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No.10864の一覧
[0] 【完結】 私、高町なのは。●●歳 (リリカル 地球組魔改造)[軟膏](2009/11/24 01:33)
[1] 第二話[軟膏](2009/08/08 13:30)
[2] 第三話[軟膏](2009/08/10 16:34)
[3] 第四話[軟膏](2009/08/09 11:05)
[4] 第五話[軟膏](2009/08/10 09:28)
[5] 第六話[軟膏](2009/08/10 09:28)
[6] 第七話[軟膏](2009/08/10 16:53)
[7] 第八話[軟膏](2009/08/11 02:41)
[8] 第九話[軟膏](2009/08/11 14:37)
[9] 第十話[軟膏](2009/08/12 16:01)
[10] 第十一話[軟膏](2009/08/13 00:48)
[11] 第十二話[軟膏](2009/08/13 20:07)
[12] 第十三話[軟膏](2009/08/15 01:15)
[13] 第十四話[軟膏](2009/08/15 01:16)
[14] 第十五話[軟膏](2009/08/14 16:14)
[15] 第十六話[軟膏](2009/08/15 01:14)
[16] 第十七話[軟膏](2009/08/15 16:12)
[17] 第十八話[軟膏](2009/08/16 12:58)
[18] 第十九話[軟膏](2009/08/17 12:19)
[19] 第二十話[軟膏](2009/08/19 02:35)
[20] 第二十一話[軟膏](2009/08/17 18:53)
[21] 第二十二話[軟膏](2009/08/19 02:35)
[22] 第二十三話[軟膏](2009/08/19 02:34)
[23] 第二十四話[軟膏](2009/08/19 14:02)
[24] 第二十五話[軟膏](2009/08/20 11:40)
[25] 第二十六話[軟膏](2009/08/21 01:09)
[26] 第二十七話[軟膏](2009/08/21 16:16)
[27] 第二十八話[軟膏](2009/08/22 00:31)
[28] 第二十九話[軟膏](2009/08/22 20:24)
[29] 第三十話[軟膏](2009/08/23 18:47)
[30] 第三十一話[軟膏](2009/08/24 09:53)
[31] 第三十二話[軟膏](2009/08/24 18:44)
[32] 第三十三話[軟膏](2009/08/25 12:09)
[33] 第三十四話[軟膏](2009/08/25 16:42)
[34] 第三十五話[軟膏](2009/08/26 23:05)
[35] 第三十六話[軟膏](2009/08/26 23:45)
[36] 第三十七話[軟膏](2009/08/26 15:38)
[37] 第三十八話[軟膏](2009/08/26 23:02)
[38] 第三十九話[軟膏](2009/08/27 09:32)
[39] 第四十話[軟膏](2009/08/27 18:45)
[40] 第四十一話[軟膏](2009/08/28 14:21)
[41] 第四十二話[軟膏](2009/08/28 14:22)
[42] 第四十三話[軟膏](2009/08/28 18:44)
[43] 第四十四話[軟膏](2009/08/29 10:32)
[44] 第四十五話[軟膏](2009/08/29 14:48)
[45] 第四十六話[軟膏](2009/08/29 22:02)
[46] 第四十七話[軟膏](2009/08/30 18:30)
[47] 第四十八話[軟膏](2009/08/31 08:53)
[48] 第四十九話[軟膏](2009/09/01 06:08)
[49] 第五十話[軟膏](2009/09/01 23:30)
[50] 第五十一話[軟膏](2009/09/02 12:59)
[51] 第五十二話[軟膏](2009/09/03 14:39)
[52] 第五十三話[軟膏](2009/09/04 01:18)
[53] 第五十四話[軟膏](2009/09/04 15:56)
[54] 第五十五話[軟膏](2009/09/05 16:37)
[55] 第五十六話[軟膏](2009/09/06 21:49)
[56] 第五十七話[軟膏](2009/09/07 14:06)
[57] 第五十七話IF[軟膏](2009/09/07 17:30)
[58] 第五十八話[軟膏](2010/03/17 17:58)
[59] 第五十九話[軟膏](2009/09/09 00:00)
[60] 第六十話[軟膏](2009/09/09 12:05)
[61] 最終話[軟膏](2009/09/10 09:27)
[62] あとがき[軟膏](2009/09/10 10:21)
[63] ありえたかもしれない番外編[軟膏](2009/11/24 01:32)
[64] 設定集 高町なのは[軟膏](2009/09/13 23:32)
[65] 設定集 海鳴の人々[軟膏](2009/09/14 08:02)
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[10864] ありえたかもしれない番外編
Name: 軟膏◆05248410 ID:9b78a8eb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/24 01:32



 なのはは、仲の良いタクシーの運転手と共に、近くの居酒屋に来ていた。
 彼女たちは、こうして飲みに来る事が偶にある。
 だが運転手は、遅くまであちらこちらを文字通り走り回っているため、中々こういう機会は巡って来ない。
 だからこそ、彼女たちはその巡って来た機会を、存分に楽しんでいた。
 もっとも、普段から良く会う彼女たちが、酒を身体に入れて改めて話す事など、愚痴くらいしかないのだが。
 ちなみに、子供は早寝早起きは一番という事で、フェイトとユーノは既に寝かし付けてある。
 


 運転手は生中をグイッと一気飲みし、プハァっと酒臭い息を吐き出す。

「まったく! 今日の客は最悪やったわ!!」

 運転手は空になったジョッキを、叩きつけるようにドンッと置く。

「どんな人だったの?」

 横で話を聞いているなのはが、同じように大ジョッキに入った生ビールを飲み干しながら運転手に尋ねる。
 その問いを待ってました、とばかりに運転手は話し始めた。

「あのおっさん、車ん中でタバコ吸おうとしやがったんよ。
 今は全車禁煙やってのに、それを分かってへんねん!
 おまけに、それを注意したら、『うるさい、黙って運転しろ』やって」

「うわ……それは酷いね……」

「ホンマやっ! 
 こっちは煙たいわ、イライラさせられるわで踏んだり蹴ったりや。
 おまけにあのおっさん、灰落として行きやがったんやで!?
 なんやねん! あのハゲチャビンがっ!!」

「それは災難だったね……。あ、店員さん。ビール追加で」

 なのはが運転手の愚痴を聞きながら、酒のお代りを頼む。
 嫌な事は飲んで忘れるのが一番だ、となのはは思っているから。
 再びテーブルに置かれたビールを飲み、やきとりを摘まむ。
 運転手は、今度は机に突っ伏して泣きだした。

「それだけやないんよ……」

「どうかしたの?」

 なのはが運転手の背中を撫でながら尋ねる。

「ヴィータがな……」

「ヴィータ?」

 ヴィータというのは、運転手の家にいる小さな子だったはずだ。
 赤毛のおさげが似合っている、可愛らしい子だ。
 最初に会った時、いきなりハンマーを向けられて、驚かされた記憶がある。
 尤も、すぐに運転手に拳骨を食らい、頭を押さえて涙目になっていたが。
 今ではよく運転手に連れられて、なのはの店に来てから、ケーキを頬張っている。
 もう常連と言って良い程に、なのはは彼女と仲が良かった。

「ヴィータが、どうかしたの?」

「それがな……」

 運転手はグズグズと泣きながら言った。

「学校で何言われたんか知らんけど、わたしと一緒に風呂に入りたくないって……」

「……ああ、それはキツイね……」

 運転手を見るなのはの目に、憐れみが籠る。
 愛娘からそんな事を言われたら自殺モノだろう。

「家は元々、お風呂は別々だからそんな事は無いけどね。
 でも、もしそんな事をフェイトに言われたら、私は立ち直れないかもしれない……」

 そろそろ温かくなってきたというのに、なのはの背筋が冷える。
 運転手は尚も愚痴る。

「確かに、わたしん家の風呂は狭いわ。
 わたしとヴィータの二人で入るのが精一杯や。
 せやけど、そんな事を理由に拒絶されたら、わたしは何も言えんやないか。
 ヴィータのアホゥ……なんで分かってくれないんや……」

「大丈夫だよ、ヴィータが八神さんの事を嫌いになる事なんて無いって」

 なのはは背中をさすりながら、運転手が愚痴を吐き出すのをずっと聞いていた。
 そのままポツポツと言葉を続けていた運転手だったが、急に愚痴が止まった。
 なのはがどうかしたのか、と運転手の顔を覗き込む。
 運転手は、なのはの顔を見ながら言った。

「なあ、店長ぉ……」

「何? 八神さん」

 突っ伏したままの運転手は、店長に言った。

「子育てって、難しいなぁ……」

「……そうだね。とても難しいよ」

「でもなぁ……」

「うん?」

「とっても、楽しいんや……」

「……そうだね」

 なのはは頷いた。

「子供達の成長を見守る事が、こんなに楽しい事だったなんて、全然思わなかったよ」

 初めて会った頃と比べ、今のフェイトは明るく笑うようになった。
 今までの時間を取り戻すように、フェイトはよく笑う。
 箸が転んでもおかしい年頃、と言って良いのかもしれない。
 その隣で、あたふたと慌てるユーノを見るのも良い。
 そんな彼女達を見る事が、なのはにとって、これ程楽しいとは思わなかった。

「ねえ、八神さん」

「……」

「八神さん……?」

 なのはが再度呼び掛けるものの、運転手が応える事は無かった。

「寝ちゃったか……」

 相変わらず運転手は、酒は良く飲む割に、酔い潰れるのが早い。
 元々飲める酒量が、なのはに比べて少ないのだろう。
 おまけに、二日酔いはあまり経験した事が無い、という事がなのはには羨ましい。
 なのはは懐から携帯電話を取り出し、運転手の自宅へと掛ける。
 待ちかまえていたのか、ワンコールで相手は出た。

「もしもし。高町ですけど、八神さんのお宅ですか?」

 電話を掛ける時の定型文をなのはは言い、相手側の反応を待つ。

『ああ、高町さんですか。どうかされたんですか?』

「うん。八神さんが酔いつぶれちゃったから、良ければ迎えに来てもらえるかな?
 私だと、人一人を運ぶのは難しくて……」

『わかりました。シグナムをそちらに送りますね』

「うん。場所は――」

 なのはは居酒屋の場所を教える。
 そしてなのはは電話を切った。
 その時、嘆息したなのはに、横から声を掛ける者がいた。

「すいません、隣よろしいですか?」

 なのはが顔を上げて、声の主を見る。
 そこに立っていたのは、黒い服に身を包んだやせぎすの男だった。
 黒い服の内側に、花柄のシャツを着ており、服と同じ黒い帽子を被っていた。

「構いませんよ」

 なのはは隣の椅子に置いておいたジャケットを取って、自分の膝の上に載せる。

「ありがとうございます」

 男はなのはに礼を言って、隣に座る。
 ここは小さな居酒屋ではあるが、中々人気があり、結構満員気味なのだ。

「店員さん」

 男は店員を呼ぶと、メニューを見せた。
 そして、そこに書いてある酒の名前を、上から一撫でした。

「ここからここまで、全部持ってきて下さい」

「え?」

 なのはは驚く。
 一度にそんな頼み方をする人には出会った事が無かったからだ。
 男の注文に、店員も目を丸くしていた。

「あの、本当に良いんですか?」

 おずおずと店員が聞き返す。
 メニューに書かれている物を一種類ずつだとしても、かなりの量となるからだ。
 だが男は、店員の予想とは異なり、ニヤリと笑った。。

「ンフフ……大丈夫ですよ。だから、持ってきて下さい」

「は、はあ……」

 店員も呆れているのか、はっきりとしない返事を返しながら、酒を取りに戻って行った。
 それを見送る男に、なのはは声を掛ける。

「お酒、好きなんですね」

 なのはが話しかけて来るとは思っていなかったのか、男が僅かに目を見開く。
 だが男は、直ぐに相好を崩すと、なのはの問いに首を縦に振る事で返事をした。

「ええ。三度の食事よりお酒が好きです」

 男はまるで、新しいおもちゃを与えられた子供のように、キラキラと目を輝かせていた。
 その様子になのはは感心する。

「それはまた、凄いですね」

 だが、指をピッと男の前に立てて、一言注意する。

「でも、食事はきちんと取った方が良いですよ。
 健康な身体を保っていないと、長くお酒は楽しめませんから」

 窘められた男は面食らったのか、僅かに後ろに身を反らす。
 だがそんな男には構わず、なのはは尚も持論を展開する。

「お酒はとても美味しいですけどね。
 でもお酒以外にも、美味しいものはたくさんあるんですから。
 それらを楽しまない事には、お酒を真に楽しむのは無理なんじゃないかと思ってます」

 観ようによっては、なのはが男にくだを巻いているようにも見える光景だった。
 だが男は迷惑な顔一つせず、なのはの言葉を聞いていた。

「なるほど。それは道理ですね」

 説得が届いたのか頷いた男に、なのはは上機嫌になる。

「でしょう? ですから、色々と美味しい物を食べる事も、お酒を飲むには大切なんですよ」

「それじゃ、僕も何か頼もうかな……」

 男はメニューを手に取る。
 そこに、なのはが横から口を出した。

「やきとりが美味しいですよ。特に、ネギまとレバーがお薦めですね」

 レバーの串を手に持ちながら、なのはが言った。
 それを頬張るなのはの姿に影響されたのか、酒を持ってきた店員に、男も同じ物を頼んだ。
 そして、テーブルの上にずらりと並べられた酒を手に取り、なのはに差し出す。

「一緒に呑みませんか?」

「え? でも……」

 なのはが遠慮しようとする。
 この酒を頼んだのは男なのだから、自分が飲む訳にはいかない、と。
 だが男は、にこやかな笑みを浮かべて酒を差し出す。

「お酒は共に呑む人がいると、もっと美味しくなるんですよ」

「……そうですね。私なんかでよければ……」

 男の言葉に、なのはは酒を受け取った。




 そのまま二人で、競うように酒を飲み干し続けていると、運転手の家族が運転手を迎えにきた。
 赤みの強い桃色の長髪を、後ろで一纏めのポニーテールにした、凛々しい女性である。
 キョロキョロと辺りを窺っている彼女に、なのはは手を振って居場所を教える。

「シグナム、こっちこっち」

 手を振るなのはに気付き、、シグナムと呼ばれた女性が近づいて来る。

「久しぶりだね、シグナム」

「お久しぶりです。店長」

 運転手は、いつもなのはの事を店長と呼ぶからか、シグナムもなのはの事を店長と呼ぶ。
 何度か名乗ったのだが、もう定着してしまったらしく、なのはももう良いかと思っている。
 そのシグナムはなのはに尋ねる。

「それで、母はどちらに?」

「こっちだよ。連れて行ってあげて」

 なのはの陰に隠れて、テーブルに突っ伏して眠っていた運転手が、ごそごそと動く。
 どうやらテーブルの枕は、寝心地があまり良くないようだ。

「お代は幾らですか?」

 シグナムが懐から財布を取り出す。
 子猫の絵が付いており、以外と可愛らしい財布だった。
 それをなのはは手を振って断る。

「良いよ。八神さん、あまり飲まないうちにダウンしちゃったし。今日は私が、代わりに出しとくから」

「しかし……」

 シグナムが食い下がる。
 こちらが呑んだのに、代金を支払わないのは収まりが悪い、と思っているのだろう。
 古風な感じのする女性だからこそ、その考えがなのはには見て取れた。

「それじゃあ、お代は今度、八神さんに払ってもらうから。
 私に奢られるのが気に入らないなら、八神さんが自分で払いに来るだろうから大丈夫だよ」

「……分かりました」

 シグナムは渋々と財布を懐に戻す。
 そして眠っている運転手を背負う。

「それじゃ私はこれで――」

 シグナムが最後まで言う前に、その背に乗った運転手が言葉を発する。

「ヴィータ……どうしてや……」

 シグナムがその事を聞いて眉をひそめる。
 なのはがその事に付け足す。

「八神さん、ヴィータにお風呂一緒に入ってもらえなくて、拗ねてたんだよ」

「ああ、なるほど……」

 合点がいったとシグナムは頷いた。

「ヴィータも素直じゃないですから」

「何か知ってるの?」

「ええ……」

 シグナムは頷く。

「ヴィータは、いつも遅くまで仕事をしている母が、とても心配なんです。
 だからせめて、風呂くらいはゆっくりと入らせてあげたかったみたいです。
 自分が一緒だとはしゃいでしまって、母の疲れが取れないから、と言っていました。
 それを素直に言えば良いのに、遠回しにさり気なく伝えようとして失敗した、といった所です」

「そうだったんだ」

 なのはは運転手の眠っている横顔を見つめる。

「愛されているね、八神さんは」

「ええ。自慢の母ですから」

 その時、運転手がもぞもぞと動き、言葉を発した。

「絶対……いつか絶対……でっかい風呂の付いた豪邸を……建てたるからな……待っとれよ、ヴィータ……」

 その様子に、なのはは噴き出した。
 シグナムも、寝言で宣言した運転手を、微笑んで見ている。

「こんな人だから、皆八神さんの事が好きなんだろうね」

「はい。私達は皆、母の事が大好きです」

 シグナムは照れも無く言いきった。

「でも、どうするの? 八神さん、寝言とはいえ、絶対その願いを叶えようとするよ?」

「問題ありません」

 シグナムはこともなげに言った。

「私達がそれを、全力で支えれば良いだけの事ですから」

 シグナムはなのはを見つめた。

「私達は家族です。家族とは、支えあうモノなのでしょう?」

 シグナムの言葉に、なのはは真面目な顔をして頷く。

「そうだよ。どっちが強くてもいけない。
 幾ら強くても、一人じゃ人生つまらないしね。
 それに、そんな人は、脆くて崩れやすいんだよ。
 人一人に出来るような事なんて、たかが知れてる。
 そうやって支えあって、人は生きていけるんだから」

 なのはの言葉に、シグナムは頬笑みを浮かべて店を出て行った。
 その時、なのはの隣にいた男が呟いた。

「良いお話ですね」

「そうですね」

 なのはも頷いた。
 男は立ち上がると、なのはに声を掛けて来た。

「どうです? どこか近くで呑み直しませんか?」

「いいですね。そうしましょうか」

 なのはも立ち上がった。
 もうこの店の酒は、二人で粗方呑み尽くしたからだ。
 それに、この男に付いて行く事も、吝かではない。
 酒を飲みながら話したなのはは、男が悪い人間では無いと気付いていた。
 もし男が悪い人間であったとしても、特に問題は無い。
 なのはにはレイジングハートが常に傍にいる。 
 叩きのめしてから、それを肴に酒の続きを飲めば良いだけの事。
 恐れる必要など全くないのだ。



 会計を済ませ、二人は外へ出た。

「ンフフフ……どこへ行きましょうか?」

「お酒が楽しく呑める場所なら、どこでも良いんじゃないですか?」

 変わった含み笑いをする男と、隣を何も考えずに気楽に歩くなのは。
 その足取りは、酔っているとは言い難い、しっかりとしたものだった。
 二人は足の向くままに目的地も決めずに歩いていく。
 そして二人は、さびれた公園に辿り着いた。

「あれは……」

 そしてその公園の端に、一本の桜の樹が立っていた。
 なぜ桜と分かったのかというと、それが咲いているからだ。

「綺麗ですね」

「ええ」

 一本だけが咲いているという神秘性に、なのはは見蕩れた。

「この一本だけが咲いているのは、少し不思議ですけど」

 なのは達が近づいて見てみると、桜はまだ七分咲きといったところか、未だ咲いていないつぼみが所々に見える。
 この桜の樹だけ、他の桜よりも早起きだったのかもしれない。
 他の桜は、未だつぼみも見えず、ただ立ち尽くすのみだから。

「ここで呑みませんか?」

「ここでですか?」

 男の提案に、なのはは首を傾げる。

「丁度ベンチもありますし。それに……」

「それに?」

 男は桜を見上げる。

「僕達だけが、今この桜を独占しているんです。
 ならば、僕達だけで一足早い花見をするのは、中々に乙なものだとは思いませんか?」

「……そうですね」

 なのはは頷いた。
 だがそこで気が付いた。
 花見をするのは良いが、ここには酒が無い事に。

「お酒が無いですね。どこかで買ってきましょうか」

「ああ、それは問題ありませんよ」

 男は懐を探ると、蓋の付いた瓢箪を取り出した。

「お酒なら、ここにありますから」

「……どこから取り出したんです?」

 なのはが目を丸くする。
 その瓢箪は大きく、男の細い身体に隠されていたとは、とてもではないが思えなかった。
 男は再び、特徴的な含み笑いを漏らした。

「ンフフフ……手品ですよ。タネはありませんけどね」

「へぇ……手品ですか。それは凄いですね」

 なのはは素直に感心した。
 男は自慢げに鼻を鳴らす。
 だがそこで、男は別の事に気付いた。

「ああ。でも杯がありませんね」

「それなら私が……」

 なのはは手荷物を漁り、新聞紙に包まれた平たい物を取りだした。
 新聞紙を取り除くと、中から杯が一つ出て来た。

「これで飲みませんか?」

 男は杯を受け取り、手に取って見る。

「可杯ですか」

「はい。私、陶芸に嵌まっているんですよ。
 あまり大きいと重いので、小ぶりにしたんですけどね」

「長く楽しめそうですね」

「ええ」

 こうして、酒と杯、両方が揃った。
 花見を邪魔する者は誰もいない。
 男は瓢箪を開けると、中からえも言われぬ芳醇な香りが辺りに広がった。
 男は、その香りを放つ酒を、トクトクと惜しみなく杯に注ぐ。
 そして、それをなのはに差し出した。

「まずは一献」

「承りました」

 なのははそれを両手で受け取る。
 顔の前まで持ってくると、その香りはますます強さを増した。
 なみなみと揺れる琥珀色の表面を見ていると、芸術のような美しさを感じる。
 飲んでしまうのが惜しい。
 なのはは本当に、心の底からそう思った。
 だがいつまでもそうしている訳にも行かず、覚悟を決めてなのはは酒をグイッと飲み干した。
 口の中に広がる酒の味に、なのははクラクラとした感覚を覚える。

「美味しい……」

 飲み終わったなのはは、それだけしか言えなかった。
 今まで飲んだ事のないような極上の酒であった。
 過去、なのはが我が子のように可愛がっていた彼らでさえ、これ程では無かっただろう。
 なのはは杯を男に渡し、瓢箪を手に取った。

「今度は、此方から……」

 なのはは杯を手にしている男へと、酌をする。
 男は礼を言い、それを一気に呑み干した。
 そのまま二人は、互いに酒を酌み交わし続けた。



 しばらく静かに酒を酌み交わしていたが、なのはがある事に気付く。
 瓢箪を持ったまま、なのはは男に言った。

「そういえば、私達ってまだ、互いの名前も知りませんでしたね」

「そうでしたね」

 男も、そこで初めて気付いたのか、目を丸くした。
 何をやっているのかと、なのははおかしくなった。
 酒で陽気になったなのはは、自分から名乗る事にした。

「私は高町なのはって言うんですよ」

「そうですか。僕は――」

 男も、それに自分の名を名乗る事で返した。
 あまり聞いた事の無い、その名前になのはは尋ねる。

「珍しいお名前ですね。外国の人ですか?」

「いや、生粋の日本人ですよ。これは仕事の時の名前だと思って下さい」

「仕事? 何をされてるんですか?」

「ゲームクリエイターです」

「へぇ……それは凄いですね」

 なのはは感心した。
 ゲームというものは、作るのにとても時間の掛かる物だ。
 ストーリーを決めて、キャラクターを作り、システムを考え、音楽を入れる。
 とても難しいものだ。
 称賛に値する職業だと思う。
 なのははがそう思っていると、男は話を続けて来た。

「しかし、高町さんは良い人ですね。
 最近は忙しいですから、ここまで酒が楽しく呑めたのは久しぶりです」

「えっと、どういたしまして?」

 なのはは少し疑問形で聞き返す。
 さらっと良い人と言われても、なのはにはピンと来なかったからだ。
 なのははただ、酒が楽しく飲みたかっただけなのだから。
 だがなのはの様子は気にも留めず、男は喋り続ける。

「貴女なら、娘たちとも仲良くなれるでしょうね」

「娘? 娘さんがいらっしゃるんですか?」

 なのはの問いに、男は頷いた。

「ええ。可愛い子供達がいます。
 でも、気難しい子ばかりでしてね。
 時々扱いに困ってるんですよ」

「そうなんですか……」

 苦労しているんだな、となのはは思った。

「会ってみたいですねぇ」

 なのははそう呟いた。
 男はなのはを見ると、尋ねて来た。

「会ってみますか?」

「え? ええ、そうですね」

 なのはは頷いた。

「では……」

 男は立ち上がる。
 これでお開きか、となのはも立ち上がろうとした。
 だがそれは叶わなかった。
 なのはは立ち上がろうとした。
 だが、手をついた所が無かったのだ。
 正確には、手をついたその瞬間に、その場所が無くなったのだ。

「え?」

 なのはは下を見下ろし、呆然と呟く。
 そこには、暗い穴のようなものが、空間の裂け目のようなものがあった。

「そういえば、私の名前ですけど……」

 男は何事も無いように、なのはに言った。

「呼びにくいなら、『神主』と呼んで頂いても結構ですよ?」

 なのはは呆然としたまま男を見ながら、急速に広がった穴の中へと落ちて行った。
 その手に、酒の入った瓢箪を握り締めて。





 そして……。







「え? ここどこ?」








 高町なのはin幻想郷





あとがき

番外編という事ですが、嘘予告だと思って下さい。
続きません。

最初の方で、八神家となのはがどう関わったのか、少しはわかりましたでしょうか?
ほのぼので戦いなんか全く起こらなかった事は確かです。

今回クロスという事だったんですが、東方とのクロス、というよりZUN氏とのクロスでした。
あの人も酒とは切っても切れない縁があるので、想像出来た人はいたかな?
ちなみに、このなのはさんと相性が良いのは、萃香と雛だと思っています。

さて、なのはさんは幻想郷で、いったい何を見るのか。
誰を娘にするのか。
娘ハーレムは完成するのか。
続きはwebで!
……というか、誰か書いて下さい。
東方はやった事無いんで、私は東方キャラを出せないんです。



すいませんが、設定集はまだ書けて無いので、もう少し待って下さい。





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