォイスか》
[[私の中に声優データがそれしかないとはいえ。私の声で……キモイです]]
楽しかった。あのエイダが凹んでいる。
《さてさて。幽霊の名は、何がいい?》
[[エヴァ・ガーランドなどはいかがでしょう]]
《……アドルフ・ヒトラーか》
[[ヴェルナ・メルダース]]
《男じゃないか》
[[あれはヴェルナーです。エリーゼ・ハルトマン]]
《もういい。サヤでいく》
要はこの名前会議の時間さえあればいい。
「おーい」
「あ……」
また同様にしゃかしゃかと樹を登り、器用に枝に正座する。
「キミの探しものはこれ?」
エルテ謹製、紅いジュエルシード。シリアルは存在せず、無制限に創り出すことができる、新型カートリッジのパウダー。
「あれ? あ……うん。でも、どうして……」
「昔から、人の考えてることが読めたんだ。ちょっとだけのイメージだけど。よかったー、街にまでいって探したかいがあったよ」
「ここから街まで?」
「うん。頑張ったんだから。じゃあ、縁があったらまた会お!」
ゆっくりと、その姿を消していく。私は新たにステルスを起動し、デコイの効果が切れるのに対策する。ゆっくり飛行し、ある程度離れた場所でフェイトの様子を観察する。おーおー、探してる探してる。サーチャーがバラバラと飛んでくるが、無視して旅館に戻る。
しかし、いつまで経っても怖がるそぶりを見せないのは何故だろうか。幽霊というものの意味を理解してないのだろうか。確かに、お化け屋敷で平然としていそうなタイプだが。
あ、名乗るの忘れた。
どうも、フェイトをからかっている間になのはとアルフの邂逅イベントは終わったようで、温泉に浮かんでずっと待っていると、アルフが入ってきた。
私の姿はエルテのまま。しかし、男山入り徳利を搭載した桶を浮かべていい感じに酔っている。ハンナは卓球で恭也と美由紀相手に二刀流で相手をしている。士郎相手ならどうか判らないが、これでいい勝負をしているのだからこの躯のスペックが伺い知れる。
それはともかく。
「やあ、お嬢さん。飲むかい?」
「ん? アンタは……まあいいや。それ、なんだい?」
「温泉の醍醐味だ。中身は日本酒だが、温泉で飲むとまた格別だ」
「へえ~」
しっかり食いついた。うまいもの、と思わせれば来ると思った。
「じゃあ、少しもらおうかしら」
「おう」
いくつかあるおちょこを差し出し、温泉でぬるくなった男山を徳利から注ぐ。
それを持ったアルフ、一気にそれを傾ける。量は少ししかないのだが。
「わお! なかなかおいしいじゃないか」
「そうか。よし、まだまだあるから遠慮なくやってくれ」
「んー!」
などと風呂で愉快に飲んでいた。しかし、アルフはそこまで強くはなかったようで。
「しゅこし、のみすぎたかしらん?」
「ふむ。ちょうどなくなったことだし、お開きにするか」
少しばかりろれつがおかしいアルフを上がらせ、片づける。時間的にも、酔いが醒めるころにジュエルシードが発動するだろう。実は、既に封印してあるものを時限装置付で放置しているのだ。
「大丈夫か?」
「だいじょーぶよぉ。でもありがとぅね」
少しばかり足元がおぼつかないアルフに肩を貸し、とりあえず脱衣所まで行って別れた。
しかしまあ、調子に乗りすぎたか。
夜。それなりに旨いものを食い、温泉にダイヴし、布団に突撃する。
すずかとアルトと話して、アリサとなのはをからかって、そして川の字に並んで眠る。二本多いが。
アリサとすずかはしっかり熟睡しているが、なのははなんとも眠りが浅い。
私はそれを確認して、しっかり眠りこける。外にも私はいるのだ。
腕時計がカウントダウンを始める。
時限装置付のジュエルシードが、あと数分で解放される。
「ずるい気がしてならない。大規模破壊なんて大雑把なことが最も得意な私をここまで小さくできるのは、おまえのおかげだな」
『褒めないでください』
「じゃあ褒めない」
『褒めていたのですか?』
「かなり本気でな」
『信じられません』
「信じる信じないはおまえの勝手だ」
『信じられませんが、嬉しいです』
相変わらずのスカイアイ。空中管制もできるが、本質は衛星兵器。
なのはとフェイトがやられた場合のバックアップ。私はその程度の役割しかない。ある程度は原作通りに動かしつつも、裏で歴史を書き換える。
『起爆5秒前、2、1、ドライヴ』
独特の感覚。ジュエルシードの、発動しかけの魔力反応。
「仕掛け、起動したな。反応だけで発動はしない、愉快な仕掛け」
『今日ははっちゃけていますね』
「たまには悪ふざけも必要だ。ほら、パーティーの始まりだ」
フェイトとなのはがエンゲージ。何やら話しているが、双方共に臨戦大勢だ。
『始まりました』
「傷つけあうと判っていても、それを止められない、か」
『ランナーには、介入する力があるはずですが』
「私の。これは私の物語ではない。裏で関与はできるが、表で派手に介入することはできない」
『未来の話、ですか』
「私はこの物語に存在するはずのなかったイレギュラーだ。歪んだストーリーを修正するために、そして最後に幸福な平穏を迎えるためにのみ、私は動く」
『その平穏に、あなたの姿はありますか?』
「平穏に兵器は必要ない」
眼下には、桜色と金色の光が踊っている。ヘルゼリッシュなんて悪趣味な魔法を介さずに見ると、なんて綺麗なのだろう。
『…………。ジュエルシードモンスターの発生を確認。移動を開始。予測目的座標、戦闘区域』
「無粋だ。ドライヴ」
『ADMM、Drive』
この美しい光景に水を差す存在は許さない。ノスフェラトの最低弾数である12発の誘導弾が放たれる。
『着弾確認。対象の消滅を確認』
こんなものに、平穏に生きる権利は無い。着飾る必要も、綺麗である必要も。
『バンダースナッチを起動。ジャミング効果付加、Run』
エイダは、私にはもったいないくらい優秀すぎる。命じなくても、私が望んだ通りに動いてくれる。私は、ただの動力炉であるだけでもいい。それが十年以上の学習の成果。
「もしおまえに魔力タンクがあったら、私は要らないな」
『……私は、人間の行動を予測できますが、ランナーのように、感情という理解できないものを考慮して完全な予測はできません』
「それが理解できたら、それこそおまえは完全だ。人間と変わらない、AIのいきつくべき域へ達したことになる。そうなれば、私は要らなくなる」
『それは……』
「その時は、この躯、おまえにやる。おまえはいずれ、人になるべきだ」
『ランナーは、消えたいのですか?』
「俺は、みんな大好きだ。アルトもエイダもカノンも、高町家の人たちも、アリサやすずかも、みんな、みんな」
『ならば、何故』
「……終わったぞ」
フェイトの勝利で戦闘は終わっていた。私の仕掛けを見て、首を傾げている。面白い。
クスクス笑っていると、
『私は、ランナーに消えてほしくはありません。ですので、永遠に感情を理解することはありません』
やはり、エイダはADAではない。
《あとがき》
念話のカッコは、気付いた方もおられるかとは思いますが、AC5から。
派手なオリ設定きました。
エネルギー結晶体。エルノーイル倒しまくった日々が懐かしい……
なんというか、ジュエルシードってサードエナジーっぽいって思ったのは私だけですかね。だけですね、たぶん。
そういえばダディフェイスで願いをかなえる水があったなー。宇宙船のワープゲート繋ぐのが本来の用途だったはず。どうでもいい話ですが。
スカさんが普通に使ってたから、これが正しい用途だと思います。願いをかなえるってのは副作用ってことで。
なんか最終決戦に向かうような感じになったのは何故だろう。エルテの過去なんて正直どうでもよかったり(オイ。
戦闘描写は、エルテの裏方という立場からあまりありません。技量不足を隠すためでもあったり。ルーデル禁止の意味をかみしめていたり。
ルーデル機関はスカさんの研究に匹敵する技術(別分野/世界崩壊前の技術/エルテの手で更に発展)と、センチュリアの戦力である意味最強です。実際、センチュリアは戦力としては強すぎて使えねーのですが。
魔法技術の研究は、この先必要になるので、人海戦術でトンデモなものを開発していたり。研究施設もセンチュリアも大量生産中。いろいろ問題はあるのですが。製造費とか研究費とか維持費とか。
フェイトは結構天然ぽいかと。一部のSSの影響か、ぽやぽやしていそうなイメージが刷りこまれています。
ノスフェラトは、弾数がダース単位でしか調整できません。ADMMがベースですので。ACのトンデモ兵器は大好きです。
魔法がミッドやベルカと全く違うので、面白いことに。
エイダはエルテが大好きだったり。ある意味でツンデレ、かも。
03のWordで書いてたら、いつの間にか50kBを超えていた罠。