木刀を振る。別の場所で、私が10人、同じ動作を真剣を持ってしている。
「凄いな……」
恭也が呟くのが聞こえた。これが普通の人間の躯で、私が一人なら、純粋に喜べただろう。
「流石に5時間もやっていると飽きるな」
「あ、ああ。もういい」
単純計算で50時間分の経験。私の眼で私を見て、悪いところをフィードバックするから、余計に成長が加速される。
「休憩しよう。疲れただろう?」
「いや、全く」
息すら上がっていない。腕には倦怠感も、痛みもない。前に冗談で言った、ターミネーターのようだ。
「ものすごいタフだな。それ、かなり重いはずなんだが」
「タフさならナガセや須田恭也にも引けをとらない。ルーデル閣下を過大解釈して造られた躯だからな」
敢えて言おう、奴等は変態であったと。可憐な少女を魔王の器にする理由が『ギャップ萌え』。あの世界でそのファイルを見た時は、プラネットブレイカーを叩き込みたい衝動に駆られた。その彼等の理想の少女が傷つくのが見たくないから、究極の肉体を作り上げ、与えたのだ。
「須田、恭也?」
それに食いつくか。
「不幸にも不老不死の呪いをかけられて、異界に閉じ込められて、永遠に化物を殲滅し続ける運命の、永遠の16歳だ」
「む……それは嫌だな」
「美耶子という女の子に会ったら、絶対に離れるな。赤い水には近づくな。警官は殺しても警戒しろ」
ニヤ、と笑いながら、うろ覚えなどうあがいても絶望的な状況を思い出し、的確な助言を与えた。
「凄く物騒なアドバイスが聞こえた気がするが」
「気にするな。休憩はもういいだろう」
「……立場が逆転してないか?」
と、私が恭也をしばきしばかれて(HP 8750/9999)、疲れ果てた恭也にマッサージをしている頃、別の場所では……
「う……ぐ……うわ!」
クライドのリハビリに付き合っていた。
冷凍睡眠していたとはいえ、10年もインキュベータの中で死んでいたのだ。私とエルテが解凍直後に動けたのは、我々が、破壊神の器だからだ。いついかなる時も、常に戦えるように造られている。
「ぬう……」
「今日はもうやめておけ。急いては事をし損じる、と言うからな」
「ああ、そうするよ」
床でもがいているクライドを、車椅子に乗せて押す。
「ありがとう」
「気にするな。力だけはあるからな」
「いや、そうじゃない。艦から助けてくれたこと、艦を沈めてくれたことにお礼を言ってなかったからね」
「艦を沈められて礼を言う艦長なんて、初めて見た」
「はは……闇の書に侵食されすぎて自爆できなかったんだ。君が消し飛ばしてくれなければ、今ごろ……」
驚きの新事実が発覚。クライドは艦の自爆に失敗していたらしい。ただクライドを死なせないためだけに行動していたのに。
「今でも鮮明に思い出せるよ。黒い光に包まれて消える……」
血のように紅く、黒い、私の魔力の光。あの時はとりあえずアルカンシェルクラスの威力を出そうとして、プラネットブレイカーを叩き込んだ。初めて惑星破壊砲が有効活用された事件だったが、その余波で小規模な次元震をおこしてしまい、結果、クライドは死んだ。
ハッピーエンドの可能性を自ら叩き壊してしまった。しかし私は、愚かにもプレシアと同じ研究に手を出し、それを完成させてしまった。
「でも、私はクライドを殺してしまった。10年の時を奪った。恨まれても、感謝される理由は無い」
「いや、私はあの時死ぬはずだった。だが、君が助けてくれた。確かに死んだのかもしれないが、今、こうして生きている」
「犯罪者の手によって」
クライドの笑顔が固まる。
「確かに、私はクライドを甦らせた。117人目の私の命を対価に。生命還元法の確立、立証実験のために、17人の私を犠牲にした。クライドを蘇生させるためだけに、18人のクローンを造り出し、殺した。時空管理局も、この行為を許すほど寛容ではない。エルテ・ルーデルという個人がただ生まれて自殺しただけ、ではすまないだろう」
「だが……」
「やむを得ないとはいえ、管理局の艦を撃沈している。そして、管理局に登録していないい今、違法魔導師扱いだ。そしてそれを踏まえた上で行動している。酌量の余地は無い」
「……だが、恩人であることに変わりは無い」
恩人。そもそも、人であるかどうか怪しい。
「これを見てもそう思えるか」
ある部屋に入る。
「ここは?」
「エルテの製造工場」
全ての灯が灯される。
「!」
そこは、プラントだ。インキュベータが並び、その中で、私の素体が眠っている。
119とラベルの貼られたインキュベータの前に向かい、その隣のコントロールパネルを操作する。
解凍開始。
「ここにいるのは、全て私。覚醒すれば、私の一人となる」
覚醒処理。
「我々はルーデルセンチュリア。破壊神の百人隊。もう百人を超えているが、基本的に行動するのは99人。私は118番目のエルテ。今存在するエルテの、ちょうど100人目」
排水。
『私は119番目のエルテ。120番目のルーデル。今存在するエルテの、101人目』
開放。
「なあ、クライド」
「私は、なんなんだ?」
だれにも訊けなかったことを、今初めて訊いた。
魔法戦の訓練は、エイダが相手をしてくれる。恭也にしばかれた訓練部隊は実戦部隊と交代し、『最初の世界』で訓練に励む。
『敵、オービタルフレーム、ジェフティ。及びメビウスワイバーン、ラーズグリーズファルケン。囲まれました』
「なあエイダ。詰んでないか?」
『せいぜい頑張ってください。可能性はゼロではありません』
「限りなくゼロに近いか」
『その通りです』
最強のOFと最強の戦闘機と最強の攻撃機。勝てる気がしない。
『メビウスワイバーン、QAAM発射』
ミサイルがどこまでも追いかけてくる。
「くそ、ノスフェラト!」
『Ready』
「ドライヴ!」
小型の誘導弾が幾つも打ち出される。高速で移動しながら、アヴェンジャーのデフォルト砲撃も行う。バルカンモードにする暇も惜しい。
『ミサイル撃破』
ミサイルは撃破できても、メビウスにもジェフティにも当たらない。ブレイズに関しては、ボコボコ当たっているのに無視だ。
「おい、命中してるぞ」
『ラーズグリーズの装甲です。ノスフェラトの魔力密度では貫通できません』
最悪の状況。結構高機動なノスフェラトが当たらず、あるいは無意味。範囲破壊兵器を使うのが最良だが、それだと訓練の意味がない。
「再優先撃破目標、メビウスに設定」
『再優先撃破目標、メビウス』
「視界外警戒頼む」
『了解』
最強トリオの中で、最も装甲が弱いのがメビウス。やはり『機動は神、装甲は紙』と揶揄されるコンセプトは、メビウス専用X-02にも適用されているだろう。希望的観測だが。
「うごッ!」
『背後からジェフティが接近』
攻撃された後に言われても、意味は無い気がする。そういえば、奴がオリジナルだったか、ゼロシフトは。ネイキッドじゃないだけましだ。
『敵ジェフティのゼロシフトを予測します。よろしいですか』
「先にやってくれ……」
アヴェンジャーで魔力弾をばらまいて牽制をしながら、なるべく射程外に居座る。最も怖いのはファルケンレーザーだ、射程2400は伊達じゃない。射程ギリギリだと、レーザーが暴れまわるので、正直3000は離れたい。
ジェフティはもう射程とか意味がない。ゼロシフトで一瞬で距離を詰められる……いや待て。
「カートリッジロード、チェトィリェ。バンカーバスター」
『Ready』
「ゼロシフト予測は方向も教えてくれ」
『了解』
さて、ファルケンやワイバーンが寄ってこれないように、消極的攻勢に出る。
『メビウス、被弾』
「おお」
『ダメージ22%を与えました』
ACEでのAAGUNのダメージはその程度だったか。ミサイル一撃死は、敵だから適用されないだろう。というのも、オタ化が激しいエイダは、ゲームの設定で俺に空戦訓練をさせているのだ。メビウスもブレイズも、ZEROのメビウスを元に魔改造されている。よほど巧くないか、運がよくないと当たらない。
『メビウス、学習した模様。アヴェンジャーはもう通用しません』
「なんだと?」
『バルカンモードへの移行を提案』
「許可する」
砲身が細く、軽くなる。
『ゼロシフト、真上です』
「馬鹿め」
バルカンを真上に向ける。完全にロックオン。
「バンカーバスター、フォイエル!」
ゼロシフトで亜光速まで加速したジェフティが、防御・装甲貫通の砲撃に貫かれた。
『ジェフティ、破壊を確認』
「次だ」
『警告。レーザー攻撃です』
『警告。QAAMです』
「な!」
光が俺を包む。同時に全身に着弾するQAAMの痛み。
『撃墜されました。おつかれさまでした』
訓練だが、死ぬほど痛い。ファルケンレーザーとQAAMのダブルパンチどころか何発食らったも判らない。QAAMは2発しか撃てないから、なんて甘えは許されない。追撃の機関砲もついでに食らったのだ。
『最大の脅威、ジェフティを撃破し、メビウスにダメージを与えました。評価、A』
「Cだ。周囲の警戒を怠った。ゼロシフトを使えば逃げられた可能性もあった。クイックキャストに入れてすらいなかった俺の判断ミスだ」
『訓練開始前の評価では、どの敵にもダメージは与えられないはずでした』
どれだけ俺をいじめれば気が済むんだ。
『お見事です』
ほめられた。悪い気はしない。
その次の日の訓練メニューは、対地・対艦・対空・対宙同時戦闘。殺す気か。
《あとがき》
ギャグが書けない。
というか微妙な気がしてならない。
昔、「てめーはシリアスだけ書いてろ」などと言われたことがあったり。
現在死ぬ気でセンスを磨いていたり。磨けるものなのか?
とまあ、訓練編です。
エルテが何人もいるので、殆どのシナリオが同時進行であまり話が進みません。更に人数増加フラグ。今のところ、120人以上増やす気は無いですけどね。クローンも一つの命なら、命の対価として消費できるのではないか。『アイランド』とか、『あなたは誰のスペアですか』とか、『ぼくのたいせつなもの』みたいな。方法は違うけど。
最近、無印地上波の録画を見直していましたが、流石に悪い画質に辟易して、DVD購入という暴挙に出ました。ハッハー! 今日からカロリーメイト生活だぜー!
産業革命記、全然できねえ……機械工作法の講義受ければ受けるほど……
Nov.8.2009
話数変更。