無傷少女メビウスゆてぃ。
魔王少女デストロるでる。
悪魔少女スナイプへいへ。
この物語にタイトルをつけるとしたらこうなる。全部ファミリーネームなのがミソだ。共通点に気づいて欲しい。
そう、人の身でありながら、神や魔王、あるいは伝説などと神格化されている人物だ。私としては、二番目をお勧めしたい。相棒はガーデルちゃんで。
不思議なことは立て続けに起きる。
朝起きたら俺の前に美少女がいて、そいつは俺で、俺が私になっていて、そして別世界だった。
理解できるまい。正直、私も理解したくない。だが、理解せざるを得ない。これは現実だと、もう一人の俺と握手しながら一発づつ殴りあった結果なのだから。
目の前には左の頬を腫らした暗い赤と黒のオッドアイに、銀髪の綺麗な少女。
簡単に言えば、俺が美少女になって、しかも分裂していた。感覚は繋がっているらしく、殴りあった時は四倍痛かった。いや、感覚だけではない。この場合、私は両方が本体であって、両方とも本体じゃない。どっちかが本体で、片方がそれに隷属する訳じゃない。一部の人に判りやすく言えば、分散コンピューティング、もっと多数の人に判りやすく言えば『スカイネット』。両方とも私の意思で自律行動できる。マルチタスクの進化版のような思考。同行者の視界をジャックして行動する作家のような、それが相互名な状態。たとえ片方が死んでも、『私』という存在は死なない。二人とも殺されれば流石に死ぬが。いや、片方だろうと死にたくは無いけど。
転生とか憑依とやらか、などと考えるが、死んだ覚えは無い。俺には閣下の祝福があるからそう簡単に死ぬ訳は無い。誕生日が同じだけで、何の根拠もないが。
あ、嘘だ、思い出した。死因は判らないが『俺』は盛大に死んだ。訳も判らず、恐らく即死。なんでそんなのを覚えているのか。
判らないものは仕方ないし、死んでしまったのはしょうがない。終わったことを考えるより、現状をどうにかするのが先決だ。
さっきまでベッドで百合よろしく全裸で向かい合って眠っていた私二人。色気を感じないのは何故だろう。今はどうでもいいこと、優先順位の高いことを優先。思い立ったろすぐ行動、周囲の調査だ。
終始無言である。私は二人で一つ、二人いようと話す必要は無い。私との会話なんて、それは独り言で会話するような痛い人間と同じ。
部屋は病室みたいだった。真っ白な部屋、硬い床、洗面台、窓のない壁、鍵のかかってないドア、病室としては不釣り合いな豪華な大きなベッド、そしてクローゼット。生活感の感じられない無機質な部屋だが、病室としては少しだけ色気がある。ベッドとクローゼット。無機質なパイプじゃない、木製のベッド。それと、ゴスロリっぽい黒い服が目立つクローゼット。下着もあった。
とりあえず、服を着よう。ゴスロリは無視して、他にかかっていた動きやすそうなTシャツとスラックスを装備して、とっとと病室を離脱。何があるか判らないから、二手に分れたりはしない。僚機を失ったものは、戦術的に負けているのだ。
部屋の外は無機質な廊下が続いていた。病室は、この廊下の突き当たりだった。ちなみにこの廊下、一番奥以外にドアは無い。完全に一本道だ。しかも長い。罠などもなく、ただテクテクと歩いて、明らかにおかしい扉にたどり着く。バイオハザードをプレイした人は判ると思うが、要はそんな扉だ。MBTの主砲を叩き込んでもブチ抜けそうにない、シリンダーとハンドルで封じられ、どう開くのか判らな……くもなかったが、そんな扉。開けるためのコントロールパネルが右にある。
「ドイツ語……か?」
かつて、ドイツ語の異常なカッコ良さに魅せられ、猛勉強したものだ。懐かしき中二病の時代。アルファベットに非常によく似た、独特の装飾文字がディスプレイを踊る。
「微妙に違うな……こうか?」
ロックすらかけられておらず、Entsperren(Unlock)、öffnen(Open)と選択していくと、ハンドルが回り、シリンダーが上がり。ゆっくりと左右に開かれる。天井にぶらさがっている赤色灯がくるくる回り、耳触りなブザーが鳴り響く。妙だ。妙にすらすら読める。
『う……』
その隙間から漏れる匂いに、俺は顔をしかめた。鉄錆のプールに沈められた、そんな悪臭。
視界を遮る扉が開いていき、真っ暗な扉の中に光を与え、代わりに臭気を吐き出していく。
やがて騒がしい音は消え、廊下の灯に侵食された闇が、その正体を表す。
「酷いな」
死体がごろごろ転がっていた。どうも斬り殺されたようだ。
立方体のかなり広い部屋に、壁一面にモニターのついた機械やタンクなどが並んでいる。研究施設のようだ。
そして、そんな光景の中心に、インキュベータのようなものが存在した。円筒形の培養槽、その中は蒼く照らされ、一人の少女を封じていた。さっきまで見つめあっていた、私と同じ顔。
「あまり、人道的な研究じゃなさそうだ」
少女のバイタルモニターらしきものが、ピ、ピ、と周期的に心拍を数えている。生命に問題はなさそうだ。
とりあえずここは放置だ。別の部屋に行こう。
ツーマンセルを崩さず、探索の途中で手に入れた地図を手に、施設を荒らし回る。どうも、もうここには誰もいないようだ、生きている人間は。中央監視室なる場所で、いくつもの監視カメラの映像や生命反応を調べてみたが、私が確認できた輝点は三つだけ。俺が二つ、インキュベータの少女が一つ。被験体保存庫の映像に、幾つかの小さい人入りインキュベータが幾つかあったが、生命反応は無い。ここにいたであろう人間の変態嗜好が手に取るように判った。違うかもしれないが。
出口は見つけたが、もう少しここで情報を集めてもいいだろう。あの少女を放ってはおけないし、もしかしたら被験体保存庫の連中も生きているかもしれない。
で、資料室や端末を片っ端から調べ回っている。一応一人が調べて一人が警戒する、という形を取っている。
いろいろなことが判って困る。まず、インキュベータに入っている奴は全員クローンだってこと。研究の目的は、遥か昔に死んで封じられた『破壊神』の魂の器を造り、器に降臨させ、復活させること。保存庫の連中はコールドスリープ中。俺はあの部屋ごと冷凍睡眠していたらしい。研究員も、昨日今日死んだ訳じゃないらしい。施設全体の残余エネルギーが減って、部屋ごとの冷凍睡眠に回すエネルギーをメインシステムがけちったらしい。被験体の生存を優先しているらしく、ただ冷凍睡眠を切って死なすなんて選択肢は無いらしく、俺を蘇生処理してからコールドスリープから解放したらしい。つまり、私は転生か憑依をしていながら覚醒せず眠っていたことになる。
そして、魔法という要素。ベルカ式。笑っていいか?
なのはか。なのはなのか。なのはなのだな。じゃなかったらノースオーシア・グランダーI.G.で魔法の研究でもしていたのか?
破壊神用デバイス、『アヴェンジャー』。何となく、破壊神の名前が判った気がする。待機状態が30mm弾頭のペンダント。質量の問題がないとはいえ、こんな幼子に持たせると、バルカンレイヴンよりシュールな状態になるだろう。一般乗用車より重い『あの』アヴェンジャーそのままの形。グリップなどがあり人が持てるように(持ち上げるのは前提じゃない)改造を施されてはいるが、手で持ってドラムを背負うのではなくて、魔力で浮かしてアームガンのように保持する形だ。実弾じゃなくてカートリッジシステムだが、最大秒間消費が65発、最大搭載可能カートリッジ数1350発と、ちゃんとGAU-8の性能に忠実。対空用、対人用に連射速度向上、あるいは小型化、簡略化もできる。バルカンモード、ミニガンモードがこれにあたる。
非常識だ。ルーデル教徒かガトリング教信者がこの死体の中にいたんだろう。
まだまだある。神の器ということで、この躯も、あの少女も、保管庫の連中も、不老不死。そして頑丈にできている。寿命がないというだけで、殺されれば死ぬが、そもそもそう簡単には殺せない、ということだ。さっき思いっきり殴ったのに、もう頬の腫れが引いているのはそのせいか。生体生物兵器の総合商社だな。私は器としては完成一歩手前、あの少女が完全体らしい。破壊神の復活には相応の儀式が必要らしく、それが為されなかったために、いまだ彼女は無垢なままだ。とりあえず、コールドスリープを解除しても問題は無いようなので保存庫の連中は解放する。インキュベータからはまだ出すつもりは無いが。
ここを調べ尽くして、外の様子を見て、それからだ。Sts後の管理局があればそれに任せればいいし、私は地球に戻る。多分、俺のいた地球ではないだろうが。
年代はだいたい無印原作の十数年前。管理局は信頼できないからとりあえず無視。一応世界は移動できる。
外は密林。危険な動物、非友好的な人間の存在を警戒して、アヴェンジャーをセットアップして出る。流石は破壊神の器、急降下爆撃を前提にしているのか、その莫大な魔力のおかげなのか、普通に飛べる。バリアジャケットは黒いトレンチコートと、92式とMk54を参考にした装甲服。バリアジャケットというより、アサルトアーマーだ。空飛ぶ戦車を少しでも表現できればそれでいい。視界が悪くなるから頭部装甲はパージしているが。
しかし、AIが独立型戦闘支援ユニットに非常に似ているのは何故だろう? 名前は無かったらしく、とりあえずエイダと名付けたが。デバイスとAIはやっぱ別々に名付けたい。
『半径100km圏内に生命反応ありません』
「よし、戻るか」
エイダはドイツ語で話す。対する俺は、日本語。毎回思うが不思議だ。近いうちに日本語で話せるようにしたい。
「戻るぞ」
『目的地を表示します』
左眼のHMDにマップと光点が表示される。左側の視野が狭くなっても、やっぱりレンズ付のHMDは重要だ。redEyes的に。これで躯がミルズみたいなら文句は無かったのだが。
とりあえず、この絶海の孤島には、この施設以外何もない。姉妹たちを解放してやろうと思う。まったく同じ顔しかない、姉妹たちを。
保管庫に初めて入って死ぬほど驚いた。予想できないでもなかったがずらりとならんだ100個のインキュベータ、そのうち97個に私と同じ顔の被験体が浮いていた。映画版バイオハザードでも見ている気分だ。面倒なので全て一斉に解放する。
活性化、覚醒処理、排水、解放。
『マジかい』
99人の声が一斉に響いた。成功の度にバージョンアップすれば、私と同じ状態になるのは当然か。この部屋に、『私』以外の存在がいなくなってしまった。つまりは、そういうことだ。最後の希望は、あの少女だけ。
この子が『私』だったら、正直死にたい。こんなにわらわらいたとしても、孤独なのだ。人であるからには、独りでは生きていけやしないのだ。
最後の希望。この子は、私よりバージョンが上。
『頼む』
死体を運び出し、血糊を拭い、換気をしたこの部屋で、いや、この部屋の外にいる私も呟く。
解放作業は進み、少女が眼を開く。
私はエルテと名乗り。
彼女にアルトという名を贈った。
《あとがき》
中二病全開!
中二をネタにしたギャグ書くつもりがなぜかこんなものに。
タイトルは一番最初のものが候補だったのですが。
ちなみに名前のつづりはElteとAlteです。
デバイスからして異常です。
イメージとしては、幼女+92式+Mk54+バルカンレイヴン。
レイヴンと違う点は、バルカンじゃなくてアヴェンジャーって点。バルカンどころかミニガンもできるけど。
ともあれ、長いプロローグにお付き合いいただき、ありがとうございました。
Oct.16.2009
ところどころ修正しました。
Nov.22.2009
時系列のおかしい場所を修正しました。
報告ありがとうございます。