コンコン
「すいませーん。ユーノですけど、なのはさん、起きてらっしゃいますか?」
ユーノが扉を叩くと、中からゴソゴソと何かが這うような音がした。
数瞬の後、ガチャリと扉が開き、中からなのはが顔を出した。
「……あれ? 誰もいない……」
「こっちです、なのはさん。下です」
ユーノの呼びかけに、なのはは下を向く。
「……あ~。そうだったそうだった。ユーノ君フェレットだったね。忘れてたよ」
「いえ、僕は人間で、今は魔法でこの姿になっているだけなので、別にフェレットの姿が本当というわけではないです」
「どうでもいいや……」
ユーノの発言をさらっと切り捨てるなのは。
「それより、なに? 今はちょっと、気分が悪いんだけど……?」
凄く不機嫌な顔をして、ドスの聞いた声でなのはは告げる。
十分寝たはずなのに、目の下には隈が浮かび、寝起きのせいで髪はボサボサになっていて、
高町と左胸に刺繍された小豆色のジャージは、刺繍のところが僅かに綻んでいる。
そのなのはが青い顔で、まるで虫けらを見るような目でユーノを見つめている。
その目に射抜かれたユーノはしどろもどろになり、言葉が上手く出てこない。
「あ、いえ、その……」
「用がないなら後にして……」
「いえ! あの、調子が悪いのなら、魔法でなんとか出来ると思いまして……」
なのはが扉を閉めようとするが、ユーノがそれを制止する。
閉まろうとしていた扉がピタッと止まり、中からなのはの声が聞こえてくる。
「……それ、本当?」
「はい。体調を整える魔法がありますから、それを使えば……」
「……入って……」
キィィィッ、と扉がゆっくりと開いていく。
そしてユーノは、魔王の一室へと足を踏み入れたのだった。
「あ~すっきりした。魔法ってこんなことも出来るんだねぇ」
ユーノの魔法によって、なのはの体調が万全になると、なのはは起き上がってユーノを肩に乗せ、洗面所へと向かった。
顔を洗ってさっぱりすると、既にそこには、先程の悪魔じみた表情をしていた女性の姿は無かった。
ちなみになのはの治療で、ユーノの魔力の回復が少し遅れたのは余談である。
櫛で髪を梳かしながら、なのははユーノに話しかける。
「にしてもユーノ君、二日酔いに効く魔法なんて良いモノ知ってるね。ユーノ君もよく飲むの?」
「い、いえ。僕はお酒はちょっと……。あとこの魔法は体内の毒を解毒したりするものの応用です」
「ふ~ん」
「僕は遺跡発掘を仕事にしているので、侵入者を撃退するための罠などに遭遇することが多いんです。
ですから僕達一族は、罠を調べるための探査魔法や、身を守る為のシールド魔法や、危機に陥った時の為の回復魔法が得意なんです。
特に僕達スクライア一族は、転移魔法などで各地を旅しているので、転移時に気分を悪くすることもよくあるので……」
「なるほどねぇ」
なのはは感心したような声を出す。
だがそういうことはどうでもいいようだ。
「それでさ、ユーノ君。あの魔法、私にも使える?」
「え? ああ、構成自体は初歩的な魔法なので、なのはさんなら直ぐに使えると思いますよ」
「やった」
なのははその言葉に満面の笑みを浮かべる。
その笑みを見たユーノが、毛並みを僅かに赤くしたらしい。
なのはとユーノは部屋に戻り、なのはが寝ていて聞いていなかった説明をもう一度ユーノがする。
時折頷いて相槌を打ちながら、最後まで話を聞くと、なのはもまた、ユーノを撫でた。
「やっぱり、ユーノ君のせいじゃないと思うよ。私も手伝うから、一緒にがんばろうね」
そう言われ、自然とユーノは、再び頭を下げることになる。
そこでなのはが、頬を掻きながら、ユーノに質問する。
「そういえばさ、あの呪文何とかならない? ちょっと恥ずかしいんだけど……」
控え目に二度とやりたくないとなのはは伝える。
「それは大丈夫です。これを」
そういってユーノがレイジングハートを掲げる。
なのはがそれを受け取り、見つめる。
「セットアップと言ってください」
「えっと、セットアップ」
『Stand by ready. Set up.』
するとレイジングハートから光が溢れ、次の瞬間には、なのはは翠屋の制服を着て 手には泡立て器を持っていた。
「僕達の魔法はプログラムみたいなものなので、ショートカットを組めば次からは簡略化して使うことが出来ます」
「え? じゃあ昨日はどうしてあんな事言わされたの?」
「あれは悪用されないための本人認証用の起動パスワードなので、最初は必ず唱える必要があります。
あの時は僕がそれを教えたので、初めて使うなのはさんでも使用出来ました」
「じゃあ、もう唱えなくていいんだね?」
「はい」
それを聞いてなのはは、これで心おきなくユーノの手助けが出来ると喜んだ。
「それで魔法のことですが、レイジングハートはインテリジェントデバイスという、人工AIを積んだデバイスです。
その中でも祈祷型という分類になりますね」
「祈祷型?」
「ある程度の魔法を事前に組み込んでおくことで、術者の願いを感知して魔法の制御や発動をデバイスが行ってくれるんです」
「それは便利だね」
そしてなのはは目を閉じ、少し考え事をすると、バリアジャケットは解除され、泡立て器も元のサイズのビー玉へと戻っていた。
「こんな感じ?」
「はい。あと、デバイスにも意思があるので、危険と判断したらデバイスが魔法の発動を抑えることもあります」
「ふ~ん」
なのはは手に持つ赤いビー玉に目をやる。
「ただの道具ではなく、信頼関係の結ばれたパートナーと考えて頂けると嬉しいです」
「わかった」
なのははレイジングハートを顔と同じ高さまで掲げる。
「ちゃんと挨拶出来なかったけど、これからはよろしくね、レイジングハート」
『こちらこそ、よろしくお願いします。マスター』
「マスター? 私が?」
『今のマスターは貴女です』
「僕にはレイジングハートは使いこなすことが出来ませんでした」
少し落ち込んだ顔でユーノは呟く。
「ですから、レイジングハートをなのはさんに使ってもらいたいんです」
『私もそれを望んでいます』
「ん……。わかった。それじゃあ改めて。よろしくレイジングハート」
そしてなのははユーノから首飾りをもらい、レイジングハートを首から下げる。
「どうかな?」
「綺麗ですよ、なのはさん」
「ありがと、ユーノ君。綺麗だってさ、レイジングハート」
『私ではありませんが』
「?」
なのはが顔に疑問を浮かべていると、ぞっと背筋が冷える感覚がなのはを襲った。
「っ!? これって……!」
「ジュエルシードです! ジュエルシードが発動する前触れです!」
「近い……?」
初めて味わう感覚になのはは戸惑う。
「美由希さんたちに連絡を!」
「わかった!」
なのはは携帯で二人に電話を掛けながら、家を飛び出す。
電話に出た美由希と士郎は、直ぐにジュエルシードの現場に直行すると返って来た。
「あの人達がいくら強くても、封印作業は僕達にしか出来ません。手遅れになる前に急がないと」
「分かってる」
そしてなのはは、急いでその場へ向かうため、手を上げた。
「タクシーッ!!」
あとがき
なのはさんは二日酔い対策を手に入れた!
とまあ、そんな感じです。
前回は次元世界とロストロギアについて、今回は魔法とデバイスについての話になってますね。
あと今回大人にしか使えない移動方法を使用しています。
気になったレス返しです。
ここで取り上げられなくても感想は全て読んでいますので、取り上げられなくてもあしからず。
>…ところで、主人公って美由希さん(40)でしたっけ?
登場人物は全て主人公です、ということにしておいてください。
>しかしなのはさんもし魔法処女ならアレだけ酒飲みなのに酔いつぶれて、
>男性にお持ち帰りされた事無いとは不思議です。
なのはさんはワンカップ七本飲んでも普通に歩いて帰っています。
それに一緒に飲みに行く男性がいなかったんでは?
>ユーノ・・・月村さん家の3姉弟に出会っていればタイトルが「魔法少女剣士ヴァンパイア雫」になっていたのにw
月村さん家って三兄弟だったんですか?
でも雫ももう成人してるんじゃ……。
>ここのなのはさんがモロにタイプなんですが。
>俺に下さい。お願いします(土下座
美由希「え? そういうことはまず私を倒してから言ってくれる?」
>「悔しい…でも飲んじゃう…!グビッグビッ!」
おそらく、「悔しい…だから飲んじゃう…!グビッグビッ!」だと思います。
>・・・高校指定の体育用をそのまま流用中ですねわかりまs(接続が中断されました!
そのとお(接続が中断されました!
>はやて
不憫ですねぇ。
黒詩さん
なんかよくわからないので、もう高町家の遺伝子が全部やってくれてるってことで。